IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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戦兎「太陽さんさん!ウーッ、マンボッ!はいマラカスしゃかしゃかー!」
一夏「サンバか」
戦兎「ひっひふーひっひふー!いきんでー!」
一夏「産婆か」
戦兎「では前回出てきたのは?」
一夏「三馬鹿」
シャルル「待てや、ごら。俺もいただろうが。…――――つか三羽烏な。三馬鹿だけども」
三馬鹿ラス「「「カシラヒデェ!?」」」
一夏「うわぁどっから入って来たお前ら!」
シャルル「つかなんだこの女。なんでサンビスタのコスプレしてんだ?頭おかしいんじゃねーの」
戦兎「ヒデェ、そこまで言う!?ちょっとしたお茶目なのに…」
シャルル「んじゃ読んでるヤツにあらすじ。仮面ライダーグリス爆誕。変身者は俺、シャルル・デュノア。えらーい人だ」
戦兎「それは別人だ!」
一夏「全然あらすじになってないな、ゾクゾクするね…」
戦兎「それも別人だ!」
一夏「お前ら、まだあらすじで遊んでんのか?」
戦兎「人ですらない…」


第三十九話 『黄金のレイヴン』

「仮面ライダー……」

「グリス……だと?」

 

 突然現れた、因幡野戦兎の知らないドライバーで変身した仮面ライダー、『グリス』。

 

「ふっざけんな、仮面ライダーは愛と平和(Love & Peace)を守る正義の戦士の名だ。この学園を破壊するような人間が名乗って良いもんじゃない…!」

「いいや、何も間違ってない。俺の正義は、戦い勝利を得ることだ。お前たちは平和という安住の過去に縛られた、遺物に過ぎない」

 

 ビルドたちの正論に、皮肉たっぷりに返すグリス。天才科学者に対しても物怖じすることなく、随分口が回るようだった。

 

「戦争屋め…」

「俺が行く、戦兎さんは暫く休んでろ」

「そーいう訳にいかんでしょーよ、これ…!」

 

 クローズたちが前に出るが、黄金の仮面ライダーはどこ吹く風。彼はゆっくりと歩を進め、後ろで倒れ込んでいるハードスマッシュたちに釘をさす。

 

「お前らは手ぇ出すなよ……俺にも楽しませろ」

「「「はーい、カシラァ」」」

 

 その注意に素直に従い、各々胡坐や体育座りする怪人。彼はその様子に“よし”と頷くと、さらにIS学園の仮面ライダー達に向き直り、一つ提案をした。

 

「途中参加した詫びだ。お前等、一撃ずつ俺に当てていいぜ?……――――オラ、殺す気で来い」

「な、…本気か?」

 

 腕を開き、攻撃するつもりの無いことを示すグリス。コレが平凡な人間が言ったのであれば、身の程知らずと鼻で笑い飛ばすところだったのだったのだが。

 

「…――――来い」

「ッ!?」

「…やべぇ、こいつの覇気、ナイトローグなんか比じゃ……」

 

 対峙していた二人には嫌というほど分かった。グリスに変身するシャルルという人物は伊達や酔狂では無くそれ相応の実力者。

 それも織斑千冬と同等、と言っても差し支えないほどだった。

 

「どぉした……来ねぇのか?」

 

 さらにゆっくり、煽るように近づいてくる黄金のライダー。

 

「くっ…!イチかバチかだ……一夏!コレ!」

「あんたは少し休んでてほしいんだがな!もう限界だろ…!」

 

 ビルドから忍者フルボトルを受け取ったクローズはビートクローザーにセットし『グリップエンドスターター』を三度引く。

 

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 一方のビルドはロックフルボトルをドリルクラッシャーに装填し、ドリルの剣先に黄金のエネルギーを溜めだした。

 

【ボルテックブレイク!】

【メガスラッシュ!】

 

「「ハァァッッ‼」」

 

 勢いよくグリスのボディに振り下ろされる紫金の二振り。鍛え抜かれた肉体と技量から繰り出されるその一撃は、音さえ追い抜き敵を穿つ。

 三重にブレた剣先と封印の効果を持つ攻撃が、黄金の仮面ライダーに当たった。

 

 

――――ガギィィンッッッ……

 

 

 その直後だった。頑強な鋼を破壊しても出ないであろう鳴動が轟いたのは。

 

「こぉんなモンか……、全っ然足りねぇなぁぁぁぁ……」

「はっ?」

「んな……っ!?」

 

 疲労が蓄積されていたとはいえ、二人の攻撃に毛ほどにもダメージが入っていなかったグリス。彼はつまらなそうに腕を下げると首を回して、関節を鳴らす。

 

「んじゃ、今度はこっちだな?」

 

【ツインブレイカー!】

 

 片手にパイルバンカー型の武装をゲルのようなエフェクトと共に出現させた。彼は駆動音を鳴り響かせながら“それ”を二人に向かって突き動かす。

 

 その一撃は龍の灰色の鱗殻(グレースケール)さえ打ち砕く。

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

「くおぉぉぉ!?」

 

 一撃で後方へ弾き飛ばされる仮面ライダーたち。黄金の仮面ライダーは興冷めだと言うふうに頭を振る。

 

「お前等、殺し合いやってる自覚……あんのかぁ?ライダーシステム(コレ)はこう言うためのモンなんだろ?違うのか?」

「……っ、ライダーシステムを……、軍事兵器に…!?ふざけるなよ……!」

 

 グリスの言葉に反応したビルドは科学が戦争に使われているのに怒りを感じる。だが、黄金のソルジャーはどこ吹く風。

 

「あぁ?何抜かしてやがる、ビルドの女ぁ……。ナイトローグも“戦争の始まりだ”って言ったよなぁ……」

 

 ビルドの頭部のアンテナを握り、無理矢理立たせ殴りつける。

 

「もう祭りは始まってるんだよぉ!オラァッ‼」

「うぅ!?うぐぁぁぁっ‼」

 

 腹部に何度もパンチを浴び、地面を無様に転がるビルド。

 

「がは……、ぐふ……祭り…――――だと……?」

「俺たちゃ戦場を渡るカラスだ、俺たちの背中には死神が憑いてる……。地獄の祭りの始まりだ…!」

 

 グリスは心底楽し気に言うと片手に緑色のボトルを取り出し、ドライバーに装填しレンチを下げる。

 

【ディスチャージボトル!】

【潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 力強い音声と共に右手からゲルが噴出し、プロペラの羽を形作る。

 

「どんどん行くぞ、コラァ」

 

【ビームモード!】

 

 グリスは専用武器の『ツインブレイカー』のビーム発射口を前方に向かせた。彼がそこからビームを放つと同時、さらに右手のプロペラを回転しだす。

 

「くっ……うぉ!?」

 

 ヘリコプターフルボトルの飛行能力で上空の利をとったグリス。三羽烏を束ねるその名に偽りはなし、自由自在の高速機動を以って仮面ライダーたちを蹂躙しだす。

 ビルド、クローズに縦横無尽にキックやビーム攻撃を仕掛け、周囲には光弾や衝撃が殺到する。

 

「ぐっ、こいつバカみてぇに強ぇぞ…!流石にヤバくねぇか、戦兎さん!?」

「分かってる……ッ!」

 

 遂に耐え切れなくなり、火花をボディから弾けさせ倒れ込む二人。勝負はあった。

 だがグリスは無慈悲にも、攻撃の手を緩めない。ツインブレイカーにドライバーにセットしていたボトルを挿入する。

 

「オラ、食らえ」

 

【シングル!】

【シングルフィニッシュ!】

 

 発射口から放たれたプロペラ型のエネルギー体は、高速回転しながらビルドたちに命中した。

 

「がぁぁっ!」

「うわぁぁぁぁぁっ‼」

 

 爆風と共にIS学園生徒が避難していた場所まで吹き飛ばされた二人。ビルドは変身が解除されてしまうほどの大ダメージを負っていた。

 

「戦兎さん!……ッ!?」

「……民間人がいる所で戦いたくはねぇんだが、仕方ねぇか」

 

 グリスは非情にも言い放つ。その言葉から、クローズは現在進行形で生徒たちを危険に晒していることに気が付き血の気が引いた。

 

「終わりだ……、過去の仮面ライダー」

 

 手向けの言葉と共にゼリー飲料のようなアイテムを再びセットし、レンチを力強く押し下げる。彼の無慈悲さは、正しく地獄の宴を愉しむ死神。

 

【スクラップフィニッシュ!】

 

 肩の『マシンパックショルダー』が可動し、後ろに猛烈に黒いゼリー状のエネルギーを噴出する。

 その姿はまるで黒い羽根を広げたカラスの如く、凶つなる災いを運ぶ鳥。グリスが前に突き出した脚は黄金の輝きを纏い、必殺の一撃(ライダーキック)の力になる。

 

「くっ……」

 

 身動きが取れない戦兎は呻く。思わず駆け出した千冬はIS『打鉄』を展開しようとするも、間に合わない。

 

 戦兎は思う。ナイトローグが告げた科学の悪性を思い出す。彼女は言っていた、人間はどうしても力を使わずにいられないのだと。その力を使って、人間同士で諍いを起こさずにはいられない。

 どうして、戦いをやめることはできないのか。なぜ、こうも人に不幸が、死が降りかかってくるのか…――――。

 “オレ”は、その答えを解き明かせていないのに…――――。

 

 

「ッさせっかぁ!」

「んん?」

 

 走馬燈が走っていた戦兎の脳裏に、勇ましい声が届く。

 

「ッ、一夏!?」

 

 前に出たのはクローズ。ボロボロの身体に鞭奮い、ビートクローザーをグリスの足にぶつけ、全身全霊で相手の力を受け止める。

 

「ぬっ……ぐっ、おぉぉぉぉ‼」

「一夏!」

 

 苦悶の声を上げるも、徐々に押されていくクローズ。見ていられなかったのだろう、青空の装甲をもつライダーに声をかける箒。

 

「頑張ってくれ……!負けるな…!」

 

 それを皮切りに一夏に声をかける仲間達。

 

「一夏さん!気をしっかり持ってくださいませ!」

「一夏ぁ!気合い入れなさい気合ぃ!そんなもんじゃないでしょうが!」

 

 親友たちだけではない。

 

「織斑君…!」

「おりむ~、ふぁいと~!」

「信じてるわよ!」

「負けないで……!」

 

「「「頑張って!」」」

 

「…!」

 

 それは、彼の人となりをよく知っている人たちの声。皆と交流し、短い間ながらも彼を知った少女たちの思いの形。一緒に小さな喜びを慈しみ、小さな困難に共感してくれた彼の優しさを知る生徒たちの声。

 だんだんと声援が大きくなっていく中で、彼の蒼き炎が燃え盛る。『信じてくれた者たち』のために戦う彼の心が迸る。

 

 

 黄金の疾風(ラファール)の如きグリスの突進が、止まった。

 

 

「……なに?」

「…ッ!ぐぅおおおおおっ‼」

 

 その隙を一夏は見逃さなかった。剣を大きく弧を描くように振り抜き、グリスを上空へと弾き飛ばす。

 

「おぉりゃぁぁぁぁぁ‼」

「うおっと!?」

 

 黄金のライダーの黒翼を霧散され、背中から勢いよく地面に落ちる。それで限界だったのだろう、クローズは疲労困憊な身体をビートクローザーで支えざるを得なかった。

 その時、一夏は気が付いた。グリスの身体が微かに、だが確かに震えていることに。

 

「……、あん?どうしたお前……、っ!?」

「……――――クッ……!クハッハハハハハァァァァァ!」

 

 突然跳ね起きた黄金の仮面ライダー。彼の声は歓喜に満ちていた。マスクの下の顔も、狂喜乱舞しているのが見て取れる。

 

「いいなぁ、ゴラァ!お前ぇ、確か仮面ライダークローズの……“織斑一夏”だったなぁ‼気に入ったぁッ、ハッハハハハハッ‼」

 

 舞台俳優の様に天を仰ぎ、腕を蒼穹に掲げ、喜びに打ち震える仮面ライダーグリス(シャルルという青年)

 

「お前、分かるぜ?俺と同じだ……戦いの中でこそ輝ける!なぁ違うかぁ戦友(とも)よ!?」

「あぁ?何言ってんだてめぇ!ハァ‼」

 

 息も絶え絶えに剣を振るうクローズ。だが、グリスは先程までと全く違う。スイッチが切り変わったように強くなっていた。鋭い闘気が周囲の空気を切り裂いている。

 

「ツれねぇなァ。もっと戦おうぜ?」

「っ、御免だよ!」

 

 グリスに片手でビートクローザーを受け止められたことに驚くも、竜の戦士は間髪を入れずに空いた左手で殴りつけた。

 グリスはそれも受け、一瞬身動く。甘露で喉を潤す流浪の旅人のように。

 

「あ゛ぁ……こうして感じる力が!痛みが!殺し合い(戦い)をやってる時が!生きているって感じがするよなぁ‼」

「っの、バトルジャンキーが!」

「ハァ……、どうした、もっと俺を満たしてくれ……。もっと俺を楽しませろぉぉぉ‼」

 

 彼はサバットの動きで蹴りを放ち、クローズを地面に叩きつける。

 

「至高!最高!最上!」

 

 天を仰ぎ叫ぶグリス。クローズは転がりながら態勢を立て直す。

 

「俺が求めていたのは!こういう!祭り!なんだよぉぉぉっ‼」

「……ッ野郎!」

 

 二人とも形は違うがドライバーのレバーに手をかけ、必殺の一撃を放とうとする……。

 

【スクラップフィニッシュ!】

【ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 黒翼を持つ黄金の仮面ライダーと、蒼炎を纏った龍の仮面ライダーの互いの右足がぶつかり合う。

 その拮抗は凄まじいエネルギーの余波を周囲に放出する。

 

「はぁぁぁぁぁ‼」

「うおぉぉぉぉ‼……がっ!?」

 

 

 

 …――――空中で、青い龍が狂鳥に穿たれた。

 

 

 

「ぐ、ゥ…!」

 

 空中から放り出され、変身解除されてしまった一夏。頭や唇から血を流し、白いIS学園の制服を土と血で汚している。

 

「楽しかったぜ……、なぁ戦友(とも)よ」

 

 ゆっくりと近づき、ツインブレイカーを一夏と戦兎に向ける黄金の仮面ライダー。戦兎の近くに落ちていたガトリングフルボトルを手に持つ。

 

「駄目!」

「箒……!?バカお前……っ!?」

 

 それを遮るように右目に包帯を巻いた少女が庇うも、グリスは一瞬逡巡しただけだった。

 

「戦場に出てくんなら…――――それ相応の覚悟ってヤツ持ってんだろうな、女」

「…ッ!一夏は、殺させない…!」

「…そうか。ならお前から送ってやる」

 

【シングル!】

 

 拾ったフルボトルをツインブレイカーにセットする。そして右手でサムズダウンし、地面を指し示す。

 今からお前が行く場所はそこであると。

 

「さぁ…、先に地獄を楽しんでな」

「箒…!?ッ止めろ、テメェェェェェェッッ‼」

 

【シングルフィニッシュ!】

 

 グリスは躊躇うことなく弾丸を発射した。

 

「グリス、お前ッッ…待てぇッ!」

「やめろォォォォォォォォォォッッッ‼」

 

 戦兎は打ち倒された無力に哭く。一夏は声が枯れんばかりに叫ぶ。大切な人間を目の前で失いたくない。その一心で懇願する……――――。

 

 

 

 

「…――――。あん?」

「ッ…――――あれ?攻撃が…来ない?」

 

 グリスが困惑した声が聞こえた。痛みが来ないと気が付き、何事かと箒が目を開けると…――――。

 発射された弾丸は空中で停止している。

 

 

「AICだ。それが実弾の特性を持っていて助かったな。篠ノ之束の妹」

 

 

 一夏や箒の傍には、漆黒のISを纏う銀髪の少女が立っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…?」

 

 銃弾が停止していた空間が歪み、鋼色の光弾がグリスに向かって跳ね返る。これがドイツ軍が開発したインフィニット・ストラトス『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載された機構、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー…――――慣性停止結界である。

 

「織斑一夏。別に貴様らを助けたわけでは無い!それよりも……!」

 

 怨敵のように仮面ライダーを睨む『漆黒の雨』の操縦者、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

「貴様、仮面ライダーとやらだな?ならば私と戦え、黄金のソルジャー……!」

 

 その無茶に戦兎が息を切らせて制止の言葉をかける。

 

「やめ、ろ……あのライダーは別格だ…!第三世代ISじゃ、対抗できるのは…、わずかしかいなよ…!」

「黙れ!私は強者であり続けなければならない……だから仮面ライダーなど認めない……!」

 

 忌々し気に言葉を吐き捨てるラウラだったが、一方の仮面ライダーは、ここにきて初めて動揺を見せた。

 

「!……お前等、退くぞ」

「え……カシラ?ボトルは……」

「いーんだよ、後から乱入しておいて戦利品を奪うのはポリシーに反するしな……」

 

 そう言うとツインブレイカーにセットしていたフルボトルを放り捨て、代わりに白いボトルを取り出す。

 

【消しゴム!】

 

「……っ!おい待て、貴様……オイ!」

 

 ラウラの声も聞かず、ドライバーにセットしレンチを下げるグリス。

 

【ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 金色の腕からゼリー状のエネルギーが噴き出すと、空中で消しゴムに変化する。それを操り、自分たちの存在を消すことでグリスたちはその場から逃げ去ったのだった。

 IS学園に残されたのは破壊の跡と、敗北した二人の仮面ライダーのみ。

 

「逃げた、のか…」

「助かっ、た……ありがとうな、銀、髪……」

「あ、もう…げんか、い…」

 

 一夏は感謝をラウラ・ボーデヴィッヒに言うも、急に意識が深く深く暗転し荒砂の大地に倒れ込んでしまう。戦兎も堪えていた身体ダメージが限界に到達し、蹲ざるを得なかった。

 

「っ、だから貴様の為ではないと言っただろう織斑一夏、ッ……!?オイ、気絶か!?最後まで聞け!本当に貴様の為ではないのだからな‼」

 

 怒りながら一夏に掴みかかろうとするラウラの顔には、でかでかと不満であると表れていた。しかし、彼女の頭にゲンコツが落ちる。

 

「ラウラ、そして箒!何故勝手なことをした‼」

「…っ、それは……」

「きょ、教官!?しかし……」

 

 怒り心頭な織斑千冬がラウラと箒に詰め寄った。それはもう怒髪天を突く勢いであった。

 あまりの剣幕にしょぼんと顔を伏せるラウラ。箒も咄嗟にとってしまった行動の愚かさに眉をしかめていた。それを見て、逆に千冬も冷静になる。息を整えると、一先ず今後の処罰を事務的に彼女らに伝え始めた。

 

「……ボーデヴィッヒ、そして篠ノ之、貴様らは勝手な行動をとり、自分や生徒を危険に晒した。後で生徒指導室に来い……――――良いな?」

「…はい」

「……、はっ……」

 

 気絶した戦兎や一夏が担架で運ばれていくのを見送ると、千冬はくるりと後ろを向いて、話は終わりだとばかりに立ち去ろうとする。

 …――――だが最後に、彼女はこう一言を付け加えた。それは教師としてではなく、一人の人間としての言葉だった。

 

「だが、それと……ありがとう」

「……――――は?」

「……一夏を助けてくれて、感謝する。二人とも」

 

 顔を上げたラウラは、彼女にとって絶対の教官の顔を見る。織斑千冬は箒とラウラを見て、薄っすらだが優しく微笑んでいた。

 だが、それも一瞬のこと。彼女はいつもの鉄面皮に戻ると、スタスタと生徒たちが避難していった方向へ立ち去って行った。

 

 

 

 その場に残されたラウラの頭の中は、憧れである“強者である織斑千冬”の顔と“優しく微笑んだ姉としての千冬”の顔がせめぎ合っていた。

 

(また、あの顔……!強者である教官にふさわしくないあの顔だ!織斑一夏(かぞく)と言う存在のどこが……!)

 

『ありがとう』

 

「……?」

 

『感謝する』

 

 二つの言葉がラウラの心の中に沈んで行く。それは今まで感じたことの無い柔らかなモノだった。

 

(何だ?この感覚は……。体から今まで築いてきた力が抜け落ちていくような……)

 

 だが、その感情を知らないラウラは、まずその感情を“恐れた”。

 

(……いやだ!また弱い自分に戻りたくない!またあんな目で見られたくない!そうだ、……――――だから、私はお前を否定する!教官の為に……教官から再び完璧な力を授けていただくために……今に見ていろ織斑一夏!)

 

 そして、未だ孤独な銀色兎は冷徹な表情に戻る。憎しみと、ほんの少しのどうすればいいか分からない迷いを力に変えて、彼女は強く手を握り締めたのだった。

 彼女の心に雨が降る。しとしと黒い雨が降る。未だ、彼女の心が安息に晴れることはない。黄金の太陽を求めて、絶対の力を手に入れようとする。

 そんな力では、暗雲を掻き消すことはできないというのに…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、黄金の仮面ライダーと三羽烏はどうなったかというと。

 

「カシラァ……どーして撤退したんですかぁ?」

 

 散髪屋『バーバーイナバー』の空き部屋に下宿と言う形でやって来たフランス組。ルージュがリーダーの撤退の指示に不服を申し立てている。

 

「アレは、間違いない……」

 

 だが、今の彼に聞く耳は無い。彼女の質問に答えず、携帯電話を取り出すシャルル。そのスマホは、ある人物の写真がホーム画面に設定されている。

 

―イメージ画像です♡―

 

『はぁーい、みーんなのアイドルッ♪くーたんだよっ♪』

 

 

 

「……――――くーたんだ~♡」

 

 手を握り合わせ、メロメロな表情でシャルルは叫んだ。

 

「「「だぁぁぁぁぁ!?」」」

 

 思わずずっこける三羽烏。そう、カシラの携帯の待ち受けには、輝くような銀髪にくりくりとした赤い目、片手にウサギの『うーたん』を抱えたネットアイドル…――――『くーたん』が天使の笑顔を浮かべていた。

 

「でたよ、カシラのアイドル好き……。いや、私らもファンだけどさ……」

 

 ブルはため息をつくものの、シャルルの心火は消えることは無い。彼女が映っている携帯を頬ずりし、出会えたことに歓喜するシャルルなのだった。

 

「……でもくーたんって眼帯キャラだったっけ?イタくない?」

「馬鹿野郎!」

「へぶぅ!?え、何でウチ殴られたのカシラ?」

「そりゃお前アレだよ!盗んだトラクターで走り出したいお年頃なんだよ!」

「いや、カシラ。トラクター乗り回すの田舎に住む百姓の私らだけでしょ、くーたん日本人なんだからせめてバイクですよ」

「……つまり中二病?へびゃ!?」

「それが推しの黒歴史になるとしても俺達は温かく見守る!それがファンとして、いいや人間として当然のマナーだろうがぁ!違うかお前等ぁ!」

「「「お、おぉぉ……」」」

「返事ぃ‼」

「「「お、おぉぉぉッ‼」」」

 

 床屋の二階に間の抜けた返事が響いたのであった、まる。




 やっぱこうなったか……(確信犯)。男シャルにした理由ですが、このままじゃ一夏の肩身が狭いのとネタキャラにした時のギャップがこっちの方が強いという……あっやめてゴミ投げないで!自分でも大博打うった感あるのは分かってますから!


※2020/12/28
 一部修正

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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