ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第十一話

 午前11時

 

 ――学院長室

 普段ここは午前の時間帯なら学院長と秘書だけしかおらず非常に静かな場所だ。

 しかし今はここの学院で勤めている教師達が全員部屋に集まっていた。

 それぞれの手にはメイジとしての証とプライドである杖ではなく、ただの紙切れが握られていた。

 それは椅子にドッシリと構えている学院長が前に出している右手で握っている紙の束である。

 少し頭の髪が死にかけている中年の男性教師が前に出、老いているとはとても思えないガッシリとした学院長の手が握っている紙の束から一枚だけ引き抜く。

 それを終えると彼は一歩下がり手に取った紙を確認する。紙の先端には赤いインクで「アタリ」と書かれていた。

 

 それはいわゆる「くじ引き」というものである。

 縁日やお祭りの時、一回三百円程度で箱の中に手を入れて紙を一枚取って確かめる。

 紙に書かれた一等賞や三等賞で区別された大小様々な景品が貰えるのだ。

 誰もがこれに挑戦し、望みの物が手に入らなくて泣いたり悔しがったりしただろう。

 

 しかし…。

 

 当たり紙を引いた男性教師は少し顔色が悪い。

 そう、この赤マークの紙は正確には「当たり」ではない、むしろ「ハズレ」の部類だ。

 手にはいるのは景品ではなく任務である。それもかなり危険な。

 学院長はそんな彼を見ると重い腰を上げ、しっかりとした歩みで彼の傍の寄った。

 そして動かない肩をぽんぽんと手で叩くとなんとも言えない笑顔でこういった。

 

 「ミスタ・コルベール。わるいがミス・ロングビルと共にフーケ捜索へと向かってくれ。」

 コルベールは学院長のオスマンの言葉にただただ頷く事だけしかできなかった。

 

 

 

 学院を囲っている外壁を抜けた先にあるのは広大な自然。何百年も人が触れていない森だ。

 大きい木が何本もそびえ立っている。ライカ欅では無いため伐採を免れているので樹齢は相当なものである。

 学院が完成した後外壁に沿って散歩道が作られ生徒達は勉強などで疲れたときにはいつもお世話になっている。

 

 

 ――午後一時を少し過ぎた頃。

 太陽が少し真上の時間帯。

 地上にある巨大な木々が陽の光を受け更に成長を続けていく。

 そんな森の上空を飛ぶ一匹と一人がいた。

 

 一匹の方は蒼い鱗に大きい翼と巨大な体躯は立派である。

 それはハルケギニアの幻獣でもトップクラスを誇る風竜であった。

 この風竜もなかなかの大きさだがこれでもまだ小さい方。これからグングンと大きくなっていく。

 そしてその背には三人の少女が乗っていた。三人とも首元に五芒星のエンブレムを付け貴族見習いであることを示す。

 

 ピンクブロンドの少女の名はルイズ・F・ヴァリエール。

 素直ではなく、ついつい手足が先に出てしまう。

 得意な物は乗馬と編み物、しかし編み物だけは恐ろしいほどに駄目。

 

 次に、紅い髪と黒い肌を持つ少女――というより女性はキュルケ。

 他国からの留学であるためか入学当初は他の生徒達に嫌われていた。

 実力は折り紙付き、実家はルイズとお隣同士。だけどいつもいがみ合っている。

 

 最後に、三人の中でも特に身長が低くこの風竜の主であるタバサ。

 まだ子供と見間違えてしまいそうなスタイルのうえ、サファイア色の髪は短めに切られており、それが一層彼女を子供っぽく見せている。

 何事に対してもあまり動じず学校内の小さなハプニングには無関心。何を考えているのかよく判らない。

 

 

 

 一人の方はというと風竜より少し先行して飛んでいた。

 まだ少女とも呼べる小さい体、腰まで届く滑らかな黒髪と同じ色の瞳。

 そして腋部分を大胆に露出している紅白の服はこういう年齢が好みの者なら堪らないだろう。

 肌は少し黄色が掛かった白だが余程目をこらさなければ石けんのような白い肌に見えてしまう程綺麗だ。

 そして背中には丁度彼女の身長と同じくらいある黒一色の筒を背負っていた。

 

 

 彼女の名は博麗 霊夢

 科学と文明により忘れ去られた幻想の世界から遙々魔法文明が闊歩する世界に召喚された博麗の巫女。

 実力は恐らく前述の三人より遙か上であろう。多少他人に対して冷たいところもある。

 今彼女は自分が本来居るべき場所へと帰る為、ある場所を目指していた。

 

 

 事の始まりは4時間前に遡る。

 キュルケが暇つぶしにと、持ってきた宝の地図をもとに宝を探しへ行こう。というのが発端だった。

 そこに記されていた財宝―もといマジックアイテム――の名前とその詳細を聞いた霊夢はそれに大きな興味を持った。

 もしかしたらそれを使って自分は元の世界に帰れるかも…。と思いこの宝探しに乗る事となった。

 そして霊夢を召喚したルイズも見送りという形で付き添うこととなった。

 タバサはというと最初拒否したもののキュルケに色々と頼み込まれ結果、自分の使い魔と共にこれに参加した。

 そんな事をしている内にもうすぐ十二時を示すところであった。

 どうせなら昼食を食べてから行こう、とキュルケが提案した。

 

 霊夢はいつものように一人で飛んで行きたかったのだが…

 まぁお腹も空いているので昼食の後、宝探しに行くこととなった。

 

 そんでもって昼食の後、今に至る。

 シルフィードの乗り心地は中々良いもので普通に乗っていればまず落ちることはない。

 ふとルイズが霊夢に話しかけた。

 「ねぇレイム、さっきから気になってたけどその背負ってる物は何なの?」

 「え?あぁこれの事、土産として持って帰るのよ。」

 「中身はいいとして…それ、何処で拾ったの?」

 「学院の端っこにあったゴミ捨て場みたいな所よ。」

 「ゴミ捨て場ぁ…?」

 ルイズは一瞬ポカンとなるが、すぐに納得したような顔になる。

 「あぁ、あの物置ね。」

 物置という言葉を聞いて霊夢が怪訝な顔をする。

 「あそこって物置なの?どうりで綺麗な物ばかりだと思ったけど、置き方が乱雑だったわね。」

 「……まぁあそこは誰も手を出さないからほぼゴミ捨て場よね~。」

 ルイズは苦笑しつつそう言った。

 その数分後、一行はようやく目的地である小屋を見つけることとなった。

 

 一方、森の中では一台の馬車が小屋を目指して走っていた。

 手綱を握っている緑髪の女性は後ろを向き、荷台の方でため息をついている男性教師の方へと顔を向けた。

 「ふぅ~…まさかこの私がフーケを捕まえに行くなんて。」

 彼、コルベールは不安そうな顔で呟き、自分の足下に置いている杖の方へと目を向ける。

 「大丈夫ですよミスタ・コルベール。もしもの時は私がなんとかしますから。」

 彼女、学院長の秘書であるミス・ロングビルは男として少し情けない彼を励ましていた。

 

 

 

 不運にもくじ引きによって選ばれたコルベールは秘書のロングビルと共にフーケ捕獲に向かっていた。

 場所は既に彼女が特定してくれているので後はそこへ行き、盗まれた『破壊の杖』の確保と盗賊「土くれのフーケ」の捕獲を済ますだけだ。

 それで済めばいいのだが最悪フーケとの戦闘になる。その為「火」系統のメイジであるコルベールは非常に頼もしい―――筈だった。

 しかし、コルベールは客観的に見れば、とてもじゃないが「火」系統のメイジには見えない。

 よく皆がイメージする、火の使い手は情熱的だったりやけに前向きだったりただの放火魔だったりetc…

 つまり今目の前でため息ついて不安がっている彼のような性格の持ち主は少なく、どちらかというと荒々しい性格の奴らばかりである。

 彼は決してメイジ、平民など関係なく魔法を使って攻撃することはしない、大抵は話し合いへと持ち込んでいく。

 

 ――彼には一つの夢があった。

 ――――それは系統魔法をもっと日用的にすることである。

 

 

 火や風系統の強力なスペルは学院の生徒達には憧れの目で見られるほど恐ろしい力を持っている一方、その万能性は乏しいのだ。

 風系統などは若干日用的なスペルがあるのはあるが火の系統は大半が攻撃スペルで占められている

 それを嘆いたコルベールはもっと戦闘向きの系統魔法を一般の生活に役立てようと日夜研究している。

 オスマンはそれを理解し、わざわざ彼専用の掘っ立て小屋を作ってくれたのだ。

 一見変わり者のコルベールだが、生徒達には非常に人気で教師としても非常に優秀な部類に入る。

 だからこそ彼は人を自らの魔法で傷つける事などはしない。それが祟って今のような柔らかい性格になってしまった。

 

 なら何故こんな危険な任務についたのかだって?

 コルベールは臆病に見えるが心は強い、武器なんかで脅されなければ決してその心を曲げない。

 だからあの時もし強く反対していたらオスマンもそれを了承してくれただろう。

 しかし…

 

 ――これ以上、グダグダ話していても埒があきません。

 ――――どうです?これからくじ引きをして、赤色のマークが付いた紙を引いた者が行くことに…――

 

 なんせ、あのくじ引きを提案したのがコルベール自身なのだから。

 自分でやったことは、自分で責任を持つしかないのだ。

 

 

 

 「ミスタ・コルベール、そろそろ準備をしていてください。目的地に到着します。」

 「あ、あぁ…。」

 時間は午後の一時過ぎ、もうそろそろたどり着く頃合いである。

 近づきすぎるのはかえって危険なのでここからは馬車を降り、徒歩で行くことになる。

 コルベールは傍らに置いていた杖を手に取り、馬車の荷台から降りる。

 あと二メイルくらい進めばひらけた場所へと出る、そこにポツンとたてられた小屋がある。

 そこにフーケが潜伏していると…ロングビルは言っているのだが。

 (まだここからだとよく見えないな…。)

 馬車から降りたコルベールはその場から目をこらしてみるがよくわからない。

 大木のせいでまるでその先にも森林が続いているように錯覚する。

 

 「ここからじゃよく見えませんね。」

 ふと同じく馬車から降り、いつの間にかコルベールの横にいたロングビルが呟く。

 「どうやら少し接近するしかないようですね…。」

 コルベールは口の中に溜まっていた唾をゴクリと音を出して飲み込むと杖を突き出し前進し始め、ロングビルもそれに続く。

 時に近くの木に身を隠し、亀の歩みにも負けるような足でそれでもゆっくりと目指す。

 そしてようやく小屋を見れる位置に来るとコルベールはサッと身を伏せると小屋の近くを見回し、目を丸くする。

 小屋の出入り口に蒼い風竜がいるのだ、それもただの風竜ではない。

 

 春の使い魔召喚の儀式。

 コルベールどころかハルケギニアでは前例がほぼないハプニングのあった日。

 そのとき一番物静かなミス・タバサが召喚した使い魔は彼の視線の先にいる風竜であった。

 

 ロングビルもそれに気づき驚いた。

 「あれはミス・タバサの使い魔じゃありませんこと?どうしてこんなところに…。」

 「私にもわかりませんよ…多分、あそこで休んでいるのでしょう。」

 コルベールはその他に思いついた嫌な考えを拒絶し、そういう事にしておいた。

 よもや「生徒達が学院を抜け出して森の中をほっつき歩いている」という事は考えたくもない。

 「とりあえずミス・ロングビルはそこで見張っていてください。私が小屋の中に…。」

 ロングビルは冷や汗を流しながらもコクリ、と頷き。コルベールは茂みから出た。

 ひらけた場所だけ妙に地面の土が乾燥していて、堅い感触が靴を通して足の裏に突き刺さる。

 先ほどの森林地帯とは違いここは荒野といってもよく、隠れる場所は何処にも居ない。

 やがて小屋まで後二メイルの所で休んでいた風竜がこちらに気づき、キュイ?…とその体からは想像できない可愛らしい鳴き声を上げてコルベールの方に顔を向けた。

 とりあえずコルベールは今はその風竜を無視すると気配を殺し、更に近づこうとする。

 

 

 

 「あら、アンタも宝探しに来たの?」

 

 

 

 右から鈴のような澄んだ少女の暢気な声が聞こえた。コルベールはその声に聞き覚えがあった。

 コルベールは足を止め、小屋の右側に付いているガラスが外された窓に視線を向けた。そこには忘れたくても忘れられない姿が在った。

 

 黒いロングヘアーに赤いリボン、紅白の服。ミス・ヴァリエールがあの召喚儀式の日に呼び出した博麗霊夢だ。窓から身を乗り出してこちらを見つめている。

 良く見ると背中になにやら長い筒を背負っていたが今はその事は置いておこう。

 コルベールは見知った相手であった事に安堵したのか今まで固まっていた顔の筋肉が緩み、なんとも情けない表情になった。

 「……はぁ、あなたでしたかぁ。」

 コルベールの言葉を聞き、霊夢は少し嫌な顔をする。

 「何よその態度は…まぁ別に良いけど。」

 少なくとも彼女は小屋の中にいる。これでフーケが小屋の中にいるという可能性はゼロになった。

 敵がいないと言うことに余裕が出てきた彼は先ほどの言葉が霊夢の気に障ってしまったと思い、首を横に振った。

 「いやいや、安心しただけですよ…。」

 そう言いコルベールは小屋の方へと軽い足取りで近づいていく。

 小屋まで後5サントという所でふとコルベールは足を止め、霊夢に質問をなげかけた。

 「一つだけ聞いて良いですか?あなたは一人でここに…」

 言い終える前に、今彼が最も想定したくない事態が起こった。。

 

 「誰かいたのレイム?外から男の声が聞こえたんだけ―――ど?」

 そう言いながら霊夢の後ろから姿を現したのは彼女を召喚した生徒、ルイズ・フランソワーズであった。

 途端にコルベールの顔がサッと青を通り越して白くなった。そしてルイズの方も教師の姿を見てその場で体が硬直してしまった。

 「?……どうしたのよ二人とも。」

 何がなんだかよくわからない霊夢は振り返って愕然とした顔で硬直しているルイズを小突いた。

 まるで氷の彫像のように固まったルイズからは何の反応も返ってこない。

 「あら、あら…。ミスタ・コルベールじゃあ、ありませんこと…。」

 続いて小屋の出入り口からキュルケが冷や汗を浮かべながら出てきた。

 そしてその後を子猫のようにトテトテと付いてくるタバサも少しだけ目が丸くなっている。

 

 

 その後、馬車の近くに待機していたミス・ロングビルが突然小屋の方から聞こえてきた怒声にビクッと体を震わていた。

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