はい、またも予告なしの更新と相成ってしまいました。
でもハリポタよりもこっちのほうが今はどんどん書けるんですよ、申し訳ありませんけどどうぞご容赦ください。
それではどうぞ。
寮生の全員に夕食を振る舞い、一旦風呂に入った後に丸井という少年の部屋に集まることになった。彼自身勘弁してくれと言っていたが、なんだかんだいって了承する当たり、彼も満更でもないのかもしれんな。一応後で疲れに効くお茶を出すとしよう。
それにしても、ここの生徒は驚かせてくれる。麹にジビエ、天ぷらなど、それぞれの分野に精通しており、私にとって目から鱗の活用法が出てくる。いつの間にか参加していた一色慧という先輩も、何かしら強みを持っているのだろう。というより、ふみ緒さんに認められなければこの寮にいないだろうし、何より二年に進級している時点で相応の実力を持っているのだろう。
「それにしてもやれやれ、宴にしても節度を持たねばな」
そしてみんなで何やかんや騒ぎつつ、夜が更けているのも相まって、宴に参加した殆どが寝入ってしまっていた。まぁ榊涼子が持ち込んだ「
「……起きる気配もなし、片づけは私がするか」
この程度の散らかりようなら、さほど時間はかかるまい。私を満足させたたくば、この三倍、いや十倍は用意するといい。そう考えると、実家の「ゆきひら」は厨房以外、非常に手持無沙汰になっていた。イリヤはある程度自分でやっていたし、城一郎も、多少は杜撰なものの、ある程度清潔にしていた。だから厨房の掃除以外はやることがなかった。
まぁそれはさておき、ものの十分程度で綺麗さっぱりに部屋を片付けることができた。一応ここは丸井少年の部屋であるため、彼の個人所有物には手を出さなかった。そして片付けている途中に気になってはいたが、約一名こちらを見つめている者がいる。
「……起きていたのなら手伝ってほしかったがね。まぁ今更ではあるのだが」
「それはすまなかった。正直いうと君が気になっていたからね、観察させてもらってたのさ」
「人間観察とは、いい趣味とはいえないな」
「ふふふっ、どうやらそのしゃべり方が君の素のようだね」
「長らくこういう話し方だったものでな、無礼なことは謝罪するが、意識せんと抜けんのだ」
「先輩としては直したほうがいいというべきだろうけど、そっちの素のほうが仲良くできそうだ。出来れば他のこの前でも出せたらね」
「……善処しよう」
私との問答を、にこりとした笑顔を絶やさぬまま行う男、一色慧。その服装は三角巾に裸エプロンと、何ともまあ個性的な衣装と来たものだ。彼自身が楽しみ、周りも笑って流していることから指摘はしなかったが。私の周りにはいなかった人種なため、どう対処するか少々悩んでしまう。遠い記憶の中で、無茶苦茶を体現した虎も、そんな破天荒な服装はしなかった。
「……さて、期待通りの情報は得られたのかね?」
「う~ん、まだかな。料理の腕は先程の宴や試験でわかっているけどね。入学式の発言に見合う実力だと思うよ」
「それで? 何か不満なことでも?」
「なんていうのかな。君を見ていると、まるで何かに縛られているような、実力を出し切っていないような、そんな感じがするんだ」
「……」
正直いうと驚いた。
料理の味と動きだけで判断したという。表情には出さなかったが、彼の人間観察技術は、生半可な環境では養えないものだ。それ相応の場と経験がどうしても必要となる。
「見事な推測だ。その慧眼は称賛に値する」
「ははは、光栄だよ」
「その技量は普通では身につくまい。何者かね?」
「そうだね、紹介しようか。僕は一色慧、この寮に住まう二年生だ。そして遠月の最高決定機関、『遠月十傑評議会』の第七席を務めさせてもらっているよ」
「成程、要するに幹部の一人、というわけだな」
先輩として、そしてこの学園の有力者として、私という存在を見極めていたのだろう。そしてその目で、私の実力がこんなものではないと感じ取ったわけだ。いやはや、私はこの世界の人間を少し見くびっていたのかもしれんな。
「どうだい? 今使える食材は限定されているけど、僕と料理勝負してみないかい?」
「それを受ける私のメリットは?」
「曲がりなりにも十傑に名を連ねる、僕の実力を知ることができる。そして僕は、君の今の全力を知ることができる。互いにいい条件だと思うよ」
「……いいだろう。では私は今の全力でやる。あなたも全力でやってほしい」
「成立だね。じゃあ食材は
そう言うと一色は立ち上がり、部屋備え付けのキッチンへと向かった。その際も裸エプロンなのは変わらず、その臀部が丸見えであったが気にしなかった。
◆
「……起きているならそう言えばよかろうに」
「……巻き込まれたくないからな。だがこの勝負、興味がある」
「そうか」
「それより、そっちの口調のほうが自然だな」
後方から聞こえてくる会話から察するに、伊武崎君も起きているのだろう。それに気配からして吉野君と榊君もそろそろ起きるはずだ。
さて、彼に今の全力を出すと言った手前、本気でやらなければならないだろうね。とはいえ、勝負ごとに手を抜くという無粋なことはするつもりはない。
彼、幸平創真君の実力は未知数だ。試験の時の腕前で判断するだけでも、調理者としての実力は群を抜いていると判断できる。もしかすると、上級生でも多くの者が彼に食われてしまう、そんな潜在性をのぞかせてくれる。何で彼が全力を出せないかはわからないけど、今回はその一端でも知れたら十分な収穫だろう。彼の実力の高さも、多分伊武崎君あたりなら気づいているかもしれない。
「さぁ出来たよ」
「それで、品目は何かね?」
「『鰆の山椒焼き・春キャベツのピューレ添え』だよ。さぁ、食べてみてくれ」
僕の勧めるままに、各々が箸を持って一口食べた。それによって伊武崎君は固まり、創真君は若干目を大きく開いた。彼は驚いているのかも知れない。料理人は皿で語る。口外にしていなくとも、彼はそれをわかっているようだ。いや、この寮に住まうみんなはそれをわかっている。そして己の分野を特定し、日々研磨に努めている。成功と失敗、その二つが織りなす「研究」と「成長」を毎日かみしめている。
僕自身、周りから胡散臭いだの言われたりしているけど、悩みがないわけではない。行き詰ることもあるし、絶望することもある。でもそれを糧として、前に前にと進んできた。
「どうかな? 僕の今の全力をこの皿に載せたつもりだよ」
「……春の素材を生かし切った料理。これほどに繊細な一皿を、この短時間で仕上げるとはな」
「……流石は十傑としか言えない」
二人とも言葉少なげだけど、しっかり味わい評価してくれているみたいだ。それだけでも、今回この一品をだした甲斐があると言うもの。
「さぁ、次は創真君の料理を、食べたいな」
僕も意図せずして声が低くなってしまう。僕の料理を味わう彼の目は、まるで鷹のように、研ぎ澄まされた剣のように鋭くなっていた。一瞬その目が鋼のように光ったのは気のせいだろうか。
意を決した彼は布を巻き、徐に立ち上がった。
「では私も、貴方と同じく鰆、そして春をテーマにしたものを作ろう。少し待っていてくれ」
そう言うと彼は鰆の切り身、オリーブオイルを用意し、フライパンで焼き始めた。美味しそうな音と香りが次第に漂ってくる。
「ん~あれ? 寝ちゃったてか……」
「え? ……やだ!? 飲みすぎちゃった、お米のジュース」
おや、吉野君と榊君も起きたようだね。
「あれ?」
「幸平君、まだお腹空いているのかしら?」
「料理対決だそうだ」
起きたばかりの二人に、伊武崎君が丁寧に説明していく。それを聞いたふたり、特に吉野君は爛々と目を輝かせながら、僕たちのほうを見つめてくる。彼の手際は流石の一言だ。迅速に的確に、それこそ彼の言葉を借りるならば、現場で鍛え上げられた技量だ。遠月に籠っているだけでは、恐らく身につかないもの。
「二人が料理対決!? 何で何で?」
「さぁな。でもこの勝負、先輩から吹っ掛けてたぜ」
「「え?」」
僕から勝負を仕掛けたのは意外だったのかもしれない。なんせ二人の視線が僕に刺さっているからね。でもそれが気にならないくらい、僕は緊張をしている。彼のように実力が計り知れないのは、十傑を除いて数えるほどしかない。彼がどんな料理を出すのか、非常に興味をそそられている。
それにしても気のせいだろうか。何度か彼が動くたびに、紫電のような、光る鎖のようなものが見えた気がした。そしてその時に彼が微妙に顔を顰めていることも。
「お待たせした。『鰆のおにぎり茶漬け』だ」
その言葉と共に僕らに出されたのは、見たところ工夫が少ない、いたって普通のお茶漬けだった。
「めばえっ」まで行けなかった、残念。
さて次回は創真の料理と、アニメ五話の内容を少し、書いていくつもりです。何分文章を書くのが下手なもので、進むのが遅々としてしまいます。
それではまた次回。