──もし今日死ぬとしたら何を食べたい?
アグネスデジタルの頭にチームメイト達と話した取り留めない雑談の記憶を思い出す。
高級フランス料理店のフルコース、人気店のスイーツ、実家の手料理、様々な食材や料理が浮かびあがる。当時は何と答えたかは覚えていないが今ならこう答える。
普通の食事
目の前にあるのはバターロール、スクランブルエッグ、サラダと至って普通のメニューだった。量も多くもなく少なくもない、それをいつも通りの動作で食べる。
心にもスタミナがある。感情が揺れ動けばその分だけ心のスタミナを消費する。もし今日死ぬとしたら友人や家族と過ごし、喜怒哀楽を共有して思う存分感情を揺れ動かしたい。その為に今まで食べたことが無い最高級の料理を口にして、無駄に感情を揺れ動かしたくない。
そして今日も同じだ。午後15時40分、有マ記念と言う最高に楽しいイベントが待っている。
やはりトレーナーには改めてお礼の言葉を口にしよう。チームメイト達や友人やお世話になった人にも口にしよう。やはり引退したくないと言うかもしれない。
レース後には様々な感情が出てくるだろう。だがそれはレースまで一旦封印する。不安も悲しみも寂しさも押し込んで、嬉しさと楽しさだけを表に出し、ウマ娘を感じ楽しむことに注ぎ込む。
──
「アタシ、アタシ、ボリクリ、アタシ、ヒシミラクル」
タップダンスシチーはスポーツ新聞をパラパラと捲り、読み終わると目の前のテーブルに投げ捨て、脇にある新しいスポーツ新聞を手に取っていく。そして今日発行されたスポーツ新聞を全て確認し終えた。
「アタシが4、ボリクリが2.5、ヒシミラクルが1.5、クラシック組が1.5、その他0.5ってところか」
「実力差を考えれば上々だろう」
タップダンスシチーの言葉にトレーナーは頷く。今日のスポーツ新聞の1面は全て有マ記念についての記事だった。そしてレースの記事も他の日の内容と比べて多く割かれていた。
2人が確認していたのは1面やレース記事で誰を本命にしているかで、大まかな比率を集計したのが先ほどの数字だった。
「恐らくは1番人気だろう」
「とりあえずは目的達成だな」
2人は安堵の息を漏らす。GIで1番人気を背負って走ることはウマ娘にもトレーナーにも名誉である。それが有マ記念で有ればその名誉はさらに上がる。
だがそんなものはサラサラ興味ない。勝てば最低人気だろうが、誰も応援券を買っていなくとも構わない。1番人気が欲しかったのは全て勝つためだ。
「てっちゃん、今からタップダンスシチー理論を提唱しよう」
「ほお~、是非とも聞かせてくれ」
突然の言葉にトレーナーは興味深そうに相槌を打つ。それに気分良くしたのか饒舌に語り始める。
「レースに勝つためには心技体の総合値が優れた者が勝つというのが従来の理論、それに運の要素を加えたのがヒシミラクル理論、タップダンスシチー理論はさらに別の要素を加える。それは『勝負力』だ」
「勝負力?」
「レース外やレース前に勝つために行動する力だ」
「つまり盤外戦術だな、確かに重要だ」
トレーナーは僅かに口角を上げながら答える。レースに勝つためにはフィジカルを鍛える。走りのテクニックを磨く。実力を発揮できるメンタルを鍛える。スカウティングして相手の弱点を突く。それは確かに重要だが、それだけでは勝てない。
如何にしてレース前に自分達に有利な状況を作るか、その為に必要なのが盤外戦術で有り、勝負力であると解釈した。
例を挙げるとすると本来であればタップダンスシチーはここまで本命に押されることはなかった。
前走は全てが有利に働いたに過ぎず、自力に勝り中山に相性が良いシンボリクリスエスが1番人気になるはずだった。
だが取材を受けるたびに条件が変わっても多少着差が縮まるに過ぎず、完勝に終わっていたと豪語し、レースを経て成長し、有マ記念ではさらに調子が上がると吹聴し続け、トレーニングでも瞬発力が増した走りを見せ、好時計を連発することで口だけは無いとアピールした。
実力は本物であると認識させ記者たちは記事で褒める。それを見た一般の者達がそうなのかと認識を変えていく。その結果タップダンスシチーが推定1番人気になっていた。これも勝つためには必要なことだった。
勝負力を重視するトレーナーは全体的に見てもかなり少ない。しかしそれはある意味仕方がなかった。
トレーナー試験は極端なことを言えば、ウマ娘がいかに競技生活を健康的に過ごし、速く走らせられる知識や技術が有るかを問うものである。そして試験に受かりトレーナーになるためにその分野を勉強する。つまり勝負力を問われることは無い。
そしてそのトレーナーは勝負力を養わず、教わるウマ娘も勝負力が備わることは無い。何より盤外戦術や小細工は認めているが心の中で卑怯と捉え、若いウマ娘達は教えたくないという考えがあった。
だがトレーナーはそうは思っておらず、タップダンスシチーも同様だった。だからこそ勝つために全力で盤外戦術を実行し、小細工を弄する。
「アタシ、いやアタシ達は勝つために全力を尽くした。だから勝てる」
「当然だ」
2人は事実を確認し合うように言葉を発し、その言葉には自信が漲っていた。
───
ヒシミラクルは窓を開けると喜びも驚きも見せず平然と呟く。
「ほらね」
窓の外を見ると雨粒が落ち、街路樹やアスファルトを濡らしていた。昨日の天気予報では今日の天気は晴れで、関東で振るのは月曜以降とされていた。雨雲が急激に移動したのだろう。TVをつけると雨は深夜から降り始めたと報道していた。
この勢いならバ場は重か不良だろう。改めて自分の強さを認識する。
芝のコンディションが悪くなればなるほど芝に脚を取られ体力を消耗していく、つまりスタミナが豊富な者が有利だ。
さらにレース中は最高時速約70キロ、道中でも約50キロで走る。そうなれば今降っている程度の雨粒は立派な物理衝撃となる。確実に肉体にダメージを与え、目に入ることがあれば確実に怯むだろう。
雨は不確定要素を増やす。雨粒が目に入るのは勿論、雨で滑りやすくなるので体勢を崩す、転倒する、転倒したウマ娘に巻き込まれる。雨粒の衝撃によるダメージで判断力が低下し、進路を妨害、状況は刻々と有利になっていく。
ヒシミラクルはどんな形で勝利しても喜ぶ。例え転倒で上位人気が全て巻き込まれての勝利だろうが、集団食中毒でレースを棄権しようが、身内に不幸が有って平静を保てなく凡走しようが関係ない。
それは相手の不運により起こった出来事で、運が強ければ起きないことだ。そして運は実力であり、実力で勝ったなら心の底から喜ぶべきだ。
それで喜んでいけないのであれば、どのレースでも辛気臭い顔をして表彰されてウイニングライブを歌わなければならない。
有マ記念ではタップダンスシチーから奪われた運を取り返し、他のウマ娘の運を喰らう。そして勝利した後は海外に向かう。
世界で運を含めた強さがどこまで通用するか試したい。レースに勝ち心技体だけが強さだと思っている者達の鼻を明かしたい。勝ち続ければ運の重要さに否が応でも気づくだろう。
───
レース場では万雷の拍手と割れんばかりの歓声が降り注ぐ。観客の中には歓喜と感動の涙すら流す者も居た。そしてレースを走ったウマ娘が次々と声をかけてくる。それは走りへの賞賛の言葉でもなく、健闘を称える声でもなく、次は絶対に勝つという宣言でもない。
其々が感じた宇宙への感動や興奮をありのままに語り掛ける感想の言葉、体験を上手く咀嚼できてないのか、感じたままの言葉を洪水のようにぶつけてくる。
それは観客も同じで上手く伝えられないから手のひらが赤くなるまで拍手をし、喉が枯れるまで声を上げる。レース場の全ての者が体験して喜びや嬉しさや気持ちよさを共有したがっている。
ネオユニヴァースは明活で幼子のような純粋無垢な笑みを浮かべた。
機械的な電子音により意識は現実に戻される。良い夢だった。夢の余韻を感じ自然に口角が上がっていた。
あれこそが目標であり理想だ。誰もが宇宙を感じ気持ちを共有したいと行動し語り合う。だが現状は理想には欠片も届いていない。
理想への道は遥かに険しい。だがそれは距離が有るだけだ、進む方向は間違っていない。それをアグネスデジタルによって気づけた。
「ハローハロー聞こえますか?
私は投げる。パリンパリンと砕けていくけど止まっちゃう。
私は鳴らす。ドンドコドンドコと叩くけどけど消えてしまう。
君は見えないの?貴方は聞こえないの?どうすれば伝わるの?
私は冒険に出た。魔法のマスターキー、全てを貫く槍、何でも斬れる刀、そんなものはどこにもない。
すると妖精が語り掛ける。持っているそれを使えばいいじゃない。
手元にあるのは古ぼけた無線機、
私は冒険に出る。探すのは部品、一杯集めて一杯改造して大きくする。
ハローハロー聞こえますか?」
ネオユニヴァースは枠順抽選会で読み上げた詩を口に出す。宇宙を伝えるための表現方法を模索し、その一環で詩を書いた。
結果的には宇宙を伝えることは出来なかったが、感情や気持ちを伝えるという点では好みで、普通に喋るより伝わるような気がしていた。
レースを走っても他者に存在する壁によって宇宙は伝わらなかった。
どんな壁も壊せる道具を探そうと表現方法を模索したが、どこにも無かった。
だがアグネスデジタルには少しだけ伝わっていて、方法は間違っていないと気づけた。
足りないのは宇宙を伝えるエネルギーの出力だった。
だから今日のレースで全てのウマ娘を飲み込み己の宇宙を大きくさせる。
そうすれば鈍感な者でも宇宙の存在に気づくかもしれない。
書いた詩は過去の苦しみと気づき、そして未来にする行動を表現したものだった。有マ記念で伝わらなければ、次のレースでウマ娘を飲み込んで大きくなる。それで伝わらなければまた大きくなる。それを繰り返せばいずれは伝わるはずだ。
願いを込めるようにもう一度詩を読み上げた。
───
シンボリクリスエスの心は平穏そのものだった。いつもの時間に起きて、いつもの食事を摂って、いつものようにレースに向けて忘れ物が無いように最終確認をする。
今日で現役最後のレースになるが未練も後悔も一切ない。レースは仕事だった。トレーナーを日本一にするための業務の1つ。
そして仕事は続いていく。業務がレースからトレーナーのサポートに変わるだけ、悲しむ理由は1つもない。
最終確認をする中で今日すべきことを確認する。まずは勝つこと、そしてトレーナーの理想の走りを実現することだ。
この日の為に可能な限りの努力を積んできた。出来なければ時間が足りなかったか、才能が無いか、実現不可能かだろう。これは言い訳ではなく、自己分析で導き出した事実である。
いつもであればトレーナーの作品であることを意識する。トレーナーに教わった全てを過不足なく実行し、その心技体はレースに通用し、教わればある程度才能が有れば実現できると証明する。
しかしレースでしようとする理想の走りは、トレーナーはまだ理屈を把握し確立しているわけではない。これでは自分の走りでトレーナーの作品ではないのではないかと言う疑問が過る。
だが即座に否定する。トレーナーはいずれ理想の走りの理屈を把握し確立し、教え子たちに教え実現できるようになる。自分は未来の技術を現在で実施するだけに過ぎず、作品であることに変わりはない。
シンボリクリスエスはもう1度忘れ物がないか最終確認をした。
───
ゼンノロブロイは肘を机に置き両手を組む。その両手は震えていた。あと約8時間後に有マ記念は発走される。結果次第でトゥインクルレースの運命は決まってしまう。
皆は夢や希望を抱いて走る。だがシンボリクリスエスは違う。金銭という薄汚れた物の為に走る。
もし勝つようなことが有れば先人たちが紡ぎあげた歴史が穢され、汚点として永遠に刻まれてしまう。そしてレースに勝利した心技体は称賛され、トレーナーの為に走ったという話は美談として語り継がれるだろう。
お互いの私利私欲にまみれた薄汚い関係のどこが美しいのだ、絶対に勝たせてはならない。気合いを入れようと手のひらを握ろうとするが力が入らない。
トレーナーとシンボリクリスエスの関係性を知っているのは自分だけだ。仮に世間に公表しようと普段の態度と証拠不十分で大半は信じず、逆に名誉棄損だとバッシングを受けるだろう。
何よりシンボリクリスエスは強い。憧れていたからこそ誰よりも強さを知っている。果たして勝てるだろうか?
誰にも知られず、強者相手にレースの運命を決める戦いに挑まなければならない。その重圧と孤独に押しつぶされそうになっていた。
ゼンノロブロイは懸命に心を奮い立たせようとする。その最中ある記憶が蘇る。それは現実の記憶ではなく、好きな英雄譚の内容だった。
ある主人公は負ければ世界が終焉を迎えてしまう戦いに挑んだ。ある主人公は敵の計略により土地も味方も全てを奪われた。それでも主人公達は戦いに挑んだ。そして勝利した。
所詮は物語で敵を倒せると決まっていたと言われればそれまでだ。だが主人公達にはそんな未来が見えていない。様々な不安や恐怖や葛藤が有っただろう。それでも己の信念と正義を胸に立ち向かった。
英雄譚の主人公になりたかった。彼らのように力も技もないかもしれない。だが心は模倣出来る。現実は物語のように都合よくいかない。無惨に破れシンボリクリスエスが勝つ未来が有るだろう。だが彼らと同じように正義と信念を胸に秘め走る。先人の歴史と想いを守り野望を打ち砕く。それが己の正義と信念だ。
気が付けば体の震えは止まっていた。
12:00
中山レース場正門前、多くの人がそこを目印にし集まっていた。その人だかりの中に3人のウマ娘が居た。エイシンプレストン、テイエムオペラオー、メイショウドトウである。
「一応予定時間ですけど、来ないですね」
「もしかして迷っているんじゃ?」
「その可能性はある。ドトウかプレストン、今どこに居るかメールしてくれ」
「分かりました……ってあれ」
プレストンは目を細めながら駅に続く道を指さす。その指の先には赤髪で長身の外人男性と金髪の外人女性が歩いていた。
3人は男女に向かって手を振ると存在に気づいたのか、早歩きで駆け寄ってくる。
『すみません。少し迷ってしまいまして』
『いえ、時間丁度です』
赤髪の外人男性は英語で謝り、プレストンが英語で応対する。赤髪の長身男性はデジタルの父親で、金髪の外人女性はデジタルの母親だった。
デジタルは両親が見に来ると聞き段取りをしていた。その際にダートプライドの時のように関係者席で見てもらおうとしたが、両親達はそれを断り一般席で見ると言ってきた。
両親達は最後のレースは選手の両親としてではなく、1ファンとして応援したいと思っていた。
母親はデジタルのドバイワールドカップでもダートプライドでもデジタルの身を案じるあまり、純粋な気持ちで応援できていなかった。
最後ぐらいは純粋に応援したい。だが関係者席では声を出しての応援は禁止されているので、一般席で応援しようとしていた。
一方デジタルはその提案に頭を悩ます。一般席で応援すると言っても徹夜でもしない限りまず席が取れない。指定席も外国からアクセスしてチケットを取るのは無理だった。そして初めての中山レース場で立ち見をしようとすれば、満足にレースが見られない可能性が有る。
ならば知り合いに頼もうとプレストン達に指定席の予約を頼み、予約できなければ関係者席で見るようにと約束を交わした。
そしてプレストン達も頼みを了承し、どうせなら関係者席でなく指定席で見るかと席を予約し、幸運にも5人分の席が取れ、一緒に見ることになっていた。
5人は正門を通り敷地内に入っていく。その間デジタル夫妻は物珍しさで辺りをキョロキョロと見まわしていた。
『アメリカのレース場ともダートプライドをやったレース場とも違いますね』
『グランプリですから、人も多いですし、熱気も凄いです』
『それもそうですが、雰囲気が違います。ダートプライドは悪く言えばエンターテイメント性が過ぎるというか、若者達が多くを失う瞬間を見たいという感情が有った気がしますが、今日は純粋にレースを楽しみにきた客というか』
母親の言葉に其々が納得する。ダートプライドはとにかくエンターテイメントに特化し、興味がない客を引き込もうと刺激的な要素を入れていた。その代表が勝ち鞍とレイを賭けた事だろう。
当人達にとっては決意と覚悟の表れだったが、傍から見ればより盛り上げる為の行為にしか見えなかった。他者が争い破滅する姿を安全圏から見ることを楽しむという感覚は誰にも少なからず存在する。
『純粋にレースを楽しむ。これが本来の空気ですよ。そして私達も楽しみましょう』
『そうですね。しかしこれでデジタルがレース場を走るのは最後なのね』
母親は思わず呟くと即座に口に手を当てる。今日は純粋にデジタルを応援するつもりで、ネガティブな発言はしないつもりだったが、咄嗟に口に出てしまった。
『仕方がない。終わりは必ず来るさ。私達が出来ることはデジタルの最後を目に焼き付け、終わったら祝福してあげることだ』
「父君の言う通りだ。デジタルが迎える終わりは世間的にはハッピーエンドではないだろう。だがデジタルなりのハッピーエンドを掴み取るはずさ。ボク達はそれを祝福してあげればいい」
オペラオーは父親の言葉に賛同するように仰々しく喋る。デジタルが有マ記念に勝つ確率はほぼ0だ。奇跡が起きるのがこのレースだが、それでも無理だろう。
しかし本人なりの幸せな結末を勝ち取るために、この日を過ごしてきたのは知っている。ならば出来る。あれは欲深いウマ娘で強引にも幸せな結末を掴み取るだろう。
「有マ記念まで時間ありますし、ショップでも行きます?それともご飯でも食べます?」
『でしたらショップに行きたいのですが、デジタルも小さい頃はグッズを身に着けて応援していましたので、私達も同じようにしようと思いまして』
『いいですよ。では行きましょう』
5人は和気あいあいとしながらスタンドに向かって行き、レースまでの時間を楽しみながら過ごしていく。
本来であればデジタルの控室に行って過ごすことも可能であり、引退レースまでの時間を共に過ごしたいという想いもあった。だがどう過ごすかは本人の自由だ。
もしデジタルが来てくれたらと呼びかけたら行くが、連絡が無いのに行くのは無粋な気がした。一緒に過ごし笑ったり泣いたりするのはレース後にいくらでも出来る。
13:00
中山レース場のターフビジョンにスペシャルウィークとグラスワンダーの姿が映る。GIレース前には過去のレースのダイジェストを流し、ファン達は其々のレースの思い出を振り返る。
当時の凱旋門賞覇者ブロワイエをジャパンカップで破った日本総大将スペシャルウィーク、そのスペシャルウィークを宝塚記念で完封した不屈の不死鳥グラスワンダー、その両者による僅差の争い。特にこのレースは有マ記念でもベストレースであるというファンの意見は多い。
「このレースは名勝負だったな」
「ああ、確かスペシャルウィークが途中まで先だったけど、ゴールの時だけグラスワンダーが僅かに先だったんだよな」
「それじゃあ、勝ったと思ってウイニングランしちゃうのも仕方がない」
「ある意味迷場面だったけどな。あれは現地で見てて思わず笑ったよ」
ファン達が思い出を振り返るなか、1人のウマ娘が野外スタンドのフェンスにもたれ掛かり恥ずかしそうに俯く。そのウマ娘はスペシャルウィーク本人だった。
あの時は本当に勝ったという手応えがあったのだ、その後もゴールドシップを中心にイジラれたのは未だに思い出す。
「それで今日の有マ記念はどう思う?」
「タップダンスシチーとシンボリクリスエスだろ。この2人が少しだけ抜けている感がある」
「俺は断然ネオユニヴァース、今回のネオユニヴァースは今までと違う。絶対何かやらかしてくれるって」
「あとはヒシミラクルか、内枠だしまたまたまたミラクルって勝つかも。あとは地味に強いゼンノロブロイに、菊花賞のザッツザプレンティにリンカーン、後は脚質的に向かないけど、ツルマルボーイが嵌れば面白そうだな」
スペシャルウィークはファン達の声を耳に傾けながらため息をつく。今の会話にデジタルの名前が一切出てこなかった。前走を考えれば仕方がないが、それでも寂しさがある。
スペシャルウィークは引退後北海道に帰り実家の手伝いをしている。そしてデジタルとは直接会っていないが、やり取りをして交流が続いていた。
今日はデジタルにお願されたわけではなく、自分の意志で中山レース場に来ていた。友達の引退レースはテレビではなく現地で見たい。そして今日は1人で来ていた。
チームスピカの面々やセイウンスカイ等の同世代の友人を誘おうと思ったが、声をかけなかった。年の瀬で忙しいというのもあるが、デジタルとは親しくなく、そんなウマ娘の引退レースを混雑する現地で見たくは無いだろう。
恐らくデジタルは勝てない。ならば前々日会見のインタビューで言った、悔いが残らないようにするのに全てを注ぐだろう。
だとしたら悔いとは何か?勝つ為に全力を注ぐことではない。きっと別の何かを成し遂げるために全力で走るという事だろう。
それはレースを見れば理解できる。デジタルのレースはいつだって雄弁だから。
14:00
その場は異様な空気に包まれていた。レース場に居るファンで有れば誰もが知るウマ娘達が集結している。
声をかける。写真を撮る。サインをねだる。ファンであればそれらの行動を取りたいところだが、漂う空気のひり付き具合に躊躇させる。
ヒガシノコウテイ
セイシンフブキ
サキー
ストリートクライ
キャサリロ
ティズナウ
6人が一堂に会していた。
中山レース場にある関係者入り口で6人は出会った。
サキーとストリートクライは関係者入り口でパスを見せている際に、ヒガシノコウテイとセイシンフブキとティズナウは関係者席の入り口を挟んだ敷居を挟んだ一般スペースを歩いている際に鉢合わせる。あまりに予想外の出来事に其々が目を剥き無言で向け合っていた。
『ヒガシノコウテイさんとセイシンフブキさんはどうしてここに?』
最初に口火を切ったのはサキーだった。とりあえず場を動かす質問であると同時に純粋に興味があった。
『私は東京大賞典の視察でこっちに来ていまして、序に有マ記念も視察しようと思ってきました』
ヒガシノコウテイは英語で質問に答える。盛岡レース場をより盛り上げるために、大井レース場で開催される東京大賞典を現地で見ることで、運営におけるヒントを得られると考え東京に移動し、折角なら中央の有マ記念も視察するかと足を運んでいた。
「暇つぶし、家から中山はすぐそこだし」
セイシンフブキは日本語でぶっきらぼうに答える。本来であれば見に行く予定は無かったのだが、ヒガシノコウテイによければ息抜きにレースを見ないかと誘われていた。
東京大賞典に出走予定でそんな暇はないが、家から10分程度で着くのでトレーニングの休憩には丁度良いかと来ていた。
『そうですか、私は雑誌のコラムの取材をするために来ました。後は個人的に気になることがありましたので、生で見た方が分かると思って』
サキーは友好的な態度を見せながら話の流れで答える。仕事としてレースについてのコラムやレースの総評を書き、世界で最も盛り上がるレースと言われる有マ記念を見て記事を書こうとレース場に来ていた。
『私達は東京大賞典に出走するウマ娘の付き添いで日本に来て、ここに来たのも観光の一環だ』
キャサリロがストリートクライの代わりに答える。その言葉にヒガシノコウテイとセイシンフブキの眉がピクリと動く。
本来であれば東京大賞典は国際GIではないので、外国のウマ娘は出走できない。
だが一時的に地方に所属するという方法で外国のウマ娘は出走できる。2人出走するうちの1人はゴドルフィンの所属だった。恐らく日本のダートを走った経験を代われアドバイザーとして来日したのだろう。
そして5人はティズナウに視線を向ける。この中でレース場に来ている理由が最も謎なのがティズナウだった。
ダートプライド以前はTV出演など積極的にメディアに露出していたが、それ以降はSNSの投稿もせずに完全に表舞台から姿を消していた。それが日本の中山レース場で見かけるとは誰もが思っていなかった。
『東京大賞典に親戚が出走する。絶対に身に来いと言われたので仕方がなく。そしてここに来たのは暇つぶしだ』
東京大賞典にはゴドルフィン以外から、もう1人の外国ウマ娘が出走しアメリカ出身で、それがティズナウの親族だった。その言葉に皆はある程度納得していた。
『折角なら一緒に関係者席で見ませんか?パスは3人分余っていますし。此処であったのも何かの縁ですし、デジタルさんの最後のレースを一緒に見ましょう』
サキーは妙案を浮かんだとばかりに手を叩き提案する。その言葉に一同は其々反応を見せた。
皆は日本に来た主目的も、中山レース場に足を運んだ主目的も違っていた。だが副目的は共通していた。それはアグネスデジタルの最後を生で見届けるためだ。
5人は信念、意地、矜持、夢をかけてダートプライドを走り敗北した。結果的にはデジタルに夢を断たれ、多くを失った。
だが決して目を覆いたくなるような過去ではなく、個人に対する恨みはない。それどころか敬意と奇妙な好意や友情を抱き、アメリカ出身でありながら外国で走るウマ娘を憎悪していたティズナウですら同様だった。
ついであれば勝者の最後を見るのも悪くはないという想いを5人は抱いていた。
『私は構いません』
「アタシもだ」
ヒガシノコウテイとセイシンフブキは快諾し、一同の視線はティズナウに向けられる。
『今日だけだ』
ティズナウは舌打ちをしながら渋々と了承する。日本の2人は果敢に挑んだ挑戦者として敬意を持ち、好感度は高い。
だがサキーはかつてゴドルフィンに所属し、ストリートクライに至ってはスタッフだ。ゴドルフィンに対しては未だに憎悪と敵意を持っているので同じ空気も吸いたくはなかった。
しかしダートプライドでは同着と互角で、それに対してはそれなりに認めている。何よりデジタルが結んだ縁に身を任せるのも悪くはないと考える。
この5人は生まれも育ちも主義主張も異なり、本来であれば決して交わることは無かった。
だがデジタルがダートプライドを企画したことで、5人は結びつけられこうして同じ場所に集わせた。信心深い性格ではないが運命のようなものを感じていた。
───
メイショウボーラーは人込みをかき分けながら辺りを見渡す。
中山レース場のスタンドの席は完全に埋まっているのは勿論だが、通路ですら立ってみようとする客で埋め尽くされ、移動するのも一苦労だった。
見通しが甘かった。まさかこの時間でここまで客が入っているのとは全く予想していなかった。
このままではレースをちゃんと見られないかもしれない。どこ立ち見で見るスペースは無いか、首を忙しなく動かしスペースを探す。
すると客達が外に移動し始める。どうやらパドックで何かイベントをするようだ。この機を逃す手は無いと空いた立ち見スペースに体を滑り込ませる。
そこはゴール板から少しばかり左だが今のところコースがよく見え、まずまずの場所だった。
レースでは座っている客も立ち上がるので視界を遮断される可能性も有るが、前の席を取っている客の身長が低い事を祈るのみだ。
スペースを確保できた安堵から手すりにもたれ掛かると、肘が隣に立っている客の腕に当る。反射的に肘を戻し視線を向けると隣の客も同じように視線を向けて視線が合う。
隣の客はウマ娘だった。黒髪のショートヘアーで青色のカチューシャをつけていた。その姿はどこか見覚えがあった。
「もしかして、メイショウボーラーさん?」
そのウマ娘は自信なさげに尋ねる。先週の朝日FSは2着だったが、世間的にはジュニア級の有望株として知られ、ファンに知られても不思議ではない。
しかし自覚は無く、驚くと同時に初対面のウマ娘に名前を知られていることに僅かばかし恐怖を感じていた。
「もしかしてアドマイヤマックスさんですか?」
メイショウボーラーはオウム返しのように尋ねる。見覚えのある顔に声を聞いたことで記憶が結びつく。
あれはデジタルが走った安田記念で2着だったアドマイヤマックスだ。安田記念はデジタルの復活レースだけあって強く印象に残り、その影響で覚えていた。
「そうです。初めまして」
「あっ、初めまして」
「1人ですか?チームメイトなら関係者席で見られると思うのですが」
「まあ、色々と事情が有りまして…」
メイショウボーラーは言葉を濁す。チームメイト達は現に関係者席で観戦していて、自分だけが別行動をとり一般席で見ようとしている。それには深い理由が有るのだが、初対面の人間に話す内容ではない。
「アグネスデジタルさんはどんな様子でしたか?」
「えっと、良い感じだと思いますよ。万全の状態でレースに臨めます」
「引退について何か言っていましたか」
「いえ、納得して受け入れてますよ」
メイショウボーラーは正直に語る。確か有マ記念にチームのウマ娘は出走していない。
出走していれば敵に情報を教えないが、無関係であれば問題はない。そして驚いたのがデジタルについて質問したことだ。引退について訊くとはファンだったとしても意味深な感じだ。無意識に警戒心を強める。
「私はアグネスデジタルさんを尊敬していますし、慕っています。そしてかつては心酔、いや崇拝していました」
アドマイヤマックスは遠くを見ながら語り始め、メイショウボーラーは自然に身構え、さらに警戒心を強める。いきなりの自分語りもそうだが、崇拝という単語に妙な不穏さを感じていた。
「そして崇拝するあまり間違った道に進もうとしていました。それをアグネスデジタルさんが引き留めてくれました。」
かつてはアグネスデジタルという偶像を崇拝し、裏切られたと落胆し、向かった先には何もない虚無の道に進もうとしていた。それを間違っていると否定し進むべき道を示してくれた。
もし安田記念で理想の偶像を打ち砕いてくれなければ間違いなく不幸になっていた。感謝してもしきれない。
一方メイショウボーラーは興味を示したのか無意識に体を寄せて見つめる。
何をしたのか分からないが、復活劇のなかで1人のウマ娘を救っていた。非常に気になる話だ。
「アグネスデジタルさんが引退について悩んでいる際に、差し出がましいようですが、忠告しまして、どうなっているか気になっていまして」
「そうですか」
「恐らくですが衰えを受け入れ納得したのでしょう。そして周りの皆さまも同様に受け入れた。そして私も慕う者として受け入れるべきなのですが、本心では受け入れられず、今日のレースで復活して欲しいと願っています。貴女と同じように」
アドマイヤマックスはメイショウボーラーに視線を向ける。短い言葉のやり取りで相手も同じように引退を受け入れていないと予想していた。
偶然出会い厳しい言葉を投げかけた後もデジタルの動向を追っていた。
そして有マ記念で引退すると発表し引退会見の様子を見て、衰えを受け入れたと察知した。それが1番の幸せならば同じように受け入れるべきだ。だが本心は受け入れてなかった。
今の自分は幸せだ。それはデジタルが道を示してくれたからだ。そして今の自分は救ってくれたお陰でこれだけ幸せだとレースを通して教えたかった。
これは個人的な願望だ、いやワガママだ。デジタルにはこの先もずっと走って何回も一緒のレースに走りたかった。
一方メイショウボーラーはその反応にビクリと体を震わす。その言葉はまさに図星だった。
「そうです。私はアグネスデジタルさんの引退を受け入れてません。本当なら受け入れて見送るのが正しいのでしょう。ですが一緒に走りたいという欲がそうさせません。だから引退する瞬間まで抗って、有マ記念で復活して安田記念で一緒に走れると願い続けます」
ありのままの心情を吐露していく。デジタル以外には話していない本心、それを初対面のウマ娘に話しているのは妙な気分だ。しかし納得できる部分もある。
彼女は自分と同じ諦めていない。本人の為にならないと思っても個人的願望を優先するワガママなウマ娘だ。
「あの、良かったらこのまま一緒にレースを見ませんか?1人ではダメでも2人ならもしかして願いの力が増して、復活するかもしれないですから」
「いいですよ。ワガママな子供同士最後まで抗いましょう」
メイショウボーラーの提案にアドマイヤマックスは快諾する。同じく慕っているウマ娘の最後になるかもしれないレースを見るには悪くはない相手だ。
「あと、タメ語でいいですよ。年下ですから」
「じゃあ遠慮なく。とりあえずトイレ行ってくるから場所取っておいて、トイレのこと何も考えてなかった」
「いいですよ。私も行くのでお願いします。その後は安田記念について話してくれません。レースまで3時間もあって暇なんで」
「考えておく」
アドマイヤマックスはおどけるように返事しトイレに向かった。
14:30
「この流れになったら、この位置につけ」
「了解」
控室内でトレーナーがホワイトボードを片手にデジタルと打ち合わせをしている。デジタルもウィーダーインゼリーを飲みながら真剣に聞いている。
いつもなら集中力とウマ娘への想いを高めるために1人で編集映像を見ているのだが、今日は違っていた。
衰えていなければウマ娘に対する想いを高めれば力を引き出せたかもしれないが、今はそれだけでは足りない。レースにおける緻密なシミュレーションも必要だ。故にいつもより早めに映像を見るのも切り上げて作戦会議に当てていた。
「まさか雪が降ってくるなんてな。天気予報じゃあ雪は勿論雨すら降らないって言っておったのに」
トレーナーは思わず悪態をつく。先程から雨が雪に変わっていた。
念のために雨のシミュレーションしていたが、それでも若干煮詰める時間が足りなかった。さらに雨が雪になっている。この事態はまるっきり予想していなかった。
「こんなん予想できるわけないやろ」
「そうだね。アタシも雪の不良では走ったことないや」
「しかし、ほんまにヒシミラクルが怖くなってきたわ」
芝が滑りやすくなればアクシデントが発生する可能性が高くなる。そうなれば最も恩恵を受けるのはヒシミラクルだ。
自分は影響を受けず、相手は不利を被る。そうなる保証はないのだが、有力ウマ娘がトラブルに遭う中悠々と走り1着でゴールする姿が浮かび上がる。
内枠にスタミナ自慢に有利な不良バ場、極めつきは不確定要素を増やす雪だ。悉く有利な状況になっていく。
「マジで神ってるね。運の要素なら今のところヒシミラクルちゃんがトップかな」
「お前の運も捨てたもんやない。内枠やし、雨が雪に変わった」
「どういうこと?」
「雨ならスタミナを消費するから不利や。せやけど雪なら別や。こんな状態で走ったウマ娘はそうは居ない。だからこそ様々な場所と状態で走り、バ場適応能力が高いお前が有利になる」
「なるほど」
「悪いが本バ場入場は出走ウマ娘に一切意識を向けずに、芝の感触を確かめることに全神経を集中させろ。レースが始まる前に走り方を掴め」
「まあ、しょうがないか」
デジタルは渋々と納得する。今日は1番最初に本バ場入場するので、入り口付近で待ち構えて、全てのウマ娘の様子を見ようとしていた。しかし事情が変ってしまった。
レース前のウマ娘も感じたいが主目的はレース中のウマ娘を感じることだ。その為に芝の状態を確かめなければならないなら仕方がない。
これはウマ娘を感じるという目的をヒシミラクルの運が邪魔したとも考えられる。現時点ではヒシミラクルの運が自分の運を喰っているかもしれない。
「そして確認やが」
「分かってる。返しは極力走らないでしょ」
返しとは返し運動のことであり、返し運動とはコースに入ってきたウマ娘がするウォーミングアップの総称である。今日のレースは返しで消費する体力すら惜しいと判断し、返しでの運動量を極力減らそうと計画していた。
「じゃあ、最終確認や、教えたツボを押して見ろ」
「了解」
デジタルはトレーナーの指示に従い、見える様に手のひらや鳩尾や背中にあるツボを押す。これは体の体温を温めるツボであり、レース前に前もって教えていた。
ウォームアップはレース前には必須の作業であり、ウォームアップする理由は様々あるが、体を温める為である。
極端な事を言えば体さえ温まっていればウォームアップはしなくていい。だがこれは極論であり、普通に考えればした方がメリットは大きい。
今回はデジタルの状態を考えて、返しや準備運動するメリットとデメリットを天秤にかけた結果、ツボを押して体温を温めた方が良いと判断したに過ぎなかった。
「どう?ちゃんと出来てる?」
「見たところはな、手かせ」
「はい」
トレーナーはデジタルの手を取り体温を測る。空調が利いているのを加味しても体温は高い。これはある程度効果が出ている証拠だ。
「それでイメトレもしとんのか?」
「してるよ。もし防寒具がない状態で遭難した時は役に立ちそうだね」
トレーナーは体を温めるにはツボ押しだけでは足りないと別の方法を教えていた。これはサブトレーナー時代、メイントレーナーから教わった方法だった。
全身に血液が駆け巡り、体中に湯たんぱ等暖かい何かが巻き付いているイメージする。そうすれば体が温まる。ウォームアップが出来ない状態で体を温める方法として教わった。だが今までチームのウマ娘にその方法を教える機会はなかった。
使用機会が限定すぎ、何よりそのイメージを明確に思い描けず、効果が発揮できないからである。
一方デジタルはトリップ走法が出来るほど、イメージを思い描く力が長けているので、実現可能かもしれないと教えたら、即座に出来ていた。
だが体を温めるイメージだが、ウマ娘に抱き着かれている状況を想像しているらしく、それだと興奮して無駄に体力を消費してしまう。
トレーナーはイメージ変更するようにデジタルに指示し、暫くは別のイメージを構築するのに苦労したが、今では最初と同じように体を温められるようになっていた。
「人生何が役に立つか分からんもんやな。教えてくれた上田先生には感謝せな」
「何が?」
「体を温めるツボやイメージの仕方や。ツボ押しはともかく、イメージの方は俺も教えたウマ娘も出来なかったし、忘れておったわ」
「ダメじゃん。白ちゃんはともかく、教えたウマ娘ちゃんが出来ないのは、その上田先生から教わった事をしっかり伝えてないからでしょ」
デジタルはトレーナーを揶揄い、トレーナーは苦笑する。確かにそうかもしれないが、これは誰もが出来る芸当ではない。デジタルだから出来ると判断したので教え、その期待に見事に応えてくれた。
それから2人はパドック開始ギリギリまで作戦会議を続けた。