勇者の記録(完結)   作:白井最強

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「」は日本語で、『』は英語で喋っています


勇者の帰郷

 観客の多くはドレスアップしていた。男性は明るい色のスーツによく磨いた革靴。帽子とポケットチーフ。女性は明るい大きなプリントのワンピースに花飾りのついた帽子を身に纏う。その華やかさと格調の高さは日本のどのレース場の雰囲気とも異なっていた。

 ここはアメリカ、ケンタッキー州ルイビルにあるチャーチルダウンレース場。アメリカでも有数のレース場であり、ここで数々の名レースが行われ人々を熱狂させてきた。そして今日また一つ人々を熱狂させるレースが行われる。

 アメリカクラシック三冠レースの一冠目ケンタッキーダービー。その注目度は高く、ブリーダーズカップクラシックを凌ぐ観客動員数と視聴率を記録している。また百年以上の歴史を誇る同レースはアメリカで最も長く開催を続けるスポーツイベントとして記録され、「ウマ娘レースは知らないがケンタッキーダービーは知っている」と言われるほどの春の国民的行事に育っており、競争時間は「スポーツで最も偉大な二分間」とも言われている。

 ウマ娘達の本バ場入場の前にマーチングバンドの演奏が始まる。

 

―――ケンタッキーの我が家

 

 ケンタッキー州の州歌であり、地元の大学のマーチングバンドチームが演奏し、演奏のもと観客達はカクテルの一種のミントジュレを飲みながら歌うのが伝統になっている。そして観客達の歌声を背に出走ウマ娘達が本バ場に入場してくる。その様子をアグネスデジタルとトレーナーは感慨深げに見つめていた。

 

 クイーンエリザベスⅡ世Cを走り、日本に帰国したデジタルにトレーナーは長期の休養を指示した。

 去年の9月から今年の5月まで6レースを走り、長期の休息はとっていなかった。只でさえ体に疲労が蓄積するローテンションに加えて、トリップ走法を開発し使用したことで体を限界まで酷使したレースが続き、本人は自覚してないがパンク寸前まで追い込まれていた。

 トレーナーの説明にデジタルは素直に応じ、長期休養の為に故郷のケンタッキーに帰っていた。そしてトレーナーもこの時期にはケンタッキーに出向き、現地で勉強会兼交流会を行っていた。二人共目的地は同じであり、ならば丁度良いと二人は行動を共にしてチャーチルダウンレース場に足を運んでいた。

 

「やっぱり雰囲気あるな、華やかだが厳粛というか」

「日本ダービーの騒がしさも良いけど、こっちも良いよね。パパとママに毎年連れて行ってもらったな」

 

 二人は関係者席から入場してくるウマ娘達を眺める。トレーナーは水色のスーツにピンクのシャツにベージュのハット。デジタルは薄いピンクのワンピースに薔薇の花飾りがついた帽子を身に纏っており、ケンタッキーダービーに相応しい服装だった。

 

 デジタルは入場してくるウマ娘達を見ながら過去を振り返る。6歳の時に両親にお願いして連れて行ってもらったのは今でも覚えている。そこで集まった十数万人の観客に驚きママに強く抱きついたこと、パパが飲んでいるミントジュレップを飲んで酔ってしまったこと、そして酔いを覚ますような素晴らしいレースを。

 それからトレセン学園に入学するまで毎年ケンタッキーダービーは現地観戦した。アンブライドルド、サンダーガルチ、シルバーチャーム。数々の名勝負と輝きを放ったウマ娘達の姿が思い浮かぶ。

 あの時はウマ娘達に憧れるファンとして見ていた、そして今は同じ舞台に立つ競技者として見ている。そのせいか昔と違い出走ウマ娘達の様子が良く見える、出走ウマ娘は多かれ少なかれ緊張や興奮している。一世一代の晴れ舞台に出られるのだからある程度仕方がない。

 

『HEY、楽しんでいるかホワイト』

『今日は招待していただきありがとうございます。ニールセン』

 

 デジタルとトレーナーの背後から一人の男性が声をかけてくる。トレーナーは振り向き柔和な笑顔を向け、抱擁を交わしながら再会を喜ぶ。

 ニールセンは現地のトレーナーで、トレーナーがアメリカでの交流会兼勉強会で知り合い、勉強会以降も相談に乗ってもらうなどして交流は続いている。またアメリカでも屈指の敏腕トレーナーであり、このケンタッキーダービーにも教え子が勝利している。

 

『どうですか教え子の調子は?』

『調子は良いが、相手関係からして運が良くて掲示板ぐらいだろう。まあ本人としては出られて満足といったところだろう』

 

 ケンタッキーダービーに出走することはアメリカで生まれたウマ娘にとって名誉であり、例え最下位確実であろうとも大半のウマ娘は出走するだろう。それ程までにケンタッキーダービーはアメリカで生まれたウマ娘にとっては特別だった。

 

『それで、この娘がアグネスデジタルか』

『初めまして、アグネスデジタルです』

『ドバイワールドカップ見ていたぞ。惜しかったな』

 

 デジタルが手を伸ばすとニールセンは力強く握り締める。声量も動作も一つ一つが力強くエネルギッシュな印象を受けていた。

 

『さて、久しぶりにレースをファン目線で楽しんで観戦できるな。ホワイトもパドックを見ただろう。誰が勝つと思う?』

『そうですね。ケイムホームが良さそうに見えました』

『なるほど、結果は数分後に出る。さあ最も偉大な二分間を楽しもうか』

 

 コースに目を移すと出走ウマ娘達がゲートに収まり、スターターの合図でケンタッキーダービーが発走された。レースは逃げたウォーエンブレムが四バ身差をつけて一着でゴール。晴れて純金のトロフィーと赤薔薇のレイとケンタッキーダービーウマ娘の称号を手に入れた。

 レース観戦後トレーナーはニールセンと懇談会を行った。そこにはデジタルとニールセンの教え子達も同伴していた。ニールセンに世界一に挑んだウマ娘の話を教え子たちに聞かせて欲しいと頼まれており、デジタルは二つ返事で承諾する。そしてアメリカのウマ娘達に体験談を聞かせながら交流を楽しんでいた。

 

『ただいま!』

 

 デジタルが上機嫌で扉を開けるとデジタルの両親が出迎えた。デジタルと両親はキスとハグで挨拶を交わす。その後ろからトレーナーがゆっくりと家に入っていく

 扉を開ける玄関は無くすぐにリビングになっており、部屋は40帖ほどの広さで床は木のフローリング、家具や壁紙をスモーキーな色で落ち着いた色になっている。部屋の中央には食卓が設置されており、横には黒のソファーと壁際には42インチほどのテレビがある。

 部屋の内装は以前訪れた時とさほど変わっていなかった。だがデジタルが出て二人暮らしのせいか、以前より生活感が薄れている気がした。

 

『ようこそミスターホワイト』

『お招き感謝致します』

 

 トレーナーと両親は挨拶を交わすと四人は食卓を向かい夕食を食べる。メニューはブリトーやバッファローチキンウイングなどの一般的な家庭料理と日本出身のトレーナーに気を遣ったのかカルフォルニアロールもあった。

 デジタルは懐かしの実家の味を堪能するように箸を進める。トレーナーは幸せそうに料理を食べるデジタルを一瞥する。本音を言えば食べすぎなのだが、当分はオフだし今日ぐらいはいいだろうと黙認しながら異国の家庭料理を楽しんだ。

 食事の後はトレーナーと父親は晩酌を始め、デジタルは2階の自室に行きアルバムや過去のウマ娘の専門誌を読み返しながら過ごしていた。

 

『パパと白ちゃんまだ飲んでるの』

 

 リビングに降りて水を飲もうと降りると二人はまだ飲んでいた。デジタルの父親は普通の顔色だがトレーナーの顔は赤くなっており明らかに酔っていた。

 

『すまんちょっと飲ませすぎた』

 

 父親はバツが悪そうな顔を見せる。会話が弾みそれに比例するように酒を飲む量も増えていった。本来なら止めなければいけないのだが、浮かれていたせいで止めるタイミングを誤ってしまっていた。

 

『悪いが、酔い覚ましで外に連れて夜風でも当たりに行ってくれないか、本来なら私がしなければいけないのだが、急に仕事が入って今日中に仕上げなければならなくなってな』

『わかった。あんまり無理しないでね』

 

 デジタルは頼みを聞くと机に突っ伏しているトレーナーに近づき肩を揺すると呂律がうまく回っていない返事が返ってくる

 

「白ちゃん。酔い覚ましに外行こう」

「おう」

 

 トレーナーはふらつきながら立ち上がる。その姿をみかねてデジタルはトレーナーの手首を掴みながら玄関に誘導し外に出る。30分ぐらい散歩すれば酔い覚ましになるだろう。デジタルはあてもなく歩き始める。

 

「そうだデジタル。あそこ行こうや!あそこ!」

「あそこって?」

「あそこやって!ほら!デジタルと初めて会った場所!」

「あ~あ、あそこね」

 

 デジタルは過去の記憶を掘り起こし現在地からの距離を計算する。ここから歩いて十分ぐらいか、まあ行って帰ってもそこまで時間はかからないし、丁度酔いも覚めるだろう。こうして二人は目的地に向かって歩き始めた。

 

「お~お!ここや!ここ!懐かしいな」

「うわ~懐かしい」

 

 そこは野球場数個分ほどの広大なスペースの丘だった。トレーナーは感慨深そうに呟き、デジタルもつられるように感慨深そうに呟いた。

 

「ここから始まったんやな」

 

───

 

 デジタルに出会う前、トレーナーは今と同じようにレースの視察と現地のトレーナーとの勉強会のためにアメリカに向かっていた。

 アメリカと日本との意識や技術の差を痛感しながらも少しでも技術を吸収し、いずれ世界で通用するウマ娘を育てようと懸命に学んだ。

 そんな日々が続くなか勉強会が終わりモーテルに帰ろうとタクシーに乗っている際、何気なく見た車窓から丘を駆け上がる1人の幼いウマ娘が目に映る。

 

『ちょっと止めてくれ!』

 

 トレーナーは大声で運転手に指示を出し即座にドアを開け、丘を走るウマ娘に向かって行く。

 見た瞬間に電撃のような衝撃が走った。勉強のためにヨーロッパやアメリカに向かい、そこで名選手と呼ばれるウマ娘も見てきた。また日本のトレセン学園のような施設に入る前のウマ娘のトレーニングを見て話す機会があり、目にかけたウマ娘がのちの名選手と呼ばれるウマ娘に成長したこともあった。

 そのウマ娘には体つきやメンタリティなど他のウマ娘と比べて優れているものがあり、何より感覚に訴えかける何かを感じた。そしてこの幼いウマ娘同様の何かを感じた。

 だが今まで会ったウマ娘は中学生程度の年齢だった。だがこのウマ娘は幼女と呼べるほどの若さだ、そんな幼いウマ娘が一流になるなんて分かるわけがない。理性ではそう言っているが感覚がこのウマ娘は一流になると訴えかけていた。

 チームに入れて育てたい。このウマ娘でGIを取りたい。様々な欲望が脳内で渦巻きながら夢中で駆けていた。

 

『こんにちは。キミはこの辺りに住んでいるのかい?』

 

 トレーナーが声をかけると幼いウマ娘は警戒心を露わにしながら5メートルほど距離を取りトレーナーに視線を向ける。警戒心を解こうとトレーナー精一杯の笑顔を作りながら喋りかける。

 

『私は日本でウマ娘のトレーナーをしている者だ。キミの名前は?』

 

 幼いウマ娘はウマ娘とトレーナーという単語を聞き耳がピクリと動く。

 

『トレーナーってレースを走るウマ娘ちゃんのセンセイの?』

『そうだよ。おじさんはウマ娘のセンセイだよ』

『日本ってどこ?』

『アジアの島国、そうだなアメリカから遠く遠く離れた小さな国だ』

『そんなところでもウマ娘ちゃんが走っているの?』

『ああ、日本だけじゃない、世界の色々な国でウマ娘はレースを走っている』

『へえ~そうなんだ』

 

 幼いウマ娘は目を輝かせトレーナーを見つめる。目を見ると未知を知り自分の知識が一気に広がる驚きと面白さを感じているのが分かった。警戒心を解いたのかトレーナーに近寄ってくる。

 

『ねえ、そのニホンって国はどんなレースをしているの?どんなウマ娘ちゃんが居るの?』

『そうだな。シンザンというウマ娘がいてね。三冠ウマ娘…セクレタリアトやシアトルスルーやアファームドは知っているかな?』

『うん。サンカンウマ娘ちゃんでしょ』

『よく知っているね。シンザンは日本のセクレタリアトやシアトルスルーみたいなものだ。幼少期は……』

 

 トレーナーは地面に座ると幼いウマ娘も横に座る。それから話は始まる。シンザンが走ったレースの様子やエピソードについて知る限りの事を喋った。その間幼いウマ娘は目を輝かせ、エピソードごとにすご~いとかカワイイ~などリアクションをとり聞いていた。

 そのリアクションの良さに話が弾み、予定より大分長く話してしまったが、幼いウマ娘は集中力を切らすことなく聞き続けていた。

 

『他には!他のニホンのウマ娘ちゃんの話を聞かせて!』

『じゃあ明日だね。ほらもう空が暗くなっている。早く帰らないとパパやママが心配するよ』

 

 トレーナーが空を指す。空はいつの間に茜色に染まっており、あと30分もすれば完全に陽が落ちそうだった。

 

『ヤダヤダ!もっと聞きたい!』

『じゃあ明日だ。オジサンは明日もこれぐらいの時間に来るから、そのときね』

『う~ん。分かった!』

 

 幼いウマ娘は首を傾けながら考え込む。欲望と親を心配かけたくないという気持ちとの葛藤の結果、親への気持ちが勝りトレーナーの提案を受け入れた。

 

『じゃあ明日ね』

『また明日、あっまだ名前を聞いてなかった。キミの名前は?』

『アグネスデジタル』

 

 アグネスデジタルは手を振りながら坂を駆け下り帰路についてく。トレーナーはその後ろ姿を見ながら京都レース場の直線前の坂を下る姿を思い浮かべていた。

 

『ママ!ただいま!』

『おかえり、嬉しそうだけど何かあったの?』

『ねえ知ってる?ウマ娘のレースはアメリカだけじゃなくてニホンや他の国でもやってるんだよ!』

『そうなんだ。デジタルはよく知っているね』

 

 本当は知っていたが敢えてデジタルの言葉に関心そうに頷く。それに気を良くしたのか気分よく喋る。

 

『シンザンってウマ娘ちゃんって知ってる?ニホンの二代目サンカンウマ娘なの!シンザンちゃんはね…』

 

 デジタルはトレーナーから聞いた話を喋り始める。身振り手振りでシンザンの話をするデジタルの微笑ましい姿に母親は頬を緩めながら聞いていた。

 それから勉強会の後は丘に行ってアグネスデジタルと会って、日本のレース事情やウマ娘について話す日々が続いた。

 最初は知り合ってコネクションを作るという打算があった。だがデジタルの無邪気で純粋に話を聞きリアクションをとる姿は見るのはトレーナーにとって心地良い時間で、今では打算抜きに話していた。

 

『ニホンに帰るの?』

『ああ、明日には日本に帰る』

『ヤダヤダ!もっとお話し聞きたい!』

 

 デジタルはトレーナーの服の袖を引っ張りうっすらと涙を浮かべながら顔を見上げる。デジタルにとって異国のウマ娘の話は新鮮で刺激的な話であり、ここに来てずっと話を聞かせてくれるものだと思っていた。

 それから泣いて喚いて駄々をこねたがトレーナーは辛抱強く宥める。数十分するとデジタルは喚くのに疲れたのか勢いが落ちる。その隙を見計らって提案する。

 

『よし、月に1回手紙を書いて、他の日本のウマ娘の話や、こっちでのレースの話をしよう。それで我慢してくれるか?』

『本当に?』

『それに来年の今頃にも勉強会に参加する為にこっちに来る。手紙で伝えきれない話は会った時に話す』

『うん、分かった』

 

 トレーナーの言葉にデジタルは袖から手を離し渋々頷く。説得が上手く行ったことに胸を撫で下ろし、連絡先を聞きデジタルと別れ日本に帰国した。

 それからトレーナーはデジタルに月1で手紙を書いた。内容は昔のウマ娘のエピソードやその月に行われた重賞レースの回顧だった。ウマ娘エピソードは喜ばれたがレース回顧は詰まらないと不評だった。

 どうやらウマ娘には興味があるがレースにはそこまで興味がないようだ。それからはレースに出走したウマ娘のエピソードついて掘り下げた内容に変更した。

 

「白センセイ何してんの?」

 

 ダンスパートナーはPC画面で流れている映像を見ながら、真剣な表情でノートに書きこんでいるトレーナーの姿に興味を持ち後ろから覗き込む。ノートには英語が書かれており、さらに図解のようなイラストも書かれていた。

 

「ダンスか、欠点を修正する練習メニューを作っているところだ」

「その今映像で走っているのが例の秘蔵っ子の?」

 

 トレーナーがアメリカの小さなウマ娘と交流しているのはダンスパートナーなどの一部のメンバーには知られていた。

 

「前々から速くなりたいけど、どうすればいいかって聞かれてな。だからこうやって映像を送ってもらって、走り方やトレーニング方法とかを書いているわけや」

「よくやるね」

「まあこれも勉強とスカウト活動の一環だ。俺みたいなのはこういうことせんとな」

 

 トレーナーはため息混じりで答える。チームの成績を伸ばすためにはトレーナーの指導力も重要だが、良い人材を見つけチームに入れるスカウティング能力も重要になってくる。

 所謂一流と呼ばれるトレーナーのチームは強力なスカウト網を持っており、スカウト網から抜けても有名なチームに入りたいと隠れた逸材が門を叩いてくる可能性が高い。

 だが良くて中堅どころのチームプレアデスはそうはいかない。何もしなければいい選手は集まらない。だからこそ日々トレーナーや信頼できるスタッフが日本中からスカウティングしているが、唾を着けていたウマ娘が有力チームに見つかり搔っ攫われるということは往々にある。

 ならばとトレーナーはスカウト網が届かない海外に目を向けスカウト活動に精を出していた。

 

「ところでデジタルが何で速くなりたいと思ったと思う?」

「それは他の子に勝ちたいからとかじゃない」

「それがな、他のウマ娘ちゃんをもっと近く見たいからだと」

 

 トレーナーは思わず吹き出す。アメリカで会った時にやけに真剣な表情で速くなるにはどうすればいいかと聞いてきて、一般的な負けず嫌いから来るものだと思ったが、答えは全く予想外のものだった。

 よりウマ娘を近くで見るために速くなりたい。その答えに思わず大笑いしてしまった。そんな答えをするのは世界中探してもこのウマ娘だけだろう。一方デジタルはトレーナーの反応に激怒し頬を膨らませながらその日は家に帰ってしまった。

 

「フフフ、確かに面白いウマ娘だね。そのデジタルはいつチームに入るの?」

「分からん」

「分からんって、英語で手紙書いたり教材作ったりしているのはチームに入れるためにじゃないの?」

「まあ、そういう打算はある。だがそういう打算が有ると知ったらショックを受けて離れるかもしれんしな。今はウマ娘の話をする日本のトレーナーのおっさんでいることがベスト、理想はデジタルから日本に来たいと言ってくれることだがそこまで期待しとらん。第一アメリカに居るウマ娘がわざわざ日本に来ると思うか」

 

 トレーナーの言葉にダンスパートナーは思わず納得する。年頃の少女がわざわざ異国に来てまで走るということは相当覚悟がいることだ。それにレベルが低い日本に来ることもない。それこそよっぽど事情があるのか、都落ちぐらいだろう。

 

「そんなに頑張っているのに、結局は他のチームに行くんでしょ。割に合わないね」

「まあな。だがそういうことを積み重ねなければ人材は集まらん。それに何だかんだ縁も有るし力になりたいと思っている」

「尽くすね~これで30歳ぐらい若くてイケメンだったらデジタルちゃんは惚れているかもね」

「それはない。デジタルは人間には眼中が無いからな」

 

 トレーナーはダンスパートナーの軽口を軽くあしらう。

 今言ったのは理由の一部ではあるが全部ではない。仮にスカウティングを失敗してもデジタルが教材読んで練習して、レースに出て大きいところ勝てば自分が目を付けていたウマ娘が活躍すれば俺の勘は間違っていなかったという自信がつき自尊心も満たされる。これは恥ずかしくて教え子には言えない。

 話が一区切りつくのを見計らいトレーナーはデジタルの教材作りを再開した。

 

───

 

『白ちゃんのおかげで間近でウマ娘ちゃんをガン見できたよっと』

 

 デジタルはキーボードを打ち込み送信ボタンをクリックする。送信先はチームプレアデスのトレーナーである。当初はトレーナーと手紙でやりとりしていたが、時が経つにつれEメールで文通したほうが楽だとメールでやりとりするようになった。最初は文字を打つのに苦労したが、今では手で文字を書くより遥かに速く画像や動画なども添付出来て色々と便利だ。

 デジタルは背もたれに背中を預け体を伸ばす。ついつい推しのウマ娘について書いていたら熱が入り長文になってしまった。

 トレーナーとの文通はデジタルにとって楽しかった。ウマ娘について話せる友達は居り、友達と話すのも楽しい。だがデジタルと友人とではウマ娘についての愛情や熱意に若干の差が有り、ついついマニアックかつ熱が入った話をしてしまい、友人を置いてけぼりにしてしまうこともある。

 だがトレーナーに対してその心配は要らない。どんなにディープでマニアックに熱く語ってもついてきてくれ同じ熱量で返信してくれ、時には自分以上にディープでマニアックな話をしてくる。

 トレーナーは競技としての部分に注目し、デジタルはウマ娘のパーソナルな部分を注目するという若干の方向性の違いが有るが、それでもウマ娘について一番語り合えるウマ娘好き仲間である。それに競技の部分もウマ娘を知るためには必要であり、それを補ってくれるという意味では理想的と言える。

 さらにデジタルは将来ウマ娘のハーレムを形成するためにトレーナーを目指していた。国は違うが現役のトレーナーと知り合いであることは有益であり、チームのウマ娘への接し方など将来の参考になる話なども聞ける。より大きなハーレムを作るためには人が集まるように、GIを取れるような優秀なトレーナーになる必要がある。

 だがウマ娘のトレーナーは僅かにいるが、何故か良い成績をあげることができていない。ある意味三冠ウマ娘になるより過酷な道だが決して無理とは言わなかった。

 両親以外は誰も無理だの不可能だと言った夢をトレーナーは一切否定しなかった。それだけで好意が持てる。

 

「来週は日本ダービーか~。見に行きたいな~」

 

 デジタルは感情赴くままに呟く。

 トレーナーから日本ダービーは日本のウマ娘レースで1番盛り上がると言われており、その盛り上がりはケンタッキーダービーやブリーダーズカップにも負けないと言われている。

 日本ダービーに関するエピソードは色々聞いている。出走するウマ娘はどんな表情や仕草をするだろう。現地に行って生で見たいし感じたい。だが今は学校があり休んで見に行くことは学校も親も許さないだろう。

 トレーナーとのやり取りを通して日本についてかなりの興味を抱いていた。今後はウマ娘をより感じために、トレーナーとしてハーレムを形成するという夢の為に、トウィンクルシリーズに参加するつもりだ。

 トレーナーに会うまではアメリカのトゥインクルシリーズ一択だった。だが今は日本のトゥインクルシリーズに参加してもいいのではと思い始めていた。

  アメリカに行けば日本のウマ娘と触れ合い感じられない、日本に行けばアメリカのウマ娘と触れ合い感じられない。

 

「う~ん」

 

 デジタルは悩まし気な声を上げた

 

───

 

 デジタルのメール内容に変化が生じ始めていた。相変わらず日本とアメリカのウマ娘やレースについて語っていたが、海外から日本のトレセンに来たウマ娘について聞くようになっていた。

 

 楽しそうにしているか?苦労していることはないか?イジメられていないか?

 

 これはもしかして日本に来るつもりなのか?トレーナーは逸る気持ちを抑えて、海外から来たウマ娘、通称マル外のウマ娘にインタビューして、その内容をメールで伝えた。

 トレーナーは事実を全てメールに書いた。中には日本に来るのを躊躇してしまうような不都合なことも書いていた。

 年頃の少女が海を渡って日本に来るということは人生を左右するほどの大きな決断である。その気になれば不都合な事実を伏せ、日本のトレセンがどれだけ素晴らしいかと美辞麗句を並べ、是非日本に来るべきだと言うこともできる。

 本音を言えば来て欲しいが、そんな詐欺まがいなことをしてまでチームに入れようとは思わない。一時の熱に当てられることなくリスクとリターンをしっかり吟味したうえで日本に来ることを選択してもらいたい。

 それから暫くはいつも通りのやり取りが続いた。そんなある日トレーナーの携帯電話に電話がかかってきた。

 

『もしもし』

『もしもし白ちゃん?デジタルだよ。今大丈夫?』

『ああ、大丈夫だ』

 

 トレーナーは突然の電話に若干言葉を詰まらせながら答える。デジタルには以前電話番号を教えていたが、やり取りはメールでおこなっており電話が来たのはこれが初めてで今の今まで電話番号を教えていたのを忘れていた。

 

『それでどうした?電話してくるなんて初めてだろ』

『まあ、こういうことはメールより電話で伝えた方がいいかなって』

 

 受話器越しにデジタルが深呼吸する様子が聞こえてくる。今から重要な事を伝えようとしている。トレーナーは聴覚に神経を集中させる。

 

『あたし、日本のトレセン学園に入って日本で走る事に決めた』

 

 トレーナーは無意識に携帯電話を持っていない手を強く握りしめる。初めて見た時からデジタルをチームに入れて育てたいと願い様々な努力をしてきた。その努力が今実を結んだ。

 

『本気か、本当に真剣に考えたのか?』

 

 トレーナーは喜びを即座に胸の奥に仕舞いこみ意志を再確認する。これはデジタルの人生に関わる選択だ、冷静に見極めなければならない。

 

『もちろん、考えて考えて、人生で一番考えた』

 

 デジタルの声は今まで聞いたことないほど真剣みを帯びていた。

 

『アメリカではチャーチルダウンや色々なレース場でウマ娘ちゃんを見て感じてきた。サイン会とかファン感謝祭とかにも行った。そういう意味ではある程度知っているんだよね。でも日本のウマ娘ちゃんは白ちゃんの話や映像を見ただけ、この目で見たりリアルに感じたりしていない未知なんだよ。だったら未知の魅力を感じたい。これが日本に行く理由だけど言いたいこと分かる?』

 

 トレーナーは言葉を脳内で翻訳しながら考える。実にデジタルらしい理由だ。

 デジタルが走る理由は勝ちたいからではない。ウマ娘を感じたいからだ。勝ちたいからトレーニングを積むのではなく、よりウマ娘に近づき感じたいからトレーニングをする。他のウマ娘とは走る理由が異なり、そして感じるということが重要だった。

 海外から日本のトレセン学園に来る理由は様々だ。親の都合で、活躍の場を求めて、憧れのレースに勝ちたくて、其々が強い決意を持って海を越えてやってくる。

 知らないウマ娘を感じたいから日本にやってくる。この理由は他者には理解できないかもしれない、だがトレーナーには理解できる。

 デジタルにとっての未知のウマ娘を感じたいという気持ちはシリアスで、海を越えることを厭わないほどに強く育っていた。

 

『ああ、充分に決意は伝わった』

『ということで、白ちゃんのチームに入れてね』

『分かった。歓迎する。入学に必要な書類は近いうちに送る』

『わかった』

『ところで親御さんには日本に行くことは伝えたのか?親の許可がなければトレセン学園には入れないぞ』

『大丈夫。パパとママは何だかんだ甘いから許可してくれるよ。じゃあね』

 

 デジタルが電話を切るとトレーナーは大きなガッツポーズをしていた。

 

 

『もしもし白ちゃん?』

 

 デジタルが日本行きを決意してから1週間後、再びデジタルから電話がかかってきた。その声は前回の電話の時と比べあまりにも弱弱しく、今にも泣きそうだった。

 

『どうした?』

『パパとママを説得できないの』

 

 トレーナーはデジタルの言葉を聞き、拍子抜けと少しばかりの落胆を覚える。

 

『デジタル、厳しい事を言うが、両親を説得できないならお前の日本のウマ娘を感じたいという思いはその程度と言うことになるぞ』

『あたしだって色々やったよ!何回も何回も頼み込んだし、日本のウマ娘ちゃんを感じたいって気持ちも伝えた!ハンガーストライキも倒れるぐらいやった!それでもパパとママが日本行きを認めてくれないの!』

 

 その程度という言葉に怒りを覚えたのか語気が荒くなる。声や話す内容を聞く限りでは前の電話で感じた熱意をそのままに親に伝えている。普通の親なら熱意に折れている。それでも日本行きを許可しないというのは余程のことがあるだろう。トレーナーは懐からスケジュール表を取り出しページを開く。

 

『デジタル、親御さんが家に居るのはいつだ?』

『えっと。来週の日曜はパパもママも家に居るよ』

『来週そっちに行くから、家に居るように伝えてくれ』

『行くって、こっちに来るの?』

『両親を説得するのもスカウト活動の一環だからな。じゃあよろしく』

 

 トレーナーは電話を切ると息を深く吐く。

 デジタルは両親を説得するためにやるべきことはやった。それでも説得できないならここからはスカウトするトレーナーの仕事だ。

 説得するためのプレゼン作りに、アメリカに行っている間へのチームのメンバーへの指示、これから忙しくなる。

トレーナーはこれからのことを考え若干憂鬱になりながら、行動に移った。

 

───

 

 トレーナーは呼び鈴を押す。それだけの動作で酷く緊張して喉が渇き心臓の鼓動が高鳴っているのを感じる。この緊張感は嫁の親に初めて挨拶する時のようだ。だがある意味似ているのかもしれない。

 もし今日両親にデジタルの日本行きを説得できなければ、デジタルの日本行きは絶たれて、自らの手で逸材を育てると言う夢も断たれる。ここはトレーナー人生を左右する場面だ。

 扉の奥からこちらに向かってくる音が聞こえる。音だけでデジタルだということがすぐ判別できた。

 

『お願い、パパとママを説得して』

 

 デジタルは扉を開けると不安げにトレーナーに話しかける。その言葉にトレーナーは無言で力強く頷いた。

扉を開けて進むと玄関は無くすぐにリビングになっており、部屋は40帖ほどの広さで床は木のフローリング、家具や壁紙をスモーキーな色で落ち着いた色になっている。

 部屋の中央には食卓が設置されており、横には黒のソファーと壁際には42インチほどのテレビがあった。

 食卓には上座には両親がすでに座っていた。母親は金髪のセミロングで体型もスラっとしておりモデルのようだ。人の良さそうな顔つきなのだろうが、今は警戒心を向けて表情が険しい

父親は赤髪のオールバックでメガネをかけている、身長も高くスポーツをしているのか横にも大きい、母親と比べると警戒心は薄いが目つきは鋭く値踏みしているようだ。トレーナーは下座に座り、デジタルは隣に座った。

 

『はじめまして、日本のトレセン学園に所属しているトレーナーです。本日は貴重な時間を割いていただきありがとうございます。つまらないものですがどうぞ』

 

 トレーナーは深々と頭を下げた後持参してきた菓子折りを手渡す。父親は表情を変えることなく受け取り横においた。

 

『今日はお時間を割いていただきありがとうございます。まずアグネスデジタルさんがチームに入るに差し当たって、特待生枠を使わせていただきます』

『特待生枠とは?』

『特待生枠とは学費や入学金や寮生活における支払いも免除されます。トレーナーごとに枠の数が決まっており、もしアグネスデジタルさんに枠を使用すれば、向こう5年は枠を貰えません。それほどアグネスデジタルさんを評価しているということを理解していただきたい』

 

 中央ウマ娘協会は常にスターを欲している。仮にスター候補が金銭的な理由でトレセン学園に入れないという事態を阻止する為に作られたのが特待生枠である。この制度を使って未来のスターを確保するのが協会の狙いだ。

枠の数は決まっており、成績上位トレーナーほど多く割り振られる。枠を使って入学した選手が活躍しなければ協会は損をするので、実績があるトレーナーに多く割り振るのは当然である。

 そしてトレーナーが持っている枠は1つで、この枠を使えば5年は使えない。これは仮に才能あるウマ娘を見つけても枠を使ってスカウトできないことを意味する。そのリスクを冒してもデジタルを欲しいという決意表明だった。

 

『そしてアグネスデジタルさんはレースに勝ちたいからレースに出たいから走るのではなく、レースを通してウマ娘を感じたいから走るというポリシーであることを存じています。その意志を尊重するために出走レースの選択権を彼女に委ねます。仮にGIレースとグレードが低いレースがあったとして、気になるウマ娘がいるのでグレードが低いレースを走りたいと言えば、そちらのほうを走らせましょう。自分の名誉や欲の為にレースを選ぶことは決してしません』

 

 アグネスデジタルというウマ娘は走る動機が一般的なウマ娘とは異なる。そこを知らなければトレーナーとは衝突するだろう。両親もデジタルの性格を知っているので、そういうことが無いとアピールする。

 言葉を聞いた両親の表情とトレーナーに向ける目線が変わる。これは認められた表情だ。トレーナーも自身の印象が良くなったのを感じ取っていた。

 

『御両親はアグネスデジタルさんが日本のトレセン学園に入学することを許可しないと聞いております。宜しければ理由を聞かせていただけませんか?』

 

 トレーナーは限りなく柔らかな声色で理由を尋ねる。すると母親は若干ヒステリック気味に答える。

 

『まず私はレースに参加する事自体が反対です。あんな猛スピードで走ってもし何かが有ったらどうするんです!そんなことになったら……』

 

 母親は手のひらで顔を覆う。

 レースは決して安全ではない、60kmで走りながらポジションを確保する為に時には体をぶつけることもある。その際に転倒し足に重度の怪我をして日常に支障をきたすこともある。さらに転倒の際に頭を打てば最悪死亡する可能性もある。

 

『確かにレースの危険性があることはお母様が言う通り事実です。アグネスデジタルさんに不幸な事故が起きないとは断言できません。そのようなことが起きる可能性が限りなく低くなるように日々のケアは入念に行っており、怪我が起きても最新鋭の治療を施せる病院やリハビリ施設と当学園は提携しております』

 

 トレーナーは予め作っていた資料を両親に手渡す。資料に目を通している間にさらに話を続ける。

 

『そして、アグネスデジタルさんはレースを通してウマ娘を感じて交流することを生き甲斐に感じています。それを奪われれば酷く悲しむでしょう。それはお母様が一番分かっているはずです』

『そうだよママ!あたしはウマ娘ちゃんと一緒に走って感じたいの!ウマ娘ちゃんと一緒にレースを走れない人生なんてつまんない!そんなことになったら一生ママを恨むからね!』

 

 デジタルはトレーナーの言葉に続くように母親を説得する。その言葉は説得というより脅迫に近く、目には若干の憎しみが宿っている。その目を見て母親は若干怯んでいた。

 

『なら走るのはアメリカでもいいでしょ!何でわざわざ日本で走るの?』

『だから前も言ったでしょ!あたしは日本のウマ娘ちゃんに興味があって、一緒に走って感じたいの!』

『あなた日本語は喋れないでしょ!言語が通じないのは想像以上に辛いのよ!それに文化も違う!あなたに耐えられるの!?』

 

 デジタルの語気の強さに反応するように母親も語気を強くしヒートアップしている。その言葉には実感がこもっている。恐らく母親も外国に行って苦労した経験があるのだろう。トレーナーは手で両者を制しながら話を続ける。

 

『言語についてですが、当学園には言語習得プログラムが組まれており、アメリカの他にイギリスやフランスなどからも来ている選手もおりますが、大概の選手は在学期間で日常生活に支障がないほどの日本語を習得できます。そして寮では海外から来たウマ娘は同郷の者と一緒になります。それに最近は海外から来る者も多く、クラスに数人はおりますので孤独になることは少ないです』

 

 トレーナーは同じように資料を渡す。トレセン学園は海外から来たウマ娘、通称マル外の為に言語講師がおり、普通に講義を受けていれば日本語を覚えられるほど優れたカリキュラムを作っており、大概のマル外は卒業するまでにペラペラに喋れる。

 

『そしてアグネスデジタルさんは将来ウマ娘のトレーナーになりたいと聞いています。私のチームに入っている間、そして卒業後もトレーナー資格を取る為のバックアップを全力で行うと約束します』

 

 トレーナー資格試験は難関だ、何年も準備してやっと取得できるものであり、準備は早ければ早い方がいい。普通のチームは選手にトレーナー資格の為の座学は行わないが、事情を知っている自分なら、いくらでも時間を割いて教えるつもりだ。

 両親達はトレーナー資格の話をすると僅かに表情が変化し、トレーナーへの評価を上げているようだった。

 母親は説明が終わると黙って何か考えるような仕草を見せる。これは説得できたのかもしれない、手ごたえを感じていると父親が口を開いた。

 

『貴方から見てデジタルの選手としての素質はどうですか?』

『逸材と呼べます。私もアメリカやヨーロッパで名選手と呼べるウマ娘を見てきましたが、それに比肩するほどだと思います』

 

 トレーナーは率直に意見を言う。デジタルはトレーナー人生で一番の素材だ。幼少期から成長した走る姿を見て、それは確信になっている。

 

『私は昔アメフトをやっておりましてね。プロにはなれませんでしたが、強豪校でレギュラーでした。その競技生活の中で良い選手はよりよい環境で才能を伸ばすべきだと考えています』

 

 父親はゆったりとした口調で話を切り出す。だがその話し方とは違いトレーナーに向ける視線は鋭く厳しかった。

 

『デジタルから貴方のことを訊き調べさせてもらいました。まず日本とアメリカではそれなりのレベルの差があると聞きました。これは事実ですか?』

『はい。事実です』

 

 トレーナーは苦々しく答える。勉強会を通してレベルの差は痛感している。さらに以前アメリカのブリーダーズカップクラシックに挑戦したウマ娘が居たが、直前で調子を崩していたせいもあったが1着から26バ身という大差をつけて敗北した事実が結果を物語っている。

 

『そして貴方は日本でもトップトレーナーではなく、中堅ぐらいの成績です。もしアメリカの1流トレーナーと日本の中堅トレーナー、娘に才能が有ると知っていたらどちらに預けたいですか?』

 

 トレーナーは唇を噛み拳を握りしめる。より良い才能はより良い環境で育てるべきである。ごもっともだ。自分とアメリカの一流トレーナーでは技術もコネクションも持っている設備も何もかも違う。

 だがはいそうですかと肯定するわけにはいかない。トレーナーは1つ深呼吸をして父親の目を真っすぐ見ながら喋る。

 

『確かにお父様の言う通りです。私はまだまだ未熟です。ですがご両親がアグネスデジタルという人間をこの世で一番知っているとしたら、私はアグネスデジタルという人間を3番目に知っており、アグネスデジタルというアスリートをこの世で1番知っています。幼少期から言葉を交わし、走りを見て時にはアドバイスをし、練習メニューも組みました。私ならデジタルの個性を伸ばし、幸せな選手生活を誰よりも送らせる自信が有ります!』

 

 世界の一流トレーナーと比べ劣っているのは百も承知だ。唯一勝っているのはデジタルを知っているという点のみ、それが唯一のセールスポイントだ。

 その言葉に父親はほうと感心する素振りを見せ、残念そうに目を伏せた後トレーナーに視線を一瞬向けた後、デジタルに視線を向けて喋り始める。

 

『デジタル、日本で走りたいのは未知のウマ娘と走って感じたいからだよね』

『うん』

『でもアメリカのウマ娘を全部感じたのかな?デジタルは今まで外で見て感じてきたにすぎない。内で、一緒にレースに走って感じたことはない。それは大きな違いがあると思う。それこそ未知なんじゃないのかな』

『それはそうかもしれないけど』

『それにデジタルもケンタッキーダービーやブリーダーズカップなどの大きなレースを走りたいよね?』

『それは大きな舞台で一緒に走って感じられれば素敵だと思うけど』

『トレーナーさんはデジタルの才能を認めてくれた。大きな舞台で走れるかもしれない。でも日本は文化も食事も何もかも違って、本来の実力を発揮できないかもしれない。それだったら日本の大きな舞台でも走れないかもしれない。それだったら慣れ親しんだアメリカで走ってウマ娘達を感じればいいと思うけどな』

『そうかもしれないけど……でも……』

 

 デジタルの声量が徐々に小さくなり言葉の歯切れも悪くなっている。明らかに揺らいでいるのが見て取れる。ここで反論しなければいけないが父親の言っていることはある意味正しい。

 ファンとして外で見て感じるのと、選手として内で見て感じるのではまるで違う。それこそ内の世界はデジタルにとって未知である。

 これでデジタルが日本ダービーに勝ちたいなど、日本に興味を持っているならいいのだが、日本の未知のウマ娘に興味を持っている。未知の程度にはさほど変わりない。そしてマル外のウマ娘が日本に来て順応できず力を発揮できない例は少なくない。

 

『娘を評価していただいて、様々な指導をしてくださったことは感謝しています。もし貴方がアメリカのトレーナーなら喜んで任せたでしょう。でも私達にとって娘を日本に行かせることはそれほどまでに不安であるということをご理解していただきたい』

 

 父親はトレーナーの目を見つめ、母親も同じようにトレーナーの目を見つめた。

 デジタルが考えて考え抜いて日本行きを決めたように、両親達も娘の幸せと不利益を天秤にかけて考え抜いて決めたのだろう。言葉の1つ1つに娘の幸せを願う気持ちが滲み出ていた。

 トレーナーもデジタルをこの手で育て幸せな選手生活を送らせたいという気持ちは負けていないつもり。だが両親のデジタルを思う気持ちを負けていない。

 このままでは話し合いは平行線を辿るだろう。そして最終決定権が両親に有る以上デジタルが日本に行くことはないと悟った。

 

『分かりました。残念ですがデジタルを日本に行かせることは諦めます』

 

 トレーナーは感情を抑え込むように平静を繕いながら喋る。もし自分にトップトレーナーと呼ばれるような実績が有ればデジタルを預けたかもしれない。もっと知識があれば、もっと実力があれば、己の未熟を呪うばかりだ。

 

『ごめんね白ちゃん。色々やってもらったのに』

 

 デジタルは目を見つめながら弱弱しい声で謝る。もはや親の心境は変ることはなく、アメリカで走るという道を無意識に受け入れてしまっていた。

 

『気にするな。ご両親が言ったようにレースに一緒に走って内でしか感じ取れないことは多い、それをアメリカで走って感じればいい。もし相談したい事があればいつでも連絡してくれ、そしてこれからもメールや電話でウマ娘の話をしよう。デジタルが幸せな選手生活を送れることを日本で祈っているよ』

 

 トレーナーはデジタルに手を指し伸ばすとデジタルは手をしっかり握りブンブンと振った。

 

『じゃあね、またこっち来た時は遊びにきてね』

『ああ、またな』

 

 トレーナーがタクシーに乗り込み出発すると後ろの窓から見えなくなるまで手を振るデジタルを見つめ続けた。

手の平をじっと見つめる。あと少しというところでデジタルは手からすり抜けていった。

 トレーナー人生でこれ以上の逸材は出会えないかもしれない。思わずため息が漏れデジタルの両親に恨みや憎しみを抱きかけるが強引に抑え込む。

 今やることは前を向くことだ。技術や知識を身に着け成績を上げ、第二のデジタルを預けてもらえるようなトレーナーになることだ。

チームメンバーの練習メニューを考えるが無意識にため息が漏れていた。

 

───

 

『では番号36番から40番の方は位置についてください』

 

 デジタルは係員の呼びかけに応じるようにゲートに向かい入っていく。他のウマ娘もゲートに入りスタートを待っている。

 デジタルはアメリカにおける日本のトレセン学園に入る為のトライアウト試験を受けていた。体力テスト、筆記試験、面接、そして今行う模擬レースを行い。その様子を其々のチーム関係者が見て、スカウトしていく。

 このテストの結果によって入るチームが決まり、競技生活が左右されるといってもいい重要な一日である。

 トライアウト試験を受けるにあたってトレーナーから様々なバックアップをしてもらった。体力テストの種目別におけるコツ、面接で面接官が聞くであろう質問をリストアップしてもらって、受け答えの添削もしてもらった。もうチームに入らないというのにここまでやってくれ本当に感謝するばかりだ。

 全員がゲートに入りスターターが上がる数秒前、トレーナーから聞いた模擬レースの心構えを思い出す。

 

『好きなように走れ』

『それだけ?』

『トレーナーが見たいのは選手の可能性だ。この時期のウマ娘なんて素人同然で模擬レースの結果はそこまで重要視していない。1着になろうと小賢しいレースをしても仕方がない。デジタルがしたい走りはなんだ?』

『それはウマ娘ちゃんを感じる走り』

『じゃあそれをしろ』

 

 周りを見ると皆緊張した面持ちをしていた。人生を決めると言ってもいいレースであり、当然の反応だった。だがデジタルは一切緊張せずウマ娘達の息遣いや匂いを感じ取り、緊張しているウマ娘ちゃんもいいな~皆がんばってほしいなと思いながらキョロキョロと物見していた。

 ゲートが開きレースが始まる。距離は1000メートルのダートコースである。

 デジタルは最後尾につける。本来なら先頭をきることもできたが敢えて遅らせた。この位置なら全てのウマ娘を視界に収めることができるからだ。躍動する体、飛び散る汗、懸命な表情、やはりウマ娘が走る姿は良い。デジタルはレースそっちのけで観察していた。

 レースは残り500メートル、そろそろ動かないと1着になれない。結果は重要視してないと言っていたが、1着になるにこしたことはないだろうとスパートをかける。

 デジタルは直線を蛇行しながら駆け上がる。蛇行しているのはまっすぐ走れないからではない。抜き去る前に近づいて感じようと近寄り、堪能したら別のウマ娘に近づくということを繰り返していたからだ。レースは鼻差で1着だったが、2着のウマ娘と比べ数十メートルは余計に走っていた。それは酷くお粗末なレースだった。だがデジタルは満足げな表情を浮かべていた。

 

───

 

『はじめまして、私はこういう者です』

 

 スーツの男は懐から名刺を取り出し、デジタルとその両親が座る机の前に置いた。

 

クールモア、

 

 最近作られたアメリカのチームだが潤沢な資金と優秀な人材を擁しており、いずれはゴドルフィンと並ぶだろうと言われている新進気鋭のチームだ。そのスカウトが勧誘のためにデジタルの家に訪れていた。

 

『トライアウト試験を見させてもらいましたが、粗削りながら実にスケールの大きい走りをしていました。是非クールモアに入っていただきたい』

 

 クールモアの男はそこからチームの説明と入る事のメリットを説明する。話を聞く限りチームに将来性を感じデジタルにとって悪い話ではなかった。だが男の言葉に熱が無いことを両親達は感じ取っていた。

 

『以上で説明を終わりますか、何か質問はありますか?』

『いくつかありますが、よろしいですか?』

『はい、どうぞ』

『デジタルをチームに入れるにあたって、特待生のような恩恵はないのですか?』

『いえ、残念ながら』

 

 父親の質問にクールモアの男は一瞬間を置いて答える。その間は枠を使って取るウマ娘だと思っているのかとバカにされたようだった。日本のトレーナーは貴重な枠を使ってまでデジタルを勧誘したのだがな。脳裏には熱を込めて話すトレーナーの姿を思い浮かべていた。

 

『デジタルは将来トレーナーになることを望んでいます。在籍中にそのバックアップなどはありますか?』

『トレーナーにですか…クールモアに入れば選手として成功することに全力を注いでもらいますので、トレーナーになるための勉強に費やす時間はありません。それにウマ娘のトレーナーは大成しないというのが通説ですので、クールモアで雇う事もありませんしバックアップすることはありません』

 

 母親の質問にクールモアの男は先程の質問と同じように一瞬間を開けて答えた。その態度に母親は顔を顰める。

 男の口角が僅かに上がった。娘の夢を笑ったのだ。確かに目指す夢は実現不可能な途方もない夢なのは知っている。それでも他人に笑われるのは良い気がするわけがない。それに選手の夢の実現するためにサポートするのがチームでは無いのか。デジタルも明らかに不機嫌さを表情に出していた。

 

『最後にデジタルが何故トゥインクルレースで走りたいと思っているか知っていますか?』

「それはレースに勝ちたいからでしょう。では契約書にサインを」

 

 その言葉を聞いた両親に同時に契約書をクールモアの男に突き返した。その行動にデジタルは咄嗟に横を向いて両親を見た。

 

『残念ながら、先約がありますので断らせていただきます』

『大切な娘を貴方たちのような人達に預けられません』

 

 その言葉は刺々しく明らかに敵意が籠っていた。クールモアの男は予想外な反応と敵意に驚くが、即座に表情を戻し毅然とした態度をとる。

 

『そうですか、今回はご縁が無かったということで失礼します』

 

 そう言うと男は家を出ていく。クールモアとしてはデジタルの評価は最低ランクで、チームに入りたければ拒まないレベルだった。あのような態度をとられてまで勧誘する価値は無かった。

 

『パパ、ママ、どういうこと?』

『デジタル、私は良い環境でトレーニングするのがアスリートの幸せだと思っていたが間違っていたよ。本当の幸せは誰よりも理解してくれる指導者の元でやることだった』

 

 父親はデジタルの頭を優しく撫でる。クールモアは恐らく勝利至上主義だろう。それは間違っていると思ないし、現役時代も自身がそうだった。

 デジタルはウマ娘を感じるために走っている。謂わばウマ娘至上主義でその性格からしてクールモアとは全く合わない。いずれ方針の違いで衝突し幸せな競技者生活を送れないだろう。

 デジタルの考えは他のウマ娘とは違う。もしかするとトレーナーの誰一人も理解できないかもしれない。だが日本のトレーナーなら理解し尊重してくる。そのことは無意識で分かっていたはずだ。だが自身のアスリートとしての常識が目を曇らせていた。

 

『デジタルをちっとも理解していないあんな人たちに預けられないわ。それなら外国でもあの日本のトレーナーに任せたほうが良いわね』

 

 母親はデジタルをハグする。

 本当はレースで走ってもらいたくないが、娘が本当にやりたいことならやらせるべきだ。かつて留学で辛い目にあった。そんな思いを娘に味わせたくないと日本行きを反対した。アメリカではそれらの苦労や苦しみはないかもしれない。だがアメリカでもデジタルの考えは理解されず辛い思いをするかもしれない。

 それだったら海外でもデジタルを理解してくれる場所に行った方がいい。それにあのトレーナーなら全身全霊でサポートしてくれるだろう。

 

『デジタル日本に行きたいか?』

『行きたい!』

 

 デジタルは両親の目を見据えて答える。両親の考えによって日本で走る道は閉ざされ諦めていたが、アメリカと日本だったら僅かに日本で走りたいという気持ちが勝っていた。そして両親から日本行きの許可を得た。ならば行くのみだ。

 

───

 

「それで日本に来たと。いや~懐かしいな。昨日のことみたいや」

「それはおじさんだからね、そう感じるでしょ。あたしにとっては長い時間だよ。でもクールモアじゃなくて、白ちゃんのところに行って良かったよ。白ちゃんが芝やダートや地方や海外とか走らせてくれたおかげで、色々なウマ娘ちゃんと交流して感じられた。こんな意味わかんないローテを許可してくれるのは世界中探しても白ちゃんだけだよ」

「それ褒めとんのか?」

「褒めてるよ」

 

 デジタルは満面な笑みをトレーナーに向け、それを見てトレーナーの頬は緩む。

 自身としてはデジタルが多くのGIを取ってくれたおかげで、成績も業界内での評判も上がり良かった。だがデジタルは幸せだったのだろうか?それを何回も自問自答してきた。その答えはデジタルしか分からない。そしてデジタルの今の笑顔がその答えだと思いたい。

 しかしあの小さなウマ娘が今や日本ウマ娘のトップクラスか、その成長ぶりに感慨にふける。だがデジタルは良い意味で日本に来た頃とで変わっていない。

 トップになればそれ相応の責任が付きまとい世間体を気にしなければならない。だがそれらを一切考えず、自分の欲望赴くままに走るだろう。

 現に今後出走する南部杯からブリーダーズカップのローテーションも一部から文句を言われている。すでに勝った南部杯に勝ってもそこまで価値が無いし、叩きのレースとしてもブリーダーズカップに直結せず、現地の前哨戦に出た方がいいという意見が有る。

 その意見は間違っていないとは思う。だがデジタルにとっては南部杯、正確にはヒガシノコウテイとセイシンフブキと走るのはサキーとブリーダーズカップで走る事と同じぐらい重要なのだ。

 そして極端な例をあげればGIレースとシンガポールやアルゼンチンの重賞でもないレースが有り、意中のウマ娘がシンガポールやアルゼンチンで走るとすれば躊躇なく選ぶ。そうなったら世間はデジタルを非難するだろう。その時はデジタルの防波堤になる。デジタルを尊重し走りたいレースを走らせる。それが両親と交わした約束だから。

 

「しかし星が綺麗だね。これを見るとケンタッキーに帰ってきたって感じがする」

 

 デジタルは寝そべり空を見上げ、トレーナーも同じように空を見上げる。空には満点の星空が輝いている。確かにトレセン学園では見られることのない絶景だ。すると一筋の流れ星が落ちる。トレーナーは咄嗟に願いを心の中で言う。

 

「白ちゃんお願いできた?」

「ギリギリな」

「何をお願いしたの?」

「チームメンバーの健康と幸福や。デジタルはできたか?」

「ダメだった。南部杯でコウテイちゃんとフブキちゃんと、ブリーダーズカップクラシックでサキーちゃんと、香港カップか香港マイルでプレちゃんと素敵なレースができますようにって願ったんだけど、あとスぺちゃんとどっかのレースで走りたいな」

「欲張りすぎやろ」

 

 その後は暫くの間2人は星空観賞を楽しんだ後帰路についた。

 

───

 

「じゃあな、しっかり休んで英気を養えよ。それから食いすぎで体重増やすなよ。あと軽く体を動かしてもいいが、普段のトレーニングレベルの強度で体を動かすなよ」

「わかってるって。ちゃんと休むから」

「何べんも言うが休むのもトレーニングやぞ、最近はローテがきつかったし、トリップ走法のせいでダメージが溜まっているからな。しっかり休まないと南部杯もブリーダーズカップも走れんぞ」

『デジタルのことは任せてください。食事メニューなどもセンセイの指示通りしますので』

『助かります』

 

 デジタルの母親はデジタルの肩に手を置きながら任せろといわんばかりに目線を送る。この休養は重要だ、休養の取り方を誤ると調整に支障が出てしまうので家族の協力が必要不可欠だ。

 

「それで7月まで休憩して、8月はアーリントンで合宿して、日本に戻るのは9月だから、次に会うのは9月だね。勉強会頑張ってね」

「ああ、また9月や」

 

 トレーナーとデジタルは別れの挨拶をすますと、トレーナーはタクシーに乗って出発する。デジタルはタクシーが見えなくなるまで手を振り続け、それをトレーナーは後ろの窓から見続けた。その時ふと過去を思い出す。

あの時はデジタルを育てられないと思ったが、今はこうしてデジタルをチームに入れられた。トレーナーは数々の巡りあわせに感謝した。

 




デジタルの過去はトレーナーのモデルの調教師の某コピペを参考に書きました。
マル外の競走馬でしたら馬主が購入して日本で来たですみますが、ウマ娘は人間ですので何故日本に来たという明確な理由が有るよなと思い、何故デジタルが日本に来たという理由を考えていたらこういう話になりました。

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