ストーリー全部見たわけじゃないから色々おかしいかも。
「
最初の記憶に残っているのは、そのセリフだ。
自分で言うのもなんだけど、両親はそうとうな金持ちで、しかも俺に甘かった。資本主義続く限り、どんな時代にもそういう余裕のある人間とは一定数いるもんで、まったく平穏な日々だった。毎日ふらふらしていた頃、親父が穏やかな口調でこう語りかけてきた。
「仕事なんて関係なく、やりたいことはないのかい?」
それで俺は周囲を見廻した後、テレビ画面に映ったそれを指差してみた。
「ヘリパイロットにでもなりたいかな」
「なるほど」
会話はそこで終ったのだけれど、どうしたことか、一週間後にはパイロットの事業用免許をとる手続きが済み、実家から遠く離れた町に放り出されていた。お前が望んだんだから良いだろう、という詐欺みたいな話。聞いたところでは叔父の入れ知恵らしい。
それでまあ、色んなものに流されて生きてきた俺は、ここでもまた流されることにした。その結果、鉄血に会社も家も燃やされ狂っちまった親の顔を見ずに済んだんだから、いやはや、人生どう転ぶかわからない。親のみっともない姿って見たいもんじゃないよな。
閉鎖病棟の両親にわずかな資産、あとヘリの免許抱えてどうしたもんかと途方に暮れていたそのとき、救いの手を差し出したのが例の民間軍事会社――グリフィンってわけ。当時は鉄血との仕事を請け負ったばかりで、これまでの案件とは桁違いの戦闘のために、連中、人材も戦力も払底していたらしい。雇い主様のお蔭か資本力だけはあったが、金を払ってから対価が入るまで多少の時間はかかる。
で、だ。
そういうのが揃うまでの
そこで話は冒頭に戻る。
「
入社したばかりの奴等が集められ、職務ごとに研修を受けた。そこで研修担当者がやけに強い口調で俺らに教えたのが、このセリフ。
グリフィンの商売道具――戦術人形。人間の姿、人間の振る舞い、それでいて馬鹿みたいに強力な兵器。
研修中それを「ロボット」と呼んだ男がいて、厳しく注意された。そいつは不満そうな表情を浮かべた。
「ロボットでないなら、何ですか?」
「
「ドール?」
「ああ。二度と間違えるな」
しばらく首を傾げた後、よせばいいのにそいつはさらに尋ねやがった。
「ロボットとドールと、何が違うんですか? 同じだと思いますが」
「ふむ……」研修担当は顎を撫でた。そしてぐいっと顔を近づけ言った。「三日、時間をやる。何が違うのか、自分で考えて私に報告しろ」
結局、その問題の答は誰にもわからなかった。三日後、質問をした男がいなくなってたからだ。気に喰わない解答をして追い出されたのか、あるいは上手く答えて上に取り立てられたのか。興味もないが。
俺に与えられたのは、戦術人形――ドールを戦場に運ぶ仕事だった。作戦基地から戦地へ、戦闘が長引くようなら、そこで新たに奪った飛行場へ送るようなこともやった。昼も夜も、たたき起こされては眠い目を擦りながら空を飛ぶはめになった。
もちろん戦地の真ん中に飛んでいくわけだから、死と隣り合わせの毎日だ。要請を受けて飛んで行った先が既に敵の手に堕ちていた――そんなことも一度や二度じゃない。鉄血がどんな対空装備を持っているのかさえ俺たちには知らされてなかった。まあ結局のところどいつも一般人だったわけで、ビビらないようにしてたんだろう。
しかし何だ、あの戦術人形ってのは凄いもんだったな。
パイロットと直接会話するような機会はなかったが、顔は突き合わせるし、近くにいれば会話くらい耳に入ってくる。どれも端整な顔立ちの女の子ばかり。会話も自然で、一人ひとり個性があった。普通にしていれば人間と見分けがつかない。
美しくなるほど、人間らしくなるほど、指揮官がやる気を出して指揮するからだろう――とはパイロットのあいだでまことしやかに囁かれてた噂だが、なるほどこれなら下手な指揮はとれなくなるな、と納得したものだ。
そんで暫くするうちに、パイロットのリストラが始まった。ヘリの操縦にもAIが導入できるようになったから、人間なんてお役御免、というわけ。この仕事は就職先なんていくらでもあるから、仲間は次々辞めていった。優秀な奴から順にだ。就職活動をめんどくさがった俺は、できるだけ居座ってやろうと思い、結局は最後の一人になってしまった。ようするに一番使えないヤツが最後に残ったってこと。
退職金を弾む、就職先も斡旋する、頼むから辞めてくれとグリフィンから言質をとり、そしてようやく俺はあの民間軍事会社を抜けた。
あれから少し経って、たまにニュースで鉄血とグリフィンの戦いの話を聞く。まあ、俺にはもう関係ないことだ。住んでいる場所だって前線からは程遠い。週に一度は親の見舞いにいくし、今の仕事にも慣れた。少なくとも、グリフィンのよりは楽な仕事だ。
ん?
ああ、そうだったそうだった。一度だけ話したことがあるんだった。
理由なんてわからんが、もうすぐ退職ってとき、ある戦場へ奴等を運んで行って、「間もなく到着」と言った後のことだ。いつもなら背後の空気が変わり、ピリピリした緊張感が流れてくるだけだったのが、その日だけは違った。
マイク越しに話しかけられたんだ。綺麗な声だった。
「――――」
誰が言ったかなんて知らねえよ。搭乗者なんていちいち憶えちゃなかったし、振り返った時には戦場に消えた後だった。そもそも名前を気にしたことさえなかったからな。
でもまあ――、
たぶん、それなんだろうなって思うよ。
何って、理由だよ。
彼女達がロボットではなく、ドールと呼ばれる、その理由。