9月になると夏を休んでいたウマ娘達がトレセン学園に帰り、秋のビッグレースに向けてトレーニングを開始する。アグネスデジタルもその中の1人であった。
トレーナーはチームメイト達と坂路を駆け上がるデジタルを見つめる。アメリカから帰ってからはトレーニングにより一層集中するようになり、動きに力強さが増していた。どうやらアメリカで何かしらの決意を新たにしたようで、それが良い方向に働いているようだ。
トレーナーはゴール地点まで走ったデジタルを見たあと端末に視線を移す。各ウマ娘のゼッケンにチップが埋め込まれ、ゴールを通過した瞬間タイムが端末に送られる仕組みになっている。
タイムは予想以上の好時計でトレーナーの予想以上の仕上がりを見せていた。
「中々の時計やったぞ」
トレーナーは坂路から戻ってくるデジタルに声をかける。すると手応えを感じているのか僅かに口角が上がっていた。
何を試しているのかは敢えて聞いていないが、自分で試行錯誤した成果が出ているのはは良い事である。
「順調そうやな」
「目一杯に感じたいからね」
デジタルはレースのことを想像したのか興奮気味に鼻息荒く答える。
アメリカから帰ってきたデジタルと話し合った結果秋のローテが決まった。
初戦は船橋レース場ダート1800メートルGⅡ日本テレビ盃
2戦目は盛岡レース場ダート1600メートルGI南部杯
3戦目は東京レース場芝2000メートルGI天皇賞秋
春はレースを通して多くのウマ娘を感じ新たな発見をしようという試み、または複数のウマ娘にフォーカスを当てていた。
だが秋の3走は感じたいという対象を決め、アジュディミツオー、アドマイヤドン、シンボリクリスエスの3人が対象だった。その1人であるアジュディミツオーが日本盃に出走する。
「あと1本や、気張ってこい」
デジタルはトレーナーの言葉に応じる様にチームメイト達と坂路に向かっていき、トレーナーはその後ろ姿を見送る。
デジタルが選んだローテーションは奇しくも数年前のローテーションと同じである。
日本盃から始動し、そこから地方中央芝ダートの垣根を越えてのGI4連勝を達成した。この連勝がアグネスデジタルというウマ娘の名を広めたと同時に個性を確立した。
予定しているレースには強豪が集まってくる。特にアドマイヤドンとシンボリクリスエスは現時点のダートと芝中距離のトップクラスと言え、勝つのは並大抵のことではないだろう。
だがもしかしたらあの時の連勝を再現するかもしれない、そんな期待感を今のデジタルに抱いていた。
──
トレーナー室は様々な付き合いや気苦労から解放される唯一のプライベート空間である。ここでは好きなことをやれて、限りなくストレスフリーで快適な空間だった。だが最近は事情が変わってしまった。
「白ちゃん、これどういう意味?」
「それはやな……」
トレーナーはデジタルが見せてくる参考書の箇所を読み分かるように解説する。デジタルはなるほどと独り言を呟き、再び参考書を読み始める。
デジタルがトレセン学園に戻りトレーニングを始めた日、トレーニングが終わり資料を整理しようとトレーナー室に向かう。そこで作業して数分後、突如扉をノックした音が聞こえた。
チームの誰かだろうと思って扉を開けるとそこにはデジタルが居た。
デジタルがトレーナー室に来ることはあまりない。何の用だと問いかけるまもなく中に入ると、部屋の中央の机にある荷物を退かしスペースを作り、自分が持ってきた本を広げこう言った。
「今日からここでトレーナーになる為の勉強するからよろしく」
それからデジタルはトレーニングが終わると自室から教材を持ってトレーナー室にやってきて勉強を始めるようになった。
その結果トレーナーの作業効率は下がっていく。その要因はタバコを喫煙できなくなったことだった。
トレーナーはそれなりにタバコを吸っていた。だがトレセン学園は教育機関であり、アスリートを育てる場所で喫煙はよろしくないと、広大な敷地に反し喫煙スペースは少なく、トレーニング場所によっては長い距離を移動しなければタバコを吸えなかった。
だがトレーナー室ではタバコを自由に好きなだけ吸えていた。しかしデジタルが来たことで副流煙を吸わせるわけにはいかないとタバコは自粛しなければならない。
トレーナーは貴重な喫煙機会を減らされてはならないと来た理由を訪ね、理由しだいでは暗に出て行けと察するように言葉を伝えようと考えていた。
デジタルはトレーナーに理由を話す。自室だと誘惑に駆られ勉強に集中できず、雑誌やスマホをいじってしまう。ならば自室以外の場所で勉強しようと考えた。
トレーナーはその答えに図書室で勉強すればいいと言うが、トレーナーが近くにいれば分からないところ聞けて便利だし、何よりトレーナーになるためにバックアップすると約束したのであれば、協力する義務があると反論した。
確かにデジタルの両親を説得するときにバックアップすると約束したのを覚えている。言質があるだけにトレーナーは反論できず、トレーナー室で勉強することを許可した。
今ではデジタルが来るときは仕事にならないと休憩時間と割り切っていた。
トレーナーは今は休憩時間として休んでいるが手持ち無沙汰だった。暇つぶしがてら何気なくデジタルが持ってきた参考書を手に取る。
そこには何十年前に必死に勉強した項目が載っていて、夏に家では暑くて勉強にならないと、クーラーが利いている図書館に閉館時間まで通いつめた日々の記憶が蘇る。
「よし、問題や。フェブラリーステークスにおいて、レーティング110で獲得ポイントが1000万のウマ娘とレーティング100で獲得ポイントが2億のウマ娘、出走枠が残り1つならどっちが出走できる?ちなみにレーティング110は出走メンバーのなかで5番目や」
トレーナーは突如問題を出す。過去に先輩に突如問題を出されて勉強した日々を思い出し、ノスタルジーを感じ自身も問題を出してみた。
デジタルは突然の質問に参考書を読むのを止めて考える。出走についてはいくつものドラマがある。かくいう自分も天皇賞秋でウラガブラックの出走を弾いた1人である。
そして問題だがこれは出走ポイントが多いウマ娘が出走できるだろう。
交流重賞でも過去にGIをとっても他のウマ娘と比べ獲得ポイントが足りず除外されるという例もある。
「それは獲得ポイントが多いウマ娘ちゃんでしょ」
「ハズレ、正解はレーティング110で獲得ポイント1000万のウマ娘や」
「違うの!?だって交流重賞で獲得ポイントが足りなくてGI勝っても出走できないとかあるじゃん」
「それは地方の話で中央は違う。レース規定のGIの出走ウマ娘の決定方法の項目をよく読んでいみい」
デジタルはトレーナーに言われたとおりレース規定の本を手に取り確認する。そこには上位5名の選出基準としてレーティング、優先出走権、外国ウマ娘、獲得ポイントの多い順の序列で出走できると記載されていた。
「これでフェブラリーステークスに出走したいというウマ娘の夢が絶たれたわ。どっかの勉強不足のトレーナーのせいやわ。あ~かわいそ」
トレーナーが煽るように挑発しデジタルは思わず頭を抱える。
憧れの先輩ウマ娘の引退レースがフェブラリーステークス、最後に一緒に走りたいという一念で前走に勝利した後輩ウマ娘、獲得ポイントを上乗せして出走できると確信して登録した自分、だが出走不可、泣き崩れる後輩ウマ娘。
「ごめんね後輩ウマ娘ちゃん~!アタシのせいで出走させてあげられなくて~!」
「何の想像をしとるが知らんがこんなことにならんように勉強しておけよ。あと各GIで優先条件がちゃうから覚えておけ」
「うん」
「それからGIや重賞だけやなく各条件のレースの出走も覚えておけよ。知らなかったせいで確勝級でも条件戦で除外され、そのレースに出走できなかった結果予定が狂ってクラシックのレースに出走できなかったとか、別のレースにピークを持っていけば勝てたのに条件を知らず除外されるレースに登録して調子を落とすとか色々あるぞ」
デジタルはトレーナーの話に頷きながらメモを取る。レースの出走条件などの規定の一覧は文字の羅列で覚えるのが億劫だった。
だがトレーナーの話には実体験が籠ったリアリティがあり参考になると同時に、将来の教え子たちを不幸にしない為に絶対に覚えなければと実感させられる。
「白ちゃん他にも問題出して」
「しょうがない、じゃあここからやな」
トレーナーはデジタルが持ってきた参考書を手に取り問題を出していく。それから暫くは自主勉強ではなく、トレーナーの問題を解説していく授業になっていた。
「ところでなんで今更勉強する気になったんや」
トレーナーは参考書を読み問題文を考えながらデジタルに問いかける。アメリカに帰ってから何かしら心境の変化があったのは明らかであった。
「今までトレーナー試験の難しさに目を背け、引退してから勉強すればいいやって思っていた。だけど今は違う!人生設計を作った結果、今から勉強しなければ間に合わないって判断なのです」
「そうか、ところで1日何時間勉強しとんのや?」
「トレーナー室で勉強してるだけ」
「それじゃああかんぞ」
トレーナーはデジタルに厳しく言い放つ。トレーナー室で勉強している時間は精々1時間から2時間程度だ。
はっきり言えば毎日勉強したとしても時間が足りない。トレーナー試験は難関であり、T大に受験する予備校生並みに勉強しなければ合格はできない。
一方デジタルはトレーナーの言葉に対し予想通りという表情を見せていた。
「今は勉強する習慣をつける時間だよ。自慢じゃないけどアタシには勉強する習慣はなく、テストも全て1週間漬けで何とかしてきました」
「ほんま自慢やないな」
「それに今は現役だしレースの準備をしたり、メンタルヘルスのためにウマ娘ちゃんの映像を見たり雑誌を読む時間を確保することを考えればこれが限界、それに受験まであと9年はあるし大丈夫でしょう」
「うん?9年の数字はどこから出てきた?」
「それは現役最長記録まで走るからだよ。それで引退したら即受験、あと9年はよろしくね」
トレーナーはあっさりと言うデジタルに一抹の不安を覚える。
ウマ娘の衰えには個体差があり、現役最年長記録を持つミスタートウジンは衰えるスピードが遅く恵まれていたかもしれない。だがそれだけでは決して記録は作れない
必要なのは衰えないための日々の鍛錬と体のケア、何よりモチベーションを保ち続けられる気力が必要になる。
モチベーションとは燃料のようなものであり無尽蔵ではない。現役を続け燃やし続ければ続けるほど消費していく。長く走るということはそれだけ長く燃やしていた証でもある。
己の限界を知っての「あきらめ」、現状での「満足」「納得」そういった要素が燃料を消しにかかる。
ミスタートウジンはそれらの要素を跳ね除ける強いモチベーションを持って走り続けた。それは並大抵のことではなく、ある意味3冠以上の偉業である。デジタルはそのことを理解していないような気がしていた。
「気軽に言っとるが並大抵のことやないぞ」
「分かってるよ。本当なら一生レースを通してウマ娘ちゃんを感じたいけどそれは無理だから、実現可能な目標を立てた。これでもアタシなりに色々やってるんだよ。例えば他のジャンルのベテランスポーツ選手を調べて、食事を節制したりとかさ。白ちゃんが時計出てるって言ってたけど、努力の現れだね」
デジタルは胸を張りながら自慢げに言う。話からするに記録を更新宣言にせよ、トレーナーのライセンスの受験にせよ思いつきの言動や行動ではなく、それなりに真剣で計画的に目標達成に向けて行動しているようだ。
「そういえばお前宛の荷物がトレーナー室に届いておったぞ」
「誰から…ってサキーちゃんじゃん」
デジタルはトレーナーから小包を受け取ると勢いよく開けて中の物を取り出す。
中には雑誌が入っていて表紙が英語で書かれていた。それはイギリスで発行されているウマ娘の専門誌だ。
デジタルは最初から読まずページをパラパラと捲り、あるページに差し掛かるとじっくりと読み始める。
「それイギリスのあれやろ。もう発売日やったか?」
「いやまだ。サキーちゃんがコラム書いていて、イギリスで会った時に問題を出したんだけど、それを題材にしてるんだよね。それでこの内容で問題ないかって送ってくれたみたい」
「それで何の問題を出したんや?」
「安田記念の直線で何でアタシの目の前が開いたかって問題、そして大正解、流石だね」
「あれを当てるなんて凄いな。ちなみに何て書いてあるんや?」
デジタルは該当ページを開いた状態でトレーナーに雑誌を渡す。トレーナーは懸命に翻訳しながら読み進める。
要約すればデジタルの前に居たウマ娘達に話を聞き、横に行くというイメージを相手に植え付け、空いたスペースに飛び込んだ。現役でも似たような体験をしたので、これはオカルトではなく技術であると書かれていた。
「そういえば日本テレビ盃にはセイシンフブキが出てくるな」
トレーナーは雑誌を読みながら何気なく話しかける。サキーから連想してセイシンフブキが出走登録したのを思い出す。
「うん、予定外のサプライズで今から一緒に走るのをワクワクしてるよ」
「でも、今のセイシンフブキは好みじゃないやなかったか?」
「何というか、フブキちゃんと走ることをメインにはしないけど、走れたら嬉しいよ。ダートを探求するフブキちゃんがどんな感じかも感じたいし。それに何と言っても師弟対決のイベントが発生したからね」
デジタルはワクワクが抑えきれないと体をソワソワさせる。
トレーナーの下に就いたサブトレーナーが独立し、其々の教え子が大舞台で走る時は師弟対決とトレーナー達にスポットが当てられることがある。
だがウマ娘達の師弟関係は珍しい。本番ではお互い様々な感情を抱く。それはデジタルにとって極めて気持ちが揺さぶられる。
「あと、日本テレビ盃は黒坂君が同行するからな」
「今度はどこにいつまで行くの?」
「アメリカで勉強会と研修会、そこからウルグアイとブラジルに行く。約1週間や。有望で日本行きに前向きなウマ娘がいるらしい」
「中堅トレーナーは大変だね」
デジタルは教材に読みながら気の無い返事をする。トレーナーは度々海外に行く。目的は自身のスキルアップやコネクション作りやスカウティングである。
トレセン学園に居るトレーナーで積極的に海外に行く者は少ない。その理由としては海外に行っている間にチームのウマ娘を指導できないという点だった。だがトレーナーはその点について心配していなかった。
チームプレアデスにはサブトレーナーの黒坂が居る。トレーナーの意志を汲み取り忠実に指導できる。
黒坂が居れば大まかな計画を組み、問題が発生したとしても直接指導しなくても電話などのやり取りで充分対応できる。
黒坂には全幅の信頼を置き、彼が居なければトレーナーは積極的に海外に行くことは出来ない。
「アタシもトレーナーになったら白ちゃんみたいに色んな場所に行かないとダメかな。チームのウマ娘ちゃんと離れるなんて寂しくて出来なさそう」
「今からトレーナーになった話をするなんて鬼が笑うぞ。まあもしその気になったら紹介してやるぞ。こう見えても海外へのコネは少しだけあるからな」
「じゃあ白ちゃんの人脈は全部もらおうっと。この人脈を使って日本一のトレーナーになるからね。いや~持つべきものはコネだね」
「俺も使うわ。それに地盤を与える政治家やないんやから、お前がトレーナーになっても引退せえへんわ。あと日本一のトレーナーになるなんて初耳やぞ。いつからそんな上昇志向が強くなったんや?」
「別になりたくて目指すわけじゃないよ。ただアタシの夢を叶える為に必要なんだよね」
デジタルはサキーから受けた助言についてトレーナーに話す。より多くのウマ娘と接したい、人はレベルの高い場所に集まる。日本一になればより多くのウマ娘が集まってくるという理屈だ。
「なるほど、確かにそうやな。だったら俺もライバルやな」
「白ちゃんも日本一を目指してるの?」
「当たり前やろが、向上心が無くなれば終わりや。でなければ海外まで行ってスカウトなんてせえへんわ」
「それもそうだね」
「もしトレーナーになったら、師弟対決が出来るかもな。どうや、デジタル風に言えばエモいやろ?」
「え~。アタシはウマ娘ちゃんとの師弟対決を見たり、後輩ウマ娘ちゃんと師弟対決がしたいんだよね。白ちゃんと師弟対決してもエモくないって」
デジタルは興味が無いと言わんばかりに教材に視線を移し読み始める。
トレーナーも雑談を止め、勉強の様子を見守る。それからはデジタルもトレーナーに質問することなくトレーナー室には2人の呼吸音とページを捲る音が響く。するとデジタルのスマホからアラーム音が鳴った。
「よし今日の勉強は終わり、それじゃあまた明日、あと問題形式やってよ。実体験が混ざったエピソードを聞くとイメージしやすいんだよね」
「気が向いたらな」
アラームが鳴るとデジタルは勢いよく立ち上がりトレーナー室を出て行く。トレーナーはその様子を見て思わず苦笑する。
しかし嬉しそうに出て行ったものだ、まるで塾を強制的に行かされている子供が授業終わったの時のようだ。
こんな様子でトレーナー試験に受かるが不安になるが、自分から時間を作り好きでもない勉強するようになったことは進歩と捉えるべきか。
トレーナーは部屋を出るデジタルを見送った後タバコに火をつけながら先の言葉を思い出す。
現役最年長記録の更新、それは困難な道だがミスタートウジンとはまた違った困難さが生じる。
ミスタートウジンは現役時代では重賞に出走せず条件戦で走り続けた。だがデジタルはGI6勝で現役のトップといえる選手だ。
長く現役で走る必要なのは衰えの進行が遅い体ではなく、気力などのモチベーションであると考えていた
モチベーションは無限に有るものではなく時が経つごとに消費していく。現役で走り続けるにはモチベーションという燃料を追加しなければならない。
一般的なモチベーションは勝利への渇望だろう。あのウマ娘に勝ちたい、あのレースに勝ちたいという欲がモチベーションになる。
だが衰えていけば勝つことはなくなり、勝ったとしても過去に勝ったGIレースと比べてランクが下がる。
GⅡやGⅢ、果てはOPクラスになるかもしれない。その現状に耐えきれなくなると一気にモチベーションは無くなる。
しかしそれは勝利を目的にしているウマ娘の場合だ。デジタルは勝利が目的ではなく、ウマ娘を感じるのが目的である。
例え勝ち星から遠ざかり走る舞台のランクが下がろうが、気にすることなく感じることに没頭する。そしてウマ娘を感じたいという欲は底なしで、満足も納得もしないだろう。
モチベーションの面で引退することはない。するとしたら体の面、重度の怪我による競走能力の低下か、レースで感じることが困難になるほど衰えるかだ。
怪我は注意を払えば防げる確率は増える。だが衰えについては現状では食い止める方法は確立されていない。できるとすればウマ娘の神様に祈ることぐらいだろう。
トレーナーは本棚から埃被っていた本を取り出す。これはかつてのトレーナー試験の勉強に使った教材だ。初心を忘れべからずと持ってきたが日々の生活で使用することなく、すっかり埃被っていた。
その教材を取り出しパラパラとめくり始める。デジタルの両親にトレーナーになる為にサポートすると言ったので、こちらも尽力しなければならない。デジタルが学習の手助けになるように問題でも作っておこう。
本番に出るような問題では学習効果が少ない。より脳に定着するように印象に残り関心が持つような問題でなければならない。
まずは人物背景を作りデジタルの言う尊いやエモいと呼ばれる感情を湧き上がらせる。
トレーナーは過去のウマ娘やドラマや映画で見た登場人物を思い出し人物背景を作る。
何となくで始めたが次第に夢中になり、今日やらなければならない仕事をそっちのけで問題作りに励んでいた。