ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第二十四話

霊夢が部屋から出て行った後、ウェールズもしばらくしてパーティーに戻ろうと部屋を出て廊下を歩いていた。

こちらを空から睨み付けている「レキシントン号」の砲撃で壁のあちこちにヒビが入っている。

城の中ですらこのような凄惨たる状況なのによく今まで持ち堪えたな、とウェールズは一人思った。

やがてパーティーで騒いでいる者達の声が聞こえてきた時、ふとウェールズは懐にしまっていた手紙を取り出した。

それはつい数時間前にルイズから受け取ったアンリエッタの手紙であった。

ウェールズは白い封筒を暫く見つめ、誰もいないのを確認すると封筒を開けてもう一度読み始めた。

手紙の下の隅にはトリステイン王国の印である百合の花押があり、王家の者が直々に書いたことを証明している。

最初にこの手紙を自室で読んだとき、ウェールズは苦悩したのだ。

それ程にこの紙に書かれた内容は彼の心を揺さぶったのである。

 

手紙の内容はアンリエッタが持つウェールズへの恋心についてであった。

彼女はゲルマニア皇帝との結婚が間近に迫っていたが、正直に言うと嫌なのだという。

それでも彼女は自分がただの政治の道具だという事を自覚はしていたが、それでも不満はあった。

彼女は軽い挨拶文の次にそんな事を書いていた。

次にアンリエッタはウェールズに亡命を勧める言葉を書いていた。

愛する者を残し、一人過ごす女性の寂しさを知らないのかという事を…。

正直ウェールズはこの文を読んでいて不覚にも涙がこぼれそうになったのだがなんとか堪えた。

 

ウェールズは出来ればアンリエッタのもとへ行きたかった。そして共に笑いたかった。

しかしこの戦いが全てを引き裂こうとしているのだ。もうどうしようもない状況なのだ。

もしもこの手紙が今よりもっと早い時期に届いていれば、ウェールズもそれに従っていただろう。

トリステインへと行き、事の重大さを伝えればトリステインが援軍を送ってくれていたはずだ。

だがそれももう出来ない、もはやアルビオン王家とそれに付き従う者達は敵に追いつめられて背後の崖に転がり落ちるしかないのだ。

 

(それとも、敵に一太刀浴びせて死ぬか…だな。)

心の中でそう呟いたとき、ふと後ろから足音が聞こえてきた。

すぐに手紙を封筒に戻し懐にしまい直すとウェールズは後ろを振り返った。

そこにいたのはピンクのブロンドヘアーが真っ先に目に入る少女、ルイズだった。

「どうしたんだい、ミス・ヴァリエール?」

「実はその…レイムを捜していまして。」

ルイズが言った聞き慣れない名前にウェールズは一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐに元に戻った。。

「レイム…?あぁあの少女のことか、仮眠室に泊まりなさいと言ったのだけど…帰ってきてないのか?」

仮眠室はルイズが今夜寝泊まりする部屋の隣にある、ウェールズの自室からもそれ程離れてはいない。

だからもうとっくに部屋に帰っているころだろうと思っていたが…。

「いえ、少し話したいことがあるから何処にいるのかと思って捜していたのですけど…。」

そう言うルイズの顔は段々と赤くなっていくのに気が付き、ウェールズはクスッと微笑んだ。

「フフ、どうやらワルド子爵のプロポーズを受け取っていたようだね。おめでとう。」

ウェールズの言葉に、ルイズの頬がポッと紅潮した。

「なっ…ななななな、何を言うんですかウェールズ様、そんな――――」

 

 

バ チ ン…!

 

その時、突如別の場所から変な音が聞こえてきた。

まるで空気を膨らまし、一気に弾けさせるようなその音にウェールズは目を鋭くした。

「うぇ…ウェールズ様、今の音は一体…?」

不安そうな表情でルイズがウェールズに話し掛けた。

「今の音はライトニング・クラウドだ…もしや敵の間諜か!」

ウェールズはそう言うと杖を抜き、音が聞こえてきた方向へと走り出した。

ルイズもハッとした顔になり急いでウェールズの後を追った。

 

二人がたどり着いた場所は中庭のすぐ近くであった。

ウェールズは後ろからついてきたルイズをすぐ隣に待機させると聞き耳を立てた。

ルイズは「誰かいたんですか?」と言おうとしたが、ウェールズがそれを手で制止した。

「静かに…誰かが喋っているようだ。…これはワルド子爵の声だ。」

その言葉にルイズは少しだけ驚いた、まさかワルド子爵は敵と戦っている…?

声が小さいのか良く聞き取れなかったが、そう思った瞬間…自信満々な声がルイズの耳に届いた。

 

それは、小さな小さな彼女の無垢な心を切り裂く威力を持っていた。

 

「好きに言えよ。どっちにしろ僕は君を殺し、ルイズを利用してレコン・キスタの一員として世界を手に入れるんだ。

     ルイズと形だけの愛を結び、あの娘の体内に秘めた力を使いレコン・キスタは世界をその手中に収めるのさ!!」

 

え? え?  え ?

 

ルイズを利用する、つまり私を利用するって事。

それに形だけの愛?あんな熱烈な言葉はただの台本のセリフだったわけ?

 

ルイズの行動は素早かった。

半ば突き飛ばすような形でウェールズより前へ出て中庭へと入り――そしてまたもや唖然とした。

体中から薄い煙があがり、足をガクガクと奮わせているがそれでも尚立っている。

赤みがかかった黒い瞳は尚も力強く、ワルドを睨み付けていた。

そんなボロボロの姿になってまで相手を睨み付ける霊夢へワルド子爵は震動している杖を彼女へ突き刺そうとした。

 

「――――――― ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! 」

 

言葉にならない声と共にルイズは杖を振り下ろした。

何の呪文を唱えたかはわからないが、結果にしろそれは霊夢を助けることとなったのである。

 

 

 

そして時は現在に戻る――――

双月の光が照らす中庭で、ワルドは顔を真っ青にしていた。

(なんてことだ、よりにもよってルイズに見られてしまうなんて…。)

もしもウェールズやルイズ以外の連中なら問答無用で殺したのだがルイズは殺してはいけない。

 

数週間前…。

クロムウェルの秘書であるシェフイールドという女からとある任務を言い渡された。

 

『ルイズの体内には、本人さえ自覚していない未知の『力』を宿している

   絶対に殺してはならない、生け捕りにしてレコン・キスタに連れてこい

          恐らくアンリエッタがルイズに対し何かの任務を与えるようだ

            そこを狙って自身は護衛としてルイズに同伴し、うまくこちら側に引き込め。』   

 

当初自分はその言葉に半信半疑であったが、良く考えれば確かにそうかもしれないと今更ながら感じてしまう。

ルイズは確かに他のメイジとは違い、発動する魔法が全て爆発となってしまう。

自分がまだ若い頃にその魔法を見たときはたんなる失敗魔法かと思ったが、今考えれば…あれこそルイズの持つ『力』なのだ。

思いもしない場所が爆発するというのは人間や動物に対して有効な攻撃であり、精神的ダメージも狙える。

もしもあの爆発を意のままに操れるとしたら、それこそ並の魔法よりか遙かに凶悪である。

そしてワルドは最もレコン・キスタに近いこの宮殿でルイズを我がモノにし、レコン・キスタに献上しようと画策していたのだ。

 

しかし、いよいよ任務開始という時にさらなる指令がシェフィールドを通じて入ってきた。

 

『ルイズの傍には紅白の変わった服を着た黒髪の少女がいる。

そいつもまたルイズとは違うが未知の力を使い、お前が勧誘したフーケを倒している。

恐らく今回の作戦に関して確実にレコン・キスタの驚異となる可能性がある。

貴殿はもてる力を持って、その少女を排除するか生け捕りにし、レコン・キスタを守れ。

これはレコン・キスタ幹部一同からの重大な指令である、心して掛かるのだ。

尚、生け捕りにした場合は秘書官であるこの私に渡すように。』

 

その指令に、ワルドは少し大げさなのでは…と思っていた。

しかし、フーケとラ・ロシェールの町で合流し、紅白の少女「霊夢」についての話を聞いて目を丸くした。

話に寄ればその少女は『フライ』では真似出来ないような高度な飛行能力を持っているらしい。

更には巨大な光弾を出したり瞬間移動(当初ウソかと思っていた。)をしたりするというのだ。

とりあえず、自らの力に絶対的自信を持つワルドは自分の『遍在』に相手をさせることにした。

 

結果…ワルドは霊夢への評価を180度変えることとなった。

呆気なく『遍在』を倒した後、霊夢はシェフィールドの言ったとおりアルビオンへと向けて飛んでいった。

まさか船や風竜を使わずして簡単にたどり着けるわけがないと思ったワルドはまたしても驚くこととなった。

なんといつの間にか『イーグル号』の中に霊夢がいたのである。

(ま、まさか…あの時ブルドンネ街でルイズの傍にいた少女だったとは…。)

顔には出していなかったが、内心ワルドは驚愕していた。

 

そして完璧に油断してはいけない相手として霊夢を認識し、不意打ちをすることにしたのだ。

不意打ちならば一撃で葬れる可能性があり尚かつ自分は暗殺に長けている。

(僕は閃光のワルド、この世に僕ほど素早い者は存在しないのだ!)

しかしその過信はあっさりと崩れ、今のような状況に至る。

 

 

ウェールズはワルドの方へ杖を向けつつも霊夢の傍へと寄った。

「ミス・レイム、大丈夫か?」

「まぁなんとか…ってところかしら。」

先程ライトニング・クラウドを喰らった霊夢はと言うと、受けたダメージがほんの少しだけということもあって既に立ち直っていた。

それもこれもワルドが思い切り見開いた目でルイズを見つめていてくれたおかげである。

見つめられているルイズはと言うと、涙ぐんだ目で思いっきりワルドを見つめていた。

霊夢はその光景を見つつも暢気に肩を軽く回しながらウェールズに話し掛けた。

「ねぇ、一体何がどうなってるの。あの男にいきなり不意打ちを喰らっただけでアンタたちまで来るなんて。」

「え?まぁ詳しく説明している暇はないが、実はミス・ヴァリエールとワルド殿は明日結婚する予定で…。」

ウェールズのその言葉を聞き、霊夢は目を細めるとワルドの方へ顔を向けた。

そして頭の中で先程言っていたワルドの言葉を思い出し、嫌な気分になってしまった。

「要は自分の欲望のためだけに他人を利用しようとしてたわけね…。」

霊夢の口から出たその言葉に、ワルドが即座に反応した。

「いや、違う!僕は自分の夢が叶えられればその後にルイズを愛す――」

「アンタ、変な嘘をつく暇があるなら素直に逃げたらどう…?」

ワルドの言葉を遮り、霊夢が呆れながらもそう言った瞬間、ワルドの足下が突如爆発した。

爆発のショックで吹き飛ばされたワルドは地面に叩きつけられ、すぐに起きあがった。

起きあがったとき、目の前にはいたのはルイズであった…充血した目で強く睨み付けているルイズが。

 

「自分の夢が叶えられれば私を愛する…ですって?」

 

ルイズはポツリそう呟くと、一歩足を前に出す。

 

「ワルド子爵…貴方は鶏のように三歩歩いたらさっき言っていた事を忘れてしまうようですね。」

 

更にもう一言呟くと、ルイズの体がプルプルと震え始めた。

 

ワルドは本能的に身の危険を感じ、後ろへ下がろうとしたが背後には用水路がありこれ以上は無理だ。

逃げ場が無いことを知ったワルドはならば屋根に飛び上がろうと呪文を唱え始めるが、それより先にルイズが杖を振り下ろした。

 

「 形 だ け の 愛 な ん て 私 は い ら な い の よ ! 」

 

その叫びと共に閃光がほとばしり、ついでもの凄い爆発と共に中庭は煙に包まれた。

ルイズの放った爆発をまともに喰らったワルドは勢いよく用水路に突っ込んだ。

反射的に結界を張っていた霊夢は爆発を喰らうことはなかった。

ウェールズも結界の中に入っていたため、ただただ突然の爆発に目を丸くしていた。

煙が晴れた後、爆発を起こしたルイズは杖をしまい用水路の方をジーッと睨み付けていた。

 

そして、ホールで未だにパーティーを楽しんでいる貴族達はというと、

飲んだり食ったり踊ったりで忙しいのか、外からの爆発音に気づく者は誰一人いなかった。

 

 

 

一方、ニューカッスル城の前に布陣しているレコン・キスタの陣では…。

「一体どういう事なのですか?我々はそのような命令は承っていませぬが…。」

レコン・キスタ軍の将であるボーウッドは今目の前にいる先程シェフィールドの口から放たれた言葉に目を丸くしてそう言った。

対してシェフィールドはそんな彼に冷たいまなざしを向け、もう一度口を開く。

「とにもかくにも、これはクロムウェル殿からの命令よ。今すぐニューカッスル城を攻撃しなさい。」

繰り返し言われた秘書官からの言葉に、ボーウッドは眉を顰める。

 

――――事は時を遡り、ほんの少し前。

クロムウェルの秘書官がボーウッドに用があると言ってやって来た。

ボーウッドはその時、同僚であるホレイショや士官達と一緒に飲んでいたところである。

そんな時に用事とは何事かと思ったが、レコン・キスタ指揮官の秘書を追い出すのは失礼かと思い、彼女と会うことにしたのだ。

シェフィールドはボーウッドが顔を出したのを見て、早々に口を開いた。

「緊急命令よ、配備された新型の大砲でニューカッスル城を攻撃。その後全軍を動員して王族派を殲滅しなさい。」

そして時は今に戻る――――――

 

秘書官から伝えられた突然の指令に、ボーウッドは疑問に思っていた。

何故なら現在ニューカッスル付近で展開している部隊だけでもあの城はすぐに落とせる。

王族派に荷担する者達も残り僅かであるし、城壁は遠距離からの砲撃でボロボロなのだ。

そんな風前の灯火同然の城をなんでわざわざ今から攻撃を行う必要があるのか…

軍人ならば与えられた命令には素直に従うものだが、これはあまりにも突然すぎた。

しかし、命令は命令である。ボーウッドはそれに素直に従うことしか出来なかった。

 

「…了解しました。では暫しお待ちを、――――――伝令!」

ボーウッドはシェフイールドに敬礼をし、すぐさま伝令を呼び出した。

 

 

 

再び場所は変わってニューカッスル城。

裏切り者だったワルドをとりあえず吹き飛ばしたルイズは怒っていた。

二年生になってから、良いことなんて指で数えるほどしかない。

霊夢の所為で怒って痛い目に遭わしたくても逆にこちらが痛い目に遭うこともあった。

更には遠慮無く自分を人質としてとっていたフーケを攻撃したり、皇太子に礼儀を払わない。

そしてなによりも、今まで片思いだったワルド子爵に裏切られた事が何よりも屈辱であった。

人を平気で利用とした男の許に嫁ぐなんて事はまっぴら御免である。

 

今中庭には霊夢とルイズの二人だけであった。

ウェールズはというとこの事を知らせるべく詰め所の方へ行ったきり戻ってこない。

霊夢の方は何故だか知らないが先程からずっと空を見上げている。

もしも彼女がこの場に来ていなければ自分はあの男と結婚していただろう。

そう思った途端にルイズはお礼が言いたくなってしまった。

いざ口を開こうとしたとき、彼女の左手の甲に何かが刻まれているのに気が付いた。

それはボンヤリとしていてハッキリと見えない。

しかし、見る者が見ればそれは使い魔のルーンだとわかる。無論、ルイズは見る者の方である。

「ちょっとレイム、左手のソレって…!」

ルイズはそのルーンを見て驚いてしまった。

何せ今まで全然現れなかった使い魔のルーンが今にして出てきたのである。

コントラクト・サーヴァントから少し時間をおいてから使い魔のルーンが刻まれる…勿論そんな前例は聞いたことがない。

「いきなり何よ?少し驚いたじゃないの。」

自分の名を呼んだ少女を嫌な目で睨み付けながら霊夢はそう言った。

「こっちの方が驚いたわよ!左手のソレ…使い魔のルーンじゃないの!」

ルイズのその言葉に霊夢はハッとした顔になると自分の左手の甲を見やる。

「え…?あぁ、やっぱりこれってそういうモノだったのね。」

 

うんざりしたかのように霊夢がそう言ったとき…!

 

ド オ オ オ オ オ オ ォ ォ ン ! 

 

その直後、何処からかもの凄い音が聞こえた。

ついで中庭から見える城壁が砲弾によって木っ端微塵に吹き飛ばされた。

城壁の破片は勢いよく四方へ飛び散り、その内の何個がルイズ達の方へと飛んでくる。

霊夢は反射的にルイズのマントを掴み、勢いよく跳躍した。飛んできた破片は二人の後ろにあったベンチを砕く。

更には妖精が放つデタラメな弾幕のように幾つもの小さな破片が遠慮無しに飛んでくる。

霊夢は常識では考えられないような飛行テクニックでソレを避けていく。ルイズが付けているマントを手に掴んだまま。

しかし、勢いに耐えきれないのか、マントが嫌な音を立てて破れていく。

「ちょっ…!マント…マントがぁ!」

マントの異常に気づいたルイズは貴族の証を破られたくないとヒステリックな叫び声を上げた。

それに気づいたのか否や、ふと霊夢がマントを掴んでいる手の力を緩めた。

するり、とマントが霊夢の手から離れ、それを付けていたルイズは木から落ちる林檎のように地面へ落下していく。

しかし今のルイズには始祖からの祝福が送られていた為か、幸いにも比較的地面が柔らかい所に落ちることが出来た。

誰かが土でも耕していたのかは知らないが、怪我だけは免れたルイズは起きあがり口の中に入ってしまった土を吐き出した。

小さくて可愛い唇から出る黒い土を吐いている名家の三女をよそに彼女を落とした巫女が降りてきた。

ようやく全ての土を吐き出したルイズは霊夢の方をキッと睨み付けた。

「ちょっとレイム!!掴むならもっとマシなとこ…ろに…。」

先程の事に対する文句を言いつつ霊夢の方へ近づいたルイズは、彼女の『脇腹』を見て思わず言葉を失う。

 

―――博麗霊夢は疲れていた。今まで感じたことのない程の疲労感を体にため込んでいた。

だからこその結果かも知れないが、霊夢を知っている者達が今の彼女を見たら目を丸くするだろう。

『あの紅白がどうしてこんな事に…』と。それにまだ知り合って一ヶ月少しのルイズですら目を丸くしているのだ。

それ程にも博麗霊夢という人間のイメージは凝り固まっており、それが変わることは殆ど無い。

人間であるからこそ、体調不良というモノは厄介でもれなく体の動きも鈍らせてくれる。

そして…ルイズを掴んでいた事により、結果的に霊夢は『怪我』してしまう事になった。

 

「何よ…そんなに他人が怪我するところって…見ていて楽しいものかしら…?」

霊夢は『自分の脇腹に出来た切り傷』を右手で押さえながら、唖然としているルイズに向けてそう言った。

 

 

恐らく避け損なった破片が彼女の脇腹を切り裂いたのだろう。傷は深くはなく浅い方である。

しかし、流石に出血はしており傷口を押さえている右手の間から血が流れ落ちていることに霊夢は気が付いた。

仕方なくも頭に付けている赤いリボンをすぐにほどくと、細長い布になったリボンをササッと脇腹に巻いて包帯代わりにした。

 

とりあえず応急処置だけは何とか済ました直後、何処からか声が聞こえてきた。それも大勢の。

「レコン・キスタの攻撃だわ…!」

声を聞いて我に返ったルイズがそう叫ぶと、今度は魔法が飛び交う音や剣戟が聞こえてきた。

遠くなく、近くでもないその音にルイズはガタガタと震え始めた。

戦争や決闘、殺し合いとはほぼ無縁なところで生きてきたルイズには全く初めての体験であった。

フーケと戦った時には一対多数ということもあり、それ程恐怖は沸いてこなかった。

しかし今回はワケが違うのだ。今自分にすり寄ってくるのは本物の殺し合いなのだ。

そんなルイズを見てか、霊夢は少し緊張した面持ちで声を掛けた。

「何ボーッとしてるのよ?ここで震えてても意味無いわよ。」

 

霊夢がそう言った瞬間、背後の用水路から凄まじい音と共に水柱が立った。

何かと思い二人は振り返ったが、そこには何もいなかった。

その時、頭上にある屋根の上からもう聞きたくもない男の声が二人の耳に入ってきた。

 

「う~む、どうやらレコン・キスタは計画を大幅に変更したらしいな。」

 

ずぶ濡れになり水滴を垂らすマントと羽帽子そして被っている白い仮面をもぎ取り、男はその顔を二人に晒した。

その男は、先程ルイズが用水路に吹き飛ばしたワルド子爵であった。

なんとか溺死する前に水中から脱出した彼は顔に付いている水滴のお陰かいつもより輝いて見えている。

そのお陰で彼が元々持っている格好良さを更に引き立てていた。

正に「水も滴るいい男」という言葉は正に今のワルド為にあると言っても過言ではない。

 

突然現れたワルドに霊夢は半ば呆れながらも言葉を投げかけた。

「全く、程度が低い奴ほど倒してもすぐに沸いてくるわね。」

どんな人間でもカチンとしてしまうような辛辣な言葉を霊夢はサラリと言ってのけた。

しかし、ワルドの方はというと少しだけ眉をしかめるだけに終わり、霊夢に話し掛けた。

「これは酷い言いようだ。しかし怪我人はおとなしくしていなければ怪我は治らないよ。」

ワルドの言葉に霊夢はチラリと脇腹に巻いた包帯代わりのリボンを一瞥した後、ワルドの方へ視線を戻した。

「余計なお世話よ。それとも何?アンタが私の治療代を肩代わりしてくれるの。」

「いや、治療代は払えないが葬式代は僕が払うよ。二人分のね?」

ワルドはそう言うとバッと跳躍し、何処からともなくやってきたグリフォンの背中へと華麗に着陸した。

 

当然のように臨戦態勢を取ろうとした霊夢であったが突如、横にいたルイズが悲鳴を上げた。

思わずルイズの方へと顔を向けると、彼女の視線の先には鎧を着込んだ男達がいた。

彼らは皆一様に、銀の鎖や先端や柄に刃を付けた杖を持っており、霊夢達の方へと杖を向けている。

霊夢はそんな屈強なレコン・キスタの兵士達を見て「やれやれ…。」と呟き、背負っていた御幣を手に取った。

ルイズもいつの間にか足下に転がっていた自分の杖を手に取り敵に向かって呪文を唱えようとした。

しかし、詠唱が完了する前に霊夢がルイズの杖を取り上げると思いっきり放り投げてしまう。

 

突然の事にルイズは驚いたが、そんな彼女に遠慮無く霊夢が冷たい言葉を投げかけた。

「さっさと逃げなさいよ。あんたが呪文を唱えたらこっちにも被害が及ぶのよ。」

その言葉を聞いたルイズは怒りで顔を真っ赤にすると大きな声で言った。

「何よ!怪我人のくせに偉ぶっちゃって!私も貴族よ、杖を持って戦えるのよ!」

ルイズはそう言いながら中庭の出入り口まで飛んでいった杖を取ろうと走り出す。

それを見たレコン・キスタの兵士達はそうはさせんと火の玉や氷の矢を飛ばしてきた。

自分に降りかかろうとする魔法にルイズは足を止めてしまい頭を抱えてその場でしゃがんでしまう。

しかし、彼女の柔らかい肌に凶暴な魔法が直撃する前に霊夢はお札を飛ばし、それで魔法を一気に相殺した。

ついで左手に持っていた御幣を一振りし、大きな菱形の弾幕を敵兵の方へと飛ばす。

数々の戦地をくぐり抜けた彼らはこれまで見たことのない弾幕に驚き、怯んでしまうがそれが命取りであった。

その場に伏せるか横へ避けるかすればかわせていたその弾幕に直撃した兵士達は紙細工のように吹っ飛んだ。

 

ルイズは顔を上げ、霊夢が敵を倒してくれたことに気づくとお礼を言う前に杖を坂時に中庭から出て行った。

この場にいる敵をとりあえ倒したのを確認した霊夢は一息つこうとしたが、脇腹から鋭い痛みが走った。

痛みで顔を歪めつつも脇腹を見てみると、さっきもよりも出血が酷いものになっていた。

どうやらリボンでは包帯の真似事は出来なかったようだ。

 

「おっと、どうやら傷が痛むようだな?せっかくだから楽にしてあげよう。」

 

その時、頭上からワルドの声が聞こえ、霊夢は咄嗟に上空へと顔を向けた。

グリフォンの背に跨っていたワルドは杖を振り下ろし、杖の先端から電流が飛び出してきた。

霊夢は急いでスペルカードを取り出し、強力な弾幕を発動させた。

 

――――神霊「夢想封印」

 

物理法則を無視した光弾が霊夢の体から現れ、上空にいるワルドへと殺到する。

ワルドが発動した『ライトニング・クラウド』は夢想封印を発動した際に出来た衝撃波のようなものによってかき消されていた。

(何だと!?ライトニング・クラウドを消滅させるなんて…しかし!)

驚愕のあまり一瞬だけ怯んだワルドではあったが、すぐに気を取り直しグリフォンの手綱を握った。

自分の元へと飛んでくる光弾を睨み付けるとさっとグリフォンを横へ動かしその光弾を避けた。

避けられた光弾は物理の法則を無視して旋回すると今度はワルドの背中目がけて飛んでくる。

ワルドは軽く息を吐くと今度はグリフォンを上昇させ、またしても光弾を避けた。

二度も避けられた光弾は追尾することはなく、運悪く近くを飛んでいたレコン・キスタの竜騎士とその火竜に直撃した。

 

凄まじい閃光と何かがぶつかる音が聞こえた後、ボロ雑巾になった火竜『だったもの』がクルクルと回りながら地面へと落ちていった。

竜騎士の方はと言うと無事に脱出できたのかレビテーションの呪文を唱えゆっくりと降下している。

それを見たワルドは少しだけ冷や汗を流したとき、横から霊夢の声が聞こえてきた。

「何ボーッととしてるのよ。」

霊夢がすぐ近くにまで来ていたことに今気が付いたワルドは咄嗟に跳躍をした。

直後、空を飛んで(普通に飛んでたら傷は痛まない)ここまで来た霊夢の鋭い蹴りが空気を切った。

「むぅっ…。」

攻撃がかわされた事に霊夢が眉をしかめている一方、跳躍したワルドは彼女の背後へと降り立った。

霊夢の背後へと移動したワルドは気づかれる前にすぐさま『エア・ニードル』の呪文を唱えると杖を震動させ――――突いた。

 

疲労と怪我の所為で集中力がほんの少し鈍っていた霊夢はその攻撃を受けるハメになった。

「かはっ…――。」

 

 

霊夢は右胸を貫かれ、これまで感じたことのない激痛に目を見開いた。

ワルドはうまくやれた事に喜ぶと、霊夢に耳打ちする。

 

「如何なる強者でも疲れていれば必ず隙が生まれる。来世までこの言葉は取っておくと良い。」

 

そう言った後、ワルドは杖を一気に引き抜き、ついで右胸に開いた穴から赤黒い血が出た。

ほぼ瀕死の一撃を喰らった霊夢は背中の糸を切られた人形のように用水路目がけて落ちていく。

そして冷たい水の中へ落ちようとしていた瞬間、もう殆ど何も見えない瞳が捉えていた。

 

 

―――杖を片手に、落ちゆく霊夢をキョトンとした顔で見つめているルイズが。

 

 

空から落ちてきた少女が水面に叩きつけられた直後、杖を手に中庭へ戻ってきたルイズは悲鳴をあげた。

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