IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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戦兎「仮面ライダービルドでありてぇん↑さい↓科学者の因幡野戦兎は、ナイトローグである宇佐美 幻との激闘を制した。だが……」
宇佐美「お前だよ因幡野戦兎、お前がISを造った天災、『篠ノ之束』だ……!」
戦兎「すごいことになっちゃったよ!?まさかの衝撃展開にスパークリングフォームの印象が薄れるでしょうが!もう……早く第四十三話見せて!」



第四十三話 『因幡野戦兎をジャッジしろ』

「…………オレが……――――篠ノ之、……束……?」

 

 虚空に、声が響いた。

 

「戦兎さんが、束さん……だって……?」

「貴女が……?まさか……、本当に……?」

 

 

 あまりの衝撃に声もない三人。沈黙が支配したそこに、赤いトリックスターが降り立った。

 

「やれやれ、宇佐美……。説明を全部俺に任せるって、嫌がらせか?」

「……スターク?今言ったことって」

 

 敵であるにもかかわらず、戦兎は聞かずにいられない。茫然とした顔は、次第に青くなっていく。

 

「あぁ、全て真実だ」

 

 長髪を揺らしながら、スタークの変身者は宇佐美の言ったことを肯定する。

 

「織斑一夏、以前に見せたことがあっただろう?俺はあらゆる物質を操作し変化させることができるんだよ……こう言うふうにな」

 

 すると、戦兎に瓜二つだった『彼女』の顔が煙に包まれ、黒髪の切れ目の美麗な女性に変化する。

 

「ッ!千冬姉の、顔に…!」

「『織斑先生と呼べ、馬鹿者……ってな?似てた?』」

「声まで…!」

 

 鉄面皮な千冬が茶目っ気たっぷりに笑う様子は、三人にとって違和感でしかない。彼女の目の奥で爛々と赤い炎が揺れ動く。

 

「『他にも……よっと!』」

 

 『彼女』の黒髪が根元から紫に変色していく。鋭い目つきが柔らかく、そして抜け目なく細められる。申し訳程度に、メカニカルなウサ耳カチューシャが虚空から生み出された。それを被る織斑千冬だったモノ……もとい、天災(・・)

 

「『ほーきちゃん、ごめんね!今まで君を守っていたのは因幡野戦兎センセじゃない、束さんだったのだよ!どうどう?驚いた?驚いたよね!ブイブイ!』」

 

 おちょくるような言い回しで、因縁深い少女に詰め寄る『篠ノ之束』。あまりにもおぞましい行為だった。何よりも有意義な皮肉であった。ひっ、と箒が息をのむ。

 

「ッスターク!その顔で箒に話しかけるんじゃねぇ…!」

「『あー?いっくんもちーちゃんに似てきたねぇ…。束さん哀しい!……ほいっと』」

 

 流石にこれ以上火に油を注ぐつもりのないらしい。天災の擬態を解くと、『彼女』は別の人間に変化する。

 髪はアッシュグレイに、そして顔は中性的に、トレードマークのパナマ帽が煙の中から現れた。

 

「今度は、惣万にぃに……!」

 

 惣万の身体に『変わった』スタークは、手で何か言おうとする一夏をたしなめ、話を続ける。

 

「話を戻そうか、一夏。数年前、篠ノ之束は我々ファウストの存在に気が付いた。何でも、篠ノ之束の考えていた計画の邪魔になると踏んだらしいな。だから我々を壊滅させようとした……――――だが結果はこの通りだ」

 

 つまりそれは、篠ノ之束ではファウストに勝てなかったことを意味していた。それを聞いて一夏や箒は驚く。曲がりなりにも世界最強の戦乙女と互角に戦える篠ノ之束。彼女でもなすすべがなかったというのか。

 

「ファウストでは篠ノ之束を殺すべきだ……と言う意見も出たが、俺は心優しいんでね。篠ノ之束の顔を別人に変えてから、脳細胞を操作し天災としての記憶を抹消した」

 

 戦兎の頭の中に記憶がフラッシュバックする。

 タイムクリスタルを弄るエプロンドレスの裾が見える。パソコンをタイプする視界に紫色の髪がかかる。

 反射するPCに、自分の顔が映る。その顔は、不健康そうな肌をした天災『篠ノ之束』のもの。

 

「ッッ――――!?」

「おぉ、記憶の一部を思い出したようだな」

 

 喜ばし気に拍手する惣万。苦労が偲ばれるのか、顔は優しく綻んでいる。

 

「俺たちはお前の細胞遺伝子を戦闘用に改造強化した。そしてネビュラガスを体内に投与し、街へ送り出してやった……。そうしたら面白いことに、お前はIS学園に勤めているというじゃないか。いや全く、お前はISと切っても離せない関係なんだな……、『篠ノ之束』」

 

 そして混乱の坩堝にいる戦兎に顔を近づけ、彼女の肩を叩く。

 

「な?分かったろ?お前を篠ノ之束から因幡野戦兎にしたのは……――――俺だ」

 

 惣万は人懐っこい笑みを浮かべ、自分を指さす。それに再び激怒する一夏。

 

「お前……!惣万にぃの顔で戦兎さんを嘲笑うんじゃねぇ‼」

 

 拳を握り締め、惣万に殴り掛かるもサッと後方に下がり避けられる。

 

「嘲笑う?いいや?むしろ済まないと思っていたが?それに感謝して欲しい。お前は善人の心を手に入れ、過去の過ちを知らずに平和に暮らせていたんだ。天災としての道を歩んでいたら、人の為に戦う……なんてことはしていなかっただろう?」

 

 戦兎は反論することができない。篠ノ之束だった記憶は無いモノの、その所業は知っていた。

 その罪が、無垢な彼女を苛んでいく。彼女自身の支えとなっていたものが、蝕まれ始める。

 

「それと忠告だ、気を付けろよ?もう間も無くインフィニット・スマッシュの群れが日本に上陸する……。それと対等に戦えるのは仮面ライダーだけだ。お前たちしか人間を守れるのはいないんだよ」

「ふざけるな、どの口が言っている‼お前たちがあのISの化け物を創らなければ良かったんだろうがぁ‼」

 

 日の落ちた倉庫街に、一夏の怒声が木霊する。

 

「ハッハハハハ!それを言われちゃお終いだ、でも俺じゃどうすることもできないしなァ。んじゃ、頑張ってくれよ……Ciao♪」

「おいてめぇ…!オイッッ!」

 

 一夏の制止の声も空しく響く。惣万は大きく跳躍し、倉庫街から姿を消した。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

惣万side

 

 あーぁ、本当にスタークっぽい悪役ロール疲れるわ……。しかも別人だと思ってる一夏にこっぴどく怒鳴られた……。

 分かってたこととは言え凹むなぁ……。エボルトって感情を得たら戦兎の怒り狂う顔が見たくてスタッグロストスマッシュの人を殺したんだろ?俺には理解できねぇわ。

 

「さて……、今度は一夏たちを迎えに行ってやるか」

 

 そう……、まだ俺は“優しい喫茶料亭のマスター”でいさせて欲しいんだ。何時かお前たちの為に消える運命だとしても……。まだ今だけでは……。

 

【ドライヤー!】

 

 劇中の西都のボトルの一つである赤いボトルを取り出すとトランスチームガンにセットし、トリガーを引く。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 白煙が俺の体を包み……ん?熱……あっつ!?滅茶苦茶熱いんですけど!?

 

「……だけど、雨水に濡れたとこも乾いたな、これで良し!」

 

 停車させておいたアメ車に乗り込み、車を倉庫街へと走らせる。そして雨がやんだ夜の波止場にたどり着いたのだった……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

三人称side

 

「おーい、一夏、戦兎ぉ?どこいるんだ?」

「……っ、惣万にぃ……だよな?」

 

 身体を濡らした三人の下に駆け寄るポニーテールの人物。それを見て一夏は若干警戒する。

 

「あぁ、そうだけど……?どうした?」

「それがな?スタークが千冬姉に篠ノ之束……それに惣万にぃに化けて出たんだよ。……うん、服が濡れてない。スタークじゃないな」

 

 ほっとしたように胸をなでおろした彼、それを見て喫茶料亭のマスターは小首をかしげる。

 

「そうか……俺に、ねぇ?そういやお前等、千冬から連絡が来たんだぞ?カフェであいつが待ってるから、さっさと謝りに行け」

「うっ……ハイ、惣万にぃ」

 

 一夏はげんなり気味に顔をしかめた。姉の厳しい罰則を思い出していたのだろうか。だが、今それよりも問題だったのは、無言を貫いている“天災”科学者。

 

「……」

 

【ビルドチェンジ!】

 

「あ……戦兎?おい?待て!」

「因幡野、先生…」

 

 短髪の科学者は濡れた髪もそのままに、スマホをバイクに変形させると乱暴に跨った。彼女は混乱した心のまま、一足先にその場を後にしたのだった。

 孤独に唸るマフラーは、酷く震えて何かに怯えているようだった…。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「えと、その…コーヒーです。どぞ」

「あ、あぁ…クロエ、だったな?頂こう」

 

 閉店した店内で、千冬は手を付けていなかったコーヒーを口に含む。生ぬるくなった液体が口腔内を気持ち悪く転がる。どうにもいやな気分がして落ち着かない。そこに……。

 

――――カランコロン……

 

 扉が開くと、ずぶ濡れになったトレンチコートの女性が店に入ってきた。びちゃびちゃになった服から、雫が垂れる。

 

「あれ?戦兎さん?」

「因幡野先生……こんな時間まで一体どこで……」

 

 だが、戦兎はその質問に答えずに千冬を見てたった一言、思い出した言葉をこぼす。

 

「『ちーちゃん』って……白騎士?」

「ッ!?何故それを知っている!?」

 

 思わず机を叩き立ち上がる千冬、コーヒーカップが衝撃でテーブルに転がった。クロエは思わず身を竦ませる。

 白いテーブルクロスに黒いシミが広がる。じわじわと、平安を蝕むように。

 

「やっぱりそうなんだな……オレは、オレは……なんてことを……」

 

 絶望と恐怖が入り交じった目をした戦兎は、逃げるように地下に引っ込んでしまう。初めて見る彼女の憔悴しきった姿に、その場の二人は呆気にとられた。

 

「…、あの、織斑さん?今のって…本当に『因幡野戦兎』さんだってんですか?」

「…」

 

 

――――からん…

 

 その後、喫茶店のベルが鳴る。見れば、一夏や表情を険しくした箒が慌ただしく駆け込んでいた。

 

「千冬姉……――――、戦兎さんの正体が分かった……」

「何……?良かったじゃないか……、?」

 

 そこで千冬は気が付く。一夏や箒の顔色が優れず、全く喜ばしそうに見えなかったことに。

 

「…………――――『篠ノ之束』」

 

 その人物名が自分の友人と頭の中で結びつくのにかなりの時間を要した。そして気が付くも、余りのことに聞き返さずにはいられない。

 

「……は?どういうことだ?」

「だから……、束さんだったんだよ。戦兎さんの正体は」

 

 思わず戦兎が消えた冷蔵庫に目を向ける。熱くも無いのに頬を汗が伝う。

 

「何だと……――――!?」

 

 真っ白になった頭の中から言葉を紡ごうとするも、そんな凡庸な驚きの声しか発せられなかった……。

 

 

 

 

 

 翌日、IS学園にて……。

 

「……まさか……本当にISコアを創ることができるとはな……」

 

 千冬の手の中には透明に輝く結晶体が握られていた。昨日の夜近く、思いつめた顔の因幡野戦兎から無言のまま手渡された結晶、調べてみれば新たに造られたISコアと言う事だった……。それ故、因幡野戦兎は篠ノ之束と相違ない……。記憶を失ったのも顔が変わった理由も一夏たちから聞いた千冬は頭を抱えてコアをいじる。

 

「先輩……このことはIS委員会に報告するんですか……?」

「……いいや、ISの開発者がIS学園にいる、と分かれば各国が何をしでかすか。それに、記憶についてはまだ失われたままなんだぞ?」

「……ですね。そんな状態の人をチャンスとばかりに狙いに来るでしょうね……」

 

 大変な秘密を抱えることになった山田真耶もまた深くため息を吐くのだった……。

 

 

 

 

 一方……。

 

 

 吸い込まれるような青空の屋上……。びゅうびゅうと風が海から吹きすさび、その場にいる女たちの髪を揺らす。

 

――――バチンッ……‼

 

 突然乾いた音が響く。歯をむき出しにした包帯の少女が短髪のトレンチコートの女性に張り手をかましていた。

 

「……ッ、止めろ箒ッ‼」

 

 一瞬呆気にとられたものの、傍に居た一夏は包帯の巻かれた彼女の手を握り、体を押さえつける。

 

「離せっ、離せ一夏ぁ‼この人が篠ノ之束なんだぞ!?この人が、この女がッ…!私の家族をバラバラにした張本人なんだ‼お前に分かるかッ、分かるだろう今の私の気持ちが‼」

「うわぁ!」

 

 だが、一夏の拘束を振りほどく箒。華奢なその身体にどうしてそんな力があるのか疑問を持つほどだった。

 

「箒ちゃん……」

「私をそんな目で見るな!」

 

 思わず謝罪と慰めの眼差しになる戦兎だったが、箒の絶叫で言葉を続けることができなかった。トレンチコートの襟を掴み、涙で充血した瞳で因幡野戦兎(篠ノ之束)を見る箒。

 

「信じてきたのに……!私を守ってくれて、親身になってくれて……!貴女はあの人とは違うと、信じていたのに……!よりにもよって!お前(篠ノ之束)が私から貴女(因幡野先生)を奪っていった!」

 

 その言葉はまさしく血を吐くような叫びだった。言い切ると体から力が抜け、因幡野戦兎に体重を預けながら嗚咽を漏らす。一夏や戦兎はそれを黙ってみることしか出来なかった……。

 

 

 …――――突然箒が泣きやみ、顔を上げる。涙を袖で拭くと、決意を固めた声で戦兎を真っ直ぐ見据えた。

 

「…………私と戦ってください…!」

 

 

 

 

 

「ハァァァァァッ!」

「……ッ!」

 

 面をつけ、道着で対峙する二人。周囲を素早く動き放たれる箒の攻撃を紙一重で避ける戦兎。だが、箒には分かった。今の彼女には全く覇気が感じられない。

 

「何故……篠ノ之流を使わないんです……?」

「……それは、覚えていないんだ」

 

 戦兎は力なく声を絞り出す。今の彼女の脳裏には、自分が篠ノ之束だったことを裏付けるようにISコアの作り方や初めに造り出したISの事が断片的に蘇り…………それが戦兎の心を蝕み苦しめる。

 

「では、何故本気を出さないのですか!私を……片目が見えない女だと舐めてかかっているのですか!?だとしたらそれは侮辱以外の何ものでもありません!」

 

 箒は真剣な声音で目の前にいる因幡野戦兎と篠ノ之束の間で揺れる科学者を叱咤する。そして竹刀を正眼に構えると、ネビュラガスを入れられた一夏に迫るスピードで戦兎に接近する。

 

「ィヤァァァァァァァァッッッ‼」

「……ッ、ハァ!」

 

 上段から迫る攻撃に、思わずカウンターを放つ戦兎。伊達にファウストとの戦闘を経験しているわけでは無い。むしろ篠ノ之束の肉体を遺伝子レベルでアップグレードした戦兎に死角はない。面に一撃が入る前に箒の胴に一撃を入れ、壁まで彼女を吹き飛ばす。

 

「グッ!?……う、うぅ…――――」

 

 一撃で箒をダウンさせると、戦兎は力なく面をとる。そして背後を向いたまま、フラフラと剣道場の扉を開け、弱弱しく口を動かした。

 

「箒ちゃんの言う通りだ……。オレが箒ちゃんを……大勢の人間を傷つけた……――――!」

「おい……おい?戦兎さん!」

 

 罪を認めた彼女は、引き止めた一夏の声も届かずにどこかへと立ち去った。隈だらけの目は、夜を思わせる果てなき闇に囚われていた…――――。

 

「……――――オイ、箒大丈夫か……ん?どうした?」

 

 だが、それでも…――――。

 

「今の、剣は……誰かを守る為の剣……?」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ここにいたのか……随分と酷い顔だな、因幡野先生」

「織斑先生……」

 

 項垂れていた因幡野戦兎に、声がかかる。片手にコーヒーを二つ持ったスーツの女性が戦兎の目の前に立っていた。

 

「となり、良いか?」

「…――――うん…」

 

 二人とも、思うところがあるのだろう。無限に、果てしなく続く蒼穹を眺め、時間だけが過ぎていく。

 口を先に開いたのは、戦兎だった。

 

「オレは……篠ノ之束なんだってさ……――――。親友としてどうよ?」

「全く、昔の親友がこうなるとはな……」

 

 一人は自嘲気味に、もう一人は苦笑気味に薄く笑うと、缶コーヒーのプルトップを開ける。

 

「……笑っちゃうよな~……ナイトローグに聞いた妹を思う気持ちとか、正義を思う心とか。罪が在ったのは全部自分だった……。今の今まで信じていたものが、こうも簡単に崩れ去るものなんだって知らなかったよ……」

 

 再び訪れる沈黙。その中で無心にコーヒーを啜っている戦兎。苦いはずなのに、何も味を感じない。

 しばらくしてから戦兎は視線を落とし、空き缶を指先でつつく。その声音は虚無感を感じさせるものだった。

 

「オレは、何もできなかった…――――、できなかったんだよ、壊すことしかできなかった‼」

 

 

――――私は、それだけだとは思わない。

 

 

「…――――え」

「それに…………――――壊れたらまた創ったら良いだろう?」

「…――――?」

 

 慰めるわけでもなく、また注意をするわけでもなく……千冬は親しい者に接するように話す。

 

「お前なら、仮面ライダー『ビルド』ならそれができるんじゃないのか?」

 

 そして立ち上がり、一瞬視線を明後日の方向へ向けると、戦兎の目を真っ直ぐに見る。そして言った。

 

「因幡野戦兎は……『正義のヒーロー』だろう?」

 

 その言葉で今までビルドとしての行いを思い出す。

 

(因幡野戦兎は……正義のヒーローですから)

 

 以前にも同じことをクロエに言われていた。簪をはじめとしたスマッシュから助け出した人たち、ナイトローグに立ち向かった一夏、カフェで待っていてくれる父親のようなマスター、そしてボトルを浄化してくれるクロエ……、何よりも痛々しい外見となってしまった箒……――――。

 ビルドとして助け、守り、接してきた彼らの顔が『因幡野戦兎』の頭の中をよぎっていく。

 

 

 

 突然金属音にも思えるアラームが鳴る。ポケットからスマホを取り出すと、無言のまま電話に出る戦兎。

 

「…なに、クロエ?」

『戦兎さん!今どこいるの!?ニュースを見て!ガーディアンと、ナイトローグが言ってたっていうインフィニット・スマッシュが大暴れしてる!一夏さんと一緒に…』

「ッオレが、行かないと…!」

『え、ちょっと…?』

 

 スマホを操作し、ニュースサイトを開けば怪獣映画のようなありさまだった。場所はレゾナンスの近くのビル街で、数体のインフィニット・スマッシュが暴れまわっている。

 手が震えている。戦わなくてはならないという義務感と、責任感。彼女はソレに圧し潰されかけていた。

 かつての自分(織斑千冬)と同じように。だからだろうか。

 

「因幡野先生……いいや、戦兎。人間は、そんな方程式のようなもので答えが出るものじゃないぞ」

「…――――そんなの、わかってるよ」

「だとしたら。何度間違えたとしても答えを見つける覚悟を持った人間が、天才科学者と言えるんじゃないか?」

「……」

「それが、…――――」

 

 

――――勝利の法則ってやつじゃないか?

 

 

 悩める科学者に元親友の現同僚は肩をそっと押してやったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 クロエは、通信が切断されたスマートフォンを見つめていた。『戦兎さん』と表示された画面が妙に寒々しい。

 さっき聞こえてきた戦兎の声には、焦りと戸惑い、そして苦しみが滲んでいた。その場にいて支えられないのが、クロエにとっては毎度歯痒い。しかし、彼女だってないものねだりをするつもりはない。だが…。

 

「今、私にできることなんて…」

 

 クロエは分かっていた。自分には戦う力はまるでない。ISを扱えるわけでも、ライダーシステムを使えるわけでもない。無力な一人の人間でしか無かった。

 ふと、自己嫌悪に苛まれる。昨夜の憔悴ぶりを見てもなお、戦兎に頼らざるを得ない自分に、面の皮が厚いなぁと皮肉にも思う。

 

「『わたしだけにできることがあるの…』、か」

 

 今の彼女にできることは、祈り続けること。それだけしかない。だが、それでも…――――。戦兎との、正義のヒーローが帰ってくる場所を守ることは、無駄ではないはずだ。

 

 クロエはいつも使っているパソコンを立ち上げると、カメラを手慣れた様子で設置してライヴ配信を開始した。

 

「はぁーいっ!みーんなーのアイドルっ!くーたんだよっ!…、こんな世の中で大変だと思うけど、私たちにはまだできることがきっとある。うん、あるって祈ってるし、私は信じてる!だから、今戦っている人たちに、私は頑張れって伝えたい。個人的な話になるけど、それでも…――――『泣きたいときだって上を向いて』」

 

 

 

――――わたしだけにできることがあるの

――――あきらめないよ 君を守り続ける

 

 

 

 その祈りは、あらゆる媒体を通じて、辛い現状に直面した人間たちに届いていく。今尚、どこかで戦っている人間たちへと…。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――キャァァァァァッッッ!?

 

――――いやぁぁぁぁぁぁぁぁ‼

 

――――誰か、助けてくれぇ!いやだぁぁぁぁぁ‼

 

 

 そんな阿鼻叫喚の街中。道端には倒壊したビルの破片や、鉄骨剥き出しなコンクリートが煙を上げて転がっている。

 突如鳴り響く爆発音と人間の悲鳴、悲鳴、悲鳴……――――。

 

「……ッ!……変身」

 

【ラビットタンク!イエーイ!】

 

 過去の自分(篠ノ之束)が引き起こした白騎士事件のパニック映像がフラッシュバックし戦兎を苛む。だが、正義のヒーローに今求められているものはそんなものではない。次々と人間を襲うガーディアン達を殴り、蹴り倒していく。

 

「早く逃げてください……安全な場所へ!」

「は……はいっ!」

 

 逃げ遅れた人の背を押し、ガーディアンたちの攻撃を避けさせると、目の前に巨大な影が映り込む。

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ‼

 

 

「ッ、インフィニット・スマッシュ……!」

 

 目の前に立ち塞がるのは、無明の空に囚われ怪物となったIS。天災科学者はドリルクラッシャーを取り出し、自らが生み出したテクノロジーと戦おうとする。

 

 

 

――――癇癪でISを兵器として世界に知らしめた無責任なガキが!?私の血の繋がった姉だと!?ふざけるな、アレは私を……友人や家族との仲を引き裂いた人でなしだ‼

 

――――お前だよ因幡野戦兎、お前がISを造った天災、『篠ノ之束』だ……!

 

 

 

「っ!……うぅ……――――!」

 

 攻撃の手が、止まる。力なく腕をだらりと垂らさざるを得ない戦兎。その隙を見逃すインフィニット・スマッシュではない。

 

――――Gyiiiiiiiiiiッ‼

 

「うわぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 戦兎は風前に揺れる灯火の如くあっけなく弾き飛ばされた。完全無欠のヒーローの仮面が剥がされ、脆弱な心の赤子が地に臥している。

 瓦礫とガラスと数々の家具が散乱する場所で、戦兎は濁った眼で空を見上げていた。

 

(オレが、何で…どうして…――――、こんな目に遭わなきゃ…――――)

 

 いいや、その答えは分かっている。因果応報こそが地上の真理。彼女が苦しめてしまった数多の人の怨嗟が、今奔流となってその身に降りかかってきたに過ぎない。

 

 地上(知情)に原罪を振り撒く蛇が嗤う。世界を自分の思い通りに変えようとし、世界の醜さのみを塗り変え、自分一人さえ変えられなかった無力な女を嘲嗤う。それがお前の末路だと。全てを奪われ、空を見上げるしかできない天災の抜け殻にとって、蒼穹は残酷なほど青かった。

 

(変えたい、変わりたいよ…――――)

 

 天災の夢を皮肉り、嘲笑う『無限の成層圏を壊すもの』。その怪物が、鋭利な腕を振り上げる…――――。

 

(過去の自分が何を思ってたとしても、オレが本当にしたかったことは…)

 

 

 

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 真夏のような情熱と、天の色を宿す炎が放たれた。青竜は純白の一閃を以って愛と平和を高らかに叫ぶ。

 もう一人のヒーロー(仮面ライダー)は、インフィニット・スマッシュの前に立ち塞がり、ビートクローザーを突き立てた。

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa‼

 

 悲鳴を上げる怪物たち。三対一の戦いを繰り広げながら、仮面ライダークローズは戦意を失った戦兎を怒鳴りつける。

 

「何で攻撃しねぇんだよ!」

 

 激しく戦う一夏と対照的に、戦兎は泣きそうな声で迷いを口にした。

 

「オレがこいつらを創ったんだ……。箒ちゃんの家族との絆を引き裂いて……紛争や、世界の歪みの火種になることを考えもしないで……。オレがISを創らなければ。オレがいなければ……こんなことにはならなかった……」

「アンタが創ったのは、ISだけじゃねぇだろ!」

 

 一夏が戦兎の言葉を遮り、吠えた。

 

「そのベルトを巻いて、大勢の明日を、未来を……!創ってきたんじゃねぇのかよ‼」

 

 思いを込め、怪物となったISに剣を振るう。信じたものの為に力を振るう。英雄然とした戦兎の教え子が道を示す。

 

「誰かの力になりたくて……戦ってきたんだろ!誰かを守るために立ち上がってきたんだろ‼それができるのは、葛城忍でも篠ノ之束でもない、因幡野戦兎だけだろうが!」

 

 その激励に重なるように、もう一人の生徒の姿が戦兎の瞳に映る。

 

「……――――っ、何ですかその情けない姿は!」

 

 長髪が風になびく。右目や身体中を追う包帯が見える。そこにいたのは、今もなお確執を抱く悩める少女。だが、それでも…――――どこかで人を信じたいと願う、そんな心を持つ少女。

 

「箒……ちゃん?」

「どうしたんですか!自分の正体がこの世界を狂わせた人間だった……それは理解しました!私は今尚許せていません!えぇ、器量が狭い小娘でごめんなさい‼」

「箒!?ちょ、おま…」

「ですが‼貴女の愛と正義を思う気持ちはそんなにも脆いのですか!?」

 

 箒だって何か思う所があるだろう。……だがそれでも、正義のヒーローを激励する。

 

「ここで真実を知り歩みを停めてしまうのなら……貴女はただの天災です!貴女は……――――IS学園の先生、因幡野戦兎でしょう!?自称てぇぇんさい科学者の、バカでどうしようもない人間でしょう!?貴女は…、愛と平和を願う正義のヒーローでしょう‼」

 

 そして、彼女は右手を高く掲げた。眩いものを尊ぶように、天照す蒼穹に捧げるように。

 真っ赤なスマートフォンの中から、音楽が聞こえる。ラジオ配信かと思われるそれからは、戦兎を正義のヒーローとして慕う月の孤児(みなしご)の声が溢れ出る。

 

「いろんな人が、貴女に助けられた人が、この世界にはいるんです!クロエだって、一夏だって、私だってそうです!だから……――――‼」

 

 

 

 すれ違いのせつなさ 涙で胸が痛い 

 

 明日になれば消えるの…? 

 

 

 

 

 次のステージのために 強い自分をつくろう 

 

 失うものもある それでもいい 

 

 

 

 

 うつむいてばかりじゃ つかめないよ 

 

 一度しかないチャンス 見逃さないで 

 

 

 

 

 まっすぐな瞳で 世界を照らしていこう 

 

 初めて知った ひとりでは何もできないね 

 

 月に語りかけた 夢の先へずっと 

 

 終らないの… 祈り、届いて 

 

 あの雲を突き抜けて 

 

 

 

 

「…――――貴女の創った希望だけは、忘れないでください!」

 

 

 

 

 

 彼らのその声は……――――、無明長夜の中を彷徨っていた兎に光を与えた。空に、数式の雨が降り注ぐ。

 

「……最悪だ。君達に諭されちゃうなんて……」

 

 頭をクシャクシャと撫で、彼女はトレンチコートを整え起き上がる。

 

「……思い出したよ!」

 

 いつの間にか左右の手にフルボトルを取り出し、勢いよくリズミカルに振る正義のヒーロー。

 

「オレの名は因幡野戦兎!今のオレは……ナルシストで自意識過剰な、正義のヒーローだってな!」

 

 それを見た教え子たちの顔に、笑顔が広がる。

 

「さぁ、実験を始めようか……!」

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!Are you ready?】

 

 その音声と共に、まるで進むべき道が見つかったように指を前に突き出す。

 

「変身ッ‼」

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!】

 

 一度壊れかけた心。だが、彼女はそれを再び創造(ビルド)し、仮面ライダーとなって立ち向かう。間違いさえも、新たな答えを導く方程式にして、未来という明日へと進むために。

 

「勝利の法則は、決まった!」

「……っしゃぁ!今の俺達は、負ける気がしねぇ!」

 

 二人は同時に駆け出した。怪物となったISに、赤と青の拳が突き刺さる。

 

「ハァ!でやぁ!おぉりゃぁぁぁぁぁ!」

「ハッ!せやっ!ホレ!」

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?

 

 インフィニット・スマッシュたちは、悲鳴を上げて後退する。彼らの感情の昂りを恐れるが如く。

 

「一夏ぁ、お前の掛け声、脳筋だねぇ?もうちょっと落ち着いた感じにならない?」

「そーいう戦兎さんの掛け声はなんか気が抜けんだよ。もーちょい気合い入れろよ」

「オレ、根性論嫌いなのよね」

 

 彼らのそんな軽口も、いつも通りになっていた。その様子を見て、箒は優しく微笑む。わーわーとどつき合っている二人に、どこか懐かしい風景を感じていた。

 

「ん?戦兎さん……あれ!」

「え、何……ちょっと待て、合体?」

「「……うそーん」」

 

 気が付けば、怪物となったISは集合し、巨大なゴリラのような外見になっていた。胸を叩きながら仮面ライダーたちに近寄って来る。

 

「しょーがない、とっておきを出しましょう!」

 

【ラビットタンクスパークリング!Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

【シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イエイ!イエーイ!】

 

 ラビットタンクスパークリングフォームになったビルドとクローズは並び、それぞれ必殺の一撃を放とうとする。

 

「さぁ、キメるぞ一夏!」

「おぉ!」

 

【Ready go!】

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 ボルテックレバーを何度も回転させるビルドと、ロックフルボトルをビートクローザーにセットしグリップエンドを二回引くクローズ。

 

「「ハァ!」」

 

 まずクローズがビートクローザーから黄金色の鎖を射出、ゴリラのような怪物ISを拘束する。

 インフィニット・スマッシュは藻搔き苦しみ体を動かすが、余計に拘束が強まるだけだった。

 

「暴れるなっての!戦兎さん!」

「任せなさいっ!」

 

 ビルドは既に上空に飛び上がっており、赤と青、白というトリコロールカラーの泡と共にインフィニット・スマッシュに激突する。

 

「ハァァァァァッ!」

 

―――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッッ‼

 

 

 蒼穹に、白い輝きが溢れる。止まらない速度で(STRAIGHT JET)、彼女は思いを真っ直ぐに貫いた。

 

 

「よっと。さて、確かロストタイムクリスタルとか言うのが……あったあった!ん?」

 

 前回ナイトローグに回収された未知のコアに興味が湧き、ビルドは黒ずんだISコアを回収しようとした。……しかし。

 

「……煙?ってわぁ!」

 

――――プシューッッッ!

 

 コアから煙が噴き出し、ビルドの視界を覆う。煙が晴れると、コアは既に消えていた。

 

「今のはトランスチームガンを用いたテレポートに似ていたな……。抜かりなし、か……」

 

 戦兎は一夏と共に変身を解除し、瓦礫だらけの街に踵を返す……。

 

 

 

 

 

 

 

「……街が、あんなことに……」

「うん、だから……オレは戦うんだ。愛と、平和の為に……、一夏、箒ちゃん。思い出させてくれて、ありがとう」

 

 IS学園に帰る道すがら、戦兎は二人の生徒に頭を下げた。いつもの、IS学園の教師の姿がそこにあった。一夏はうなずくも、気になって箒を見る。

 

「……言っておきますが、篠ノ之束を許したわけではありません」

 

 逆光になっていて、箒の表情を伺い知ることはできない。戦兎は受け入れるようにその言葉を静かに聞く。

 

「分かってるよ」

「ですが」

 

 立ち止まり、ゆっくりと一文字一文字丁寧に言葉を吐き出す。

 

「貴女は篠ノ之束ではない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、丁寧に腰を折った。

 

「ありがとうございます、因幡野先生。私を守ってくださって」

 

 箒は目を伏せ、暖かな感謝の言葉を戦兎に伝える。

 

「私が火傷を負った時も、一夏が仮面ライダーになった時も……ずっと生徒たちのことを見てくれていましたよね」

「…………」

 

 無言で箒を見つめる戦兎。その目に映るのは、感謝か、望郷か……。

 

「やっと……お礼が言えました……」

 

 顔を上げた箒の目に、既に姉に対する憎しみはなく、恩師に対する感謝の微笑みが顔にあった。




 ナルシストで自意識過剰な、正義のヒーローの復活だ!


※2020/12/20
 一部修正

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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