ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第四十二話

霊夢が正体不明のキメラと戦ってから早三日目――

 

 

トリステイン魔法学院にある食堂の朝は早い。

日が昇る二時間前に食堂の厨房で働いているコック達が起床し、朝食の支度を始める。

魔法学院に在学している生徒や教鞭を取っている教師たちは勿論、学院の警備を担当している衛士隊の分もあるのだ。

給士達もそれに見習うかのように起きてテーブルクロスを敷いたり、パンやフルーツを入れる為のバスケットを用意する。

ハルケギニアでも一、二を争う名門校と言われているだけあってかその動きは洗練され、そして無駄がない。

一部の給士達は仕事の合間に軽い会話を交えてはいるものの、手の動きが一切乱れていない程である。

料理を作るコック達もまた一流揃いであり、料理長に至っては自分で店を開いても充分やっていける程の腕を持っている。

他の者達もまた料理の腕には大いに自身があり、また料理長の性格もあってかお互いを信頼しあって働いていた。

 

そうしてゆっくりと、しかし確実に朝が訪れていようとしているなか、食堂の近くに作られた水汲み場に、一人の少女がいた。

彼女が着ている長袖のブラウスに白いフリルが付いた黒のロングスカートは、魔法学院の生徒達に支給されている制服ではない。

かといって教師と呼ぶには余りにも幼く、だけど子供と呼べる程小さくもない。

しかしウェーブのかかった金髪はまだ寝癖がついており、それが何処か子供っぽさを演出している。

人形とも思える程綺麗な瞳が入った眼はとろんとしており、まだベッドに潜っていたいという願望が浮かんでいた。

そうしたければ、紐を使って背中に担いでいる箒を使ってすぐにでも自分が゛居候゛しているもう一人の少女の部屋へと行くことが出来る。

ただそれをすると部屋の主に怒られるだろうし、何より寝起きに説教というのはキツイものがある。

それに、今こうしてわざわざ日が昇る前に外へと出た一番の原因は自分の不甲斐なさであった。

両手で持っていた籠の中に入っている゛大量の洗濯物゛を見て、少女は溜め息をつく。

 

「まったく、霊夢を相手にジャンケンなんてどうかしてたぜ…」

少女、魔理沙は後悔の念が混じった独り言を呟きながら、3人分の洗濯物を洗い始めた。

 

 

それから軽く一時間ぐらい経ったであろうか、女子寮塔にあるルイズの部屋では霊夢が目を覚ました。

ベッド代わりに使っている大きなソファに寝そべったまま目を開けると、数回瞬きをする。

右の耳からは暖炉の中に入れていた薪がパチパチという乾いた音を立てて部屋の中を暖めていた。

(あぁそういえば、魔理沙のヤツは洗濯に行ってるのよね…)

次に眼を動かして、魔理沙がいないのとルイズが未だ寝ているのを確認した後、ゆっくりと上半身をおこした。

体の上にかかっていた柔らかいシーツをどけると大きな欠伸をし、枕元に置いていた靴下を手に取る。

今水汲み場で洗濯をしているはずの魔理沙と同じ眠たそうな顔でもたもたと靴下を履き、その足をソファの上から床に下ろした。

途端無機質らしい冷たさが足から入ってジワジワと体中に浸透していき、頭の中もスッキリしてくる。

段々と意識がハッキリとしていくのを感じながらも、霊夢はゴシゴシと目を擦るとテーブルの上に置いていた自分の着替えへと手を伸ばした。

その向かい側には魔理沙が来ていたであろう白地に黒い星の刺繍があるパジャマが脱ぎ捨てられている。

「相変わらず、片づけとかそういうのが出来てないのね」

霊夢はポツリと呟き、ゆっくりと自分が来ている寝間着を脱ぎ始めた。

 

 

以前ルイズと共に幻想郷に帰り魔理沙を連れて再びこの世界へと戻ってくる前に、神社にあった私物を幾つか持ってきていた。

といっても大した物はなく精々愛用している湯飲みや急須、戸棚に入れていた茶葉などである。

本当なら茶菓子も持っていきたかったのだが、ごっそりと消えていたので結局持ってこずじまいになってしまった。

その中には当然替えの服や下着もあるのだが、それを見ていたルイズは有り得ないと言いたげな表情を浮かべて言った。

「信じられない…なんで着替えの服が少ないうえに似たような服ばっかりなのよ!」

そう、下着はともかく箪笥に入っている服という服が全てが紅白の巫女服なのである。

一応細部に違いがあるものの、全体的なシルエットは殆どおなじであった。

更に数も少なく、精々六、七着程度しかない。

よそ行きや私服、パーティー用に会食用、礼服といった着替えを数十着くらい持つのが基本である貴族のルイズには信じられないことであった。

しかし霊夢には当然そんなことなど関係なく、その時はふ~んとだけ言って軽く流していた。

 

 

(そういえば…私ってあまり服なんかに興味が沸いたことなんかなかったわね)

服の着替えが終わり、姿見の前に立って頭に付けたリボンの調整をしつつ、霊夢はふと思った。

人里からかなり離れている神社に住んでいるということもあるが、霊夢は服に関してはあまり興味が無い。

無論一切無いということはないが、それでも彼女ほどの年齢の少女ならば、普通自分の服やアクセサリーにかなりの興味を示すものだ。

実際霊夢の周りにいる魔理沙やアリス辺りなんかは興味があるのか、時折人里で買ったり自宅でアクセサリーや服などを自作している。

そしてこの部屋の主であるルイズも例に漏れず、クローゼットには様々なドレスがありタンスの中には装飾用の宝石や指輪も幾つかあった。

このように女の子というの生物は、自然と身の回りを綺麗な物で囲みたいお年頃なのである。

だがしかし、そんな少女の中に霊夢という例外は存在していた。

 

(まぁ…あまりそういうのには興味がないし…何よりも考えるのが面倒だわ)

霊夢は首を横に振りつつリボンの両端を引っ張っていると、ふと窓の開く音が聞こえた。

誰かと思いそちらの方へ目を向けると、案の定そこにいたのは洗濯籠を左腕に抱え、空飛ぶ箒に腰掛けている魔理沙がいた。

右足だけが不自然に上がっているところをみると、半開きになっていた窓を軽く蹴って開けたのであろう。

「随分早いわね。アンタのことだからもう少し時間は掛かると思ったけど」

「なーに、魔法の森よりかは大分空気が乾燥してるしな。それほど時間はかからなかったさ」

霊夢は軽い冗談でそう言いつつ、リボンの調整を終えると自分の来ていた寝間着と魔理沙のパジャマを拾い始める。

それに対し魔理沙も軽い感じの言葉で返しつつも腰掛けている箒をうまく操り、左腕で抱えている洗濯物入りの籠を部屋の中に入れた。

ついで魔理沙もすばやく部屋の中に入ると空中に浮かんでいる箒を右手で取り、空いた左手で窓を閉めた。

霊夢の方はというと拾い終えた寝間着やパジャマを洗濯物を入れているのとは別の籠に入れていた。

「まだルイズのヤツは寝てるのか。幸せなヤツだぜ」

手に持っていた箒を壁に立てかけ、勢いよく椅子に座った魔理沙は呟いた。

ルイズは幸せそうな寝顔を浮かべており、あと一時間は夢の世界でしか味わえない事を体験しているのであろう。

魔理沙の言葉にルイズの方へと顔を向けた霊夢は、白黒の魔法使いへと向けて一言言った。

「アンタみたいに朝っぱらから空を飛んでいるよう魔法使いとはワケが違うのよ」

「酷い言い草だな。そういうお前も空を飛ぶじゃないか」

魔理沙は両手でヤレヤレという仕草をしつつ、霊夢に言う。

しかし霊夢はそれに怯まず、むしろカウンターと言わんばかりの返事を返す。

「少なくとも、私は朝食を食べてから飛ぶようにしてるわ」

「よく言うぜ。そう言ってお前が飛んでるところを見たことがない」

「まぁね。その後に神社の掃除とか賽銭箱の確認もあるし」

「…実際にしてる事と言えば、神社の掃除だけじゃないのか?おまえんところの賽銭箱なんて何も入ってないだろう」

遠慮のない魔理沙の言葉に、霊夢の眼がキッと鋭くなった。

魔理沙の言葉通り、博麗神社の賽銭箱には多少の埃や塵は入っているものの、肝心のお賽銭などは入っていない。

偶には言っているのは葉っぱや虫だったりと霊夢の望んでいない物が入っていることもある。

そんな神社の巫女である霊夢にとって魔理沙の言葉は少しだけ聞き逃せず、文句交じりの言葉を返した。

「そんなに言うんなら足を運んだ時にお賽銭入れていきなさいよ。この泥棒黒白魔法使い」

「冗談言うなよ貧乏紅白巫女。ご利益が何なのかわからない神社に賽銭なんて御免だぜ」

霊夢の刺々しさが混じった言葉に魔理沙は苦笑いしつつ、霊夢と同程度の刺々しさを持った言葉を返した。

そんな風にして、お互いの話が元の話題から逸れていくうえに段々と喧嘩腰になろうとした時…

 

『おいおい、こんな狭い部屋で喧嘩なんかしたらご主人様にボコられるぞ』

ふとベッドの方から聞こえてきた男の声に二人は会話を止め、そちらの方へと視線をやる。

声の聞こえてきた先には鞘に収まった一振りの太刀がベッドに寄り添うかのように立てかけられており、声の主と思える者はいない。

しかし二人は知っていた。先程の声が、あの太刀から発せられたものだと。

「それは霊夢の事を言ってるんだろデルフ?言っておくが私はただの居候だぜ」

先程の゛賽銭箱゛と同じくらい聞き捨てならない言葉を聞いた霊夢は魔理沙の方へと視線を向けて言った。

「私だってアイツの使い魔になった覚えはないわ。むしろ無理矢理使い魔にされたのよ」

『ま、どっちにしろ静かにしないと。オメーラ本当に追い出されるぜ?』

デルフは笑っているのか、鞘越しに刀身をプルプルと震わせた。

 

 

霧雨魔理沙とデルフリンガー。

この二人が顔を合わせたのは二日前の朝、つまりはデルフが帰ってきた日の翌日である。

その日は少し早めに起きた魔理沙はベッドの上で上半身だけ起こし、何気無く部屋の中を見渡した。

ルイズと霊夢が未だ眠っているということを知って驚いた後、ふと見慣れない物が目に入ったのである。

(なんだあの剣は…みた感じ大分古そうな代物だな。というか何時の間に?)

この部屋の住人たちにはあまり似合わない一振りのソレを見て、魔理沙は首を傾げた

そんな時であった。その太刀――デルフリンガーが話し掛けてきたのは。

『よう。見ねぇ顔だがオメェはどっから来たんだ?』

突如その刀身を動かしながら喋ってきた事に対し、魔理沙は驚きつつも返事を返した。

「…私は霧雨魔理沙、そこら辺にでも普通の魔法使いだが…お前はそこら辺の武器屋じゃ売って無さそうだな」

突然の事で一瞬驚きはしたが、魔理沙の瞳は起きたばかりだとは思えぬほど輝いている。

今まで多くのマジックアイテムを蒐集してきた彼女であったがこのような喋る剣を見たことがなかったのである。

デルフの方も魔理沙の様子を見て(目のような部分は見あたらないが)嬉しそうな感じで言った。

 

『あったりめーよ!何たってオレ様は、インテリジェンスソードのデルフリンガーだからよ!』

デルフは部屋に響き渡る程の大声を出した。

しかしその結果、直ぐ傍のソファーで横になっていた霊夢の足に蹴飛ばされる事となった。

 

それから今日に至るまで、魔理沙はデルフという面白い話し相手兼ねマジックアイテムと親しくなった。

暇さえあれば話し掛けたり錆だらけの刀身を見て苦笑したりといった事をしていた。

デルフの方もそういうのは満更でもないのかそんな魔理沙に対しては本気で怒鳴るような事も無かった。(刀身が錆びていると言われた時は流石に怒ったが)

 

「全く、こうも騒がしいとお茶も飲めないじゃないの」

ただ余りにも騒ぎすぎたためかルイズと霊夢に怒られたりもしたのだが。

特にルイズからは「次、騒ぎすぎたらベッドに入れてあげないからね。ダメ剣は学院の倉庫に入れてやるんだから!」と言われた。

 

 

魔法学院の食堂で働く者達は朝早くから起きて仕事をするが、その後にも当然仕事はある。

料理の仕上げや貴族の子弟達が食事を出来るよう準備した後、小休止を入れて再び動く。

それが意味する事は、この食堂に朝食を頂きに学院の生徒や教師達が来るという事であった。

 

朝食を頂く前の祈りも終え、生徒達は目の前に広げられた食事に手を伸ばしていた。

フルーツソースのかかったパイ皮に包まれた焼き鱒や豊富な野菜が入ったスープ。

焼きたてのクックベリーパイに、大きな籠に幾つも入った真っ赤な林檎。

しっかりと中まで火が通った鳥の丸焼き、そして極めつけに朝からワインを瓶で丸ごと一本

彼らが手を付けるメニューの中には、これが朝食のメニューなのかと思ってしまう料理もある。

教師たちならともかく、まだまだ育ち盛りの多い生徒達にとって質素――彼らの目から見て―な食事では満足しないのである。

料理長であるマルトーはそんな生徒たちに対してこりゃあ将来が大変そうだな、と思っていた。

しかし作らなければ仕事にならないので、同情するようなことはしなかった。

 

 

 

「…ねぇねぇ。三日前の事件…あれってまだ解決してないのでしょう」

「えぇそうよ。確か警備の衛士たちが全員眠らされていたって事件…一体何だったのかしら?」

 

ふと耳に入ってきた話に、ルイズはクックベリーパイを食べるのを止めてしまう。

そして口元にまで近づいていたパイが刺さったままのフォークを受け皿の上に下ろし、安堵の溜め息をついた。

彼女にとって、この話を原因を作ったのが誰なのかは既に知っており。事情も聞いた。

といっても半ば無理矢理にでも聞いた。そうでなければあの少女は話してもくれないだろうから。

話を聞く限り、どうやら事件の原因や何があったのかは、全然わかっていないようだ。

少女の方も「まぁ跡形もなく消したし、今頃風に乗って何処かへ行ってるはずよ」と言っていたから大丈夫であろう。

ルイズが再度安堵の溜め息をついたとき、ふと横の方から声が掛かった。

 

「どうしたのよルイズ?具合でも悪いのかしら」

「…え?」

ふと自分の名前が呼ばれた事に少し驚き、そちらの方へ視線を向ける。

そこにはもう食事を終えたのか、綺麗にロールした金髪が目映い『香水』のモンモランシーがいた。

普段ならば自分の名前を呼ばないような彼女に名前を呼ばれ、思わず唖然としてしまう。

まさか今日は空から雨じゃなくて香水がふってくるのではと思い、鳶色の瞳に不安の色がよぎる。

それを見て何を考えているのかわかってしまったのか。すぐさまモンモランシーの顔に怪訝な色が浮かぶ。

 

「私が貴方の名前を呼ぶことってそんなに珍しいのかしら…?」

「そうなんじゃない?むしろ私が声を掛けた場合より驚いてるかもね」

「へ~、そうなんだ。…って、なんでアンタが私の後ろにいるのよ」

 

モンモランシーの言葉を返したのは唖然とした表情を浮かべていたルイズではなく、キュルケであった。

いつの間にか自分の背後に立っていたキュルケに軽く驚きつつ、モンモランシーは言った。

「貴方と同じよ。朝にあまり食べ過ぎるのもどうかと思ってもう出ようかと思ってたところよ」

燃えさかっている炎と同じような色をした赤色の髪を片手でサッとかき揚げつつも、キュルケはあっさりと言う。

それを聞いたモンモランシーは納得したかのような表情を浮かべた後、何度か頷いた。

「昔はそれ程気にしてなかったけど、何故か今年に入って妙に気になるしね…」

少し憂鬱そうな彼女の言葉に、キュルケも同意するかのようにウンウンと頷く。

「そうよね~。…まぁ私が知ってる限り、二人だけはもっと食べないとダメかも知れないけど」

そう言って未だ唖然としているルイズの顔へと視線を向けた。

自分の髪と同じ色の瞳には、何故か哀れみ色が惜しげもなく浮かんでいる。

まるで路地裏に捨てられた子猫を遠くの窓から見つめているかのような悲哀の色が。

「え…?何よ、何で私をそんな目で見つめてるのよ」

入学どころか生まれる前から好敵手であったツェルプストーの娘にそんな目で見られ、思わず驚いてしまう。

困惑の表情を浮かべているルイズに、モンモランシーが声を掛ける。

「大丈夫よルイズ…私だって数年前くらいは貴方と同じだったし…その、ちゃんと食べればもっと伸びるはずよ。…多分」

その声にはキュルケの言葉とよく似た悲哀の色が漂っていた。

「何よそれ!教えるのならハッキリ教えなさいよ!?」

この二人が言っていることの意味が良くわからないでいるルイズは、思わず言葉を荒げてしまう。

 

一方、食堂出入り口の傍にある休憩所でも、話をしている二人と一本の姿があった。

「…そういやアンタ。意志を持ってるって他にも特徴は無いの」

霊夢は朝食とした出た白パンの一欠片をスープに浸しながら、テーブルの上に置いてあるデルフに話し掛けた。

『唐突だなオイ…いんや、オレにはそんな力はないさね』

「つまらないわねぇ。アンタ本当に暇なときの話し相手じゃない」

『あのな、オレは意志を持っているタダの武器だぞ?武器なら敵に向けて振るのが一番良い使い方さ』

「そもそもアンタ、刀身が錆びてるんだから戦うのは無理なんじゃない?……ハグ」

霊夢はカチャカチャと音を立てながら喋るデルフにそう言い放ち、スープに浸ったパンを口の中に入れる。

無造作に置かれたインテリジェンスソードはそれを聞いて悲しかったのか、鞘が小刻みに震え始めた。

 

 

霊夢とデルフが再会したのは今から三日前の夜。霊夢がキメラを倒して部屋に帰ってきた後である。

部屋に帰ってきた彼女がまず目にしたのは、ベッドで寝ている魔理沙の横でちょこんと座っていたルイズであった。

彼女は霊夢の姿を見るなりバッとベッドから飛び降り、どことなく疲れている巫女に詰め寄った。

「あっレイム!あんた今まで何処行ってたのよ!というか何してたのよ!」

「何処でも良いじゃないの。ちょっと虫退治に行ってただけだから。あとは眠いからまた明日ね…」

帰ってきて早々、ルイズの罵声を耳に入れた霊夢はうんざりとした様子で返すとソファに腰を下ろす。

霊夢としてはルイズに詰め寄られるよりも早く寝間着に着替えて横になりたかった。

そんな霊夢の態度にルイズは顔を赤くし、さっきよりも大きいボリュームで怒鳴ろうとしたとき――何者かが割って入ってきた。

 

『おいおい、使い魔とそのご主人さまはもっとこう…和気藹々としてるもんだろ。お前ら殺伐し過ぎだよ』

 

少しエコーが掛かっているような男の声に、ルイズと霊夢は一斉にそちらの方へと視線を向ける。

声の先にあるのは、ベッドの上に置かれた傍に一本の太刀であった。

何処かで見覚えがあるものの、一体何処で見たのかと一瞬だけ悩み、すぐにその答えが出た。

「デルフじゃないの。…そういや部屋に持ってきてたのをすっかり忘れてたわね」

『OK、お前らには共通点が一つだけある。お前らはまず自分たちの持ち物の存在を忘れないように心がけろ』

今思い出したかのような霊夢の言い方に、デルフは何処か諦めにも似た雰囲気を刀身から漂わせつつも言った。

 

 

「まぁなんだ。武器として使われる以外にも良い使い方はきっとあると思うぜ」

 

霊夢とデルフの会話を横から聞いていた魔理沙は、手に持っていたフォークでデルフの入った鞘を軽く小突いた。

『おいおい…慰めてくれるのは嬉しいがそんな物で鞘を小突くなっての』

しかしそれがイヤだったのか声を荒げ、激しくその刀身を動かした。

それに驚いたのか否か魔理沙はすっとフォークを下げると受け皿に置き、肩をすくめて言った。

「何だよデルフ。フォークに付いてるソースなら洗えば落ちるだろ?」

多少の悪気が入った魔理沙の言葉にデルフはその刀身を一層激しく揺らす。

『そういう問題じゃねーっての!鞘っつーのはオレっちを剣にとって、家であり服でもあるんだぞ!』

デルフの言葉に、魔理沙は満面の笑みで言った。

 

「なら問題ないぜ。何せ服も家も、ついた汚れを水で洗い落とせるからな」

 

(ホント、見ていて飽きないわねぇ…)

霊夢は魔理沙とデルフのやりとりを見ながら、紅茶を啜っていた。

デルフと魔理沙、一見喧嘩しているようにも見えるが魔理沙の多少意地悪な性格がその一線を越えないでいる。

あっけらかんとした顔の彼女から出てくる言葉には毒が入っているものの、それを言う本人には何の悪気もない。

しかし、霊夢が知ってる限り゛毒が混じった言葉を出す゛ような性格の持ち主なら魔理沙の他にも何人かいる。

紅魔館のパチュリーはハッキリと言うし、妖怪の山からやってくる文は会話の途中途中に紛れ込ませ、紫に至っては意味が良く分からない毒を吐いてくる。 

だが魔理沙にはその他にももう一つ゛笑顔゛という効くヤツには良く効く有効な武器を持っていた。

女の子の優しい笑顔とは違う、自分だけの秘密基地を作り終えたばかりの男の子のような元気で活発的な笑顔。

特に同じ魔法の森に住む人形遣いには効果抜群らしく、何度激しい喧嘩になっても結局最後には元の状態に戻ってる。

 

とまぁそんな魔理沙の笑顔にこのインテリジェンスソードは仕方ないと悟ったのか、

「イヤだから…はぁ~」諦めの雰囲気がイヤでも漂う深い溜め息をついている。

霊夢は紅茶を啜りながらも、そんな二人のやり取りを静かに見守っていた。

 

「平和ね…本当に平和ね」

幻想郷の巫女は誰に言うとでもなく呟いた。

その姿はとても、多くの人妖と戦ってきた少女には見えなかった。

 

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