ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第十七話

ルイズは今、もの凄く混乱していた。

嫌な夢から覚め、起きたばっかりに鼻を打ち付けた直後アンリエッタ王女が部屋を尋ねてきたのだ。

この国の者じゃなくても国の頂点に立つ者が自分の部屋を尋ねてきたら誰しもルイズみたいに目を白黒させる。

急いで膝をついたルイズを見たアンリエッタ、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「あぁルイズ、あなたならば私の前で膝をつかなくとも…」

「ひ…姫殿下!こ、今夜は如何なる御用で下賤なる私の部屋へといらしたのですか?」

ルイズのかしこまったような感じの声を聞き、アンリエッタは寂しそうな顔をする。

「顔を上げてルイズ!そんなにかしこまらないで頂戴!私たち二人の仲じゃないの!?」

アンリエッタは悲痛な声でそう言うとルイズを無理矢理立たせた。

ルイズも流石に昔の幼なじみということで観念したのか、緊張していた顔を綻ばせた。

「お久しぶりですね、姫さま。」

「えぇ本当にお久しぶりねルイズ。お互いこんなに成長して…昔のように泥だらけになって遊ぶことも出来なくなったわ。」

そう言ってアンリエッタとルイズは思い出していた―――

幼い頃中庭を飛び回っていた蝶を捕まえようと走り回り、お召し物が泥だらけになってまで追っかけ回した……

そしてその後、従徒のラ・ポルトに叱られ、二人共おやつ抜きにされた事も―

 

「あは…本当に懐かしいですね。」

「えぇ、本当に…懐かしいわね、ルイズ・フランソワーズ。」

昔のことを思い出したルイズはそう言って微笑んだ。

子供の頃は二人とも、将来の道とか考えず無邪気に遊んでいた。

ふわふわのクリーム菓子を取り合って喧嘩したり、ドレスの奪い合いの際アンリエッタのパンチがルイズを気絶させたこと。

それ等は全て、ルイズとアンリエッタの中では思い出と化し、二人をあの頃へと逆戻りさせた。

やがて大きくなって行くにつれ、ルイズは魔法学院へ―アンリエッタは王宮へお互い別の道を歩み始めた。

離れていた時間の分だけ、ルイズは昔のことを思い出し、どんどん微笑んでいく。

一方で微笑んでいるルイズとは真逆にアンリエッタの顔は憂鬱な物となっていた。

まるで後数日であの世へと旅立ってしまうような…そんな感じを醸し出している。

「ホント…あの頃は何の悩みもなく、毎日が楽しかったわ…。」

「姫さま…?どうかしたのですか。」

ルイズはアンリエッタの顔をのぞき込んだ。

そんなルイズを気遣ってか、アンリエッタは精一杯顔を明るくしようとするが…逆にもっと暗くなってしまった。

だがしかしそれに気づくこともなく、彼女は幼馴染みにこれからの事に関する事を伝えた。

 

「実は私…近い内にゲルマニアの皇帝と結婚することになったのよ。」

 

ルイズはアンリエッタの口から出てきた言葉に即座に反応し、驚愕した。

「えぇ!あ、あのゲルマニアのこ、皇帝とけけけけ、結婚ですか!」

ゲルマニアと聞き、隣にいるキュルケを思い浮かべ、ルイズは信じられないという風な顔をする。

「あんな実力主義者と利害の一致で出来た野蛮な国に姫様が嫁ぐなんて…。」

少々言い過ぎかも知れないが間違ってはいないので誰も咎めることは出来無い。

 

 

 

ここで少し説明を入れてみよう。

 

ゲルマニアは長きにわたるハルケギニアの歴史の途中で生まれた国である。

ガリア、ロマリア、アルビオン、そしてトリステインと比べればその歴史は余りにも浅い。

そして特徴的なのが「力か金があれば平民でも領地が持て、貴族になれる。」という事である。

常に新しい道を進んで歩むゲルマニアはそれで国力を蓄え気づけばガリアと肩を並べるほどの大国となっていた。

だがそんな実力主義をトリステイン等の貴族達は「メイジでなければ貴族であらず」と、厳しく批判した。

まぁ最も、それが原因でトリステインは国力を上げれず小国として収まっているのであるが…。

 

では、ここら辺でこの話は置いておくとしようか。

 

 

 

「しょうがないのです…何せ今はとんでもない事になっているのですから…。」

アンリエッタはそう言い、ベッドに腰を下ろしてため息をついた。

今回のゲルマニア皇帝との婚姻は、とある事情で決定が下されたのである。

「とんでもない事…?一体それは…何なのですか?」

ルイズはがアンリエッタに問うと、彼女は口を開き、事情を説明しだした。

 

―――ガリア、トリステイン、アルビオン。

三つある王権の内一つであるアルビオンでどうやら貴族達による内乱が起こったらしい。

王党派の者達は死にものぐるいで抵抗しているらしいが多勢に無勢で、近いうちに滅ぶと王宮の者達は言っているようだ。

そして王党派が倒れればアルビオンの貴族派の者達は間違いなくこの小国へ攻め込んで来るに違いないと予見したらしい。

アンリエッタはそれを聞き、仕方なく枢機卿やその他の者達の薦めでゲルマニアの皇帝へ嫁ぐ代わりに同盟を結ぶことになった。

 

「なるほど…その様な理由で婚姻を結んだのですか…。」

ルイズは納得したようにそう言うとイスに腰掛け、大きなため息をついた。

かつて自分と共に遊んだ少女は、政治の道具と化していたのだから。

最初の時とは打って変わって沈痛な雰囲気の部屋でアンリエッタがふと口を開いた。

「でもその同盟が、もしかしたら私のたった一つの過ちで潰えるかもしれないの。」

「なっ…!?」

彼女の口からでた言葉にルイズはイスから素早く立ち上がった。

一体アンリエッタはどんな過ちをしたのだろうか…?

ルイズはアンリエッタの傍によると彼女の横に座り、肩を掴んで顔をのぞき込んだ。

「それは一体どんな過ちなのですか?教えてくださりませんか…姫様。」

彼女の言葉にアンリエッタはハッとした顔になると両手で顔を覆ったた。

 

「あぁ今私はとても危険なことを言おうとしたわ…私にはもう信用できる人物があなたを入れて数人しかいないというのになんて事を!!」

 

アンリエッタはそう叫ぶとそのまま床に崩れ落ちた。

そんな幼馴染みを見たルイズはアンリエッタを優しく抱きしめた。

 

「姫さま、どうかこの私めに聞かせてください。私たち友達でしょう?その絆を今確かめずに何と致します!?」

 

取り乱すアンリエッタに、ルイズも半ば叫び声のような感じでそう言った。

幸い部屋の壁はちゃんとした防音仕様のため、聞こえることは無い。

それを聞いたアンリエッタは少しおとなしくなるとルイズの手を借りて立ち上がり、再びベッドに座り込んだ。

ルイズも一息つき椅子に座ると、アンリエッタは喋り始めた。

 

「正直、これは私自身が片づけるべき問題…そんな事の為に他人を使いたくは無いと思ってるの。

 けど…もう今の私にはどうしようも出来なくなってしまって他の誰かに頼まざる得なくなったわ。

  …先程話していたアルビオンとの内乱、その二つの派閥の内王党派に属するプリンス・オブ・ウェールズ。 

    その彼に、ある「手紙」を送ったことがあるのよ…。使いようによっては、ゲルマニアを憤慨させるほどの力を持った。」

 

ルイズはそれを聞き、目を見開いた。

ウェールズ…その人物は現アルビオン王、ジェームズ一世の息子。

アンリエッタとは血縁上、従姉妹に当たる人物でもある。

ルイズも一度、ラグドリアンの湖で行われたパーティーで顔を見たことがあった。

パーティー自体は三年前の事ではあるが当時のルイズも美しいとさえ思った程の美男子だった。

そんな華麗な皇太子にしたためた、「ゲルマニアを怒らせるような手紙」とは一体どんな内容が書かれているのだろうか。

 

ルイズはそれが少し気になったが、アンリエッタの表情を見ているとどうもそれが聞き難い。

「そして、貴族派の者達の手にその手紙が渡るよりも早く…誰かがその手紙をウェールズ皇太子から受け取らなくてはならないの…。

 戦場と化している白の国に単身乗り込み、尚かつ私を裏切るという行為をしない忠誠心を持った者を…。」

 

そこまで聞き、ルイズは全てを悟った。

もしかすると…アンリエッタがこの部屋に来た理由、それはもしかして…。

 

「では、この重要機密を聞いた私は…アルビオンへと行き、手紙を取ってくるのですね?」

ルイズの言葉を聞いたアンリエッタは一瞬ポカンと口を開けたが、すぐに気を取り直すように頭を横に振るとスクッと立ち上がった。

自然とルイズも席を立ち、地面に膝をつくと頭を下げた。

アンリエッタは一度目を瞑り、決心したかのように開けると口を開いた。

 

「ルイズ・フランソワーズ…、この私アンリエッタ・ド・トリステインからの仕事を引き受けてくれないかしら?」

ルイズは今この瞬間、幼馴染みとしてではなく、王女としてのアンリエッタから重大な任務を言い渡された。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

「はい、どうぞ。」

シエスタは、丁度良く冷えたタオルをジーッと天井を見つめている霊夢の前に差し出す。

それを霊夢は手探りで受け取るとタオルを鼻の上にかぶせるとシエスタにお礼を言った。

「有り難う、助かったわ…。」

霊夢は軽く鼻を押さえ、なるべく鼻血が出ないように四苦八苦している。

先程までお風呂に入っていた霊夢は色々頭の中で考えていたせいか、いつの間にか鼻血を出してしまっていた。

とりあえずルイズの部屋へ帰るよりも、まずは鼻血を止めようと乾いた服を急いで着て近くにあった厨房へと寄ったのだ。

 

「ハッハァッ!レイム、お前ボーッとし過ぎてのぼせちまったんじゃないのか?」

「アンタにはそう見えても、私も結構色々考えてるんだけどね…。」

霊夢の近くにいたマルトーが頭に被っていた帽子を机に置いてそんな事を言った。

それに対し霊夢は少し苦虫を潰したような顔をして返事をする。

だがそんな顔も厨房の灯りを消し、暗くなった厨房の奥へと入っていくマルトーの目には届かなかった。

「でも凄いですよね、自分でお風呂を作るなんて…というかあんなに簡単に作れるとは思いませんでした。」

霊夢の横に座っているシエスタが感心したように呟いた。

シエスタ達学院で働く平民や衛士達のお風呂といえば、ほぼサウナと言って良い代物である。

 

それから少しして、霊夢の鼻血も大分引いてきた時。

厨房の奥に入っていたマルトーが一本のワインボトルとコップを両手で大事そうに抱えて戻ってきた。

「さてと…明日の仕込みも全て終わったし…酒を嗜む時間とするか!」

そう言ってマルトーは机に置いていた自分の帽子の横にそのボトルを置きイスに座った。

やっと頭を下げれるようになった霊夢がそのボトルの中身を見て目を細める。

「就寝前に一杯とはね…伊達に料理長とかやってないわけね?」

霊夢のその言葉にマルトーはガハハと笑うと口を開いた。

「当たり前だ!それに、風や水の魔法が使えるメイジ共はいつでもワインが飲めるよう部屋に置いてんだ。

 それに比べ俺達給士なんかは夜中にこっそりバレないよう飲んでるんだぜ?」

 

「ふ~ん…じゃあ私も一杯頂こうかしら。丁度何か飲みたかったところだしね。」

「おぅよ、じゃあ待ってろ。コップをもう一つ持ってくるぜ。」

マルトーはそう言うともう一度厨房の奥へと消えていった。

シエスタはそれを見て呆れたようにため息をついてそのボトルを見つめた。

 

「全く、マルトーさんたら…夕食用のワインを飲んでるのがバレたら言及どころじゃ……って、あれ…?これってまさか……ウソォ!!」

ボトルの銘柄が目に入ったとき、シエスタは驚きの余り大声を上げて立ち上がってしまった。

そして厨房の奥から戻ってきたマルトーを見て、ボルトを指さしながらシエスタはマルトーに言った。

「マルトーさん、一体何処からゴーニュの古酒なんか持ってきたんですか!?うちの学院にはなかったはずでしたけど!」

「ハハハ!なぁに、この前貯めていた給料持って街に出かけたらよぉ…丁度市場でそいつが売られていたから買ったワケよ!」

「ごーにゅ…?なんか変な名前の古酒ねぇ。」

「まぁ名前はともかくとして結構美味だ!さぁさぁ今夜は飲むぞ!」

 

 

◆◇◆

 

 

「では…、明朝にでも出発し、アルビオンのウェールズ皇太子にこの手紙を渡す。

      そして次に姫さまが皇太子へと宛てられた手紙を受け取って欲しいということですね?姫さま。」

 

ルイズは先程アンリエッタが急いで書いた手紙を手に持ったまま向かい合ってイスに座るアンリエッタへ問う。

アンリエッタは小さく頷くと、真剣な表情でルイズに言った。

「えぇ、旅のお供には私自身で選抜した者を一人だけ付けます。その者ならばちゃんとあなたを守りきることが出来るでしょう。」

ルイズはそれを聞き頷くと、席を立ち部屋のドアをなるべく音を立てず、少しだけ開けた。

それから廊下に誰もいないのを確認するとドアを一度閉め、此方を見つめているアンリエッタに頷いた。

 

「では、そろそろ私も自分の部屋に戻ることにします。此度の任務の成功祈っているわ。ちなみに、この話は他言無用で御願いします。

 例え親しい者であろうとも絶対にこの事を言ってはなりません。よろしいですね?」

 

アンリエッタは念を押してそう言い席を立つと、部屋を出ようとする。が、ふと足を止めた。

「姫さま…?」

「忘れていたわルイズ、これをあなたに託しましょう。」

アンリエッタルイズの方へ顔を向けると右手の薬指に嵌めていた指輪を引き抜き、ルイズに手渡した。

台座部分には綺麗な水色のルビーが入っており、美しく輝いている。

「母から貰った「水のルビー」です。道中、路銀の事で悩むならば遠慮無くこれを売り払っても構いません。」

「う…売り払うだなんてそんな事、出来ませんよ。」

「いいのよルイズ、私からせめてもの贈り物として受け取って。」

ルイズはそれを聞いてとんでもないと指輪を返そうとするがアンリエッタその手を受け止め押し戻した。

渋々ルイズは受け取ると表情を引き締め、直立した。同時にアンリエッタも真剣な面持ちで口を開く。

 

「今回あなたに託した任務にはこの国の未来が掛かっています。是非ともそれを忘れず取り組んでください。

 ルイズ・フランソワーズ。先程渡した水のルビーが、あなたをアルビオンの猛き風から身を守ってくれるでしょう。」

 

ルイズはその言葉に腰に差していた杖を抜き、それを掲げてこう呟いた。

「姫殿下に変わらぬ忠誠を、ヴィヴラ・アンリエッタ。」

アンリエッタは満足したように頷くと踵を返し、ドアノブを掴もうとしたが、ふとその手が止まった。

「そういえばルイズ、貴方はもう二年生なのよね?」

「え…?まぁ、はいそうですがそれが何か…。」

「今まで気にならなかったけど、貴方の使い魔は何処にいるのかしら。」

「いっ…!?」

ルイズはその言葉にギョッとすると冷や汗が出そうになった。

 

「二年生に進級するには使い魔を召喚しなければいけないのでしょう?なら貴方が二年生になったということは貴方は使い魔を…

 貴方、昔良く失敗魔法ばかり出してお母様に怒られていましたね。やはり人間成長するというもの…」

 

そんなルイズとは裏腹に、アンリエッタの口からはどんどんと言葉が飛び出してくる。

今ルイズが召喚した霊夢は入浴してくるといって部屋から出たままだ。

だが、今この部屋にいなかったのはある意味良かっただろう。

もし部屋にいたら、きっと遠慮の無い発言をアンリエッタに投げかけていたに違いない。

あるいは無視を決め込んでいたかも知れない…

「い、今私の使い魔はそ…外に…。」

ルイズは必死に作り笑顔をしながら言った。

運良くアンリエッタはその作り笑顔には気づくことはなかった。

「あら、そうだったの?この目で見たかったけど…残念だわ。じゃ、また逢える日を…。」

「……はい、この任務。必ず成功させて見せます。」

アリンエッタがそう言い、ルイズがそれに答えるとアンリエッタは部屋を出て行った。

 

 

 

 

やがて時間も過ぎ、太陽がいよいよ顔を出そうとしている時間帯。

学院の正門近くに植えられている草むらに一匹のジャイアントモールがひょっこりと土の中から顔を出していた。

このジャイアントモールの名はヴェルダンデ。れっきとした使い魔である。

そのヴェルダンデが土から顔を出してから数分が経った後、草むらをかき分け自分のご主人様がやってきた。

明らかに可笑しいデザインのシャツを着込み、ナルシスト的な雰囲気をこれでもかと放つ金髪の男子生徒である。

彼は両手になにやらモゴモゴと蠢く革袋を抱えており、ヴェルダンデがそれを見て目を輝かせた。

「やぁヴェルダンデ。今日もお腹を空かせているね。待ってろよ、今すぐ腹一杯喰わせてやるよ。」

ヴェルダンデの主人、ギーシュ・ド・グラモンはそう言うと袋の口を閉めていた紐を解き中身を地面にぶちまけた。

そこからやけに大きめなミミズがどばどばと地面に落ち、クネクネと地面を這い回っている。

ミミズの大群を見たヴェルダンデはヒクヒクと鼻を動かすと口を開きミミズの群れにかぶりついた。

 

ギーシュはそんなヴェルダンデの姿を見てウンウンと満足そうに頷くと、ヴェルダンデの傍に何やら光り輝く物を見つけた。

それは色とりどりな宝石や鉱石であった、ギーシュは何十個もあるそれの内一つの鉱石を手に取った。

『土』系統のメイジである彼にはこれら全て上質な素材であり、ヴェルダンデは良き協力者である。

「これは中々良い代物じゃないか、良くやってくれたねヴェルダンデ!」

ギーシュはそう言うとヴェルダンデに抱きついた、ヴェルダンデ自身もそれを悪く思わずヒクヒクと鼻を動かしている。

そんな風にヴェルダンテとギーシュが抱き合っていると、ふとヴェルダンテが顔を別の方へと向けた。

「ん?どうしたんだいヴェルダンデ…。」

ギーシュがそんな風に尋ねるとヴェルダンデは鼻を正門がある方向へと動かしている。

何かと思い、ギーシュは草むらをかき分け、顔だけ出して何があるのか見てみることにした。

 

ギーシュの目には、大きな旅行用鞄を手に持ったルイズが正門前に佇んでいた。

彼女の傍には、本来居るはずの自分を負かした霊夢がいない事に気が付く。

「あれはルイズの奴じゃないか…一体どうしたんだ?旅行用の鞄なんか持って。」

まさか退学?かと思ったが思い当たる節はあるものの…それ程酷くは無いはずだ。

それに霊夢が近くにいないのは一体どういう事なのだろうか…?

ギーシュがそんな風に考えていると、ふと朝靄がかかった空から一匹のグリフォンが舞い降りてきた。

よく見るとその背中には羽帽子を被った貴族を一人乗せており、グリフォンが着地したと同時に乗っていた貴族もグリフォンの背から降りた。

スラリと伸びた体に無駄のないプロポーション、そして羽織っているマントにはグリフォンを形取った刺繍。

それは間違いなく魔法衛士のグリフォン隊が愛用するマントだ、ギーシュは思わず声を上げそうになった。

(グリフォン隊の衛士がこの学院…というよりルイズにいったい何の用があるんだ?)

途端にギーシュは興味津々になり、今まで以上に気配を殺しながらその様子を観察し始めた。

 

ルイズと向き合うように地面に降りたグリフォン隊衛士は何か言いながら頭に被っていた羽帽子を取った。

そこから現れたのは、長い口ひげが凛々しい精悍な顔立ちの若者であった。

ギーシュははその顔を見て、今度は立ち上がりそうになったがそれをなんとかして堪えた。

ルイズはその顔を見て頬を僅かに赤く染めると嬉しそうに話しを始めた。

彼にはとても信じられなかった、あのルイズが…まさかあんな出世街道まっしぐらの男と親しいだなんて…

その後二人が何か話し合った後、グリフォン隊衛士はグリフォンに跨ると旅行鞄を手に持ったルイズへ手を差し伸べた。

ルイズはその手を恥ずかしそうに掴み、グリフォンの背中に乗ると、グリフォンはあっという間に学院とは反対方向の、朝靄が漂う森の中へと消えていった。

 

やがて辺りは呆然としているギーシュと嬉しそうにミミズを食べている自分の使い魔しかいない。

まるでルイズとあの男が最初からただの幻想だったようにさえ思えて。

だがギーシュはちゃんと見ていた、あの男の顔を…素晴らしい才能を持ったあのグリフォン隊隊長を。

 

「ま、まさかあのルイズが…ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド殿と親しい間柄だったなんて…。」

 

ギーシュは目を丸くし、信じられないといった風に呟いた。

 

 

 

 

今朝、博麗 霊夢は起きて直ぐに隣で寝てるはずのルイズがいないことに気が付いた。

昨晩はマルトーと一杯…のつもりが何杯も飲んでしまい結局ほろ酔い気分で寝巻きに着替えてベットに入った。

その時のルイズはベッドの中で寝息を立てて寝ていたのはちゃんと記憶の中にある。

「一体あいつ何処に行ったのかしら…。」

霊夢はそんな事をぼやき、ベッドから出て窓を開けた。

今日は朝靄が掛かっているためか、窓越しに見える朝日の輪郭も曖昧でハッキリと分からない。

とりあえず霊夢は以前掃除の際クローゼットの中から見つけた余計なフリルがない寝巻き―ルイズは「なんで買ったのかわからない」と言っていた。――を脱いだ。

下着姿になると丁寧にたたんでテーブルの上に置いていた自分の服を手に取り、それに着替える。

いつもはあるはずの洗濯物は今日に限って無く霊夢はとりあえず顔を洗おうと水汲み場に行こうとした時、ある事に気が付いた。

「鏡台の近くにあったあの大きな鞄…あった筈よね?」

いつもルイズが旅行用にと買い、鏡台の近くに置いていたあの鞄が無くなっているのに気が付いた。

霊夢はそれに疑問を感じたが、まぁ何処か別の場所に置いたのだろうと思う事にし窓から身を乗り出すとそのまま水汲み場の方へと飛んでいった。

 

 

 

その頃、学院長室にはオールド・オスマンとコルベール…そしてアンリエッタ王女がいた。

オスマンとコルベールの二人は朝早くアンリエッタに起こされ、ルイズが受けた任務の事を聞いてからずっと沈黙していた。

だが、ふとオスマンが大きなため息をつくとアンリエッタの方へ顔を向け口を開く。

「ふぅむ…まさか我が校の生徒がそんな危険な任務に就くなどとは…この老いぼれは思いもしませんでしたわ。」

 

「ですがあの娘には古き良きヴァリエールの血と、私への深い友情があります。

 それに、ワルド子爵は王宮での唯一の信頼できる者であり彼女の婚約相手です。私に出来ることは成功を祈ることだけです。」

 

アンリエッタが申し訳なさそうに言うと、次いでコルベールが喋り始めた。

「それ程言うからには王宮内では相当な事になっているでしょうか?噂では色々と不穏分子がいると聞きましたが…」

 

「えぇ…今回のアルビオンに現れた反乱分子『レコン・キスタ』は貴族だけで国を支配しようと言う者達の集まり。

   忠誠よりお金を愛する者どもには丁度良い拠り所でしょう。」

 

 

アンリエッタはそう言い終えると傍らに置いていた白い包みをテーブルの上に置いた。

「それとこの本を…学院に寄贈しようと思いまして。」

それに興味を示したコルベールはその包みを解き、その本を手に取り、怪訝な表情をした。

「この本はいったい何なのですか?見たところ、文字のようなモノが書かれていますが…。」

本の表紙にはこのハルケギニアに住む者にとっては見たことのない『文字』が書かれているのだ。

「以前私が幼い頃にアルビオンへ赴いた時に記念にと取ってきた物です。この通り表も中も見たことのない異国の文字で書かれておりまして…」

ペラペラとページを捲るコルベールにアンリエッタは説明を入れた。

やがて最後のページまでくるとコルベールはパタンと本を閉じ、再びテーブルの上へと置いた。

「それと何やら悪魔に似た形の者や異形の絵も描かれているのです。特に大した思い出もないので、好きにしても構いませんよ。」

 

 

そう言い終えた直後、ドアの外から見張りをしている衛兵の怒鳴り声が聞こえてきた。

(…だから無理だと言ったら無理だ!この部屋に入るにはちゃんとした許可が…グエッ!)

何かを強く叩いた様な音が聞こえた後、霊夢が御幣片手にノックはおろか挨拶すら無しにドアを開けて部屋に入ってきた。

アンリエッタは部屋へ入ってきた霊夢がメイジが一見すれば細長い杖の様な形をした御幣を持っているのに気づき、急いで水晶の付いた杖を向ける。

「何者!?この王女の目の前で無礼な真似働くことは……」

「はぁ?何言ってるのよ…役者にでもなりたいわけ?まぁそれよりも…」

霊夢はまるで狂言者を見るような目でそう言い。アンリエッタはその言いぐさに心底驚愕した。

今までそんな言葉で話しかけられたことが無かったからだ。

一方でオスマンとコルベールはというと霊夢の姿を見て「なんでここにいるの?」と、言いたげな目をしている。

霊夢はそんなオスマンの方へと顔を向け目を鋭くさせると口を開いた。

 

「ちょっと、ルイズの朝食どころかなんで私の朝食もないのよ?

 給士から聞いたら「学院長の命令でして…」って言われたからわざわざこんな所まで来る羽目になるし…。」

 

霊夢に警戒していたアンリエッタはふと少女の口から出た親友の名前にハッとした顔になり、少女に話しかけた。

「ルイズの名前を知ってるのね貴方?ということはルイズの友達か親友のお方かしら…?」

「イヤ、あんな奴の友達になった覚えは微塵もないわ。」

霊夢はそう言うとアンリエッタの方へと鋭く光る瞳を向けた。

アンリエッタはその瞳を見て、口の中に溜まっていた唾液を思わず飲み込んでしまった。

先程の王女に対するものとは思えない言動と言い、今まで見たことのない気配を発する瞳を見てうら若き王女は目を丸くする。

「貴方は一体…」

アンリエッタは平静をなんとか保ちつつも霊夢に自己紹介を促した。

「私は博麗 霊夢。何の因果かルイズに召喚の儀式とやらで否応無しでこんな所に呼び寄せられた被害者よ。」

「ハクレイ…レイム?…ひょっとしてあなたがルイズの使い魔……キャッ!」

「使い魔にもなった覚えも無いわ。どいつもこいつも私を見たら使い魔使い魔って…。」

迂闊にもアンリエッタがそう言うと、霊夢は愚痴をこぼしながら遠慮無く自分の身長より少し高めの御幣の先でアンリエッタの頭を叩いた。

それを見た他のコルベールはこれ以上ないと言うほど驚くと、急いで霊夢の御幣を持ってる方の手を掴んだ。

「いけませんミス・レイム!この御方は先王の形見であるアンリエッタ姫殿下ですぞ!そんな無礼なことをしたら…」

「あんりえったぁ…?あぁ、ひょっとしてコイツが昨日シエスタの言っていた…」

 

一人納得した霊夢は御幣を下ろし呟くとアンリエッタは叩かれた場所さすりながら口を開いた。

「どうやら私を見るのは初めてのようですね。私はアンリエッタ・ド・トリステイン、この国の姫殿下であり、ルイズ・フランソワーズの幼馴染みよ。どうかお見知りおきを…」

アンリエッタはそう言うと優雅にお礼をしたが、霊夢はそれを白けた目で見ていた。

「な、何をしているのです!ホラ、あなたも頭を下げてください!」

「何で私がそんな事するのよ?あっちが勝手にしただけじゃない。」

コルベールはそんな霊夢を見て更に目を丸くすると急いで霊夢へ耳打ちをする。

だが霊夢は自分が悪くない風にそう言うとアンリエッタは頭を上げて二人へ話しかけた。

「いえいえ気にしなくても良いですよ。そもそも人間が使い魔になるという事が可笑しいものですよね。とても酷いことを言ってご免なさい。」

「あっそう。…全く、ルイズの奴もとんだ変わり者の幼馴染みを持ってるわね…って、ん…!?」

アンリエッタの言葉に霊夢はうんざりしたようにそう言うとテーブルに置かれていた本に気が付き、驚愕した。

 

 

霊夢はその表紙に書かれていた『文字』を見て急いで本を手に取った。

アンリエッタとオスマンはその時、霊夢が真剣な目つきで本のページをどんどん捲っていく。

ページが捲っていく度に霊夢の顔はどんどん険しくなり始め、そしてバタン! と大きな音を立てて本を閉じると再びテーブルに置き、アンリエッタの方へ顔を向けた。

「この本って、何処で手に入れたの?」

「………あなたには、その本に書かれた文字が読めているのですか?」

「まぁね……で、私はこの本を何処で手に入れたのか聞いてるんだけど?」

「何ですって!?」

「何と…!」

霊夢の質問にアンリエッタは質問で返すが。霊夢はそれにあっさり答えた。

その答えに、オスマンとコルベールは驚いたが霊夢は一度同じ質問をアンリエッタに投げかける。

アンリエッタは一瞬躊躇うような表情になるが首を振ると霊夢の質問に答えた。

「この本は子供の頃に、アルビオンの…確か、ニューカッスル城で手に取ったような記憶が…。」

「そう、アルビオン…ね。」

霊夢はそう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。

 

 

机に置かれた異国の文字で書かれた本――それは今のところ霊夢にしか読めないだろう。

転生を繰り返す家系の者によって作られた幻想の存在や神秘の秘境を明確に記した本。

――それは、霊夢のいた場所では「幻想郷緑起」と呼ばれる物である。

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