なんか書けちゃいました。そしてソーマに似合わぬ感じになってしまった気が。
ま、まぁまだ序盤ですし、大丈夫ですよね。
それではどうぞ。
「本来ならば鮭を使うのだが、今回は鰆でアレンジした。是非君たちも食べてくれ」
創真君の言葉と共に、僕ら彼女らの前に置かれたのは既にお茶の注がれた御椀。鰆の香ばしい匂いとお茶の香りが、僕たちのの食欲を大いにそそった。
「ありがとう!! 注いであるのはなあに?」
「塩昆布茶だ。このお茶の持つ柔らかな塩気とコクが、〆として重宝される。お茶漬けにすることで、寝起きの君らの体にも余り負担はないだろうからな」
「もう~こんなの出されたらお腹が減るに決まってんじゃん!!」
椀の中には真っ白なおにぎりとそこから覗く小さく切られたいくつかの鰆。
「んじゃあ早速、いっただっきまーす!!」
「「「いただきます」」」
「召し上がれ」
食膳の挨拶と共に、まずは一口ほおばる。
その時口の中が弾けた。
お茶漬けにしたにも関わらず、ジューシーに仕上がっている鰆の身。何よりその皮がザクザクとした食感に仕上がっており、噛むたびに旨味が湧き出てくるのがわかる。ただ炙っただけではこの食感を作り上げることは出来ない。魚の皮をバリッとしたものに仕上げる調理法は恐らくアレだろう。
「創真君。この鰆はポワレで焼き上げられているね」
「「ポワレ!?」」
「ふむ、御名答」
ポワレとは、フランス料理におけるソテー、焼き方の一つ。焼きながらその油をかけることにより、均一に素材を焼き上げる手法である。しかし、僕らの知る限り、大衆和食をメインに扱う一般の食事処では、この手法を使うことは珍しい。
「一体君は何処でこの技術を? 申し訳ないけど、君の経歴を見る限り、知る機会は少ないと思うのだけれど」
「以前父親に連れられて武者修行という名の道場破りを世界でやっていてな、その時に身に付けた。手法自体は父親から聞いてはいたがね」
「なるほど」
彼の経験で身に付けた技術。一見和食にそぐわないと思われる手法だけど、お茶に浸かっていない身はザクザクと、少し浸した部分はまた異なる味わいがあり、食べる人を驚かせ、綻ばせる形になっている。彼のこの一品でわかる。国境やジャンルに囚われることのない、自由な料理だ。そしてこのポワレは、皮に厚みのある魚の調理にもってこいの手法だ。今回使った鰆は勿論、鮭にもピッタリの焼き方である。
純白のおにぎりはまるで雪。それがつかる透き通った昆布茶はさながら雪解け水。そしておにぎりから現れる鰆は、まさに春の生命力。このお茶漬けは、春の芽吹きの一瞬を表現していると言っても過言ではない。
御椀から掻き込む手を止められない。一口食べたならまた次、一口含んだならばまた次と、食べる手を休めることができない。エネルギッシュでありながら、非常に緻密なバランスで構成された一品。初春の刹那を体現したこの品はまさに。
「(めばえっ)!!」
自然と目から涙が零れる。それほどにまで僕はこの品に感動し、美しいと感じた。これほどの品を食べられたとは、なんて光栄なことだろう。
「美しい雪解けだったよ、創真君」
「いや。貴方の品こそ、爽やかな春風を感じた。素晴らしい勝負に感謝する」
「(何だべ、この状況? 半裸の泣いている先輩と、同級生がなんか握手してるだ……)」
何か視界の端で田所君が動揺していたけど、僕は気にしないことにした。
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「ところで創真君、君は何を目標にここで学んでいくのかい。他の生徒と同じく、十傑入りも視野に入れているのかい?」
「一色さんには申し訳ないが、私は十傑には興味ないよ」
「え?」
部屋を片付け、丸井君をしっかりベッドで休ませた後、僕らは創真君の部屋に移っていた。僕らはそれぞれ使った包丁の手入れを行っていた。僕ら二人以外は、既に各々の部屋で就寝に入っている。彼らは自分たちの探求するものを見据え、日々研究に費やしている。それに多くの生徒が、遠月十傑に名を連ねようと、互いに蹴落とし合いつつも、努力を続けている。
その中での、彼の興味ないという発言に僕は引っかかりを覚えた。向上心がないというわけじゃないだろうけど、彼の在り方は遠月としても非常に珍しい部類と言える。過去の卒業生でも、十傑に興味を持たない人は両手の指の数ぐらいしかいないかもしれない。
「じゃあ一体何を目指してるんだい?」
「そうだな。ここで見聞を広げたいというのは嘘ではない。だが一番の目標は……」
――ただただ平凡な、愛する者達と生を過ごすことだろうな
そういう彼の顔は、非常に穏やかなものだった。こんな表情をする子供、いや、人間を今まで見たことがない。まるで日々の平穏が一番であるかのような表情。誰かを弔ったことのあるような、悲しみを湛えた目。
「……失ったことが、あるのかい?」
本来なら聞くべきでないだろう。自分でも嫌悪感が出るぐらいに、非常に不躾な問いかけだったと思う。記録上では、彼が母親を弔っていることは知っている。しかし彼はそんな僕を拒絶することがなく、こちらを見つめた。そしてその目に、僕は思わず恐ろしく感じてしまった。
確かに目は輝いている。しかしそれは部屋の明かりを反射してのもの。その目には何もない。眼光に含まれた闇は深く、暗く、そこが見えない深淵の様。琥珀の瞳は色をなくし、人形の目ような印象を受けてしまう。
「失った、ああそうだな。多くのものを失い、弔ってきた」
「大切だった誰か、愛したはずの誰かの手を振り払い、その手に剣を握った」
そう語る彼の目は僕を見ているが、僕を見ていなかった。
「多くのものを救う。そんなふざけた
その闇は、常人ならば到底耐え切れないもの。子供や僕は勿論、ふみ緒さんや総帥のように、多くの経験を積んだだろう人間も耐えられないはずの何か。それに耐えるとなると、それは最早化け物のようなもの。
「……語りすぎた、忘れてくれ。明日も早い、先輩も休むといい」
「あ、ああ。そう、させてもらうよ」
ようやく絞り出した声とともに、道具を持って退室した。
「肉体に引っ張られているのか? オレとしたことが、間違うにも程度があるだろうに」
そんな言葉が聞こえてきたけど、気にする余裕がなかった。料理人の本質や心は、本人の意図しないところで料理に出てしまう。では彼の品は? 彼のお茶漬けに感じた芽吹きは、嘘なのか? それはないだろう。紛れもなく、あの一皿には彼の心が出ている。
では今の目は? あの恐ろしいまでに
はい、ここまでです。
次こそ、次こそはハリポタの更新をしたいと思います。やっとあちらが描けそうな気がするのです。
それでは皆様、また次回。