勇者の記録(完結)   作:白井最強

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勇者とラストダンジョン#10

 トレーニング前のアップはチームの特徴が出てやすい。あるチームは雑談をしながら和気藹々とするタイプもいれば、あるチームは私語をせず黙々とするタイプもいる。タップダンスシチーが所属するチームラピスラズベリは前者である。しかし最近は私語しなくなっていた。

 タップダンスシチーを先頭にチーム一団で走る。それはアップにしては走行スピードが速く、シニア級やクラシック級はともかく、デビュー前のウマ娘は着いていくのがやっとだった。

 そして5Fほど走ると止まり、少しだけ休憩してから同じように走り始める。それを3セットする。トレーナーはスマホを見ながら、チームメイト達を見守っていた。

 アップが終わると本格的なトレーニングが始まり、タップダンスシチーは最近の恒例となった坂路で一杯に追う。その日は2Fのベストタイムを更新し、坂路で走ったウマ娘の中で最も速いタイムで走っていた。

 

「お疲れ」

「お疲れ、この後例の場所によるけど行きます?」

「悪い。パス」

「また散歩ですか?」

「まあな」

「そんなに楽しいですか?」

「寒さを肌で感じ、木々の匂いを感じ、周りの音を聞く。楽しいぞ」

「何か風流ですけど、らしくないですね」

「目覚めたんだよ」

 

 タップダンスシチーは軽口を叩きながら、チームメイト達と別れて、チームルームを離れ、学園内を散策する。この季節は木々が枯れ淋しい景色だが、自然や人の営みは変わらず、目を凝らし耳をすませば十分に楽しむことは出来る。しかし周りに意識を向けず黙々と歩く。

 それはとても散歩を楽しんでいる者の雰囲気ではなく、別の事柄に意識を向けているようだった。そして一定の感覚でスマホを操作し画面を見ながら歩いていた。

 

───

 

 アグネスデジタルはベッドで寝転がりながらスマホでウマ娘達のSNSをチェックしながら、ベッドで目を閉じて胡坐を組んでいるタップダンスシチーの気配を存分感じる。

 有マ記念まで残り2週間を切り本番に向けて徐々に心を仕上げていく、心を仕上げるにあたって様々な過程があるが、その1つとして自信を強固にしていくという過程がある。

 タップダンスシチー曰く勝負とは風下に立った瞬間に負ける。どんなに不利な勝負でも絶対に勝てるという気概で挑む。

 その絶対に勝てる気概を生み出すには勝ち筋、勝利への可能性が必要だ。それを見つけどんなに可能性が低くとも絶対に成功するという自信を植え付ける。それと同時に勝ちたいという欲を膨れ上がらせる。

 

 レースが近づくごとにタップダンスシチーの空気は刺々しい空気が強まっていく。そして既に宝塚記念前日までぐらいに仕上がっている。要因はシンボリクリスエスだろう。

 シンボリクリスエスは有マ記念を最後に引退すると発表し、それは業界に大きな衝撃を与えた。デジタルは天皇賞秋の惨敗もありある意味予見できたファンもいたが、シンボリクリスエスはジャパンカップで負けたが衰えた様子はなく、予想していた者は皆無だった。

 タップダンスシチーは勝ち方にこだわらない。有力ウマ娘がレースに出走しなくても勝つ確率が減ると喜ぶタイプだ。だがシンボリクリスエスをライバル視していて、特別な感情を抱いている。

 ライバルのラストレース、通算成績は1勝1敗、これで負ければ永遠に勝ち越す機会を失う。絶対に勝って勝ち越したウマ娘として永遠に刻みつけてやる。

 デジタルは気が付けばスマホを見るのをやめ、2人の関係性を想像し、妄想を捗らせていた。

 

「アグネスデジタル、ちょっと訊きたいことがある?」

「うん?え?なに?」

 

 デジタルは妄想の世界から現実の世界に引き戻される。この状態のタップダンスシチーは人に話しかけることはあまり無いので全く予想していなかった。

 

「天皇賞秋のボリクリの様子が変だったが何かしたか?」

 

 有マ記念で最も脅威なのはシンボリクリスエスだ、ジャパンカップでは大差をつけたが着差=実力差と思っておらず、リベンジの為に死に物狂いでくるだろ。

 少しでも有利になるために過去のレースを見ている際に天皇賞秋のレースを見てある事に気づく。結果はレコード決着の1着で強さを見せつけた内容だった。だが過程に気になる点があった。まずはスタートが遅れた。

 相対的に見れば失敗していないように見えるが、スタートから10メートルたどり着くタイムを計測すれば一目瞭然だ。今までスタートに失敗したことが無かっただけに気になるがそれは偶々と説明できる点もある。問題はもう1つの異変だ。

 スタートから1000メートル通過するまでの間様子が映っていたわけではないので断言できないが、いつもと様子が違っていた。

 いつも冷静な様子ではなく、明らかに心が乱れ気分よく走っている表情では無かった。それは偶然で片づけられなかった。

 さらにこのレースでデジタル以外はシンボリクリスエスと同じ様子だった。だとしたら何かしらを仕掛けたと考えられる。そして同じことができれば有マ記念で有利になると考えていた。

 

「う~ん、したといえばしたかな?」

「何をしたんだ?教えてくれ」

「いいけど参考にならないと思うよ」

 

 デジタルは体をソワソワさせながら当時の様子を語る。レースに向けてウマ娘断ちをしたこと、それによって他のウマ娘を委縮させてしまったことなど赤裸々に話す。

 

「ウマ娘断ちって、前々日会見やパドックや本バ場入場の時の奇行は全てそれだったのか?」

「奇行って、まあ他人が見ればそうだけどこっちも必死だったんだよ」

「そういえば珍しく先入れしてたけどあれもか?」

「そう、必死に我慢してたけど耐え切れなくなってたところを白ちゃんが申請して先入れした。あれはナイス判断だったね」

 

 タップダンスシチーもデジタルが休学し、外厩ではない場所でトレーニングしていると聞き、動向を気にしていた。

 そして前々日会見などの奇行は全く理解できず人間性すら疑っていた。だが理由を訊くと本人なりに理屈があり真剣に目的を達成しようとしていたのが分かった。

 

「参考になった?」

「いや、全く参考にならん」

 

 タップダンスシチーは肩を竦める。説明されたが自分には出来ないことは理解できた。これはデジタルだからこそ起きた現象だ、そして他のウマ娘に起こったことはある程度理解すると同時に同情を覚える。

 人は無意識に感情を人にぶつけるが思った以上に伝わる。それは好意や尊敬などより警戒心や敵意などネガティブな感情がより人に伝わりやすい。自分のシンボリクリスエスに向けている敵対心も伝わっているだろう。そしてデジタルも同じようにシンボリクリスエス達に感情をぶつけた。

 ウマ娘断ちによって抑制された感情は最大限まで凝縮される。デジタルがぶつけたのは敵対心などのネガティブな感情ではなく好意に分類されるものだろう。だが行き過ぎた好意は受ける者によって敵対心など以上に人を不快にさせる。

 極端な事を言えばシンボリクリスエスは狂信的なストーカー数人分の感情をぶつけられたようなものだ、それは気分よく走れるわけはない。

 

「そういえばシンボリクリスエスちゃんも同じ事訊いてきたな」

「そうなのか?」

「シンクロニシティってやつ?通じ合ってるね」

 

 デジタルは自分の言葉を切っ掛けに、再び妄想の世界に入り込む。タップダンスシチーはその様子を生暖かい目で見ながら、シンボリクリスエスについて考える。

 如何に相手の削るかを考えるタイプだとは思わなかった。思考が似ているというのは、自分の作戦がバレやすくもあるので厄介だ。

 

「最近は有マ記念に出走するウマ娘と接触してるんだって?」

「うん、最後だしね、やりたいことはやっておきたいからね」

「どんな話をしてる?」

 

 タップダンスシチーはデジタルが妄想の世界から現実に帰り始めているのを見計らって、話しかける。相手を探るのは重要だ、自分がやれば勝つ為にやっているのと警戒され、口を閉ざすか騙されるかだ。

 だがデジタルがやれば別だ、勝つ為じゃなくウマ娘を感じる為にやっているのだろう。そうであれば自分よりかは経過されず、不用意に口を漏らすかもしれない。現にヒシミラクルは自分を意識しているという情報はデジタルから持たされたものだ。

 

「それは最近の出来事とか、マイブームとか、過去のレースの思い出とか、色々だよ」

 

 デジタルは楽しげに語り始める。しかし欲しい情報ではないが一応は耳を傾けておく、意外な情報が役に立つ場合もある。それから話は続くが勝つ為に役立つ情報では無かった。

 

「そういえばタップダンスシチーちゃんも調子良さそうだね。今日の坂路で自己記録更新に最速でしょ」

 

 デジタルは思い出したように話題を振る。有マ記念に出走するウマ娘と交流を深めているが、タップダンスシチーもその1人だ。同室なので比較的に接する機会があるが、お喋りする時間が増える分に越したことは無く、話の流れに乗じて交流を深めておこうと考えていた。

 

「スポーツ知報の呟きで知ったのか?」

「そうそう、タップダンスシチーちゃん推しなのか、すぐに書き込みしてくれるからね。それに独自のインタビュー記事とか載せてくれるし、記者の人と親しいの?」

「まあな」

「それに最近は検索ワード数も増えているみたいだね。有マ記念の1番人気かも」

「おお、そうなりゃ嬉しい限りだ」

 

 タップダンスシチーは興味なさそうに返事する。だがエゴサーチで情報は逐一チェックし、注目度が高まっているこの状況は喜ばしくあった。

 

「それに気配が既に宝塚記念前ぐらいビンビンだよ」

「そうか?」

「そうだよ。走りにキレが出てきたって白ちゃんが言ってたけど、調子の良さのせいかな?」

「ジャパンカップに勝ったからね。よく言うだろう『勝利は蚊トンボを獅子に変える』って、アタシはさらに強くなった」

「自信満々だね。う~ん、ますます楽しみ。宝塚記念みたいに勝つために色んな仕掛けをして挑むタップダンスシチーちゃんはどれだけ魅力的なんだろう」

「人聞きが悪い事言うなよ。負けたけど正々堂々走った」

「だって、宝塚記念前ではトレーニングの時にシューズに重り入れて、調子悪そうに見せたでしょ」

「どこで気づいた?」

 

 思わず問いかける。本来であれば質問すればやっていると自白しているようなものだ。本来であれば白を切るのが正しいのだが、デジタルの様子は明らかに確信を得ている。ならばどうやって気づいたかを訊き、今後の参考にした方がいいと判断した。

 

「宝塚記念前でトレーニングを見ている時に動きの躍動感に比べてタイムが妙に遅かったから不思議に思ったんだよね。それでチームメイト達がタップダンスシチーちゃんのシューズを触って騒いでいるの見て、重り入れているって気づいた」

 

 デジタルの答えを聞いて内心で舌打ちをする。あのシューズは重り入りシューズは履き心地が悪くトレーニング終わりのクールダウンには脱いでいた。

 そしてチームメイト達に重りを入れているのを漏らしてのも覚えている。これはチームメイトが悪いのではなく、楽になりたいからとシューズを脱ぎ、仕掛けをうっかり漏らしてしまった自分が全て悪い。

 

「誰かに喋ったか?」

「まっさか~、タップダンスシチーちゃんの努力を人に漏らすわけないじゃん」

「他に気づいた者は?」

「うちのトレーナー、白ちゃんは勝負師って言われてるみたいだけどタップダンスシチーちゃんはもっと凄いって自慢したんだけど、そこから推理したみたい。ごめんね。でも勝負服は皮膚や体のラインが見えないようなデザインにして調子がバレないようにしたり、ベストドレッサー賞を無視してメイクや仕草で調子が悪いように見せたりして凄いって褒めてたよ」

 

 己の失言による発覚を取り繕うように、トレーナーの言葉を借りてタップダンスシチーを褒める。一方タップダンスシチーはトレーナーへの警戒心を高める。オペラオーを倒した天皇賞秋での奇襲で同じ匂いを感じていたが、ここまで見破られるとは思わなかった。

 

「なあ、お前はレースに勝つために走るんじゃなくて、レースを走るウマ娘を感じる為に走ってるんだよね」

「そうだよ」

「なんでお前のトレーナーは一緒に居るんだ?」

 

 タップダンスシチーは率直に疑問をぶつける。本人の言葉やメディアでデジタルはレースを走るのはウマ娘を感じる為で、勝利は二の次でレースに勝ったのはウマ娘を感じる過程でなったものであると知った。その思考は全く理解できないがそのような考えがあるのが分かった。

 そしてデジタルのトレーナーは勝負師と呼ばれる人間だ、そういった人間は勝利を目的とする。デジタルとは真逆だ、そんな2人が一緒にいれば反発して袂を分かつか、どちらかに染まるだ。

 だが自分の仕掛けを完全に見破ったトレーナーがデジタルに染まっているとは思えない。同じようにデジタルはトレーナーに染まっていない。

 

「そもそもテイエムオペラオーを倒した天皇賞秋の大外奇襲はトレーナーのアイディアだろ?何故その案に従った?ウマ娘を感じたいならウマ娘達の近くを走ればいいだろ?」

 

 デジタルは質問に『まあそうだよね』と納得するように頷く。確かに外から見れば行動がチグハグだ。

 

「あの時は色々有ったんだよね」

「教えてくれ、興味がある」

「アタシなんかに興味を示してくれるの?喜んで話します!まず天皇賞秋の大外奇襲は白ちゃんの案です。そしてアタシは反対した。オペラオーちゃんとドトウちゃんを近くで見たいから出走したのに意味ないじゃんって」

「そんな理由でバッシングを受けてまで出走したのか?勝ち目はあったのか?」

「勝ち目なんて関係ない。そんなの二の次、ウラガブラックちゃんには申し訳ないけど、結果的に2人と走るのは最初で最後だったから良かったよ」

 

 タップダンスシチーはさも当然のように語るデジタルを見て苦笑する。あの時のデジタルへのバッシングは苛烈で同情を覚える程だった。

 そのバッシングを受けての対価は2人と同じレースを走る権利、バッシングを受けて勝ち目のないレースに挑む。自分だったら明らかに割に合わない。

 

「それで白ちゃんと意見が対立した。『お前には勝利を目指す義務がある!自分の力を最大限発揮するのが勝利を目指すことやない!自分の力を削いでも相手の力をそれ以上に削ぎ上回ることが勝利を目指すことや!』って。そしてアタシはそれでも2人を感じたいって反対した。あの時はチームを離脱しても外を走らないつもりだった」

 

 タップダンスシチーは内心で同意する。自分の実力を最大限発揮できなくても最終的に勝てばいいのだ。全くの同感である。

 

「それで諦めたのか?」

「いや、走ろうとしたよ。その時白ちゃんがレースに勝てて、アタシの願いも叶えられる方法を思いついたって言ってきた」

「どんな方法だ?」

「大外を走りながら限りなくリアルなオペラオーとドトウのイメージを作り出し併走する。それができれば実在する2人と一緒に走るのと変わらない。これで2人を堪能できるしレースにも勝てる」

「ハッハッハッハ!頭いかれてんのかお前のトレーナー!?」

 

 タップダンスシチーは答えを聞いた瞬間に大笑いし、こめかみ辺りを人差し指でクルクルと回す。その声量の大きさにデジタルは体をビクリとさせる。

 

「アタシもそう思ったよ。でも白ちゃんや協力してくれたチームの皆の為に勝ちたいって気持ちも有ったし、やってやるって!って感じでやってみたらできた」

「出来たのかよ!そんなにお手軽なのかよ!」

「本音を言えばリアルの2人を感じたかったけど、妥協案としては良かったと思うよ。それにこれがトリップ走法の原型だし、その後も色々なウマ娘ちゃんを感じる為には必要だったし、怪我の功名ってことで良しだよ」

 

 笑いを堪えながら過去を振り返る。エイシンプレストンから貰ったデジタル取扱説明書では独り言を言う時はあるが、トリップ走法と呼ぶ走りをするために妄想していると書かれ、存在は知っていた。てっきり発案はデジタルだと思っていたがまさかトレーナーだとは夢にも思わなかった。

 

「いや水と油と思ってたけどお似合いだよ」

 

 未だに腹を抱えベッドをバンバンと叩きながら呟く。頭がおかしい同士お似合いだ。まさに破れ鍋に綴じ蓋だ。

 

「あ~笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだ」

「ウケを狙ったわけじゃないけど良かった。笑うことは良い事だかね」

「ところで有マ記念もトリップ走法でウマ娘を感じるのと勝利の両取りを狙うのか?」

「いや、トリップ走法はもう出来ない。ドクターストップされて、使ったらどうなっても知らないぞって言われてるからね。流石に人生棒を振りたくない。感じるのに全振りだね。気に障った?」

 

 デジタルは顔色を窺うように問う。タップダンスシチーはバリバリの勝利至上主義、もし勝つ気が無い者が居れば目障りで仕方がないだろう。

 出走辞退しろと言われるのも覚悟しているが辞退するつもりはない。次善の幸福を得るためにはエゴを押し通させてもらう。

 

「いや、一時期はそう思ったけど、今はそこまで気にしない。邪魔しなければな」

「そこは大丈夫、色々と考えているから、周りを邪魔せず迷惑かけずに欲求を満たす。これ推し活の基本ですから」

「別にアタシの邪魔しなければいいけど、寧ろ邪魔してくれボリクリとかネオユニヴァースとか」

「それは嫌だ。第一にアタシがシンボリクリスエスちゃんの邪魔して勝っても嬉しくないでしょう?」

「嬉しいぞ。勝てば全て良し。仮に邪魔を受けてもボリクリの運が無かった。ヒシミラクル理論で言えば実力が無かった。つまりアタシの完全勝利だ」

 

 デジタルは当然とばかりに堂々としているタップダンスシチーに意外そうな表情を浮かべる。

 実力を発揮できないことを良しとせず、シンボリクリスエスを完膚なきに叩きのめしたいという熱いライバル関係を抱いていると思っていたが全く違ったようだ。

 だが普段の言動から考えるに的外れだ。それにそっちの方が実にらしく魅力的だ。

 

「ところでウマ娘を感じるって射程距離とかあるのか?」

「あるよ。流石に10バ身差とかつけられたら感じられないからね。有マ記念に出走するウマ娘ちゃんは皆強いからね。感じるのにも骨が折れるよ」

「まあ、お互い頑張ろうや。アタシは勝利のために、アグネスデジタルはウマ娘を感じる為に、同期の顔の最後が不本意なレースになるのは忍びないからな」

「うん」

 

 タップダンスシチーは拳を突き出しデジタルは嬉しそうに合わせる。一見友好的な言葉と雰囲気はデジタルが知る気の良いタップダンスシチーであり、自分に気をかけてくれていると感激すらしていた。だが目の奥にある光は鋭かった。

 

 タップダンスシチーはデジタルの寝息を聞きながらデジタルとトレーナーについて思考する。言葉を交わしたことで深く知れた。昨日までデジタルは真逆の人間だと思っていた。その考えは間違っていた。あれは同類だ。

 目的は違えど周りの目や評価を気にせず、目的を達成するために様々な方法を実践する。それは時に奇行と映り世間から嘲笑されたとしても全く気にしない。

 そしてトレーナーは想像以上に勝負師気質で思考が似ていた。宝塚記念前での仕掛けや勝負服の意味やパドックでの立ち振る舞いを完全に理解していた。

 ふと胸中に不安が過る。もしかすると今度の仕掛けが見破られるかもしれない。もしデジタルが勝利を目指しているのならば脅威だが、だが幸いにも勝利を目指していないので脅威は少ない。

 いや、そんな弱気でどうする。今回の仕掛けは自分とトレーナーの渾身の仕掛けだ、見破られるはずがない。 

 今度の有マ記念はいくつかの意味がある。ジャパンカップと有マ記念に勝利し現役最強を証明する。シンボリクリスエスに勝ち越しを上で有ると証明する。

 そしてデジタルのトレーナーに仕掛けが見破れるかという勝負師としての対決が増えた。レースが終わったら見破れたどうか聞いてみよう。

 

 そして再び思考をデジタルに移す。有マ記念の目的はウマ娘を充分に感じる。その為にはある程度ウマ娘に近づかなければならない。

 私見では今のデジタルでは千切られるだろう。だがあのトレーナーなら思わぬ方法で目的を達成させるだろう。今後はデジタル陣営の動向に注視したほうがいいかもしれない。

 デジタルの目的とトレーナーの気質と実力を最も知っているのは出走ウマ娘陣営のなかでは自分だ、そのアドバンテージを利用できないものかと、トレーナーの立場になってデジタルが目的を達成できる方法を考え始めた。

 

 

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