カーナ? サラマンダー? 何それ?
とりあえず美少女王女様のために頑張……れなかったよorz
「大人になるって悲しいことなの」
目の前が真っ暗になった。
がっくりと膝をついた俺は、遠ざかっていく二つの足音を聞きながら、これまでのことを走馬灯のように思い出していた。
そう、全ての始まりは俺が死に、新たにこの世界で生まれたところからだ――。
☆ ☆ ☆
前略、普通の中学生だった俺は一度、死んだ。
『手違いだったから好きな世界に転生させてやろう』
神様の甘言に乗せられ、俺は希望を口にした。
行ってみたい世界といって最初に思いついた世界は、そう。
『グラブル? 何だそれは?』
『あー、えっと……空に浮かぶ島がいっぱいあって、俺は空を駆ける戦士なわけよ。で、召喚獣を操る美少女と仲良くなったり……』
『なるほど。だいたいわかった』
ひゃっほう! さすが神様、話がわかるぜ!
というわけで、目の前が真っ暗になったかと思ったら、次の時には俺は「この世界」に転生していた。
☆ ☆ ☆
あれ、ちょっと違くね? と気づいたのは十歳の頃だった。
「星晶獣? 何だそれは?」
とある国で騎士をしていた親父に尋ねても、返ってきたのは素っ気ない言葉だった。
「え? でもここって空の上なんだよな?」
「だからどうした?」
いや、だからどうしたと言われても。
「じゃあ、エルーンとか、ドラフとか、ハーヴィンとか……!」
「何だそれは?」
……あれえ? 神様間違えてね?
いや、まあね? 生まれた土地がザンクティンゼルじゃなかった時点で「おかしいな?」とは思ったんだよ? どこだよカーナ王国って。知らねえよそんな国。
「ビュウ、そんなことより剣の稽古はどうした。ここのところサボりがちだろう」
「あー、うん。まあ、そのうち?」
「そんなことでどうする。お前もいずれは騎士になって、王様や姫様をお守りせねばならんというのに」
ん? 姫? 姫って言いました?
「詳しく」
「お、おう」
何でも、王家には俺と同い年の姫様がいるらしい。
名前はヨヨ。お后様に似た美少女で、成長すればかなりの美女になると言われているらしい。なんていうか、そういうことはもっと早く言ってほしかった。
「親父、俺、もっと修行を頑張るよ」
「お、おう」
その日から俺は心を入れ替えて頑張った。
頑張ったんだけど、何故か両親の反応は心なしか冷たくなった気がした。
☆ ☆ ☆
「ビュウ、こっちに来て」
「はい、ヨヨ様」
二年が過ぎ、十二になる頃には王宮への出入りを許されるようになっていた。
もちろん親父と一緒なのが条件だったけど、いったん入ってしまえば子供同士で話もできる。最初に会った頃は警戒されていたけど、話すうちに打ち解けることができた。
仮にも王女とサシで話せるんだから破格の待遇ではある。
騎士団長に理由を聞いたら、親父の信用を挙げられると同時に、「お前は嘘がつけるように見えない」と言われた。よくわからないが褒められたので「ありがとうございます」と返しておいた。
ともあれ、重要なのはヨヨと仲良くなれたことだ。
王女である彼女の傍には歳の近い者が殆どいない。
つまり、俺は数少ない幼馴染! これはもう、この娘がヒロインと見て間違いないだろ?
「ねえ、ビュウ。私ね、一度でいいから空を飛んでみたいの」
「空、ですか?」
「ええ。それでね、あなたはサラマンダーに懐かれていたでしょう?」
「ええ、まあ」
サラマンダーとは王家所有の竜の名だ。
カーナ王家には戦竜隊という特殊な部隊があり、サラマンダーはその象徴。竜を駆り、乗ることができるのは限られた精鋭だけなのだが、俺はどういうわけかこいつに懐かれていた。
最初の頃は会うたびにビビってたので、舐められてるだけかもしれないが。
「だから、私たち二人だけで……ね?」
「え、ですが、竜の飛ばし方なんて殆ど素人ですし、何より許可が」
「お願い」
「かしこまりました!」
で、折を見て決行。
ヨヨと協力して「二人だけにしても危ないことはしない」という実績を重ね、十分信頼させたところで俺がサラマンダーの檻へ。
こいつと遊ぶのはもういつものことだったので、鍵を貰うのは訳なく。
「よし、サラマンダー、飛べ!」
どういうわけかサラマンダーも素直に言うことを聞いてくれ、強く羽ばたいた。
「おい、お前! 勝手に何してる!?」
「すみません! 後で必ず返しますので!」
で、隠れて待っていたヨヨと合流、彼女を乗せて離陸。
「凄い……凄いわビュウ。私、飛んでるのね!?」
「ええ。よろしければこのまま、どこまでも行きましょう」
なんて、気障なセリフが洩れたのは気が大きくなっていたせいだろう。
しかしまさか、俺もこの後、あんな風に返されるとは思っていなくて。
「うん。私、遠くに行きたい。ビュウ、連れて行ってくれる?」
飛行するドラゴンの背中はオープンカーなんて目じゃないくらい危ない。
ぎゅっと俺にしがみついたヨヨの身体は柔らかくて、温かくて。
「喜んで!」
俺はそう答え、サラマンダーに命じた。
そうして二人で長い、長い飛行を楽しんだ。戦竜隊の他の竜を駆った騎士たちに連れ戻されるまで、ずっと。
そのときのことは今でも鮮明に思い出せる。
そう、きっとあの時、俺は本気で彼女に惚れて。
絶対に守ると空に誓って。
誓いを違えたつもりはなかったのに!
☆ ☆ ☆
「最近、姫様の部屋から苦しそうな声が聞こえてくるの。何かしら……?」
「ああああああああぁぁぁぁっ!!」
俺は叫び、子供のように泣き喚き、暴れだした。
騒ぎを聞きつけた仲間達がすぐに駆けつけ、俺を三人がかりで羽交い絞めにする。
「止めるなラッシュ! トゥルース! ビッケバッケ! 俺は死ぬ、ここで死ぬんだ!」
「落ち着けビュウ! 死んで何になる!?」
「そうですよ隊長!」
「そうだよ!」
こいつらは俺の頼れる仲間達。
苦しい時、ずっと助け合ってきた、大切な仲間……仲間、なか……。
「ああああああっ、ビッケバッケェ! この裏切り者がぁ!? 一人だけ大人になりやがって!」
結局俺は荒れに荒れ、気づいたらベッドに寝かされていた。
「大丈夫、ビュウ? ビュウが死んだらワシ、悲しい」
看病してくれているのはジジイだった。死にたい。
でも死ねない。
いつの間にかカーナ戦竜隊の隊長となった俺は、王家のために戦い続けなければならないのだ。
大事なヨヨ、姫様は寝取られたけど!
寝取られたけど!
……いっそ殺せよ畜生。神様なんてもう信じないからな。
的な作品が読みたいです。
誰か続きを書いてください。