ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第三十八話

トリステイン魔法学院の警備を務めている学院衛士隊には幾つかのグループが存在する。

夜間や授業中の時間帯に学院内の警備をするグループと宝物庫などを見張る精鋭グループ。

そして外部からの侵入者を見つけるために学院の出入り口や城壁の上で一日を過ごすグループ。

これらを全て合わせれば約七十人程の規模を持つ学院衛士隊の者達ではあるが、これらを大きく二つに分ける事が出来る。

それは、「朝から夜まで働く者達」と「夜から朝まで働く者達」だ。

魔法学院の一角には、小さな宿と同じ大きさ程度の二階建ての宿舎が二つ存在する。

一つはコックや給士たちが寝泊まりするための場所で、食堂の近くに建てられている。

そして二つめは学院の警備をする衛士の宿泊施設であり、夜中になっても未だに一階の明かりがついていた。

 

一階には待合室や食堂、不審者を入れる為の牢屋などがあり、そこにいは何十人もの衛士達がいる。

仲間同士酒を呑んだり自分たちの持ち金を賭けて博打をしたりと、夜の時間を満喫している。

彼らは皆夜間の仕事につく者達であり、既に昼夜逆転生活が身体に染みこんでいた。

一方、明かりのついていない二階には衛士達が寝る為の部屋がある。

そこでは明日の朝早くからの仕事に備えて何人かの衛士達が寝息をたてていた。

 

 

「おーい、お楽しみ中悪いがそろそろ交代の時間だぞー!」

ポーカーや酒を飲んでいた数人の衛士達の耳に、そんな言葉が入ってきた。

何人かがそちらの方へ目をやり、声の主が自分たちと同じ場所で寝泊まりしている同僚のものだと知って微笑む。

「もうそんな時間か…おいお前ら!交代の時間だ!さっさと準備しろよ」

隊長と思われる身体の大きい衛士は手に持っていた酒瓶をテーブルに置くと壁に立てかけていた槍を手に取りつつ大声で叫んだ。

それを聞いて他の隊員達も手に持っていた酒瓶やトランプカードを手近な場所へ置き、それぞれの獲物を持ち始める。

何人かは怠いだの面倒くさいだの、と愚痴を漏らすがそれでもテキパキと動いて外へ出る支度を済ませた。

 

「じゃ、まだ向こうにいる連中に返ってくるよう伝えといてくれよ!」

「わかってるって!」

そんな会話一言二言交えた後、宿舎にいた衛士達は皆武器を持ってそれぞれの仕事場へと行った。

後に残ったのは交代を伝えに来た衛士一人と、それ以外では二階で寝ている仲間達だけである。

二階で寝ている同僚達は朝の仕事があるから起きないので、実質この宿舎には警備の衛士が一人しかいない。

男は一人取り残されたような気分を味わいつつも、何か酒と美味しいつまみは無いかと辺りを見回した。

周りにあるテーブルの上には、同僚達が食い散らかしたチーズや白パン、ワインの空き瓶などが散乱している。

ここが給士やコック達の宿舎ならば散らかした者は大目玉を食らっているが、ここは衛士達の宿舎。

家事を知らぬ男達で溢れたこの建物では、何年も前から見慣れた光景と化していた。

衛士は空き瓶はあれど、手を付けていないワインが無いことに苛立って舌打ちをしてしまう。

そんな時、数日前ぐらいに給士達が差し入れにと持ってきてくれたワインの入った樽を思い出した。

「くっそ…あるとしたら裏口だな…」

男は一人呟きつつもテーブルに置かれていたコップを手に取り、裏口の方へと向かった。

 

裏口には衛士の言ったとおり、大の大人一人分ほどの大きさの樽が置かれていた。

樽のラベルには【タルブで作られた最高の赤ワイン】という文字が書かれている。

そのラベルの真下には小さなマジックアイテムが貼り付けられており、冷たくて白い霧が放出している。

これは戦争の際、将校や兵士達の食料や飲料水、ワインを保管する容器や袋の温度を保つ為に製作されたものだ。

簡単な魔法が扱えるメイジだけでもこのマジックアイテムを起動させる事ができ、大変便利な物である。

これと似たような物で少し広い空間を冷やすというマジックアイテムがあるが、性能を比べるとユニコーンとボルボックス程の違いがある。

 

それ程の高級品がこのような場所で見れるという事は即ち、この魔法学院がどれほど名高い所なのかを証明している。

「おっほ!あったあった!!」

衛士は飛び上がらんばかりに喜ぶとそさくさとワインの入った樽へと近寄る。

そしてコップを足下に置くと樽の上についた取っ手を手に持ち、勢いよく上へと引っ張った。

普段から鍛えられてい衛士の腕力によって子供一人を隠せる程の大きさを持つ樽の蓋が取れた。

衛士は手に持った蓋を裏向けにして地面においた後、再度コップを手に取り樽の中に入っている液体をくみ取る。

樽の中に入っていた赤ワインは宵闇の所為か、どす黒い色に見えたが衛士は気にもしない。

コップに入った赤ワインを見てゴクリと喉を鳴らし、衛士はそれを一気に口の中に入れ、飲み込んでいった。

 

「―――プッ…ハァ!!!…やっぱり仕事が終わった後の一杯ってのは、最高だなぁ!」

アルコールが一気に体内にまわったのか、衛士は頬を赤く染めながら嬉しそうに叫んだ。

やはり人間、苦労の末に飲めるお酒を相手には太刀打ちできないものだ。

 

 

だが彼は知らない。

仕事の後の一杯を、宿舎の屋根から見つめている黒い異形の姿に…

 

 

同時刻、トリスタニアの郊外の一地区―――――

 

ゴーストタウンと化したこの地区には深い深い闇が辺りを包んでいる。

唯一の明かりといえば浮浪者達が作った焚き火だけであり、貧弱なものであった。

この地区に住んでいる者達は社会から見放された者達である。

彼らはここに長く住みすぎたせいか夜行性の動物と思えてしまうほど夜目が利くようになってしまった。

そうなってしまえばかえって明かりなどは視界を遮る障害物となり、暗いところを好んで歩くようになってしまう。

そしてそんな連中ほど、常人では聞くことの出来ない恐ろしい情報を知っているものだ…。

 

 

「お恵みを…どうか。この目の見えぬ老いぼれに金貨の一枚でも…」

人が通りそうにないゴミが散乱した古びた路地裏の端で、一人の老人がボロボロのスープ皿を掲げてひとり呟いてる。

顔を隠すほどに生えた白い髯はボロ雑巾のように薄汚れており、漂ってくる臭いも普通ではない。

両目の色は言葉通り、病気か何かで失明してしまっているのか鈍い真鍮色となっている。

そんな生きているのか死んでいるのかもわからない老人が人気のない裏路地で一人寂しくスープ皿を掲げる。

普通の人間ならば近づくことはおろか、視線をそちらへ向けることすら躊躇うに違いない。

綺麗なところで育った人間は綺麗なところにしか行けず、仮初めの真実しか見る事が出来ないのだ。

「お恵みを…お恵みを…」

今夜もまた、誰も来ぬというのに老人は一人空しく皿を掲げるのであろうか?

 

否…今日に限ってその老人の前で、二人の美女と一人の男が立ち止まった。

3人とも同じフードを被っており、その顔を隠している。

最も、闇が深い今夜では被っていてもいなくても同じなのだがもしもの時に備えてのことだ。

3人の一番後ろにいた女性がツカツカと前に出てくると、懐から金貨を5、6枚取り出した。

「恵まれぬ老人よ、始祖に代わり申してこの私が祝福を授けましょう」

女性はそう言った後、老人が掲げるスープ皿の中に金貨を落とした。

チャリンチャリン、と景気の良い音を響きながら皿の中に入った金貨の音を聞き、老人の体は歓喜に震える。

「お、お、おぉ…何処の何方か存知はせぬが…あなた様は始祖よりも慈悲深い御方じゃ…」

ロマリアの神官や聖堂騎士が聞けば異教徒とわめき立てるであろう老人の言葉に、三人もある程度同意した。

清く正しく生きる者達が床をはいずり回って暮らし、逆に畜生の道を歩む者達が贅の限りを尽くして暮らしている。

前者の世界で暮らす者達はともかく、それよりも下の者達にとっては、神を崇めることに何の価値も見いだしてはいない。

唯一崇拝するものは、温かい服と食事とベッド――ただそれだけである。

 

「ならば老人よ、出来るのであらば私たちをある場所をへとご案内していただけないだろうか?」

フードを被った男性は、スープ皿から取り出した金貨を懐に入れている老人へ話し掛ける。

男の体はいかにも戦士という体格の持ち主で、コボルドを素手で殴り殺せそうな感じであった。

老人は男の言葉を聞いて体を一瞬だけ強ばらせたものの、落ち着いた口調でこう答えた。

「わたしは浮浪の身です…。今日の寝床さえまだ確保できておりませぬのに…」

その言葉に、今まで黙っていた二人目の女性が口を開いた。

 

「いいえ、貴方は知っている筈です。この世に忘れられた学者の居場所を…」

そこまで言った直後…ビュウッ!と強い風が吹き、三人の被っていたフードをはぎ取った。

フードの下に顔を隠していた三人の正体は…アニエスとミシェルであり、そして二人の上司である隊長であった。

 

 

トリステイン魔法学院の男子寮塔と女子寮塔には一つずつ事務室がある。

塔の一階に設けられたその部屋には学院で勤務する教師達が交代で部屋の中で寝泊まりをする。

二人の教師が部屋に入り、もしもの時に備えてここで待機しているのだ。

しかし部屋が一階に設けられている所為か、上階の部屋にいる生徒達が何をしているのかという事は全くわからない。

それでも、万が一の自体を想定しているためかこの部屋にはいつも教師が二人以上いた。

 

その日もまた、いつも通り二人の女性教師が部屋の中にいた。

最も、一人はベッドで横になって寝ておりもう一人は部屋の中で本を読んでいた。

部屋の明かりは仕事机の上に置かれたカンテラ一つだけであり、なんとも頼りない灯りであった。

「やれやれ…こうも暗い夜だと何かが出そうでイヤになるわね…」

読んでいた本を机の上に置き、ひとり呟きながら教師は窓から外の景色を見つめた。

彼女の言うとおり、月明かりがない所為か外はとても暗く、一メイル先の景色すら見えない。

その後、彼女は何日か前に読んだホラー小説の内容を思い出して身震いした。

「うぅ…こういう時に限って変な事が起こるのよね…」

冗談を交ぜつつそう呟いた瞬間、ふと手元から奇妙な音が聞こえてきた。

 

チリン…チリン…

 

鈴の音に聞こえるその音をに彼女は一瞬だけ体をビクリと震わせたが、

すぐにその音の正体が何なのかを思い出し、安堵の溜め息をついた。

それは仕事机の上に置かれた手のひら程のサイズしかない小さな小箱で、特に変わったところはない。

しかしこれでも立派なマジックアイテムの一つであり、センサーのようなものである。

使い方は簡単で、この小箱の中に入っているいる小さな緑色の玉を置いておきたい場所に置く。

それだけしていれば、玉を中心にかなりの広範囲で特殊な音波が出る。

その音波に何か人間ほどの物体が引っかかれば即座に小箱が反応して音を出す――といったものだ。

 

(もしかすると警備の人かしら?でも早すぎるような…)

これまでもずっと人間にだけ反応していたマジックアイテムに、教師はふと疑問を抱いた。

一応生徒達の寮塔にも警備の衛士達が巡回するようになっている。

その時は事務室にいる担当の教師に一声掛けた後、教師を一人連れて塔の各階の廊下やトイレを見て回る。

しかし、警備に来る時間はいつも深夜の1時頃だというのに、時計を見てみるとまだ夜の10時もまわっていない。

おかしいなと思ったとき、ふと彼女は上の階で寝ている゛筈゛の生徒達を思い浮かべた。

(まさか、生徒が夜中に抜け出そうとしてるのかしら…)

この魔法学院では基本、消灯時間後に部屋から出る事は禁止とされている。

しかしここの生徒達の中にはそんな規則知るもんかと言う風にこっそりと部屋を抜け出す者が多い。

大抵の生徒達はフライの魔法を駆使して部屋から出るのだが何割かの者達は律儀に塔の出入り口を使う者もいる。

当然事務室には教師達がいるのだが大抵は居眠りしているため生徒達に気づかないのだ。

そして今夜も又、教師達はとっくに寝てると思って誰かが堂々と一階へ下りてきたのであろう。

「もしそうだとするならば…ちょっとした大目玉を喰らわしてやらないとね…」

 

本来なら尊ぶべきである教師をバカにするような生徒達の行動に、彼女は怒りを露わにした。

席を立ち、テーブルに置いていたカンテラの持ち手を握り、ドアの方へと向かう。

まだ音が出始めて数十秒も経ってはいないので、最悪塔の出入り口で犯人の顔を拝むことは出来るはずだ。

規則に反する行為を行おうとした生徒の顔は一体どんなものかと想像しながら、彼女はドアを開けた。

驚いたことに、゛生徒と思われる゛黒い人間サイズの゛何かが゛ドアを背にして突っ立っている。

一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに目を細めてその陰に向かって大声をあげた。

 

「コラァ!!一体こんな真夜中に何処へ出歩こうと…」

そう叫びつつも彼女はカンテラを体の前に突きだした。瞬間―――――

 

ギィエェエエエッエェェェェッェェェエエエエッエェェェッ ! ! ! 

 

゛人間だと思っていた゛影は奇声を上げ、振り向き様に教師が突きだしていたカンテラを思いっきり叩き飛ばした。

 

 

一方、ルイズの部屋――――――

 

―――…エェェエエェェェ…!

 

「!?」

突如下の階から聞こえてきた人とは思えぬ奇声に、霊夢は勢いよく立ち上がった。

顔は真剣そのものであり、どう見ても寝ぼけているとは思えないような表情を浮かべている

先程まで睡魔に勝てずコクリコクリと頭が上下に動いていたのが嘘のようだ。

「予想はしてたけど、やっぱり人が一番迷惑するような時間帯に来るわよね。ホント」

自分の勘が的中したことと、これで明日は寝不足になること間違い無しという事に苛立ちを覚えつつ呟いた。

そして、先程の奇声が聞こえてから数秒後…小さいながらも今度は女性の悲鳴が聞こえてくる。

先程の奇声よりかは大分小さいものの、今の霊夢の耳にはその悲鳴がちゃんと聞こえていた。

霊夢は舌打ちをするとすぐさま壁に立てかけていた御幣を手に取り、次にテーブルに置いたお札を掴んだ。

次いで常に隠し持っている針もちゃんと数に余裕があるのかを確認した後、窓を開けて飛び立とうとした。

しかし、床を蹴っていざ窓の外へ飛び出そうとしたとき、霊夢の体がピクリと止まった。

 

誰かに見られている感じがする…――――。

 

ふと背後から誰かの視線を感じ、霊夢は咄嗟に後ろを振り返った。

霊夢の後ろにあるのは大きなベッド未だにグッスリと眠りこけているルイズと魔理沙がいる。

他には誰もおらず、部屋の中を暗闇が支配しているだけだ。

「気を張りすぎて勘違いでもしたのかしら…?」

霊夢は首を傾げつつそう呟いた後、今度こそ窓から身を乗り出してそのまま飛び上がった。

深い闇が鎮座する空中で霊夢は一体姿勢を整えた後、悲鳴が聞こえた場所へと一気に急降下していった。

 

霊夢がいなくなった後、部屋のドアから解錠するような音が聞こえてきた。

アンロックの魔法を掛けられたドアは音を立てつつもすんなり開き、そこにいた人物の姿が露わになる。

廊下に取り付けられた照明を背後から照らされたそのシルエットは、身長の低い少女であった。

右手には自分の身長よりも古めかしくて大きい杖を持っており、存在感をアピールしている。

しかしそれを見る者は誰もおらず、ルイズと魔理沙は部屋のドアを開けた無礼者の事など知らずに熟睡していた。

部屋のドアを開けた者は、霊夢が下へ降りていった事を確認した後、音を立てずにドアを閉めた。

ガチャリ、とドアの閉まる音が静かな部屋に響き、次いでひとりでに鍵が閉まった。

ドアを閉め、一人廊下に佇む少女はゆっくりと寮塔の出入り口へと歩き出した。

この階にいる生徒達は皆寝静まってしまったのか、それとも聞こえていなかったのか。

どちらかは知らないがその少女以外に、先程の奇声を聞いて廊下へと出ている者は一人としていない。

しかしそれは、今廊下をゆっくりとした歩調で歩く少女にとって好都合ともいえる。

 

何せこれから少女の行おうとしていることが他人に見られれば…

ここに居ることはおろか、自身や親、身の回りの人の命すべてが危険に晒される可能性があるのだから

 

少女―――タバサは空いた手の人差し指でクイッと眼鏡を持ち上げる。

眼鏡越しに見えるその瞳の色はいつもの彼女が浮かべているような色をしてはいなかった。

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