IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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スターク『強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスを巡ってIS学園とファウストは水面下で対決を激しくする!仮面ライダービルドの因幡野戦兎は教え子が変身したスマッシュを消滅させて戦意喪失していたが、花月荘にいるIS学園生徒たちを守る為、やって来る銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)討伐を決意するのだったぁ!』
一夏「何でスタークがあらすじ紹介するんだよ」
スターク『良い声してんだろハハッ、声の仕事は得意なんだよぉッ!』
一夏「声の仕事言うなよ、それ言ったら俺らアニメキャラだから全員中の人的に得意だぞ?俺セイバー出てるし、ダブルだし……束さんはムチリだし、あと箒とセシリアはメズール…。イメージCVも含めりゃ結構な数に…」
スターク『さぁどーなる第五十八話ァー!』
一夏「おい誤魔化したな」


第五十九話 『仲間とのビクトリー』

千冬side

 

 

 私がIS学園で教鞭をとるきっかけとなったのは、ある時見かけたISのニュースだった。

 

 とあるテロ組織がISを用いて小国一つを壊滅させたという報道に、私は膝が砕けそうになった。その時、私はまだ世界を知らない小娘で、自分の振るった力が何処まで広がっていくのか、考えていないところがあったのだろう。心のどこかでは分かっていても、その事実に直面してしまえば足がすくむような、そんな甘い子供だった。

 

 ノブレス・オブリージュ。力を持ってしまったものは、その力持たぬ者のために使わねばならない責任を負う。無謀だった私は罪の片棒を担いでしまった。それは償い果たさなければならないのだと、テレビの向こうで泣く人々が責め立てているようだった。

 

 世界は、目まぐるしく変わって行った。持ち運びさえ便利な兵器(インフィニット・ストラトス)が、今尚どこかで人を殺している。ISコアの数には上限があるはずなのに、次々に兵器へと転用されていく。

 

 今になって思えば、ISコアを開発できるのは何も束だけではなかったのだろう。ファウストに所属し、まったく新しい知的生命体ISを作ってみせた宇佐美。一筋縄ではいかぬ束を容易く戦兎へ変えたブラッドスターク。在り得ない存在が、世界の裏では蠢いてることは私も身を以て知っていたというのに。

 

 皮肉なことだ。自分たちが表舞台に出なければ、都合の悪いこと全てを消えた天災に押し付けられる。何とも利口な連中だ。その頃から人間の悪意は、着々と世界に戦火を振り撒いていた。

 

 …――――。それなのに、今尚世界はISをスポーツ競技だと思い込んでいる。アイドルのような選ばれた者が使えると憧れを抱いている。束も束だ。本当に宇宙開発に利用するつもりがあったのか?

 

 私は恐ろしい。科学という力は人を豊かにする。だが、その力の本質を理解しない者達がなにも考えずに破滅を齎す。インフィニット・ストラトスも同じだった。その恐ろしさを、世界は未だ理解していない。何がブリュンヒルデだ、何がモンド・グロッソだ。私は、今の世界を象徴する名を背負うことは苦しいというのに…――――。

 

 私は恐ろしい。子供たちが兵器にもなる道具を使い、競い合うスポーツを迎合する今の世界が。使い方次第で大惨事を引き起こしかねない、何十人、何百人の命を簡単に奪える力で遊ぶこの社会の風潮が。各国も各国だ、競技と謳い上げておきながら、軍備増強のためIS操縦者を軍隊に組み込んでいるだろうが。

 

 なぁ戦兎、今のお前には世界はどう映っているんだ?

 なぁ一夏、IS適性があったばかりにこの学園に入ったお前はこの社会をどう思っているんだ?

 なぁ惣万、……戦いの悲惨さを知っているお前は、私をどんな目で見ているんだ?

 

 

 私は愚かだったのか。私は無意味なことをしているのか。あがいて、それでもまだあがき続けて、私は何か変えられたのか?

 

 いいや、インフィニット・ストラトスだけではない。私は、何も変えられていなかった。私は外側の人間にかまけるばかりで、内側の人間(節無)に何一つしていなかった……。

 

 

 

 …――――気付いた時には、遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 私が見るモニターに、ナイトローグと従弟の姿が映った。カメラは中継として向こうにも音声が伝わるらしい。

 

「節無…だと……?何故、フルボトルを持っている……!」

『貰ったんだよ、“ママ”にね。これで一夏義兄さんを殺せる……邪魔しないでよ、ブリュンヒルデ』

「節無……お前!」

 

 節無は嘲るように私たちを笑っていた。その時私は初めて彼の本心に触れた。見たことが無い狂気に満ちた顔。彼は私たちなど見ていなかったのだと、今初めて気が付いた。

 

「お前も一夏も……私の家族だ!」

『……――――あぁ、コレ(・・)も同じになっちゃうんだね。一夏義兄さんが関わるとみんなおかしくなっちゃうんだ。だったらもういらないや』

「?……、節無?何を、言ってるんだ…?」

『千冬義姉さんは僕の“ママ”だったんだ…だから何をしても怒らないんだよ』

 

 ……、本当に、何を言っているんだ?節無はずっと…今まで一体何を思っていたんだ?

 

『千冬義姉さんは“ママ”じゃない!つまらない家族ごっこなんて、吐き気がする!』

「……ッ」

 

【シマウマ!】

 

 節無は、怪物となっていた。

 

『ずっとママの傍(ここ)にいたいんだ、一夏の代わりにさ。一夏も貴女も邪魔なんだ、とっとと消えてくれないかな』

「……ッ!どう言おうとお前は私の家族だ……。家族が間違った方向に行くと言うのなら……この身をかけてもお前を止める、節無‼」

『僕は悪くない!弱い者虐めをするお前らが悪い‼』

 

 駄目だ、話が本当に噛み合わない。どうして、節無はこうなっている?まさか、ずっとこうだったというのか?それに、私は気付かずに…――――。

 

『……ハァ、動けないクセによく言うね。そこで指をくわえてみてると良いよ。織斑一夏が死ぬところをさ!そうしてら、僕は…“ママ”に褒めてもらうんだ‼』

 

 そう言って一夏のもとへ、人馬のような姿となって去って行った……。

 

 ……私は、お前たちを必死に育てたつもりだった。一緒に家族のように過ごしてきたと思っていた。……なのに、節無。お前は何故そこまで、歪んでしまったんだ…――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い闇の中から、思考が浮上する。周囲の様子が騒がしい。…――――あぁ、一体どうしたというのだろう。

 

「……え?」

 

 茫然自失していた精神が冷え切り、逆に意識がはっきりとしだす。

 

「節…無………、お、前………」

 

 画面の中では、漆黒のビルドに倒される節無の姿があった。そして、崩れ落ちた身体から噴き出す黒と紫の粒子。

 

『なあ、織斑の坊ちゃん!ブリュンヒルデに教わらなかったのかい?何故悪い子に育っちゃいけないか、その理由を。嘘つき……、卑怯者……、そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!』

「…………何で、こうなるんだよぉ……僕は……僕はぁ……………………。ただ、幸せになりたかった(ママにあいたかった)だけなのに…………………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァァァァ……」

 

 心を抉るように嘲笑う束の顔の狂人。哀れすぎる声を上げ消えゆく従弟。

 

「……ッ」

 

 生徒たちはモニター画面から思わず目を伏せた。だが、私は視線を逸らせなかった。逸らしてしまえば、私が罪から目を背けたようで……。

 

 節無、もし私がもっと姉として接してやれていれば……お前は間違う事が無かったのか…?それとも、初めからお前は…――――。

 

 そして、そのせいで戦兎に罪をかぶせることも無かったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

 

 夜が明けた。早朝の花月荘には人の気配がない。未だ生徒たちは不安の中で夢に微睡む。しかし、夢中に旅立てなかった者がここには二人。

 門の前で。二人の織斑が死んだ従弟の形見を弄っていた。

 

「一夏、コレを……」

「これって……、白式だよな……?」

「あぁ、何でも最上カイザが言うには……男性IS操縦者がファウストによって事故死した、故にデータ収集は織斑一夏に継続させろ……という事らしい」

 

 そう言ってコツコツと足音をたてて付近の道路沿いの道を歩く。それ以外に彼らの紡ぎ出す音は無い。会話も無く、沈んだ様子でただ歩く。

 二人とも片手に花を持っていた。最期まで彼の心中を察することはできなかったが、どれほどのことをしていたとしても、彼は二人だけの家族の中にいた従兄弟であった。

 節無が死んだ。それは、大なり小なり二人の心に影を落とす。彼に花を手向けようと、怪人が散華した場所にやって来た。

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい…」

「……!」

 

 見れば、そこには先客がいた。土下座するように蹲るフードを被った女。彼女は嘔吐きながら、ただ弱々しく嗚咽を漏らす。

 

「戦兎さん…そんなにぼろぼろで……っ、!?」

 

 彼女の目はガラス玉の様に空虚で、正気ではない。道には紫色のヒヤシンスが備えられていた。

 

「……織斑先生、オレはとんでもない過ちを犯した……」

「…」

「…――――ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ⁉」

 

 そう言うや否や、パニックを起こしてしまう戦兎。髪を振り乱して千冬の胸に顔を埋め、甘えるようにしがみつく。助けを求め、彼女に訴える。

 

「殴ってよ!オレを…誰かいっそ…、オレは、…!許されないことをした!償えない過ちをまた重ねたっ‼人を…――――ひとを、おれは、ころした…ころしちゃったんだよぉ!おれを、しぬまで、なぐってい…くれて、ぃからっ、ぁ、ぁ、あぁぁぁぁぁぁぁんッッッ‼」

「……」

 

 千冬は思った。自分は今まで彼女のことをどこかしらで篠ノ之束だと思っていたのだと。だが……目の前にいる彼女は、紛れもない『因幡野戦兎』であるのだと。

 

「…お前は悪くない」

「……――――ぇ、ぁ…?」

 

 誰にとっても、本当に予想外の言葉が出た。

 

「私はISが人を傷つけるのも、助けるのも両方見てきた…それが科学だ。だから私はISが危険を孕むことを学園で子供らに教えてきた。完璧な科学なんてない、使い方を間違えれば事故など幾らでも起きる」

 

 口から零れたのは、ずっと彼女が抱え続けていた、世界最強という名の重荷だった。

 

「節無も、力の使い方を間違ったから死んだ…それだけだ…――――」

 

 感情が込もらない言葉が、静かに朝焼けに流れていく。ふっ、と戦兎の身体から力が抜けた。脚は重力に屈し、大地に縫われる。震える腕は、織斑千冬のレディーススーツにしがみつくのでやっとだった。

 

「でもっ…でもぉぉ…!」

「……確かにお前は私の家族を殺した。節無の心は前々から救えなかったのかもしれないが、それでもあいつが家族だったことに変わりはない」

 

 千冬は戦兎の肩に手を置くと、震える声で拳を握り締める……。

 

「だが、殴ったら……、今何かが変わるのか……?」

 

 彼女はそのまま戦兎の横を通り過ぎ、戦兎が手向けたヒヤシンスの隣にマリーゴールドを備える。同じく一夏はムスカリを放り投げた。

 

「お前だけのせいではない……。節無の死は、私の責任でもある…」

 

 そして、戦兎の前に跪くと…――――千冬は彼女をそっと抱きしめた。

 

「ごめんな……『戦兎』……」

「…――――ッッッ」

 

 “そうじゃない”、と。自分が求めていたのはそんな優しい言葉じゃないと、戦兎は首を赤子の様に横に振る。どうして優しくするんだと言いたいが、苦しみで声も出ない。天災の引き金を引いた彼女は、涙ながらに罰を求める。

 

「だからな、戦兎。気が済まないのなら、『生きろ』……」

「…――――ひ、どい…よ、死ねなく、なるじゃん…‼」

「なら、それが私からの罰だ…――――。絶対に、死ぬことは許さない」

 

 

――――今度は絶対に、逃げるな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で……こちらは旅館。

 

「グリス……、お願いがあります……」

「ん?どうしたんだくーたん?」

 

 真剣な表情でシャルルを尋ねてきたクロエ。彼女も戦兎の様子が気になり、一夏にそれとなく探りを入れれば、精神的苦痛に苛まれていることを知ったのだ。シャルルたちは尋常ならざる表情のクロエのことが気になり、話だけでも聞いてみる。

 

「戦兎を……手助けしてもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、様々な人間の思いが交差し、宇佐美が予告した時間になった……。

 

【フェニックス!ロボット!ベストマッチ!】

 

「……――――変身」

 

【不死身の兵器!フェニックスロボ!イェーイ!】

 

 フェニックスロボフォームに変身したビルドは、体を炎で包み、海上へと飛び去って行った。炎が夕暮れを駆けていく。死に場所を探すベヌウのように。

 

「戦兎さん……」

 

 今の自分に、何もできることはない……そう思って、彼は縁側で空を見ていた。夕暮れがは血の様に鮮やかな空模様。その中を輝く一筋の光。それが戦兎だと分かってもなお、彼女を戦場に送り出さざるを得ない罪悪感は彼の脚をその場に留めていた。

 

「おい、何て顔してんだ、コラ」

 

 沈んだ顔で空を見ていた一夏に声がかかる。ダウナーな口調に振り返ってみれば、そこにはシャルル・デュノアが立っていた。

 

「辛気臭ぇし水クセェな……いつものお前の調子はどうしたよ。お前さ、守るべきもののために皆守る~、とか甘いこと言ってたよな。それ、破んのか?」

 

 毒を吐きながら隣に座り込み、彼は一夏へと手を伸ばす。

 

「一夏、取り敢えずドライバー寄越せ。ソレ俺んだろ……、お前のはこっち」

 

 どこから取り出したのだろうか、スクラッシュドライバーが一夏の手元に置かれていた。だが、そのドライバーが妙に重たい。一夏にはそう感じざるを得ない。

 

「シャルル、何も出来なかった弱い俺に……何を期待してるんだ?」

 

 その言葉に彼の周囲を飛んでいたクローズドラゴンまでが蒼炎を吐きだす。まるで、そうじゃねぇだろとでも言っているようだった。

 

「あいつを、節無を死なせちまった…。戦兎さんも、そのせいで傷付いた…――――」

 

 一夏の懺悔に、やれやれと首を振るシャルル。そして、急に顔を引き締め、その言葉を投げかける。

 

「前にも似たようなこと言ったはずだ。お前らのやってることは理想論で、この世界で無意味に近いことだってな。戦うことは誰かを絶対に傷つける。『敵も味方も死なせない?』そんなもんただの戯言だ。俺は傭兵として目の前で何千人もの命が奪われるのを見てきた。それが戦争だ」

 

 彼は慰めなどしない。ただ淡々と、真実のみを告げていく。

 

「戦争は正義と正義のぶつかり合い。自分たちの正当性を謳い上げ相手を悪だと断じて顧みない、んな馬鹿げた諍いだ。そこに戯言を振り撒く奴らがいても、精々助けられるのは微々たるもんだ」

「じゃあどうしろって言うんだよ‼」

 

 無駄だとばかりに言い捨てられた一夏。目の前で人が死んだことと相まって、彼はシャルルに慟哭する。

 

「あぁ、助けられなかった、助けにもならなかった!俺の暴走で戦兎さんに咎を与えちまった!俺は甘かった、分かってなかったんだよ!もっと俺が強かったら…!」

「お前はそれすら分かってねぇ‼」

「ッ!」

 

 急に、一夏の頬に拳が突き刺さった。その刹那、彼を襲うのは浮遊感。気付けば一夏は庭へと転がり落ちていた。

 

「強ぇだけのヒーローに意味なんてねぇ。そりゃただの兵器だろ。お前等はそれでも……平和の為に戦ってるんじゃねぇのかよ、ぁあ?」

 

 一夏の制服を乱暴にひっつかみ、触れるかどうかの近さで顔を突き合わせるシャルル。そのアメジストの瞳は爛々と激情に燃え滾っていた。

 

「俺、前にこうも言ったよな?お前は甘い、けど嫌いじゃねぇってな。それがもし弱さだとしても、俺はお前を弱い人間だとは思わねぇ。今のお前はどうなんだ?」

 

 

 夕暮れに、烏が啼いた。かあかあと、天を羽搏いて帰りを待つ。

 

 

 

「…――――先に行く」

 

 

 シャルルは背を向けて、ドライバーを掲げて立ち去った。

 

「……あぁそうだ」

 

 龍は目覚める。海の底よりも深い微睡みから。ゆっくりと立ち上がると、未だ黒く薄汚れたガントレットをちらりと眺めた。

 

「俺ってバカだったからなぁ…。うだうだ考えていても仕方がねぇか…――――」

 

 戦うことは、誰かを傷つけること。誰かの恨みや怨嗟を引き受けること。

 

「それでも誰かが泣かずに済むんなら…、他人のために戦う理由になるじゃねぇか。誰かを戦わせない理由になるんじゃねぇか」

「いいや、それで誰かが泣く。箒や…お前を慕うものがきっと悲しむ」

「っ…?」

 

 剣吞な声が、一夏の思考を断ち斬った。

 彼に待ったをかける人物がいた。旅館の前に仁王立ちしていた黒い人影が、苦渋の表情で行く手を塞ぐ。すらりと抜いたブレードには、真っ赤な夕日が照っている。

 

「……。お前を行かせるわけにはいかない」

 

 身体中に金属製のアーマーをまとった女傑が立つ。絞り出すような、罪悪感に塗れた声だった。それは、戦兎を戦場へ追いやってしまったことか、はたまた自分が戦うことができないことへの苦しみか。

 

「千冬姉……」

「すまん……。だが私はもう、誰にもいなくなってほしくない」

 

 それは、今まで『普通の姉』として接してこれなかった女の、心の叫びにも思えた。

 

「ならどうして、戦兎さんを行かせた?」

「…戦えるのは、今は奴しかいない…」

「いいや、俺たちもいる…!今の戦兎さんじゃ…!」

「まだお前は子どもだ!」

「ふざけんな!千冬姉、戦兎に言ったじゃねぇか!節無が死んだ責任は自分にもあるって!そこは“私たちにも”、だろうが!自分だけしょい込みやがって‼」

「当然だ!私はお前たちを育ててきた!それなのにあいつの心が分からないことに、あいつが死んでようやく気付いた!私は大人失格だ!私は、家族であるお前を守れるほど強くなかった!」

「違う!俺は千冬姉に学んだ!千冬姉は強かった!孤独に耐えて、誰かに頼ることもできた!誰よりも強く在ろうとして、強くなった人だ!だから今度は!俺が千冬姉も、箒も、仲間も…――――戦兎さんも守る‼誰も悲しませない‼」

「…――――、そんな、無茶な苦しみを…ッ!」

「それを苦痛と思うか幸福と思うかは、俺が決める!」

 

 もう彼女の言葉は、子どもだった弟には届かない。いいや、全て届いていたのだろう。だからこそ『子どもではいられなくなった』彼は、未来を見据えて前へ進もうとしているのだ。

 

「…」

「…――――。ごめんな千冬姉、でもこれだけは千冬姉にも口は出させねぇ」

 

 

 

 

 姉弟の口論が、止まった…――――その時である。

 

「はいはい、你好。取り込み中のところ申し訳なく。宜しいですか、織斑姉弟様方?」

「状況確認。戦闘開始準備。あぁしかし…Ich habe Hunger(お腹すいた)

 

 聞きなれた声、しかし聴いたことも無い口調で言葉を投げかける二人組。思わず振り返り、その声の主を見る一夏。

 

「お前等は……⁉ボーデヴィッヒに鈴……、なのか?」

「何で疑問形なのよ……あぁ、胸の事?それともちんちくりんじゃない所?」

 

 彼女らは確かにラウラ・ボーデヴィッヒと凰鈴音によく似ていたが……。凰鈴音の方が問題だった。彼女、スタイルが良くて巨乳なのである。

 

「アタシは緋龍(フェイロン)。んでこっちが……」

「自己紹介をしろとの命令は受諾していない。お前がしろ」

「……こいつは赤い雨(ロータア・レーゲン)

「この場がブラッド・ストラトスの力をIS学園へ知らしめるのに最適だと判断した。これより殲滅する」

「ブラッド・ストラトス?……、まさか!」

「そうよ……、前に血の雫(ブラッド・ティアーズ)先輩が世話になったわね」

 

 その瞬間、二人はISを展開した形態に似た、本来の姿に戻る。そのメインカラーはどちらもに生臭そうな赤黒い色だった。

 

「さぁ、覚悟はいいかしら?」

「舐めるな、こっちも半端な覚悟じゃねぇんだよ…」

 

 銀の輝きを放つ少年は静かに吼える。それに満足げに頷くと、緋龍(フェイロン)は方天画戟に似た武装を虚空から取り出した。戦いが始まる。だが…――――彼らの他にも戦士は要る。

 

 

 

「祭りが始まる……合戦だ。行くぞお前等」

「「「アイアイサー!」」」

 

【ロボットイングリス!ブラァァ!】

【キャッスル!】

【クワガタ!】

【フクロウ!】

 

 上空から降ってくる四色の光弾。グリスに変身したシャルルとハードスマッシュになった三羽烏が、砂浜へと着地する。

 

「目標を捕捉。グリス、及びハードスマッシュ」

「さぁて、行くわよロータア?」

 

 

 千冬は迷う。死の危険の比ではないこの場に、愛おしい家族がいることに。だが、それでも…――――。

 

「…――――変身」

 

【ドラゴンインクローズチャージ!ブラァァ!】

 

 クローズチャージに変身した一夏と、強化スーツを装備した千冬が横一列に並び立つ。

 

「なぁ一夏…。本当に、その選択に後悔はないか?」

「…さぁ、それは分からねぇ。だけどさぁ…今しなけりゃならないことって、未来での不安を嘆くことじゃねぇだろ」

「…戦い続けた先に、見返りどころか勝利すらないかもしれない」

「守ることを諦めるより、ずっといい」

「要らぬ謗りを受けるかもしれない、全ての人間がお前を疎むかもしれない」

「俺はそうなったとしても、人間を守りたいと願うはずだ」

 

 もう、運命は決まっていた。彼の信念は空の如く青々と燃え盛る。

 

「…――――そうか」

「…?」

「一夏、大きくなったな…――――」

「…――――まだまだだよ、千冬姉」

 

 もはや夜だというのに、妙に明るいそんな刻限。クローズチャージの持つビートクローザーと、織斑千冬の持つブレードが同じ輝きを放っている。血染めの空が引き連れる闇の訪れさえ、鋭くも優しい光を宿した刃が切り裂くだろう。

 

 

 

「…――――、これよりIS学園は、前方の正体不明機二機を敵対存在として扱い、交戦を開始する!総員、構え‼」

「フゥゥゥ…――――心の火、心火だ。心火を燃やして……、ぶっ潰す!」

「行くぞ、今の俺は…――――、負ける気がしねぇ」

 

 彼らはBSと戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、海上ではインフィニット・スマッシュになった銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)とビルドが空中戦を繰り広げていた。

 

【トラ!UFO!ベストマッチ!】

 

「ビルドアップ!」

 

【未確認ジャングルハンター!トラUFO!イェーイ!】

 

 空中に桃色のUFOを呼び寄せ、それに乗って福音の周囲を奇妙な軌道を描き混乱させる。

 

『Aaaaaa⁉』

 

 キャトルレーションの様にインフィニット・スマッシュを光線で引き揚げ、自由自在に岩肌に叩きつけるビルド。そしてさらに……。

 

【クジラ!ジェット!ベストマッチ!】

 

「ビルドアップ」

 

【天翔けるビッグウェーブ!クジラジェット!イェーイ!】

 

 青と水色、二色になったビルドは海面に潜る。そして突然海中から小型のミサイル爆撃機が飛び出し、福音を追いかける。福音はISの機動力を生かしビット攻撃を避ける要領で宙を舞う。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 だが、クジラの潮吹きの様に噴水が上がり、そこから背面の翼で福音に高速で追いつくビルド。

 

「ハァァ!」

 

 彼女はそのまま青いエネルギーをまとった蹴りを、インフィニット・スマッシュに叩き込む。

 

『Aaaaaaaaaaa⁉』

 

【キリン!扇風機!ベストマッチ!】

 

「ビルドアップ」

 

【嵐を呼ぶ巨塔!キリンサイクロン!イェーイ!】

 

 さらに上空から自然落下しながらフォームチェンジすると、自身の身体に竜巻を発生させ、宙を舞った。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 福音にキリンの首によるノッキングが炸裂する。

 

『■■■■■■■■■■■■‼』

 

 多彩な攻撃でインフィニット・スマッシュと互角の戦いをするビルド。しかし、彼女が福音の本気を知ることになるのは、まだまだ先になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の旅館からほど近い海岸にて……――――戦いは佳境を迎えていた。世界最強と黄金の仮面ライダー、そして三色のスマッシュがブラッド・ストラトス相手に奮戦している。

 強化スーツをまとった千冬と交戦していたブラッド・ストラトスらは、ようやくその場からいなくなった人間に気が付いた。

 

「……ッ、⁉織斑一夏の発見、不可能!」

「何処へ…ッ!」

「……ッ!行ったのか……ッ!」

 

 グリスは一夏が向かった方向へ視線を巡らす。

 

「…――――ハッ、想定外とは言え笨蛋(バカ)なことをしたものね。今更ビルドの援軍に言ったところでインフィニット・スマッシュの群れに蹂躙されるだけよ」

「あぁ、そう言えば七十五機のインフィニット・スマッシュが追加襲撃されるのだったな……」

「「「⁉」」」

 

 その場にいた人物たちは、その事態の深刻さに目を剝いた。

 

「カシラァ!ココは任せてください!私たちと織斑さんがいれば何とかなりますッ!」

「……ッたよ、負けたとか言ったら承知しねーからな!」

「行かせるものですか……ッ、⁉」

 

 緋龍(フェイロン)が方天画戟を構え突っ込むも、そこにジャイロボールのような黄色の光弾と赤いミサイル弾が炸裂する。

 

「ッ⁉」

「『行かせるものですか』、ですか……」

「こっちのセリフだ、ウチらを無視とは不愉快だぜ」

「アッハッハ、笑えないね……ッ!」

 

 そこに立ち塞がった三体のハードスマッシュたち。個々の力はBS以下であるものの、絆によって結ばれたチームワークに緋龍(フェイロン)が押されていたのも確かだった……。

 

「頼んだぞ、お前等ぁ!」

 

【ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 それを見て、グリスはフルボトルを用いて戦線を離脱した。

 

「っちぃぃ……!赤い雨(ロータア・レーゲン)!」

「貴女の命令は優先事項ではない」

「あぁもう!察しなさいよ笨蛋(バカ)‼」

「馬鹿?命令に従わないことの方が愚かな行為である」

「いいからグリスを追いかけなさい‼」

「……、不精不精ながら受諾、優先事項を変更、…――――?」

 

 突然ブラッド・ストラトスたちは身を翻し、上空から放たれた紫色のビームを躱す。

 

「……⁉馬鹿な……アレはまるで……黒い『白騎士』……⁉」

 

 それに驚いたのは世界最強だった。彼女にとっては馴染み深い機体が漆黒と紫のツートンカラーとなって浮遊していたのだから……。

 

「……その機体、『黒騎士』か」

「……『M』、裏切るの?」

「……」

 

 不機嫌そうに『黒騎士』と呼ばれた彼女を睨みつける緋龍(フェイロン)

 

「え、何?どーなってんだコレ?」

「さ、さぁ……?」

 

 混乱の淵に立たされるハードスマッシュたち。だがそんなことを気にも留めず、『黒騎士』は有無を言わさずにブラッド・ストラトスたちに攻撃を開始した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!】

 

 一方のビルドは海の遥か上空で強化フォームに変身、ドリルクラッシャーとホークガトリンガーを用いて福音のエネルギー弾を相殺する。

 

「うぅ……ッ!キリがない……!」

 

 しかし、ことごとく弾丸は逸れていく。辛うじてホークガトリンガーから発射された追尾弾丸がSEを削っているのみだ。

 

【Ready go!】

 

 ブレードモードのドリルクラッシャーにカブトムシフルボトルをセットし、ベルトのレバーを回転させるビルド。

 

【ボルテックブレイク!】

【スパークリングフィニッシュ!】

 

 赤青白の泡が発生し、ドリルクラッシャーにトリコロールのエネルギーが充填され、接近してきた福音に向けて落下の速度を加算しブレードを振るう。

 

『■■■■■■■■■■■■⁉』

 

 するとカブトムシの角のエネルギーが福音を彼方まで吹き飛ばした。海上から吹き飛ばされ、岩肌に激突するインフィニット・スマッシュ。

 

「ハァ……ッ、ハァ……」

 

 戦兎は息も絶え絶えに地面に着地するも、そうは問屋が卸さない。急激にインフィニット・スマッシュの身体が発光しだす……。

 

「……ッ⁉セカンド・シフト……⁉」

 

 天使のようだったインフィニット・スマッシュは、おぞましい形の羽になり、頭部には天使の輪のようなエネルギー体が発生していた。身体は縦に伸び、極めつけには冠のような六本のクロスホーンが頭に展開された。尻尾を振って胡乱気な複眼をビルドに向ける銀の福音……いいや、最早『銀の黙示録』だろうか?

 

 

 

 

『宇佐美め、随分と趣味が悪いな……。意図してやった訳じゃなかろうがお前()御使い(ロード)が堕ち、(アギト)となるか……』

 

 それを遠くから見ていたスタークは淡々と呟くとビルドを見た。

 

「……ぃゃ…、なのに…、やるしか……ないの……?」

 

 彼女は苦渋の声で禁断のアイテムを取り出していた。その指が震え、吐き気を催す。また、頭の中が真っ白になるようなおぞましい感覚に襲われた。

 

 ……――――だが、ここで福音を逃してしまったら、ISを停止させられた世界に死が振り撒かれる。背中にある生徒たちの命も、一瞬で塵芥となってしまう。

 

『……そうだ、それに勝つには、ハザードトリガーを出すしか無いよなぁ……』

 

 スタークは高台から海に向かって無感情にそう吐き捨てると、ゆっくりと松林の中へ姿を消すのだった……。

 

 

 

 

「…――――ぁ、ぁぁぁ、あ゛あ゛あ゛あああああああっっっ‼」

 

【ハザードオン!】

 

 ベルトにトリガーをセットすると、空中戦に特化したフルボトルをドライバーに挿す。

 

【タカ!ガトリング!スーパーベストマッチ!ガタガタゴットンズッタンズタン!】

 

「ビルドアップッッッ‼」

 

【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】

 

 ホークガトリングハザードフォームに変身したビルドは、背後から『ソレスタルウィングHZ』を展開し、インフィニット・スマッシュと同格のスピードで空中戦を開始した……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称(花月荘)side

 

 一方、花月荘の一室では、専用機持ち達が衛星を介した映像でビルドとインフィニット・スマッシュの戦いを見守っていた。

 

「箒……因幡野先生から何預かったの?」

「……ッ」

 

 鈴は箒が手に持っていた銀色のスイッチのようなモノを見て聞いた。箒は先程手渡された装置を振るえる手で握りしめている。

 

 

 

 

 

『箒ちゃん……』

『……?因幡野先生……、ッ?』

 

 先程、自嘲気味な顔で箒の部屋に顔を見せる戦兎。囁くような声だった。戸惑う箒に銀色のボトルのようなスイッチを渡してきた。

 

『これは……?』

『ハザードフォームの停止装置だよ……、強制的に出力を最大にしてオレごとトリガーを破壊することができる……』

『ッ⁉』

 

 つまり、因幡野戦兎は篠ノ之箒に自分の命運を委ねた。未だ、自死の欲求に苛まれている因幡野戦兎。その目は何も見ていない。空洞や虚無という他にない。

 

『もしもの時は、君がオレを止めてくれ……』

『……ぃ、嫌ですよ…?何故貴女は死にたがってるんですか……?』

『いいかい箒ちゃん……ネビュラガスが入っている時点でオレは人間じゃないんだってさ。だから君は人を殺したことにはならない……』

『そういう事じゃない!自分を卑下しないでください!貴女は自意識過剰でバカでどーしようもない人間なんだ!』

『じゃあそのネビュラガスが入った人間を壊したオレはどうなるんだよっっ!!?』

『…ッ』

 

 だが、彼女の言葉は届かなかった。今すぐにでも死にたいと願う彼女を引きとどめているのは、千冬からの『生きろ』という呪い(願い)のみ。非常に不安定な心が、他人に自分の命を預ける選択を助長した。

 

『あ、ぁぁぁぁぁ、あ、あぁ…。あ、ごめんね……君しかいないんだ、箒ちゃん……。それに、万が一死ぬのなら……箒ちゃんの手にかかって死にたいなぁ……、そんなんで以前の篠ノ之束(オレ)がしでかしたことを償えた、何て思わないけど』

『……ッ!』

 

 その目は、ただただ虚ろで、自分の命さえ顧みない危険な光を孕んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎さん……、貴女は……」

 

――――そこまで自分を捨てるのですか……?

 

 箒達が見る映像の中では見事な空中戦が繰り広げられる。左目『レフトアイホークHZ』によって数キロ先からの攻撃を易々と避け、ホークガトリンガーで巨大なエネルギー弾を相殺、さらには連続攻撃を続けるビルド。

 

『よし……。このまま……ッ!』

 

 シックスガンマズルから放たれた銃弾『バレットイレイザー』が銀の黙示録の装甲を爆発と共に分解する。

 

【……エイティ、ナインティ、ワンハンドレッド!フルバレット!】

 

 だが、丁度、その時だった……。

 

『……ガァッ⁉』

 

 突如、頭に鋭い痛みが走った。ハザードトリガーの『フォースライドメーター』がふり切れている……。

 

『マズい……ッハザードの……ッげんか、い……!ゃ、だ……ぅ、ぁ…!』

 

 

 

 

 その途端、戦兎の意識は真っ暗な闇に落ちていく。無限の暗闇の中、際限ない破壊の災禍の、その深淵へ…――――。

 

 

 

 

『Aa?』

『…………………………』

 

 疑問の声のようなモノを上げるインフィニット・スマッシュ。だがその時、天災が再び巻き起こる。

 

【マックスハザードオン!】

 

 『BLDハザードスイッチ』を押し、レバーを回転させる漆黒のビルド。

 

【ガタガタゴットンズッタンズタン!Ready go!】

 

 今までの比ではない高速度で飛翔し、黒いオーラをまといながら銀の黙示録の周囲を旋回しだす。

 

【オーバーフロー!】

【ボルテックブレイク!】

【ヤベーイ!】

 

 ハザード状態になったビルドの、ホークガトリンガーの強化攻撃がインフィニット・スマッシュに飛来した。その攻撃は今までの追尾弾の比ではなく、黒紫色の百羽のタカが龍の身を喰いちぎるように四方八方から殺到する。

 

『■■■■⁉■■■■■■■■■■■■ッッッ⁉』

 

 あまりの攻撃に狂ったように叫び声を上げ地面へと墜落する銀の黙示録……。だが、それだけでは終わらない。

 

【Ready go!】

 

 静かに着地したビルドはさらに追撃を加える。電子音が流れると、ホークガトリンガーを構え、黒いエネルギーで拘束する。

 

『……………………』

 

 彼女は何のためらいもなく、無慈悲に引き金を引いた。

 

【ハザードフィニッシュ!】

 

 

 

 正しく終焉の災害。形を持った暴走が、日が翳る砂浜を殲滅する。

 

 

 

『■■■■ッ‼AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ⁉』

 

 墜ちた福音は、悪魔の前で断末魔の狂声を叫ぶ。その戦闘能力に、IS学園の専用機持ちは恐れを隠せない。

 

『……AAA………………Aaaaaaa……』

 

 弾幕と共にその場に崩れ落ちる福音。身体から黒い結晶体が零れ落ちると、それは霧に包まれ消え去った。

 

「………――――終わり、ましたか……?」

「ッ、いいえ山田先生っ、まだですッ!」

 

 それに気が付いた鈴が声を張り上げる。

 

 浜辺にはIS操縦者が転がり落ちていた。ハザードフォームのビルドは殺戮機構の様に規則正しい歩幅で夜の砂浜を歩く。

 

「……ぇ……」

 

 箒は青い顔でその映像を見つめていた。

 ぐったりと気絶した状態の彼女を首根っこを掴み、持ち上げる。そして右手に黒紫のエネルギーが溜まっていく。

 天災(ハザード)は、終わらない。

 

「駄目……――――ッ」

 

 彼女の頭の中に自爆装置を押すという考えはなかった。ただ、『因幡野先生』にいつものように戻ってきて欲しい。彼女の願いはそれだけだった。

 だが、その思いも声も空しく、映像の中のビルドは肘を引き絞り、拳を振るう。

 

「駄目ぇぇぇぇぇッ‼戦兎ォォォォォッッッ‼」

 

 

 

 

 拳が、銀の装甲を捕えた。

 

「……………………ッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「よぉ、調子良さそうじゃねぇか……、戦兎さんよ!」

 

 まさに、危機一髪。

 

 

 金髪のIS操縦者と漆黒のビルドの間には、蒼炎纏う白銀のライダーが立っていた。

 

「……ッ、目ェ覚ませ‼馬鹿野郎ォォォォォッッッ‼」

「…――――」

 

 だが、天災は彼の言葉に答えない。淡々と新たな破壊対象を破壊せんと行動を開始する。

 

「オラァァ!」

 

 クローズチャージは何とか無理矢理体を動かし、攻撃をいなす。そして彼女の変身を解除させようとするもビルドハザードフォームは留まるところを知らない。次々と攻撃を放ってくる。

 

「……………………」

「ウグッ……、やっぱ強ぇ…………、っ⁉あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ⁉」

 

 さらに、急激に身体中に痺れが生まれる。

 

「(クッソ、またかよ……?やっぱダメか……?ダメなのか……⁉)」

 

 一夏は思う。力が簡単に手に入ることはないということは知っている。だが…――――。

 

「…………そんなわけには……いかねぇ……ッ!戦兎さんが思いつめちまったのは、俺のせいでもあるんだ……!」

 

 そんな理由だけで諦めて良い訳がない。

 

「俺しか……!俺しかいねぇ……!」

 

 弱さは弱さだが、無力ということでは決してない。

 

「今ここにいる仮面ライダーは……!」

 

 自分に今、少しでも力があるのなら…――――。

 

「今……戦兎さんを助けられるのは……、俺しかいねぇだろォォォォォッッッ‼」

 

 彼は、暴走する身体を何とか根性で止め、震える右手を左手で押さえこんだ。そしてその両の拳を、…――――そのまま胸へと叩きつける。

 

「うォォォォォッッッ‼」

 

 裂帛の声が、闇夜に漏れた。

 

「俺の身体ぁ、いい加減にしやがれェェェェェェェッッッッ‼」

 

―ドォォンッッ‼―

 

 

 

「ぅう……………………、ッ‼」

 

 すると彼の身体の中から、余計なモノが蒼い炎となって吹き飛んだ。純白の身体に、力が宿る。雪のような羅刹が、その真価を蒼穹へと捧ぐ。

 

「……ッ、……!」

 

 重かった身体に、力が宿る。

 

「行ける……っ、自分の意志で動かせる……!」

 

【CROSS-Z DRAGON!】

 

 彼の復活を待っていたのだろうか。仕方がないとでも言うかのように、ツインブレイカーに自ら収まるクローズドラゴン。

 

【Ready go!】

 

 そして彼は、ドライバーのレンチを下げた。

 

【スクラップブレイク!】

 

「オォッ、ラァァァァァァァァァッ‼」

 

【レッツブレイク!】

 

 背後に出現した青い龍が火炎を吹き、天災と化した戦兎を吹き飛ばす。しかし、その白い炎は黒い瘴気に相殺され、掻き消された。

 

「……………………」

 

 オレンジと銀の瞳を光らせ、ビルドはゆらりと立ち上がる。昨日と同じ様に、一夏に向かって駆けてくる。全てを殲滅するために。

 そして…――――次の瞬間、勝負が決する。

 

「……………………」

「目ェ覚ませェェェェェェェ‼戦兎ォォォォォッッッ‼」

 

 彼らは拳を固め、駆け出した。暗黒の拳と、白銀の拳。相対的な輝きを纏うその一撃が、互いの胸に突き刺さり…――――。

 

 

 

 

――――轟く閃光。爆発し、そして瞬く間に縮退する空間の気体。絶望が今、終わる。

 

 

 

 

 吹き飛ぶビルドとクローズチャージ。砂浜を転げて倒れると、二人は同時に変身が解除された。

 

「う……、ううん……?」

 

 天災の姿(ハザードフォーム)から戻った戦兎が、微睡んだ眼を漸く開く。死にたがりの兎の心中に降り注ぐ雨へ、青空の様に優しい傘が差しだされた。

 

「……お前が……止めてくれたのか……?」

「いや、……みんなのお陰だ」

 

 織斑一夏はそう言って、海辺を指さす。朝日が昇ろうとしている海岸に爆発音がまだ響いている。赤い鉄壁の荒くれ女が、青い双角の女性が、大空羽ばたく黄翼の少女が、世界最強の姉と戦友が……。

 

「俺じゃない……俺達が止めたんだよ……」

「……。……そうか……」

 

 彼の言葉に、天災となり果てようとした幼子は、罪過に震え静かに目を伏せた…。

 

「みんな、か……。ごめんよ……オレ、頭良い、ハズなのに……」

「あぁ、俺達がいる。だから…――――無理しなくていいんだぜ」

 

 どろりとした目に、潤いが戻る。その輝きは瞼から漏れ出す。

 

「あ、あぁぁ…――――あぁあああああああ…――――――――」

 

 

 ようやく彼女は、一時ではあるものの、罪過と焦燥、そして破滅願望から解き放たれた…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っあー!しんどいなぁ……!」

 

 海岸に寝そべっているシャルル。その周囲にはインフィニット・スマッシュの武装の残骸が散乱していた。その数、約八十機分……、つまりシャルルは世界から奪われたISの三分の一を相手にして勝ち残ったのである

 

「まぁいーや……。これ、貰えたしな……」

 

 そう言って懐から何枚もの紙を取り出したシャルル。そこには……。

 

【くーたん握手券】【くーたん肩叩き券】【くーたん耳掻き券】【くーたん写真撮影券】……。

 

「ディヒヒッ……いぃやっほぉぉうッッッ‼」

 

 やっぱり推しのアイドルの為に命をかけられるシャルルンだったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏side

 

 戦兎さんは憑き物が落ちた様な顔で俺の背中で眠っている……。いや、俺も変身解除後で疲れてんだけど、まぁ、うん。ぶっちゃけ胸当たってるから理性を抑え(ry……っほん!箒に知られたら拗ねられるな、止めとこ。

 

 

 そして、花月荘に戻ってきたら、くたくたになった三羽烏といつも通りの千冬姉が俺達を待っていた。如何やらブラッド・ストラトスとやらの撃退は出来たってことか……。

 

「織斑、お前は重大な違反を犯した……」

「はい」

 

 その割には咎める口調がない千冬姉の声。

 

「帰ったらすぐ反省文の提出だ……。IS操縦者だった場合は懲罰用のトレーニングをさせる所なのだが……まぁ、『仮面ライダー』ということで保留にしておこう」

 

 ……本当に意外だな?結構千冬姉に反抗して口論になっちまったのに。

 

「……ここまでがIS学園教師としての『私』の言葉だ……」

「え……、ッ⁉」

 

 

 突然、俺の目の前が塞がれ、柔らかい暖かさで包まれる。少ししてから、千冬姉が俺達を抱きしめていたのが分かった……。

 どうやら、戦兎さんも目が覚めていたらしい。声にならない声で、瞼に涙をにじませている。

 

「良かった……無事に戻ってきてくれて……一夏、戦兎……」

「千冬、姉……」

「千冬、センセ……」

 

 うっすらと涙が流れた後がある顔で、千冬姉は俺達を抱きしめる。俺には『姉』として、そして戦兎さんには、友として。

 

「……戦兎、すまない。本当にすまない…っ!」

「どう、して…織斑先生が、泣くの…?」

「私はお前だけを、戦いへと追いやってしまった…判断を、間違えていた。もう失いたくないと言っておきながら…お前だけを…――――」

 

 今度は、逆だった。千冬姉が、震えながら彼女に罪を独白する。

 

「そんなことはない…オレだって、万が一の場合は箒ちゃんに命を預けていた…おあいこだ…」

「だが…私は…」

 

 本当に、危うい橋を渡ったように思う。あの時俺が間に合っていなかったと思うと、ゾッとする。

 

「なら…さ、互いに自分が許せないなら、一回、絶交する…?それから、また…、新しい友達になってくれる…?」

「…は、はは…!なんだそれは、全く…」

 

 頓狂なことに、思わず笑顔を溢す千冬姉。ぎこちないながらも、互いのことを許そうと必死になっているのが分かった。千冬姉の中で、ゆっくり、ゆっくりと強張った心が戻っていく。

 

「…。お前が好きな呼び方で言って良い。……あぁ、だがちーちゃん、は止してくれ。良い思い出が、ないんだ…」

「あー……んじゃ、……チッピーってどう?」

「お前っ……、はぁ、……ハハハ」

「ふ、フフフ……」

 

 今までの事もあったのだろうか……だが、それでも新たに始めようと、千冬姉は手を伸ばす。

 

「改めてよろしく頼む、因幡野戦兎……私の『友達』になってくれるか?」

「……こんなオレで、良いのなら、よろしく…ね、…チッピーセンセ?」

「あぁ……」

「…――――オレは、罪を償うよ。贖い、続ける…――――だから、もし、それが終わったら…チッピーとも本当の『親友』に、なれるかな…」

「…あぁ、きっとなれるさ」

 

 二人とも……どちらも心に罪の意識があるのだろう。それでも……前に進もうと優しく微笑みあっていた。……不意に嬉しくて、俺はつい泣きそうになってしまった。

 

「それと、シャルル・デュノア……感謝する」

「気にすんな、俺は大した事してねーよ。……ん?」

 

 そして、旅館の中からどっと俺達の仲間が駆けだしてきた。

 

 

「一夏さん!?」

「いぃちかぁッ‼」

「戦友よ!嫁よ!」

「(_´Д`)ノ~~オツカレー」

「戦兎、織斑さん!グリス!」

 

 オルコットが、鈴が、ボーデヴィッヒが、簪が、クロエが俺達に向かって駆けてくる。クロエが真っ先に俺に飛びついてきた。いや、戦兎さん背負ってるから、それもあるか?

 

「あっ、てめぇコラ!俺がなあ、どんだけ苦労してくーたんの握手券を手に入れたと思ってんだこの野郎!」

 

 と思ったら、もみくちゃにされた所に金髪からのボディブローが。

 

「へぶっ⁉……おい、何すんだよシャルルン……⁈……あ」

「……言ったな」

「言っちゃった」

 

 ………………ま、いいか。コイツ、俺どうにも嫌いになれねぇし。

 

「あ、お前等……大丈夫か?」

 

 疲労困憊です、と言うふうな三羽烏に駆け寄るシャルル。

 

「ハイ、パープル色のISが助けてくれたんです!」

「へぇ……パープル色の……?」

「ハイ、カシラ……『M』とかいう子供でした……」 

「それに、BSたちが驚いてたね……『裏切るのか!』とか……」

 

 っかしいな?ISが『エニグマ』とやらで使えなくなったのになぜ動けたんだ……?

 

「おーいお前等ー」

「?……惣万にぃ?」

 

 その時、聞きなれた兄貴分の声に振り返った。

 

「あー、少し外出しただけだっつーのに、やっと旅館に戻ってこれた……」

「あぁ……、スマッシュが出た為交通止めとかだったものな……」

 

 そんな出来事が過ぎ去り、俺達の臨海学校は最終日を迎えたのだった。

 

 

 

 

「一夏」

「ん?何だ箒」

「……――――お疲れ様だ。頑張ったな」

「……――――あぁ」

 

 

 

 

 

三人称side

 

「さて……あと、十二本……か」

 

 花月荘の海が見える部屋、コーヒーミルをひきながら湯を手早く沸かす惣万。そのテーブルの上には、黒一色になったシマウマのフルボトルが置かれていた。

 

「それに、あの子を焚きつけた甲斐があった。全ては計画通りだ……」

 

 そう言って満足そうにコーヒーを味わう。芳醇な苦みがすっきりと喉元を通り抜けていく……。

 

「宇佐美は奴を良く思わないだろうが……、比類なきお前の野望と信念を試させてもらおうか……………………織斑マドカ」

 

 彼は視線を横にずらす。そこには、紫色のひび割れたボトルが静かに光を照らして佇んでいた……。




惣万「いやぁ、ここにきて千冬まで精神がまいっちまうとはね。でもよく頑張ったな、感動してウルッとしたよ……ま、残念なことに涙は流れねぇんだが」
宇佐美「そう言えば前話に挿絵が入ってたなァ……。スタークの持ちネタ『万丈だ』が出せたな。私の持ちネタ『ホウジョウエムゥ』はまだなのか?」
惣万「いや、お前のモデルになった人の持ちネタじゃねーよ。Tシャツには一緒にプリントされてるけどな?」

※2020/12/25
 一部修正

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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