ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第三話

「ふぅむ…つまり君はミス・ヴァリエールが召喚したのは伝説の『ガンダールヴ』だと言いたいのかな?」

 双月が濃くなり始める時間に学院長のオールド・オスマンはコルベールとある話し合いをしていた。

「はい。何回も何回も調べ直しましたが、あれは間違いなくガンダールヴのルーンです!」

 興奮したコルベールがつまりそうな早口で言った。

 『ガンダールヴ』とは…伝説の系統である『虚無』の使い魔で、ありとあらゆる兵器や武器を使いこなせるという。

 コルベールや長寿のオールド・オスマンでさえ見たこともない伝説の使い魔が召喚されたのだ。

 探求心豊富なコルベールが興奮するのは仕方がない。

「まぁまぁ落ち着きたまえミスタ・コルベール。興奮するのは仕方がないがちと声が大きすぎるぞ?」

 オールド・オスマンは人差し指で口を押さえてコルベールに静かにするように合図をした。

 

 

「とりあえずしばらくは様子見じゃ。どこに耳や目があるかわかんからのう…」

 そう言うとコルベールはハイ、と返事をし。軽く頭を下げて退室した。

 彼が退室した後、オールドオスマンは口にくわえていたパイプを机の引き出しの中に入れると右手を地面に置き、足下にいたハツカネズミを手の上に乗せた。

「ふぅむ、今日はこんな時間にまで起きておいて良かったのかも知れんのぉ」

 そういってオスマンはハツカネズミを机の上に置くと軽く頭を撫でた。

「モートソグニル、今夜はどうじゃったか?……ふむ、今日のミス・ロングビルは白だったか…いやはや、見るのをすっかり忘れるところじゃったわい」

 そう言ってオスマンは仕事をこなしてきた自らの使い魔にナッツを五つ食べさせた後、寝巻きに着替えて寝ることにした。

 

 

 

 夕食を食べ終えたルイズはネグリジェに着替え、霊夢には予備に持ってきていた少々大きめのパジャマを貸してあげた。

 一緒にベッドに寝るかとルイズは聞いてヒラヒラが多く付いたパジャマを着終わった霊夢はそれに甘えることにした。

「寝床なら明後日くらいにはなんとかするわ。それじゃあ先におやすみ…」

 そういってルイズはベッドにダイブして目を瞑ろうと思ったがふと目を開けて椅子に座って紅茶を飲んでいる霊夢の方に顔を向けた。

「そういえばアンタは使い魔って呼ばれるのがいやなのでしょう?だったらなんて呼べばいいの?」

 それを聞いた霊夢はティーカップを机に置くと少し頭をウンウン捻った後こういった。

「それじゃあ名前でお願いするわ」

 その言葉を聞いたルイズはわかったわ…。と言って目を瞑った後すぐに寝息が聞こえてきた。余程疲れ切っていたのであろう。

 その数分後に霊夢もポットの中に入っていた紅茶を全て飲み終えたので寝ることにした。

 

 

 

「……さい、ルイズ」

 安眠していたルイズは目の前から聞こえてきた声と手で体を揺すぶられる感覚で目を開けた。

「いつまで寝てるのよ。もうすぐ朝食の時間でしょ?」

 その言葉遣いにルイズはエレオノール姉さんかと思ったがそれはルイズが召喚した少女、霊夢だった。

 既に紅白の袖無し服―――本人が言うには動きやすさを重視した為らしい――を身にまとっており、準場万端である。

「んぅ…?あれ、アンタ誰?」

「アンタの召喚の儀式とやらに巻き込まれて、こんな異世界にまで連れてこられた博麗霊夢よ?」

 ――忘れたの?自分の顔を忘れている彼女に不満そうな表情を浮かべる霊夢を見て、ルイズもようやく思い出す。

「あぁ、そぉだったわねぇ…。ふぁぁぁ…」

 ルイズはまだまだ寝たいという体に鞭打ち、大きなあくびをしてベッドから飛び降りた。

 目を擦ってベッドの横に置かれた椅子を見てみると椅子の上に綺麗に洗濯されて畳まれた制服が置いてあった。

 恐らく霊夢が朝イチにやってくれたのだろう。その霊夢はというと鏡を見ながら頭につけてるリボンを整えている。

 ルイズは霊夢に自分の服を着せようと思ったが彼女は『使い魔』ではなく『霊夢』のため、自分で着ることにした。

 

 

 ルイズの着替えが終わり、少しずれていたリボンを整え直した霊夢と一緒に部屋を出ると同時に隣の部屋のドアが開いた。

 その部屋の中から出てきたのは『微熱』の二つ名をもつキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーであった。

「あらおはようルイズ。夕食の時に食堂にはいなかったけどちゃんと夕食は食べたのかしら?」

 キュルケはルイズを小馬鹿にするような目で話しかけてきた。

「大丈夫よキュルケ、夕食は部屋で食べたから。」

 ルイズはキュルケの小馬鹿にするような目と言葉に耐えて返事をする。

 そのあとキュルケはそう、と興味無さそうに言ってから彼女の隣りにいた霊夢の方へと視線を向けた。

「へぇ~昨日は離れたところから見てたけど、こう間近で見てみると随分変わった服を着てるわねぇ~」

 興味深そうな目でこっちをジロジロと見てくるキュルケに対して、霊夢もまたジト目で見つめ返す。

 褐色肌に赤い髪など、少なくとも幻想郷では見た事の無い組み合わせであった。

 そのせいかついつい霊夢の目も、キュルケを物珍しそうに見つめてしまう。

「何よ?何か私の顔に付いてるの?」

「いやね、こんなかわいい顔なのになんか目が冷たいなーって思っただけよ。」

 だが、そんな霊夢の目もキュルケの遠慮の無い一言でサッと嫌悪感を露わにしてしまった。

 そりゃそうだ。誰だって初対面の相手にそんな事を言われれば、自ずと不快感を露わにするだろう。

 

 

「余計なお世話ね。初対面のアンタに色々言われる筋合いは無いわ」

 その言葉を聞いたキュルケは途端に腹を抱えて笑い出した。

 

「あははははは!『ゼロ』のルイズと無愛想な『使い魔』!なんかいけるわねこれ!ははは……ッウ!」

 しかし、人の神経を苛立たせるような彼女の軽やかな笑い声は、彼女の高い鼻を容赦なく押してきた人差し指によって止められた。

 キュルケの『使い魔』という言葉に反応した霊夢は人差し指でキュルケの鼻先をつついたのである。

「勘違いしないで、私はルイズの『使い魔』じゃない。あくまでルイズの部屋の『同居人』よ」

「……同居…人…。―――何それ?どういう事?」

 『同居人』という言葉にキュルケは顔を怪訝にすると彼女の後ろから火を吐くトカゲ、サラマンダーがヒョコッと出てきた。

 体の大きさは虎ほどもあるだろうか、尻尾の先に火が灯っていて口からチロチロと真っ赤な火炎を出している。

「うわ…っ!何よコイツ…」

 キュルケの鼻を指で押していた霊夢はその火蜥蜴を見て慌てて後ずさると、彼女の後ろにいたルイズがその火トカゲが使い魔だと理解した。

「そのサラマンダーってもしかして…アンタの呼び出した使い魔?」

 ルイズが欲しそうな目でそのサラマンダーを見ていた。

「そう、名前はフレイムよ。貴女の使い魔さんとは違って私のいう事を聞いてくれるお利口さんなのよ?…それじゃあ、私はそろそろ行くわねぇ~…」

 キュルケはフレイムの頭を2、3回撫でた後、ルイズと霊夢に手を振ってフレイムと一緒に食堂へと向かっていった。

 そんな彼女の背中に向けて霊夢が「だから使い魔じゃないって言ってるでしょうに!」と言い返す中、ルイズの小さな怒りが爆発する。

 

 

「モォッ!!何なのよキュルケのやつぅぅ!自慢してくれちゃって!!!」

 ルイズは先程のキュルケの態度を思い出して苛立ち、歯ぎしりしながら食堂へ向かっていた。

 一方の霊夢はと言うと、そんなルイズの様子を冷たい目で見つめながらついて行っている。

「あんなトカゲの何処がいいの?」

「召喚した使い魔はそのメイジの器量と強さを表してるのよ。いわばそのメイジのステータスってコトよ!」

 ルイズはさらに歯ぎしりを強くし、火花が出そうになるくらいにしている。実際には出ないだろうが。

 霊夢はそれを聞いてふわっと浮かび上がり、そのままぷかぷかとルイズの前まで顔を合わせてこう言った。

 

 

「ならアンタの方が強いじゃない」

「――――…へ?」

 突然そんな事を言ってきた霊夢に、ルイズは思わずその目を丸くしてしまう。

「私ならあんなドラゴンの出来損ないぐらい、左手一つで簡単に捻り倒せるわよ?」

 ルイズがその時見た霊夢の顔は、どこか無愛想漂うがその中に小さな微笑みも混じっていた。気のせいだと思うが。

 その後霊夢は浮くのをやめ地面に降りるとツカツカと食堂へ向かって歩き出し、ルイズは首を傾げながらその後を付いていった。

 

 

 

 

 

「さぁついたわ、ここがアルヴィーズの食堂よ」

 ルイズはそういって食堂の方を指さした。

 そこは正に大聖堂と言って良いほどの大きさで、大きな入り口を通って多数の生徒が中に入ってゆく。

 ルイズと同じ黒いマントを付けている生徒もいれば、茶色や紫色のマントを付けている生徒達もいる。

(まさかこれが全員魔法使い…メイジってコト?魔理沙やアリスはともかく、パチュリーが見たらどんな反応する事やら…)

 あまりの数の多さに霊夢が唖然としている中、そんな事を知らずにルイズは食堂についての説明を続けていく。

「ここには有名なシェフ達が働いているからいつもバランスと栄養が整っている食事が取れるの」

「へぇ…そ、そうなのね…っていうか…食堂にしてはでかすぎないかしらココ?」

 無い胸を反らして自慢しているルイズに相槌を打ちつつ、霊夢は食堂を見上げながら言った。

 

 

 太陽が後ろでサンサンと光っているため誰も言わなければ何処かの大聖堂と間違えてしまうくらいに立派である。

 ルイズは霊夢の言葉など無視してさらに説明を続けていた。

「………その外装にさることながら中もすごく、料理人は全て超一流よ!!!」

 食堂の入り口で熱弁をふるうルイズに視線を戻した霊夢を含めそれを聞いていた数人の生徒は拍手を送った。

 

「ねぇギーシュ、あれは何かしら?」

「おおかた、ゼロのルイズが自身の使い魔に熱弁を振るってんだろ?気にするなよ」

 

 食堂の内部は思ったより大きく、数百人の生徒達が椅子に座って雑談をしている。

 そして長いテーブルの上には純白のテーブルクロスがしかれ、その上には綺麗に彩られた料理が置かれている。

 ルイズは真ん中のテーブルに行き、椅子を自分で引くと座った。

 その後をついてきた霊夢はルイズの足下に置かれている野菜と鶏肉が均等に入ったスープと、湯気を立てているパンと空のティーカップがあることに気づいた。

「料理の方は結構良くしたけど…流石にテーブルの上では食べる事は許されないから床で食べてくれない?」

「まぁ別に良いわよ。元の世界でも椅子に座って食べるとかそんなのはあまり無かったから」

 霊夢は別段何も感じられない瞳でルイズの顔を一瞥してから床に座った。

 

『………大いなる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝致します』

(食堂の中も結構凄いけど、食事の味も結構良いわねぇ…)

 霊夢は生徒達が呟く祈りをBGMにして朝食を摂っていた。

 生徒達の祈りが終わった後、奥からメイドが二、三人。ポットを持ってこちらへとやってきくるのが見えた。

 どうやら生徒達に紅茶入れているらしい、トクトクトク…という音が聞こえてくる。

 やがて一人のメイドがルイズの所にまでやってきて紅茶を入れると地面に座って朝食を食べている霊夢と目が合った。

 自分と同じ黒髪をボブカットにしており、顔にはそばかすができているものの顔立ちそのものはしっかり整っている。

 最初その黒髪のメイドは霊夢を見て不思議そうな顔をしたが、すぐに何かを思い出したのか彼女に向かって笑顔を振りまく。

「あ…おはようございます。あなたも紅茶が欲しいんですか?」

「うん、入れてくれる?」

 そう言って霊夢は空のティーカップをメイドに渡すとメイドは慣れた手つきで紅茶を入れ、紅茶が入ったティーカップを霊夢に渡した。

 紅茶は綺麗な色をしており、見ただけで満足してしまう。一口飲んでみたらこれがまた美味しい。

「ありがとう。あなたの入れた紅茶、とってもおいしいわ」

「そうですか、それはどうも…では私はこれで…」

 メイドは礼をするとルイズの隣にいる生徒のティーカップに、お茶を入れる作業を始めた。

 

 

 朝食が終わり、霊夢とルイズの二人ははとある広場へと来ていた。

 そこには二年生になったばかりの生徒達と使い魔がおり、今日は召喚した使い魔とコミュニケーションを取る日である。

「いつもなら午前の授業があるんだけどね、今日は使い魔との交流会があるから」

「ふーん…」

 霊夢は素っ気なく返事をすると紅茶を飲みながら辺りを見回した。

 周りは全て哺乳類や爬虫類、鳥類だらけで、その中には目玉の化け物やドラゴン等がいた。

(妖怪…?はたまた悪魔か何かかしら?なんかよくわからないのがいるわね。)

 自分やあの目玉と竜以外は蛇や蛙、フクロウといったよく見かける生物がいたがなぜか一匹だけ違和感のある生物が視界に入った。

「………モグラよね?」

 霊夢は自身の視線の先にある巨大なモグラを見て思わず呟いてしまった。

 それを聞いたルイズは霊夢の視線を追い、そのモグラを見た。

「え?ああ、あれはギーシュの使い魔よ。確か種類は…ジャイアントモールだったかしら?」

 ジャイアントモール…―――。アレに名前を付けた学者なり偉い人は、もう少し捻った名前を考えるべきじゃないだろうか?

 どうでもいい疑問が頭の中を一瞬過ってから、ふとルイズが口にした聞き慣れぬ人名に霊夢は首を傾げる。

「ギーシュ?誰よそれ」

「ほら、あのモグラの近くにいる派手な服装の」

 大きさが小熊くらいあるモグラの主人と思われるギーシュは薔薇の造花を片手に持ち、金髪ロールの女子生徒と話しをしていた。

 

 

「どうだいモンモランシー、僕の使い魔ヴェルダンデはなかなか可愛いだろう」

 ギーシュはヴェルダンデの頭を膝に乗せて頭を撫でながら言った。

「かわいいけど…今度からわたしと一緒にいるときは出さないでね」

 金髪ロールのモンモランシーは少し引いているような感じでギーシュに言った。

 当然である、あんなでかいモグラをかわいいとか言ってる人は普通の人が見れば相当引く。

 愛嬌はあるが体の大きさがそれをはね除けていた。普通のモグラサイズだったら万人受けしていただろう。

 

 

 それからしばらくの間、幻想郷が今どうなっているのか…台所の戸棚に隠してある茶葉が紫に見つかってないか。

 恐らく周りにいる人間の中で最も大きい悩みと小さい悩みを同時に抱えている霊夢が、ルイズと一緒に紅茶を飲んで空を眺めていた時であった。

 なにやらギーシュという名の生徒がいる方から、二人の少女の黄色い騒ぎ声が聞こえてきたのは。

「ギーシュ様、はっきりしてくださいよ!!どうして嘘などつくのですか!」

「待ってくれよ、君たちの名誉のために…」

「そんなのはどうでも良いのよ!今大事なのは一年生に手を出していたのかしていないかの事よ!!」

 

 振り返ってみるとギーシュはモンモランシーと茶色のマントを着た女の子に何か言い詰められている。

「君たちは勘違いしてるよケティ…それにモンモランシー。薔薇は女の子を泣かせないからね」

「ギーシュ様!それ答えになってません!」

(面白いやつねぇ、自分を薔薇と思ってるのかしら…―――…ん?)

 他人事ではあるが流石の霊夢もギーシュの言葉に半ば呆れていると、ふと彼の背中から手紙の束が落ちるのが見えた。

 おおよそ十通ほどの封筒を紐で一括りにしたそれは、いかにも大事そうな雰囲気を放っている。

「……あれ?何かしら…手紙?」

 最初に気付いた霊夢を含め、ルイズや比較的ギーシュの近くにいた生徒達もそれら気づき始める。

 どうやら彼の前にいる二人はともかく、落とした本人も手紙の事には気が付いていないらしい。

 ここは声を掛けるか手紙を拾ってやるべきなのだろうか、それとも大人しく黙っておいて関わらない様にするべきなのか…。

 二つの選択肢を迫られた者達の大半は、敢えて空気を読んで後者を選ぼうとしていた。

 

 しかし、ここに来て博麗霊夢自身の好奇心が彼女の腰を上げさせる。

 単純に紅茶だけ飲んでて、空をボーっと見つめているだけで退屈だったという理由もあるだろう。

 ギーシュの足元に転がっている手紙の束を見つめながら席を立った彼女を見て、慌てて止めようとした。

「ちょ…!アンタ何を…!」

 言うが遅いか、制止するよりも先にギーシュの許へと歩き出した彼女の足を止めることは出来ず、

 スタスタと軽い足取りでギーシュたちの近くまで来た霊夢は、何の躊躇も無く手紙の束を拾い上げるとギーシュの背中に声を掛けた。

 

「ちょっとアンタ、落し物よ?」

「…えっ…うわっ!?…た、確か君は昨日ルイズが召喚した…」

 すぐ後ろから見慣れぬ少女に声を掛けられては、流石のギーシュも驚かざるを得ない。

 軽く身を竦ませた後、奇妙な紅白服と黒髪を見て少女がルイズと契約した使い魔だと思い出す事が出来た。

 モンモランシーとケティも一瞬怒るのを忘れて、自分たちの近くにまでやってきた得体の知れない少女に何か用かと言いたそうな顔をしている。

「え~と…コホン。すまないが何の用かね?悪いが、今僕は二人のレディの間に生まれた誤解を解こうとしていて…」

「そんな事はどうだっていいのよ。…それよりコレ、アンタの背中から落ちてきたけど、何て書いてあるのよ?」

 ギーシュの言葉を途中で遮り、手に持った手紙の束を目の前に突き出した瞬間、彼の顔色がサッと真っ青に変化した。

 まるで頭から青いペンキを被ったかのような変色っぷりに気付いたモンモランシーが、すかさず霊夢の手から手紙の束を奪い取る。

 ひったくるかのような取り方に霊夢は一瞬ムスッとした表情を浮かべるも、そんな事お構いなしにモンモランシーは手紙を纏めている紐を解いていく。

 

「あ…!ちょ…モンモランシー…!その手紙は違うんだ、その……――――…!?」

 時すでに遅し、とは正に今の様な状況で使うべき言葉であろうか。

 慌てて弁明しようとしたギーシュは、紐を解き終えて宛名を確認したモンモランシーの顔を見て、言葉が止まってしまう。

 自分とケティ、それに他の女の子の宛名が書かれた封筒を両手の握力で潰しながら、青筋が浮かび上がる顔に満面の笑みを作っていた。

「…ギーシュぅ?この手紙全てに一年や二年なんかの女子生徒の名前が書いてるんだけどこれってイッタイどういう事かしらぁ?」

 モンモランシーの口から出たその言葉で隣にいたケティも涙目となり、キッと手紙を落としたギーシュを睨み付けた。

「そ、そんなまさか…酷いですギーシュ様!!二股では飽きたらず十股していたなんて…!」

「え――――あ、あのぉ…だからこれは…」

 もはや言い逃れはできず、待つのは二人の乙女からの容赦なき制裁。

 周りにいた男子生徒たちはひっそりと後ろに下がり、女子生徒たちはこれから起こる浮気者への制裁に色めき立つ。

 

「このウソツキ、!!」

「乙女の敵!!!」

 ギーシュが咄嗟に腕でガードする前に二人の平手打ちが炸裂し、無残にも彼は地に伏した。

 

 二人の少女が怒りながら広場から姿を消すと他の生徒達がドッと爆笑した。

「ギーシュ!おまえ見事に振られちまったな!?」

 太った少年がギーシュに向かって言うとギーシュは立ち上がり服に付いたホコリを払うと一回転した。

「は……ははは………僕にとってはもう慣れっこさ!」

 このギーシュという男、たいそうな女たらしであった。ちなみに過去の最高記録は十五股である。

 

 それを遠くから見ていたルイズは、ギーシュ・ド・グラモンの相変わらずな性格に溜め息をついてしまう。

 一年生の時から彼はこうであった。入学する前からモンモランシーと付き合っているにも関わらず、何度も浮気をしているのだ。

 おかげでモンモランシーからは二十もの別れを告げられているが、気付いた時にはまたよりを戻し…そして浮気と別れ…を繰り返している。

 周りの生徒たちにとっては見慣れた光景であるが、多分今回も気づいた時にはモンモランシーと仲直りしているのだろうなぁ…とルイズは思っていた。

「全く…相変わらず懲りないんだから。―――って、そうじゃなかった…レイム!」

 毎度毎度なギーシュの浮気発覚に呆れていたルイズは、慌てて席を立って霊夢の元へ走り出す。

 興味本位で拾った手紙をモンモランシー達に渡した彼女を連れて、一刻も速くこの広場から逃げ出すために。

 

(いやはや、モグラ撫でてる時点で面白い奴だとは思ってたけど…それ以上にスゴイやつねぇ)

 一方の霊夢は、そんなルイズの気持ちなど知らず盛大に引っ叩かれながらもジョークを言えるギーシュに呆れていた。

 本人は平気な風を装っているのだろうが、傍から見れば滑稽以外の何者でもない。

 二股どころか十股もした挙句に女の子に一方的にやられて、その上すぐに謝りにいかず自分の面子を優先する有様。

 よっぽどのナルシストでなければ、この状況で前向きになろうなんて思えないはずである。

「まぁどっちにしろ、私には関係の無いことだけど…ん?」

「レイム!アンタもぉ…何やってるのよ!?」

 

 そんな時であった、怒鳴り声を上げて後ろからやってきたルイズに左手の袖を掴まれたのは。

 何かと思って振り返ってみると、その顔にほんの少しの怒りと焦燥感を混ぜたルイズがいたのである。

「どうしたのよ?そんなに慌てて…」

「慌てるも何も…!アンタこそなにしでかしちゃってんのよ…!?」

「何って…あぁ~、確かに何か不味いことしちゃったのかしら」

 彼女の言葉にふと周囲を見回してみると、生徒やケーキの配膳をしていたメイドたちがジッと自分を凝視しているのに気が付いた。

 貴族も平民も皆唖然とした表情で霊夢を見つめており、そしてルイズも含めてこれから起こる事を皆何となく察知している。

 周りの空気を流石に読み取ったのか、霊夢は気まずそうに頬を人差し指で掻きながら「どうする?」と何となくルイズへ聞いてみた。

「どうするもこうするも…とりあえずここは離れて―――」

「待ちなよルイズ―――…そして使い魔君」

 言い切る前に、二人へ背中を向けていたギーシュがこの場を去ろうとした二人へ声を掛けた。

 それはまるで閉めようとしたドアを足で止められた時の様な、嫌な予感を感じさせる制止の呼びかけ。

 思わず足を止めてしまったルイズと何となく今の自分がマズイ立場にいると理解した霊夢がギーシュの方へと視線を向ける。

 二人が動きを止めたのが背中で分かったのか、クルリと彼女たちの方へ振り向いたギーシュは手に持っている薔薇の造花を霊夢へと突きつけた。

 

「全く、君はこの僕にとんでも仕打ちをしてくれたものだね…二人の乙女を泣かせた上にこの僕に恥をかかせるとは…」

「使い魔って私の事?言っとくけど私はコイツの使い魔になった覚えはないし、アンタの言う仕打ちとやらも覚えがないわ」

「ちょっ…!アンタ、そんな事皆の前で言わないでよ!!」

 先ほど軽口を飛ばしていたとは思えぬ雰囲気を出すギーシュに、霊夢はルイズを指さしながら軽い感じで言葉を返す。

 彼女の言葉にルイズが反論するのを余所に、ギーシュもまた覚えが無いと言い張る巫女にやれやれと肩をすくめて見せた。

 

 

 「即刻僕に謝りたまえ。」

 いきなり大声で叫んだギーシュに霊夢は少し驚きながらも答えた。

 「貴族だかなんだか知らないけど私は誰にでも公平に……ってイタ!」

 喋っている最中にいつの間にか彼女の後ろにいたルイズに頭を叩かれ、霊夢は頭を押さえた。

 「あんた何してんのよ!?さっさと謝りなさい!」

 「貴族がなによ?あいつも魔法を使わないとただの人間でしょ?それに二股してた方が悪いし。」

 霊夢はこの世界で貴族が上級特権をもっているとも知らずギーシュを馬鹿にするような目で見ている。

 「…………どうやら魔法の才能が無い『ゼロ』のルイズに召喚された君は、貴族に対する接待の仕方を知らないようだ。」

 ギーシュがそんなことを言った直後、霊夢の左手が闇夜でしか認識できないくらいの薄さで光った後、霊夢が目を鋭くしてギーシュにこういった。

 「…………お生憎様、私はあんたみたいな『孤立無援な女の敵』に持ち合わせる態度はないわ。」

 

 

 

 

 「!?………君に決闘を申し込む!」

 完璧に吹っ切れたギーシュは高らかに宣言した。

 「別にいいわよ。ティータイムの後には丁度良いわ。」

 「ヴェストリの広場で待っているよ!」

 ギーシュはそう言うとマントを翻し颯爽と去っていった。

 その後霊夢はハッとするとふと左手の甲を見ようとしたがルイズが後ろから激しく肩を揺すった。

 「あんたなんて事したのよ!?貴族に決闘を申し込まれるなんて…!」

 「わわわわわ……あんた馬鹿にされてたのによく怒らないわね…というか目がまわるぅ~…」

 「あんたもしかして私のために……あんなのいいのよ!貴族はあんなことで怒るなってお母様に言われたのよ!」

 必死な顔で霊夢をみているルイズは尚も肩を揺する。

 とりあえず霊夢はルイズの手を肩から外すと、太っている少年に声を掛けた。

 「はぁはぁ………ねぇ、ヴェストリ広場って何処かしら?」

 「こっちだ、着いてこい。」

 ルイズはほほえんでいる太った少年、マリコルヌに着いていこうとした霊夢の手を引っ張った。

 霊夢が苛立ってルイズの方に顔を向けた。ルイズの顔にはうっすらと恐怖の色がにじみ出ていた。

 「ねぇ、お願いだからやめて!グラモン家を怒らせたらただじゃすまないわよ!?下手に勝ってしまったら何をされるか…」

 

 

 

 霊夢は静かにルイズの手を振り払い少し先にいるマリコルヌの後を着いていった。

 「もう………バカァ!!」

 

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