勇者の記録   作:白井最強

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ドバイワールドカップ入場編
次でドバイワールドカップ編は終わりです。


勇者と太陽と未完の大器#7

『直線残り200メートル、ゴドルフィンのネイエフに、日本総大将スペシャルウィークが詰め寄る!残り100メートル、ネイエフか?スペシャルウィークか?スペシャルウィークだ!スペシャルウィークが差し切った!日本総大将スペシャルウィーク!海外でも日本の力を見せつけました!』

 

 芝2400メートル、GIドバイシーマクラシック。レースはGIイギリスチャンピオンステークスに勝利した、ゴドルフィンの実力者ネイエフが粘り込みをはかるが、スペシャルウィークがゴール間際でアタマ差し切る。

 

「ヤッター!スペちゃんが勝った!」

「ネイエフを差し切ったか、これは価値ある勝利や」

 

 控え室にはTVが備え付けられており、準備をしながらレースを観戦していた。スペシャルウィークがゴールを1着で駆け抜けた瞬間、デジタルはトレーナーに抱きつき喜びを爆発させる。

 二人が喜びを分かち合っている間に、スペシャルウィークはコースから地下バ道に降り、控え室に戻ってくる。

 

「スペちゃん、おめでとう!」

「やったよ、デジタルちゃん!」

 

 扉を開いた瞬間デジタルはスペシャルウィークに抱きつく、スペシャルウィークもレース後で高揚しているせいか、拒むことなく喜びを表現するように力強く抱きしめる。

 

「お疲れさん」

「俺は何もしてないですよ、白さん」

「いや、君がいたおかげスペシャルウィーク君は心強かったはずや」

「そう言ってもらえると、助かります」

 

 スピカのトレーナーにデジタルのトレーナーが労いの言葉をかける。怪我等で今回のレースに関われなかったことで、色々と責任を感じているはずだ。だからこそ控え室に入った時に安堵の表情を浮かべていた。

 

「勝てたのもデジタルちゃんのおかげだよ」

「そんなことないって」

「そして、チームプレアデスのトレーナーさんのおかげです。ありがとうございました!」

「デジタルの言うとおりや、チームスピカで培った力を出した結果で、俺は何をしてない」

 

 スペシャルウィークはトレーナーに向かって深々と頭を下げ、トレーナーは頭を上げてくれと少し嬉しそうに促した。

 

「次はデジタルちゃんの番、頼んだよ、日本総大将」

「日本総大将?」

「今日はメインレースを走るデジタルちゃんが日本の総大将だよ」

 

 スペシャルウィークは自分の念を込めるように、デジタルの手を握り締める。日本の総大将を務めるようなキャラではないが、気持ちは受け取ろう。デジタルはスペシャルウィークの手に自らの手を添えて応えた。

 

「じゃあ俺もスペに習って念を送るか」

 

 するとスピカのトレーナーは、デジタルのトレーナーの前に手を差し伸べる。

 

「白さん、アグネスデジタルが勝てば世界一のトレーナーです。期待しています」

「俺に念を送っても意味ないと思うがな」

「まあ、ここは平等にということで」

 

 デジタルのトレーナーも握手に応じる。気のせいか、自分の手を握るスピカのトレーナーが重く感じる。それだけ念が入っているのかもしれない。

 

「では、俺たちは関係者スペースで見させてもらいます。白さんは?」

「パドック終わったら俺も関係者スペースで見る」

「では後で会いましょう」

 

 スペシャルウィークとスピカのトレーナーは控え室を後にする。その直後トレーナーは何かを思い出したかのようにデジタルに話しかけた。

 

「ところで、入場用の演出は用意しているんか?」

 

ド バイワールドカップではよりエンターテイメント性を重視し、本バ場入場では臨時に作られた花道を歩くなど、他のレースとは比べられないほど華やかになっている。その入場の時の演出は各陣営に一任し、特に希望がなければ主催者が盛り上がるように演出する。

 例をあげるならば、第一回ドバイワールドカップ優勝ウマ娘である、アメリカのシガーは世界的ロックバンドの曲の生演奏を背に本バ場入場してきた。

 トレーナーも自分自身で演出するということは聞いていたが、どんな内容かは全く知らない。演出はチームメンバーのフェラーリピサとライブコンサート任せてくれと、引き受けていた。

 

「あるよ。たぶん日本人にはウケるはずだって」

「世界各国に映像が流れるのに、日本にだけウケるもんで、ええのか?」

「ドバイの人が確認してOKだしたらなら、いいんじゃない」

「まあ、そうだな。じゃあ、楽しみに待っとくか」

 

 二人が演出について話していると、スピーカーからドバイワールドカップ出走ウマ娘はパドックに向かうようにとアナウンスが流れ、二人はパドックに向かっていく。

 

 

「あの小さかったデジタルがあんなに堂々と」

 

 夜のドバイを照らし尽くすような光を浴びながら、堂々とパドックのランウェイを歩く。その姿を写真に収めながら、デジタルの母親は感慨にふけるように呟いた。パドックでは関係者として親族もトレーナーと同伴することが許されており、デジタルの父母はデジタルを間近で見ていた。

 

「どうですか、デジタルの調子は?」

「絶好調ですね」

 

 父親の質問にトレーナーは断言する。肌ツヤといい、気合の入り方といい、天皇賞秋の時と同じように、いや、それ以上に調子が良いと言える。

 

「そうですね。あの表情、楽しみで待ちきれないという表情です」

「クリスマス前には、いつもあんな顔をしていたわ」

 

 父母はデジタルの幼少期を思い出し、懐かしむ。するとデジタルはパドックのステージ袖に姿を消し、2番人気のストリートクライが現した。

 勝負服は青い神官服に、両腕にはレースに関係なさそうな物騒な手甲を嵌めている。地元ゴドルフィンのナンバー2だけあって、歓声もデジタルに比べると大きい。その歓声に応じることなくランウェイを淡々と歩く。

 トレーナーの独自の感覚で、強いウマ娘には光が纏っているように見えることがあり、天皇賞秋でのパドックではテイメムオペラオーとメイショウドトウの姿は輝いて見えていた。今日のデジタルも絶好も仕上がりのせいか光り輝いていた。

 その感覚は絶対ではなく、光り輝いていたウマ娘がレースに勝たないこともある。そしてストリートクライの姿は輝いていなかった。

 だが今日はこの感覚は正しく、ストリートクライが勝つことはないという予感があった。パドックに覇気が感じられない、レース前に感じたストリートクライに対する物足りなさや淡白さがそのまま現れている。手前味噌だが今日のデジタルの出来で3番人気、ストリートクライが2番人気というのは地元贔屓とだとしても納得いかない。

 ストリートクライはパドックの時間が終わり、ステージ袖に下がっていき、本日の1番人気のサキーが姿を現す。

 

 上は臍が見えるタイプの白のインナーに、アラビア風の模様が描かれた青の上着を羽織り、下はジーンズのハーフパンツに、腰には青の腰布が巻かれている。そして手足には縄のような紐がバンテージのように巻かれている。

 サキーが姿を現した瞬間、ストリートクライの時より大きな歓声が上がり、その歓声に応えるように手を振りながらランウェイを歩く。動作の一つ一つで空気をサキーの色に染め上げていく。

 空気を一瞬で変える陽性。これがサキーというウマ娘か。その姿はトレーナーの目には光り輝いており、まるで太陽のように眩しくすら感じられた。

 サキーのパドックで全ウマ娘のパドックが終了する。あとはトレーナー達と二三言葉を交わし、衣装に着替える者は衣装に着替えて、本バ場入場が始まる。

 

「じゃあ、ママ、パパ、白ちゃん行ってくるね」

「デジタル、ママはデジタルが最下位でも構わない。ただ無事に帰ってくれれば充分だから」

 

 デジタルの母親は涙声と震える手でデジタルの頬に両手を添える。

 ウマ娘のレースは約時速60キロで走るスポーツだ。足には過剰な負荷がかかり、転倒すれば時速60キロのスピードで地面に叩きつけられる。そうなれば無傷では済まない。現に転倒や足に負荷が掛かったことによる負傷で、今後の人生に支障をきたす怪我を負ってしまった選手は何人もいる。

 さらに頭を打ち付ければ意識不明、最悪死亡することだってありえる。それが怖くてたまらなかった。

 レースもデビュー戦以外は父親から先に映像を見て、無事でいるという確証を得てからでなければ見ることができなかった。

 レースを走る者に最下位でも構わないという、闘志を下げるような言葉をかけるのは、どうかと思う者もいるだろう。だが父親もトレーナーもデジタルも母親を責めない。娘を案じる深い愛情は、どの言葉よりも力を与えるのを理解しているからだ。

 

「大丈夫だよ、ママ。必ず無事に帰ってくるから」

「デジタルに神のご加護があらん事を」

 

母親はデジタルの額に口づけし、祈りの言葉を捧げる。

 

「パパは何かある」

「じゃあ、一言。パパはアメフトでキッカーをやっていて、カレッジの全米一を決める試合で決まれば優勝というキックを外した。そのことを今でも思い出す。ああしていれば、よかったと後悔が未だに付き纏う。世界一を決める舞台で負ければパパ以上の後悔が付き纏うだろう。だからデジタル、100%、120%の力を出してでも勝ってくれ」

 

 120%の力を出す。それはメイショウドトウが危惧するように、故障の危険性を増す行為である。父親の言葉は母親とは正反対ものだった。だが根底あるのは愛情であり、自分のように辛い思いをして欲しくないという願いがこもっていた。

 

「ありがとう、パパ。頑張るよ」

「デジタルに神のご加護があらん事を」

 

 父親も母親と同じように額に口づけし、祈りの言葉を捧げる。

 

「じゃあ、次は白ちゃん。何かある?」

「作戦だが、サキーは前につけるだろうから、道中はサキーと同じ前目、最悪中段に位置を取ってくれ」

「うん」

「そして、自分のために走れ、初志を思い出すんや」

「わかった。じゃあ行ってくるね」

 

 デジタルは三人に手を振りながら、控え室に向かい姿を消していく。

 

「では、私たちも関係者スペースに行きましょう」

「はい」

 

 デジタルの両親はトレーナーに案内されて、関係者スペースに向かう。身の安全、勝利、初志貫徹。それぞれが願うことは違うにせよ、デジタルの幸福を願っているという意味では三人は同じだった。

 

 

 

 サキーは控え室に戻り、本バ場入場用のコスチュームに袖を通す。ウマ娘とそれに関わる者を幸福にするための第一歩、このレースには勝たなければならない。サキーは手のひらに拳を叩きつけ気合を入れる。

 するとノックの音が聞こえてくる、どうぞと声をかけ入室の許可を出すと、先ほどのドバイシーマクラシックを走ったネイエフにトブーグ、ドバイミーティングの他のレースに走ったゴドルフィンのウマ娘、レースに出ていないゴドルフィンのウマ娘が入室する。控え室はあっという間にゴドルフィンのウマ娘で埋め尽くされる。

 

「サキーさん、勝てなくてすみませんでした。サキーさんばかりに負担を掛けてしまって……」

 

 ネイエフが明らかに肩を落としながら謝罪の言葉を述べ、トブーグも奥歯を噛み締め、拳を強く握り締める。

 今日のドバイミーティングにおいて、チームゴドルフィンの勝利は未だに無い。これは始まって以来の事態であり、もしサキーが負けたらゴドルフィンの全敗になり、地元で勝てないとなればゴドルフィンの地位は地に堕ちる。

 

「ネイエフもトブーグも皆頑張った。謝ることなんて何一つない」

「でも余計なプレッシャーを掛けてしまって……」

「大丈夫、終わりよければすべて良しと言うし、私が勝てば皆すぐに忘れる。逆に私の勝ちが劇的になるね。皆ありがとう!」

「サキーさん、いくら何でも酷くないですか」

 

 トブーグのツッコミに控え室に笑いが起こる。サキーはあえて負けたことを茶化し、気にしないように仕向けていた。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「はい、喉を潰すぐらい大声で応援させてもらいます」

「ありがとう」

 

 サキーは礼を言うと部屋を出て、本バ場に向かう。

 物事には優先順位はある。レースに勝つことは他のウマ娘たちの願望を断ち切り、関係者を悲しませることになる。だが勝敗がある以上、全員が幸せになることはありえない。ならば自分に関わり深い人たちの幸せをとる。ゴドルフィンのチームメイトが重荷を背負わないように、悪いが勝たせてもらう。

 サキーにまた一つ背負うものが増えた。だがそれは苦ではなく、背負う物は多ければ多いほどいい。それが自分の力になるのだから。

 

 

シューズのスパイクとコンクリートが当たる音が地下バ道に反響し、ストリートクライの耳に届く。反響音は一人分であり、誰もいなかった。

他のウマ娘達はドバイワールドカップという晴れ舞台に立つだけあって、趣向を凝らした演出や衣装を用意し時間がかかっているのだろう。だがストリートクライは特に用意はしておらず、真っ直ぐに入場口付近に向かっていたので一番乗りだった。

自分の入場までの時間があるので、誰もいない薄暗い空間で壁に寄りかかり目を閉じる。他の者が見ればレースに向けて集中力を高めているように見えるが、実際は違っていた。

 

―――ぼやけている。

 

サキーに勝つイメージも走る動機も何もかもぼやけている。ストリートクライはサキーの実力差は五分五分とはいかないが、天と地ほどの差は開いないと認識していた。それならばモチベーションがあれば勝つイメージが浮かぶはずだが、だが靄がかかったようにぼやけている。

 

これも以前は抱いていた前向きな理由がなくなってしまったせいだ。前はレースに負けたが勝つイメージも浮かべられ、もっと心が燃えていた感覚があった。今はそれを感じることができない。

 

自分の前向きな理由は何か?世界一になりたいから?サキーに勝ちたいから?賞金が欲しいから?ストリートクライはその答えを探し続けたが、結局見つけられず本番を迎えてしまった。

 

「なんだっけ?」

 

ストリートクライの独り言は虚しく地下バ道に響いた。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 トレセン学園にある講堂、そこでは学校集会やイベントなどが行われ、学園に在籍する多くのウマ娘が入れるようになっている。

 時刻は午前1時、深夜でありながら講堂には多くのウマ娘が集まっていた。目的はドバイで走るスペシャルウィークとアグネスデジタルのレースを見るためである。講堂にはモニターが設置されており、大画面でレースを見ようと多くのウマ娘達が集まっている。そこにはチームスピカの面々も居た。

 ドバイシーマクラシックではスペシャルウィークが1着になり、講堂内は一気に盛り上がる。

 

「スペ先輩凄かったな!」

「ええ!凄い末脚」

「最後の最後までハラハラしたよ!」

 

 ダイワスカーレットとウオッカとトウカイテイオーはレースの熱に当てられたのか、興奮気味に語り合う。そしてサイレンスズカは三人から少し距離を置き、スペシャルウィークの勝利を喜ぶ。

 初めての海外遠征で苦難の連続であったと聞いている。だがその逆境を撥ね退け素晴らしいレースをした。本当に強くなった。

 

「そういえばゴールドシップは?」

「マックイーンと一緒に売っているよ」

 

 周辺を見渡すとゴールドシップとマックイーンはスペシャルウィークの勝利記念にかこつけて、自分たちで作った菓子類を売っていた。お祝い気分か作っていた物は瞬く間に完売し、二人はスズカ達がいる席に戻る。

 

「いや~あっという間にはけたな。スペ様々だ」

「ちゃんとスペシャルウィークさんのレース見ていましたの」

「ああ、最後らへんだけ」

「全く貴女という人は」

「次はドバイワールドカップだけど、どうする?見ていく?」

 

 テイオーに一言で面々は思案する。今回の目的はスペシャルウィークのレースを見ることであり、目的は完了した。それに深夜まで起きていることに慣れていないせいか眠く、どうするか迷っていた。

 

「あの変態が出るんだろう」

「でも、スペ先輩がアグネスデジタルは変態じゃなくて、凄く良い人だって言っていたよ」

「俄かに信じ難いけど、身近にいたスペ先輩が言うのならそうかも」

 

 ドバイワールドカップということもあり、話題はアグネスデジタルに移る。1週間前までは印象は良いものではなかったが、風向きが変わる。ここ二三日の電話で、スペシャルウィークは世話になっており、良い人で決して皆が思うような悪いウマ娘ではないと力説していた。

 

「まあ、スペが世話になったみたいだし、レースぐらい見てやるか」

「そうだね、あと30分ぐらいに始まるし」

 

 チームスピカの意見はレースを見ることに纏まり、雑談に興じながらレース開始まで待つ。

 

「凄いデ~ス」

「お見事です」

「さすが、私のライバルですわ」

 

 講堂の席の一角では、エルコンドルパサーとグラスワンダーとキングヘイローが同級生の勝利を喜んでいた。

 

「次はドバイワールドカップですね」

「私も出たかったデ~ス。ドバイワールドカップでは入場がど派手だと聞いていマ~ス」

「私は好きではありませんわ。何というか品が無い。レースはもっと優雅におこなわれるべきですわ」

「あのエンタメ感バリバリなところが良いじゃないですか、プロレスの入場みたいでテンションMAXデ~ス。もし出ていたら、何れリングに上がるとき用に考えていた演出アイディアを発揮するのに」

「目標は凱旋門賞だろう、エルコンドルパサー。寄り道している暇はないぞ」

 

 すると三人の後ろからチームリギルのトレーナー東条ハナが声をかける。

 

「分かってマ~ス。今年勝ったら来年はワールドカップに出ていいデスよね」

「それはかまわない」

「しかし、東条トレーナーやチームリギルの二人がこんなイベントに参加するなんて、意外でしたわ」

 

 キングヘイローは講堂で、ドバイミーティングのパブリックビューイングがおこなわれると聞き二人を誘う。

 しかし二人が所属するチームリギルは東条トレーナーの下で、徹底的に管理されていると聞いている。録画で見ればいいレースを態々深夜まで起きて見るという、健康を害す行為を許すわけがないと思っており、ダメもとでの誘いだった。だが意外にも二つ返事で了承し、トレーナー視点も観戦時に欲しいと、エルコンドルパサーは東条トレーナーまで引っ張ってきた。

 

「エルコンドルパサーは多くの仮眠をとり、グラスワンダーもその巻き添えで仮眠をとり、眠れない状態だ。どうせ眠れないのならレースを見るのも悪くはない。私は立て込んでおり、レースを見るのは息抜きのようなものだ」

 

 ハナはタブレットを忙しく操作しながら、キングヘイローの言葉に答える。

 

「次のレースはどうなると思います?」

「前評判通りサキーが勝つだろう。あのウマ娘は強い。現時点での世界最強と言ってもいい」

 

 グラスワンダーの質問にタブレットを操作する手を休ませず答える。その言葉に「世界最強は私デ~ス」とエルコンドルパサーが異論を唱えるが、それを無視して質問を続ける。

 

「アグネスデジタルの勝つ確率は?」

「厳しいだろう。オールラウンダーのアグネスデジタルだが、サキーもヨーロッパの芝とアメリカのダートを走れる。アグネスデジタルの上位互換だ。数値上でも上回っている。だが」

 

 ハナはタブレットを操作する手を止め、一つ息を入れてから言葉を紡ぐ。

 

「アグネスデジタルは数値には表せない何かを持っている。それが天皇賞秋でテイエムオペラオーとメイショウドトウとキンイロリョテイを打ち負かした。そして、デジタルにはプレアデスのトレーナーがいる。あの人は私と違って勝負師だ。無策で挑むとは思えない。あの二人なら何かを起こすかもしれない」

 

 何かを起こす。なんとも抽象的な言葉だ。だが二人の存在が予想に不確定要素をもたらし、このような言葉しか言えなかった。

 

 そして講堂の席の一角にはメイショウドトウとテイエムオペラオーとエイシンプレストンが座っていた。

 

「随分と人が集まっていますね。それだけデジタルさんの勝利を期待しているということでしょうか?」

「どうでしょう。ただ集まってドンチャン騒ぎしたいだけかもしれません」

「しかし、学園も急にパブリックビューイングなんて開催したのだろう?」

「どうやら、デジタルのチームメイトが生徒会に交渉して、開催したらしいです。デジタルが勝つのだから、皆で勝利の瞬間を分かち合おうって」

「良いチームメイトだ」

 

 講堂の最前列に目を移すとデジタルが所属しているチームプレアデスのメンバーが陣取り、テレビ番組のようなMCのように煽りはやし立て、会場を盛り上げている。

 

「しかし、日本中の人が夜遅くまで起きて、デジタルさんの勝利を見届けようとしていると思うと、嬉しいというか誇らしいというか」

「そうですね。ウマ娘冥利につきます」

「ボクが凱旋門賞に出ていたとしたら、もっと日本国民がテレビに釘付けだろうね。視聴率80%は固いかな」

「それはいくら何でも無茶ですよ」

 

 オペラオーの軽口にプレストンがツッコミを入れる。場の空気は幾分か解れるが、三人の手のひらには緊張のせいか汗が滲んでいる。

 日本ウマ娘界の悲願である世界一。それは一般的には凱旋門賞のことを指しているが、ドバイワールドカップも世界の強豪ウマ娘が集まるレースだ。その価値は凱旋門賞と同等と言っていい。

 勝てばまさに偉業、厳しいレースになるが、充分に勝つ可能性がある。三人は歴史的偉業が達成される瞬間を願いながら、固唾を飲んで見守る。

 

 すると画面に映るメイダンレース場が暗転する、そしてBGMともに、ターフビジョンには歴代のドバイワールドカップ優勝ウマ娘のレースと喜ぶ姿が映し出された。そして去年の優勝ウマ娘キャプテンスティーブの映像が終わると、次々とライトがつきレース場を照らした。

 

『只今より、ドバイワールドカップの本バ場入場です!』

 

 レース場のアナウンサーの声とともに、レース場と講堂でシンクロするように大歓声が湧き上がった。

 

 入場は人気が低いウマ娘から順々におこない、コース中央に並んでいく。各ウマ娘は趣向を凝らした入場で観客たちを楽しませる。そして4番人気のウマ娘の入場が終わり、3番人気のアグネスデジタルの入場が始まる。

 デジタルの入場をレース場のアナウンサーがコールすると会場は暗転し、花道に一筋の光が落ち轟音と煙がたちこめレース場は俄かにざわつく。

 

『何だ?何が起こっているんだ!?』

 

 テレビで実況するアナウンサーも会場の空気を代弁するように、驚きの声を上げる。

すると煙が次第にはれBGMとともに人影が姿を現す。

 黄色のアンダーシャツとアンダーパンツの上に青色のシャツを重ね、紫色のマントを羽織っている。革のブーツを履き、同じく革のグローブを装着し、頭には金の冠を被っている。そして右手に大きな両刃の剣、左手には盾を持っていた。

 

『この音楽!このいでたち!見覚えがあるぞ!』

 

テレビの実況アナウンサーの声と同時に、講堂にいたウマ娘たちは同じ言葉がよぎる

 

―――これ、ドラクエだ

 

 ドラグーンクエスト。通称ドラクエ。日本で発売されたテレビゲームであり、勇者が魔王を倒すというRPGゲームであり、数十年前に発売されたソフトだがシリーズ化している。そして世界中で多くの人が遊んだメガヒットゲームである。

 特に日本でも爆発的な人気を誇っており、日本国民なら遊んでなくてもその存在は知っているというほどの認知度である。

 今流れているBGMはシリーズを代表する曲であり、聞けば大半の日本国民ならドラクエの曲だと分かるほどだ。そしてその服装はゲームの勇者が着ていた物であり、勇者のビジュアルイメージと日本国民に聞けば、この服装と答えるほど浸透している。まさに勇者のアイコンと言える姿だった。

 

「勇者だから、ドラクエか」

「ドラクエって、あのテレビゲームですか?」

 

 オペラオーが膝を打っている様子を、ドトウとプレストンは不思議そうに眺めている。オペラオーは日本生まれであり、ドラクエについては日本国民の平均程度に知っている。だがアメリカとアイルランド生まれの二人はあまり知らなかった。

 

『アメリカで生まれた小さな小さなウマ娘は海を渡り日本に来ました、様々な場所、様々な相手と走り成長し、誰もが歩んでこなかった未開の道を歩み、切り開いてきました。そんな彼女をいつしか勇気ある者、勇者と呼ぶようになりました』

 

 デジタルは花道脇にあるスポットライトに姿を照らされながら、踏みしめるようにゆっくりと歩いていく。デビューした当初は世界一を決めるような舞台に立てるとは思っていなかった。世界一の舞台を目指し、トレーニングを積んだウマ娘は星の数ほどいるだろう。だが、そのウマ娘たちを押しのけ、この舞台に立っている。それが何とも不思議だった。

 

『そして勇者が次に向かうダンジョンは夢と欲望が渦巻くドバイ、そこに待ち受けるは太陽のエース、サキーです。かつて勇者イカロスは蝋で固めた翼で空を飛びました。しかし翼は太陽に溶かされ、勇者は堕ちました』

 

 だがこの舞台に立つ理由はある。オペラオーとドトウが引退し、失意に沈んでいたなか一つの光を見つけた。それがサキーだ、サキーは太陽のように光り輝いていた。

 

 サキーと一緒に走りたい!サキーを間近で感じたい!サキーに勝ちたい!

 

 その一心でトレーニングに励み、レースに勝利したどり着いた。世界一になりたいという想いではないが、想いの強さはどのウマ娘にも負けていない。

 

『だが師と友と育んだ翼は決して溶けない!落とせ太陽!掴み取れ栄光!』

 

 デジタルは花道を歩き終え、ダートコースに足を踏み入れる。決して一人ではこの舞台にたどり着けなかった。パパ、ママ、トレーナー、チームプレアデスの皆、メイショウドトウ、テイエムオペラオー、エイシンプレストン。多くの人の助けがあってたどり着けた。

 

 メイショウドトウとママは願った。怪我をせず無事に帰ってきて欲しいと。

 テイエムオペラオーとパパは願った。レースに勝って、世界一になってほしいと。

 エイシンプレストンは願った。レースを楽しんでこいと。

 トレーナーは願った。自分のために走れ、初志を思い出せと。

 

 ならば全部達成してやる!それが周りへの恩返しになる。そしてこれは自分自身の欲だ。アグネスデジタルというウマ娘は強欲である。

 

『真の勇者は戦場を選ばない!勇者アグネスデジタル見参!』

 

 デジタルはレース場にいる両親とトレーナー、テレビで見ている友人たちに見えるように剣を天に高々と掲げた。

 

 デジタルの入場が終わると、次の入場曲が流れる。このレース二番人気であるストリートクライが入場する。入場曲にはアイリッシュロックの曲が流れている。

 花道をゆっくりと歩いていく。その姿は覇気なく瞳には光は無かったが、だが入場曲を聞いた瞬間一瞬光が宿る。

 この曲は故郷の曲、そしてキャサリロがお勧めしており、二人でよく聞いた曲だ。たぶんトレーナーが何処からそのことを知り、入場曲にしたのだろう。

 確かにレース前ではこの曲を聴いており、気分を高揚させていたな。だがそれはもう過去の話だ。今では聞いていないし、気分も高揚することはない。ストリートクライの瞳に宿った光は一瞬で輝きを失った。

 

―――――I scream! I scream!

 

曲はサビに入り、歌手が叫ぶように歌う。だが今の自分には叫ぶような意志も気力もない

 

―――――I scream! I scream!

 

 心はまるで波立たず凪のようだ。これはとてもレースに向かう心理状態ではない。また2着か3着だろう、表面上は1着を取ると息巻いているが、ストリートクライの無意識が冷静に自分自身を値踏みする。

 コース上に整列し観客席を見つめる。皆注目していると思っていたが、実は違っていたようだ。自分に対する視線がなく熱気も薄い、皆が注目しているのは自分ではなく次に入場してくるサキーのようだ。

 一方は皆に愛されている太陽のエース。一方は影の薄い善戦ウマ娘。当然といえば当然か、だがふと熱い視線を感じ発生元を探索する。その発生元を見つけた瞬間、凪だったストリートクライの心が大きく波打ち、目に光が宿る。

 

―――――I scream! I scream!

 

 ストリートクライは出走ウマ娘が並ぶ列から離れ走り出す。ダートコースの外埒を飛び越え、芝コースを横切り、外埒を越えてゴール板付近で立ち見をしている客達のほうに向かっていく。突然の行動にレース場はざわめくが、ストリートクライの耳には全く入っていなかった。

 

「キティ!」

 

 ストリートクライは芝コースと立ち見をするスペースの間にあるスペースに立つと、大声で愛称を呼ぶ。すると顔を伏せていた一人のウマ娘が顔を上げ視線を合わせる。去年の秋ゴドルフィンを除籍になった友人のキャサリロ。音信不通でもう会えることのないと思っていた友人と会えた喜びと、何故この場にいるという困惑押し寄せる。

 

「キティ!……あの時は……その……ごめん。キティのことをもっと言葉で励ませば……良かった……」

 

 ストリートクライは大声で名前を呼んだ後は、シドロモドロで今にもかき消されそうな小さな声で話しかける。

 あの時とはキャサリロがゴドルフィンを去ることになった夜のことである。ストリートクライもキャサリンが去った後に自身の行動を省みて反省し悔いていた。

 キャサリロの立場に立てばわかったはずだ。結果が出ず刻一刻とゴドルフィン除籍までのタイムリミットが迫っている、そんな不安な時には友人の励ましがどれほど言葉になるかを。自分だってキャサリロの言葉でどれだけ励まされたのかは身をもって分かっていたはずだ。それなのにキャサリロの理解力に甘えて、思いを言葉にしなかった。

 ストリートクライはその答えにたどり着いていたが親友を傷つけ、音信不通となり二度と会えないと思ってしまい、その答えを思い出さないように心の奥底に沈めていた。

そうしなければ親友を失った悲しみで挫けてしまうから。だからこそ今の今までキャサリロのことを思い出さないようにしていた。だがキャサリロを見つけ、溜め込んでいた思いをすべて口にする。

 

 キャサリロはストリートクライの言葉を聞くと、唇を噛み締め懺悔するように呟く。

 

「私のほうこそごめん。クライは悪くないのに八つ当たりみたいに悪口言って。クライはそんな奴じゃないなんて分かっているのに、唯私の夢が終わったことが……悲しくて悔しくて認められなくて……」

 

 

―――――I scream! I scream!

 

「終わりじゃない!」

 

 入場曲は再びサビに入り、ストリートクライは歌詞にシンクロするように声を張り上げキャサリロの独白を遮り否定する。その声量は凄まじく、キャサリロを始め周囲にいた観客達は反射的に耳をふさぐ。ストリートクライはそれに構わず、大きく息を吸い込み再び叫ぶ。

 

―――――I scream! I scream!

 

「キティの夢は私の夢!私がキティの夢の続きだ!このレースで私がサキーさんに勝って、世界最強になる!二人で勝って成りあがろう!一緒にトロフィーを掲げよう!」

 

 ストリートクライは今まで走っていた理由を振り返る、それは贖罪だった。

 二人で成りあがろうと誓ったが、キャサリロはゴドルフィンを去り自身の無配慮さで親友を傷つけた。親友を傷つけた罪滅ぼしのため、親友の分も成り上がろうと思ったからこそ。ポーズといえどグレーな走りをしてでも勝とうと思ったのだ。

 そして以前抱いていた前向き理由を思い出した。それは自分とキャサリロの二人でゴドルフィンのなかで成り上がるという夢だ。

 

 アメリカに来た際に二人で成り上がると誓った。だがキャサリロはゴドルフィンを去り、ストリートクライはゴドルフィンに残った。

 これでストリートクライが抱いた夢は叶わなくなり、そのせいでモチベーションを落とした。だがキャサリロに思いの丈を叫んだ瞬間に気づく。

 自分の勝ちがキャサリロの勝ちだ。自分の名誉はキャサリロの名誉だ。まだ何一つ終わっていない、このレースに勝ってキャサリロを自分のスタッフとして雇う。そしてビッグレースに勝ち続け、二人で成り上がる。

 

「やっと名前どおり叫んだな」

 

 キャサリロは大声の告白に戸惑ったが、直後に破顔する。無口な奴ほど熱い思いを溜め込んでいる。それは関係が険悪になる前の両親に教わった言葉だ。

 ストリートクライは無口だが熱い想いを溜め込んでいたのは、幼い頃の付き合いで知っていた。だが別れるまでその想いを解き放つところを見たことはなかった。だが今溜め込んでいたものを解き放った。それが無性に嬉しくもあり、解き放ったストリートクライがどうなるかという期待感があった。

 

「それだけの大口叩いたんだから、世界一になってこい」

「うん」

 

 二人はアメリカに来たときのように拳をつき合わせ誓い合う。ストリートクライの心に火が灯る。惰性と贖罪という走る理由が夢の成就に変わる、

 この瞬間欠けていた心が完成し、心技体が完全に備わる。それは未完の大器であったストリートクライが完成したことを意味し、ここに大器が誕生した。

 ストリートクライは列に戻ると、後ろを振り向き花道に目線を向ける。倒すべき相手の姿を目に焼き付け闘志を燃やすために。

 

 入場曲が流れるともに、レース場の観客は歓声を上げる。この曲はサキーの持ち歌をアレンジした曲である、サキーが姿を現すと歓声はさらにあがる。勝負服の上にオレンジ色の派手なガウンに太陽のシンボルマーク。これは凱旋門賞やブリーダーズカップクラシックなどのビッグレースの時に着用するガウンである。スポットライトの光がサキーに一斉に向けられる。

 

―――サキー!サキー!サキー!サキー!

 

「凄い声援です!」

「ここ野外だぞ、どんだけデカイ声援なんだよ」

 

 スペシャルウィークとスピカのトレーナー、そしてデジタル夫妻とデジタルのトレーナーはその大声援の前に思わず耳をふさぐ。会話もこの大声援が響く状況では近くにいても大声で喋らなければ聞こえないほどだった。スペシャルウィークは学校での理科の授業を思い出していた。

 

―――音とは空気の振動である。

 

 話を聞いた時はいまいち理解できていなかった。だが今なら分かる。

 声援という音が自身の肌を刺激し震わせる。それどころか振動が体中の臓器を中から震わせているようだった。これは音ではなく、まるで人に直接触れて体を揺すられているようだ。

 少年が、少女が、若者が、老人が、富裕階級が、中流階級が、年齢も性別も貧富も関係なく観客たちは一斉にサキーに向けて声援を送る。今日会場に集まった観客は数十万人に及び、その一人一人が声を振り絞る、それが集まれば大きな衝撃となり、会場にある客席がカタカタと音を立てる。文字通り会場を震わせていた。

 

 ゴドルフィンは今日のドバイミーティングでは誰ひとり勝てていない。これは開催以来初のことだった。地元の観客たちの心は沈み、暗黒時代の到来を予感させる。

 

 だがまだサキーがいる。

 

 ゴドルフィンの絶対的エース。国内においてのウマ娘レースの人気は過去最大である。あの神のウマ娘のラムタラが居た時よりも、世界王者のファンタスティックライトが居た時よりも、ゴドルフィンの最高傑作と言われたドバイミレニアムの時よりも、今のほうが人気は高い。

 それはサキーが居るからだ。

 ファンたちは知っている。彼女は将来を嘱望されていた。だが栄光を勝ち取れず大怪我を負ってしまった。それでも彼女は諦めず這い上がった挫折と苦労を知っている。その果てに掴み取った栄光と喜びを知っている。

 彼女がウマ娘レースの人気を上げるために、どれだけ活動してきたか。プライベートの時間もなく国内外を飛び回り、イベントに参加しファンたちと交流し、ウマ娘レースを普及してきたかを知っている。

 暗雲がたちこめるなか、サキーという光り輝く太陽がドバイワールドカップに勝利し、暗雲をなぎ払う。三流脚本家が書くようなあまりにも安い筋書きだ。だが会場に来たUAEのファンは誰もがそれを望んでいる。誰もがサキーと一緒に勝利の喜びを分かち合いたかった。

 

「これじゃあ、デジタルが可哀想……」

 

 デジタルの母親が顔を覆い、父親が肩に手を回し優しく抱き寄せる。いくらサキーの地元だとしても、これほどの大声援がおこるとは思っていなかった。まるで世界中が敵に回ったような感覚だ。もし自分がデジタルの立場だったら萎縮してしまうだろう。

 

「これはデジタルちゃんにとってツライですね」

「ああ、サキー以外のウマ娘には影響が出るだろう」

 

 スペシャルウィークはデジタルの心中を察する。いつも日本というホームで走っており、多くのファンが自身に声援を送ってくれた。それは勇気になり力になった。

 だがアウェイでは違う。歓声はまばらで、それは寂しく少なからずメンタルに影響を与えることを今日のレースで痛感した。そしてデジタルが置かれている状況は自分の比ではない。

 

「そしてサキーさんはこれほどの歓声を受けても、まるで動じていません」

「ああ、心臓に何本毛が生えているんだろうな。メンタルお化けか」

 

 観客の声援は力になり薬になるが大きすぎれば毒にもなる。周りを見ればわかる、声援の熱量が日本のファンとはまるで違う。これほどまでの声援と期待、負けてその期待を裏切ってしまったら。考えただけで身の毛がよだつ。とてもじゃないが自分には受け止めきれない。だがサキーは平然と受け止め力に変えるだろう。まさに物の怪の類だ

 

「デジタルは大丈夫ですかね、白さん」

「多分大丈夫だろう」

「この声援ですよ!?影響でますよ」

「デジタルは待ち焦がれたサキーと一緒に走れるという期待で胸がいっぱいや、サキーへの声援なんて耳に入ってない。仮に入っていたとしても『サキーちゃん人気凄いな。それはあれだけ素敵なウマ娘だから当然だよね』とか他人事みたいに思っているやろ」

 

 平然と言い放つデジタルのトレーナーにスピカのトレーナーは乾いた笑いを出す。

 

「ハハハ、凄いな。スペも見習ったほうがいいな」

「いや見習わんほうがええ。あれは熱中しすぎて視野が狭くなっているだけや」

 

 視野が狭くなっているだけで、これほどの声援を気にせずいられるものなのか?

 世界一のウマ娘がメンタルお化けなら、その座を狙おうとするウマ娘もメンタルお化けか。だが自分もサイレンススズやライバル達に勝って日本一のウマ娘になるためには、メンタルお化けにならなければならない。そのためのヒントがこのレースにあるはずだ。スペシャルウィークはデジタルの一挙手一投足を見つめる。

 

『間もなく発走いたします、今暫しお待ちください』

 

 全ウマ娘の本バ場入場が終わり、ゲートを運ぶ車がダートコースにスタート地点を設営する。その間ウマ娘たちは体をほぐしながら、スタートに向けて集中力を高め、係員の誘導に従いゲートに入っていく。各ウマ娘は順調にゲートに入り、デジタルもすんなりとゲートに入っていく。

 待ち焦がれて、待ち焦がれて、ついにサキーと一緒に走れる!

 その情念を溜め込み、レースで爆発させる。その情念が溢れないように、必死にサキーから目を逸らしていた。

 

『さあ、各ウマ娘がゲートに入りました。世界最強の称号はどのウマ娘の手に渡るのか、ドバイワールドカップ。今、スタートしました』

 

 




本来のドバイワールドカップでは花火は上がるらしいですが、入場はこんな感じじゃありません。完全に筆者の趣味です!

デジタルの服装ですがドラクエ3の勇者の格好です。そして入場曲は序曲という曲です。
検索してもらえば、一度は聞いたことがある曲だと思います。

次でドバイ編最終回!
お気に入りのBGMを聞きながら、テンション爆上げにしながら書きます!

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