ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第二十七話

 トリステイン魔法学院はあいかわらず平和であった。

王都では多くの人々が戦争が起こるとか言ってやいのやいのと騒いではいるがここでは大した騒ぎにはなっていない。

あるとすれば、何人かの男子生徒達が談笑のネタとして話してるぐらいだ。

戦争が起これば自分の父や兄達が手柄をあげるとか、軍には行って敵を倒しやるぞ。といったものである。

トリステインの貴族の男子達は大きくなったら軍に入り、数々の手柄をあげたいという夢を大抵の者が持っている。

そんな事を話している彼らを見て、そのガールフレンドや親しい関係を持っている女子生徒達は顔を曇らせるのだ。

 

と、まぁ…とりあえずは魔法学院の生徒達は今の状況を充分に楽しんでいるのである。

実際に戦争が起こるかもしれない。というのは別にして。

 

そして、魔法学院の女子寮塔の部屋で暮らしているルイズはベッドに腰掛け窓ガラス越しに空を眺めていた。

珍しく今日は上空に雲一つ無く、清々しいほどの青い空が鳶色の瞳に映り込んでくる。

昨日の夕方頃に学院へ帰ってきたルイズと霊夢は、生徒達から質問攻めにあってしまった。

ギーシュが以前ルイズが魔法衛士隊の者と一緒に何処かへ行った事を、他の生徒達に言いふらしていたのだ。

霊夢はともかくとしてルイズは予期せぬ質問攻めにあってしまい、何と言おうか焦ってしまった。

流石に真実を話すのは躊躇い、少し学院長に頼まれて王宮までおつかいに行っていたと話すことにした。

結果それを聞いた生徒達はがっかりしながらも解散した。彼らは一体何を期待していたのであろう。

その後の霊夢はというと「疲れた」と言って一足先にルイズの自室へと戻っていった。

霊夢と別れた後、学院長室に呼ばれオスマン学院長とコルベールから「良く無事に帰ってきてくれた」という言葉を貰った。

二人の言葉を聞いたルイズは素直に喜んだ。ワルドに殺されかけた後、生きている事自体が素晴らしく思えてきたのである。

その後、オスマンから今日と明日は十分に休みなさいと言われた。まさかの休暇である。

 

ルイズは少しだけ慌ただしかった昨日を思い出しつつ、頭の中である考え事をしていた。

(姫様から貰ったこの指輪…。本当に貰って良かったのかしら?)

視線をテーブルに移し、小さな指輪ケースに入っている『水のルビー』を見つめた。

昨日、アンリエッタに手紙と『風のルビー』を手渡したルイズは、アンリエッタからこれを受け取ったのだ。

ルイズはすぐに首を横に振った。例えヴァリエール家でも、王国の秘宝を受け取るなんてことは恐れ多い。

しかし、アンリエッタは忠誠には報いるところがなければいけない。と言い、その一言でルイズもコクリと頷いた。

一緒にいた霊夢の方に対しても何かお礼がしたいとアンリエッタは言ったが霊夢はそれをハッキリと拒否した。

 

「お礼?それなら別にいいわよ。だって私はアンタの命令で行ったわけじゃないんだし」

 

という事を一国の姫の目の前で言ってのけたのだ。相変わらず遠慮のない巫女である。

アンリエッタはその返事を聞き、焦った風にこう言い直した。

「ち、違います…。私の友人であるルイズを助けてくれたお礼をしたいのです。別に忠誠とかそういうものではありません」

それを聞き勘違いしていた霊夢は「あっそう」と呟き、アンリエッタにある品物を要求した。

 

「王女様に要求した品物がこれだなんて…物欲が少ないというか…むしろ金目の物には余り興味がないというか…」

ルイズは指輪ケースを注いでいた視線を、その隣に置かれた茶葉が入った大きめの瓶に移した。

あの瓶の中に入っている茶葉は王宮でしかお目にかかれない代物であり、並大抵の貴族では拝むことすら出来ない。

それ程の高級品をアンリエッタは道ばたの雑草をむしり取るかのように霊夢に差し出したのである。

この瓶の中に入っている量を全て換金すると一体どれくらいの値段になるのか想像すらつかない。無論売る気など無いが。

そんな高級なお茶を手に入れた霊夢はというと、今この場にはいない。

昼食を食べた後、コルベールに聞きたいことがあると言って部屋を出て行ったきりである。

部屋を出て行くときに「そのお茶、私のなんだから勝手に飲まないでよ」という言葉を残して。

ルイズはその言葉に従いこうしてベッドに腰掛けて待ってはいるがその間にも沸々と怒りが沸いて出てきていた。

その怒りの原因は、霊夢が部屋を出て行く前にルイズに言った言葉であった。

 

――――――――――そのお茶、私のなんだから勝手に飲まないでよね

 

要はこの部屋の主であるルイズが、居候(あえて使い魔とは言わない)である霊夢に命令されているのだ。

勿論その居候がアルビオンで自分の命を助けてくれたのは本当に有り難い。しかしそれとこれとは別である。

 

そんな風にイライラしてルイズが待っていると、ふと背後からカチャカチャという物音が聞こえてきた。

何かと思い後ろを振り向くと、突然大きめのカラスが開きっぱなしの窓から部屋の中へ入ってきたのである。

「うひゃっ!?か、カラス…!」

ルイズはそのカラスに驚き、ドアの方へと後ずさった。

カラスは二、三回羽ばたくと柔らかいシーツを敷いたベッドに降り、つぶらな赤い瞳でルイズの顔をジーッと見つめた。

その赤い瞳は透き通っており、まるで一種の工芸品かとルイズに思わせてしまう。

ルイズはと言うと外から飛んできたカラスが自分のベッドに居座っている事に気が気でなかった。

(折角洗濯に出して貰ったばかりのシーツに座るなんて…一体誰の使い魔よ!)

カラスを使い魔とする生徒は大変多く、自然とそういう考えに至ってしまう。

一方のカラスは鳴き声一つ出さずにジーッとルイズの顔を数秒間見つめた後、羽を広げて外へ飛んで行った。

突如部屋に入ってきた鳥がいなくなり、ルイズはおそるおそるベッドへ近づこうとした。

 

そんな時、ドアを開けてようやく霊夢が帰ってきた。

ルイズは霊夢の暢気そうな顔を見た途端、そちらの方へ顔を向け彼女を怒鳴りつけた。

「遅かったじゃない、一体何してたのよ?」

怒り心頭のルイズとは正反対にのんびりとしている霊夢は怠そうに言った。

「何って…?ちょっとコルベールと相談よ相談。…あと話し相手を貰ってきたわ」

そんな事を言った霊夢が右手に持っているのは、薄汚れた鞘に入った薄手の長剣であった。

話し相手?とルイズは首を傾げつつ何処かで見たことがあるような、と思ったとき…

 

『おうよ、その話し相手こそがこの俺デルフリンガーさ!』

 

突然その剣がブルブルと震えだしたかと思うと鎬の部分までがひとりでに出てきて自慢げにそう言った。

それを見てルイズは思い出した。以前フーケ退治の際に学院長が霊夢に手渡したあのインテリジェンスソードだ。

あの時は霊夢の手によって無理矢理鞘に押し込まれていたが、何故かその霊夢がデルフリンガー片手に部屋に戻ってきた。

一体どういう風の吹き回しだろうか、と思っているとデルフリンガーは嬉しそうに喋り始めた。

 

『いやーそれにしてもこりゃどういう風の吹き回しかねぇ?何せ俺を乱暴に扱ったコイツがまさか「ガンダールヴ」とはねぇ。

 伊達に数千年間は生きてるけどこれ程おでれーた事は…ってウォォ!?』

堪りに堪っていた鬱憤を晴らすかのように喋りまくっていたデルフリンガーの刀身部分を、ルイズが掴み掛かってきた。

恐らくこれは、六千年生きてきたデルフリンガーにとって二番目に驚いた出来事になるだろう。

幸い刀身の部分はまだ鞘に収まっているため怪我する事は無かったが、デルフリンガーは大いに驚いた。

「え…!?ちょっ、ちょっとアンタさっきのどういう事!」

『うぇ?伊達に数千年間生きてきたって…』

「違うわよこのバカ!さっきガンダールヴがどうとかって言ってたじゃない!?」

少々乱暴に揺すりながらもルイズはそう言った。

『あぁそっちかよ…。そうさ、いまアンタの目の前にいるお嬢ちゃんは紛れもなくガンダールヴだ。ってことさね』

デルフリンガーがそう言うと、霊夢は溜め息をつきつつ左手の甲をルイズの目の前に近づけてこう言った。

 

「良かったわね。私がアンタの使い魔になってて。私は全然嬉しくないけど」

 

イヤそうに言った霊夢の左手の甲には、のたくった蛇の様な文字が刻み込まれていた。

古の歴史に興味を持つ者が一目見たならば、それが何を意味するのかすぐにわかるであろう。

ルイズはそのルーンを見つめながら、つい三日ほどの前の事を思い出していた。

(そうよ…私はこれよりも前に見てたんだわ、あいつのルーンを…ニューカッスル城で)

心の中で呟きながらその時の会話を思い出した。

 

―――ちょっとレイム、左手のソレって…!

 

―――――いきなり何よ?少し驚いたじゃないの

 

―――こっちの方が驚いたわよ!左手のソレ…使い魔のルーンじゃない!

 

―――え…?あぁ、やっぱりこれってそういうモノだったのね

 

(あの時はワルドの事もあったけど…どうして今の今まで忘れてたのよ?)

ルイズは自分の不甲斐なさに落胆する事となった。

使い魔のルーンをちゃんと刻めたのは良かったが、よりにもよってこんな奴が使い魔なのである。

たとえ自分が主人になろうとも今の生活状況は変わらない。絶対に。

これからの事を想像し、ルイズは大きな溜め息をついた。

 

その日の夕方頃…

 

魔法学院の一角にあるアウストリ広場に、二人の少女が仲良くベンチに腰掛けていた。

一人は青髪の小柄少女で眼鏡の奥のこれまた青い瞳をきらめかせ、熱心に本を読んでいる。タバサであった。

「ねぇタバサ、少し聞きたいことがあるんだけど」

そしてタバサの隣にいるのは、赤い髪が眩しいキュルケであった。

彼女は己の系統の゛火゛を象徴するかのような赤い髪をかきあげ、自分の隣で読書に没頭するタバサに話し掛けた。

「あなた、少しおかしいとは思わない。あのヴァリエールが行きは魔法衛士隊の隊長と一緒で、帰りはいつの間にかいなくなってたあの娘と帰ってくるなんて。」

それはギーシュがベラベラと話しまくっていたルイズの事であった。キュルケの言う゛あの娘゛とは霊夢のことである。

ギーシュの言うことが正しければルイズは魔法衛士隊の隊長と一緒に何処かへ行ったことになる。

そして帰りは何故かいつの間にか学院からいなくなっていた霊夢と一緒に竜籠に乗って帰ってきたのだ。

ルイズならば帰りも魔法衛士隊に送ってもらう筈なのに、何故かあの霊夢と、それも泥だらけの服で帰ってきたのだ。

あの二人の姿を見たキュルケは、絶対ただ事ではない何かが起こったのだと予想した。

「考えすぎ」

しかし、タバサは短くそう言うと次のページを捲ろうとしたが、その前にキュルケにしなだれかかられた。

「もう、あなたって本当こういう話に釣られないわよね。偶にはバカになってこういうゴシップ話を考察するのも楽しいのに」

キュルケは楽しそうに言うと自分の頭の中で色々と考えた説を興味を示さないタバサに話し始めた。

 

その様子を、少し離れたところから見るモノ達が三゛匹゛ほどいた。

『相変わらずというかなんというか…ウチのご主人様は君のご主人様に夢中だね』

真っ赤な皮膚を持つサラマンダーが、人間には低いうなり声にしか聞こえない発音で、隣にいる青い竜に話し掛けた。

青い竜は背中から生えた翼を少しだけ上下に動かしながらサラマンダーに返事をする。

『そうなのね。でもおねえさまも少しだけ嬉しそうなのね』

嬉しそうに言いながら青い竜――シルフィードはタバサとキュルケの方へ視線を向けた。

あの二人は自分たちがここへ召喚される前に随分と仲が良く、おかげで隣にいるサラマンダーのフレイムとも仲良くなれたのだ。

『でもさ、彼女って随分無表情だよね。君はもうあの主人の心の内側が読めるようになったのかい?』

そんな二匹のうしろにいるジャイアントモールのヴェルダンデが鼻をヒクヒク動かしながらそう言った。

ヴェルダンデの言葉にシルフィードは低いうなり声でこう言った。

『わからないのね。でも…私と一緒にいるときよりかはおねえさまの雰囲気が少しだけ良い気がするの』

『確かにね。ウチのご主人様も楽しそうだよ』

フレイムはクルクルと喉を鳴らしながらシルフィードにそう言った。

 

 

そんな時、ふと三匹の後ろからガサゴソと物音が聞こえてきた。

物音に気づいたフレイムがゆっくりと頭を後ろへ向けると、後ろにある草むらから黒猫がヒョッコリと顔を出していた。

フレイムに続いて他の二匹も振り向き、此方に顔を向けている黒猫に興味本意でヴェルダンデが声をかけた。

『見ない顔だねぇ。もしかして迷い込んだ野良猫かな?』

黒猫は鼻をヒクヒクと動かすヴェルダンデの方を一瞥した後、バッと草むらから飛び出し一目散に本塔の方へ走っていった。

あっという間に目の前から姿を消した黒猫の゛尻尾゛を一瞬だけ見た三匹は驚きの余り目を見開いてしまう。

『なぁ…あいつの尻尾…』

怯えているようにも見えるフレイムの言葉にシルフィードも少しだけ身体を震わせながら頷いた。

『一体全体何であんなのが私達のところへ来るのね。なんだか不吉な事がおこりそうなのね』

シルフィードはそういってブルブルと身体を震わせた。ヴェルダンデも同様である。

 

「でねータバサ、私はこう思うのよ…」

一方のキュルケはというと、未だタバサに話し続けていた。

 

 

その夜、夕食や入浴も終わり、消灯時間も近くなった頃…

ルイズは自らの自室で霊夢とインテリジェンスソードのデルフリンガー(以後デルフ)と何やら話し合っていた。

「さっきも聞いたと思うけど。あんたそのルーンは本物なんでしょうねぇ?」

今霊夢の左手の甲に刻まれているルーンを見つめつつルイズは信じられないという風にそう言った。

「それならさっきも言ったでしょうに…。ちゃんとあのコルベールとかいう奴に調べて貰ったのよ?」

鬱陶しそうに霊夢はそう言うとティーカップの中に入った緑茶を口の中に入れた

「嘘ついてるなら今の内に吐きなさいよ。今なら拳骨ひとつですましてあげる」

ルイズはそんな霊夢を見て少し細めていた目を更に細めた。

最初にガンダールヴのルーンを見せて以来、ルイズは自分の目が信じられないようだ。

何せ今まで魔法が成功せず『ゼロのルイズ』と呼ばれた自分が、始祖ブリミルの使い魔であるガンダールヴを召喚していたのだ。

信じられないというのも無理はないし、別段ルイズがおかしいというわけではない。

一度フーケの事で学院長にその事を話されたときはまさかと思っていた。

その時には霊夢の左手にルーンがないものだから、てっきりコルベール先生の勘違いだと思っていたのだ。

 

デルフは話し合いを始めてから数分間はじっと黙っていたが、とうとう我慢できなくなったのかひとりでに鎬の部分が出てきて喋り始めた。

『おいおい娘っ子、疑っても始まらないぜ。そいつは正真正銘のガンダールヴのルーンだ』

突然割り込んできたデルフにルイズは顔を顰めるとズカズカと壁に立てかけられているデルフの横まで行き、持ち上げた。

持ち上げられたデルフは驚くこともせず、またもやチャカチャカと鎬の部分を鳴らして喋り始める。

『第一、使い魔のルーンには偽物なんて存在しねぇ事ぐらい、お前さんでも知ってるだろう?』

デルフの言葉にルイズは更に顔を顰める。

「わかってるわよそれぐらい。けどね…」

『けどね…?なんだよ?』

ルイズはそれを言う前に大きく深呼吸をすると、思いっきり叫んだ。

 

「 な ん で こ ん な 奴 が ガ ン ダ ー ル ヴ な の よ ォ ! ! 」

 

テーブルがフルフルと微かに震動するほどの叫び声に、さしものデルフもその刀身を揺らしてしまう。

霊夢はというといきなりの怒声に目を丸くし、思わず手に持ったティーカップを落としそうになった。

叫び終えたルイズはと言うと、ハッとした顔になりすぐに先程のしかめっ面に戻った。

どうやら部屋の壁がプライベート上の為か、全面防音性だという事を思い出したからであろう。

もしそうでなかったら、今頃寝間着の姿の隣人が鬼の様な形相で杖を片手にルイズの部屋へ入ってきたに違いない。

霊夢はやれやれと言う風に首を横に振るとティーカップをテーブルに置き、ルイズにこう言った。

「出来れば私もこんな薄気味悪いルーンなんか付けられたくなかったわよ」

嫌みたっぷりにそう言いはなった言葉に、ルイズはキッと霊夢の顔を睨み付けた。

霊夢も負けじとにらみ返し、そんな一触即発の状況を回避しようとしたか否か、デルフが口?を開いた。

 

『まぁそんなもんさ、始祖の使い魔だからといって根が真面目すぎる奴が召喚されるワケじゃないのさ

 例えば、誰かが竜を召喚したいと願っても絶対に竜が出てくるという保証は無い。そんなものさ』

 

デルフの言葉に流石のルイズも返す言葉を無くしてしまった。

「うぅ~…でも納得がいかないわ。大体、どうして今頃になってルーンがまた刻まれたのよ?」

まだ納得がいかないルイズは、一番疑問に思っていたことを口に出した。

最初に話をした際、霊夢の話ではアルビオンへ行った時に気づいたらいつのまにか刻まれていたという。

それが一番の謎であった、何故契約した直後に消えたルーンがまた刻まれたのだろうか?

ルイズの疑問に、すぐさまデルフリンガーが待っていましたと言わんばかりに答えた。

 

『詳しい事は俺は知らねぇが、恐らくは何かキッカケがあったんだろうよ。

 おいレイム、アルビオンに行った際に何か無かったか?自分の記憶に残る事とか』

 

「アルビオンで、ねぇ…」

デルフに呼び捨てで名前を呼ばれたが霊夢は気にすることなく、つい数日前の出来事を思い出し始めた。

お姫様が持ってた幻想郷緑起…ラ・ロシェールでの戦い…アルビオンの真下にあった大穴…

そんな風に記憶を掘り返している内に、二つほど思い出した。

「そうねぇ…二つほどあるわ。一つは森の中での事で…んで二つめは私がやられた時…」

霊夢はそう言って、その時の回想を頭の中に浮かべ始めた。

 

 

 

一つめの思い当たる節――それはウエストウッドの森で出会った少女ティファニアのことである。

アルビオンにやってきた際、初めて出会ったのに、私を小さな村に泊めてくれた。

本当は食事だけをもらうつもりだけだっのだが、ちょっとした事情で泊まる事にもなった。

その事情を作ったミノタウロスと戦っていた時、ティファニアが呪文を唱えたのだ。

彼女の呪文を聞いていると気持ちが和らいでいく気がした。戦っていた化け物もその呪文で戦意をなくしたのか、何処かへ行ってしまった。

そしてその夜、ふと気がつくと左手にぼんやりとこのルーンが浮かんでいたのだ。

今ほどハッキリとではないが、それでも自分の目で認識することが出来ていた。

 

 

そして二つめ、これは少し思い出したくはないが…

裏切り者だったとか言うワルドにやられて用水路に落ちた後である。

もしかしたら、私が弱っていた時にこのルーンが表に出てきたのかも知れない。

詳しい事は知らないが、そうでなければまともに剣を握ったことのない私があんな芸当できるワケがないし…

それに以前、ガンダールヴはありとあらゆる武器と兵器を使うことが出来るってオスマンとかいう奴が言ってたわね。

 

でも私は剣を振り回す趣味なんか無いし、

とりあえず、早くこのルーンを何とかしないと。呪われたりでもしたら厄介だし…

 

 

そんな風に霊夢があまり良くない思い出に浸りつつ考えごとをしていると、ドアの方からノックの音が聞こえた。

「ん?…一体誰かしらこんな時間に」

ルイズはイスから腰を上げるとつかつかと歩き、ドアを開けた。

しかしドアを開ければ、そこには誰もいなかった。ルイズがあれ?と思った時、足下に何か黒い物体がいる事に気がついた。

視線を足下に移してみると、、そこには小さな黒猫が頭を上げてルイズの顔をジッと見つめていた。

「うわぁ…可愛いわね。どこからやって来たのかしら?」

ルイズはそう言って屈むと猫の頭をゆっくり撫でた。

黒猫も満足なのか、頭を撫でられた気持ちよさそうに鳴いた。

霊夢も猫の鳴き声に気づきそちらの方へ目を向ける。

「どうしたの?化け猫でもいたの?」

その瞬間――――頭を撫でられていた猫がピクンと耳を立てるとルイズの横を通って部屋の中に入って来た。

あっという間に黒猫は霊夢の足下まで来ると、霊夢の靴を肉球のある手でペシペシと叩き始めた。

「何よコイ―――…!?」

霊夢は部屋に入ってきて自分の靴を叩いている黒猫の゛尻尾゛を見て、驚きの余り言葉を無くしてしまう。

一方、自分の部屋に入られたルイズはすぐさま振り返りった。

「ちょっと…部屋に入らな――――…霊夢?」

言い終える前に、霊夢が目を見開いて猫を凝視している事に気がついた。

黒猫は靴を叩くのを止めると、霊夢のジーッと見つめると、その口を開いた。

 

「やっぱり紫様の言う事は何でも当たるねぇ。すぐに紅白と【虚無】の少女を見つけちゃった」

黒猫は元気溢れる少女の声でそう言うと、『二本もある尻尾』を嬉しそうに振った。

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