METAL GEAR SOLID ありえたかもしれないもう一つの擬史 作:ザトラツェニェ
原作:メタルギア
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト クロスオーバー メタルギア NieR:Automata ニーアオートマタ アンチ・ヘイトは念の為
歴史の影で戦った者たちと出会った
初めての方は初めまして!ザトラツェニェと申します。
この作品は私のひょんな思い付きで書いたメタルギアとニーアオートマタのクロスオーバーを描いたものになります!
拙い内容や文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです!
―――我々の住む銀河系には約3000億個の恒星が存在する。
その内の約半数が惑星を持ち、平均して2個の惑星は生命が存在し得る環境だと言われている。
―――この広い銀河系に我々人間以外の生命体が存在する事は想像に難くない。
しかしそれらがどのような知性を育み、歴史を紡いでいくのかは我々の想像力の埒外にある。
―――この宇宙が唯一のものという保証もない。
量子力学的には、観測により波動関数が収縮するまで生きた猫と死んだ猫が重ね合わせで存在し得る。
それぞれの可能性は観測が行われた瞬間に別々の世界へと分岐し、宇宙は無限に分裂していく。
―――宇宙が無限に分裂しているのであれば、過去への遡行は可能となる。
過去を改変した事で、未来と矛盾する不都合は生じない。パラドックスの先にはただ別の未来が生まれるのだ。
―――これはそういった幾度ものパラドックスの果てに生じた一つの宇宙、一つの可能性の物語である―――
ありえたかもしれないもう一つの擬史
XXXX年XX月XX日 00:01
キューバ米軍基地 収容基地
―――暗く厚い雨雲の間から時折青白い稲光が瞬き、その光に僅かに遅れる形で轟音が鳴り響く。
天候は数時間前から変わらず雨が強く降り頻り、まるで嵐の日のように激しくなっていこうとしていた。
そんな誰もが家の中で大人しく過ごすような悪天候の中、一機の軍用ヘリが荒波漂うカリブ海の上空を飛んでいた。
そのヘリの機体の側面には遥か昔に存在した超大陸パンゲアと髑髏を模したエンブレムが描かれており、そのエンブレムの上には『Militaires Sans Frontières』というフランス語の文字が書かれていた。
頭文字を取ってMSFと呼ばれるその言葉の意味はフランス語で『国境なき軍隊』―――ある一人の軍人が仲間と共に設立した民間軍事組織の名前である。
国家、組織、思想、イデオロギーといったものに振り回されることなく、軍事力を必要とする勢力に必要なだけ供給し、そして戦士として戦う者達にとっての理想郷となることを目的とした組織―――
『いいか、聞いてくれ』
そんな組織に属しているヘリ内の無線機から一人の男の声が聞こえてくる。
男の名はカズヒラ・ミラー、MSFの副司令官である。
『キューバ米軍基地で異常事態が発生。調査の依頼があった』
『CIAによるとソ連の旅客機が現地沿岸部に墜落してから数十分後、基地からの一切の連絡が途絶え……その24時間後、突如通信が回復したらしい。しかもその時の報告は、異常なしの一言だけだったそうだ』
『程なく旅客機は水没。だが乗っていた“何者か”は現地に上陸したらしい』
『ペンタゴンの見解は、我々が送り込んだ諜報員の意見とも一致した』
『どうやら基地はこの、正体不明の侵略者に乗っ取られたようだ』
(正体不明の侵略者、か……)
彼の無線を聞いて、ヘリ内で待機しているある人物は頭の中でその言葉を反芻する。
『人間を襲い、人間にすり替わる知性体……そう、つまりは「スナッチャー」だ』
その言葉にヘリ内の空気が一瞬で張り詰めたものへと変わり、その空気を感じ取ったMSF総司令官兼潜入工作員であるスネークはヘリの搭乗口から外の様子を見ながら息を吐く。
スナッチャー―――それは正体も目的も何もかもが不明な生命体であり、人間を殺害してその殺害した人間にそっくり擬態するという非常に厄介な能力を持っているのだ。
出撃前に受けたブリーフィングを思い出しながらスネークは徐に立ち上がり、ヘリ内で足を組んで座っている人物の近くへ立つ。
『そこで改めて依頼された任務は……そのスナッチャー達の殲滅だ』
『……わかっている。ボス、いくらあんたが伝説の英雄でもそんな奴らが相手では……』
『そこで切り札となる人物を派遣する事にした』
“切り札となる人物”―――それを聞いたスネークと搭乗していたメディックは、その人物へと視線を向ける。
その人物とはシルバーブロンドでボブカット、頭にカチューシャを付け、黒いゴシックドレスにサイハイブーツを着用し、まさしく理想の造形美と称しても過言ではない程整った顔立ちをした少女だった。
「……それが彼女なのか、カズ?」
『そうだ、この世界とは“別の世界”から……遥か彼方から来た……』
『全身全て、人の手によって作られた汎用戦闘
「……それで彼女が求めた報酬は」
『あんたが集めたXOFの部隊章が欲しいそうだ。なんでもそれを貰ってきてくれと知り合いに頼まれたらしい』
「……随分と物好きな知り合いが居るんだな」
「……別に、他の世界の物に興味があるだけだと思う」
「これにか」
そう言って9枚の部隊章を見せてくるスネークに少女は頷いた後、近くに置いていた目隠しのような戦闘用ゴーグルを装着する。
スネークはメディックに部隊章を預け、ヘリ内の隅に置いてあった白い刀を少女に差し出す。
それは東洋の侍が使っていた「白の契約」と呼ばれる少女自身が持ち込んだ武器だ。
「ほれ」
「…………」
しかし少女はその刀を受け取らず、代わりに自分の隣に置いてあった麻酔銃、WU SILENT PISTOLの動作を確認して右太ももに着けているホルスターに差し込み、次に突撃銃―――AM MRS-4 RIFLEを手に取って確認した後、マガジンを挿入、弾を込めて立ち上がる。
「君も銃が使えるのか」
「……普段はポッドに射撃を任せてるけど、一応私たちヨルハ部隊もある程度銃器を扱えるように訓練は受けてる。実践で使うのは久しぶりだけど……今回は“この世界”のルールに倣う事にした」
「大丈夫か」
「問題無い。訓練の時は命中率も悪くなかったし、いざという時は自爆してでも
「自爆か……」
『……だがそんな事をしたら君は―――』
「そう、死ぬ―――だけど記憶データはバンカーにある代わりの義体にアップロードされるし、人類を守る為なら躊躇しない。それに自爆の許可も既に降りている」
「……分かった。だがそれを使うのは本当の意味で最終手段にしろ」
「分かってる」
『……いいか、この基地の中でスナッチャーは海兵隊員になりすましている。もう既に生存者は居ないかもしれないが……』
少女はヘリ内から基地を見渡し、スネークへ視線を向ける。
「この近くに敵は居ないみたいだな―――頑張れよ若いの」
その言葉に頷いた少女は、10m程の高さでホバリングしているヘリから飛び降りて地面へと降り立つ。
着地と同時に地面に溜まっていた雨水が彼女のブーツを、ゴシックドレスを、肌を、髪を濡らしていく。
『キューバ米軍基地、収容施設内を占領したスナッチャーを全て排除してくれ。放っておけば奴らは勢力圏を大きく広めていくだろう』
ふと後ろをチラリと見るとヘリが方向転換し、飛び去っていく。それを見送った彼女は右手に持った
『これはこの世界に存在する全人類の危機なのだ。頼んだぞ、
「了解。ではこれより作戦を開始する」
腰の左側にアサルトライフルを掛け、周りを見渡して気配を探る2B。どうやら周りに敵は本当に居ないらしい。
『ではまず情報端末を起動してくれ』
そんな彼女の体に内蔵された無線受信器官からミラーの声が聞こえてくる。そう言われ、2Bは作戦開始前に手渡された情報端末、iDROIDを取り出してスイッチを押す。
するとiDROIDのレンズからこの基地のマップと詳細なミッション情報が映し出される。
(空中投影式のホログラミングレンズ……まさかこんな技術があるなんて……)
『この画像に写っているのがスナッチャーだ。現地では人間の振りをしている。重ねて言うが相手は人間じゃない、気絶や睡眠は期待するな。それに格闘や麻酔銃ではスナッチャーを排除した事にはならない。気を付けろ』
「……奴らと人間を見分ける方法は?」
『対象を
すると端末からマップ更新の音声が聞こえ、マップに黄色い範囲が現れる。
『重ねて言うがスナッチャーは必ず殲滅し、生存者は全員気絶か睡眠で
「了解」
『それともう一つ。作戦開始前に君の持ち物へある人物からの差し入れを入れておいた』
「差し入れ?」
『ああ、確か
「っ!」
それを聞いた2Bはすぐさま自らの装備を確認する。すると彼女が持ってきた覚えの無い小さい回復薬5つと中くらいの回復薬3つが入っている事に気が付いた。
「これは……」
『君たちの世界にある体力回復薬だと聞いたぞ。別の世界で任務を行っている仲間にこうして差し入れを渡す……随分といい仲間じゃないか』
「9S……」
その差し入れに渡してくれた人物の顔を思い浮かべた2Bは少し嬉しそうに微笑む。しかしここは敵地、油断していると敵と遭遇するかもしれない―――それを忘れていない2Bはすぐさま表情を引き締める。そして―――
「―――ありがとう、ミラー。9Sからの差し入れを入れておいてくれて」
『何、礼を言われる程の事じゃあないさ。―――さて、それじゃあそろそろ作戦を始めようか』
お礼を言われ、若干嬉しそうな声になるミラーに対して2Bは小さく微笑んだ後に端末をしまい、ふと空を見上げる。
『雨が止んだな』
「…………これが夜……」
『ん?どうした?』
「いや……私たちの世界には夜というものがない。だから……」
『珍しくて見惚れたと……。しかしなぜ夜が無いんだ?』
「……それはまた後で話す。今は任務を行わないと……」
『あ、ああ』
そうして通信を終えた2Bはテントが立ち並ぶ難民キャンプ方向へと向かう。
そして―――
『ん?櫓の上に誰か居る……!』
その言葉を聞いた2Bは近くのバリケードに身を隠して辺りの様子を伺う。そして難民キャンプエリア全体を見渡せる位置に建っている木製の櫓の上に海兵隊員が居るのを見つけた。
「あそこか……」
『よし、早速対象を
2Bはこちらも作戦開始前に手渡された3倍率双眼鏡を使って、対象の兵士を見る。するとその兵士の気配が水色となって表示された。
「……あれはスナッチャーじゃない、人間だ。でも少し様子がおかしい……」
『ああ……一時連絡途絶になったというのに随分と落ち着いて警備しているな……そうだ、そいつを無力化するついでに尋問してみろ。情報を引き出すんだ』
「分かった」
2Bは周りに他の敵が居ないか警戒しながら、櫓の梯子を音を立てないように上がっていき……。
「動くな」
「っ!?」
感情を消した冷たく静かな声と共に麻酔銃を兵士に突き付け、両手を上げるように促す。
「言え」
「っ……!な、仲間はここだ……あ、後は知らない……!」
兵士からの情報により、1人の敵兵の位置がマップと彼女の戦闘用ゴーグルに反映される。それを確認した彼女は兵士の首元に極力手加減をした手刀を落として、意識を刈り取る。
彼女はスナッチャーとは違う機械生命体やそれを作り出したエイリアンを殺す為に生まれた戦闘に特化したアンドロイドらしい。そんな機体が手加減しないで手刀を振るえば人間の首程度どうなるかなど想像に難くない。
そんな事を考えて内心恐怖するミラーを余所に、2Bは櫓から飛び降りる。
『……白、か……』
「……何か言った?」
『い、いや……』
小声で何かボソリと呟いたミラーに疑問を投げながら2Bは物陰から物陰に移りながらさっき教えてもらった兵士へと接近していく。
そしてある程度その兵士へ近付いた2Bは物陰から顔を少し出して
するとその兵士の気配と骨格が緑色となって表示された。
『あれは……!?間違いない、スナッチャーだ!排除してくれ』
2Bは懐中電灯を使って辺りを見回しているスナッチャーの背後に回り込んで拘束する。
『っ!?』
(肌の感触が硬い……それに声も少しおかしい……)
『身体構造も人間そっくりだな……だとしたら弱点も人間と同じか……?』
「……言え」
『っ……ここに仲間が居る……』
2Bは拘束したスナッチャーの体の感触を確かめながら尋問で情報を聞き出し、そのまま強く締め上げてスナッチャーの首をへし折った。それと同時に緑色の炎のようなものがスナッチャーの体全体を包み込みながら倒れ、暫くすると体が跡形も無く消える。
『う……まさかここまで完璧に擬態するとはな……だが君の目はごまかせないようだ。次を頼む』
「了解」
そうして2Bは移動を開始した。
それから少し時間が経ち―――2Bはある見張り台の上でしゃがんで、基地内を走行している軍用四輪駆動車に乗っているスナッチャーの頭に狙いを定めていた。
「…………」
落ち着いて息を吐き、銃弾の速度や重力による弾の落下を即座に計算した2Bは躊躇無く引き金を一回だけ引く。
『ぐあっ!』
サプレッサーによってほぼ無音で発射された一発の銃弾は吸い込まれるように助手席に座っていたスナッチャーの頭に命中する。
「そしてもう1人は人間……」
「はっ!おい、どうし―――うっ……」
そして命中した事を確認すると、2Bは構えていたアサルトライフルをすぐさま腰に戻し、続いて自身の右太ももに付けているホルスターから麻酔銃を抜いて構え、軍用車両を運転していた普通の兵士をヘッドショット一発で眠らせた。
「……ふぅ」
『60m程の距離から動く車に乗るターゲットをヘッドショット、そして残った人間を麻酔銃で遠距離無力化……やるな。残りの確認されている警備は4人だ。恐らくその4人は君がまだ探していない管理棟内に居るだろう。管理棟内には監視カメラも作動している事が確認されている。気を付けてくれ』
「分かった」
ミラーの言葉に頷いた2Bは見張り台の手すりを乗り越えて地面へと降り立ち、周囲を警戒しながら管理棟エリアに向けて走り始める。
『ま、また見えた……』
「……ミラー、サポートに集中して。何度も言うなら怒る」
『っ!あ、ああ、すまない……』
コツコツと靴音を鳴らしながら走るその速度は速く、とても人間が出せるスピードではない。
そうした速度で走ったからか、ものの数十秒程で管理棟エリアの入口に着いた2Bは慎重に扉を開けて内部へと潜入した。
『斥候にあたっていた諜報員の報告が上がってきた。“奴ら”は一晩で基地を襲撃、現地海兵隊員になりかわったようだ。正体は
「……そういえばそれについて聞きたい事があるんだけど」
『ん?』
「人間の姿形を“奪う”って事は
……汗や血も?」
『どうやらそれらもスナッチ対象に合わせられるらしい。さらに骨格構造も男女どちらにも合わせられる上に、性器も変化させられるとの事だ。ただし骨格構造の限界から高身長、低身長といった極端な身長を持つ人間や子供、老人はスナッチ出来ないとペンタゴンは結論づけている。そしてあんたのようなアンドロイドやサイボーグみたいな自分の体よりも複雑な構造をしている者も、彼らはスナッチ出来ないらしい』
「なるほど。だから私が今回の任務に……」
『そういうことだ。それともう一つ、君をこの任務に選んだ理由はあるんだが……それは後で説明しよう』
2Bは作戦開始前から気になっていた疑問についてようやく納得したといった風に呟いた。
そんな会話をしながらも彼女は警戒を解く事無く奥へと進んでいく。そして―――
「見つけた……」
管理棟内の資材置き場にて2Bは軍用車両の近くで話しているスナッチャー2体とそこから少し離れた場所に立つ兵士1人を見つける。
『奥に居るのは生存者か……どうやら生存者は全員、スナッチャーに操られているようだ。報告によると現在その辺りを汚染している花粉のような物質の影響で一種の催眠状態にあるらしい』
「花粉のような物質……」
『恐らく奴らが持ち込んだものだが、生身の人間には有害な可能性がある。だから事態が収束するまで極力ヘリは近付けさせないつもりだ』
「……それがさっき言っていたもう一つの理由?」
『ああ。機械の体である君なら大丈夫だろうと思ってな』
ミラーの説明に2Bは再びなるほどと納得し、改めて目の前の状況に目を向ける。
(さて、どうやって倒すか……)
3人以上ともなると今までのように比較的簡単に排除する事は出来ない。そう思い、辺りに何か利用出来そうな物がないか探す2Bの目に―――赤と白で塗られた一つのドラム缶の姿が映る。
「……ミラー、あのドラム缶は?」
『ああ、あれには液体燃料が入っている。殺傷武器で撃てば大爆発するだろう。当然ながら近くに居たら爆発に巻き込まれるから気を付けてくれ』
「……ならそれを使おう」
2Bはそう呟きながらアサルトライフルを構え―――引き金を引く。
放たれた銃弾は液体燃料が満たされているドラム缶へと命中、すぐさま大爆発が巻き起こった。
「っ……!」
爆発により、2体のスナッチャーが緑色の炎を纏いながら吹き飛ぶ様を横目で確認しつつ、2Bは爆発に驚いて警戒している兵士の元へと走る。
(監視カメラ……!?)
その最中に建物の壁に取り付けられた監視カメラに気付いた彼女は、まるで時が遅くなったような感覚を全身で感じながら監視カメラに向かって銃を撃つ。
そして銃弾が命中した監視カメラが火花を上げながら壊れる様子に視線を向ける事無く、彼女は残った兵士の首を掴んで地面へと叩きつけた。
「―――せいっ!」
「ぐふっ!!」
2Bがある程度手加減して投げたからか、兵士は特に大きな怪我をする事無く気絶する。
「……危なかった」
『おお、今の投げは綺麗に決まったな、流石だ。だが監視カメラを破壊したおかげで敵が警戒するぞ』
そんなミラーの忠告通り、傍受している敵の無線から警戒強化の連絡が聞こえてくる。それを聞きながら、2Bは端末で敵予測範囲を確認し、最後の一人を倒しに向かおうとして―――ふと、足を止める。
『ん?どうした?』
「……あの建物は?」
そう言う2Bの視線の先には赤い扉が建て付けられている小屋があり、彼女はその小屋について尋ねる。
『ああ、あれは敵の武器が保管されている武器庫だ』
「武器庫……ということは中には」
『ああ、何か強力な武器があるかもしれん』
その言葉に興味が湧いた2Bは、周りへの警戒を怠らないまま武器庫の扉へ手を掛ける。しかし―――
「……鍵が掛かってる」
ガチャガチャと音を立てながらも開かない扉に2Bはどうしようかと首を傾げる。
『2B、ピッキングは出来るか?』
「そんなのしたことない」
『むう……そうか……』
ならばお宝探しは諦めて任務に戻るべきだ―――そう思って指示を出そうとしたミラーだったが。
「なら、こじ開ける」
『……ゑ?』
次の瞬間、2Bは赤い扉に向かって右拳を突き出し、派手な音と共に扉を無理やり壊してこじ開けた。
そのようなあまりにも無茶苦茶な行動に言葉を失っているミラーを余所に2Bは武器庫の中へと入り込んで物色を始める。
「これは確かC4爆弾……一応もらっておこう。後は弾薬も少しもらって……」
『が、頑丈な扉を素手で破壊……なんて女だ……』
「ん?これは……」
戦慄したようなミラーの反応を尻目に、2Bは武器庫の隅に置いてあった大きな格納ケースを発見、ケースを開けて中身を見てみる。
『無反動砲か。それがあれば車輌や対空兵器に対して優位に立てるだろう』
「ならこれももらっていこう」
そう言って無反動砲を背中に背負い、武器庫を後にした2Bは最後の敵の元へと向かう。
そして管理棟の一番奥に辿り着いた2Bは、鉄格子の扉がついた部屋の近くで警戒しているスナッチャーを見つけた。
「―――動くな」
『っ!!』
背後に回り込み、銃を突き付けた2Bはそのまま彼らの正体を探ろうと尋問を試みる。
「お前たちは何者だ。何の目的でこの基地を制圧した?」
『………………』
(…………話す気は無い、か。ならこれ以上の尋問は無意味)
早急にそう結論を出した2Bは無言を貫き通すスナッチャーの頭に銃弾を撃ち込んで排除する。
「これで最後……」
『さすがだな、2B。スナッチャーの殲滅、及び生存者の無力化を確認。奴らの調査は後回しにしてまずは離脱しよう。回収の為ヘリを向かわせる。ヘリ
「分かった」
そして道中監視カメラなどに見つからないように進んで、なんとか管理棟エリアから脱出した2Bはマークの付いているヘリ
『結局今回の作戦でお得意の剣術を奴らに振るうことは無かったな。少し物足りないんじゃないか?』
「作戦に物足りないも何もない。それに銃という遠距離武器があるのに危険を犯してまで接近戦に持ち込む必要も無い」
『それはそうだが……随分と真面目な事だな』
作戦が大方終わり、ミラーとそんな話をしていた2Bはふと何かを思い出したかのように端末を開く。
『ん?どうした』
「……いや、念の為に少し工作しておこうと思って」
そう呟いた2Bは装備品の中から先ほど武器庫でいただいたC4を片手に走り出した。
そして約2分後―――
「ふぅ……とりあえずこれでよし」
念の為の工作とやらが終わった2Bはヘリ
そして海の方から飛んできたMSFのヘリが、2Bを乗せようと高度を下げようとしたその時―――警報音と共に管理棟正面ゲートが開く。
「っ……気付かれた……!」
『増援だ!ヘリは一時上空に退避させる。2B、奴らを殲滅させるんだ!』
「了解!」
2Bは増援を排除するべく、銃を片手に走り出す。
『脅威対象をヘリから照らす。そいつから優先して排除するんだ!』
それと共にヘリは管理棟の見張り部分へとライトを向ける。
そこにはヘリへ無反動砲を放とうとしているスナッチャーが居て―――
「させるかっ!」
それを見た2Bは背中に背負っていた無反動砲を構えて発射する。
発射された弾頭は凄まじい速さで飛翔し、目標へ命中。爆発と共にスナッチャーは緑色の炎のようなものを纏いながら地面へと落ちる。
『ヘリを狙ってる……!奴らを片付けろ!』
そして息つく暇も無く、今度はアサルトライフルを手に持った2Bは物陰に隠れて敵への攻撃を開始する。
すると敵も2Bの存在に気付いたのか、怒号と共に彼女へ向けて銃撃を始める。
「敵、12時の方向!」
「やれぇ!!」
「くっ……!」
科学の進んだ別の世界からやってきたアンドロイドと謎の生命体―――その戦況は意外な事に五分五分と言った所だった。
本来ならばそのような拮抗したような状況になるのは考えづらい。ならばなぜそのような状況になっているのか?
その理由はアンドロイドである2Bが普段あまり使わない銃を使って応戦しているという点にある。
彼女はどちらかというと剣撃による近距離攻撃を主としている上に、射撃はポットという随行支援ユニットを使っている為、自分で銃を握って使うのは幾分か勝手が違ったのだ。
それでも10人程の敵を相手に普段慣れていない武器を使っているにもかかわらず互角の戦いを繰り広げているのは感嘆せざるを得ないのだが。
しかしそのような互角の戦いは何か一つのきっかけ次第でいとも簡単に崩れてしまうものである。
「―――!!」
2Bの近くに転がったのは敵が投げた破片手榴弾。それに気付いた2Bは急いで別の物陰へと移ろうとしたが、生憎と気付くのが少し遅かった。
「くっ―――ああっ!!」
直撃こそはかろうじて免れたものの、衝撃によって吹き飛ばされて地面を転がる2B。
早く立ち上がって敵を倒さなければ―――戦闘における思考はそう素早く判断するが、彼女の体は爆発の影響でそう素早く対応出来なかった。
そしてさらに悪い出来事は続く。
『くっ、無反動砲……!』
ミラーの声に顔を上げた2Bが見たのは通用口から新たに現れたであろう敵の内の一人が無反動砲を持ち、こちらへと走ってきている姿だった。
「しまっ……!」
早く立ち上がってあの敵を最優先に排除しなくては―――しかしその思いとは裏腹に体は素直に言う事を聞いてくれなくて、彼女はその事に苛立ちと焦りを感じた。
苛立ちと焦り―――それは彼女や彼女の部隊にとって持つ事を禁止されている感情だった。
しかしそのような感情の発露も仕方ない事である。何しろ例の敵が狙っているあのヘリには、彼女たちの世界にはもう既に
彼女たちアンドロイドは人間の為に戦い、いざという時は人間を守る為に作られている。故に2Bは今この状況にそのような感情を抱いているのだ。
もし無反動砲が発射され、ヘリに命中して墜落でもしたら?あるいは墜落はせずとも中に居る人間が怪我をしたら?
もしそうなってしまえば自分は人間を守る事が出来なかった不良品になる。
いや、それだけならまだ納得出来る。2Bが何よりも恐れているのは敬愛する人間たちが傷付く事……。
「ッ……!!」
拳を握り締めながらようやく立ち上がった2Bは憎悪の視線を向けながら銃弾を撃ち込もうとして―――
「2Bッ!!」
突如上から聞こえた自らを呼ぶ声にその動きを止める。
そして視線を上へと向けると、ヘリの搭乗口からスネークが身を乗り出していた。そんなスネークの左手に握られていたのは―――2Bが何かあった時の為にと持ち込んでいた「白の契約」だった。
「受け取れ!」
スネークは「白の契約」を2Bに向かって放り投げ、投げられた刀は放物線を描きながら2Bの目の前の地面へと突き刺さる。
そして地面へ突き刺さった刀を迷わずに抜いた2Bはまさしく疾風迅雷とも言える速さで駆け抜け、無反動砲をヘリに撃ち込もうとしているスナッチャーの首を横一線に斬り裂いた。
「はっ―――せいっ!!」
そして2Bは横に斬り裂いた勢いを利用して体を横にくるりと一回転させた後、小さく跳躍して今度は近くにいたスナッチャー目掛けて縦に三回程回りながら斬りつける。
縦に三回斬りつけられたスナッチャーはその傷口から緑色の炎のようなものを出しながら倒れた。それに目を向ける事も無く、2Bは剣を振るい始めた。
『―――これが別の世界から来たアンドロイドの戦い……』
自らの得意武器である刀を持った2Bの動きはまさしく
彼女が剣を振るう度にスナッチャーの腕が、足が、胴体が、そして首が夜空に舞う。そして2Bが剣を手にしてから僅か30秒程という短時間で、管理棟方面から出てきていたスナッチャーたちは全滅する。
「これで全部……」
『くっ、ヘリが!対処しろ!』
すると今度は管理棟方面から無反動砲を構えるスナッチャーが乗ったヘリが現れる。
それを見た2Bは刀を納刀し、無反動砲を即座にヘリへと撃ち込んだ。
『ぐあっ!』
無反動砲はまっすぐヘリへ命中し、爆発に巻き込まれたスナッチャーが緑の炎に包まれながら落下する。
そうして有効な攻撃手段を失った敵のヘリは黒煙を上げながら、基地の奥へと引き返していく。
『また増援だ!』
そしてそんなヘリと入れ替わるように現れたスナッチャーたちは近くに設置されている対空機関砲へと走っていく。
『対空機関砲を使う気だ!すぐに対処を―――』
「問題無い」
すぐに対処するように指示しようとしたミラーの声を2Bが遮る。それに疑問を覚えたミラーがなぜか問い掛けようとしたその刹那―――ヘリ
『なっ……爆発した!?』
対空機関砲が爆発した理由。それは2Bがヘリを待つ間に行った念の為の工作が関係していた。
『まさか……おい、2B!君は一体何を……!?』
「別に大した事はしてない。私はただ機関砲の砲口にC4爆弾を仕掛けただけ」
『――――――』
つまりあの爆発はC4に気付かないで対空機関砲を使った敵の自爆なのだと言ってのけ、そんな方法を思い浮かべた2Bにミラーは言葉を失う。
「っ……またさっきのヘリが……!」
そんなミラーを尻目に叫んだ2Bの視線は、先程黒煙を上げながら基地の奥へと引き返していった筈のヘリへと向けられていた。
『大物が来たな。2B、奴らにトドメを刺してやれ!』
「分かってる!」
2Bは無反動砲に弾を込め、再びヘリに叩き込む。しかし敵のヘリは炎をローター部分から噴き出させながらもまだ堕ちない。
「いい加減―――堕ちろっ!!」
その言葉と共に再び発射された弾頭はヘリの操縦席へと命中して大爆発を起こす。
操縦席とローターを破壊されてバランスを失ったヘリは炎上しながら落下し、地面に叩きつけられて爆発する。
「敵の反応無し、殲滅を確認した」
『カワバンガ!……よし、ヘリに乗るんだ』
「……了解」
突然意味の分からない言葉を叫んだミラーに何やら言いたそうにしながらもスルーした2Bは、ヘリ
『離脱します』
そして離陸したヘリはカリブ海に向かって離脱を始めた。その間もしばらく基地からの攻撃を警戒していた2Bだったが―――
「よし、ここまで離れればもう大丈夫だ」
背後から同じく基地の方へと視線を向けていたスネークに頷いた2Bはヘリの中へ入り、横にあるスイッチを操作して扉を閉めた。
「はぁ……」
そして次の瞬間、今まで張り詰めていた緊張が解けたのか、2Bは軽く息を吐きながらヘリ内の椅子へ座る。
(なんとか無事に任務完了、か)
「お疲れ、2B」
そんな彼女へスネークは労いの言葉を掛けながらマテ茶を渡そうとして、何かを思い出したかのように手を止める。
「……飲むか?」
「……」
アンドロイドという機械人間なのだから飲食は出来ないのでは?と思って手を止めたスネークだったが、2Bは無言で頷いてマテ茶を受け取り、そのままごく普通に飲み始めた。
「……アンドロイドってのは飲み食い出来るんだな」
「本来、体のメンテナンスだけでなんとかなる私たちアンドロイドにとっては必要ない機能だけど……一応は」
ついでに小さい体力回復薬も飲んで戦闘の傷を癒す2Bと、2Bの飲んでいる薬を見てどんな味がするのだろうと少し場違いな考えをするスネークの耳に、ミラーから任務完了の無線が入る。
『ミッション完了だ、よくやった2B。報酬は約束通り手渡そう。しかし本当に初めてなのかと疑う程素晴らしい働きだった』
「そうだな、俺も見ていて見事だと思った所が多々あったしな。いいセンスだ」
「……ありがとうございます」
真面目にそう返事を返す2B。しかしその口元には若干の笑みが浮かんでいた。
『……君はもう、元の世界へ帰るのか?』
「……私は、私たちには……まだやるべき使命が残ってるから……」
『……そうか、別れが惜しいが……仕方ないな。―――なあ、もしまた今度この世界を訪れる機会があったら……その時はゆっくりと色んな話を聞かせてくれ』
「……また来る機会があったら……ね」
ミラーの惜しむ声を聞きながら、報酬の部隊章を受け取った2Bは改めてスネークやメディックへと向き直る。
『君のおかげでこの世界の危機は去った。心から感謝しよう』
「……いや、感謝するのはむしろこちらの方だ。あなたたちと共に戦えた事で、私は戦う意味というものを見直せた気がするから……」
「戦う意味、か…………。2B、一つ教えてくれ」
2Bの言った言葉を噛みしめるように呟いたスネークは、彼女へと問いを投げる。
「君は何の為に戦う?人の為?それとも組織や仲間の為か?」
「…………私は……」
その問いに少し思考した2Bは静かに自分の意志を答える。
「私は……仲間や人類、そして未来の為に戦う。それが正しいのかは分からないけど……私にはそれしか出来ないから……」
そう言いながら「白の契約」へと視線を向ける2B。ヘリ内の明かりによって輝くその刃には、自分の戦いや理由があって彼女が殺した仲間たちの記憶が宿っている。
それらの戦いを、そして死んだ仲間たちの無念を無駄にしない為にも彼女は戦うと誓った。
「―――戦う事でしか自分を表現出来ない者たちがいる。生まれつきか誰かにそうさせられたか……」
「……私たちは人類によって創られた兵士で、機械生命体から地球を奪還する事を命じられた人形―――でも、それでも何の為に戦うのかはある程度自由に決められる。だから私は……」
人類や今居る仲間、そして散っていった仲間たちの意志を背にして未来の為に戦う―――それが彼女の意志だった。
「―――戦士として互いの忠をつくせ。俺の師匠はそう言った。正義でも、国家でもなく……戦士として自分に忠をつくして彼女は死んだ。任務の為にな」
「自分に……忠をつくす……」
スネークの話を聞いた2Bは噛みしめるように呟き、やがて決意したように顔を上げる。
「……迷いは無くなったみたいだな?」
「……はい。正しいとか正しくないとかじゃない。正しいと信じる事が大切……ということですね?」
「そうだ。何に忠をつくそうとも正しいと信じる、その想いこそが未来を創る。それを忘れるな」
「……分かりました―――“ボス”」
その言葉を聞いた2Bは静かに笑みを浮かべながら、左腕を胸の前で水平にして敬礼するのだった―――
こうしてスナッチャーという生命体を通じ、時空を超えて巻き起こった事件は2Bの活躍で無事解決、幕を下ろした。
「……行ってしまったな、ボス」
「……ああ」
MSFの本拠地であるマザーベースの格納庫甲板にて、ミラーとスネークは先ほどまで2Bが居た場所を眺めていた。
「帰りも来た時同様、あっという間に転移していったな」
「ああ、どうやら向こうの世界の技術はこの世界の技術なんかとは比べものにならない位高いらしい」
「……あんな転送技術がこちらにもあれば、敵地へ素早く安全に、そして金を掛けずに兵士や戦車を送る事が出来るんだがな……」
「カズ……」
全くこの男は……と呆れるスネークに、ミラーは冗談だよと笑う。
「さて、それじゃあ司令部に戻って今回の作戦記録を纏める作業を―――あ」
「ん?どうした?」
突然何かを思い出したかのように声を上げて口を開けるミラーにスネークは首を傾げる。
「……2Bから銃とかiDROIDを返してもらうの忘れた」
「……別にいいんじゃないか?銃もiDROIDもまた造ればいいだろう」
「そりゃそうなんだが……」
「それに折角手伝ってくれた彼女をそんな事で呼び戻す訳にもいかないだろう。諦めろ」
「むぅ……そうだな。今回の銃やiDROIDも彼女に対してのお礼って事にしておこう」
そんなミラーの言葉に頷いたスネークは懐から葉巻を取り出して咥え、ライターで火を付けて吸い始める。
「そういえば……あんたに一つ聞きたい事があるんだが」
「なんだ」
「……なぜ彼女と別れる際に、XOFとは別の―――あの部隊章を渡したんだ?」
「何、別に大した理由じゃない」
そんなミラーの質問にスネークは紫煙を燻らせながら静かに答えた。
「ただ彼女には
おまけ:ジャメヴミッション後のお話
『ヨルハ機体2Bの帰還を確認、おかえりなさい 2B』
「ああ、ただいま」
バンカーの転移装置から出て、まず最初に2Bを出迎えてくれたのは彼女の随行支援ユニットで今回の作戦では留守番をしていたポット042だった。
ポット042はふよふよと頼りなく浮かびながら2Bの元へと向かい、2Bは今回彼を連れて行けなかった事に対する謝罪を込めて、ポットの頭部を撫でた。
(まずは司令室に行って、任務報告しないと……)
ポットを撫でるのもほどほどに、2Bは司令室に向かうべく歩き出す―――その刹那。
「2B〜!おかえりなさ〜い!!」
「9S」
明るく機嫌の良さそうな声と共に走ってきたのは、2Bと同じくほとんど黒ずくめの服を着た少年だった。
彼の名は9S。今回の作戦では彼も留守番をしていたものの、普段の任務の時にはよく2Bと行動を共にするスキャナータイプのアンドロイドである。
「別の世界での任務、お疲れ様でした!司令官や他の皆さんが待っているので一緒に行きましょうか」
「分かった」
そうして二人は司令部へ向かって歩き始める。
「ねぇ、2B。今回の任務で行った世界ってどんな感じでした?」
「どんな感じ……か。……色々とこの世界じゃ見られなかったものが沢山見れたよ。“夜”とか“ヘリ”とか」
「へぇ……“夜”ってどんな感じでした?」
「空が暗くて……そう、前に9Sが言ってたバンカーから見た景色に似てたよ」
「やっぱり記録通りなのか……そして“ヘリ”というのは確か昔、人類が使っていた空飛ぶ乗り物でしたっけ?」
「そうだね。初めて乗せてもらったけど、中々悪くない乗り心地だった。……でもなんであんな飛行ユニットより大きくて重そうなものが空を飛べるのかよく分からなかったけど」
「ああ。あれは確かエンジンの力で一番大きいプロペラを回転させて揚力を発生させて飛ぶって仕組みだった筈です。昔の資料にそう書いてあった気がします」
「そうなんだ」
そうした会話をしながら二人は歩いていき、やがて司令室へと繋がる扉の前へと辿り着く。
そこで9Sは今まで一番気になっていた事を問い掛ける。
「そういえば2B、さっきから気になってたんですけど、その腰と背中にあるのって……」
「ああ、これは今回の任務で使った武器で―――!?」
そう言いかけてから2Bは珍しく慌てたように何かを探した後、ゆっくりとした動きでiDROIDを取り出した。どうやら銃やiDROIDをミラーに返し損ねた事にやっと気付いたようだ。
「2B、それは?」
「……向こうの世界で使ってた情報端末。……返し忘れて持ってきてしまった……」
「あ〜…………でも、いいんじゃないですか?持ってきちゃったものは仕方ないですし……きっと向こうの人たちもあまり気にしないと思いますけど」
「でも……」
「……そこまで気になるなら、また次に行く時にでも返せばいいんじゃないですか?」
「次に行く時……」
その時、彼女の脳裏に浮かんだのは無線越しに聞いた
『もしまた今度この世界を訪れる機会があったら……その時はゆっくりと色んな話を聞かせてくれ』
「……そう、だね……。また次に行く機会があったら、その時に返そう」
「それがいいです。……それはそうと2B、司令官の所に報告した後でいいんでその情報端末見せてくれませんか?色々と興味あるんで……」
「……分解とかしないならいいけど」
「勿論、そこまではしないつもりです。……本当はちょっとしてみたいですけどね」
「…………」
そんな好奇心の強い9Sに呆れたように息を吐いた2Bは扉の中へと入り、9Sもそれに続いた。
そして―――
「……以上が、今回の任務の報告です」
「そうか……あの世界の人類たちを守る事は……出来たんだな?」
「はい」
「よし、なら任務は大成功だ。よくやった、2B」
そう司令官が言うと同時に、司令室内にいたほぼ全てのヨルハ隊員とオペレーターたちが一斉に2Bの元へと駆け寄ってくる。
その光景に珍しく驚いた反応を示した2Bは次の瞬間、堰を切ったように質問してくる仲間たちにたじろぐ事となる。
「2Bさん!任務達成お疲れ様です!例の別世界の話、是非聞かせてください!」
「向こうの世界の技術はどうでした?かなり進んでましたか?」
「2Bさん、その背負ってる武器を僕に見せてくれませんか!?」
「向こうの世界の人類は栄えていたでしょうか……?」
「ふむ……それは私も気になるな。どうだったんだ?」
「えっと……」
「2Bさん!」
いきなりの質問責めで若干面食らう2Bだったが、一番最後に聞こえた聞き覚えのある声に反応した彼女はそちらの方へと視線を向ける。
そこに居たのは、普段の任務で2Bとの通信を担当しているオペレーター
「6O」
「2Bさん、おかえりなさい!別の世界での任務、お疲れ様でした〜!」
「……ああ、ただいま」
明るく
そして6Oへと近付いた2Bはアイテムストレージから今回の任務の報酬であるXOFの部隊章9枚を彼女へ手渡した。
「2Bさん、これって……もしかして!」
「例の世界に存在する組織の部隊章。約束通りもらってきたから、全部あげる」
「っ……!!ありがとうございます!!」
部隊章を手渡された6Oは口元を覆っている黒幕越しでも分かる程の笑みを浮かべて頭を下げ、他のオペレーターやヨルハ隊員たちの元へと部隊章を見せに行った。
「見て見て
「へぇ、これが別世界の部隊章ですか……」
「あ!私にも見せて!!」
「私にも!」
「これは……確か狐という動物ののマークだったよね?」
「ええ。そしてこのXOFという文字……一体どういう意味なんでしょう?」
「……2B、いいんですか?オペレーターさんたちに報酬の部隊章全部あげちゃって」
「別に問題無いよ。元々私には必要無いものだし。―――それに私には別のものがあるからね」
「別のもの……?」
そう言った2BはアイテムストレージからXOFとは別の―――猟犬がナイフを咥えたエンブレムが描かれた部隊章を取り出して9Sに見せた。
「……FOXHOUND?」
「……この部隊章は今回の任務で私を助けてくれたあの人―――BIGBOSSが創設した特殊部隊のエンブレムらしい。一つ持ってたから私にくれるって……」
そう言いながら彼女は、スネークから教えてもらったこのエンブレムの意味を考えながら9Sを見る。
(
最初このエンブレムの意味を聞いた時は、スネークの意図がよく分からなかったが……もしかしたら彼は、自分の素性を薄っすらと分かっていたのかもしれないと2Bは思う。
「……いや、そんなまさかね……」
そう呟いた2Bは未だに質問を投げ掛けてくる仲間たちの相手をし始め―――
「…………2B」
9Sはそんな2Bをただただ見つめるのだった―――
予告
「9Sとの地上調査任務が終わって早々に申し訳ないが2B、君に次の任務を命ずる」
地球での任務が終わり、バンカーへと帰還した2Bは司令官によってバンカーの一室に呼び出されていた。
「はい。それでその任務というのは……?」
「……その前に君はスナッチャーという生命体を殲滅する為に向かった世界について覚えているか?」
「はい」
むしろ忘れる筈が無いと2Bは思う。あの世界は自分や仲間たちにとって、とても印象に残った世界なのだから―――
「実はその世界にいるある方からコンタクトがあってな」
「ある方?」
「ああ、BIGBOSS―――といえば分かるだろう」
「っ!?」
それはあの時、自分の任務遂行を手助けしてくれた人物の称号であり、彼女が尊敬している人物のものだった。
「その方から君を指名した極秘任務の依頼があった。内容はある国に存在する巨大武装要塞内で開発されているという“恐るべき兵器”の調査、破壊……だそうだ」
―――これはとある一人の男が「不可能を可能にする男」と呼ばれるきっかけとなった物語―――
「―――こちら2B、武装要塞国家
『こちらバンカー、無線感度良好です。……どうやら思ったよりすんなり入れたみたいですね、2Bさん!』
『こちらBIGBOSS、予定通りだな。……君と共に遂行したあの任務から20年も経つというのに……全くブランクを感じさせん』
「……貴方にとってはそれ程の年月が経っているみたいですが、私たちにとってあの任務を遂行したのはつい数週間前の事です」
『……そうか。そこまで年月に差があるのか……』
―――これは後の時代まで語り継がれる英雄かつ狂人と謳われた一人の傭兵にまつわる物語―――
『お前の任務は敵要塞、OUTER HEAVENに潜入し、先に潜入しているFOXHOUND隊員と共に最終兵器メタルギアを破壊する事だ。まずはそのFOXHOUND隊員と合流し、最終兵器メタルギアの正体を探れ』
「了解」
―――そして、これはそんな二人の物語の裏で人知れず大切なものの為に戦ったある一人の人形の物語―――
「動くな!!―――両手をあげろ!!」
「っ……!」
「銃を捨てろ」
「…………」
「……ん?女?……なぜこんな場所に居る?」
「……多分、貴方と……同じ」
「何?」
―――その者たちは皆、ある共通点を持っていた。
「私は2B、ヨルハ二号B型」
「2B……コードネームか?それにそのエンブレム……お前もFOXHOUNDの一員なのか?」
「……一応今はそういうことになってる。貴方のコードネームは?」
「俺は……スネーク。ソリッド・スネークだ」
「スネーク……」
それは戦う事しか出来ず、そうする事でしか自分を表現する事が出来ないという事―――
「核搭載二足歩行兵器、TX-55メタルギア……」
『やはりこの世界にも核はあるのか……』
「……2B、君は先に脱出経路を確保しておいてくれないか?メタルギアの破壊は俺がやる」
「……分かった」
―――人形たちは考える。なぜ人類という存在は太古から同族同士で
「よくここまで来たな2B、ソリッドスネーク!!」
「―――あ、貴方は……!!?」
「私がFOXHOUND部隊総司令官……そしてこの要塞アウターヘブンの首領、ビックボスだ!!」
「ア、アウターヘブン首領……!?そんな……どうして……!?」
―――人形たちは考える。自分たちが居なかった20年という月日の間に、彼の身に何が起こったのかと。
「お前とスネークをここに送り込んだのも、嘘の情報を持ち帰らせる為だった……」
「つまり情報撹乱しようとしたのか……!」
「しかしお前たちはグレイ・フォックスを始めとした捕虜たちの解放、ペトロヴィッチ博士やその娘エレンの救助、そしてお前たちに立ち塞がった私の部下たち全てを倒した挙句、最終兵器メタルギアを破壊し、この基地の自爆装置を起動させるという
「くっ……!!」
「……後数分でこの基地は煙と消え、私は全てを失う。だが、私はただでは死なん!せめてお前たちを道連れにしてやる!さあ、来い!!」
―――その戦いの果てに彼ら彼女らは一体何を失い、何を得て、何を悟るのか―――
「……どうした?お前は……脱出しないのか?」
「……私はすぐに転移して元の世界に戻れるから問題無い。それより貴方は……」
「ん……?」
「……貴方は、私の知ってる“ボス”じゃありませんね?」
そして―――全ての真実を知った人形たちは何を思うのか。
「―――私は貴方を……あの人の役割を貫いた貴方を心から尊敬します。―――人類に栄光あれ」
METAL GEAR ありえたかもしれないもう一つの擬史
余裕があれば書く……かも。
2Bって普段は不器用なのに戦闘関連になると器用になりそうですよね。
というわけで今回のお話、いかがでしたでしょうか?
なるべく登場人物たちの言動などが脳内で再生しやすいように書いてみたつもりですが……もしかしたら少し分かりづらい所もあるかもしれません。その場合は問答無用で質問なり意見なり言ってください(笑)
最後のあの予告に関してはちょっとした遊び心で書いてみました。正直書くかどうかは未定です(仮に書くとしてもニーア世界のアンドロイドたちは人間を傷付ける事を躊躇ったりすると思うのでかなりグダグダになると思います)
もし次書くとしたら対空機関砲破壊とかかなぁ……?その時はまた2Bで書くと思いますが……。個人的にはA4で書いてみたいと思ってたり(2B、9S、A2の次くらいにA型四号が好きです)。
どちらにしても書いてほしいって声が多ければ書くと思います。その時はまた読んでやってください(笑)
では今回はこれにて……誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!