勇者の記録(完結)   作:白井最強

45 / 119
勇者と隠しダンジョン#5

 トレーニング器具を下ろす金属音やウマ娘達の掛け声が聞こえてくる。恐らくシャウト効果を期待したものだろう。

 他にもランニングマシーンで黙々と走る者の息遣いも聞こえ、それぞれが自主的に或いはトレーナーに指示されたメニューをこなすために黙々とトレーニングに励む。その中にアグネスデジタルも含まれていた。

 デジタルは息を吸い込み歯を食いしばる。全身の筋肉を全て使いバーベルを担ぎながらゆっくりと膝を曲げ、太ももが地面と平行になるまで下げて、2秒間キープする。

 すぐに立ち上がりニュートラルな状態に戻ると、またゆっくり膝を曲げていく。焦らずゆっくり正しいフォームを意識しながら行っていく。

 デジタルは筋トレが好きではない。坂路やダートやウッドチップで走るトレーニングならそれなりの量でも耐えられる。だがウェイトレーニングなどはどうしても苦手だった。

 今までも出来る限り何かしらの言い訳を作り避けてきた。幸いにもそれなりに結果を出せているので、トレーナーにもとくに何も言われなかった。だが今は率先してウェイトトレーニングを行っている。

 トレーニングの苦しさは何一つ変わっていない。心の中では悪魔がトレーニングを中止し、回数を減らそうと常に囁きかける。だがそれらを打ち払い懸命にトレーナーが作成したメニューをこなしていく。全てはダートプライドに勝つために。

 既定の回数をこなすとバーベルをラックに置き、休憩しながらサキー達に想いを馳せる。今頃きっと激しいトレーニングを行っているのだろう。その視線は再びバーベルに戻すが強制的に逸らす。

 トレーニングは適切な質と量が重要だ。闇雲に量を増やせば成果が出るわけではなく、逆に怪我に繋がる。今はトレーナーを信じてメニューをこなすだけだ。

 

「ねえ一口頂戴よ」

「ダメです~これは嫌いなウェイトをしたご褒美です」

 

 デジタルはチームルームでプロテインバーを奪おうとじゃれ合うチームメイト達を眺めながら、プロテインバーを齧る。

 ウェイトトレーニングの後のたんぱく質の摂取、最近の物は甘くて美味しく、厳しい体重管理をトレーナーに課せられているなかで、合法的に甘い物を食べられる数少ない機会だ。これだけで少しだけモチベーションが上がる。

 

「どうや、膝とかは痛くないか?」

 

 するとトレーナーが横の席に座り声をかけてくる。デジタルはゆっくりと口に入っている物を飲み込む。

 

「今のところ大丈夫」

「3日坊主にならんようにな」

「大丈夫だって、しかし改めてウェイトは好きじゃないって分かったよ。何でウェイトしないとダメなんだろう?普通走ってれば体が最適化されるもんでしょ?」

「レースの筋肉は走って鍛えて通用するのは極々一部のバケモンだけや、その他大勢は筋トレして強くなるしかない」

「アタシもその一部のバケモンになりたかったよ。まあ勝つためなら仕方がない」

 

 デジタルはため息交じりで呟く。トレーナーはその言葉を注意深く聞く。

 また勝つというワードが出てきた。以前なら近づくためにとかウマ娘を感じる為にと言っているはずだ。以前勝利中毒は継続中ということか。

 GIをいくつも勝っているデジタルだがまだ体に若干の緩さが有った。故に本人の希望に沿うようにウェイトトレーニングを行わなかった。

 だが秋を経て体の緩さが完全に無くなっていた。そしてウェイトトレーニングの量を増やそうとした時に進言してきた。自分で何が足りないか考えた末の提案だろう。

 自ら思考し行動する。良い傾向だ、これがウマ娘を近くで感じる為という理由なら満点なのだが、今はレースに勝つという目的の為に思考した結果導き出した答えだ。

 気力は充実している。フィジカルも強化されている。歩んでいる方向性は間違いではない。だがこのままでは落とし穴に落ち永遠にゴールにはたどり着けない。

 デジタルも別に勝ちたくないというわけではない。だが勝利はあくまでも第二目的であり、レースを通してウマ娘を感じるという第一目的を達成してからの副産物にすぎない。

 周りから見れば僅かな違いかもしれない。だがその違いがアグネスデジタルというウマ娘を劇的に変えてしまう。

 この心境の変化は明らかに間違っているという訳ではないのが厄介だ。勝利への執念を燃やすことはプラスである。だがデジタルにとっては毒になってしまう。

 トレーナーの想定を超えて勝利中毒を昇華させ、勝利することが第一目的となり、ダートプライドに勝つ可能性もある。

 

 だがその可能性は極めて少ない。何より惚れたのはウマ娘を感じることを最優先にするアグネスデジタルというウマ娘であり、そのようになってしまったデジタルは好みではない。

 今の状態では指摘したところで元に戻る可能性は低い、理想は自ら気づくことだ。

 初志を忘れてしまった者が気づくには鏡のような存在、かつての自分と同じ存在を見ればいい。

 ライバルに勝ちたい、支えてくれる周りの為に、それらの理由を初志にしていたウマ娘は多く、同じようなウマ娘を見せて話を聞かせればいい。

 だがデジタルのような理由で走っているウマ娘は少なからずトレセン学園にはいない。いや世界中探しても居ないかもしれない。それだけ特殊な精神性なのだ。つまり鏡は存在しない。

 幸い今の心理状態は目的を達成するための土台作りを行うという意味では間違っていない。勝つためとウマ娘を感じるという目的は違えど、高いモチベーションでトレーニングに励んでいるので、早急に対処する必要はない。

 だがいずれは対処しなければ確実に手遅れになる。トレーナーは慎重にその機を見極めていた。

 

──

 

 プレストンは机に向かい、授業の課題をやりながら背後にいるデジタルの様子を盗み見る。

 相変わらずトゲトゲしい雰囲気を発しながらレース映像を見ている。勝利中毒は未だに継続中ということか。

 プレストンは無意識に舌打ちをする。親友が奈落の底に向かっているのを分かっていながら何もできない。

 デジタルのトレーナーから指摘しても意味がないと言われているので何も指摘しない。だが間接的には指摘する。本人が無意識に本来の自分に戻るように誘導するのはいいだろう。

 プレストンはデジタルを見ながら機を伺う。そしてPCの電源を落としているのを確認すると机に向かいながら声をかける。

 

「アドマイヤドン凄いよね。菊花賞から中2週でJBCクラシック勝っちゃうし、しかも7バ身でしょう。もしかしてダートプライドに参戦するかもよ。同じ舞台だし」

「その可能性は充分あるかも。一応レース見ておかないと。何が得意で何が苦手か分析しておかないと」

「しかしアドマイヤドンは芝のジュニアB級王者だし、またオールラウンダーが来たってセイシンフブキが怒りそうだ」

「そうだね」

「アドマイヤドンってアドマイヤベガと姉妹らしいよ。ドンはオレオレ系でベガはダウナー系でしょう。一見合わなそうだけど意外とウマが合うというか、エモい関係になりそうだよね」

「そうだね」

 

 プレストンは舌打ちするとデジタルの方に振り向き、ドスが利いた低い声で喋る。

 

「いい加減にしてよ。いつまでそのままで居るつもり」

 

 プレストンは基本的に冷静な人間である。だが感情を溜め込む気質が有り、溜め込みすぎると爆発する。昨年の香港遠征でも感情を爆発させ騒ぎを起こしたことがある。

 デジタルはアドマイヤドンの実力やレーススタイルについて気にしていた。だがパーソナルな部分については興味を示さなかった。

 セイシンフブキについて話を振っても同じだ。前のデジタルだったら、長々とセイシンフブキの心情を語り、ドンとベガについても妄想トークを爆発させていた。

 

 調子が狂う。ムカつく。イラつく。

 

 プレストンは我慢していた。いずれいつもの感じに戻ってくれるはずだ。トレーナーにも静観していろと言われたので根気強く見守っているつもりだった。だがフラストレーションは着実に溜まり続けていた。

 最初は勝利に執着しないところに苛立つこともあった。だが今ではそういう考え方も許容できるようになり、むしろ考え方を持つウマ娘が居た方が面白いとすら思っていた。そんなデジタルが自分のように普通のウマ娘になるのが我慢ならなかった。

 

「いつまでって何が?」

 

 デジタルはプレストンの感情を知る由もなく、ぽかんとして間の抜けた声で答える。それがさらに感情を逆なでる。

 

「絶対に勝つ、勝って最高の気分を味わいたい。いつからそんな面白みのない事を言うことになったの?そんなのリギルとかスピカに任しておきなさいよ。デジタルはウマ娘のことを想ってデュフフフと変態チックに笑っていてよ。アンタが走るのは勝つためじゃない、レースを通してウマ娘を感じることでしょう」

 

 プレストンの言葉がトリガーになり過去の記憶を遡る。

 天皇賞秋でのイメージのオペラオーとドトウとの走り、香港カップでのトブーグ、ドバイワールドカップでのサキー、クイーンエリザベスカップでのプレストン。

 一緒に走った多幸感が蘇る。だがそれは一瞬で消え去り、勝った時に味わえる幸福感やドバイや香港や盛岡での敗北の悔しさが無意識に塗りつぶす。

 

「アタシはそんなこと言ってたの?勝つよりウマ娘を感じたいって?」

 

 デジタルはまるで信じられないという口調で呟く。その反応を見たプレストンは怒りで顔を歪ませながら本棚から雑誌を取り出し、見せつけるようにページを開く。そこにはデジタルのインタビュー記事が書かれていた。

 デジタルはプレストンやスペシャルウィークなどの親しいウマ娘や気に入っているウマ娘のインタビューをファイリングしていた。プレストンもそれに感化されたようにデジタルやチームメイト達の記事をファイリングしていた。

 いつかデジタルをからかう時に使えるネタが有るかもしれないと思っていたが、まさかこんな場面で使うことになるとは、過去の思いついた自分に感謝しつつ、これで元に戻るという期待を抱いていた。

 デジタルは記事に目を通す。確かにレースの結果はそこまで気にせず、レースを通していかにウマ娘を感じるか、レース前や道中や直線でどのようなところに目を配ればウマ娘を感じられるかを熱く語っている。

 しかしいくら見ても自分が語ったと思えず、まるで他人の記事を読んでいるようだった。

 

「それでも読んで、昔の自分を思い出して、さっさと元に戻りなさい」

「昔の自分に戻る必要が有るのかな?」

 

 デジタルはポツリと真剣な口調で呟く。プレストンは思わぬ反応に少し戸惑いながら次の言葉を待った。

 

「確かに昔のアタシはそうだったかもしれない。でも変わったんだよ。それを悪い事みたいに言わないで欲しいな」

 

 デジタルは不機嫌そうに呟く。その言葉は自分を否定しているように聞こえていた。その反応はプレストンの怒りを募らしその感情を言葉に込める。

 

「悪い事みたい?みたいじゃなくて悪い事なのよ」

「何で?勝ちたいと思う事が悪い事なの?プレちゃんだって誰だってそう思うでしょ、それなら皆悪くなるじゃん」

「他の人なら問題ないけど、デジタルにとっては悪い事なの。アンタは特別なんだから」

「アタシは特別じゃない。それにスぺちゃんだって負けた時はいつも泣いていた。エルコンドルパサーちゃんだってそう!負けたくないって気持ちが力になる!だからアタシもそうなってそれを力にする!」

 

 プレストンは襟を掴んで顔を近づけながら睨みつける。

 特別になりたかった。特別とは強さと個性である。それはテイエムオペラオーやメイショウドトウやWDTで走るようなほんの一握りのウマ娘しか持ち合わせていない。

 デジタルは特別だ。勝利に執着せずレースを通してウマ娘を感じることを目的にする特殊な精神性、そしてその情念をトリップ走法という力に変えてダート芝関係なくあらゆる条件で勝つ強さと個性、アグネスデジタルというウマ娘はエイシンプレストンにとってある意味理想の特別だった。その特別を放棄しようとしているのが許せなかった。

 

「ふざけないで!そんなのデジタルらしくない!」

「アタシらしさって何!?人は変るの!プレちゃんのアタシらしさをアタシに押し付けないで!そんなにアタシらしさを求めるなら、プレちゃんがアタシになれば!?」

 

パン

 

 乾いた音が響くとプレストンの荒々しい息遣いが部屋に響き渡る。

 デジタルになればいい?そんな個性と強さを持てる特別になれるのならなっている。その特別はデジタルだけが持てるものだ。だから必死に特別になれる方法を探し、香港のスペシャリストという道をやっと見つけたのだ。軽々しく言うな。

 デジタルの頬に痛みが伝わり、反射的に頬に手を当てる。ぶたれたのか?苦痛、困惑と目まぐるしく感情が駆け巡る。そして怒りが湧き出て一気に吹き出し、涙を浮かべながら叫んだ。

 

「何で認めてくれないの!?友達なら変わったアタシでも受け止めてよ!」

「友達だからよ!アンタは変ったんじゃない!変えられたのよ!今のデジタルは勝利中毒になって、ジャンキーみたいに勝利という麻薬を求めているにすぎない!間違った道を行こうとするなら、引っぱ叩いても止める!このままじゃ本来の目的を失ってつまんない現役生活を終える!それどころか勝つことすらできない!」

「そんなことない!勝ちたいって気持ちは力になる!それはオペラオーちゃんやドトウちゃんが証明したよ!」

「アンタには無理!それに今のデジタルにはトリップ走法はできない!トリップ走法ができないデジタルなんて香港で走れないアタシみたいなもんでしょ!そんなんでダートプライドに勝てるわけがない!」

「なんでそんな酷いこと言うの!プレちゃんなんて大っ嫌い!もう出て行ってよ!」

「出て行ってやるわよ!こんな普通でつまないデジタルと一緒の部屋で生活するなんてごめんだわ!」

 

 プレストンはデジタルの襟から手を放すと荒々しく扉を開け外に出て行く。デジタルはその後ろ姿を親の仇のように見ながら見送った。

 

「何で!何で!何で!分かってくれないの!」

 

 怒りをぶつけるように叫びながら枕をベッドに何度も叩きつける。しばらくするとその騒ぎを聞きつけ、寮長のフジキセキが部屋にやってきた。

 

───

 

「まあ、ゆっくりくつろいでくれ」

「すみません」

 

 プレストンは出された紅茶を啜りながら部屋を見渡す。

 一切のスペースを潰すように展示されるトロフィーや優勝レイとテイエムオペラオーのポスター。人をもてなすことを一切考えていない自己顕示欲の塊のような部屋だ。

 ある意味壮観な景色だが、まるで何人ものオペラオーに睨まれているようで落ち着かない。そんな部屋で家主のオペラオーとメイショウドトウはごく普通にくつろいでいた。

 

 プレストンは感情に任せて部屋から学園の外に出て走り続けた。しばらくすると体力が無くなり始め強制的に足が止まり我に返る。

 なんてことを言ってしまったのだ。後悔の念が押し寄せ思わず頭を抱えその場にしゃがみ込む。

 デジタルに傷つくことを言ってしまった。すぐさま帰り謝罪すべきなのだが、自分は正しい事を言ったとプライドがそれを邪魔する。

 何より顔を合わせたくない。その場をグルグルと周りながら思考をまとめ結論を出す。

 このままではダメだ。誰かに話してスッキリしよう。手に持っていた携帯電話を取り出しトレーナーに電話をかけようとするが手を止める。

 こんな個人的な問題でトレーナーに迷惑をかけるわけにはいかない。何より無意識で自分の意見に同意して慰めてもらいという気持ちが有り、トレーナーは同意してくれない可能性がある。だがチームメイトなどの普段から接せる人に知られたくはない。

 近い年代で普段はあまり接する機会はなく愚痴を話せる人間、その条件に当てはまるのがオペラオーとドトウだった。

 

「ドトウさんも態々アタシの愚痴を聞く為に来てくれて恐縮です」

「大丈夫ですよ。オペラオーさんと話していると次第に自慢話になりますので、止める人が居ないと」

 

 ドトウはオペラオーのほうをチラチラ見ながら、聞こえないようにプレストンに告げる。

 自分の愚痴が次第にオペラオーの独演会に変っていく。そのイメージがありありと浮かんでくる。

 

「それにしてもこの部屋でよく落ち着けますよ」

「時々遊びに行っていますので慣れました。それにオペラオーさんらしくて素敵な部屋だと思います」

 

 この部屋が素敵か、オペラオーと親しいだけあってドトウもそれなりに個性的な感性を持っているようだ。プレストンは呆れと感心を抱く。

 

「さて、話を聞こうじゃないか」

 

 オペラオーが場を仕切るように2人に話しかける。プレストンはそれを切っ掛けにデジタルとの喧嘩の顛末を出来る限り詳細に語り始めた。

 

「デジタルはだいぶん変わってしまったようだ。落胆する気持ちはわかるよ」

「ですよね!こっちは親切で言っているのに、全然理解しない!ねえドトウさん」

「そうですね…そこまで勝利に拘るデジタルさんはらしくないというか…」

 

 ドトウは遠慮がちにプレストンの意見に賛同する。3人ともデジタルの性格や気質をよく理解し、好感を持っていた。それだけに今の状態を憂いていた。

 

「あの、デジタルさんのトレーナーに連絡したほうがいいのでは?一応静観する予定みたいでしたので、今後のプランに…その…」

 

 ドトウは歯切れ悪く遠慮がちにプレストンに伝える。トレーナーとしては自然に気づくようにするつもりだったが、プレストンが今のデジタルの変化を本人伝えたことで否が応でも向き合うことになり、接し方も変わってくる。

 プレストンも自分がしてしまったことへの重大さとドトウの気遣いに感謝しながら、トレーナーに電話する。連絡先は先日オペラオー達とトレーナー室に行った時に聞いておいた。

 

「もしもし」

「もしもし、エイシンプレストンです。夜分遅く申し訳ございません。デジタルについて伝えたい事があります。お時間よろしいですか?」

「かまわんよ」

 

 プレストンはオペラオー達に話したように詳細を話す。今度はトレーナーに伝えるということもあって、冷静に感情を抑えて伝えた。

 

「軽率な行動を起こしてしまって申し訳ございません」

「気にしないでくれ、それはルームメイトが別人みたいに変わっていたら、それは気持ち悪いわな」

 

 スピーカー越しにトレーナーの笑い声が聞こえてくる。雰囲気を一変させるような豪快な笑いだ。これも自分が気にしないようにという配慮だろう。

 

「それでどうするんだ?」

「その声はテイエムオペラオー君か?」

「そうボクこそはトウィンクルシリーズ史上最強にして最も美しいテイエムオペラオーさ!」

 

 トレーナーの驚いた様子が聞こえてくる。オペラオーの提案でスピーカーモードにしており、いつでも口を挟めるように準備していた。

 

「まあ、前置きは置いておいて、このままではデジタルは勝利中毒に侵されて、緩やかに破滅に向かうに過ぎなかった。プレストンの行動は変化を促すという意味では悪くはない」

「ああ、多少荒療治になるが、ガツンと言った方が気づくかもしれん」

「どうもメイショウドトウです。デジタルさんの言葉じゃないですが、私達はこうであって欲しいと型に嵌めているだけかもしれません。デジタルさんの変化を受け入れるのも1つの方法ではないでしょうか?」

「それも有りだろうが、今のデジタルは本来のデジタルやない。それは断言できる。ガキの頃からウマ娘を愛し、レースでも感じることを常に考えておった」

 

 トレーナーの決断的な意志が籠った声が聞こえてくる。この中でデジタルと一番付き合いが長いのがトレーナーだ。2人にしか分からないことがあるだろうし、選手の方針を決めるのもトレーナーの役目だ。外野が口を出すべきではない。

 

「デジタルはプレストンのように僕達に愚痴を言いに来るかもしれない。その時は今のデジタルは間違っていて、元に戻れと言った方がいいのかい?」

「少し可哀そうな気がします」

「そうやな。2人も勝利中毒については多少理解しているやろうし、さり気なく勝利に固執するのはデジタルには向いていないという方向で諭して貰いたい」

「分かりました」

「分かった」

 

 2人は返事する。オペラオーは勝ち続けたことで、ドトウは2着になり続けたことで勝利を渇望し続けた。

 それは勝利中毒に罹っているようなもので、それで得る強さと脆さを理解しているつもりだ。だからこそ助言できることもある。

 

「それでエイシンプレストン君の今後やが、デジタルはオレの家から学園に通わせるから、引き続き部屋を使ってくれ」

「いや、悪いですよ。以前にもアタシが部屋を出たこともありますし、アタシが出ますよ」

「いや、デジタルのせいで居心地が悪くなったなら、こっちが出るのが筋や」

「では申し訳ないですが」

 

 プレストンはトレーナーに押し切られるような形で了承する。

 

「何か気になる事が有ったら連絡してくれ、本来ならトレーナーを俺がやらなあかんことやが、今は1人でも多くの手を借りたい。よろしく頼む」

「喜んで、デジタルさんは私達の友達です。友達が困っているなら助けます」

「友達なら当たり前です」

「ありがとう」

「では失礼します」

 

 プレストンは電話を切り息をつく。去年の香港遠征の時は色々と世話になったこちらが借りを返す番だ。昔のデジタルの表情を思い出しながら目を覚まさせてやると心の中で誓った

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。