勇者の記録(完結)   作:白井最強

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勇者と新世代#6

『さあ、レースがスタートしました。ハナをきるのは……アジュディミツオーとアグネスデジタルです。アグネスデジタルがアジュディミツオーに並びかけます。若干アグネスデジタルが前に出ているか?1バ身後ろにナイキアディライト、控えましてストロングブラッドは4番手、続いてダイコーマリナ、アンドゥオール、スナークレイアースの一団、2バ身離れてバハムート、イズミカツリュウ、ケイアンランボー、さらに離れて1バ身後ろはセイシンフブキ、いつもの指定席だ。先頭から殿までおよそ9バ身差』

 

 レースは意外な展開となりレース場からどよめきが起こる。アジュディミツオーは東京ダービーでも逃げて勝利しているので想定内だった。

 一方アグネスデジタルはマイルCSや天皇賞秋での豪快な差し切りが印象的だが、ダートを走る時は前の位置につける。

 しかしこのように競り合ってアジュディミツオーの外を並ぶように逃げを打つとは思っていなかった。この逃げには会場の客も出走ウマ娘も、そしてサブトレーナーの黒坂も予想外だった。

 アジュディミツオーは予定外の事態に焦る。今日は是が非でも逃げるつもりだった。ハナを争うとしたらナイキアディライトだと予想し、競りかけてこないのを見て単騎逃げでいけると思ったところに、アグネスデジタルが外から競りかけてきた。

 アジュディミツオーはペースを上げてハナを主張し、デジタルも同じようにペースを上げる。

 

『第1コーナーに入ってアジュディミツオーとアグネスデジタルが先頭争いを繰り広げる。後続との差をドンドン広げていく。これはハイペースだ』

 

 アジュディミツオー達から3番手のナイキアディライトまでの差は5バ身差、殿のセイシンフブキまで14バ身差と縦長な展開になる。後続もハイペースだと感じたのか前の2人を追走しない。

 アジュディミツオーは第1コーナーと第2コーナーの中間点で僅かにペースを下げる。

 このままアグネスデジタルとやりあえば共倒れだ、ハナを取りたかったが仕方がない。ここはハナを譲って2番手につける。

 だがデジタルはアジュディミツオーを抜き去らず、僅かに前に出た位置をキープし並走し、そのまま第2コーナーを通過する。

 

 アジュディミツオーは逃げながら横を走るデジタルを訝しむ。ハナに立ちたいのならば減速した時がチャンスだった。

 その時にさっさとハナに立てばコーナーで並走した余計な距離を走らずに済む。デビュー前のウマ娘ではあるまいしそれぐらい分かるだろう。不可解であるが勝手にミスしてくれたのならありがたい。そう思考を打ち切ろうとするが思い留める。

 相手はダートプライド覇者だ、不可解に見えてもきっと何かしらの思惑があるはずだ、このコース取りの理由を解明しておかないと勝敗に左右するかもしれない。さらに思考を深める。

 デジタルから感じる雰囲気、それは相手の仕掛けを見逃さない、相手を出し抜いてやるというヒリつく感じではない。

 もっと粘着質な感じで今までに感じたことが無いタイプだ。その時脳内でセイシンフブキとの会話が蘇る。

 

──アグネスデジタルってウマ娘は勝利を目指してないらしい

──じゃあ、何のために走ってるっすか?

──ウマ娘を感じる為だとよ。

──は?

──そんなしょうもない理由でダートプライドに勝てるっすか?勝つ意思が無い奴が最後の競り合いで勝てるわけ無いでしょ。

──少しでも近づいてウマ娘を感じたいと頑張るんだとよ。それで力を振り絞って走った結果だとよ。言うならば勢い余って勝ったようなものだろう。

 

 デジタルはウマ娘を感じることを目的にしている。だとしたらこのコース取りもウマ娘を感じる為に、いや自分という存在を観察するためなのか?

 

(う~ん、いいねアジュディミツオーちゃん、良い体つき、特に脹脛とかたまりませんね~。表情も何か困惑しているみたいだけど、その悩まし気な感じも好きです)

 

 アジュディミツオーの推察は正解だった。デジタルが何故コーナーでアジュディミツオーを抜かず、距離損してまで並んで走るかと言えば、より近くで観察するためである。

 今日のレースではセイシンフブキが以前の感じに戻る予感は有ったが、ターゲットはアジュディミツオーに決めていた。

 セイシンフブキを倒して師匠越えを果たしたい。セイシンフブキの後を継ぎ、ダートプロフェッショナルとして勝ち続けたい。様々な想いを抱えて走るアジュディミツオーというウマ娘への興味が勝っていた。

 そして相手のわずかに前に出る位置、これは競技生活で導き出したウマ娘ちゃん観察ベストポジションだった。

 後ろにつけば背面が見え、背面には背面の良さも有り趣もある。しかし顔が見えないより顔が見えたほうがいい。一方この観察ベストポジションなら側面を見られると同時に相手の前面を見ることも可能である。

 

「ここから向こう正面に入って、以前先頭はアジュディミツオーとアグネスデジタル。離れて5バ身差にナイキアディライト、ストロングブラッドの集団が続きます。セイシンフブキは殿から9番手の位置まで上がっています」

 

 黒坂は手元のストップウォッチに表示されたタイムを見てアジュディミツオーの仕掛けに気づく、向こう正面に入って僅かにペースを落とし後続をハメようとしている。

 黒坂の推察は正しく、アジュディミツオーはデジタルの習性を利用して後ろをハメようとしている。

 デジタルは観察するためにに相手がペースを上げようが下げようとが関係なく、磁石のようにポジションをキープする。

 ならばペースを作る主導権は自らにあると確信し、安心してペースを落とす。スタートしてからの2のペースは明らかに速く、このままやりあえば最後で力尽きるのは想像に容易かった。

 後続はあの2人についていけば力尽きてしまう。勝手に落ちてくるのという印象を植え付けられた。

 さらに単騎逃げならばペースを操作していると思うかもしれないが、今は2人で逃げている。すると2人はムキになってハナを主張し合っていると思ってしまう。

 その思い込みを利用し悟られない程度に僅かにペースを下げる。得られるアドバンテージは1バ身差程度だが、勝負を決めるには充分なアドバンテージだ。

 これはダートプライドでのティズナウとストリートクライの逃げの展開に似ている。最初はハイペースで、中盤では共謀したかのように徐々にペースを下げて後ろを騙す。

 黒坂もダートプライドの時と状況が似ていると気づく。ダートプライドではサキーが見破って周囲に気づかせたが、今回はそんなお人よしはいない。少しでも早く気づくことが、勝敗を左右する重要なポイントになると考えていた。

 

 アジュディミツオーはデジタルの習性を見破り後ろのウマ娘達を嵌める作戦を立てた。だが作戦はそれだけではなかった。

 アジュディミツオーはデジタルに近づいていく。デジタルはこの位置をキープし続けることが分かった。ならばその習性を利用する。デジタルの数10センチ横、そこは最も速く走れるゴールデンレーンとは逆で、そこで走ると遅くなるレーンであることを察知していた。

 デジタル側に移動すれば接触を避けて横に移動する、その結果遅くなるレーンを走ることになる。だが思惑とは裏腹に全く移動する気配を見せない。

 アジュディミツオーは接触し遅くなるレーンに押し出す方針に転向する。これぐらいの接触で有ればポジション争いの範疇で反則にならないと判断した。

 

 アジュディミツオーの二の腕がデジタルの二の腕に触れて押し出す。だがデジタルの身体はピクリともズレなかった。

 デジタルは小柄なウマ娘だ。大柄なウマ娘と接触すれば弾き飛ばされるだろう。だがそれは大柄なウマ娘がそれ相応の力を込めた場合である。

 デジタルもGIを何度も勝利している強豪ウマ娘で、いくつものレースを走ってきたベテランだ、フィジカルは鍛えられ弾き飛ばされない踏ん張り方などのテクニックは備わっている。少しぐらいの接触では飛ばされない。

 一方アジュディミツオーはデジタルのフィジカルを過小評価していたのもあるが、必要最低限の力で接触した。

 接触は受けた側だけではなく、仕掛けた側も力を消耗する。消耗を避けるために出来る限りリターンを得ようと最小限の力で接触していた。

 アジュディミツオーの力ならデジタルを弾き飛ばし遅くなるレーンを走らせることはできるだろう。だがそれは割に合わず、達成した頃には力を消耗しレースに勝利する力を残していない。

 僅かな接触でリスクとリターンを吟味して判断した結果、作戦を断念しデジタルの横を並んで走る。

 

(ボディタッチごちです!硬さの中に柔らかさもある素晴らしい肉感!アジュディミツオーちゃんのトレーニングの日々が感じられますね~)

 

 デジタルは顔をニヤつかせながら触れた感触を反芻する。

 ウマ娘にはノータッチ、それが日常生活で己に課したルールで、レースの最中でも変わらず、自分からの接触は緊急事態を除き極力避けてきた。だが相手からの接触はルール違反にならない。

 そして体に接触する際はコンマ数秒でも長く感触を味わいたい。吹き飛ばされるより耐えたほうがほんの僅かだが長い時間味わえる。その情念が吹き飛ばされないように体を踏踏ん張らせる。

 デジタルの接触に対する安定感は肉体と技術もあるが、精神面も大きく左右していた。

 

「各ウマ娘3コーナーに入り残り800メートルを切り、徐々に後続がペースを上げ先頭との差を縮めていく」

 

 後続が2人との差を縮めていき、3番手のナイキアディライトとの差が3バ身差まで縮まっていき、レースの流れは一気に激しくなる。

 

「そして、猛烈な勢いで上がっていくウマ娘は……セイシンフブキだ。4番手、3番手と上がっていく!このまま捲る気か!?」

 

 場内実況の声が思わず興奮気味になり、スタンドから歓声があがり悲鳴に変わる

 

 セイシンフブキに抜かされたウマ娘は信じられないという表情を見せる。このペースで船橋の短い直線から仕掛けても間に合わない。ならば直線前で仕掛けるか、徐々にポジションを上げて良いポジションで仕掛けるという考えは分かる。

 だがこのスピードはポジションを上げるというよりスパートを仕掛けている。

 正確な距離は分からないが明らかに早仕掛けだ。そしてこのスピードでコーナーを突っ込むのは致命的なミスだ。

 スタンドの観客やレースを走るウマ娘達はセイシンフブキの脱落を確信した。

 

 セイシンフブキはトップスピードのまま2人に並びにかかる。デジタルは心底嬉しそうな表情を見せてセイシンフブキに付いていくかのようにペースを上げる。

 アジュディミツオーは信じられないという表情を見せながらセイシンフブキに視線を向ける。

 このままロングスパートで押し切ろうとしているのなら無謀だ、船橋の条件戦ならともかく、これはGⅡだ。そのスピードをゴールまで維持できるわけがなく、途中で力尽き差される。それ以前に明らかな作戦ミスだ。

 セイシンフブキを含める3人は第4コーナーに差し掛かっていた。この3人の中で1番コーナーへの侵入速度が速いのはセイシンフブキだ。

 船橋レース場の第4コーナーはスパイラルカーブ、スパイラルカーブとはコーナーの入り口が緩やかな角度で、コーナーの出口がきつい角度のカーブである。

 中山レース場のような普通のカーブとは違いスピードを落とさず曲がれる。だがスピードを上げた分だけ外に膨らんでしまう。

 

「大きく外に膨らみながらセイシンフブキが先頭で直線に入る!やや外に膨らんでアグネスデジタルとアジュディミツオーが並びかける!」

 

 差しや追い込みのウマ娘がスパイラルカーブの特性を生かし、多少外に膨らんでも構わないとコーナーで仕掛けることがあるがそれにも限度がある。セイシンフブキは明らかにオーバースピードでスパイラルコーナーに突っ込み、結果大きく外に膨らんだ。

 これではかなりの距離を走ることになり、スピードを維持できるという利点を打ち消している。

 レース場に居る多くの者が作戦ミスだと考える。だが一部の者は作戦ミスではないと気づく。

 

 最初に気づいたのはヒガシノコウテイだった。

 ダートプライドではストリートクライの技によって最終コーナーで膨らまされ、無駄な距離を走らされたという経験があった。

 レース中は不利を被ったという認識だったが、実は走ったルートはゴールデンレーンで結果的に速く走れた。それがセイシンフブキの見解だった。

 セイシンフブキはダートプライドでの自分の状況を意図的に再現しようとしている。

 外に膨らんだのは直線の外ラチが側にゴールデンレーンが有るから。そうだと考えれば直線に入ってから外に出すより、コーナーでの遠心力を生かして外に膨らんだほうが、スピードを維持しながらゴールデンレーンに乗れて効率が良い。

 

 アブクマポーロも同じ結論に辿り着く。だが思考の過程は違い、セイシンフブキが逃げ先行から追い込みに脚質に帰る際のトレーニングで、船橋では過度なスピードで4コーナーを捲れば外に膨らんで無駄に走らされる。捲るなら長い距離から徐々にスピードを上げなければならないと教え込んでいた。

 セイシンフブキはアブクマポーロの教えを忠実に守る。もし破るとしたら破った方がリターンのある場合だ。だとしたら外側にゴールデンレーンがある場合と推察していた。

 

(やるじゃねえかミツオー!いつの間にそんな小賢しい作戦をやるようになった!)

 

 セイシンフブキはアジュディミツオーのデジタルを利用した作戦に気づいていた。気づけた要因は2つある。

 

 1つはダートプライドでの経験、同じような戦法を実際に体験し、その経験が生きた。

 2つ目は今日のセイシンフブキは勝負に徹していた。

 

 ダートプライド以降はダートを探求するために走っていた。勝負に執着せず勝敗よりいかにダートを走るかに重きを置き、未知の技術や気づきを得る為なら高確率で失敗し負ける案でも実践していた。

 今日のセイシンフブキはダートの探求は一切せずに勝敗に拘るつもりだった。今までならスローペースに気づかなかっただろう。だが今日は勝負に徹していたことで気づけた。

 しかしアジュディミツオーの作戦は巧妙で気づくのが僅かに遅れてしまった。普通にペースを上げて仕掛けたとしても間に合わない。ならば普通じゃない走りをする。

 セイシンフブキはアジュディミツオーに勝つために思考を巡らし、作戦を思いつく。それが4コーナーをトップスピードで侵入し、遠心力を利用してゴールデンレーンに乗って押し切る作戦だった。

 

 入場でコースに入った瞬間にゴールデンレーンを把握していた。第1コーナーから第2コーナー、向こう正面の直線、第3コーナーから第4コーナーのゴールデンレーンは乗れる。

 だが最終直線のレーンはほぼ外ラチと言っていいほど外にあった。流石にそこまで回せばゴールデンレーンに乗るメリットより、外を回して距離ロスする。

 さらにウマ娘は横に走るスピードは前を走るスピードより遅い。直線でゴールデンレーンに乗るために外に出せば大きなタイムロスになる。明らかにデメリットが勝っていた。

 しかしこの作戦なら遠心力で自然に膨らみ、直線で外に出してレーンに乗るよりタイムロスは無くなる。勝つにはこの方法しかなかった。

 

 4コーナーをトップスピードで侵入し、遠心力を利用して外に膨らみゴールデンレーンに乗る。

 もし今日のレースが船橋レース場でなければ実行しなかった。何万回と走った経験がどれぐらいのスピードでコーナーに入れば、どれぐらい外に膨むかを自然に導き出していた。

 セイシンフブキはゴールデンレーンに乗った瞬間に一瞬だけ減速する。

 スピードを維持したまま大きく外に膨らみ、その分だけ長い距離を走ることになる。このまま勢いそのままに走れば途中で力尽きるのは分かっていた。

 途中で力尽きず1着でゴールするにはどこかで息を入れなければならない。

 息を入れすぎれば減速した分だけアジュディミツオーかデジタルに抜き返され追いつけない、逆に入れ具合が足りなければ途中で力つきる。非常にシビアな力加減が要求される。

 自身のセンスを信じ、息を入れて再び加速した。

 

(キタキタキタキター!!!これを待ってたんだよ!今日のレースを走って本当に良かった!)

 

 デジタルはパドックやゲート入り前の雰囲気でもしかすると以前のように走ってくれると期待していた。だが過度な期待をせずにアジュディミツオーを感じることに集中し、レースを運んできた。

 だが猛然と4コーナーに突っ込むセイシンフブキの横顔を見て確信する。今のセイシンフブキは愛するダートの為に全ての敵をなぎ倒そうとしたダートの鬼だ。

 

 感じたい!少しでも長く濃密に!

 

 デジタルの心臓の鼓動が一気に跳ね上がり血液が沸騰するような熱さを感じる。セイシンフブキを追うように一気にスパートをかける。意識は完全にアジュディミツオーからセイシンフブキに向けられていた。

 

 アジュディミツオーは歯を食いしばり全ての力を振り絞りスパートをかける。

 セイシンフブキの暴走ともいえる4コーナーへの突入、船橋での走りのセオリーをすべて無視するような常識外れの走り。だがあれはダートプロフェッショナルにしか出来ない走りだ。

 アジュディミツオーもセイシンフブキが走っているコースがゴールデンレーンだとは分かっていた。距離ロスを考えて次点のゴールデンレーンに乗ったが、まさかあんな方法でゴールデンレーンに乗るなんて。

 アジュディミツオーは確信する。あれは全力で勝ちにいっている走りだ。あれこそ憧れいずれ超えると目標にし続けたセイシンフブキの姿だ。

 

 このレースでアブクマポーロやセイシンフブキが持っているダートプロフェッショナルとしての技術、ヒガシノコウテイが持っている地方の為に走るという想いを力に変える地方総大将としての力、その両方を兼ね備えた理想の走りをしたい、出来なければセイシンフブキに勝てないと思っていた。

 しかし無意識に地方総大将としての力を手に入れてないという不安を抱いていた。だが不安は一瞬で消し飛んでいた。

 憧れたセイシンフブキに挑める千載一遇のチャンスだ。ここで自分の全てをぶつける。でなければ一生後悔する。

 アジュディミツオーは靴底から伝わる砂の感触に神経を集中する。

 現時点で最もダートを速く走るための走法、それがダートの正しい走り方だ。砂厚、風量風速、気温湿度を全て加味して答えを導き出す。

 慢心、重圧、不信感、焦燥、様々な要素がアジュディミツオーの走りを鈍らせていた。だが今はセイシンフブキに勝つために全てを注ぎ込む。

 その走りの完成度はジャパンダートダービーや黒潮盃の時とは比べ物にならないほどに向上し、現役屈指のものになっていた。

 

「僅かにセイシンフブキが先頭か?だがアグネスデジタルとアジュディミツオーが差し返す!」

 

 デジタルはセイシンフブキの異変に気付く。先程までは自分が待ち焦がれたセイシンフブキを思う存分感じていた。だが外に走るセイシンフブキは突如別人のように変わっている。一体何が起こった?

 

(勝つ!このレースに勝つ!恩返しはさせねえ!まだミツオーの壁であり続ける!)

 

 セイシンフブキは懸命に脚を動かし走り続ける。無理な走りでいつも以上に体中が悲鳴あげていた。しかし勝利のために感覚を研ぎ澄まし、ダートの正しい走り方を実践する。

 ダートプライド以降は勝つためではなくダートを探求することを優先した。だがその行いは決して無駄ではなかった。

 トライアンドエラーを繰り返し得た技術はよりダートの高みに登らせる。勝負に徹した走りはダートプライドの時と比べて完成度が増していた。

 

 今は最高にキレた走りが出来ている。これなら勝てる!そう思った一瞬、セイシンフブキの頭の中である考えが過る。

 次に踏み出す右足、どれぐらいの力で踏み込み蹴り上げれば最もダートを速く走れるかの答えは出ている。だがもっと速く走れる方法が有るかもしれない。

 脳内で葛藤する。アジュディミツオーの為に勝負に徹し勝たなければならない、だがどうなるか確かめたい。もしかすれば革新的な技術になるかもしれない。

 アジュディミツオーの為か、自分の為か、ダートに右足が触れるコンマ数秒の時間で幾度もの葛藤が繰り広げられる。

 

(あ~、師匠失格だな)

 

 セイシンフブキは現時点で最も速く走れる方法ではなく、さらに速く走れる方法を選んだ。

 結果は失敗に終わり減速する。師匠としての責任よりダートプロフェッショナルとしての探求、自分の欲望を選んだ。

 そこからは堰を切ったようにアイディアが思い浮かび実践するが、失敗を続け減速する。

 脳内ではアジュディミツオーへの申し訳なさは完全に消えていて、新しいアイディアへのワクワク感が満ちていた。その表情は新しいおもちゃを夢中で遊ぶ幼子のようだった。

 

(少しだけど昔に戻ってくれてありがとう)

 

 デジタルは感謝の念を抱く。何かしらの理由でいつものセイシンフブキに戻った。

 だがほんの僅かだが昔のセイシンフブキを感じられた。それだけで充分だ。そして楽しそうにダートを走るセイシンフブキも同じぐらい素敵だ。名残惜しみながらも意識をセイシンフブキからアジュディミツオーに向け変化に気づく。

 

(師匠……)

 

 アジュディミツオーは視界の端でセイシンフブキの失速を捉える。あれは新しいダートの技術を思いついて試して失敗したことによる失速だ。これでセイシンフブキは1着争いから脱落した。

 胸の中で悲しみが侵食する。自分の為に、師匠としての責務を果たすためにダートの探求ではなく、勝負に徹する走りをしてくれたと思った。だがセイシンフブキはダートを優先した。

 もう全盛期のセイシンフブキとは走れない。急速に熱が冷めていく。

 力を緩めようとした瞬間何気なく客席を見る。するとボランティアスタッフ達が目に映る。レース中でも業務はある。それなのにサボってレースを見ている。しかも皆必死な顔で声援を送っている。

 

──地方総大将としての条件ですか?

 

 脳内で過去の映像が思い浮かぶ。これは盛岡に行ってセイシンフブキに助言をもらった時だ。ヒガシノコウテイは顎に手を添えて思考し言葉を発する。

 

「ホームで他所の者に絶対に負けないことです」

「ホームで絶対に負けないこと?」

 

 アジュディミツオーは答えの意味が分からずオウム返しをする。

 

「ホーム、私だったら盛岡で、アジュディミツオーさんなら船橋のレースで絶対に負けてはいけません」

「それがどう関係あるんですか?」

「地方のファンの帰属意識は中央のファンより高いです」

「帰属意識?」

「地方への愛着と考えてください。地方のファンは地元のウマ娘達に強い愛着を持ってくれます。例としてフェブラリーステークスでメイセイオペラさんは地方所属で初めて勝利しました。スタンドでは中央のウマ娘を見たファンからもメイセイオペラさんを讃える声援が送られました。だが地方では起きない現象です」

 

 ヒガシノコウテイは当時の記憶を振り返る。スタンドでレースを見ていたファンがメイセイオペラを讃えた。それは実に誇らしかったが、今考えれば地方と中央の意識の差が見えた瞬間でもあった。

 中央のファンはレースというスポーツを見に来ている。地方のファンは地元のウマ娘が勝つ姿を見に来ている。中央はファンで地方は野球やサッカーのサポーターと考えられる。 

 中央のファンも贔屓にしている選手が居て応援している。だが素晴らしいレースが見られれば、悔しさ悲しさを堪え拍手や賛辞の声を送る。だが地方のファンはそんなことはしない。それは自らよく分かっている。

 トウケイニセイがライブリラブリイに負けた南部杯、今レースを見ればお互いが全力を尽くした素晴らしいレースだった。

 だが当時は自分を含め誰もそんな気持ちは抱かない。悔しさは悲しみを押し殺した静寂が答えだ。

 

「恐らく中央のファンにとって、当時のメイセイオペラの勝利によってフェブラリーステークスを奪われたという感覚はないです。そして交流重賞の全ては地方重賞が元です。長い年月開催され、地方のウマ娘達が鎬を削ってきた歴史でもあり象徴でもあります。分かります?それを中央に奪われることがどれだけ情けなくて……申し訳なくて……」

 

 ヒガシノコウテイの語り口は熱を帯び始め手のひらを握り悔しげに語る。アグネスデジタルに負けた南部杯、あの時のファン達の落胆の表情と声は金輪際忘れることはないだろう。

 

「ですが、これは私の考えで、地方のファンにも中央のウマ娘が勝っても歓声を送る者がいるかもしれません。それを否定できませんし、素晴らしい事です」

 

 ヒガシノコウテイは感情を押し殺すように笑顔見せる。

 

「それで話の続きですが、地方ファンでも様々で地方を一括りにしている者も居れば、南関のファンで、それ以外は外敵であると見なしているファンもいますし、大井だけのファンで、川崎も船橋も浦和も外敵と見なしているファンも居るかもしれません。なので地元のウマ娘が地元のレースに勝つのが1番喜ばせられると思います」

 

 ヒガシノコウテイは手元に有る紅茶に手をつけ喉を潤す。

 アジュディミツオーはヒガシノコウテイに対する印象は優し気で良い人だが感情をあまり見せないだった。

 だが今初めて本心をさらけ出したような気がして、その言葉は心を揺さぶられた。

 

「アジュディミツオーさん、1つお願いがあります」

「何ですか?」

「私は地方総大将と持て囃されました。それは非常に光栄なことですが、実のところは地方の誇りを守れなかったウマ娘です。これから地方のダートレースに出走するでしょう、時に中央の力や地元の意地に屈する事があるでしょう。全てのレースを勝てるウマ娘は僅かです。船橋のファンも責めないでしょう。ですが船橋のレースは絶対に勝ってください」

 

 話を聞いた当初はヒガシノコウテイの言葉の意味を理解していなかった。

 しかしヒガシノコウテイに助言でボランティアスタッフとして働き、ファンと触れ合い、今必死に声援を送るボランティアスタッフの顔を見て全て心で理解した。

 

 地方は誇りであり支えで有り愛すべきものである。その象徴である交流重賞で地元のウマ娘が負ければ嘆き悲しみ気力を失う。

 地方の為にという想いを力に変える地方総大将としての力、それを得ようとするならば絶対に地元のレースで負けてはならない!

 消えかけていた熱が一気に戻る。それと同時に力が湧き上がるような感覚が体中を駆け巡っていた。

 

(なにこれ!?アジュディミツオーちゃんなの!?)

 

 デジタルはアジュディミツオーの姿が一瞬ヒガシノコウテイに見えていた。直線に入る前のアジュディミツオーも良かった。今はさらに良い!

 デジタルは全ての意識をアジュディミツオーに向けさらに加速する。この極上のウマ娘を感じたい!その感情で体中が満たされ、既にセイシンフブキへの想いは消えていた。

 

「残り200!アグネスデジタルとアジュディミツオーの叩き合いだ!」

 

 デジタルはアジュディミツオーの数センチ手前まで体を寄せる。道中で感じた粘着質な重圧が近づく度に増していった。今では比較にならない程強い。

 セイシンフブキもダートプライドで粘着質な重圧を感じたと同時にこう語っていた。対象のウマ娘を感じる為に近づくために、信じられない力を発揮するウマ娘であると。

 

 これが世界を制覇した力か、それがどうした!

 

 船橋のウマ娘として地元で中央には死んでも負けられない!

 そしてセイシンフブキは認めたがやはりオールラウンダーは気に入らない!ダートには勝つのはダートプロフェッショナルだ!そして師匠の仇は弟子が取る!

 ダートプロフェッショナルとしてのプライド、船橋のウマ娘としての意地、それを正しいダートの走り方に上乗せする。今のアジュディミツオーは最も速かった。

 

 デジタルは宝塚記念である教訓を得る。出走するウマ娘の熱い情念は最初からはっきり分かるウマ娘も居れば、ギリギリまで内に潜め判別できないウマ娘も居る。出来る限り神経を張り巡らし、潜めていた情念を即座にキャッチできるように備えるべきだと。

 アジュディミツオーを感じることに神経を向けながらも、無意識で別のウマ娘達にも意識を張り巡らせていた。

 後ろから何かが来る。勝利への意志やプライドが混じり合った極上の情念を抱いたウマ娘が迫っている。

 デジタルは確かに感じ取り、そのウマ娘はアジュディミツオーの内からやってきた。

 

「ナイキアディライトが内から迫ってくる!ホープと勇者にエースが襲い掛かる!」

 

 ナイキディアライト鬼の形相でゴールに向かって駆けていく。このレースは絶対に勝たなければならない一戦だった。

 

 船橋レース場には時代を象徴するようなウマ娘が現れる。話題は常にそのウマ娘でまるで物語の主役だ。

 近年でいえばアブクマポーロとセイシンフブキで2人はその強さで中央に対抗し打ち破ってきた。まさに主役に相応しい活躍だった。

 現在の主役は誰か?ナイキアディライトはこう答えるだろう。セイシンフブキ、またはアジュディミツオーが主役になることを望んでいると。

 

 アブクマポーロとセイシンフブキは地方でも歴代最強に並べる強さを誇り、その強さを支える要素はダートプロフェッショナルとしての技術だった。

 2人が共通する点として決してフィジカルに恵まれていたわけではないところだった。フィジカルの数値としては今まで走った中央のウマ娘の方が高い。それでも勝てたのは技術の差だった。

 最も速くダートを走るために編み出されたダートの正しい走り方、最も速く走れるゴールデンレーンを瞬時に見分ける観察力、それは今までのダートウマ娘が持っていなかった思考と技術だった。それは船橋のウマ娘に希望を与えた。

 地方に所属する者は基本的にフィジカルが中央の者に劣っている。

 だがフィジカルで劣っていても技術で覆せることを知り、多くのウマ娘達が希望を抱いた。ナイキディアライトもその1人だった。

 ダートプロフェッショナルとしての技術を継承した者が次の主役になれる。いつしか船橋のファンにもウマ娘の中でそんな空気が漂っていた。

 

 幸運なことに怪我から復帰したセイシンフブキは技術や心構えを分け隔てなく伝えた。

 秘匿するのではなく多くの者に伝えれば、誰かが技術を発展させるという考えだった。

 船橋のウマ娘は次々とセイシンフブキの元に訪れ教えを乞う。

 自分こそが後継者であり船橋の主役だ。ダートプライドでの走りもあってセイシンフブキへの憧れを持つウマ娘は増え、主役になりたいという願望は膨れ上がっていた。

 そして自分は主役ではないと思い知らされる。セイシンフブキが教える技術や考え方はあまりにも難解だった。

 

 ダートの正しい走り方を身に着けるには必要なものが有る。

 

 砂や天候などの様々なものを感じられる感覚と知識。踏み込みの力を数センチ単位で変えられる精密な身体操作能力。

 

 これらの能力を備えるのは相当難しい。だが多くのウマ娘達には習得に必要な資質が決定的に欠けていた。それはダートに対する情熱である。

 ダートを好み愛する気持ちと探求心、常日頃ダートについて考え、ダートに何もかも差し出して身を捧げるような覚悟。それさえ有れば鋭敏な感覚も精密な身体操作能力も自然に身に着けられる。

 セイシンフブキは直接口に出していないが、言葉の節々にそういったニュアンスの言葉を発していた。そしてその資質を持つのはアジュディミツオーだった。

 

 ある日ナイキアディライトは深夜にふと目が覚め散歩がてらコースに向かった。すると暗闇の中ダートを走るアジュディミツオーが居た。こんな時間に練習かと尋ねるとこう答えた。

 

───夢でダートを走っていたら試したい事を思いついた。いても経っても居られなくなってコースに出て試している。

 

 ナイキアディライトはその言葉に衝撃を覚えた。まず夢でダートを走ったことが一度もない。

 そして試したい事を思いつくほど精密に鮮明にダートの感触やコースを思い出せていること、何よりダートを走るアジュディミツオーの楽しそうな表情が脳裏に焼き付く。この瞬間主役になれないと認識させられた。 

 ナイキアディライトは悟る。自分はここまでダートに夢中になれない。狂気とも呼べるダートへの情熱と執着、それが船橋の主役なれる条件だ。

 

 それ以降セイシンフブキに教えを乞うのをやめた。だが船橋の主役になるのを決して諦めたわけではなかった。主役になる道を模索し続け、試行錯誤の末についに見つける。

 

 ゼロコンマ数秒でも速く走るためのスピードと加速力を生み出す肉体、肉体の技術をロスなく伝えるランニングフォームやコーナーの曲がり方、どんな状況でも力を出せる心構えとペース判断力。

 

 それは実にありきたりな答えだった。誰もが思いつく当たり前の答え、だがその当たり前を見失っていた。いや目を背けていた。

 ジャパンダートダービーとJBCスプリントで中央に打ちのめされ、強くなる可能性を求めてダートプロフェッショナルの技術に飛びつく。それが強くなるための奥義のように思えていた。

 確かに奥義は存在する。だがそれを手に入れられるのはほんの僅かのウマ娘だけだ、多くのウマ娘は強くなる為には地に足を着けて当たり前のことを地道にやるしかない。

 ナイキアディライトはそれ以降心技体を地道に鍛える。だが他のウマ娘達はそうではなかった。

 

 ダートプロフェッショナルとしての力を手に入れようと、アジュディミツオーのように素足でダートを走り、ダートプロフェッショナルとしての技術を体得しようと没頭し、地道な鍛錬を怠り始める。

 船橋のウマ娘達は基本的に中央と比べて能力が足りず、それを嫌と言うほど分からされた。

 故にダートプロフェッショナルの力を求める。この技術はフィジカルを要しない、自分達も身に着けられる。そうなれば強くなれると信じ続けていた。

 

 ダートプロフェッショナルの技術は一見身に着けられそうと思ってしまうが、特定の者にしか身に着けられない特殊な技術だ。それでもアブクマポーロやセイシンフブキのように強くなりたいと一縷の望みを抱いて縋りつく。それがいかに非効率とも知れずに。

 もし周りのウマ娘達がダートプロフェッショナルの技術ではなく、地道な鍛錬に時間を費やせば確実に強くなれていた。

 周りのウマ娘達には同情する。アブクマポーロとセイシンフブキの強さに憧れる気持ちは痛いほど分かり、一歩間違えれば同じように時間を無駄にしていただろう。

 

 ダートプロフェッショナルの技術は毒だ、そしてその毒は徐々に蔓延し船橋を蝕んでいく。技術を手に入れようと時間を費やし、地道な鍛錬をしなくなった結果、平均的には弱くなるだろう。

 ナイキアディライトには夢がある。それは船橋が中央を打ち負かすことだ。だがそれは突出した個が中央に勝つことではない。

 平均の力が上がり優れた環境であると分かれば才能が有る者も中央ではなく、船橋に入るかもしれない。

 それを繰り返して行けば船橋は中央と対等になると信じていた。

 

 ナイキアディライトは船橋でもトップクラスのウマ娘だが主役ではない。船橋のファン達はアジュディミツオーが主役になることを望んでいる。

 アブクマポーロとセイシンフブキの薫陶を受けた正統後継者アジュディミツオー、今日のレースに望む物はセイシンフブキからアジュディミツオーへのバトンタッチ、もしくはセイシンフブキの復活劇だ。その証拠にセイシンフブキが1番人気、アジュディミツオーが2番人気だ。

 ここでアジュディミツオーが勝利すれば主役になる。そして主役として中央を倒していけば、憧れはますます強くなり、ダートプロフェッショナルの技術に傾倒していくだろう。

 

 そうはさせない。ここでアジュディミツオーに勝てば自分が歩んだ過程が注目され、他のウマ娘達もダートプロフェッショナルの技術ではなく、地道な鍛錬に時間を費やすようになる。

 

 船橋の未来は守る。主役は私だ!

 

 ナイキアディライトは勝つために全てを注ぐ。アジュディミツオーの策にもレースを走る誰よりも早く見破り、直線で捉えられる位置までポジションを上げていた。

 セイシンフブキの常識外の捲りにも心を乱さず最速でコーナーを曲がり、脚を余すことなく、脚が切れるでもないベストのポジションで仕掛ける。まさに完璧なレース運びだった。

 それは身を背けることなく地道な鍛錬で養った心技体がなせる走りだった。

 

 

『アジュディミツオーとナイキアディライトが抜け出した!アグネスデジタルは徐々に置いてかれていく』

 

 デジタルとアジュディミツオーの差がハナ、クビ、半バ身と徐々に広がり。今や1バ身差までつき、ナイキアディライトにも追い越される。

 もっと!もっとアジュディミツオーとナイキアディライトを感じたい!ウマ娘を感じたいという情熱は過去のどのレースに負けないぐらい盛り上がっていた。だがその情熱に体が付いていかない。

 ならばと己が封じていた禁じ手であるトリップ走法を解禁しよう。しかし将来の人生設計が過る。

 あと9年間は現役で走りウマ娘を思う存分感じる。その為に全力を尽くすつもりだ。

 だがトリップ走法は全力以上を出してしまう。それは確実に選手寿命を縮める。

 デジタルはトリップ走法を断念し、出来る限りの全力でアジュディミツオーを追う。

 

「エースか?ホープか?エースか?ホープか?」

 

 残り100メートルで両者は並ぶ。

 

 アブクマポーロからセイシンフブキ、そしてアジュディミツオーに継承されてきたダートプロフェッショナルとしての技術と思考という船橋の主役の力を引き継いだ走り、それはまさに船橋の主役の姿だった。

 ダートプロフェッショナルとしての技術と思考を持った船橋の主役を否定し、地道に肉体と技術と心を鍛え続けたナイキアディライト、それは新しい船橋の主役だった。

 

 デジタルは前を走る2人の姿を見逃さまいと目を見開き脳に焼き付ける。

 其々が証明したい、成し遂げたい、譲りたくないという想いをぶつけ合い混じり合う。それがレースだ。特にゴール前は想いが強くなる。今度はもっと近くで2人を感じてやる。

 そう決意しながら懸命に走る2人にどっちも頑張れと心の中でエールを送り続けた。

 

『ナイキアディライトが抜けた!ナイキアディライトが1着!勝ったのは船橋のナイキアディライト!エースとホープの叩き合いはエースに軍配が上がりました!船橋のワンツーフィニッシュです!』

 

 ナイキアディライトがラスト50メートルでアジュディミツオーを差し切る。3着は3バ身差離されてアグネスデジタル、4着は3バ身差離されてセイシンフブキ。

 

「シャァァァァァ!!!」

 

 ナイキアディライトは雄叫びをあげながらスタンドに向かって人差し指を差す。

 

 どうだ!セイシンフブキとアジュディミツオーを破ったぞ、船橋の主役は私だ!これが船橋の未来だ!

 すると視界の端に何かが映る。右を向いて確認するとアジュディミツオーが手を差し出していた。

 

「おめでとうございます……そしてありがとうございます」

 

 ナイキアディライトは感極まり思わずうれし涙が溢れる。

 今日のアジュディミツオーは本当に強かった。これがダートプロフェッショナルの力、結局は諦めたが一時は憧れ手に入れようとした力はやはり強かった。

 そしてその力に自分は勝った。目に付いた砂を拭うような自然な動作で涙を拭いタッチを交わす。その光景にスタンドから歓声が沸いた。

 アジュディミツオーはスタンドに向かって喜びを爆発させるナイキアディライトを横目に見ながら控室に戻る。そして後ろにセイシンフブキも居た。2人は特に言葉を交わすことなく歩いていく

 

「お二人ともお疲れ様でした」

「お疲れ様」

 

 するとスタンドの上で観戦していたアブクマポーロとヒガシノコウテイが現れ、タオルと飲み物を差し出す。

 アジュディミツオーとセイシンフブキは2人が現れたことに驚きながらも礼を言い、タオルと飲み物を受け取る。

 

「師匠、最後遊んだでしょう?」

「バレてたか」

「当たり前でしょう!何年一緒に居てずっと見てきたと思ってんですか!何で勝負に徹してくれなかったんですか!」

 

 アジュディミツオーはセイシンフブキの胸倉を掴み恫喝する。ヒガシノコウテイとアブクマポーロは止めに入ろうとするが、アジュディミツオーの怒気の前に脚が止まってしまう。

 セイシンフブキはアジュディミツオーの怒気を真っ正面から受けながらも平然とした態度で口を開く。

 

「念のために言っておくがアタシは今日のレースは勝負に徹した。でなきゃお前の仕掛けに気づかなかったし、あんな走りもしない」

「分かってますよ!師匠が走ったところがゴールデンレーンだった。勝つ気が無い人があんな方法でゴールデンレーンには乗らない」

「そこまでは分かってんのか、成長したな」

「だったら最後まで勝負に徹してくださいよ!負けたら引退するからって手を抜いたんですか!?」

「見損なうな。アタシは全力で走った。けれど試したい事が思いついて、ミツオーとダートの探求を天秤にかけて、そっちを選んだそれだけだ」

 

 セイシンフブキは全く悪びれることなく胸を張る。その姿にヒガシノコウテイは状況が飲み込めずアブクマポーロに視線を向け、アブクマポーロは信じられないと思わず口を開ける。

 アジュディミツオーが勝負に徹することを懇願したのに、自分の欲を優先して土壇場で裏切った。もし同じ立場だったらここまでダートを優先するだろうか。

 

「あ~~!バカ!バカ!バカ!師匠のダートバカ!」

 

 アジュディミツオーはセイシンフブキを罵倒する。だがその声色と表情に怒りはなく、笑みが浮かんでいた。 

 勝負に徹しなくなり腑抜けたと距離を置いていたが、ここまで突き抜ければ脱帽だ。

 弟子の事を気にせず自分の欲求に従うエゴイストのダートバカ、だからこそ師と仰ぎ尊敬してきた。

 もし勝負に徹していれば欲求は満たされたかもしれないが、尊敬の念は薄まっていただろう。

 

「そうだよ。どこに出ても恥じないダートバカだ」

 

 セイシンフブキはアジュディミツオーの頭をポンポンと叩く。2人の間に有ったわだかまりは完全に消えていた。

 

「アジュディミツオーさん、今日のレースに向けての活動、そしてレースを通して何か感じましたか?」

 

 ヒガシノコウテイはタイミングを見計らいアジュディミツオーに問いかける。

 

「ボラスタの人達がスタンドでレースを見ている姿を見て、ヒガシノコウテイさんが話した地元では絶対に負けてはならないって話を思い出して……」

 

 アジュディミツオーはレース中の心境を思い出しながらゆっくり語る。レース中に今までに感じことが無い感情と力が溢れた気がする。これが地方総大将の力なのか?

 

「あとナイキアディライトさんに手を差し伸ばしていましたが、何故ですか?負けたことに対する悔しさはないのですか?」

 

 ヒガシノコウテイは厳しめな口調で問いかける。その変化に驚きながらも心中を正直に話す。

 

「負けたと分かった瞬間悔しかったです。でもスタンドの客を見たら不思議と収まりました。そして気が付いたらおめでとうございます。そしてありがとうございますって言ってました。ヒガシノコウテイさん、アタシは地方総大将としての力を手に入れたんでしょうか?確か今までにない感情と力が湧いた気がします。でも勘違いかも」

「いえ、アジュディミツオーさんは地方総大将としての力を手に入れました」

 

 ヒガシノコウテイは満足気な表情を浮かべながら断言する。

 地方総大将とは地方を愛し想いを背負い地方の勝利を目指す。そして地方にとっての勝利とはアジュディミツオーが勝つのではなく、船橋のウマ娘が勝つことである。

 アジュディミツオーはナイキアディライトに祝福と感謝の言葉を送った。それは自分の代わりに1着になってくれたことへの感謝である。

 ヒガシノコウテイが同じ立場だったらば、同じように喜んでいた。レースに負ければ身が裂かれるほど悔しい。だが地元のファンが地元のウマ娘の勝利に喜んでくれればそれ以上に嬉しい。

 競技者としては失格かもしれないが、だがそのようなメンタリティーでなければ地方の為に力を発揮する地方総大将の力は手に入らない。

 レース直後は意識が曖昧でまともな思考はできない。その状態で礼を言ったならば、無意識で有り芯から地方愛が根付いている証拠だ。

 

「今日の気持ちを大事にしてください。そうすればもっと大きな力が湧いてくるはずです」

「はい、これもヒガシノコウテイさんの助言があってのことです。ありがとうございました」

 

 アジュディミツオーは深々と頭を下げる。地方総大将としての力を手に入れられたのはヒガシノコウテイの助言があってこそだ。

 これでダートプロフェッショナルの力と地方総大将としての力を兼ね備えた自分の理想が見えてきた。

 

「大師匠、ヒガシノコウテイさん、今日のアタシの走りはどうでした?ダートプロフェッショナルとして正しいダートの走り方は出来てました?」

「細かいところは何とも言えないが出来ていたと思うよ」

「私も同意見です。それがどうしました?」

 

 ヒガシノコウテイは心配そうに尋ねる。今日はアジュディミツオーが求めた地方総代表の力を手に入れた。だがその表情は浮かなかった。

 

「アタシも今日はかなり上手く走れたと思います。そしてヒガシノコウテイさんの言う通り地方総代表の力も発揮できたとしたら勝てるはず、でも勝てなかった」

 

 アジュディミツオーは自分の手を握りながら呟く。ダートプロフェッショナルの力と地方総大将の力を併せ持つ、それが理想のウマ娘であり、完全とは思えないが実現はできた。

 それでも勝てなかった。もしかするとこの理想は中央や世界に勝てないのか?

 

「それだったら本人に聞けよ。お~い、ナイキアディライトちょっといいか?ミツオーが聞きたいことがあるって」

 

 セイシンフブキはインタビューが終わり近くを通りかかったナイキアディライトに声をかける。

 ナイキアディライトは思わず目を見開く。憧れのセイシンフブキに声をかけられたのは勿論、アブクマポーロやヒガシノコウテイも一緒に居る。それは夢の競演だった。高揚感と僅かに緊張感を感じながら近づいていく。

 

「ナイキアディライトさん、アタシは今まででベストなレースが出来ました。それでも勝てなかった。貴女はなんでそんな強いんですか?」

 

 アジュディミツオーはストレートに疑問をぶつける。その言葉にナイキアディライトは何一つ隠すことなく答えた。

 

「私はアジュディミツオーやセイシンフブキさんやアブクマポーロみたいなダートプロフェッショナルにはなれなかった。だから当たり前のことをやり続けた。当たり前にフィジカルを鍛え、当たり前にテクニックを鍛え、当たり前にメンタルを鍛えた」

 

 その言葉にアジュディミツオーは肩透かしを喰らう。もっと特別なことをやっているのかと思っていた。一方ナイキディアライトはアブクマポーロとセイシンフブキを見ながら言葉を紡ぐ。

 

「貴女達が磨き上げた技術は素晴らしく、心から尊敬しています。間違いなく船橋の主役で時代を作りました。ですがこれからの時代を作るのは貴女達ダートプロフェッショナルじゃない、当たり前のことを当たり前にやるウマ娘です。船橋の主役は私だ」

 

 ナイキアディライトは対抗心を漲らせながら宣言する。超えるのはアジュディミツオーだけはない、ダートプロフェッショナルという存在そのものだ。船橋をより良い方向に導くために勝ち続ける。

 ナイキアディライトは皆に頭を下げ立ち去る。その姿は主役としての風格を漂わせていた。

 

「アジュディミツオーさんもこれから大変ですね」

「だな、当たり前に心技体を鍛える。それにアタシ達は負けたからな」

 

 ヒガシノコウテイとセイシンフブキは感慨深げにつぶやく。

 ダートプライドで負けたウマ娘はダートプロフェッショナルでもなければ地方総大将の力もなかった。

 だが彼女達には鍛え抜かれた心技体があった。そしてナイキアディライトも同様だった。

 

「そうですね。これでまた新しい理想ができました」

「なんだ?」

「今日のレースでダートプロフェッショナルの技術に地方総大将としての力が上乗せされました。それに今後はナイキアディライトさんの言う当たり前のことを当たり前にやります」

 

 アジュディミツオーは今日のレースで勝ったナイキアディライトに感銘を受けていた。

 自分の理想に勝ったその走り、それは普遍的な努力で培われたものだ。ナイキアディライトはヒガシノコウテイと同じようにアジュディミツオーにとっての理想となっていた。

 最近はダートプロフェッショナルの技術の研鑽と地方総大将の力を手に入れることに傾き、ナイキアディライトの言う当たり前のことを当たり前にやっていなかった。

 自分には船橋でトップのトレーナーの山島が居る。明日から一から鍛えなおそう。

 

「フフフ、随分と欲張りですね」

「だがそれぐらい強欲じゃないと成長は見込めない」

「けれどダートを疎かにするなよ。時々抜き打ちチェックするからな」

 

 3人は決意を新たにするアジュディミツオーに温かい視線を送る。

 

 アブクマポーロは貪欲に良いものを吸収しようとする姿勢に頼もしさを、セイシンフブキは自分とは違う方法でダートを極めようとする姿に可能性を、ヒガシノコウテイはアジュディミツオーとナイキアディライトに地方の明るい未来を見ていた。

 

「アグネスデジタルさん、お疲れ様です」

 

 ヒガシノコウテイは後ろを向きデジタルの元に駆け寄る。

 誰かに見られている気配がすると何気なく後ろを振り向く、その方向には黒坂を遮蔽物にしてアジュディミツオー達の様子を見るデジタルの姿があった。デジタルはバツが悪そうにしながら黒坂の影から姿を現す。

 

「お疲れコウテイちゃん」

「今日は惜しかったですね」

「まあね、それでコウテイちゃんは何で船橋に?」

「視察と個人的な応援ですね。アジュディミツオーさんとは交流がありまして」

「え?コウテイちゃんとアジュディミツオーちゃんと友達なの?どんな関係?」

 

 デジタルは思わぬ情報にバツの悪さをすっかり忘れ興味津々で問い詰める。

 

「誰か知り合いでもって…アグネスデジタルか、そういえばレースに出走してたな」

 

 セイシンフブキはデジタルに話しかける。昨日のサイン会では散々笑ったが、レースではアジュディミツオーとダートの探求の事で頭が一杯で、今の今まで存在を忘れていた。

 

「お疲れフブキちゃん、ごちそうさまでした。少しだけでも昔のフブキちゃんを感じられてよかったよ。今のフブキちゃんも素敵だけど」

「それはよかったな。あれはもう2度とない激レアバージョンだ、しっかり刻んでおけ」

 

 セイシンフブキの言葉にデジタルは力強く頷き、その様子を見ながら感心する。

 レース中の心境の変化をデジタルは気づいた。アジュディミツオーは走りで気づいたがデジタルは独自の感覚で気づいたのだろう。流石の感性だ。

 

「しかし、3バ身差の3着か、本気で走ったのか?」

「ガチで走ったよ。アジュディミツオーちゃんがガチンコをご所望なら、当然ガチです!」

「そうか、でもガチで走ってミツオーに3バ身差ならアタシがミツオーより弱いみたいじゃん。本当にガチで走ったのか?」

 

 デジタルの視線が泳ぐ。今日のレースは全力で走ったがトリップ走法は使わなかった。そう考えれば全力では無かったとも言える。

 

「何っすか師匠、まるで本気で走ったらアタシより強いみたいじゃないっすか。だったら今日のレースで勝負に徹したらよかったでしょ。みっともないですよ」

「分かってるよ。ただ何か釈然としないっていうか」

「現実と向き合いましょうよ。アグネスデジタルさんを物差しにした結果、アタシの方が師匠より強い、オラ、スポドリ買ってこいやセイシンフブキ」

「てめえ、泣かす」

 

 セイシンフブキはアジュディミツオーに飛び掛かりヘッドロックをかける。

 表舞台では見られない2人のじゃれ合い、デジタルは貴重なオフショットを見られた喜びと興奮を抑えながら空気に徹し、かつ脳内フォルダに記憶する。

 

「コウテイちゃん、差し支えなければ、レース後にアジュディミツオーちゃんとフブキちゃんが何を話していたとか、ナイキアディライトちゃんを呼んで何を話したかと、訊かせてくれないかな?イヤ、ダメだったらほんの触りだけでいいから」

 

 デジタルはヒガシノコウテイにへりくだりながらお願いする。

 アジュディミツオー達の一連の絡みは悟られないように見ていた。だが会話の内容は詳細に聞き取れなかった。

 ウマ娘のプライバシーに立ち入るのは負い目があるが、皆のやり取りには極上の尊さがあると感じ取っていた。

 最悪取っ掛かりさえ得れば、あとは自分で想像したやり取りでも充分に尊さを摂取できる

 

「構わないよ。但し条件がある」

 

 2人の会話にアブクマポーロが割り込む。思わぬウマ娘が関わってきた。デジタルは緊張と興奮で声が若干上ずりながら返事した。

 

────

 

 黒坂は車のアクセルを踏み法定速度ギリギリのスピードを出しながら目的地に向かう。寮の門限迄あと数十分、残り時間は非常にシビアで信号機に数回引っかかればアウトだ。

 デジタルは数日前に船橋レース場に行った際に電車を連続で乗り過ごしにより門限を破っている。今日も門限を破れば罰則を受けてしまう。それだけは避けなければならない。

 

「しゅてきすぎる……エモすぎる……」

 

 焦りを抱く黒坂を尻目に助手席に座るデジタルは夢心地で幸せそうに寝言を呟いていた。

 

 デジタルはレース後にアブクマポーロ達と船橋のファミレスに向かっていた。レース後の反省会とダート研究会に招待されていた。

 アブクマポーロは新たな見地を得るためにオールラウンダーがどのようにダートにアプローチしているか興味を抱き、デジタルが知りたい情報と交換条件で誘った。

 デジタルは懸命にダートを走る際の心構えや技術を語る。アブクマポーロ達を喜ばせたい、役に立ちたいと頭をフル回転させ、感覚的な部分も必死に言語化した。

 アブクマポーロは興味深そうにデジタルの言葉を聞き、ダートについて話していく。

 内容が分からず置いてかれるデジタルを無視し話し続ける。アブクマポーロを筆頭にディープな会話をしていたが、意外な事にヒガシノコウテイも話についてきて会話に参加していた。地方ラブ勢だがここまでダートに対する造詣はアブクマポーロ達に負けてはいなかった。

 

 好きな事を話しあうウマ娘の何と尊きことか、デジタルはその様子を空気に徹しながら眺めていた。

 途中でヒガシノコウテイがデジタルに気を遣い、アジュディミツオーとの関係やレースに向けての出来事やレース後のやり取りを教えてくれた。

 

 師匠としての役割より自分の欲を優先させたセイシンフブキのエゴイズム、それを否定することなく肯定するアジュディミツオー、そしてセイシンフブキとヒガシノコウテイの想いを継いで走るアジュディミツオー、その想いに負けない走りでレースに勝利し、主役は私だと宣言したナイキアディライト、エピソードの1つ1つが圧倒的な尊さだった。

 それからデジタルは門限までに帰られる時間ギリギリまで話し続けた。

 本当は門限時間を無視し、ファミレスが閉店する時間まで粘るつもりだったが、黒坂の懸命な説得によって断腸の想いで帰宅することになった。

 デジタルは車に乗ってからもアブクマポーロ達から聞いたことをノンストップで喋り続ける。暫くして気が済み、レースの疲れが溜まっていたのかいつの間に眠りに落ちた。

 黒坂はデジタルの寝顔を見る。その寝顔を見ればレースに勝ったウマ娘だと思うだろう。レースに負けてもこんな幸せな顔をするのはデジタルだけかもしれない。改めてアグネスデジタルというウマ娘の特異性を実感させられる。

 黒坂はデジタルの幸せそうな寝顔に思わず表情が崩れるが、1つの懸念事項が過り表情が険しくなる

 

 今日のレースは2着のアジュディミツオーに3バ身差をつけられての3着、2人は想像以上に強く負けても仕方がないと納得はできる。問題は着差だ。

 レースにおいてデジタルの心が挫けることはない、どんなに相手が速くとも、少しでも近づいて感じたいと勝負根性を発揮する。その勝負根性は勝利を渇望する1流ウマ娘の勝負根性すら凌駕する。

 今日の様子を見る限り勝負根性は発揮していた。それでも3バ身差をつけられる。

 このレースが入着を逃した宝塚記念やかきつばた記念なら、距離が長い間隔が空いたと納得できる。だが今回間隔はそこまで空いておらず、距離もマイルで適性内だ。

 3バ身差は完敗と言っても差しつかいない。着差はレース展開次第で変わるもので着差イコール実力差ではないが予想外の結果だった。

 本来ならもっとやれるはずだ、ならば何故ここまで離されたのか、その点はトレーナーと検討するが、トレーナーと話し合う前に自分なりに考えることも重要だ。

 黒坂はデジタルの敗因を検討しながら寮への道を急いだ。

 

 

日本テレビ盃 船橋レース場 GⅡダート 不良 1800メートル

 

 

 

着順    名前        タイム    着差      人気

 

 

 

1  地 ナイキアディライト  1:49.5           4

 

 

 

2  地 アジュディミツオー  1:49.6   1/2      2

 

 

 

3    アグネスデジタル   1:50.1   3       3

 

 

 

4  地 セイシンフブキ    1:50.6   3       1

 

 

 

5   ストロングブラッド   1:50.8   1      5

 

 

 

 

 


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