IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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宇佐美「さて、夏休み編はもう終わりだな……。ちゃんと宿題は終わらせたかM?」
M「ガキ扱いはやめろ……」
宇佐美「ハッ、ピーマンが食えないお前が何を言う?」
M「黙れお前だってまだ下着がイチゴ柄じゃないか……」
宇佐美「ベッドに入る時暗いと眠れないお前が馬鹿にできる立場か、このマゾが!」
M「そのMじゃない!このKMSが‼」
宇佐美「ハーッ!?ぬぁーにがKMSだ?可愛い・マジ・サイコー、だってかぁ⁉完全なマッドサイエンティスト?誉め言葉だなァ!?」
M「……ッ、うっさいバーカ!ばーかばーか‼陰気バーカ!行き遅れバーカ‼」
宇佐美「誰が馬鹿だァ‼馬鹿と言う方が馬鹿だろうがぁあん!?このチビ馬鹿女がァ‼」


シュトルム「…………同レベル……」



夏休み閑話 『最後の夏祭り』

 ここは亡国機業の日本支部。それも宇佐美が借りたビルの一室。その部屋にずかずかと入って来る少女の姿があった。

 

「どういう事だ宇佐美、貴様……!」

「おや、Mじゃないか。どうした?」

「とぼけるな。私のISを何処へやった……」

 

 Mは手にしたオートマチック式拳銃で宇佐美の頭へ突きつけた。

 が、それと同時に宇佐美もトランスチームガンを彼女の頭に突きつけ返す。

 

「『黒騎士』……か。別にお前のではないだろう?私が開発した第四世代機だ」

 

 そのまま両者は睨み合っていたが、先に構えを解いたのは宇佐美だった。ニヤニヤと嗤いながら、トランスチームガンを持つ手をプラプラ揺らす。その様子を見て、鋭い目を更に細めるM。

 

「非常に癪だが、……私にはまだ力がいる」

「……ん?あぁ、イギリスにサイレント・ゼフィルスを強奪しに行くのだったか……どうでもいい事だったから忘れていたな。だったらそれは私が代わりに行こう。上にもそう話を通すとして、だ……」

 

 ゆっくりと立ち上がると、宇佐美は『紫色の拳銃』を先程とは違う手に持った。

 

「忘れたわけでは無いだろう。お前は私たちのBSに向かって攻撃やら命令違反を行ったじゃないか。スタークの仲介が無ければお前を殺しているところだ」

「…………っ」

 

 淡々とつまらなそうに話す宇佐美を見て、彼女が本気でそう考えていることを理解する。

 

「……と言うか『黒騎士』、既に壊れていたのだがな」

「何……」

 

 ゴミのようにISを放り投げる宇佐美。Mがそれを拾えば確かに展開も反応もしなかった。

 

「如何やらお前の成長によって『黒騎士』にバグが発生したらしい。ISコアが汚染させられるほどの、な。全く、『織斑』の成長は規格外だ……。称賛に値するよ」

「!?」

 

 信じられない顔で宇佐美を見るが、彼女の目や言葉は至って真剣なものだ……嘘をついるようには思えない。

 もしや、自分は褒められているのか?……いや、それとも舐められているのか。どうにもこいつの腹の底は見ていても考えても分からない、と思案するM。

 

「……だが、結局は想定の範囲内。『この程度の力』で満足するとは……」

「何…、だと!お前に何が解る!私には力が必要なんだ……!」

 

 『この程度』と語った宇佐美に怒りを見せても、彼女は静かにMを見つめるだけ。

 

「……お前が求めているのはこんなものか?只のIS如きで満足するのか?『織斑一夏』は、さらに強い力を得始めているぞ……」

 

 その言葉に、一瞬で憎いあの男の顔が浮かんだ。自分の代わりにその場に立っているあの男が……。

 

「……っ、……!」

 

 その感情が溢れ出し、年端もいかない少女は変貌する。一瞬で犬歯を剥き出しにして、狂気に憑りつかれた餓狼の如き形相であった。それほどまでに彼女と『彼ら』の確執は深いのだろうか。

 

「……その顔だ、お前程の憎しみを見せる人間はそう居ない。……お前なら『最強の器』、いや、それどころか『ハザードレベルX(・・・・・・・・)』になれるかも知れない……」

 

 その様子を優しげな笑みを浮かべる『狂った悪党』は、『悪しき織斑』を期待した目で見つめている。

 

「そこで今までの問題行動を不問にする提案なのだがな、お前に先行投資だ。新しいIS……、今私が開発中の『無世代機』、使いこなせるのならお前にくれてやろう」

「…………『無世代機』?だと……?」

 

 聞いたこともないワードに戸惑いを見せるMに、これ以上は教えられないとでもいうかの様に人差し指を唇に当てる宇佐美。

 

「だが、お前にそれに見合うだけの成果を上げられるかまずテストだ」

 

 カチャン、と机に乾いた音が鳴る。Mはそこに置かれた黒い拳銃と、その傍らにあるものを手に取った。

 

「……コレは。お前…」

 

 Mが持ち上げたソレは……――――『蝙蝠の顔が描かれたボトル』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「何で夏休みがもうすぐ終わりってなってんのに、アンタと海釣りしなくちゃなんないのよ……」

 

 カンカン照りの真昼間、もう間も無く三時と言う所。浜辺のテトラポットに二人の少女の人影があった。

 

「いやぁ、お恥ずかしながら食費がカツカツでして」

「……これ食用なのね」

 

 洗濯物を一緒にもって来たらしい、片側に下着を吊るした木の棒を立て、顔に巻いたストールで暑さをしのぐセシリア。一方日傘を差しながら汗だくになっているのは半そでTシャツの鈴。

 

「浜焼きは乙でしてよ……十三匹目フィィィッシュ‼……おやまたタコですわ」

「フィッシュって何よ?」

 

(A.フィッシュとは釣る時の掛け声、若しくは釣った魚が何匹、何杯かをカッコよく言う為の方便であるbyとある紅茶の掃除主夫(ブラウニー)

 

 ネットの豆知識に書き込んだらこのように返答が返ってくる疑問が鈴の頭の中でグルグルと回る。

 

「てかセシリア、アンタさっきからタコばっかり釣ってない?この近海でそんなホイホイ釣れるモンだっけ……?」

 

 セシリアのクーラーボックスの内訳がとんでもないことになっている。タコが6匹狭い箱の中でウゴウゴと蠢いていた。アカムツやシロムツが触手に絡み取られており、耐性がない人間が見たらSAN値直葬な感がある光景ではないだろうか。

 彼女、クトゥルフか何かのタコの呪いにでもかかっているのではないかというレベルであった。

 

「…わたくしが吊り上げる魚、タコとウナギが何故か多いんですわよね。最近の大物はシャチですが」

「…………待って、シャチって動物よね?ってか何処で釣ったのアンタ?」

「アラスカに行った時に偶然……十四匹目フィィィィッシュッッ!」

 

 海洋生物の王のメダルに縁が深いセシリアなのでした、まる。

 

「お、今度は魚…しかもメバルですわ!塩焼きでも醤油煮でも美味しいのですわよね……一夏さんのところにもお裾分けしに行きましょう」

「アンタイギリス人じゃなかったっけ。ってあたしのところにもきたぁっ!」

 

 鈴が引き上げた竿と共に、ザバッと海面を跳ねる黒い影。40㎝はあろうかというかなりの大物である。

 

「これは…え、マジ?ヒラメゲット!」

「おぉ!ムニエルが美味しいですわよ!」

「あーいいわねぇ。でもねセシリア、日本じゃやっぱり刺身が一番よ」

「…生魚、ですか……」

「アレ?やっぱり苦手だったりする?」

「え、えぇ……個人的なことになるのですが。旅した先々で生水に中ったり、生肉に中ったりと、碌なことがないのですわ…」

「あらー……」

 

 そんな会話をしながら、海にいる二人の時間はゆっくりと過ぎていく。

 

「……――――にしても、意外に釣りもいいじゃない。クソアッツいけど」

「む。これは大物の予感…、ですわっ!」

「あ、手伝おっか?」

「お願い、しますっ…!」

「よしオッケ。じゃあせーので引くわね……――――せぇのッ‼」

 

 ヒラメを引き上げた時とは全く違う、海面が弾けたような轟音が生じた。

 

 

 

「「……――――は?」」

 

 

 

 セシリアと鈴が仰ぎ見た蒼穹。彼女らの上空から、大口を開けた3mの鮫(・・・・)が降って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 時刻は夕暮れ。ラウラはシャルルや三羽烏と一緒に、人の喧騒に溢れた神社を歩いている。周囲の暗がりは夕日と灯籠でオレンジに染まる。

 

「篠ノ之神社で夏祭りやっている、とは聞いていたが……これほどとは」

 

 随分と人の数が多いな、と歩きながら思う彼女。因みに三羽烏共々浴衣を着ているが、それぞれ一夏宅にあったものを採寸して着まわしているらしい。

 

「おい銀髪、何勝手に出歩いてんだ、俺方向音痴なの知ってるだろ。迷子になったら二人とも赤っ恥だ。離れんじゃねーよ」

「それはツンデレ、と言う奴か?」

「ちげーわ誰得だよ……、ッ‼」

 

 なんだかんだで良い雰囲気を放ちながらそばを歩いていた金髪の浴衣男。

 …――――だったのだが、急に例の如くシャルルンのアイドルセンサーがオンになる。

 

「ハッ……!そこか…!」

「どーしたんです、カシラ?」

「あっちから煙に混じってくーたんの匂いがする!」

「本当にどうしたんですカスラ」

「ブルが毒舌……ウチらも平常運転に戻って来たなァ……」

 

 三羽烏は日本に来てからのカシラの平常運転にげんなりしていたのはまた別の話。そんな事も知ってか知らずか、彼ははぐれない様ラウラの手を引き突っ走る。そしてその先で、シャルルは自分の運命を変えたアイドルに再会を果たした(世迷言)。

 

「お?お前……シャルル・デュノアじゃねーか、らっしゃい」

「あっ、はっ、久しぶりですオトーサン!」

「誰がだ、誰が」

 

 あからさまに不機嫌な顔で、店を切り盛りしている惣万は気のない返答。彼がソース料理を出す屋台と、その向かい側で飴類を出す屋台が大盛況となっているためである。どちらもカフェ『nascita』が出店したもので、ただいま絶賛かき入れ時なのだ。

 

「おーい惣万?見てわかるがりんご飴と綿飴の店に客が寄り付き過ぎだ。もう私じゃ捌ききれねぇぞ。こっちやっとくから向こう行け……って取り込み中か?」

 

 彼らの目の前では、売り子をするお面を付けた銀髪少女(ネットアイドルくーたん)とタコ焼きと焼きそばを作る灰色髪の乙男(石動惣万)、それに初めて見る茶髪の目付きの鋭い女性(巻紙礼子)が一堂に会していた。

 くーたんの知名度はかなりのものなので、顔隠しの為に出店にあったプリ●ュアのお面を買ってもらえたらしい。

 

「いんや?ってか巻紙、そっちの方が楽だったはずなんだがな。なんでこんなに集まったんだ…」

「馬鹿か?お前の作った飴細工が売れに売れまくって大変なんだよ。何だあの金魚、マジで本物みてぇじゃねぇか。……ってクロニクルは何食ってんだ」

「金魚飴美味しいです」

「え、くーたんそれ飴細工(シュクルダール)ってマジ?お父様半端ねぇ…」

「だからちげーから。養父なだけだから」

 

 惣万の作った飴細工、そのリアリティに(意外と)芸術に造詣が深いシャルルでさえ唸る。

 

「む……石動氏。コレは何だ?」

「お、ラウラ・ボーデヴィッヒ君気になるか?教えてやろう、コレはTAKOYAKIだ」

「TA・KO・YA・KI?」

 

 ……何で片言?とブルは思ったが、あまりの会話のテンポに突っ込みが追い付かなかった。惣万という人間とカシラを合わせたらペースが乱されて仕方がない。

 

「ある世界では丸いものが神聖だとされていてな?その王子様が好きだった食べ物だ。その王子様は朝昼夜毎日必ずコレを食べてな、可愛い嫁をゲットしたという霊験あらたかな食べ物なんだが……」

「取り敢えず百個」

「ラウラァ!?」

「よーし注文入ったぞ。後は頑張れ巻紙。俺向かい側の屋台で飴作って来る」

「おぉい嫌がらせかオメーは⁉この量一人で作れってか!しれッと丸投げしてんじゃねぇ!」

 

 どこぞのメガウル王ダーのような思考回路になっているラウラが、巻紙に向かって早く早くと思念を飛ばしていた。不精不精にちゃっちゃかソースを絡め麵に火を通す。巻紙礼子、実は女子力はそこそこ高く、中々の手際の良さだった。

 

「……へい、おまちどおさん。…食えんの、お前」

ふぉれふぉ(これを)ふぁれれふぁ(食べれば)ふぉめふぉ(嫁を)……(もっきゅもっきゅ)ッふまひ(美味い)‼」

「取り敢えず食べてから喋れ…………あとくーたん、綿あめ一緒に食わない?」

「あ、グリス。リンゴ飴買ってきて」

「はいただいまー‼」

「「「カシラェ……」」」

 

 カシラがパシラれている風景を眺め、『羞恥心とかないのか?』と頭を抱える三羽烏。だがコレがカシラクオリティだ。

 

「へっへっへ、毎度アリ……これで売り上げが……(ごすっ!)あだぁ!?」

「嘘を教えるな。というか屋台の収入など微々たるものだろうが」

 

 綿飴を作りながら怪しい顔になってた惣万に天罰が下った。涙目になりながら振り返ると、黒の浴衣の黒髪の麗人が険しい顔で立っている。

 

「イッテェな千冬……つか何でオフなのに出席簿持ってんの?」

「私のアイデンティティなんだ。悪いか」

「……ドンマイ」

「何憐れんでるんだ」

「やっぱ学校ってブラックだよなーって…。そーだ何か食ってくか?あぁ、ラウラちゃんからタコ焼きでも貰ったらどうよ」

「……惣万、分かって言ってるだろう」

「?」

 

 はて?と小首を傾げる惣万。本当に自覚すらないという憎たらしい顔だった。

 

「厄介な出店出しやがって……私タコ苦手なんだよ……!」

「……ん?なんかあったっけ?」

「忘れているのか……っ!ISスーツの中にお前が捕まえたタコが入っていて、知らずに着たらえらいことになったんだぞ本当に!」

「……あー、あった!そーだそーだ、けしからん春画みたいな…ひゃん!?」

 

 

 黒い斬撃が文字通り“飛んできた”。真空状態になった波動が闘気か何かの作用で色がついたのだろう。

 

 

「……ちっ、外したか」

 

 千冬は首筋に血管が浮き出ている以外は極めて冷静に振舞っている。むしろそれがちょっと怖い。

 

「あっぶな…え、客寄せ用の八岐大蛇の飴細工が真っ二つじゃん。ソレ俺の頭に当たったら大惨事じゃねぇの…?」

「それはない。だがもし裂けても、二つの身体に分かれて仕事も捗るだろ。感謝しろ」

「ウンソーダネ……。ちぇ、これ作るのに30分もかかったのに…」

 

 真っ二つになった八岐大蛇を抱え、とほほとばかりに肩を落とす惣万。しかしながら、こればっかりは過去の自分に責があるので強くは言えない。実際タコの動きが激しくてちょっと助けるに助けられなかったというかなんというか……とその当時を回想する。

 

「何してんだよ惣万にぃ……」

「アレ?箒ちゃん……それに一夏」

 

 と、その時になってようやく惣万は気が付く。朝顔の浴衣の篠ノ之箒、その傍に手を取って歩く龍柄の浴衣の一夏、そしてセシリアや鈴と勢揃いだった。

 

「おや、タコ焼きですか…………ミスター石動?材料の差し入れでこちら如何でしょう?先程吊り上げたのですが、お使いになられます?」

「お?……おーオルコット嬢、これは忝い!後でお金払わせてもらうわ」

「やりましたわ………(グッ)」

 

 ホント、ただでは転ばない女、セシリアだったのだった。

 

「っ、オルコットそれをくれぐれも私に近づけるなよ。本当に頼むからな…」

「…(スッ)」

「オルコットっっ‼」

「えー、蛸さん可愛いですのに…。ねぇToto様」

 

 どうやらセシリア、外国人であるのにデビルフィッシュに対して全く忌避感がないらしい。釣り上げた一匹に名前を付けるまでになっている。

 

「あ、あたしからはサメのお裾分けです。コレもさっき釣りました(どすん)」

 

 何処から取り出したのだろう。フカの頭と胴体の半分が店先に置かれた。突如として虚空から現れた新鮮な巨大生物に、道行く人々全てが振り返らざるを得ない。

 

「……。サメ」

「えぇ、サメです。ネズミザメです。シャーク」

「お高いヤツ!良く釣れたな!え、マジでいいの?」

「どーぞど-ぞ」

 

 腕のIS甲龍を摩りながら、鈴は笑う。近所づきあいの長い兄貴分にお裾分けできてうれしいようだ。……IS機能の無駄遣い感は否めないが。セシリアといいパススロット諸々をクーラーボックス扱いするのは代表候補生としてどうなのだろうか。

 

「ありがとうな。ラッキー刺身に蒲鉾に、色々できるな…」

「構いませんよー、フカヒレは実家の料亭(ウチ)で使わせてもらいますんで。というか惣万さん、話変わりますけど貴方も出店を?」

「あぁ、戦兎に連れられてな……ってかその戦兎がいねぇんだけど」

「あぁ……戦兎さんなら……」

 

 そう言って一夏が指し示した方向……そこは篠ノ之神社の神楽舞が行われている舞台だった。

 ガヤガヤと騒がしいお祭り会場とはうって変わり、その場所は空気がシィンと冴え返っているかのよう。厳粛で荘厳な雰囲気に包まれていた。

 

「……――――え?」

 

 その舞台で神楽舞を踊る戦兎の姿があった。

 

 一挙手一投足が計算された様な動きでありながらそれすら自然に見せる彼女の技量、キラキラと星が舞っているかの様に美しく踊る。

 

「……」

 

 誰もが目を逸らせない。それ程、人の心を引き付けて止まない舞いだった。

 

「私、顔がこんなことになってしまって……それを見かねたのか戦兎さんが代わりに神楽舞を踊ると言い出して聞かなくて……」

 

 真実知っている人間は驚きや涙を隠せない。篠ノ之束が妹の為に踊りを踊る、そこまで二人の仲は親密さを増していた。

 

「……――――束。いや、戦兎」

 

 千冬は思う。『今の彼女(戦兎)』と『昔の彼女()』、一体どちらが本当のお前なのか。お前は大きく変わった、きっかけがどうあれ、大きく一歩を踏み出した。だが私は、かつての過去から変われているのか……。

 

「綺麗ですわね…………」

「セシリアに同意するわ……」

「……美しいな」

「…………ひゅぅ」

「…………箒、良かったな……」

 

 生徒達は思う。願わくば……因幡野戦兎と篠ノ之箒の絆が変わることがないことを。

 

「…………戦兎」

 

 そして惣万は思う。……ありふれた偽善でこの世界を背負わせた、小さくて情けなくて、それでも優しい『ビルドの皮を被った』人間の事を。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、箒ちゃん!おーいっ!」

 

 神楽舞を追えると、イツメンが揃う場に『てってってー』と駆けてきた天才科学者。神楽舞装束を纏ったままバタバタと走っていたのだが、何故かどうにも似合っていた。

 

「えへへどーだった!?うまく踊れてたかな⁉」

 

 キラキラした目で見てくる子供っぽい大人。

 

「えぇ。流石、と言いますか『やっぱり』と言いますか、すぐに踊れましたね」

「ふっふーんどんなもんですか!……ってみんなも来てたのっ!?」

 

 うっそーん!?と口から言葉を垂れ流し、顔を照れで赤らめる天才科学者。

 

ふふふひい(美しい)おほりへひは(踊りでした)!」

「うんラウッちゃんはごっくんしようか。それと口の周り拭きんさい」

 

 戦兎は自分の居候先のネトドル(クロエ・クロニクル)の妹の面倒を見る。うーん、この頓着のしなさは間違いなく姉妹だなぁ…と思いながら、ハンカチで青のりとソースを拭った。

 

「よう、お疲れさん」

「あマスター、サプライズにしたかったんだけどどうだった?」

「おう、上手かったぞ」

「ふふふ、そーだろそーだろ……ってマスター何それ」

「鈴が釣った鮫。今夜はワニ料理だなーってみんなで話してたところだ。刺身に湯引きに煮凝りに…天ぷら、フライにカマボコに…腕が鳴るな」

「ふ、ふーん…」

 

 小脇に鮫を抱える彼のこの場のミスマッチ感に何とも言えない表情をする戦兎。ついでに言えば戦兎、サメのB級パニック映画を見てからというものちょっと苦手意識があったりする。名前的にも皮をはがされそうな相手だし、どうにも(ワニ)は苦手なのだ。

 

「あれ?ところでシャルル何処行った?」

「クロエが使いっぱに出した。あと十分は帰ってこないだろうな」

「十分?微妙だな……」

 

 何でと聞くと、シャルルな論理が返ってきた。

 

「ここから十キロ先にある店舗限定のおまけつきコーラが飲みたいっつったら飛んでいった」

「十分で戻って来れるか?……いや、来れるか」

 

(因みにその頃、コーラを買ったシャルルは、炭酸飲料に振動を与えないようラーメン屋の岡持ちに入れて運んでいた)

 

「丁度花火が始まるのが五分後か……アイツ道に迷わなければ戻って来れるだろ。さて、移動しようぜ~」

「いや、シャルルって方向音痴だったろうが」

「……。箒、そういうのは言わなくていいんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 一方、ココは簪が通う国立病院。その一室にいるのは、外を見たまま黙る四人の少女たちのみ。

 

「……お姉ちゃん、虚さん。今日ね、花火大会があるんだよ」

「………――――」

 

 布仏本音もいつもの雰囲気は鳴りをひそめ、ただただ姉の容体を伺っていた。

 

「……――――窓、開けておくね」

「……――――あ、ありがとう……確か……本音さん?」

 

 その言葉はこれまで積み重ねてきた『思い出』がもう戻らないと思わせる。………『姉』との思い出が苦痛となって彼女達の背中にのしかかる。

 

「……っ、うん……。一緒に見て良い?」

「……、……えぇ。どうぞ……」

 

 ……その他人行儀のような言葉で、さらに重荷を背負った様に思わせる。

 

「…………ごめんなさい。覚えていなくて……」

「…………」

 

 そう、臨海学校の前に、『姉』と『妹』は約束し合っていた。今までの関係で失った時間を返済する為に、一緒に姉妹何気ない時間を過ごしたい……その言葉で二人の心は満ちていた。……はずだった。

 

「……。『お姉ちゃん』のはずなのに……本当にゴメンね……ぇ……」

 

 それでも、その泣いた顔を見ていると……どうしても思ってしまうのだ。

 

「…………大丈夫。お姉ちゃんたちの笑顔は……取り戻すから……」

 

 そして、外には鮮やかな閃光が闇を彩る。それは、一瞬の後に儚く消える。霧の中に霞む、やがて消えゆく露のように。まるで、彼女らが失った記憶のように、再び思い出そうとすると見える黒煙のように。

 

「…………っ、たーまやー‼」

 

 簪は迷いを振り払うように叫ぶ、病棟から。

 

 

 

「「「「かーぎやーっっっ‼」」」」

 

 戦兎達は明日を思って叫ぶ。篠ノ之神社から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日々は、花火の様に散る。そして、暗き悪人は闇夜に影も無く只佇む…………。

 

 

 

 

【Bat…!】

 

 ガラスの外は未だ爆発が収まらない。(そら)を彩る光を背景に、小さく……しかし凶暴な視線をした少女が銃を構えた。

 

「蒸血」

 

【Mist match…】

 

 下から上へ銃を動かし、その身を汚れた黒煙で染める。小さな身体にスーツが纏わりつき、アーマーにビスが突き刺さる……。

 

【Bat…!B-Bat…!Fire…!】

 

 弾ける火花、巻き起こる白煙。そこにはさっきまでの小柄の少女はおらず、長身の蝙蝠の怪人が立っている……。

 

『なる、ホど。こレが、……トランスチームシステム、か』

 

 彼女は手を何度か握りしめ、黄金のバイザーを光らせた。

 

「あぁ、ISでは目立ちすぎる所でも行動が容易い。君の生体データを入力しておいたからなぁ……幾らかは動きやすいだろう?」

『……デ、フルボトルを、回収スれば、良いのカ……』

 

 ナイトローグがノイズ交じりの声で尋ねれば、ニヤリ、と笑い手に持ったスイッチを押す宇佐美。

 

「あぁ、ついでにこれを囮にしろ」

 

 大きな音をたて、宇佐美の後ろの壁の一部が上がり始める。そこにいたのは……。

 

『……、コレは、……』

「『クローンヘルブロス』だよ。量産型カイザーシステムのデータ取得、その最終段階だ……」

 

 ズシャッ、と金属質な音を立てて歩いてくる白と水色の歯車の怪人。虚無なレンズアイには、宇佐美とナイトローグの姿が映っている……。

 

「五月から世界各国を巡り………面倒なテロ組織や三流企業、そして女性優遇国家とか言うふざけた馬鹿共を壊滅させて我々に邪魔立てする存在はいなくなった!ようやくだ……ようやく醜い世界に戦乱を‼この狂いし世界に消滅を‼」

『…………』

 

 青紫色の髪を振り乱し、『狂った悪党』は嗤う。信じるべき歪な愛を以って、世界を滅ぼさんと高らかに謳う。

 

「覚悟しろ、篠ノ之束(因幡野戦兎)。お前のそのガワだけの『仮面ライダー』で、どこまで戦えるか試してやろう…………」

 

 

 次なる刺客が……――――、そして、本当の戦いがやって来る。

 

 

「世界よ‼私に、私達に勝てるか!?待っているぞその時を!!!この世の果てで相見(あいまみ)えよう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 やがて、花火は散り、天から消えていく。儚く散華する命の様相を示すように。

 

「星が降ってるみたいだな……」

「あ、惣万にぃが小さい頃から歌ってたあの曲か?」

「うむ、時折歌ってみたくなってな」

 

 篠ノ之神社からの帰り道、カフェnascitaに向かう大勢の人の最後にて、箒と一夏は懐かしい歌を思い出していた。

 

「……少し、歌うか」

「あぁ、歌おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて星がふる 星がふるころ

 

 

 

 

 

心ときめいて ときめいてくる

 

 

 

 

 

懐かしい 出来事を 忘れないでね

 

 

 

 

 

目覚めては 思い出す 暖かな顔

 

 

 

 

 

 

 

 箒の片目は、夜空の向こうの月の光に照らされて、一夏の肌は寄せては返す母なる海の穏やかな光に包まれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて星がふる 星がふるころ

 

 

 

 

 

心ときめいて ときめいてくる

 

 

 

 

 

やがて星がふる 星がふるころ

 

 

 

 

 

心優しさに 微笑んで来る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二学期がやって来る。千の翼を広げて、青い空を覆いにやって来る……――――。




宇佐美「フフフ、どうだぁ……神の恵みを有り難く受け取れぇ‼いよっほぅ‼」
ナイトローグ『……ウゼェ……』
宇佐美「あぁ?一人で電車乗れないガキが……IS造ってやらんぞ、ぉお?」
ナイトローグ『……なっ、それハ……』
宇佐美「ならそれ相応のお願いの仕方があるだろう?(ニヤニヤ)」
ナイトローグ『……!土下座しろというのかフザ(即落ち)うにゃァァァァァァァァ‼』
(土下座Mローグ)

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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