IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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宇佐美「世界のありとあらゆる悪の結果であり…」
ブリッツ「マスターは偽悪だから違うと思う~」
宇佐美「……エル・サルバトーレ、悪意に満ちた世界を救う者」
ブリッツ「救世主呼ばわりされても喜ぶのかな~?」
宇佐美「………この星に」
シュトルム「何しているんですか貴女達は?」
ブリッツ「宇佐美がね〜マスターのための名乗り口上を考えたいんだって~」
シュトルム「先ずはあらすじ紹介しましょう……それから考えましょう」
宇佐美「…う゛う゛ん、前回の話では新ナイトローグによってビルドがあっさり大敗……」
シュトルム「マスターの方もしっかりと暗躍をやってくれていたようですね……IS学園の方も新しい生徒会長が決まったようですし…」
ブリッツ「………私何もいう事ないね〜」
宇佐美「ではでは、今回の話では私がヒマで作ったISが出てくるぞ」
倍姉妹「「……えッ?」」
宇佐美「…おっとこれはまだ未来の話でしたね?」



第六十二話 『ラビリンスな学園』

 薄暗い部屋の中では、眼鏡をかけた女性が空中に投影されたパネルを操作し続けている。それぞれのデータを瞬時に頭に叩き込み、怒涛の様に流れるプログラムを刹那に最適化させ、手元にある紫と黒のデバイスへと注ぎ込む。

 すると、黒煙がラボラトリー内に充満し、一体の怪人の姿を形作った。

 

『……今帰った』

「そうか」

 

 聴き取りづらいノイズ混じりの言葉を交わすナイトローグ。その様子を青紫色の髪を掻き上げ、声の主を見ずに手を伸ばす女研究者。

 

「で?首尾の方は?」

 

 片手でタイピングを続ける宇佐美、彼女の言葉にナイトローグは変身を解除した。パワードスーツが消えると、Mは手に持っていた物を机の上に置く。

 

「思いの他持っていなかった。四本だ」

「……ほう?」

 

 クローンヘルブロスのネビュラスチームガンと共に奪ったフルボトルを乱雑に広げれば、宇佐美は驚いたように肩眉を上げた。

 

「意外に善戦したな。返り討ちに合うと思っていたのだが……君を過小評価していたようだ」

「……私は全ての『織斑』を超える存在になる。『強化されただけの篠ノ之束』に負けることなどあってはならない」

「……フン、まぁそれに関してはどうでもいい。それよりも手を出せ。丁度出来上がったところだ」

 

 そう言って卓上のトリガーをセットした台座から取り外す。それは…………織斑一夏が持つトリガーと酷似していた。

 

「報酬だ。このトリガーを起動させてみろ」

 

 MはそのISの待機状態をまじまじと見ていた。メインカラーの紫に、細部の黒いライン…………有機的な禍々しさを感じさせるデバイスには、水色のボタンとコネクタが飛び出している。どうにも引き込まれるようなデザインだった。

 

「コレが例のISか……?」

「あぁ、私自らが『コアを三つ』制作して完成させたISだ。有難く思え」

「!」

「何だ?私がISコアを作れないとでも思っていたのか。だとしたら心外だな。むしろコアの性能はオリジナルタイプより9.6割ほど良いぞ」

「……ふん」

 

 

 手に持ったトリガーから伝わる重みが強くなった気がした。『トリプルコア』の『無世代機』……。非常識的な(そんな)ことをさらりと言った宇佐美に、彼女の事が嫌いなMもその愁眉を動かさざるを得ない。

 

「私としてはISなぞ創っている暇など無いのだがね……。お前が『約束の数』になるか否かの可能性に、私の『神の才能』と『クリエイティブな時間』を投資してやったんだ。期待を裏切ってくれるなよ」

「……、何を言っているか分からんが、ではお前の『神の才能』とやらを見せてもらおうか」

 

 Mが言った瞬間、真っ黒な粒子がそのラボにまき散らされる。宇佐美の髪が激しい風圧で横に流れるが、彼女はそんな事になど興味はないらしく、ただ眼鏡を押し上げただけだった。冷たい視線が目の前の異形のISに注がれる。

 

 

 それは言うなれば蕾だった。純黒の花弁が包み込んでいる、種型の蕾。真っ黒な六枚の外殻の先端からは、螺旋状のエネルギー片が散っている。それはまるで、戦火に焼かれた人の灰燼の様で…。

 

「……。……これが……私の……」

 

 それは漆黒の繭から解き放たれた堕天使を思わせた。

 

 Mが万感の思いを込めて声を振り絞る。そのISには、そうさせるだけの『力』があった。顔の大半はバイザーで覆われているが、赤いアイレンズからは血の如きエネルギーラインが後頭部まで連なり、角のように突き出ている。背面には堕天使の様な黒いエネルギー・ウィングが存在し、鋭く有機的な装甲を持つ歪な外見だった。

 だが『世代が存在するIS全てを凌駕する』ことをコンセプトにして宇佐美が手掛けた機体であるため、今のMが『世界最強のIS使い』であることは揺るぎのない事実なのだった。

 

「お前の戦い方は近距離から中距離戦に向いていた……ゆえにメインウェポンとなるバスターソードやランサービットに改良型展開装甲を搭載している。武器を動かしてみたまえ」

 

 Mがその通り念じれば、スタビライザーとなっていたランサービットが状態変化を起こし形を変える。また、テールブースターになっている剣を振り回し、彼女はこれさえあれば万全を期して戦える事を察した。

 

「……で、このISの名は何だ?」

 

 悪魔の角の様なアンテナ部を持つバイザーを宇佐美に向け、武装を片付けるM。顔や声には出ていないが、幾らか上機嫌になっているには確かだった。

 

「そうだな……『最終戦争・黎明(ブラック・アルマゲドン)』、とでも名付けようか?」

 

 対照的に椅子の上で気だるげに足を組み替える宇佐美。どうにもIS開発は退屈らしい、と言うか嫌悪感すら抱いているようだ。

 

「アルマゲドン…」

 

 そう呟かれた言葉を受けて改めて自分のISを見回すM。名前を反芻し感慨深げに名前をもう一度言った彼女を見て、宇佐美は手元の電子機器を操り出した。

 

「……物は試しだ、インフィニット・スマッシュを幾らか作っておいた。ブラック・アルマゲドンの試運転をやってみると良い」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 宇佐美が作り上げた異空間内、そこで十数機のインフィニット・ストラトスの怪物が、一機の黒い堕天使に葬られていく。宇佐美が『インフィニット・サーキュラー』からコピーした単一仕様能力『零落白夜』『絢爛舞踏』を用いて攻撃や回復をするインフィニット・スマッシュ達だったが……。

 

『…………なる程、こういう事か』

 

 ランサービット『百織斑猫(タイガービート)』が|ダイレクト・モーション・システムを上回る演算能力を持つインフィニット・スマッシュに反撃を許さない。

 

『…………失せろ』

 

 両腕の量子運動停止光砲『歌う骸骨(デア・ズィンギンデ・クノッヘン)』が解き放たれた。

 アルマゲドンの名を示すISの一撃は、周囲に飛び交っていた無力な怪物たちを一瞬でロストタイムクリスタル(・・・・・・・・・・・)ごと消失させる。彼女はその力の強大さに唇の端を歪ませた。

 

『ふっふふ……はははははは!』

 

 その異空間内の様子をソファに座って見ているのは、IS設計者と亡国機業の計三人。

 

「オイオイ、マジかよ…………」

 

 絶対防御を無効化にした極光に飲まれるISの怪物。その様子に呆気にとられるしかないオータムやスコール・ミューゼルたち。

 だが、宇佐美幻は不満顔だった。

 

「フン、成程……」

「宇佐美、どうしたの?」

「……想定の範囲内だった。今の所はコレが限界か……まぁそうか。ハザードレベル3.5だものな」

「想定内?コレで……なのかしら?」

 

 スコール・ミューゼルが『ふざけているのか』と言った視線で見てくるが、宇佐美に虚偽の雰囲気など一切無かった。彼女はただただMの現状に納得し、これからの成長率に薄い期待を抱いているのみ……。

 

「MのISを使っての力は私の想像を上回らない。ヤツに『ブラック・アルマゲドン』は好きに使え、と伝えろ。私はネビュラスチームガンの改造をしなければならないのでな」

「え、おいちょっと……」

 

 そう言われてもオータムは困る。事前に知らされていた『無世代機』のコンセプトは想像を絶していた。『“シールドエネルギー貫通攻撃”のデータ回収と“半永久機関化”させたトリプルコアの運用実験』と言う、つまりは常に疑似的な『零落白夜』『絢爛舞踏』状態の対IS軍隊戦用IS……それが『無世代機』であるらしい。世界がこの一機でひっくり返る代物を、まるで飽きた玩具の様に扱う宇佐美に彼女らは怖気が止まらない……。

 

『………………“夕凪闘夜”』

 

 三人が見る画面からMの声が漏れる。さらに武器を持たない左腕に、炎の様に沸き立つ黒光が発生した。それを確認した宇佐美は、興味が失せたかのようにドアを開き、その場から振り返りもせずに去って行く……。

 

「……本当にあのキチガイ蝙蝠、頭オカシイぜ……ん?どうしたんだスコール?」

「……オータム、画面見なさい」

「……ぁ?…――――ん、だ、こりゃ…」

 

 スコールの妙に平坦な声に導かれ、オータムが振り返った先で信じ難いものを見た。黒光に満ちる画面の中…………存在を保てずに崩れ落ち、結晶と化すインフィニット・スマッシュ達。

 その様子は、まるで黙示録の黒い騎士の様であった。

 

 

 高級ホテルの下から流れてくる喧騒などに気をとめず、薄暗い回廊を歩いていく宇佐美。IS整備用の簡易ディスプレイ眼鏡を鬱陶しげに外すと、つまらなそうなふくれっ面でスーツのポケットに手を入れた。

 

「…………Mの奴に与えるのは癪だが、スタークの悲願の為にもこちらを調整しておくか」

 

【デンジャー……!】

 

 本当に不服な思いをしながら、彼女は手元のボトルを弄ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、こちらはカイザー姉妹の研究室。

 

「よーし、最後のコレを取り込めば完全態にもどる~、お待たせ~」

「まぁ身体にデータが馴染むまでしばらくかかるでしょうが……はいどうぞ」

 

【ドラゴナイトハンターZ!】

 

「培養~……あらよっと~」

 

 黒いゲームカセットのボタンが押されると、ポリゴン状の粒子が増幅していき、ブリッツへと取り込まれる。

 

「ふぃー…完成体ー…」

「これで元通り、ですか」

 

(おーい、もしもしブリッツー?そろそろ私の出番じゃあないのー?いい加減ここから出してよー?)

 

 …未だにガシャットのデータバンク中で閉じ込められている一人を除いて。

 

「……ブリッツ。呼ばれているのですが?」

「……それはだめ。あいつだけはなんかいや……」

 

 比較的に温和なブリッツでさえ嫌われるそのバグスター……彼女のすごく嫌そうな顔からそれがよく分かる。

 

(えーい、なら勝手に出てやるー!良いですかー⁉モッピーちゃん怒ったよー‼)

 

 そう言って携帯ゲームのような機体から出てこようとする『モッピー』だったが……。

 

「てい」

(あちょ……!待ってやめて待ってバグヴァイザーⅡの銃口塞がないで出られないじゃん!モッピーモピプペパニックだよー‼出せー!私をここから出せぇーっ‼)

 

 どこかの神だったり王様だったり大王だったりとリニューアルが激しい人物のように暴れるバグスター……機体がブルンブルンと揺れていることから、かなりの抵抗をしているようだ。

 

「何故こうも落ち着きがないのでしょう……。マスターの言っていた原初のバグスターも大概でしたが、このプロトバグスター(原始個体)も全く以って迷惑千万な……」

「宇佐美が創った『例外処理領域』に閉じ込めていても色々悪さしてたしね~。ゾンビ騒ぎもコイツだったし~」

「あの話はやめろください……」

 

 関係者全員が口を慎んだことで無かったことにされた惨劇を思い返す姉妹。そんな雑談をしていた時だった。彼女らの居住スペースにずかずかと二人組の少女たちが踏み入ってくる。

 

「こんちはー!待ちきれなくて来ちゃいましたー!」

「…………」

「…………貴女達、ですか……」

「あ、やほ~。ようやく自我が~、定着したね~?」

 

 また面倒なのが来た……と視線を向けるシュトルム。血の飛沫の様な模様の着物の少女と、寝袋に入った芋虫状態の少女がソファにどっかりと座り込む。二人とも水色の髪に赤い目を持った、似通った外見のブラッド・ストラトス達は口を開いた。

 

「とっころでブリッツさんにシュトルムさん?私のオリジナルが記憶喪失ってホント?ねぇねぇホント~?」

「えぇ本当ですよ、……ところで『No.07』を無理やり連れてきたのですか。『No.06』、貴女は……」

 

 眉をしかめるシュトルムだったが、『No.06』と言われた水色髪の着物女も負けてはいない。ぷくっと頬を膨らませバタバタ扇子を振り回す。

 

「むっ、カチンときた!ちゃんと『妹ちゃん』、って呼んでくれないと困るんだけど!ねっ、うっちゃん!」

「………………」

「あれ!?無視!?酷い!?お姉ちゃんに対してひっどい!?」

 

 一人大騒ぎする着物姿に扇子の少女。その馬鹿騒ぎをまどろんだ眼で見た後、ソファに寝ころぶ『No.07』は空中に立体ディスプレイを展開した。

 

【そもそもブラッド・ストラトスに血縁関係ないっつのプギャー(笑)。No.06のやってることイミフ(‘ω’)ノ】

「うっちゃん!?で、でもでも顔も似てるし、外歩くときくらい手繋いだりしたいじゃん⁉ねぇそう思わない!?」

【そげぶ!( `Д´)カーッ、ペッ!】

「酷いっ!泣いちゃうもんね私!うわーん‼」

【あ、あとシュトルムさんファミチキくだちい】

「無視!?」

【もう寝ます、オヤスミー】

「こらー!お姉ちゃん怒るよー!てか起きてくださいお願いしますぅ!?」

「……何しに来たんですか貴女は……」

「メタ的に言えば新キャラ紹介もがもが」

「貴女も黙っていてください」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜやぁ!でぇい‼」

「気合を入れるのは結構だが、不意を衝くなら声を出すな」

 

 未だ空も明けきっていない朝。今日もIS学園には姉と弟の特訓の声が響く。木刀を持つ二人だが、どちらも防具をつけずに剣を振るう。蹴りや正拳での就きを交えて戦い合う。一夏の剣が姉の頭を捉えた……かに思われた。

 

「はぁぁっ‼」

「……生温い!」

「ッ、……!」

 

 剣をからめとられそうになった一夏が空中で繰り出した回転蹴りを、世界最強の姉は易々と受け止め、地面へと叩き落そうとする…………。

 

「そう来ると……思ってたんだよ!」

 

 だが、一夏も負けていない。地面にぶち当たる前に身体を無理矢理ひねり、地面に手を付きながらウィンドミルの様に足を薙ぎ払った。

 

 

―ガキンッッッ‼―

 

「ぐっ……!」

 

 だが、それすら世界最強の身体に届くことは無かった。

 

「何が、そう来ると思っただ?自惚れるなっ」

 

 木刀を手の中で滑らせ、刀身を持ちながら見事音速で振るわれた脚を受け止める千冬。そのまま身を翻して一夏を蹴り飛ばす。

 

「ぐ……!まだまだ……!」

「その意気は良いな、続けるぞ。かかってこい」

 

 その言葉と共に、またも学園のグラウンドは破壊されていくのだった……。

 

「……全く、一夏も無茶苦茶な事を言う……。『生身でISと戦えるようになりたい』、など……。千冬さんが特訓に付き合う事になったのにも驚きなのだが」

 

 朝の特訓の付き添いとして見に来ていた箒と戦兎。某龍玉の漫画の様な有り様に顔を引きつらせる彼女だったが、一方の戦兎の顔はクマができておりいつもの尊大な態度はなりを潜めている。

 

「…………」

「……戦兎さん?どうしたのですか」

「っ、とゴメン。考え事してて……」

 

 箒はこの頃戦兎の顔色が悪い事に一抹の不安を抱いていた。どうにも何かを調べ続け、ろくな睡眠をとっていないように思える。身を削って何を探っているのだろうか……?そんなことを訪ねようとした時だった。

 

「……よし。本日はここまで。朝食までにシャワーを浴びておけ」

「へーい……あーぁ、ぜんっぜん勝てなかった……」

「当たり前だ。私がお前に負けるか」

「うーん、正論過ぎてムカつきもしないな……」

 

 土煙にまみれてもみくちゃにされた一夏と、汗一つがいていないその姉が箒たちのいる場所へと歩いてくる。

 

「あ、お疲れ様チッピーセンセ。スポーツドリンク、紅茶、コーヒー。どれがいい?」

「因幡野先生……その選択肢は一択なのでは……」

 

 あきれながらも記憶を失った親友の差し出すペットボトルを乱暴にもぎ取り、喉を鳴らしてあおる世界最強の姉。どうにもジャージ姿でのその様子は、休日昼間からビールを飲むオヤジみたいだな……と『おい篠ノ之、何か失礼な事思っただろ』…ホウキチャンは思っちゃいませんよ、えぇ。本当ですとも。

 

「と、ところで千冬さん。ISでのトレーニングはしないのですか?」

「篠ノ之、ちゃんと織斑先生と…。まぁ良い。……おい一夏」

 

 そこで弟にISでのトレーニングができない理由を説明するよう促す織斑先生。

 

「ん、箒。これ持って歩いてみろ」

「?………分かった」

 そこで、箒は白いトリガーを持って一歩、また一歩と三人から離れていく……。だが。

 

―……シュン―

 

「?…………あ」

 

 手の中から重みが消える。そして、ISが展開されるときと同じ真っ白な粒子が、箒の手からこぼれ落ちていく。

 

「そ、なぜか俺から離れると一瞬で俺の手元に戻ってくる。しかも夏休みの一件以来ウンともスンとも反応しない。山田先生に聞いてもこんな事初めてだとよ」

 

 手の中に戻って来ていた白式のトリガーを振るように見せて一夏は言う。

 

「またもライダーシステムに頼らざるを得ない状態だ。ISならば我々ももっと力になれると思うのだが、こちらだけは一夏の戦闘スキルを上げることだけしかできん……なんとも歯がゆいものだ」

「何言ってんだ千冬姉。こうやって付き合ってくれるだけで俺は十分報われてるよ」

「…………」

 

 申し訳なさそうに目を細め、顔を下に向ける千冬はどんな思いで弟を見つめていたのであろうか……ただ確かだったのは。

 

(強くなるんだ……もっと。もっと……!)

 

 弟の目には強い決意を持った意思がある事だ。それと呼応するように、朝日を受けて彼のISも光を放った様に見えた。

 

「……はぁ。意気込むのはいいが織斑、先生と呼べよ?今のは聞かなかったことにしてやる。……でだ。学園祭が近づいているのは知っているな?」

「あ、はい……先週の鈴のスピーチは覚えていますよ……」

 

 

 

 

 

 箒と一夏、回想(ホワンホワンホワン……)

 

『それでは生徒会長から学園祭の説明をして頂きます』

『えー、あー。うんはい……何でって思うかもしれませんが先週会長職に就きました、凰鈴音です。先週から立て続けに上級生が保健室送りになっている原因を作ってしまい大変申し訳ございません……でもなるべく喧嘩売ってくるのはやめて頂きたいかと……』

『違う違う違う、趣旨違ってきてる……』

『文化祭の出し物の説明をですね……』

『貴様の様なひよっこを生徒会長と認めるわけにはいかん‼者ども出会え出会えーっ‼』

『わーっ何か出てきたーっ‼』

 

 クナイや問題が書かれたプラカード、果てにはスパナを持った上級生が大勢やってきてスピーチが強制終了しました。因みに鈴により一瞬で鎮圧され、またしても保健室が満員に……。やっぱこの学園オカシイワ、と思う一般人一夏。

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれはとりあえず忘れろ。で、だ。本来なら教えるつもりはないのだが、ファウストがこの日に強襲してくる可能性は高い。例のパンドラボックスとフルボトルを狙ってな」

 

 一夏と箒の顔が引き締まる。若干十代半ばの少年少女がするような顔ではなかったが、彼には、そして彼女たちには『ありえざる存在』によって数々の受難を背負わされ、そしてそれに屈する訳にはいかなくなった。『イリーガル』が言うならば、それはなんとも愛おしく、もどかしい。

 

「……。絶対に死ぬなよ。一夏、箒……」

「「…………はい」」

 

 不安を誤魔化すためにか、ペットボトルの中身を腹の中に全て納め、グシャッと手の中で握りつぶした千冬は背を向けながらそう呟いた。

 

「うんうん。その日に向けて、一夏には強くなってもらわないといけないんだよね。オレ達としてもさ。ISの方もチッピーセンセの要望通り開発は順調だよ」

 

 寝不足の目を擦りながら戦兎も立体ディスプレイを千冬に見せた。その情報を見て獰猛な笑みを浮かべる世界最強。

 

「……ふ、腐っても元・天災だな」

「元から腐ってたんでしょ?ほら……心が」

 

―ヒュゥゥ…………―

 

 ……一瞬にして三人の顔から笑みが凍り付いたが。

 

(((…………これ笑って良いのか?)))

「?」

 

 そのとんでもない自虐ネタには、いかに世界最強でも突っ込むことはできなかった……。

 

 

 一方の鈴ちゃん。

 

「とほほ……何よ生徒会役員メンツ……。副会長の一夏と箒はクラス準備に行ったし……書記の本音は病院に行ってるし、アタシ一人でこの雑務をしなさいって……?生徒会入って数日だっつーのに……。あ゛ぁーッッ、朝からめんどくさいィッ‼何よこの機動戦姫シンデレラって!?これどーやって予算案を可決させるのオカシイでしょ楯無会長ゥゥ‼」

 

 ……そんな訳で鈴ちゃんの力で織斑が死ンデ(レ)ラぁな参加狂技はナシになりました。ヨカッタネイチカ!

 

 

 

 時間は過ぎ去って数時間後、一夏以下の生徒たちは教室で準備作業を行っていた。やれ織斑一夏とポッキーゲームだやれ織斑一夏とツイスターゲームだ、などと言う案が出ていたが、箒の一睨みで黙らせた。恋する乙女は国士無双とはよく言ったものである。そんなこんなでラウラが夏休み中喫茶店やカフェの一件を思い出し、執事喫茶を出店することと相成った。そして、執事の基本のイロハを知るシャルルが一夏に教育する事になったのである……。おい誰だホモォとか言った奴。

 

「おいエビ、そこは足の引き方が違うんだよ、ココを、こうして、こう!わぁったか?」

「くっ……そ。んで俺が執事なんて……」

「と言うかデュノア……何故知っている?」

「お袋に鍛え上げられてな……、ウッアタマガ…」

「あ……なんかすまん…」

「いや、いいってモッピーちゃんよぉ。にしても……」

 

 教室内を見るシャルル、まぁそう思うのも当然だ。一夏に執事の仕草を教えている内に次々と人が集まってきていた。大わらわな女子連中……中にはこっそり写メを撮っている者もいる。そして、問題なのはそれだけではないようで……。

 

「アレ?コーヒーミルってどこ行ったか知ってる人!」

「あぁーっ!コーヒー味見した山田先生が気絶した!?誰が淹れたのコレ!?」

 

 その言葉に反応したのは一夏。頭に漫画の様な怒りマークが箒達に見えたのは幻影ではないだろう。

 

「ッッだから言ったろ『ブリュンヒルデ特製真心メニュー』とかアウトだアウト!千冬姉にそんなもん作らせるな‼お客様を病院送りにさせるつもりか‼」

「織斑先生と呼べと言っているだろ……」

「料理に関しては先生って呼べねぇよ‼俺が代わりに厨房でコーヒー挽くから‼一応バリスタの資格持ってるからさぁ‼」

 

 バタバタと慌ただしくなる教室。箒とシャルルは互いの微妙な表情になった顔を見合わせる。

 

「……一夏も大変だな……」

「シャルル、アレでも吹っ切れてマシになった方だぞ。千冬さん、始めは電子レンジ飯も不味かったからな……」

「それ似たような話一夏から聞いた…。あ、このコーヒー貰うぞ」

 

 机の上にあったブラックホールの様に渦巻く飲み物を口に運ぶ彼……。だが箒は気づいた。気づいてしまった。

 

「あ、シャルルそれ……」

「あん?…………ッほぶぅぁ!?げぇぇっふ‼ゲッフゴフっ!?……ぁんじゃこらァァ!!?」

「それが千冬さんのコーヒーだ……」

「…………想像を絶したわ。……つか何か具合悪ぃんだけど…………ちょっと胃腸薬買ってくる……」

 

 よろよろと歩く顔面蒼白のシャルルン。

 

「あのシャルルの、具合が悪くなる、だと…………!?」

「あ、ちょっとシャルル君!そのコンセント水濡れ……」

 

 コーヒーを吹き出した落下点にあったコンセントを踏んづけるシャルル……。結果はお察し。♪エーレーキーオン♪ ♪ファイヤーオン♪

 

「あばばばばァっっっ‼」

「嫁ーっ‼」

「かっ、火事ですわ!?」

「一夏!消火消火‼」

 

【消防車!】

 

―ギャオン!―

 

 ぷしゃーっ、とクローズドラゴンの口から消火剤が吹き出し、泡だらけになるシャルル。踏んだり蹴ったりとはこのことである。

 

 

 

 

 

「なんか一組の方が騒がしーな」

「どうせカシラと一夏さんがトラブってるんでしょう、いつもの事です」

「おっかし♫おっかし♪」




シュトルム「宇佐美……なんであらすじであの事わかったんですか?」
ブリッツ「盗み見~?」
宇佐美「…いや何故か頭に黒とか白とか流れ込んできて……それで分かった」
シュトルム「……名乗り口上考えますか」
宇佐美「因みに無世代機の詳細は下記だ」

あらすじ提供元:ウルト兎様、ありがとうございます!


※2021/01/23
 一部修正

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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