ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第四十七話

ドアを開けて部屋に入ってきたのは、この部屋の主であるルイズであった。

彼女は手に先程の授業で使用した教科書を出入り口の側に置いてある小さな台に置き、二人の方へ近づいていく。

「あらマリサ、あんたレイムと一緒にお茶を飲んで……た…」

ルイズの口から出た言葉、魔理沙と霊夢の間にあるテーブルの上に置かれたクッキーを見て、言葉が止まる。

既に何枚かが開かれた箱の中から取り出され、うち一枚の片割れが魔理沙の手の中にあったのも、見逃さなかった。

勘が鋭い霊夢はルイズの様子が豹変したことに怪訝な表情を浮かべたが、魔理沙はそれに気づかないでいる。

「おぉルイズ!もう次の授業か?次は耳を引っ張ったり殴ったりしないでくれよな」

ペチャクチャと喋りながら体が止まったルイズの側へと近づき、新たに箱から取り出したクッキーを一枚差し出す。

ルイズはというと、差し出されたクッキーに視線を向きながら抑揚のない声で、魔理沙に質問してみた。

 

「ねぇ魔理沙…このクッキー入りの箱は…何処で―――誰が―――見つけて――勝手に開けたのかしら?」

ルイズの質問に、魔理沙はすぐに応えた

「ん?あぁさっきそこの戸棚を開けた霊夢が見つけたんだよ。それで丁度いいお茶菓子だって…」

「私、ちょっと外でも飛んでくるわ」

良くも悪くも口の軽すぎる魔理沙の喋っている最中、霊夢は席を立った。

ここにいては危険だ―――長年の戦闘経験から、ここにいては面倒くさいことになると感じ取ったのである。

席を立った彼女はそのまま早足で歩いて窓から飛び立とうとしたが、ルイズの方が速かった。

 

霊夢が逃げようとしたのを感知したルイズは、すぐさま近くにあった箪笥の中から、乗馬用の『特殊な』縄を取りだした。

小さく、可憐なルイズには全く似合わないその縄を、彼女は勢いよく振り回し始めた。

数秒も経たずに縄はフュンフュンと空気を切り裂くような音を部屋中に響かせる。

一方の霊夢は窓の方にたどり着いたが鍵が掛かっており。その時点でもう霊夢の敗北は確定していた。

 

一秒―

 

「とりゃ!」

勢いのあるルイズの声と共に、振り回していた投げ縄を霊夢の方に向けて飛ばした。

 

二秒――

 

窓の鍵を開けて逃げようとした霊夢の背中に―に、縄の先端が当たった。

 

三秒―――

 

瞬間、縄がボゥッ…黄色く光り輝くと、まるで大蛇の如く縄が霊夢の体に巻き付いた。

 

四秒――――

 

「クッ…!」

魔力の篭もった縄に体を拘束された霊夢は、自分の霊力を使って縄を解こうとしたが、時既に遅かった。

 

五秒―――――

 

霊夢の体が縄に巻かれたのを瞬時に確認したルイズは懐に手を忍ばせ、ある物を取り出した。

「あぁ…っ!?それ私の…!」

ルイズが何を取り出しのか見ていた魔理沙が目を見開いた瞬間、ルイズはそれを投げた。

 

六秒――――――

 

「でッ…!!?」

投げられた゛物゛は、一寸も狂うことなく、隙を見せていた、霊夢の――額に命中した。

 

七秒―――――――

 

ゴ チ ン ! !

 

金属から造られたそれは、霊夢の気を失わせるのには丁度良かった。

コン!カラカラ…と投げた物が床に落ちてコロコロと何処かへ転がっていく中、ドサッと倒れる音も聞こえてきた。

流石の博麗の巫女もあれにはたまらなかったのか、情けない表情を浮かべて気絶していた。

 

ここまで、七秒。僅か七秒である。

 

 

「うぉっ…あの霊夢がいともカンタンに…っていうかルイズ、いつ私の八卦炉を盗んだんだよ?」

倒すべき存在を倒し、一息つこうとしたルイズの耳に魔理沙の質問が飛び込んできた。

そちらの方へ顔を向けると、いつも笑顔を浮かべているような彼女が驚きの表情を浮かべている。

だが無理もない、何せあの博麗霊夢がたった一瞬の隙だけで、この様な目にあってしまったのだから。

「盗んだですって…?人聞きの悪い。私はアンタが殴られた時に手から落としたコレを、拾っただけよ」

いつの間にか自分の足下に転がってきたミニ八卦炉を手に取りながら、ルイズはそう言った。

ルイズの言葉に、魔理沙はその時の事を思い出した。

(そういや確か…気を失う直前に八卦炉が手からポロリと滑り落ちたような気が…)

心の中で魔理沙が思い出した時、ルイズは一息ついてこう言った。

 

 

「それに…゛盗んだ゛のは貴女と霊夢の方じゃないかしら、マリサ?」

 

「は?どういう事だよルイズ。私は盗みなんかしないぜ」

ただ借りてるだけさ。と最後に一言付け加えるが、ルイズはそれを気にせず話を続ける。

「私ね、部屋のあちこちに特別な日に食べたいお菓子を幾つも部屋に置いてるのよ」

ニコニコと爽やかではあるが、何処か不気味な雰囲気漂う笑顔を浮かべつつ、ルイズは喋る。

「しかもそのクッキーはね…私が一番特別だと思う日に食べたいと…と、取っておいたやつなの」

段々とルイズの笑顔が邪悪な雰囲気を帯びていくのを感じた魔理沙は思わず後退ってしまう。

その邪悪さは、以前紅魔館で見たレミリアの笑顔と比べれば可愛いモノだが、それでも十分に怖いものであった。

「あ、あ~…な、なんだ?私はその…食べただけだぜ」

魔理沙は言い訳でも言おうとしたのだろうが、それが火に油を注ぐ事となった。

「へ、へ、へ~…あ、あ、アンタは食べたたただけなのねね…わ、私のたたた大切なおおか菓子を、を…!」

先程よりも邪悪さが増していくルイズの雰囲気に、魔理沙は悟った。

 

(あ~、駄目だコリャ。背中を見せたら確実に酷い目に遭うな…)

丁度自分の背後に愛用の箒があるのに気が付いている魔理沙ではあったが、逃げる気は失せていた。

いま箒を手にとっても跨る前に捕まってしまう。そして今窓の傍で気絶している霊夢の二の舞になる。

ましてやミニ八卦炉も奪われている手前、退路は完全に断たれたも同然である。もう自分に逃げ場は無い。

 

たった一つの道は、目の前にいるこの少女を倒してドアから逃げるしかない。

(そうと決まれば…善は急げだぜ!)

覚悟を決めた魔理沙は、キッと鋭い笑みを浮かべ―――ルイズに突撃した。

勝率などわからない、わからないから魔理沙は突撃の道を選んだ。

霊夢もそうしていたであろうし、魔理沙の知っている幻想郷の好戦的な奴等も同じ答えを出していたに違いない。

自分が勝つと信じてやまない者達は、どんな危機的状況に陥っても僅かな希望があればそれに縋り、必勝の策を編み出す。

勝つか負けるかわからない――だからこそ戦うのだ、自分の勝利を信じて。

 

 

ピ チ ュ ー ン ! 

 

――しかし、だからといってやる気満々の敵に突っ込んで勝てるとは限らない。

『自分のパンチより、ルイズのアッパーの方が速かった』という事が読めなかった魔理沙は、呆気なく撃沈した。

 

 

 

その頃、トリスタニアのチクトンネ街は――――

 

いつもは夜型の人々で賑わうここは、朝方と昼は大分落ち着いている。

それでも人の入りはあり、ブルドンネ街と同じく露天商達が道ばたで商売を始めていた。

仕事帰りの人々を誘惑する夜中のお店は朝方にはその看板を下げ、グッスリと眠っている。

彼ら、彼女らは朝に寝て午後から仕込みと掃除を始めて夕方頃の開店に備えての準備に入るのだ。

そんな店はここチクトンネ街に星の数ほどあるが、その中でもかなり異色な店が存在していた。

ウエイターは女の子達ばかりなうえ、とても魅力的な服を着ており、貴族からも賞賛の声を度々聞く。

「女の子達がステキだった」とか「チップを出すのに夢中で財布の中身が無くなった」等々…色々と評価してくれている。

 

『魅惑の妖精亭』。それがこの店の名前であった。

 

 

シャコシャコシャコ…

「あしゃ~はやっぴゃり~ねみゅい~もよ~…♪」

店長スカロンの娘であるジェシカは、店の裏口で歯を磨きながら何処か現実味のある歌を口ずさんでいた。

裏口のある通りは閑散としており、目立つモノといえばご近所の店が裏口に出しているゴミを漁る野犬と野良猫、それにカラスだけだ。

主に人間の食べ残しを狙う彼らはこの時に限って争うことなどせず、お互いのルールを守っている。

この場面だけを見れば、人間と比べて大分秩序を保てているのは間違いない。

ハルケギニアの各所にある第三諸国などでは、畑の作物や家畜の奪い合いが原因で戦争になっているところもある。

それを考えれば、動物の方が第三諸国を治める王達よりかは大分利口だ。

 

だが、ジェシカはそんな光景に目もくれず、歯ブラシを口に入れたままボーッと空を見上げていた。

隣接する建物と建物の間から見える空はかなり太い一本の線として見えている。

陽が当たらない薄暗い通りとは対照的に白い雲が右から左へと流れ、サラサラと緩やかな初夏の風が肌を撫でる。

 

この時間帯、朝食を食べ終えた人々が仕事の為に各々の勤務場所へと足を運ぶ。

飲食店や雑貨屋、ブティックに本屋、石切場に魚の養殖場(食用、観賞用の淡水魚だけだが)等、様々である。

しかしジェシカやスカロン、そして店の女の子達を含めた夜中のお店で働く人々は、ゆっくりとベッドで疲れを癒す。

ジェシカ自身も、今は寝る前の歯磨きをしており、決して仕事へ行く前の慌ただしい歯磨きではない。

故にこうして途中で手を止め、雲の流れる爽やかな朝の青空を眺めているのであった。

 

 

しかし、その時間は表の通りからやってきた女性の声で台無しとなった。

「やぁジェシカ。寝る前の歯磨きをしてるのか?」

「…うっ!…ムグ…ムグ……ぷはっ!」

いきなり声を掛けられたジェシカ聞き覚えのある声を耳にし、思わず口にくわえた歯ブラシを吐き出しそうになった。

しかしそれをなんとか堪えて数秒間無呼吸に悶えた後、口から歯ブラシを取り出すという選択を選ぶ。

歯ブラシを持っていた右手で持ち手を掴み、そのまま一気に口から出したところで、止まり掛けた呼吸を再開する事が出来た。

「はぁ…はぁ…アンタねぇ、前もそうやってアタシを驚かそうとしたわよね?」

もう少しであの世の花畑と河岸が見えるところだったジェシカは、目の前で穏やかな笑みを浮かべる女性に苦々しく呟く。

「そうかな?あの時は私に気づいているものだと思って声を掛けたんだがな…ちゃんと料理の載ったトレイも受け止めただろ?」

しかし女性はそんな苦言など何処吹く風で、まるで旧友と若い頃の思い出を語っているかのような感じで言った。

 

女性の服装は足首まで隠した長い黒のズボンに白いブラウスと変わっており、その上に若草色のローブを羽織っている。

一昔前の女性ならわかるものの、この時代では女性のような服装は時代遅れもいいところだ。

しかし女性の肌は珠のように白く顔もジェシカや店の女の子達に負けず劣らず…いや勝っていると言って良い。

陽の光に当たって輝いている麦の如き金髪をボブカットにしており、遠くから見ればただの好青年として見えてしまう。

だが一歩近づいてそれが女だとわかれば、何処か不思議な魅力を感じてしまう。

それは男性だけではなく、女性もまたその魅力に惹かれるのである。

 

「はぁ…それで、今回は五日もあの子だけ置いて何処に行ってたっての?」

あまり悪いようには見えない笑みを見せられたジェシカは、呆れた様子でそう言った。

「まぁそう言うなよ。あの子だってちゃんと客室の掃除をしてくれてるだろ。…それに土産も買ってきたし」

それに対し女性は冷静に返しつつ、背負ったバッグを地面に下ろし、中を漁り始める。

ジェシカはその言葉にムッとなってしまうが、まぁいつもの彼女だと思って軽い溜め息をついた。

 

二人の言う『あの子』とは金髪の女性と共にいた、まだ十代にもなっていない栗色の髪が眩しい女の子のことである。

 

 

数週間前、ここの店長でありジェシカの父であるスカロンが二人を連れてきた。

聞くところによると女性はかの東方の生まれで、今はハルケギニアの各地を旅しているらしい。

様々な大国や小国、山々や平原を歩き渡り、しばらくはこのトリステインに身を置くことにしたのだという。

まぁ治安が比較的良く、戦争や領地をめぐっての小競り合いも滅多に無いこの国は、体を休めるのには丁度良いところだ。

しかし、いざ宿を探してみると間が悪かったのか、何処も空き部屋が無いという時にスカロンと知り合ったそうだ。

ちょっとばかしその場で話し合い、店の仕事を手伝って貰う代わりにお店の上の階にある部屋に泊まらせる事となった。

 

「初めまして、―――と申します。以後迷惑にならないようこのお店の仕事を手伝って行きたいと思います」

東方の国の生まれ故かハルケギニアでは聞かない奇妙な名前と律儀な物腰に、ジェシカを含めた店の者達は彼女に拍手を送った。

その拍手に女性は嬉しそうな笑みを浮かべると、後ろにいた少女を自身の前に出し、自己紹介を促した。

「は、はじめまして…――と申します。よろしくおねがいします…」

女性と同じく、東方の生まれと思われる奇妙な名前とその暗い雰囲気が漂う自己紹介の後、ジェシカがその子に質問した。

「よろしくね――ちゃん。ところで、ここは店の中だけど…帽子は外さないの?」

何処か空気の読めてないジェシカの発言に、素早く金髪の女性がフォローを入れた。

 

「すいません。この子はちょっと皮膚が弱くて室内でも帽子を被っているよう、祖国の医者から言われているもので…」

どこか胡散臭いものが漂ってはいるが、ジェシカやスカロン達は彼女の言葉をとりあえずは信じることにした。

この様な場所で店を開けば、自分の過去を酷く忌み嫌う者達がふらりと寄ってくるものだ。

ある者は過去を一時の間忘れるために飲んだくれ、またある者は新しい人生を探しに足を運ぶ…。

きっと彼女らは後者なのだろうと思い、とりあえずは『魅惑の妖精亭』に新しく入ってきた二人を手厚く歓迎した。

 

 

「それじゃあ、私は部屋に戻るとするよ」

「はいはーい!今日も早いんだからさっさと寝なさいよね~…ふぁ~」

一階の酒場でジェシカと別れた後、金髪の女性は二階へと昇り、一番奥にある客室へと足を運んだ。

ここ『魅惑の妖精亭』は一階部分がお店で、二階の方は家のない従業員達の部屋と幾つかの客室がある。

客室の方は、酔いすぎて家に帰れなくなった客を入れるところで、店の人気もあって使用頻度は高い。

そして当然の如く賃貸料があるので、店的には儲かっているらしい。

 

想像して欲しい。気持ちよく飲んでベロンベロンになって意識を失い、気づいたら見知らぬ部屋のベッドで寝ていた。

慌てて外に出てみるとその顔に笑顔を貼り付けた店の女の子が、一枚の紙をもって口を開く。

「おはようございます。お部屋の賃貸料をいただきに来ました」

 

自業自得であろうが、冷たい夜の路上に放り出されるより大分マシだろう。

そんな事を思っていると、気づけばもう二階の一番奥にまでたどり着いていた。

すぐ横には客室に繋がるドアがあり、それを開ける前に女性はポツリと呟く。

 

「五日か…まぁちゃんとお金も置いておいたし払ってくれてるだろう」

あの娘はネコだが、ネコババするような娘ではない。と心の中で付け加え、ドアを開けた。

すんなりと開いたドアの先にいたのは、彼女を主と慕う可愛い少女が待ってくれていた。

 

 

「お帰りなさい!藍さま!」

年相応の元気な声に、彼女は柔らかい微笑みを浮かべた。

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