勇者の記録   作:白井最強

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勇者と皇帝と求道者#5

 2月4週の日曜日。暦では最後の冬の日曜であり、冬という季節に相応しく気温は低くさらに太陽は雲に覆われ木枯らしも拭いている。その冷風は東京レース場に来た観客達の体温を容赦なく奪う。一部の観客は建物のなかに避難しており。風は来なく暖房が利いている館内は外に比べれば極楽だった。だが多くの観客は遮蔽物がないパドック周辺、あるいはパドックが見られる客席の2階や3階の外側に出て肩をすぼめ寒さにたえ待っていた。

 

「これより第11レース、フェブラリーステークスのパドックを開始します」

 

 アナウンスが流れると観客達はカメラや携帯電話を構えウマ娘達の姿を撮ろうと準備を始めシャッターを押す。数多くのシャッターからたかれるフラッシュ光がウマ娘達を照らす。その数は例年より明らかに多かった。

 

 ヒガシノコウテイとセイシンフブキ二人の地方ウマ娘の言動は話題を呼んだ。

一人は中央ウマ娘協会への批判、一人はウマ娘界きってのアイドルウマ娘オグリキャップへの批判。これらの話題を公の場で批判する者はまずいなかった。

その言葉は賛否両論を呼びその地方のウマ娘を一目見ようとウマ娘レースに興味の無い者も東京レース場に足を運び、その結果観客動員数はいつもより増えていた。

 

「続いて6番人気、ヒガシノコウテイ選手」

 

 フェブラリーステークス出走選手が続々とパドックで姿を見せるなか、ヒガシノコウテイが現れると観客達のざわめきとフラッシュの量が多くなる。

 赤色を基調にしたセーラー服に左右に濃紺の襷、両手首には赤と黄のリストバンド。青色に白の横一線が入ったマントはボタンで左肩に縫い付けられている。

 

 観客達は好奇の目線を向ける。中央レース場に来るファンは地方のレースに疎いものが多く、ヒガシノコウテイの姿を始めて見ると言うファンも多かった。

 

――――あれがヒガシノコウテイか、オグリを侮辱しやがって

――――当時の人間じゃなかったなら何とだって言える

 

 ざわめきの中ヒガシノコウテイの耳に中傷の声が聞こえてくる。

地元の岩手だけではなく、同じ地方の大井や浦和や中央の札幌レース場で走ったこともある。大井や浦和では外敵として認知されてもいたが同じ地方ということもあり観客達からどこか仲間意識のような感情を向けられていた。

 札幌でも敵意は向けられていなかった。だが先日のオグリキャップへの言動もあってより多くの敵意を向けられることになる。それは初めての経験だった。身から出た錆とはいえ気持ち良いものではない。少しばかりの辛さを感じていると声が聞こえてきた。

 

「頑張れ!お前なら頂点をとれるぞ!」

「大井ファンだが今日は応援するぞ!地方の意地を見せてくれ!」

 

 周囲のざわめきをかき消すようにヒガシノコウテイへの檄が飛び、それを一帯から皮切りに次々とエールが送られ思わず顔を向ける。大多数とは言えないが何人かのファンが声援を送っていた。そしてある一角からそれ以上声援が飛んでき馴染みの顔が多くいた。岩手から来た応援団だ。

 ヒガシノコウテイの体に熱いものがこみ上げてくる。あれほどの暴言を吐き岩手の、地方の品位を落としてしまったのにそれでも自分を応援してくれることに感激していた。そして憧れのメイセイオペラと同じ舞台に立っていることに感慨にふけっていた。すると岩手の応援団の中からメイセイオペラの姿を確認する。お互い目が合いメイセイオペラは笑みを浮かべながら手を振り、ヒガシノコウテイはメイセイオペラから貰ったリストバンドに触れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(やってしまった……)

 

 前々日会見の後トレセン学園にある地方ウマ娘出張宿舎の一室に着くやいなやヒガシノコウテイはベッドに飛び込み枕に顔をうずめ後悔した。

 気分が高揚してとんでもないことを言ってしまった。セイシンフブキに地方の品位を落とすなと言っておきながら自分が落としているではないか。きっとスポーツ新聞やテレビ番組では自分の主張はより刺激的なものにする為に多少誇張されてしまうだろう。そうなればオグリキャップファンを敵に回してしまう。そうなれば地方ウマ娘界のイメージダウンは計り知れない。

 

 するとテーブルに置いていた携帯電話が振動しブルブルと音が鳴る。携帯電話を手に取り液晶を見て思わず顔をしかめる。そこにはオペラお姉ちゃんと記されていた。恐らく会見のことだろう。このまま居留守しようかと逡巡するが意を決して着信ボタンを押し電話に出た。

 

「もしもし…オペラお姉ちゃん」

「テイちゃん、私が言おうとしていることわかるよね?」

「うん……」

「ああいう言葉は誰かを傷つけるんだよ」

 

 怒るでもなく責めるでもなく、ただ悲しそうに呟いた。

 メイセイオペラは誰よりも優しかった。人の悪口は言わず、皆に気を配り、誰よりも人を傷つけるのを恐れて嫌っていた。幼い頃も間違ったことをしたら悲しそうに言われ、それが何よりも辛かった。

 

「でも…でも…世間は…皆…オグリオグリってオペラお姉ちゃんのことをどれだけ凄いことをやったのかちっとも理解しない!オペラお姉ちゃんのほうがずっと凄いのに!」

 

 ヒガシノコウテイは幼子のように喚く。

 オグリキャップへの言動は自身の主義主張も勿論あった。だが根底にあるものはオグリへの嫉妬だった。

オグリキャップとメイセイオペラの人気はヒガシノコウテイの理想より大きく隔離していた。メイセイオペラはもっと賞賛されるべきウマ娘である。だが世間の認知度は断然オグリキャップが上であった。オグリキャップは日本のアイドルウマ娘なら、メイセイオペラの知名度はせいぜい知る人と知る程度だった。それが何よりも許せなかった。

 

「トレーニング施設の質が中央より遥かに劣っている地方で育ったウマ娘がどれだけ大変なのか理解していない!中央から何度移籍を打診されても岩手の皆が、私が悲しむからって残ってくれたオペラお姉ちゃんの優しさもちっとも理解してない!それなのにオグリだけ美談扱い!おかしいよこんなの!」

 

 ヒガシノコウテイの独白は続きそれをメイセイオペラは口を挟まず黙って聞いていた。そして喋り終わり荒い呼吸音を聞きながらそっと切り出した。

 

「テイちゃんありがとう。でも私はそんな良い人じゃないよ。中央に移籍しなかったのもテイちゃんや岩手の皆と離れるのが嫌な唯の甘えん坊だからだよ。それに中央の設備でトレーニングするより岩手の皆でトレーニングするほうが強くなれると思ったから。全部自分のため、美談扱いすることじゃない」

「そんなことないよ……」

 

 どうしてそんなに謙虚なのだ、どうしてそんなに自分を卑下する。メイセイオペラは自分のために動く人ではない。他人の気持ちを思いやれる優しい人であることは岩手の皆には周知の事実だ。

 

「それに私は岩手が、岩手の皆が大好きだから残っただけだよ。テイちゃんだってそうでしょ?知っているよ、テイちゃんも中央に移籍しないかって打診されていたこと」

「違うよ、私はオペラお姉ちゃんみたいになりたいから」

「それこそ違うよ。テイちゃんが岩手のことが大好きだからだよ」

 

 ヒガシノコウテイも同じように誘われており、同じように拒否していた。自分自身もメイセイオペラのようになりたいからと思っていた。だが本心では岩手を愛しており離れたくないだけだった。

 

「みんなそれぞれ同じように苦悩を持っている。そこに上も下も凄い凄くないは無いんだよ」

「うん」

「それにオグリキャップさんが笠松で引退式をしたのだって、テイちゃんは恥知らずみたい言ったけど、その恥を忍んでも自分を育ててくれた笠松の皆にお礼を言いたかったんじゃないかな」

「うん」

「だからレースが終わったら謝ろう。私もついて行ってあげるから」

「そこまで子供扱いしないでよ」

 

 ヒガシノコウテイが不機嫌そうに呟くとごめんねとお茶目に笑う。それにつられてヒガシノコウテイも笑った。ひとしきり笑った後メイセイオペラがいつもより低く真剣みがある声できりかした。

 

「私はテイちゃんの心情が分かっているからオグリキャップさんへの言葉の意味が分かる。でも世間の皆はそう思わない。テイちゃんの言葉に怒ってフェブラリーステークスでもブーイングや文句を言われて、それが終わってからでも文句を言われるかもしれない、それは覚悟して」

 

 メイセイオペラの言葉に無言で頷く。

 もしメイセイオペラは地方に引き篭もった弱虫だと誰かに言われたら烈火のごとく怒るだろう。そのようなことをオグリキャップのファンに言ったようなものだった。そのことに気づかず感情に任せて喋ってしまった。何と愚かで幼稚な行為をしてしまったことを認識する。

 メイセイオペラは話を続ける。低く真剣みのある声からいつもの優しげな声に変わっていた

 

「地元のレースで懸命に走り、ウイニングライブで工夫を凝らしお客様を盛り上げ、交流重賞で地方の誇りを守るために中央を迎え撃ち、そして地方の力を示す為に中央に挑んでいったウマ娘達、そして地方を盛り上げようと努力している関係者の方々、そしてそんな地方を応援してくださるお客様すべてが地方の英雄なんです。

言い言葉だよね。泣きそうになっちゃった」

「ちょっとオペラお姉ちゃん、やめてよ」

 

 メイセイオペラはヒガシノコウテイの声を真似て先の発言を喋る。するとヒガシノコウテイは何故か羞恥心を感じ止めさせようとし、そのアタフタする姿が思い浮かびクスクスと笑う。

 

「地方での活動は中央に比べて少ない人の目にしか留まらない、交流重賞で無残に負けて、中央で最下位をとってバ場掃除と言われたウマ娘も一杯いる。でもみんな一生懸命やっている。そんな娘達をテイちゃんは英雄と言ってくれた。皆すっごく報われて勇気を貰ったと思う。オグリキャップさんへの言葉で敵を作った。でもそれと同じぐらい、それ以上に味方も作った。レースで苦しくなったら思い出して。私は、岩手の皆は、地方の皆はテイちゃんを応援している味方だよ」

「うん」

「じゃあ、レース頑張ってね。私も東京に行くから」

 

 通話は終了しヒガシノコウテイは息を深く吐いた。あの時咄嗟に出た言葉、その言葉をメイセイオペラは勇気をもらってくれたと言ってくれた。

 このレースに出る理由は南部杯での借りを返すために、岩手の皆を喜ばせるためだった。そして自分が言った地方の英雄達が報われるように、喜んでもらうために勝つという意志も加わった。

 ヒガシノコウテイは岩手のため、地方のため、他人のために走る。一流のスポーツ選手はエゴイストで自分のためにやらなければ大成できないという意見もあり、その意見から考えるとヒガシノコウテイは勝てないことになる。

 だが我欲はない。すべては周りのために走ることを今この場で決意した。

 

「続いて4番人気、セイシンフブキ選手です」

 

 セイシンフブキが姿を現す。上には白色の空手道着に下は緑のハーフパンツ、道着には桜吹雪が散りばめられている。

 

――――芝ウマ娘は芝以外走っちゃいけねえのかよ!

――――ダートなんて芝の二軍だろ!

 

 セイシンフブキがパッドクから出てくるともブーイングが飛んでくる。その殺気立った空気はヒガシノコウテイが登場した時の雰囲気よりさらに殺伐としたものだった。そしてセイシンフブキを応援するものはなかった。

 普段の言動から船橋のウマ娘、はては船橋のファンにも嫌われていた。唯一の味方といえるトレーナーも他人ごとのように見ている。以前はチームに居ながら一人でトレーニングを続けるセイシンフブキに態度を改めさせその気性を改善しようと試みていた。たが頑なに態度を変えないセイシンフブキに愛想が尽いた。そしてセイシンフブキに何も関与することがなくなった。今この場に味方は誰もいなかった。

 一方そのブーイングに対し声が聞こえたほうに一瞬向けるが何も反応を示すことはない。今までの言動や前々日会見の様子からこの殺気立った空気に反応して観客たちに噛み付いてくるとこの場にいる者たちは思っていた。

 だが静かすぎる。あの烈火のような気性が完全になりを潜めている。その様子は不気味さすら醸し出していた。

 しかしセイシンフブキは大人しくなったのではない。その激情を必死に押さえ込んでいたのだ。

 

(これでいいんですか、コンサートガールさん)

 

 前々日会見が終わった翌日、後一本の電話がきた。相手はコンサートガールだった。

 

「もしもし」

「ずいぶん派手にかましたな」

「昨日のことですか?事実を言っただけなんですけどね」

「上からは何か言われたか?」

「グチグチと言われました。知ったこっちゃないですけど」

 

 コンサートガールは愛想笑いをする。あれほどのことを言ったのだ。船橋ウマ娘協会への苦情は多く来ただろう。そしてその分だけ対応を強いられた船橋ウマ娘協会の上層部はセイシンフブキに説教をしたはずだ。

 そしてその説教を蚊が刺された程度にも感じず平然と受けた。それどころか説教すら受けずトレーニングに行く姿が思い浮かぶ。

 

「それでだセイシンフブキ、フェブラリーステークスに向けたアドバイスがある」

「本当ですが?是非教えてください」

「怒りを溜め込め」

「はい?」

「芝への怒り、ダートの扱いへの怒り、色々思う所があるだろう。だがそれを昨日の会見みたいに怒りを発散させるな。その怒りを溜め込みレースに使え」

「わかりました」

「話はそれだけだ。明日は期待しているぞ」

「ありがとうございます」

 

 セイシンフブキは電話を切り言葉の意味を考える。確かに今まで怒りを発散しすぎたのかもしれない。

 芝至上主義、ダートへの冷遇。レースを走っていると気に入らないことばかり出てくる。それに対し怒りをぶつけた。その怒りの発散が東京大賞典の敗北をよんだのかもしれない。

 

 ならばすべてを溜め込む。溜め込んで溜め込んだ怒りをレースで爆発させ、芝ウマ娘をたたきつぶしダートウマ娘の強さを見せつける。

 ダートを芝以上の価値にあげるという目標がある。そのためには勝ち続けなければならない。地方のことやファンのことは関係ない。すべて自分のために走る。

 セイシンフブキは決意を固めた。

 

「どうやらお前のアドバイスを聞いてくれたようだな」

「ああ、これで勝つ確率が少し上がった」

 

 パドック場の3階観客席、アブクマポーロとコンサートガールは双眼鏡を使いセイシンフブキの様子を見ていた。

 コンサートガールの口から語れたアドバイスはアブクマポーロのアドバイスだった。

そのアドバイスを伝えようと考えたが門前払いを食らうのは目に見えていたので、懐いているコンサートガールの口から言ってもらうことした。

 

「フブキの強さの源はダートへの強い執着とそれ以外への憎しみだ。ただそれを無駄に発散させすぎるきらいがあった。しかしそれを内に押し込めれば大きな爆発力を生むだろう。そうなれば充分勝算がある」

「でもそれでいいのかよ。アブクマポーロ?」

「何がだい?」

 

 コンサートボーイは声のトーンを下げて問いかける。

 

「セイシンフブキはもっと夢のためとか、仲間のためとか明るい要素を持って走れないのかよ。それこそお前への誤解を解けば芝への憎しみは薄れるんじゃないのか?」

 

 コンサートガールも現役時代はライバルに勝ちたい、1着になりたいと夢や希望を持って走っていた。それがウマ走る理由であり、だからこそ多くの人を惹きつけていると思っていた。

 だがセイシンフブキはまるで違う。元々芝を嫌っていたがアブクマポーロが芝に挑み袂を分かってから芝を病的に憎むようになっていた。セイシンフブキは怒りという負の力で走っている。それは何か違うような気がしていた。

 

「フブキは今でもダートを芝以上の地位にするという夢は持っている。ただ袂を分かってから怒りの感情の比率が多くなった。そしてそれがフブキを強くしていた。その強さは私の想像を超えていており、あのまま袂を分かっていなかったらあの強さを得られなかったかもしれない。フブキの夢を叶えるためには勝ち続けなければならない、そしてそのためには怒りは必要不可欠だ。ゆえに私から誤解を解こうとは思わない」

 

 アブクマポーロは涼しげな顔を浮かべ髪の毛を指で巻く。本音を言えば以前と同じように接したかった。だが理由はどうあれ裏切ってしまったことは変わりない。どんな形でもセイシンフブキの夢を叶えるために手助けする。それが唯一の償いであると考えていた。

 

 コンサートガールは反論しようとしたが口をギュッと噛み締め双眼鏡を手に取りパドックに目を移した。

 

 

「続いて1番人気、アグネスデジタル選手です」

 

アグネスデジタルがパドック場に姿を現す。すると大きな歓声がデジタルを出迎える。

 

――――頑張れデジタル!

――――勝ってドバイ行きを決めて来い!

 

 初めてのGIでの1番人気のせいか、いつも以上にフラッシュが眩しい。そして気のせいかいつもより観客のことがはっきり見える。

 あの女子高生ぐらいの女の子と目があった。すると隣の女の子に嬉しそうに喋っている。小さい男の子がお父さんに持ち上げられて自分を見ている。手に持っているのは自分のミニチュア人形だ。なかなか可愛く作られているな。

 

 不思議な感覚だった。今までは一緒に走るウマ娘のことを考えてパドックの時の記憶も薄かった。だが今は細かいところまで見えている。オペラオーとドトウにファンサービスしろと言われ意識し始めたせいだろうか。デジタルは観客の声に応えるようにランウェイを歩く。

 

 そしてトレーナーはじっくりとデジタルの姿を見ている。天皇賞秋ではウラガブラックを押しのけての出走で心無い声も浴びせられた。だが同じ東京レース場で1番人気として大きな歓声を浴びている。

 トレーナーは感慨にふけっていた。

 

 デジタルのパドックが終わると各ウマ娘がトレーナーの元に集まり最後の指示を受け、指示を受けたウマ娘達は地下バ道を通りコースに向かう。

 

「で、白ちゃん作戦は?」

「細かい作戦はない。前目につけろ」

「了解。それでパドックを見て白ちゃん的に推しウマ娘は?」

 

 トレーナーはパドックでのウマ娘の様子を振り返る。さすがGIウマ娘が何人もいるだけあり抜群の仕上げと言っていい体だった。判断に迷うところだ。

 

「みんな良さそうだが強いて言うならトゥザヴィクトリーの調子が良さそうだ。もし逃げるようだったらある程度マークをしろ」

「了解。ちなみにあたしはヒガシノコウテイちゃんかな!スポーツ新聞見て知ったんだけどオグリキャップちゃんへの発言でメイセイオペラちゃんのことをオペラお姉ちゃんって言ったんだよ。冷静沈着なウマ娘ちゃんがついプライベートの場での呼び方するいいよね!推しポイントが爆上がりだよ」

 

 なんだ推しポイントという意味不明なポイントはと言葉に出かけるが胸に押し込む。

 

「そういえば白ちゃん、あのサッカー部の部員達がいたよ」

「本当か?どこらへんだ?」

「あそこらへん、あっ、もう居ない。中に入っちゃったみたい」

 

デ ジタルは思い出したように指差すが、その方向にはそれらしき人物はいなかった。

 

「お前の応援に来たのか、それともウマ娘のレースに興味を持ったのか。どっちかは知らんが興味のない人間をレース場まで運ばせた。オペラオーの言う主役の責任を果たしたんちゃうか」

「そうかもね。ねえ白ちゃん。あたしは人よりウマ娘ちゃんが好きだし、人のファンにはそんなに興味ないし頑張ってくださいと言われてもちっとも嬉しくなかったし、ふ~んって感じだった。でもオペラオーちゃんやドトウちゃんのように振舞うようになったせいか、今日のパドックで観客の顔がよく見えたの」

 

 デジタルは自らの変化に少し戸惑いを感じながら喋る。確かに今までならウマ娘に夢中でサッカー部員に気づくことはなかった。それはデジタルの強さの一つでもあるウマ娘への執着が薄れていることなのかもしれない。だが一人のスポーツ選手としてはいい変化なのかもしれない。

 

「よし!サキーとのランデブーチケット取って、他のウマ娘を存分にしゃぶり尽くして、ついでにドえらいレースしてサッカー部員をお前のファンにしてこい!」

 

 トレーナーは激励するように背中を軽くたたく、だがデジタルは不満そうなしながら振り向いた。

 

「白ちゃんしゃぶり尽くすなんて下品すぎ~、ウマ娘ちゃん達は可憐で繊細なんだよ。愛でるっていわなきゃ。それにそんな言葉言うとセクハラで訴えられるかもよ」

「すまん」

「ちょっとそんな本気トーンで謝らないでよ」

「いや、セクハラはマジでシャレにならないから、気をつけなあかんと気を使っていたんだが…」

 

 デジタルは思った以上に真剣に謝るトレーナーに肩透かしをくらう。もう少し誂おうとおもっていたが興が削がれた。トレーナーも案外大変なんだなと僅かばかし憐れむ。

 

「大丈夫だよ白ちゃん。うちのチームにそれぐらいでセクハラと言わないから」

「ほんまか?」

「ほんまほんま、じゃあ行ってくるね。ドバイ行きを確定させて、ウマ娘ちゃんを存分に愛でて、ついでのついでで初めて見に来た人を楽しませてくるよ」

 

 デジタルはトレーナーに手を振ると地下バ道に降りていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『さあ、今年初めてのGIレースが始まります。冬のダート王を決めるフェブラリーステークス。各路線から様々なウマ娘が参戦してきました。出走ウマ娘の入場です。1番、近走は凡走が続きますが周囲をあっと驚く秘策はあるか?イシヤクマッハ。2番、去年のこのレースの覇者、ディフェンディングチャンピオンの意地を見せるかノボトゥルー』

 

 出走ウマ娘が次々と入場していく。歴戦の猛者達が集まっただけあり会場の大歓声にも動じることなく淡々とゲートに向かっていく。

 

『東北の英雄が扉を開いた!その後に続けるか?東北の皇帝が東京に初見参!東北から日本の皇帝へ!8番ヒガシノコウテイ!』

 

 ヒガシノコウテイがバ場に入るとある一帯から大歓声が上がる。それは岩手から来た応援団によるものだった。ヒガシノコウテイはその存在に気づくと応援団に向かって手を交差し高々と上げる。その意味は岩手のウマ娘ファンにはすぐにわかった。

 リストバンドに書かれた「明」と「正」の二文字。それを観客席に見えるようなこのポーズ、かつてメイセイオペラが本バ場入場時、そしてウイングライブで見せるものだ。リストバンドをくれた両親をアピールするかのようなこのポーズは、大人しいメイセイオペラが見せる唯一のパフォーマンスだった。

 そしてヒガシノコウテイがとった意味はメイセイオペラの、岩手の想いを背負って走るという決意表明だった。その意味を察知したファンたちはさらなる歓声を上げた。

 

『地方ダート、中央芝、海外芝、次に挑むは中央のダート!誰も歩んでこなかった道を未だに邁進中、ここを取りドバイへの道を切り開けるか!?本日の1番人気アグネスデジタル!』

 

 アグネスデジタルは観客席を一瞥すると、駆け足でヒガシノコウテイちゃんの隣を並走した

 

「久しぶりだね、ヒガシノコウテイちゃん。あたしのこと覚えている?」

「ええ、もちろんです」

「オグリキャップちゃんとの問答の記事見たよ。いいよね、オペラお姉ちゃんって呼び方。胸がキュンキュンきちゃったよ!普段はその呼び方なの?」

「想像にお任せします」

 

 デジタルはフランクに喋りかけ、ヒガシノコウテイはデジタルを振り切るために加減速することなく、普段通りにゲートに向かう。

 デジタルはあることに気づく。南部杯では張り詰めていた感じだったが、今はどっしりと構えている落ち着きがあった。前回の感じも好きだがどちらかといえば今の雰囲気が好きだな。

ヒガシノコウテイは今の心境を振り返る。南部杯の時は中央に取られてはならない、岩手の大将として守らなければならない。何よりトップとしての責任を果たさなければならないという気持ちはあった。今思えばそれは自分のためだった。

 今は違う。すべては岩手のため、地方のためにフェブラリーステークスに勝つ。そこには我欲はなかった。

 

『ダートは私の庭!庭を荒らす者はたたきつぶす。ダートに青春を捧げ、ダートに命を燃やすダートの鬼!史上初の南関4冠ウマ娘、真夏の吹いたブリザードが冬の東京でも吹き荒れるか?南関の求道者!12番セイシンフブキ!』

 

 会場の一部からブーイングが飛んでくる。だがセイシンフブキはそれが聞こえていないようにゆっくりと歩く。怒りがこぼれ落ちないように。

 ゲート付近に視線を向けると一瞬足に力が入り足首が深く砂に沈む。ダートレースなのに芝を走らなければならない。それは屈辱以外のなにものでもなかった。

 芝を走ったウマ娘はたたきつぶす。地方でダートを走りながらもアブクマの芝出走に理解を示した軟弱者はねじふせる。セイシンフブキは怒りを懸命に押し込めゆっくりとゲートに向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まずいね」

「ああ、まずいな」

 

 アブクマポーロとコンサートガールは困っていた。パドックを見終わりコース側の観客席に移動するが予想外のことが起こっていた。レースを見る空間が無いのだ。座席は埋まっているのは立ち見するスペースぐらいはあるだろうとタカをくくっていたが、物の見事にスペースが埋まっており人の多さで通路は埋まっており見るどころか移動するのすら一苦労である。

 パドックのモニターで見るという手もあるがそれではあまりにも味気ないし、折角なら自分の目でレースを見たい。どこか、どこかスペースは無いのか。人をかき分け当てもなく探す二人だが思わぬ人物に出くわす。

 

「あっ」

「あっ」

 

 二人は思わず声が出た。メイセイオペラだ。自分たちと同じように後輩を応援しに来ていることは不思議ではないがこの広い東京レース場で出会うとはなんという偶然だろう。

 

「こんにちはアブクマポーロさん、コンサートガールさん。奇遇ですね」

「ああ奇遇だね。ところでどこか空いているスペースはないかい。予想以上に人が多くて」

「そうですか。ちょっと待ってください」

 

岩手の応援団に声をかける。すると椅子に座っていた子供が大人の膝上に乗り、座席に置いていた荷物をどかして二人分のスペースを作り上げた。

 

「どうぞ」

「すまないね」

「ありがとう」

 

 二人は礼を述べて一心地つく。この大人数をかき分けて移動するのは予想以上に体力を消耗した。

 

「助かったよ。実は東京レース場に来たのは初めてでね。ここまで人が多いとはおもっていなかった」

「私も観客として来るのは初めてですから、皆と来ていなかったら同じようになっていたでしょう」

 

 コンサートガールは談笑しているメイセイオペラとアブクマポーロの姿を眺める。かつて競い合ったライバルが現役を退いても偶然の出会いで肩を合わしているのは不思議な気分だった。

 

「君の後輩のヒガシノコウテイは強いね。君に続いての中央GI制覇を期待できそうだ」

「ありがとうございます。それを言うならセイシンフブキさんも勝てる可能性は充分にありますよ」

「ありがとう。しかし新聞で読んだが意外だったよ。フブキとは違い優等生な印象があったヒガシノコウテイがオグリキャップに噛み付くだなんて」

「なんというか……地方に対する想いが強すぎてちょっとだけ過激な言動をしてしまうんです。本当は大人しくて優しくて良い子なんですよ」

「あのオグリに言った言葉は地方出身として胸に響いたよ」

 

 アブクマポーロの言葉にメイセイオペラは笑みをこぼす。オグリキャップという稀代のアイドルウマ娘に過激な言葉を投げつけたことでイメージを悪くもたれていないか心配だったが杞憂だった。想いはちゃんと伝わっている。

 

「それに比べフブキはもう少しオブラートに包むことを学んで欲しいものだ。そうすれば少しは理解してくれる人もいるだろうに」

「そうですね、確かにセイシンフブキさんの言葉は過激で人を傷つけるものです。そこは直さないといけないと思います。ですがダートへの想いとダートへの誇りが伝わってきました。あの主張はダートウマ娘の誰しもが思っていることだと思います。彼女は言いたいけど言えないことを代弁してくれたのです」

 

 メイセイオペラもセイシンフブキの言葉に共感できることがあった。例えばフェブラリーステークスの芝スタート。現役時代にスタート対策で練習をしていたが何故ダートレースなのに芝の練習をしなければならないのかという若干の理不尽さは感じていた。

そしてその言葉に今度はアブクマポーロが笑みを浮かべる。過激な言動に隠れたダートへの純粋な想いを理解してくれる人がいること嬉しかった。

 

 一方出走ウマ娘はゲートに次々と収まっていく。レース開始がすぐそこまで迫っている。

 

「結果はどうあれ悔いの残らないレースを欲しいですね」

「ああ、勝利を願っているが負けたとしてもこれを糧にして強くなって欲しい」

 

 二人はゲート付近に視線を向け喋られなくなった。

 

 メイセイオペラと同じように岩手を愛し地方を愛するヒガシノコウテイ。

 アブクマポーロと同じようにダートを愛し誇りを持つセイシンフブキ。

 二人は紛れもなくメイセイオペラとアブクマポーロの魂を受け継いだ後継者だった。自分の後継者がどのようなレースを走り、このレースの後どのような競走生活を歩んでいくのか。そのことに思いを馳せる。

 

 そしてレース場ではファンファーレが鳴り響き各ウマ娘達のゲート入りが終了する。

 

『次は東京レース場、第11レースGIフェブラーステークス。ダート1600メートルです。凄まじいパフォーマンスを見せつけたウラガブラックは残念ながら怪我でここにはいません。ですがGIウマ娘10人というダート王を決めるのに相応しい猛者が揃いました。

公営の刺客か、中央のダート猛者か、それとも芝からの来訪者か。答えが出ます。

今…スタートしました』

 




次でフェブラリー編は終わりです。
今後のアイディアはある程度有りますが書くスピードが絶望的に遅い!
ウマ娘のアプリが配信されるまでに書き終わりたいですが果たして……

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