ルイズと無重力巫女さん   作:1-UP-code

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第九話

 今まで大地を照らしてきた太陽は傾きはじめ、待っていたと言わんばかりに二つの月が天へと登り始めてから約数時間。

 漆黒と月明かりが、そして一部の世界では人外が支配する様な時間、人っ子一人おらず冷たい風が吹いている中庭の片隅で灰色のローブを纏った女性が息を潜めていた。

 スクッと立ち上がると辺りを見回し、ここら辺を巡回しにくる守衛がいないことを確認した。

 そして次に懐から魔法を使役するメイジの証しでもあり貴族の命でもある杖を取り出すと軽くルーンを唱え宙に浮き、すぐ後ろの城壁の上に降り立った。

 日中にはここに何人かの守衛が背中に弓と鉄製の槍を背負い警備に就いている夕方になれば全員が学院内の見回りをする。

 それが済めば学院長や各教師、男子寮塔と女子寮塔に各四人ずつ交代制で警備を行う。後に残った教室や食堂には一人だけ。

 昼は常時警備、夜には交代制ということである。

 警備についていない守衛達は自分たちの寄宿舎でポーカーに興じたり、食事をとっている。

 彼女は怖れもせずに堂々と歩く。

 やがて学院の中でも一番大きい本塔との距離が近い場所にまで来ると再び辺りを見回した後、フライの呪文を唱えた。

 

 足の踏み場がなさそうな本塔の外壁だが実は大きくせり出ている壁があり、それを足場にした。

 ローブを纏った女性はゆっくりと外壁の周りを歩き、一定の場所に来ると足を止めた。

 「……ここか。」

 そう言うと足で外壁を二、三回小突いた。

 もちろんそんなもので外壁が崩れてしまえばいいのだが所詮そんなことが起こるはずもなく、小さな舌打ちをする。

 そろそろ仕事に入りたいのだがここであと一時間弱は突っ立ていなければいけない。

 ローブの女は少し緊張した顔でその場に待機した。

 

 

 魔法学院にある女子寮塔の一室。

 本来生徒一人だけ。それと二、三年生だと使い魔が一体いるがそこには二人いた。

 二人の内ピンクのブロンドヘアーが特徴的な女子生徒がテーブルに積まれた様々な本を読んでは床に置き、テーブルにある新しいのを取っていく。

 そしてもう一人は派手なピンクブロンドと正反対の黒いロングヘアーと腕部分の露出が若干多い紅白の服を着た少女が向かい合って座りのんびりとお茶を啜っている。

 ゆっくりと過ごしている黒髪の少女。――霊夢―を見てピンクのブロンドヘアーの少女。――ルイズ―が口を開いた。

 「お茶。」

 「ん。」

 霊夢はポットの中に入っている『緑茶』をもう一つのカップに差し出した。

 そのカップを受け取ったルイズは中身を見て霊夢に突き返す。

 「これじゃなくて、紅茶が欲しいのよ。」

 「自分で入れなさいよ。」

 すかさず霊夢にそう言われルイズは不満そうな顔をするが霊夢は気にもとめない。

 

 「あんたって本当ノンビリしてるわね…うらやましいわ。」

 ルイズにそう言われ、霊夢はカップを口から離し口を開く。

 「そうかしら。…それよりもあの薔薇、どうしたの?」

 彼女が指さしたタンスの上には昼にギーシュがルイズに渡した薔薇が置かれていた。

 「あぁあれね。ギーシュがこの前ゴーレムでアンタを殴ったからってその謝罪に…って。」

 「ギーシュ…?」

 それを聞いて霊夢は首を傾げる。まさか忘れてしまったのだろうか?

 しかし、すぐに思い出したかのような顔をして掌をポンと叩いた。

 「あぁ、自分のことを薔薇って呼んでてモグラを連れてたあのキザ男の事ね。」

 「えぇ、でも今私の部屋に余っている花瓶がないのよね。どうしようかしら?」

 「庭に植えてあげればいいんじゃない?私には薔薇を一日中眺めるなんて趣味はないし。」

 どうやら彼が純粋な善意で渡した薔薇はルイズの予想通り、お気に召さなかったようだ。

 

 「どっちかって言うと花を貰うのも悪くはないけど、個人的には金一封や菓子折りとかの方が良かったわ。」

 「アンタ…すっごい厚かましいわね。」

 とりあえず薔薇のことは明日考えるとして再び調べ始めたのだが結局見つからず。

 気づけばすでに消灯時間―といっても一部の生徒はまだ起きているが――であるためとりあえずこれもまた明日となった。

 

 

 

 場所は変わり再び本塔の外壁。ふたつの月明かりが薄くぼんやりと世界を照らしている。

 そんな暗い時間に塔のぼったローブの女は手にナイフを持ち何か作業をしていた。

 レンガ造りの外壁にずっと昔に出来た大きな隙間に刃の部分を差し込み上下に動かしている。しばらくするとポコッとレンガが一個外れた。

 外れたレンガは地面に向かって落ちていき、下から何かが砕ける音が聞こえた。

 本塔とその中にある宝物庫の扉にはセキュリティが敷かれていてスクウェアクラスでさえ突破は難しい。

 しかしそれは中だけの話である。

 セキュリティも扉などにしかされておらず外壁はほぼ何の施しもされていない普通のレンガ造りである。

 だからこそこうして丈夫なナイフを使い、テコの原理を利用して実行に及んだのだ。

 

 そうしていく内にレンガに出来た穴が大の大人一人分にまで大きくなると彼女は宝物庫の中へと侵入した。

 宝物庫の中には明かりをともしたカンテラが均等に天井からぶら下がり辺りを照らしている。

 彼女はその光だけを頼りに宝物庫を急いで探索し始める。なんせ外とは違いかなり蒸し暑い。

 翌朝までこんな蒸し風呂部屋みたいなところにいると蒸しパンみたいになってしまう。

 

 様々な貴重品や宝石、書物、金品には彼女は目にもくれず奥にあるガンメタリックカラーの箱を手に取る。

 ズッシリとした重み、中身は相当の重量である。獲物の重量感じれば感じるほど達成感が沸々と沸いてくるのだ。

 しばらく感傷に浸りたいがそれはこの学院を出てからにしよう。

 学院から出た後もしばらくはここの関係者として生活しなければならないのだ。

 それにこの箱を何処に保管しておくか…時間的余裕はほぼ無いのである。

 箱を両手に持ち、そのまま元来た道を辿って帰ろうとするが一つやり残したことを思い出した。

 「おっとと…忘れるところだったわ。」

 その場で箱を冷たいレンガ造りの床に置くと腰に差していた杖を取り出し先ほど箱が置かれていた床にルーンを唱えた。

 

 杖をしまい再び箱を持つと穴をくぐり外へと出た。

 外のすずしい風が顔全体をなで、肌にべっとりとまとわりつく汗を払おうとしてくれる。

 そんな自然の息吹に包まれながらもルーンを唱え地上へ降りていった。

 ローブを被った女は小さな声で笑い、あっさりと仕事が終わったことに少し安心感を覚えた。

 地面に足をつけたとき、ふと空を見てみると人影が見える。彼女は箱を背中に担ぐと急いで何処へと走り去っていった。

 

 「ふぅ~…やっぱり夜中に空を飛ぶってのも良い物だわ。」

 霊夢は月明かりが照らすトリステインを一人ブラブラと飛んでいた。

 先ほどまでルイズと同じベッドで寝ていたのだがちょっとした悪夢にうなされ無理矢理叩き起こされたのだ。

 当分饅頭とかの御菓子は食えそうにない。

 夜中にはあまり散歩したことはないがやはり夜は昼とは違う一面を見せてくれる。

 昔から草木も眠る丑三つ時とか…深夜三時から五時の間、霊が――しかし偶に午前から神社に来てる半霊や亡霊もいるが――――彷徨ったり。

 人よりも賢く、長寿である妖怪達が活発な時間帯である。特に吸血鬼や悪魔などが。

 そんな時間帯を彼女は周りを気にせず飛んでいる。画家が見ればすぐさまそれを絵に写そうとするほど優雅であった。

 このまま森に行こうとしたがふと学院の隅っこにある倉庫みたいな建物に目を止めた。

 何故か興味を惹かれた霊夢はそこへと降り立った。

 

 ポツンと寂しく木造の大きな掘っ立て小屋が経っており。

 食堂や他の建物と比べればえらく貧相である。

 そして入り口らしき場所からは大量の物が乱雑に出ている。

 霊夢から見てみればどうみてもそれはゴミ捨て場であった。

 (ただのゴミ捨て場か…。)

 あっという間に興を削がれた霊夢は踵を返し今度こそ森に行こうとするが入り口からまた新たに物が一つ転がり落ちてきた。

 それはコロコロと転がり霊夢の靴にコツンと当たって動きを止めた。

 足下に転がった筒の装飾を見て彼女は少し驚いた。

 

 それはやけに長い黒筒であった。

 長さは丁度霊夢の身長と彼女の頭一つ分を足した程度の長さである。

 筒の上部分と下部分はベルトでつながっており、体に巻き付けて背負う物らしい。

 建築士が建造物の設計図を入れるときに使う筒に似てはいるがそれにしてはやけに美しく作られていた。

 それが気になったのか霊夢は筒を手に取り、真ん中に線が入っていることに気づく。

 どうやらこれは中に何か入っているらしい。そう思った彼女はゆっくりと筒の上部分をはずした。

 

 そして中に入っていた「杖」に似た物が入っていることに気づき。霊夢の体は硬直した。

 それは霊夢が知っている物で、この世界に持ってきてなかった物である。

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