食戟の守護者   作:シエロティエラ

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ああ~ハリポタを書こうにも、話の展開がどうにも上手くいかないです。
気分転換にと予告なしでこちらを更新した次第ですが、はてさてどうしたらいいものやら。

さてどうぞごゆるりと。





三ノ皿:入学式

 

 家にて残った荷物をまとめ、シャッターを下ろす。しばらくはこの家に戻ることもないだろう。騒がしくも楽しかった数日前を思い出し、次いで自嘲するように笑みを浮かべる。生前はこんな当たり前を望まず、知己や愛した誰かの制止も無視し、戦場を駆け巡っていた自分が、まさかこのような日常を惜しむとはと。

 

 

「……必ず帰ってくるさ、あの子(イリヤ)のためにも」

 

 

 今頃城一郎はどこかの名店で料理をしつつ、ついでに戦場も駆け回っているだろう。せめて「正義の味方」を本気で目指さず、家族の幸せも視野に入れていることが救いか。

 そんなことを思いながら家を後にすると、商店街の向こうから、何人かの人影を確認した。早朝で本来ならまだ大多数が寝ている時間なのだが、誰だろうか。生来の鷹の目で確認すると、その人影は倉瀬一家とイリヤだった。全員が私服であることから、残りの荷物でも取りに来たのだろうか。ここで彼女らに見つかって長話になると、入学式に間に合わなくなるだろう。そう考えた私は、全速力でこの場を後にした。

 

 

「あれ? ……今の風はなに?」

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 

 そのような声が聞こえたが、私はそれを無視して駆け抜けた。こんなもっともらしい理由を並べているが、結局のところ、私が気まずいだけだ。一人残すことになったイリヤに、顔向けできないだけである。

 無様な姿をさらしながらも、私は遠月の校門に辿り着いた。目の前にはトランプがらの派手なスーツの男が立っている。

 

 

「君が幸平創真君だね? こちらへどうぞ」

 

 

 そう言って案内されたのは、まるでよく大河ドラマなどで見る、戦国時代の作戦本部のような場所だった。というか、俗にいう全校集会のようなものは外で行うのだな、遠月は。

 暫く待機していると、段々と人が集まってきた。そして総帥の言葉やえりな嬢の演説など、プログラムを消化していく。そしてついにというべきか、私の挨拶が回ってきた。というか、実質を足しの挨拶が入学式最後のプログラムなのだが。

 

 

「尚、今年はなんと高等部に編入生が一名加わる。最後は彼の挨拶で〆としよう。では幸平創真、ここへ」

 

 

 とても老人とは思えない遠月総帥、薙切仙左衛門の言を受け、壇上に上がる。成程、皆が皆同年代の料理学校志望者と比較すると、比べることが烏滸がましいと言える実力は有しているのがわかる。だが、どうやら実力はあるが、厨房に立ったことがないのが殆どか。まぁ一目見た限りだし、実際は私の見当違いというのもあるだろうが。

 

 

「……紹介にあずかった、オレは幸平創真という。ここの卒業倍率と方針は話には聞いているけど、まぁそれは皆承知の上だろうな。そのうえでオレは言う、そんな事情は些末なこととな。十年、下町の定食屋とはいえ、現場で修練したオレの見解を言わせてもらおう」

 

「編入試験受験者にもいたが、みんなは基本大変質の良い食材ばかり扱っていただろう。それによって食材に不自由はなかったはずだ。ここまで言えば、現場を知るものは分かるだろう、店を働けばそんなことは当たり前ではない。本来あるはずの食材が無かったり、何らかの原因で本意でない大失態を犯すこともある。それによって絶望や挫折を味わうだろう。それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「実家が高級料理店だの家柄が良いだの、遠月に入学しただの進級しただの、そんなものは現場では糞の役にも立たんし腹も膨れん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。現場で求められるのは正確性と迅速性、適応力と応用力だけだからな」

 

 

 それだけを言い、私は壇上から降りた。一瞬遅れて盛大な野次と怒号、罵倒が鳴り響いた。そりゃそうだ、私が逝ったのは彼らのこれまでの研磨を全否定することだから。しかし私は自分が間違っているとは思わない。それは城一郎との武者修行(迷惑行為)を通して聴いている。

 数ある世界の名門料理店の板長や総料理長の弁では、「如何に遠月出身であろうと、現場に適応できなければ、それはただの迷惑だ。それならば素人や一般の料理学校出身者を雇い、一から鍛えたほうがいい」とのこと。全員が全員ではないが、遠月卒業生や入学履歴持ちは余計なプライドを持つものが多いそうな。

 

 

「所詮噂と思いたかったが、この現状を見るとな」

 

 

 目は口程に物を言うとは言うが、これでは口以上に語っているというだろう。嘆息しながら元の待機室に戻り、持ってきた荷物を纏める。今日からここの寮である、極星寮で私は生活することになる。まぁ入寮に試験があるらしいが、恐らく料理関係だろう。余程失敗したり、採点が厳しくなければ大丈夫なはずだ。

 ……さて、と。

 

 

「いつまでコソコソしているつもりだ? 入学式での堂々とした姿のほうが似合ってるぞ?」

 

「う、五月蠅いです!! ……気づいていたの?」

 

「生憎気配には敏感でね。だが君の身の潜め方がお粗末、というのもあるが」

 

「……」

 

 

 私の揶揄いにわかりやすく顔を赤らめるえりな嬢。そうとも、君にはそんなコソコソすることが、どうにも似合いそうにない。他者を見下すのは褒められたものではないが、遠坂凛(かのじょ)同様、堂々と構えているほうが薙切えりなには似合っている。

 

 

「それで、何か聞きたいことがあったのでは?」

 

「……そうね。聞かせてほしいのは入試の料理よ」

 

「あれか……やはり舌にあわなかったかね?」

 

「いいえ。認めるのは本当に癪だけど、美味しかったわ」

 

「それは良かった。ならば私も作った甲斐があると言うものだよ」

 

 

 そう会話しながらも、私は荷物を纏める手を緩めない。そんな私を黙ったまま見つめるえりな嬢。ピリピリとはしていないが、居心地の良いとは言えない沈黙が空間を支配する。

 

 

「貴方は……どうしてあんなことを言ったの? 曲がりなりにも此処の生徒は、最高峰の場所で最難関の研磨を重ねてきたのよ? いくらあの料理で私に美味しいと感じさせても、彼らに勝てるとでも?」

 

「現場を知らぬものに何といわれたところで、私は何とも思わん。仮令実力を持っていても、いざ発揮できなければ役に立たん。それは私の経験でわかる。武者修行で訪れた名店の店主も同じことを言っている」

 

「……そう。でも、個々の生徒を甘く見ないことね。すぐに足元を掬われるわよ?」

 

「それならそれを楽しみにしておこう」

 

 

 荷物もまとめ終わり、背中にからって残りの荷物も手に取る。どうやらここから寮までは少し遠いらしい。走れば問題ないが、誰かに見られれば大事になる。近々スクーターの免許を取る必要があるな。

 そんなことを考えながら待合所を出ようとすると、再度えりな嬢から話しかけられた。その横にはいつの間にか秘書の子もいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荷物を纏めて出ていこうとする彼に、咄嗟に声をかけてしまった。本当にわからない。あの「ふりかけご飯」を食べたときから、どうにも彼のことが気になってしまう。この感情は分からないけど、唯一つ確実なのは、これが「恋慕の情」や「慈愛の情」といった類ではないということ。私は絶対的な舌を持つと同時に、食した料理のイメージが頭に浮かぶ。編入試験の前に食した汁物は、まるでゴリラと混浴しているような、そんなひどい味だった。

 しかし彼の料理は違った。一見普通で何の特別性もない「ふりかけご飯」、しかしその実は工夫の塊だった。

 炒り卵はパラパラとそぼろ状になっており、炊き立ての米と綺麗に混ざり合う。ふりかけには鰹出汁で手羽先を煮て作った煮凝りが混ぜられており、ご飯の熱で煮凝りが染み込み、湯気で香りが立つ。まさにこれ以上ない「ふりかけご飯」と言えるもので、私の知らない世界だった。例えるのならそう、まるで天使に愛撫され、その柔らかな歌声と翼で包まれているような、そんな感覚だった。

 

 至福の一瞬、そう思えるほどの料理を味わっていたのだけれど、その直後、まるで煉獄に突き落とされたような錯覚を覚えた。地獄の様な、いや、それは間違いだろう、正しく地獄に自分は突き落とされていた。あたり一面は瓦礫や地面すら見えない炎の海、空は煙で覆われ、それでもその存在を示す真っ黒な太陽。そしてその後、熱い風が凪いだ後に、私は荒野に立っていた。

 周りは無限と言ってもいいほどの剣が立ち並び、空は分厚い雲と巨大な歯車で覆われている。あたりには草も生えておらず、剣以外には燃える炎と舞う火の粉、そして砂塵のみ。周りを見ると、一際小高い丘が見受けられた。その天辺に、何やら人影のようなものが見受けられた。確認しようとしたころには、私は試験場に戻っていた。

 今のは錯覚だろうか、それとも食べたもの全員が見えるのだろうか。私は脇で心配する緋沙子にも食べてもらった。どうも私は腰を抜かし、脂汗を掻いていたらしい。何か変なものを入れたのかと緋沙子は警戒しながら食べたけど、私とは違い、料理のおいしさで腰を抜かしていた。

 

 そんなことがあったからか、あの地獄はなんなのか。次に彼に会ったときはそれを聞こうと思い、この時まで待っていた。試験は勿論合格なため、ここに入れば確実に顔を合わせる。

 隠れていたのを当たり前のように見破られたのは驚いたけど、そんなことは問題ではない。例の地獄について聞こうとしたけど、何故か口から出なかった。出ていこうとした彼に再度聞こうとしたけど、何故かためらってしまった。まるで聞くべきではないとでもいうように、口から言葉が出てこない。

 

 

「……聞きたいことはあれど、口にできないと言ったところか」

 

「……」

 

 

 彼の問いに頷くことしかできない。それを見た彼は見下すのではなく、あくまで冷静に私のことを視ていた。そんな目の前の彼が、あの荒野の人影に重なって見えてしまった。何度も口を開くけど、言葉が出てこない。そんな私の様子に、隣に立つ緋沙子が心配そうにこちらを見る。

 

 

「今は何も言うまい。そちらの心が整い次第、再び問うといい。私はいつでも君を待つ」

 

 

 彼はそう言うと、今度こそこの場を後にした。それでも私はその場に立ったままだった。緋沙子は私の様子を見て不安に思ったのだろう、この所の独断ではあったけど、この後の仕事をキャンセルしようと、予定表をめくり始めた。彼女の心遣いは嬉しいけど、キャンセルするわけにはいかない。

 

 

「ありがとう緋沙子、でも大丈夫。仕事はキャンセルしなくていいわ」

 

「ですがえりな様……」

 

「大丈夫よ。さぁ、行きましょうか」

 

 

 私はそう言い、この場を後にした。慌てて緋沙子も駆け寄り、一緒に迎えの車に乗る。今はその時じゃないのだろう。でも時がくれば、その時がくれば、彼に効くことになるのだろう。そしてその時に、この何とも言えないモヤモヤとしたものもわかるかもしれない。

 そういえば他にも気になることがある。彼の口調は非常に高校生らしくない。挨拶冒頭に見せた態度と、一人称が「私」になることがあるが、そちらが彼の自然体にも見える。そのことも、一緒に聞けたら聞こう。

 

 

 

 

 




なんだかシリアスな感じになってしまいましたね。しかもえりながえりならしくないような気がします。でもすみません、これが限界です。
さて、次回は入寮試験ですね。ああ~遅々として進まないな~。

ではまたお会いしましょう。

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