ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第三十話

もうすぐ太陽が沈み、夜の帳が訪れようとしている時間帯の幻想郷

博麗神社の境内には霊夢とルイズ、それに幻想郷の住人もとい霊夢との面識がある者達がちらほらといた。

紅魔館からは館の主とその従者、永遠亭からは薬師とその弟子が境内に集まっていた。

従者と弟子を除いた薬師と主人の二人は、八雲紫から話があると言われ神社へやってきている。

鴉天狗と魔法の森に住む白黒魔法使いの二人もいるが、彼女らは話に興味があって残っただけで、所謂招かれざる客というものだ。

しかし招かれた客達は、その者達に対して何も言うことはなかった。

「いやぁ~、異世界人だからどんな姿をしてるかと思えば…普通の人間と変わりは無いんですね」

鴉天狗の文はひとり呟きながら写真機で霊夢とルイズの写真を撮っている。

 

パシャ、パシャ、という音と共にルイズの身体がビクリと震えている。どうやら少し怯えているようだが無理もない。

何せ気が付いた時には鈴仙や文…そして何よりレミリアといった、ルイズにとって見慣れない存在がこの神社へ来ていたからだ。

 

 

今から大体四十分前ぐらい…

 

ルイズが目を覚ましたとき、兎耳を生やした亜人の少女、鈴仙が枕元にいる事に気づいた。

白い肌に人工的な感じを漂わせる銀髪と真紅の瞳…そして何よりも目立つのがヒョロッとした兎の白い耳。

黒いブレザーと白いプリーツスカウトを身に付けており、ブレザーの左胸部分には白い三日月のバッジを付けている。

「あら、ようやく起きたんですね」

目を覚ましたものの、未だ起きあがっていないルイズに微笑みつつ、鈴仙は声を掛けたがルイズは安心出来なかった。

亜人の中には一部を除いて人とよく似た姿の種族はいるものの、基本的には人間の敵である。

すぐさまルイズは起きあがり杖を手に取ろうとしたのだが、それより先に鈴仙が彼女の肩を掴んだ。

「あぁちょっと待ってください。これから体温を測りますので」

「ちょっ……ちょっと何よこれ?」

そう言って鈴仙は肩を掴んでいない右手に持っている細長い物体の先端をルイズの額に向けた。

「大丈夫ですよ。ちょっと体温を測りたいだけです」

見たこともない物を見てルイズは軽く焦ったが、それを無視して鈴仙は手に持っている物体の真ん中にある小さなボタンを押した。

ルイズは思わず目を瞑ったが、痛みも何も感じないことを確認し恐る恐る目を開けた。

 

 

「う~ん、幻想郷の人間と比べたら若干体温が高いわね…」

 

 

目を開けると既に鈴仙はあの変な物体を持っておらず、何かメモをしている。

一体あれは何だったのかとルイズは首を傾げそうになったが、ハッとした顔になると枕元に置いてある杖に手を伸ばそうとした。その時…

 

「どうやら、もう目を覚ましていたようね」

静かな雰囲気を持つ声と共に知らない女性が入ってきたため、ルイズは思わずそちらの方へ視線を移してしまう。

「あ、お師匠様」

その声を聞いた鈴仙はパッと笑顔を浮かべて立ち上がった。

部屋に入ってきた女性の灰色がかった銀髪は、鈴仙のソレと比べれば大分自然的な美しさを持っていた。

それよりもまず最初にルイズの目に入ったのがその女性の着ている服であった。

良い言い方ならとてもユニーク、悪い言い方ならば酷く奇抜で理解しがたいデザインだ。

服の上半分の右側は赤で左側は青色、下半分はその逆であった。

服全体と、頭に被っている赤十字マークがある青帽子には星座のような刺繍もある。

(一体どうなってるのよレイムの世界のファッションセンスは…民族衣装にしては奇抜すぎるわ)

ハルケギニアにはないユニークな永琳の服を見てルイズは頭を抱えそうになった。

 

「…体温が少し高いというだけで異常は見受けられません」

「そう。ご苦労様…」

そんなルイズの気を知らず永琳は弟子である鈴仙から報告を聞き終え、ルイズの方へ視線を向ける。

これで今日の朝方、紫に頼まれていた「ルイズの身体に異常が無いか調べる」という仕事は何の問題もなく終わらせることが出来た。

といっても永琳達が神社に来たのはルイズが目を覚ます数時間前である為、事実上結構な時間が掛かったことになる。

鈴仙はともかく永琳としては思ったより時間を掛けたのだから何か面白い物でも見れたらいいなと思っていたが、結局何の異常も無く少しだけ落胆していた。

人間でも妖怪でもない―蓬莱人―の内一人である永琳にとって、外の世界とは違う異世界の人間を調べるという事はちょっとした楽しみなのである。

(後の楽しみといえば…この血液だけね)

永琳は心の中で呟きつつ、ポケットから小さなカプセルを取り出した。

 

カプセルの中身はルイズの血液サンプルで、弟子の鈴仙が直ぐに持ってきてくれたのだ。

ルイズが寝ている間に採血し、尚かつバレないよう止血処置を施したためルイズ本人も気が付いてはいない。

(帰って分析してみたら何が出るのやら…)

永琳はそう思いつつ手に持ったカプセルをポケットに突っ込み、ルイズの方へ身体を向けた。

ルイズはというと上半身だけを起こして鈴仙と永琳をじっと見つめていた。

ある程度の緊張感を孕んだ鳶色の瞳を見て、とりあえず永琳は自分の顔に笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「そういえば自己紹介がまだでしたわね。私は永遠亭で薬剤師を勤めている八意永琳。そしてこの娘は弟子のウドンゲといいます」

 

 

そして時間は今に戻り…

 

 

「…そういえば、お前さん大分柔らかくなってないか?」

楽しそうに写真を撮っている文の後ろ姿を眺めつつ、魔理沙は横にいるレミリアに話し掛けた。

「失礼な。私はこう見えても自分の体には自信を持ってるんだけど?」

一方のレミリアは、魔理沙の言った゛柔らかい゛という言葉にムッとした。

妙に可愛い仕草をする吸血鬼を見て魔理沙は軽く笑いつつ言った。

「ハハ…違う違う、性格だよ、性格」

「……?性格ですって」

レミリアはというと魔理沙の言葉にいまいち判らなかったのか首を傾げてみせた。

 

 

「あぁ、いつものお前ならあの時の咲夜を止めたりなんかしないだろう?」

魔理沙はそう言いつつ、目を覚ましたルイズが霊夢の所にやってきた時の事を思い出した。

 

 

 

 

「おはようと言ったら言いのかしら…それとも今晩は?」

「うぅん…多分おはようよ。―――で、貴女は誰?」

「おぉ、こいつが噂の異世界人とやらか?まるで人形みたいじゃないか」

霊夢はようやく起きて自分の所へやってきたルイズの方へと近寄りつつ、冗談気味にそう言った。

一方のルイズはそんな冗談に真面目な答えを言いつつ、霊夢の近くにいた魔理沙へと視線を移した。

もうすぐ夕日が沈む時間帯だというのに未だ暢気にお茶飲んでいた魔理沙はルイズの姿を見て嬉しそうな表情を見せた。

 

 

ルイズは魔理沙の服装から一瞬メイジかと思ったが(マントがないので貴族ではないと一目瞭然)命の次に大事な杖すら手に持っていない。

もしかしたら何か特殊な――仕込み杖の類かも知れないと思い、すぐさま魔理沙が手に持っている箒の方へと視線が移った。

しかし、どこからどう見てもタダの箒にしか見えず、とりあえずルイズは詳しく聞いてみることにした。

「貴女、見たところメイジっぽい服装してるけど杖は持ってないし…とにかく名前を言ってくれないかしら?」

「まぁ自己紹介はするさ。でも先に名前を名乗ってくれないと困るぜ。うっかり先に名前を言って呪われたら大変だからな」

呪いなんて出来ないわよと思いつつ、ルイズは自らの名を名乗った。

「ルイズ――――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

彼女のフルネームを聞いた魔理沙は少しだけ目を丸くしたが、すぐに元の表情に戻った。

「………う~ん、わかった。とりあえずルイズって呼ばせて貰うぜ」

結局それかい!―――っと、突っ込む気にもならないほど疲れていたルイズはとりあえず魔理沙の言葉に頷いた。

それを了承と受け取った魔理沙もまた頷くと被っていた黒い帽子を取り、自己紹介をした。

「私の名は霧雨魔理沙。見ての通り人間で…普通の魔法使いさ」

うだつの上がらない表情で魔理沙の自己紹介を聞いていたルイズは゛魔法使い゛という言葉にキョトンとした。

 

 

「魔法使い?メイジじゃなくて?」

「あぁ、普通のメイジならぬ普通の魔法使いさ」

メイジも魔法使いも同じ意味なのに…と思いつつルイズは不思議そうな顔になって首を傾げた。

そんなルイズを余所に、霊夢はふとある事に気づき魔理沙に話し掛けた。

「そういえば魔理沙、アリスの姿が見あたらないんだけど?」

「え?…あぁそういえばアイツ、今日はパチュリーに聞きたいことがあるって言ってたな」

 

 

もったいない奴だぜと呟きつつ魔理沙は空を見上げるた。もうすぐ日が沈む時間帯である。

カーカーと鳴きながら飛んでいく鴉の群れを見つつ、ふと魔理沙は霊夢にこんな事を聞いてみた。

「そういえばさ霊夢…射命丸の奴は何処いったんだよ?」

「射命丸ならちょっと写真機の調整してくるとかいって戻っていったわ」

魔理沙と同じく沈み行く太陽を見つめつつ、霊夢はその質問に答えた。

「じゃあ永琳と鈴仙はどうした?あいつらなら社務所の中だろ」

その質問には霊夢ではなく、ルイスがご丁寧に答えてくれた。

「あの二人ならすぐ戻ってくるとか言って人里とかいう所に行ったわよ…」

というよりこんな辺鄙な所に人が住んでるのね…と呟きつつルイズもまた夕日を眺めた。

三人で幻想郷の夕日を眺めつつ、魔理沙がポツリと呟いた。

「なぁ霊夢、大丈夫なのか?文と永琳が来たんなら間違いなくアイツもお前の顔を見に来るぜ」

少し心配そうな魔理沙の言葉を聞きながらも、霊夢もまた魔理沙と同じ事を考えていた。

「…多分大丈夫でしょ?紫もなんとか出来たって言ってたし」

面倒くさそうに霊夢は言いつつ、お茶を啜ってたそんな時――彼女は訪れた。

 

 

―――今晩は霊夢に魔理沙。それと異世界人

 

 

ガラスで出来た鈴の様な綺麗な少女の声が何処からか聞こえてきた。

まずルイズがその声に素早く反応し、立ち上がると辺りを見回し始める。

魔理沙もまた何かを感じ取ってルイズと同じく立ち上がった。

一方の霊夢はというと縁側に座っているもののその眼は鋭くなっていた。

だが社務所から見える範囲にはその声の持ち主の姿は見あたらず、何処にいるのかさえ判らない。

 

 

――――随分警戒しているようね。貴方達が思っている程今の私は怒ってはいないわ

       それに今夜は色々と神社で話し合いがあるって。あのスキマ妖怪が言ってたでしょう?

 

 

再び何処からか声が聞こえ、ルイズの不安を益々募らせていく

(姿が見えない…一体何処から聞こえてくるというの?)

ルイズは姿の見えない相手に戸惑いつつ、杖を手に取りいつでも詠唱できるよう準備した。

ただ霊夢と魔理沙だけは、特定の部分――陽が当たらず影となっている場所――を凝視していた。

霊夢は目を鋭く光らせ、魔理沙もまた帽子のつばを上げて見つめている。

すると突然、何処からともなく三匹の黒い蝙蝠が飛んできて、境内の真ん中をグルグルと飛び回り始めた。

時間が経っていく内に次第に四匹、五匹、六匹、七匹…と増え始め、蝙蝠の群れが段々と黒い渦となっていく。

その光景を見てルイズはたじろぎながらも、杖を持つ手の力を緩めずいつでも蝙蝠の群れに魔法を放てるよう準備した。

蝙蝠の群れは暫く境内の真ん中で大きな黒い渦を作っていた。

しかし太陽が段々と沈んで行き、神社の境内が薄暗くなったとき――変化が起こった。

「あっ…蝙蝠が…」

ルイズはその光景に目を丸くし驚くが、無理もないであろう。

何せ先程まで大きな渦を作っていた蝙蝠の群れが影と共に瞬時に消え失せてしまったのだから。

一体何が起こったのかとルイズが思った瞬間――自分のすぐ近くから声が聞こえてきた。

 

 

「杖を使う魔法使いなんて久しぶりね―――粉々にしたらどれ程怒り狂うのかしら?」

 

 

随分と嬉しそうに言いつつ、その声の主である少女はルイズの杖の先端をつついた。

「…っ!?」

ルイズは咄嗟に後ろに下がるとその少女の姿を見て、これでもかと言うぐらいにカッと目を見開く。

そこにいたのは、まるで人形かと見紛うばかりの紅い瞳の可愛い少女がいた。

薄ピンクの可愛いドレスを身に付け、頭には紅いリボンがついたドレスの色と同じナイトキャップを被っている。

そこだけ見れば本当にただの少女であった。―――しかし、ルイズは咄嗟に少女の背中に何かが生えている事に気が付いた。

下手すればルイズの身体幅よりも大きい一対の黒い蝙蝠の羽が生えている。

ルイズはその翼を見て目を見開いたのだ―――この娘、人間じゃない!と。

驚くルイズを見てか、少女はまるで嘲笑うかのように自分の口を三日月の様に歪めた。

 

口の中には、一目でわかる程度の犬歯が生えていた。

ルイズはそれを見て、一瞬だけ自分の頭の中を閃光が走っていったのに気が付いた。

翼などは無いが、自分の中の知識が正しければあれ程大きい犬歯を持った亜人はたった一種しかいない。

 

 

「吸血――――――

 

 

目の前にいる亜人の名前を叫びつつ、ルイズは咄嗟に杖を少女の方に向けて自分の失敗魔法をぶつけようとした。

霊夢と比べれば多少劣るが、それなりにルイズは色々と鍛えている。

座学や簡単なポーションの作り方は勿論、乗馬や杖の早抜きといった事も一通りこなしていた。だというのに…

 

 

――――鬼ィ!………ッッ!」

気づけばルイズは―――――

「随分達者な運動神経ね?」

いつの間にか後ろにいた咲夜に杖を持っていた方の手を捻り上げられていた。

 

 

捻り上げられた手から伝わってくる鋭い痛みに耐えながらも、ルイズはなんとか後ろを振り向く事できた。

ルイズの手を掴んでいる咲夜は顔に人を小馬鹿にしたような薄い笑みを浮かべていた。

痛みに耐えながらも、ルイズはなんとか口を開いて咲夜を怒鳴りつける。

「なっ…、誰よ貴女は!?は…離し――」

「離したら、お嬢様を傷つけるつもりなんでしょ?全く、手癖の悪い子猫ね」

しかし、言い終わる前に咲夜はルイズの言葉を遮ると、ルイズの手を掴んでいない方の手で小さなナイフを取り出した。

今まで黙っていた魔理沙はナイフを使って何かしようとしている咲夜に、声を荒げた。

「おい、よせよ咲夜…!」

「別に傷ものにしようだなんて思ってないわ。ただ手癖が悪いようだから少しだけ動かなくさせるだけよ」

咲夜は軽い感じで魔理沙にそう言うと、ナイフを逆手に持ち替えた。

それを見た霊夢が今にも身体を動かそうとしたとき、何者かが咲夜を制止した。

「咲夜、そこまでにしておきなさい。どうせ放しても私に害を与えないわ」

 

その声の主は魔理沙や霊夢でもなく、ルイズの目の前にいた吸血鬼であった。

吸血鬼に制止された咲夜は一瞬だけ考えるような素振りを見せた後、「仰せのままに」と言ってルイズを解放する。

持っていたナイフも瞬時に消え、魔理沙は安堵したかのように溜め息をついた。

解放されて思わず杖を取り落としたルイズを横目で見つつも、霊夢がふと口を開いた。

「どうやら、紫の言ってた事は本当みたいね」

それはルイズに出はなく吸血鬼に対しての言葉であり、吸血鬼もまた言葉で返した。

「あいつの言葉に踊るのは癪だが、そうでもしないと本末転倒さ」

霊夢は吸血鬼の口から出た「そうでもしないと本末転倒」という言葉に眉をしかめた。

「……?どういう事よ、本末転倒って」

「庭を荒らす連中を怒りにまかせて消してしまえば。理不尽にも庭ごと消滅してしまうのよ」

吸血鬼はそう言うとルイズの方へと顔を向け、垂直の瞳孔を持つ紅い瞳がルイズの鳶色の瞳を見つめ始めた。

まるで何かを見定めているかのように、吸血鬼は全神経を自分の目に集結させている。

「……ふぅん?常人よりちょっと上の苦労を積み重ねてるようね…しかし、それでいて決して報われていない…」

自分の瞳を凝視しつつ何かブツブツ独り言を言っている吸血鬼を警戒しつつ、ルイズは取り落としてしまった杖を拾おうとした。

しかし、それよりも先に吸血鬼がその杖を拾い上げてしまい、その両手で弄くり始めた。

 

「この杖はお前の苦労を知っている。だからどんなに傷つこうがお前の手許にいるのさ」

吸血鬼はそんな事を呟きながら人差し指でルイズの杖をなぞった後、それをルイズの方へと放り投げた。

ルイズは咄嗟にその杖をキャッチしたが、先程と違って吸血鬼の方へと杖を向ける気は失せていた。

自分に顔に向けられている紅い瞳と、小さな身体には不似合いなほどの大きな蝙蝠の羽が威圧感を放っている。

ハルケギニア狡猾な亜人としてのイメージがある吸血鬼のイメージにはそぐわない、吸血鬼であった。

そんなルイズの様子を見て吸血はその顔に笑みを浮かべ、彼女に向かって話し掛けた。

 

 

 

「ようやくわかってくれた様ね?私は貴女に危害は加えないし、貴女は私に危害を加えない

 それは何故か――?…そうなるように運命が進んでいるからよ。まるで分刻みのスケジュールの如く…

   今この時だけは、だれも傷つかないように定められているの。…でも、それは決して誰にもわからない。 

   だけど―――私にはそれがわかるのよ。そしてわかるからこそ操ることも出来る―――

 

 

 

                                         ―――それがこのレミリア・スカーレットの能力よ」

 

 

吸血鬼、レミリアは自らの自己紹介を交えつつもそう言った。

ルイズは自己紹介にただただ呆然とするしか無かった。

レミリアは、自分の話を聞いて呆然としている少女に向けて、微笑みを浮かべる。

 

「ようこそルイズ・フランソワーズ、感謝するわ。わざわざ霊夢を連れて来てくれて。お陰で乗り込む手間が省けたわ」

 

 

 

 

レミリアが自己紹介をした後、霊夢はルイズにある程度の説明をする事となった。

「まぁ確かにコイツは吸血鬼だけど無闇に人を襲うような事はしないわよ。多分」

とりあえずはその言葉に安心したルイズは、それでも吸血鬼に近づきたくないのか霊夢の後ろにいた。

そして文と永琳達が戻ってくるまでレミリアは睨んでみたり腕を上げるといった何気ない動作でルイズを怖がらせていた。

「どうやら貴女の世界でも吸血鬼は随分と恐ろしい存在なのね」と笑い転げたところで、霊夢に叩かれた。

 

 

それから数十分後、まるで見計らっていたかのように戻ってきた文が記念写真にとルイズと霊夢を撮影し始めた。

それからすぐにして永琳達も神社の方へ戻ってきたのを見て、これは何かあるなと思った魔理沙は神社に残ることにした。

ついでに、どうせならと思って先程話し合いとか何とか言っていたレミリアに聞いてみたところ。

「話し合い?えぇ、あるわよ。霊夢とその側にいるルイズとかいう奴に言いたい事があるらしいわ」

「ふ~ん、じゃあ何で永琳やお前達までいるんだよ?」

魔理沙の質問に、レミリアは少し不満そうな表情を浮かべつつ、こう言った。

「知らないわよ。アイツはアイツで色々と秘密にしてるし」

レミリアからの返答を聞いた魔理沙は自然と肩を竦めた。

 

 

 

 

そして時間は今に戻り…

 

 

「ホント…ちょっとしたビックリと自己紹介だけで良く済ましたもんだな。この前まではカンカンだったのに」

数日前のレミリアを知っていた魔理沙はつい数十分前までの事を思い出しつつ、そう言った。

異世界に乗り込んでるわーと意気込んでいたレミリアを知っていた魔理沙は、あの時の彼女がどれ程怒っていたのかよく知っていた。

 

 

――――あなたは許せるかしら?他人に自分の庭を飾るのに一番大切な物を勝手に奪われ、

                             尚かつその庭を守るレンガに落書きをするような下衆共を

 

 

あの言葉を聞いて帰宅した魔理沙は、食事を取るのも忘れて寝てしまった。

しかし、目を瞑ってもあの時のレミリアの顔が瞼の裏に浮かび上がり寝るに寝れなかったのだ。

その時と比べれば大分柔らかくなったなぁ~と魔理沙は思っていた。

一方のレミリアは納得いかない、と言いたげな顔をしつつこんな事を言った。

「私は弱すぎる奴を徹底的に潰すのは好きじゃないの。やるならもっと大きい奴じゃないと気が済まないわ」

「大きい奴…?」

魔理沙はレミリアの言葉に首を傾げつつも、最近博麗神社に訪れるようになった鬼の事を思い浮かべた。

そんな時、ルイズ達のいる方から元気そうな声が聞こえてきた。

「ほらほらぁ~、ちゃんと笑顔になってくれないと良い写真になりませんよ?」

「っていうか何よその機械は…?さ、さっきから何か変な音が聞こえてくるんだけどぉ…」

見たこともない写真機に少し怖がっているルイズの姿を見つつ、文は楽しそうに撮影している。

人里から戻ってきていた永琳と鈴仙は社務所の縁側に座りつつ、その様子を眺めていた。

 

「客寄せパンダ…というのは彼女の事を示すんでしょうね」

写真機のフラッシュとシャッター音に怯えているルイズを見て、鈴仙はポツリと呟いた。

何の感情も伺えない瞳でルイズを見ていた永琳は、弟子の発言にこう答えた。

「どうかしらねぇ、私にはパンダというより猫みたいな感じがするわ。…アメリカンショートヘア、もしかするとアメリカンカールかしら?」

「種類まで言うんですか…まぁでも確かに、猫耳つけたら似合いそうですね」

真剣そうな永琳に鈴仙は冷や汗を流しつつも、猫という答えにはある程度納得していた。

そんな弟子の言葉に、永琳はその顔に妖しい笑みを浮かべるとこんな事を言った。

「猫耳ね…本人から許可が取れたら付けてみようかしら?」

永琳の言葉に、鈴仙は首を傾げた。

「…え、なんで許可を貰う必要があるんですか?猫耳といったらあの猫耳バンドでしょ?」

弟子の発言に、永琳は首を振ると自身満々に喋り始めた。

「そんな偽モノじゃあ駄目よ、ちゃんとした猫の耳を自分の耳として使えるように移植して…」

「えぇ!?まさか本物の猫耳をつけようと言うんですか!」

そんな風に各々が神社の境内で過ごしている内にどんどんと辺りは暗くなっていく。

そろそろかがり火でも焚こうかしらと霊夢が思った丁度その時、ふと上空から聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。

 

 

「――――どうやら、呼んでいた者達は全員来ているようね」

 

 

最初に気が付いた鈴仙がすぐさま空を見上げてみると予想通り、八雲紫が隙間から顔を覗かせていた。

紫に気づいたレミリアは不満そうな表情を浮かべつつ、紫に話し掛ける。

「遅かったわね八雲紫。一体何処で油を売っていたのかしら?それに西行寺の亡霊も来てないわよ」

ついでレミリアは以前紅魔館での話し合いに来ていた幽々子が来てない事を紫に言った。

「幽々子は幽々子で色々とすることがあるのよ―…っと!」

喋りつつも空中に出来た隙間からぬるりと出てきた紫はゆっくりと境内に降り立った。

鈴仙に続いて気づいた他の者達も紫の方へと視線を向け、まず最初に魔理沙が声を掛けた。

「よぉ紫。何か面白そうな事になってるじゃないか?私も混ぜてくれよ」

黒白の魔法使いが愛嬌のある笑顔で手を振ってそう言うと、ルイズの傍にいた文も紫に声をかけた。

「これはこれは紫さん。神社の方で何やら面白そうな事があると聞きましたが…どうやら本当みたいですね」

「あら、魔理沙にカラスの文屋までいるじゃないの?こうなるなら、貴女たちも呼んでおくべきだったわね」

紫は肩を竦めながらそんな事を言うと、ルイズの傍で面倒くさそうな表情を浮かべている霊夢が話し掛けてきた。

「何だか…ちょっとした大事になってるんじゃないの?」

霊夢の言葉に、紫はすこし呆れたと言いたげな表情を浮かべつつこう答えた、

「それに今頃気づくなんてね…貴女はもう少し危機感を持った方がいいわよ?」

次に紫はルイズの方へと近寄り、彼女に話し掛ける。

 

「今晩はルイズ。幻想郷の空気には慣れたかしら?」

「うぅ…郷に入りて郷に従えって言葉は知ってるけど…実を言えば気絶直前だわ」

うだつの上がらないルイズの顔を見て、紫はコロコロと笑った。

「見慣れぬ郷に慣れるのには時間が掛かるものよ。まぁもうすぐ貴女は元の世界に帰るけど」

紫の口から出た「元の世界に帰れる」という言葉を聞き、ハッとした顔になる。

「え?もとの世界って…ハルケギニアに帰れるという事?」

「まぁその前に幾つか教えておきたい事があるわ」

そんなルイズを見て紫は微笑みつつも、こう言った。

 

 

「貴女と霊夢が…今後ハルケギニアでするべき事をね?」

 

 

 

 

トリステイン王国首都、トリスタニアのブルドンネ街。

 

狭い道に老若男女が行き来し、道の端では露店が出ていて商人達が今日も稼ごうと声を張り上げている。

比較的海に近い国のためか魚やムール貝などの海鮮食品が無加工状態で手に入るのだ。

更に塩などはロマリアの次に比較的安価で売られている為。街の人々は調味料に困ったりはしない。

酒場やレストラン、宿屋も街のあちこちにあり他国の名のある貴族達もブルドンネ街に観光目的だけで訪れる事も少なくはない。

そんな街の一角に、大きな噴水が設置された広場があり、この街では公共の場として市民達に愛されていた。

毎日毎日色んな人達がこの広場で休み、街の喧噪や何処からか流れてくるラッパや合唱を聞いて空を仰ぐ。

 

今日は珍しく人がいないものの、何処からか聞こえてくるバイオリンの繊細な音色に耳を傾けている少女が一人いた。

「あら、今日はバイオリンの音が聞こえてくるわ」

果物が二、三個入った茶色い袋を両手で抱えながら、シエスタは誰に言うとでもなく呟いた。

彼女は魔法学院で給士として働いている彼女であるが、着ている服はいつものメイド服ではない。

茶色のスカートに木の靴、そして草色の木綿のシャツ。シエスタが実家を出る際に持ってきた私服である。

 

今日は久々に休みが取れた為、こうして私服姿で街を歩いていた。

お使い以外に滅多に街へ来ることの無いシエスタにとっては、唯一の楽しみでもある。

生まれ故郷が首都から離れた村ということもあって、トリスタニアは娯楽に溢れていた。

それに、チクトンネ街には母方の叔父が店を開いており、袋に入っている果物もその叔父と店の人達にあげるためのものである。

シエスタは早くに店に着きたいなーという一心で広場を通ってチクトンネ街の方へ行こうとしたとき、ふと誰かが声を掛けてきた。

「よぉよぉお嬢ちゃん。なんだか嬉しそうだけどどうしたの?」

やけに軽い感じの声を耳に入れたシエスタが振り返ると、そこにはやけに軽い服装の男が三人もいた。

最近街で流行っている男性向けの黒いシャツを着こなし、真鍮のネックレスを首からぶら下げている。

後の二人も同じような服装ではあるが、誰一人としてマントをつけていない事から貴族ではないようだ。

「えっと…、あなた達はもしかして、私に声を掛けたんですか?」

今まで見たことがない感じの男達に、シエスタは怪訝な顔つきになった。

一方の男達もシエスタの言葉にウンウンと頷くと先頭の一人が口を開いた。

 

「そぉだよ。…いやぁー実はオレ達新しく出来たカッフェていう店に行こうと思ったんだけれど男三人だとどうにも、ね…?

 だからさー、偶然出会った美しい君と一緒にお茶を飲みたいと思って…あぁお代は勿論僕達が支払うから」

 

男は長々と喋りつつも流し目を送り、キョトンとしているシエスタの気をなんとか引こうとしている。

しかし、今まで出会ったことのないタイプであった為か、シエスタはその流し目に気づかなかった。

「すいません、ご厚意だけは受け取りますけど何分急いでますので…」

申し訳なくそう言いつつ、自分を口説こうとした男に向かってシエスタは頭を下げた。

ついこの間、モット伯に手を掴まれたシエスタは、見知らぬ異性に対してある程度の警戒心を抱いていた。

早くここから立ち去らなければいけないと思い、シエスタは早足でこの場を立ち去ろうとした。

しかしそんな彼女の手を、男達は突拍子もなくいきなり掴んだ。

「ちょっと待ってよぉ~。別に誘拐しようなんて気は無いんだってば」

「は、離してください…!」

いきなり手を掴まれたシエスタは襲いかかる不安をはね除けるために手を振り解こうとした。

しかし男は手の力を更に強め、後ろにいた二人がシエスタを周りを囲もうとした。その時―――!

 

ヒュン――――ガッ!

 

「イィ゛ィッ!」

突如どこからか勢いよく飛んできた小さな物体がシエスタの手を掴んでいた男の後頭部に直撃した。

男は頭を抑えつつその場にヘナヘナと尻もちをついた。

「おっ…オイ、どうしたんだよ!…って、何だコリャ?」

倒れた仲間に驚いた一人が傍へ近寄り、その近くに水色の小さな水晶玉が転がっているのに気がつく。

水晶玉といっても半分ガラス細工のような物であり、所謂゛ビー玉゛と呼ばれる代物である。

その時、彼らの後ろから快活だと思わせる元気な少女の声が耳に入ってきた。

 

「それが此処でのナンパか。ハッキリ言ってそれだと普通の女は引くぜ?少なくとも私は一発殴りたい気分になる」

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