ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第十三話

 

 ――何ぼーっとしてるのよ。さっさと逃げてくれない?じゃないとアンタも巻き込むわよ?」

 

 霊夢のその言葉を聞き、逃げようとしたルイズはふと顔を上げ、思わず目を見開いて叫んだ。

 「え?…あ…レイム!う、上、上!?」

 

 

 「だからさっさと逃げろって―――わぁ…。」

 一体何事かと思い頭上を見上げた霊夢も思わず唖然とした。

 何故ならゴーレムの足裏がゆっくりとした速度でルイズと霊夢を踏みつぶそうと迫っていた。

 

 

 霊夢は本日二度目になるルイズの腕を掴むと『破壊の杖』をその場に放置し、ゴーレムが足を振り下ろす前に素早く後ろへと下がった。

 振り下ろされた足は砂塵を巻き上げながら地面をえぐるだけで終わった。

 攻撃を避けた霊夢はコルベールの所まで下がるとルイズを掴んでいた手を離し、コルベールの方へ顔を向けた。

 

 「あんた教師でしょ?自分の生徒にはちゃんと目をやりなさいよ。」

 相変わらずの主人を守る者とは思えない冷たい台詞にコルベールは顔を顰める。

 が、今はそんな事で言い争っている状況ではないためあえて何も言わないことにした。

 

 「じゃ、そいつのことは任せたわよ。」

 霊夢はそう言うと返事を待たず、懐から一枚のカードを取り出し、再度ゴーレムの方へと飛んでいった。

 そしてある程度の距離に近づいた時、スペルカードを発動させた。

 

 

 

 「神霊「夢想封印 瞬」!」

 霊夢がそう宣言した直後、ゴーレムが彼女ごとその空間を薙ぎ払うかのように腕を勢いよく横へ薙いだ。

 

 

 だが、それよりも速く彼女は飛び、素早くゴーレムの背後へと回った。

 がら空きになっている背後にお札の弾幕をばらまいたのを皮切りに、霊夢の攻撃が始まった。

 札だけではなく左手に持っている御幣からも四角形の弾幕を大量にばらまきゴーレムを攻撃する。

 ゴーレムは霊夢を目で追いかけようとするがそうしている間にも弾幕の嵐に晒され朽ちていく。

 

 遠くから見ていたタバサとキュルケは霊夢の高速移動と突然ゴーレムの目の前に現れた大量の弾幕に驚いていた。

 キュルケは先程の光弾より凄い!と興奮し、捲し立てながらその弾幕に見とれていた。

 

 

 

 「………凄い。」

 そして、いつもは無口なタバサも顔こそはいつものままだが心の中では色々と考えていた。

 訳あって今までありとあらゆる「敵」と戦ってきたタバサにとって霊夢の様な攻撃を見たのは初めてだった。

 あの攻撃も、やはり今までタバサが見たことのないモノだ。一体どうやって出しているのだろうか?

 そんな事を考えていると、ふとシルフィードが主人のタバサに呼びかけてきた。

 

 「後にして。」

 

 タバサはシルフィードの顔を見てそう言った。

 主人が自分の方へ顔を向けたことを知ったシルフィードはきゅいきゅいと鳴き、鼻先を地面の方へと向けた。

 タバサも続いて下の方を見てみた。すると離れたところから戦いを観戦しているルイズとミスタ・コルベールの後ろから誰かがやってきた。

 

 タバサ自身は数回しか顔を見て事はないが、記憶が正しければあの姿は学院長の秘書だ。

 その秘書はゆっくりと二人の背中へと近づいていく。その足の動きを、タバサは知っていた。

 まるで狩人が自分に背中を見せている獲物に気づかれないような歩き方。正にソレであった。

 それは暗殺者が後ろからナイフで突き刺そうと忍び足で近づいているとも解釈が出来る。

 

 どうして普通に歩かない?何かワケでもあるのだろうか?

 

 そんな事をタバサが考えていたとき。

 杖を持っていないルイズの背後へと近づいたロングビルがもの凄い勢いで彼女の肩に掴み掛かった。

 

 

 

 

 「どういう事なのかしら…?」

 霊夢はそうぼやき、地面の方へと視線を向けた。

 そこにはあのゴーレムの姿はなく、ただ大量の土くれがあるだけだった。

 つい先程まで丁度良く巡ってきた良い手掛かりをつぶしてくれた巨体と戦っていた最中だった。

 しかし突然ゴーレムの右腕がポロポロとただの土くれになったのだ。

 それを皮切りにゴーレムの体のあちこちが高く積み上げられた積み木を一気に崩すかの様にボロボロと土になって崩れていった。

 

 霊夢はその事に疑問を感じたが、

 あのデカ物が消え、少しスッキリしたので今となってはどうでも良かった。

 「さてと、小屋は無くなったけど…どうしようかしら。」

 手に持った御幣を肩に担ぎ、そう呟くと地面の方へと視線を向けた。

 ゴーレムによって壊された小屋は跡形も残っておらず、周囲には木片しか転がっていない。

 ルイズの部屋にいたときキュルケに見せて貰った地図では小屋があった場所に×マークが記されていたのを覚えている。

 

 (あんなんじゃあ探しても意味無さそうね………ん?)

 そんな事を考えていると、ふと下からコルベールの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 ルイズは突然の出来事に何がなんだかわからず自分を羽交い締めにしている学院長の秘書に声を掛けた。

 

 

 「み…ミス・ロングビル?これはいったい何の真似で…!」

 絞り出すように出された彼女の声は酷く小さく、それはロングビルにしか聞こえていなかった。

 声を聞いたロングビルは眼光を鋭く光らせ、冷たい口調で言った。

 「ミス・ヴァリエール。静かにしていてください…。すれば命までは奪いませんわ。」

 ゴーレムと戦っている霊夢を遠くから見ていたルイズは後ろから近づいてきたロングビルに羽交い締めにされてしまった。

 それを間近で見ているコルベールはてっきり死んだと思っていた秘書の思いがけない行動に顔が青くなっていた。

 「ミス・ロングビル…?一体これは…!」

 「どうもこうも…今は私が言う質問を聞いてくださればいいんですの。わかる?」

 慌てた風に言ったコルベールの言葉にロングビルは嘲笑と共にそう言った。

 

 「じゃあ最初に―――ミスタ・コルベールは『破壊の杖』の使い方をご存じで?

        んぅー…でも、ゴーレムが踏んでしまったから使い物にならなくなってるかも知れないけど。。」

 

 ロングビルの口から発せられた『破壊の杖』という言葉を聞き、コルベールはハッとした顔になる。

 

 

 

 「破壊の……?…まさか!まさか君が…『土くれのフーケ』か!?」

 

 

 

 コルベールの言葉を聞き、ロングビル――もとい土くれのフーケはフフフ…と笑った。

 それを見たコルベールは今まで地面を向いていた杖を上げ、慣れた手つきでフーケの顔へと向けた。

 「およしなさいな…まさか自分の生徒まで焼くことは無いでしょう?」

 待っていましたと言わんばかりにフーケはルイズを前に出した。

 コルベールは何がなんだかわからず未だに困惑した表情を浮かべているルイズの顔を見て動揺しかける。

 しかしフーケは動揺させる暇など与えぬかのように再び最初の質問を彼に投げかけた。

 

 「さて、まだ最初の質問ですよミスタ・コルベール。――貴方は『破壊の杖』の使い方をご存じで?」

 

 繰り返し言ったフーケの言葉を聞き、コルベールは置きっぱなしにされていた『破壊の杖』がある場所へと視線を向けた。

 黒光りする『破壊の杖』はゴーレムに踏みつぶされているにもかかわらず、何処にもキズは見受けられない。きっと『固定化』の呪文をかけられているのだろう。

 しかし、その前に彼は正確な使い方を未だに把握していない。

 

 

 「もし私が使い方を知っているのなら、それを使って生徒達を守っていただろうな…。」

 コルベールがフーケの質問にそう答えたとき、彼女は数瞬だけ目を丸くしたがすぐに目を細くさせ、笑った。

 「ハハハハハ!学院の腑抜け達と比べたらあなたの方がよっぽど教師の鏡だわ!」

 そう言うとフーケは数秒間笑い続けた後、ルイズの首を絞めている方の腕の力を少し強めた。

 ただただその光景を苦しそうに見ているコルベールにはどうすることも出来ない。

 

 「さて、少し笑ったところで次の質問よ?――あの紅白服の少女は一体何者なの?

  あのミスタ・グラモンの決闘の時と同じ、見たこともない魔法で私のゴーレムを壊してくれたわ。お陰で計画はオジ――――

 

 

 「なるほど、アンタが土くれのフーケなのね?」

 

 

 言い終わる前にふと頭上から声が聞こえ、フーケは空を見上げる。

 そこには人影どころか小鳥や雲もなく、青い空と清々しい太陽があるだけであった。

 「おーい、こっちよ、こっち。」

 「えっ?…ってうわぁ!」

 ふと横から誰かに肩を叩かれ、そちらの方を向いてみると御幣を肩に担いだ霊夢がすました顔でフーケの隣に立っていた。

 何時の間に、とフーケは思ったがすぐに彼女は素早くルイズを掴んだまま距離を空け、霊夢に杖を向ける。

 「二人とも武器を下ろしなさい!じゃないとミス・ヴァリエールは死ぬことになるわよ?」

 そう叫ぶとフーケはルイズの首を絞めている腕の力をより一層強める。

 「うぅ…ぐぅっ!…あぅ…!」

 首を絞められているルイズは段々と呼吸がし難くなるのを感じ、苦しそうな呻き声を漏らす。

 それを見たコルベールは杖を仕方なく地面にそっと置いた。

 

 しかし、そんな状況になっても武器を下ろさない者が一人だけいた。

 

 「目の前に人質、ねぇ…。こんな体験は初めてだわ。」

 

 霊夢は御幣はおろか、何もせずにまるで他人事のように突っ立っていた。

 しかし目からは若干の怒りと鋭い光を放っており、まるで「殺れるものなら殺ってみろ!」と言っているようだ。

 

 「くぅ…!早く武器を捨てないとご主人様の命は無くなるよ!?」

 

 そんな霊夢を見てフーケは言葉を荒げながらも叫ぶ。

 これを言えばどんな存在であろうとも『使い魔』ならば主人を守るためおとなしくなってしまう。

 今までの経験上、フーケはそれを痛いほど知っている。

 

 

 

 

 「ご主人様?…ご主人様って誰の事よ?」

 

 「え?」

 

 「ふぇ?」

 

 「何?」

 

 その言葉に霊夢以外の3人が間抜けな声を上げる。

 「まさかルイズの事じゃないでしょうね?冗談じゃないわ。」

 霊夢はそう言うと右手で札を取り出しフーケとルイズの方へ向けた。

 それ見てフーケは杖を強く握りしめた。あの威力はグラモンとの決闘や、先程のゴーレム戦で充分に知っている。

 

 「ただコイツの部屋に同居させて貰ってるだけよ?洗濯とか掃除とかしてあげてるけど…。

  それよりも、よくもあの小屋を滅茶苦茶にしてくれたわね…?」

 

 それを言い終えたと同時に霊夢から何やらもの凄い気配が漂ってきた。

 顔には多少の怒りが混じっており、喋りながらも手に持った札に力を込めている。

 

 「お陰で折角の手がかりが台無しだわ、どう責任つけてくれるの…?」

 喋りながらも雰囲気的に次に何をしてくるのかわかった3人は慌て始める。特にルイズが。

 「ちょっ…ちょっとレイム!!アンタ私を巻き添えに…!」

 「ちょっ!ちょっ!アンタ、まさかこのままこのお嬢ちゃん共々…」

 「ま、待てレイム!フーケが狙っている物は…!」

 

 

 コルベールはそう叫ぶと霊夢に駆け寄ろうとするが、遅かった。

 

 霊夢の手から放たれた一枚の札は流れるようにルイズとフーケの方へと飛んでいく。

 

 それは風や重力にとらわれず、ある一転を目指していく。

 

 札はルイズの頬を切ることなく横を通り過ぎ――フーケの額へと飛んでいき…。

 

 

 ポン!

 

 軽い爆発音と共にフーケの額に当たったお札が小さく爆ぜた。

 小さな爆発とはいえ――大の大人一人分を気絶させるのには十分な威力だった。

 額から煙を上げながら倒れたフーケはルイズを離し、地面へと倒れた。

 「はぁっ…はぁっ……!!死ぬかと思ったわ…。」

 当たらなかったものの、一瞬走馬燈が頭の中で駆けめぐったルイズの呼吸は荒かった。

 それから数秒遅れてコルベールがルイズの傍へと走りよってきた。

 「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか!?」

 コルベールからそんな言葉を貰い、ルイズはこう言った。

 「ハァ…一瞬頭の中で子供の頃の思い出が駆けめぐっていきましたが大丈夫です。」

 

 一方の霊夢は今まで肩に担いでいた御幣の柄を地面に刺すと目を回して気を失っているフーケへと恨めしい視線を向けていた。

 「もっと痛めつけてやりたいけど…まぁすっきりしたし、これでいいか。」

 「なにが…まぁこれでいいか。ですか!」

 

 霊夢の言葉を聞いたコルベールがすかさず突っ込んだ。

 それを聞いた霊夢は「何か文句あるの?」と言いたいような顔をコルベールに向けた。

 「下手したらミス・ヴァリエールが死んでたのですぞ!?」

 「大丈夫よ、さっき投げたお札には殺傷力なんて全然無い―――」

 「だからそれじゃなくて!!追いつめられたフーケがあの時に…」

 霊夢はうんざりした様子でコルベールの言葉を聞き流しながらも大きく欠伸をし、地面に刺していた御幣を引っこ抜いた。

 

 そんなやりとりをボンヤリと見ていたルイズは顔を伏せ、プルプルと体を震わせた。

 

 地面にへたり込んでいたルイズはヨロヨロと立ち上がると背中を向けてコルベールに叱られている霊夢に視線を向ける。

 「…聞いてますか!ちゃんと人の話を聞きなさい!!」

 「はぁ…少し静かにしなさいよ。」

 叱られている霊夢はうんざりとしており、背後のルイズへと一切注意を向けない。

 そして獣のように低いうなり声を上げているルイズは思いっきり霊夢の右太ももを蹴ろうとする。

 

 「ん?」

 

 が、霊夢はぎりぎりで右足を横にずらし、ルイズの攻撃をかわすと顔だけを後ろに向ける。

 そこには、綺麗なピンクのブロンドヘアーを若干逆立たせ全身から恐ろしい量の魔力を放出しているルイズがいた。

 目を鋭く光らせていて、さながら怒りに我を忘れた吸血鬼や妖怪のそれであった。

 「…この、この、こっこの…。」

 怒りのせいでかキョドりながらもルイズはブツブツと呟き、

 

 「この…バカ巫女ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 そう叫ぶともの凄い勢いで霊夢に飛びかかった。

 霊夢はスッと横に移動して避けたが一息つかせる暇もなくルイズはもう一度飛びかかってくる。

 「どうしたのよいきなり。何か不味い毒キノコでも喰った?」

 「うっさい!今度という今度は堪忍袋の緒が切れたわ!!おかげで死にかけたじゃないの!?」

 そう言いながらもルイズは素早く避ける霊夢を捕まえようとするが一向に捕まらない。

 

 「ミス・ヴァリエール、貴族の子弟がそんな事をしてはいけませんぞ!」

 一方のコルベールは野獣のように駆け回っているルイズに叫んだ。

 

 その横で気絶していたフーケは頭を霊夢に踏まれたが気にすることなく気を失っていた。

 

 

 

 「ホラ、案外平気だったじゃないの?」

 「…。」

 そんな様子を上空からタバサとキュルケ、それにシルフィードが見ていた。

 最初羽交い締めにされたルイズを助けに行こうかと思ったがそんな矢先にあの霊夢がフーケを倒してしまったのだ。

 フーケが倒れた後、ルイズ達の方へと行こうとしたがあの様子だとどうやら余計な心配だったようだ。

 

 「で、どうするタバサ?このまま戻る?」

 「もう戻る。」

 キュルケの問いに即答で答えたタバサはシルフィードに命令しようとした時、下の森の中からキラッと何かが光るのが見えた。

 それだけなら何もしないが少し気になったタバサは高度を下げろとシルフィードに命令した。

 段々と高度を下げていき、やがて光の正体が何なのかハッキリとしてきた。

 小屋の破片と一緒に森の中にまで吹き飛ばされたソレは所々に固定化の魔法が施された銀の装飾を施された小箱であった。

 シルフィードをとりあえず近くに着地させるとタバサは降り、箱を持って再びシルフィードに跨った。

 「あら、いったい何だと思ったら…綺麗な箱ね。」

 綺麗物が好きなキュルケはそれを見てうっとりとした目を輝かせている。

 一方のタバサは年相応らしくない無表情で手に持ったソレを凝視していたがポツリと、

 

 「これはきっとあの地図に載ってたマジックアイテムが入ってる。」

 

 そう、呟いた。

 

 「…え?」

 予想外の言葉にキュルケは思わず間抜けな声を上げ目を丸くする。

 タバサの言うことが正しければこの中身は地図に書かれていた『境界繋ぎの縄』という物が入っているというのだ。

 実際の所、キュルケはそれをあんまり信じていなかった。所詮はお遊びなのだと思っていた。

 しかしまさかただのお遊びがフーケ逮捕、その上宝の地図が本物。彼女が唖然するのは仕方がない。

 

 「勿論、これは推測。開けてみないと分からない。」

 呆然としていた微熱を消し飛ばすかのように呟かれた雪風の言葉にキュルケはハッとした顔になる。

 「じゃ、じゃあ…今此所で開けてみない!?」

 我に返り、急に興奮しだしたキュルケに物怖じ一つさせずタバサは小さく頷き、フタに手を掛ける。

 

 『境界繋ぎの縄』。

 地図に書かれているとおりなら自分が願う場所へ行ける夢のようなマジックアイテム。

 

 一体どんな形なのかとキュルケは期待を膨らまし、

 それほど期待していないタバサは勢いよくフタを持ち上げた。

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