勇者の記録(完結)   作:白井最強

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勇者とラストダンジョン#4 

『先頭はタップダンスシチー!タップダンスシチーだ!2400を逃げ切ることとはこういうことだ!魅せてくれた仮柵沿い!広い府中を1人旅!』

 

 チームラピスラズベリのチームルーム、TVには先日行われたジャパンカップ映像が映っていた。タップダンスシチーのトレーナーはそれを見て自然に笑みが零れる。

 ジャパンカップはまさに乾坤一擲だった。ジャパンカップに向けてローテーションを組み、レースに向けて万全に仕上げ、立案した作戦も見事に嵌った。何より期待以上の走りをしてくれた。

 トレーナーもタップダンスシチーと同じように日本所属ウマ娘で初めてジャパンカップを勝ったカツラギエースのレースを見てトレーナーを志した。その運命的なレースで勝利する。それは人生で最も嬉しい出来事だった。

 

「てっちゃんまたジャパンカップのレース見てんのかよ。いい加減切り替えろって」

 

 タップダンスシチーが勢いよく入室し、トレーナーの姿を見て思わず苦笑する。嬉しいのは分かるが既に過去の出来事だ、そろそろ次を見据えて欲しい。

 

「折角だし見ていくか、最初から再生して」

 

 タップダンスシチーはそこら辺にある椅子を手に取りトレーナーの傍に座り、映像を見る。

 

「しかし全然ついてこないな」

「それはあの芝状態であのペースを刻めばな。しかし下手したら力尽きて負けてたかもしれない。もし負けたらてっちゃんはどうするつもりだったんだよ」

「タップなら最後まで負けないってバテないって確信があったからな。むしろ途中であの差を見て勝ったって確信した」

「おお~言うね~」

 

 タップダンスシチーは肘でトレーナーの脇腹を小突きながら茶化す。逃げの基本は道中どこかでスローペースに落とすのだが、3コーナー付近まで淀みのないペースを刻み続けた。

 

「でも3コーナーに入って差を詰められた時は少しだけヒヤヒヤしたぞ、まあ直線に入って突き放すんだけどな」

 

 映像では直線に入りタップダンスシチーが他のウマ娘を突き放し、その姿を2人は騒ぎながら映像を見る。逃げながらこのレースの上がり3ハロン最速タイ、この展開は他のウマ娘にとっては絶望的なレースだといえる。

 

「それで2着とはGI史上最大着差の9バ身差、まあ狙ったけど上手くいってよかった」

「後で一部のファンから勝ちが確定しているのに全力で走ってどうする。それで怪我をしたら元も子もないって批判がこっちに来たぞ」

「は~全く勝負ってもんを分かってない。これだから素人は」

「だな、俺も同じ立場だったらそうする」

 

 タップダンスシチーの愚痴にトレーナーは強く頷く。シンボリクリスエスのトレーナーは勝利を重ねる為には最小限の力で勝つのが最良だと考えている。それに基づけば愚行だが、2人の考えは違った。勝負とは心技体を競うものであり特に心に意識を向けていた。

 ある格闘家Aは格闘家Bと比べても贔屓目無しに強かった。普通にやれば100戦100勝のはずだった。だがいざ試合をやるとAはBに勝てなかった。AはBに幼少期にイジメられた過去から苦手意識を持ち実力を発揮できなかったからだ。

 タップダンスシチーは全力で走り差をつけたのは苦手意識を植え付ける為だ。

 GI史上最大着差を着けられての敗北、その着差を実力差と認識してしまい心が挫けるウマ娘が居るかもしれない、そう思わなくとも無意識で苦手意識を抱いてしまうウマ娘が居るかもしれない。

 2人は体のダメージよりも相手の心にダメージを与えることを優先していた。そして次の有マ記念にはシンボリクリスエスが出走する。少しでも心のダメージが与えられれば価値は充分にある。

 

「さらに有マ記念に勝つために、あの仕掛けをするだなんてな。タップがゴールしてから暫く全く気付かなかった。俺じゃあ思いつかん。本当に勝負師だよ」

「てっちゃんこそ、アタシの仕掛けにすぐに気づいて準備してくれたんだろ。アタシのアイディアだけじゃ効果が薄くなる。てっちゃんこそ勝負師だよ」

 

 お互い笑みを浮かべながら賞賛し合う。お互いのアイディアを聞いた時は思わず膝を打つほど驚いていた。そして悔しいと思うと同時に賞賛の念を抱き、心が通じ合ったようで嬉しくもあった。

 

「それで例のあれは?」

「ばっちり用意しているぞ」

 

 トレーナーは近くにあった紙袋から荷物を取り出し、自慢げに見せびらかす。中身は赤色のジャージと青色のシューズだった。タップダンスシチーは手に取って手触りなどを確認する

 

「ところでアイテムAは?」

「あれは心証が悪く、ルール上問題無いが見つかったら色々言われる。けどそれなら問題ないし、バレても心証はアイテムAより悪くないし、効果も差は無い」

「ふ~ん」

 

 タップダンスシチーはジャージとシューズを試着しながらトレーナーの言葉を聞き流す。勝つためならルール上問題ないなら何しても良いとは思っているが、そう言うなら仕方がない。それに自分の為の選択なら好意は素直に受け取ろう。

 

「仕掛けを上手くいくかな?」

「そのためには慎重に事を進めなければいけない。ぬかるなよ」

「そっちこそ」

 

 2人は笑みを浮かべながら拳を付き合わせた。

 

───

 

「タップダンスシチー先輩は?」

「後で来るって」

 

 サクラセンチュリー達は坂路コース脇で体が冷えないように準備運動をしながらタップダンスシチーを待つ。一昨日はジャパンカップ優勝パーティーで思う存分騒いで盛り上がった。

 トゥインクルレースの花形である東京芝2400のGIに勝利するどころか、2着に史上最大着差の9バ身差もつけた。この快挙に皆は浮かれ、あまりに騒ぎ過ぎたせいで翌日のトレーニングは中止になっていた。

 そして今日のトレーニングでもメンバーの浮かれ気分が若干抜けきっていなかった。

 

「待たせた」

 

 暫くしてタップダンスシチーがサクラセンチュリー達の後ろから現れ、改めてその姿を見つめる。

 ジャージの左胸につけられている星のエンブレム、これはGIを勝利したウマ娘だけが付けられる勲章のようなものである。その姿は多くのウマ娘の注目を集め羨望や嫉妬の眼差しを送っていた。

 そしてサクラセンチュリー達はタップダンスシチーが纏う雰囲気の違いに気づく。ウォーミングアップでは僅かに浮かれ気分が残っていたが、今は欠片も無く完全にスイッチを入れている。さらに元々大きかった体が1回り大きく見えていた。

 

 1つの勝利が自信を植え付けウマ娘を劇的に変える。そんな事例は多く見られていた。GI勝利、さらに2着と9バ身差をつけたとなれば得た自信はかなり大きい。その分だけ成長したのだろう。

 その証拠に周りにいる多くのウマ娘が注目していた。これは左胸にある星のエンブレムのせいではない。謂わばGI勝利によって備わった格が注目を集めさせている。

 一部ではジャパンカップは展開に恵まれた勝利で、次の有マ記念はシンボリクリスエス有利と評価されているが、サクラセンチュリーはそう思っていなかった。

 チームメイトという贔屓目無しに今の格なら互角の勝負は出来るだろうと思っていた。

 

「よし行くか」

 

 サクラセンチュリー達はタップダンスシチーの声に従うように坂路コースに向かった。

 

「ではお先です」

 

 栗毛のウマ娘が坂路コースをスタートしタップダンスシチー達は見送る。基本的に力が劣っているウマ娘が先にスタートする。彼女は1勝クラスのウマ娘で今日はウマなりと呼ばれる余力を残して走りをするようにトレーナーから言われていた。

 そしてウマなりでもタップダンスシチー達が迫ってきたら簡単に抜かれないように競り合うようにという指示も与えられ、競り合うのはゴール近くが効果的で競り合いを発生させるためにはハンデが必要だった。

 タップダンスシチー達は数秒ほどハンデを与えた後スタートする。2F目まではタップダンスシチーとサクラセンチュリーは併走する形になる。

 サクラセンチュリーは今の状況に違和感を覚える。サクラセンチュリーは瞬発力が優れ末脚自慢のウマ娘である。トレーニングでもレースを想定し末脚を磨くために最初はある程度ペースを落として、後半は全力で走る。

 一方タップダンスシチーはレースでは淀みのないペースを刻みながらの先行押し切りがレーススタイルだ。

 トレーニングでも先行力を鍛えるために早目にペースを上げロングスパート気味に走る。いつもなら2Fに入ったぐらいにペースを上げるのだが、まだ同じ位置に居た。

 3F目に入りサクラセンチュリーはスパートを仕掛け、同じタイミングでタップダンスシチーもスパートを仕掛ける。

 セクラセンチュリーは歯を食いしばり坂を駆け上がる。まだ3勝クラスだが末脚は重賞級だという自負があった。確かにGIを勝利した格上だ、しかしタイプが真逆の相手に末脚が劣るとは思っていない。

 2人は瞬く間に前を走る栗毛のウマ娘との差を縮めていく。前を見据えながら真横に居る気配を感じていた。

 残り1F地点で2人は栗毛のウマ娘に並ぶ。栗毛のウマ娘も出来るだけ食らいつこうと力を振り絞るが数秒も持たずに差し切られる。そして未だに気配を真横から感じていた。

 流石GIウマ娘だが末脚の差はラスト1Fで決まる。今まで培った技術と瞬発力に己のプライドを注ぎ込む。      

 それでもタップダンスシチーとの差は離れなかった。2人は並んでゴールする。その差は目視では分からないほどの僅差だった。

 

「若干セクラセンチュリーの態勢有利か?」

「分からんです。しかしいつの間にそんな末脚を発揮できるようになったんですか?」

 

 サクラセンチュリーは息を整う間を惜しんで問いかける。今までならこの状況なら1バ身差ぐらいは差をつけられると思っていた。だが結果はほぼ同着だった。

 さらに言えばトレーナーの指示が正しければあちらは強め、一方こちらは一杯だった。実質的に相手のほうが末脚が勝っていたと言える。

 

「日々のトレーニングの成果だな」

 

 サクラセンチュリーは得意げに言う姿に戸惑いと驚きを覚えていた。ジャパンカップ前であれば末脚勝負では勝てると断言できた。

 勝利はウマ娘を劇的に変えるというがここまで成長するものなのか。レース中に成長したのか分からないが末脚勝負に負けたのは変わらない。

 タップダンスシチーは間違いなく現役の中距離トップクラスのウマ娘だ、だがスピードの持久力は優れていても決して瞬発力があるウマ娘ではなかった。だが瞬発力が備わった。

 これならば有マ記念でシンボリクリスエス等の有力ウマ娘を倒し中距離のトップに立てる。それは予感ではなく確信に変わっていた。

 その後も3人はもう1本坂路を走り、そこでも先ほどと同等の末脚を発揮し先着していた。

 

「スポーツ知報ですが、タップダンスシチー選手とトレーナーさん少しよろしいですか?」

 

 トレーニングが終了しタップダンスシチー達がチームルームに出ると、1人の記者が待ち構えていた。彼はチームラピスラズベリの番記者的存在でトレーナーとも親交が有った。

 タップダンスシチーは談笑していたチームメイト達に目配せし、チームメイト達もヒラヒラと手を振り寮に向かって行く。

 

「もう取材?早くない?」

「今年の有マは盛り上がりそうですので、早目に取材して情報量で他紙と差をつけようと」

 

 トレーナーの問いに記者は気軽に答える。有マ記念はトゥインクルレースの1年を締めくくるビッグイベントで世間からの注目度も高い。

 さらに今年の有マ記念はメンバーが集まると予想し、ジュニア級のGIを取材するより有マ記念を取材しようと、ジャパンカップの翌週から動き始めていた。

 

「当紙はタップダンスシチーを推していこうと。噂ではシンボリクリスエスは有マ記念で引退するようで、きっちりシンボリクリスエスに勝つタップダンスシチーを密着取材しようと」

「ボリクリ引退するの?」

「真偽は定かではないけど噂だと」

 

 タップダンスシチーは引退の報せを聞き一抹の寂しさを覚える。シンボリクリスエスは壁だった。最初に走った有マ記念ではベストに近いレースをしながら後ろから猛烈な勢いで差され、そこから強く意識するようになっていた。

 レースを勝つためにライバルは減った方がいい、だが同時に強敵に勝ちたいという気持ちも有った。

 シンボリクリスエスには衰えが見られず、これからも何度も鎬を削ると思っていただけに、先の報せはショッキングだった。

 

「なら、なおさら負けられないな」

 

 タップダンスシチーは闘争心を漲らせる。戦績は1勝1敗、これで勝たなければもう2度と勝ち越す機会は訪れず、強かったと証明できない。元々負けるつもりはサラサラ無かったが、引退の報せはさらに闘争心を燃やさせた。

 

「おお、気合入っていますね。では早速、今日のタップダンスシチー選手は坂路で終い重点でしたが、どのような意図が?」

 

 記者はレコーダーを手にし取材を始める。彼はタップダンスシチーを長期間追っていた。レーススタイルを確立する前は終い重点のトレーニングをすることがあったが、確立してからは己の武器を磨くために先行力を高めようと、終い重点のトレーニングはしていなかった。

 

「ジャパンカップでは上がり3Fは最速タイだったからね。走りにキレがついてきたのかと思い、そこも伸ばしていこうと坂路で終い重点にしました」

 

 記者はトレーナーの言葉にふむふむと頷く。確かにジャパンカップの上がり3Fは最速だった。逃げが上がり3Fを最速で走れば物理的に届かない。まさに究極のレースと言っていい内容だった。そして今まで上がり3Fを最速で走ったことは無かっただけに強く印象に残っていた。

 

「なるほど、今日もサクラセンチュリーに競り勝ち、残り3Fのタイムも本日最速でした。しかも強め、申し訳ないですが、タップダンスシチー選手がこれほどのキレを持っていると思っていませんでした。これはトレーナーさんにとって予想通りでしたか?」

「いえ、正直予想外でした。でも嬉しい誤算です。先行力を生かし淀みのないペースを刻み、早目にスパートをかけるのがレーススタイルですが、どうしても終いが甘くなって差されるレースもありましたから、これでキレがつけば終いも良くなり、レースの幅も広がります」

 

 トレーナーは戸惑い気味に笑みを浮かべながら語る。記者はそれを見て変化は全くの想定外だったと判断した。そして質問の相手をトレーナーからタップダンスシチーに変える。

 

「タップダンスシチー選手も今日のトレーナーの指示には戸惑ったのでは?」

「ああ、最初は耄碌したかって思いました。アタシ達のレーススタイルは先行押し切りで真逆です。けど偶には違うメニューもやるのも刺激になり、ジャパンカップでキレを出す走りのコツを掴んだ気がしましたので、少しやれるとは思ってたけど予想以上でした。これならツルマルボーイやスイープトウショウにも末脚で勝てそうです。なんなら有マは後方一気で勝ちましょうか?」

 

 記者はタップダンスシチーの言葉に思わずどよめきの声を上げる。もし現役で最も末脚があるウマ娘と訊かれればこの2人を挙げるだろう。

 その2人にも勝てるとは相当のビッグマウスだ。流石に話半分に聞くが、それだけ自身の末脚に手ごたえを感じているのだろう。

 

「それで体調はどうですか?ジャパンカップの激走で調子を崩すのではという声もありますが」

「ジャパンカップをメイチにしたから反動は多少気になるところでしたが全く問題ないです。むしろさらに調子が上向いています」

 

 タップダンスシチーは機嫌よく答える。記者は長年の経験からインタビュー1つでも調子の良し悪しが意外に現れ、声の調子や仕草を見た限りでは今の言葉に嘘はないと判断した。

 

「ではインタビューはこれで終わります。ご協力ありがとうございました…ということでここからはプライベートタイム~」

 

 記者は下げた頭を上げると硬かった雰囲気が一変して気軽な雰囲気になった。

 

「タップちゃん改めてジャパンカップ優勝おめでとう。しかもジャパンカップでは負け犬を沈めにいったね」

「おお、分かる?次に勝つためには他のウマ娘を徹底的に叩きのめしておかないと」

「横綱も本番で勝つために出稽古で次に対戦する力士をボコボコにしたって言うしね」

「じゃあ、アタシは横綱と同じステージに立っているってか」

 

 タップダンスシチーも仕事は終わりとばかりに普段の口調に戻り、先ほど以上に上機嫌に答える。2人もトレーナーを通して親交が有り、趣味の競艇について話すなどそれなりに親しかった。

 

「暫くは押しかけさせてもらうよ。そのお詫びということで今夜競艇の菊田選手と呑むけど、てっちゃんも来る?」

「本当に?行く行く」

「アタシも行く!」

「タップは無理だろ、外出申請書が通ると思うか?」

「てっちゃんだけズリいぞ、アタシだって取材受けるんだから見返りよこせ、でないと取材拒否するぞ」

「サイン貰ってきてやるから、それで勘弁な」

「しょうがない、それで手を打ってやる」

 

 タップダンスシチーはトレーナーの提案に渋々と了承する。その様子を見てトレーナーは吹き出す。レース前などはその気迫に近寄りがたいこともあるが、時には年相応の様子も見せることもある。

 

「飲み会は何時から?」

「19時」

「じゃあ、その前に一仕事終わらせるか」

 

 トレーナーは意気揚々とした足取りでトレーナー室に向かい、タップダンスシチーは羨まし気にトレーナーを一瞥し寮に向かう。

 

「仕事的にも個人的にもタップちゃんとてっちゃんには期待しているんだよ。有マ記念に勝って、来年は大阪杯かドバイシーマか香港のクイーンエリザベスか宝塚記念に勝って、秋には凱旋門に行って勝ってくれるって」

 

 記者は帰ろうとする2人に語り掛ける。タップダンスシチーは同期が華々しく活躍するなか条件戦でくすぶり続けながらも常に前を見続けていた。

 そしてトレーナーもタップダンスシチーの可能性を信じ自分達の走りを模索し続け、長年の努力が花開きついに現役最強と呼び声高いシンボリクリスエスを倒してGIに勝った。2人の歩んだ道のりを長年見続けただけに感情移入していた。

 

 そして2人の気質も好きだった。1着以外は意味が無いと次に備えるために露骨に手を抜くタップダンスシチーと、そのスタンスを容認するトレーナー、勝負はターフの外でするもんだと言わんばかりに盤外戦術を仕掛け、勝利目指す姿勢、それは勝負師の姿だった。

 トレセン学園はアスリートを養成する機関でウマ娘達はレースに勝つことより全力を尽くすことを重視する傾向がある。まだ若くアスリートであるからして仕方がなく、正々堂々走る姿は素晴らしい。だが好みではない。

 勝つのではなく相手を負かす。その為にはトレーニングの際にシューズに重りを入れて調子を悪く見せて油断させるなど平気でやる。その姿勢が好みだった。

 凱旋門賞制覇は日本の悲願だ、それをアスリートではなく勝負師が達成する。ある意味痛快だ。その痛快な光景が見られることを期待していた。

 

───

 

 教室内は朝のホームルーム前のお喋りを楽しもうと騒がしかった。その中でタップダンスシチーは喧騒とは無関係とばかりにスポーツ新聞を広げる。

 

──タップダンスシチー末脚に自信あり!現役最速の末脚は私だ!有マ記念は後方一気で勝つ!

 

「そこまで言ってないんだけどな」

 

 独り言を呟きながら記事を読んでいく。内容はトレーニングのメニューとトレーナーと自身のインタビューの一部が抜粋されていた。センセーショナルな見出しに比べれば大人しいが、記事の内容もそれなりに盛られている。

 

「何かオモシロイ記事でも載っているの?」

「アタシの記事がな」

「へ~、お~凄い!スイープトウショウもツルマルボーイも後ろから差してやるって」

 

 気が付けばスポーツ新聞を見ようとクラスメイト達が集まっていた。その様子を見てタップダンスシチーの口角は無意識に上がっていた。

 

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