IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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M「あらすじ紹介だ。前回はオータムがビルドスパイダークーラーフォームに変身した。以上だ」
オータム「……と言うかこの物語でエボルと人間で初めて使われた“四十本のボトル”がスパイダーフルボトルって、かなり優遇されているよな……フフ」
M「………(興味が無いから射撃訓練してる)」
オータム「ちっ、可愛くねぇ……。ええっと、私がボトルを預けられた時、確かこんな出来事が……」

 ………………回想、格納庫にて。

スコール『……オータム、貴女なんで天井を歩いているの?』
オータム『……いやー、慣れてみると病みつきになんだ……(シャカシャカ)』
スコール『そのボトルはスタークからの借り物だから紛失に気をつけてよね?』
オータム『わーってるよ……でもスコールはなんのボトルを借りたんだ?』
スコール『………確かめてみる?(ベッドに指クイッ)』
オータム『……へっ?ちょ……待ッ……!アーッ!』

 ………………回想終了。

オータム「それが……私がレズに堕ちたキッカケだった。スコーピオンボトルって毒の生成能力があって、それで出来た●●●で一夜でウン十回も啼かせられて……」
M「………………。誰もお前の汚い話なんて求めてないというかどんな使い方してんだあの不潔BBAナニやっているんだいい加減にしろ(超早口)」
オータム「……。なら聞かなきゃいいだろ……、……、はっはーん?お前もしかして聞きたいのか」
M「ナナナナニ言っているんだ貴様ぁ!ばっ、バーカ!バーカバーカッッ‼馬ー鹿ァッ!!!」
オータム「顔真っ赤にしてすっ飛んでいきやがった…………、初心いねぇ……」
惣万「(……、…………ボトル返してもらおうかな……)」


アイデア提供:ウルト兎様。どうもありがとうございます!


第六十四話 『暁と黄昏のサムライレディーズ』

「変身!」

 

【ドラゴンインクローズチャージ!】

 

 一夏は奪われたボトルとドライバーを奪還するため、現時点で唯一使用できるスクラッシュドライバーを用いて銀色に輝く龍のライダーへと変身した。

 

「正義の味方。仮面ライダー、ねぇ?」

 

 可笑しそうに首を傾けながら嗤うビルド。その様子は、自棄的な乾いた笑みと相まって項垂れている様にも見える。

 

「あ?何だよ……」

「いんやべっつにぃ?兵器を振り回してンな妄言振り撒く馬鹿な軍人(オンナ)を、少し思い出しただけだ……ぜ!」

「!」

 

【ファンキーアタック!フルボトル!】

 

 オータムは床に落ちていた消防車のボトルをセットし、火炎をネビュラスチームガンから放射した。

 

「この秋女ァ……!」

「てめえ等だってワンサマーとサウザンドウィンターじゃねぇか!」

「うるせぇよ!」

 

【ビートクローザー!】

 

 電子音が鳴ると、右手にゲルが集合し一本の諸刃の剣を転送する。蒼炎で包まれた刀身が薄暗い着替え室を朧に照らし、クローズチャージによって振るわれる剣の軌道が生きている様にのたくっていた。

 

「食らえ!」

 

 そして、ビートクローザーを大きく振りかぶって、彼はスパイダークーラーのサブアームを斬り落とす……。

 

「食らうか!」

 

 かに思われた。

 

―ガィン……ッ‼―

 

「~~~ッ!硬っ……まさか、それISの絶対防御……!?」

 

 ジンジンと染み入る様な痛みが走った右手を揺らし、彼はビルドと距離を置く。

 

「ご明察。私の愛機、『アラクネ』だよ……こいつの毒はきついぜぇ?」

 

 白と紫の斑な配色となったIS『アラクネ』の装甲脚。絶えず冷気が床へと零れ落ち、不気味且つ寒い事この上ない。

 

「どんだけ蜘蛛が好きなんだよ……!にしたって、ライダーシステムとISの同時併用が出来るなんて……!」

「狂った蝙蝠女がイジってくれてなぁ!ハァ‼」

 

 オータムが元凶の名を示唆させる発言すると、その姿が掻き消えた。

 

「……。絶対宇佐美だなあの女郎………グァッ!?」

 

 冷蔵庫の冷気でクローズチャージが立つ床が凍っていく。それに気が付くが、もはや遅い。背後にスケートの要領で移動していたオータムは、白と紫のアームから蜘蛛の糸を飛ばして彼を拘束した。

 

「ウグッ……何だ……動かねぇ……!」

 

 蜘蛛の糸まで冷気に包まれ、クローズチャージの装甲を凍てつかせ彼の自由を奪っていく。

 

「オラオラどうしたァ‼まだ終わんねーぞガキィ‼」

 

【ライフルモード!】

 

「フハハ……よっと!」

 

 手に持ったライフルへ慣れた手つきでドライバーから抜いた冷蔵庫フルボトルを装填し、そのままパルプを回転させるオータム。

 

【アイススチーム…!】

 

「凍っとけ!」

 

【フルボトル!ファンキーショット!フルボトル!】

 

「ぐぁああぁぁ!?……どう、して……、俺の攻撃が、読まれてる……?」

「何だ、まだ分かんねぇか……スタークがどうしてお前等にフルボトルを全部渡したと思う?」

 

 そう言ってオータムは一夏の頭をスチームブレードの峰で何回か叩くと強引に掴み、顔の前まで引き寄せる。

 

「全て私たちの計画の内だ……、因幡野戦兎がフルボトルを使えばその分こちらにも対策が立てられる。お前等がフルボトルを使えば使うほど、その戦い方や特性のデータを簡単に取ることができる……。ホイホイ使ってくれて助かってたんだよ、こっちゃな」

 

 今までの戦闘は全て敵側の実験によるものだと、そう言った。

 

「ッ……!」

「さて……お楽しみタイムと行こうぜ?白式は頂きだ……」

 

【ロストマッチ!】

 

「いい事教えてやるぜ。このネビュラスチームガンを使えば、剥離剤(リムーバー)無しでもISを装着解除できる。しかもコアに耐性が付かないってオマケつきでな……」

 

 『これが無かったら中々面倒なんだよなぁ……?』ともオータムは呟きながら手に持った銃で狙いをつける。

 

「これさえ使えばお前の元からテレポートで戻ってくる事もない。さぁて……お別れの時間だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、シャルルット姫とラウラ皇子が逃避行してる最中、ステージ上では丁度クロエの曲が『明日の地球を何たらこうたら』と歌っていた。

 

「ひーびーくよぉ……アレ?故障……?」

 

 突然、軽快なメロディーが鳴りやんだ。一瞬静まり返るアリーナ内。そして異変を感じ取りざわざわと騒ぎが大きくなり始める。

 丁度その時だった。

 

『はーいみーんなー!モッピーだよーっ!』

 

 爆音が鳴り響いていた背後のスピーカーがジャックされ、映像が流れていたスクリーンが切り替わる。

 そこには、奇抜な雰囲気の少女が仁王立ち、きまったとばかりに輝く笑顔を浮かべていた。

 

「えっ……ほ、箒……?」

 

 クロエはそう尋ねざるを得ない。無邪気に笑うスクリーンの人物は、桃色のロングヘアーに赤色の瞳をした美少女であった。ただしその肌は火傷跡が無く、白と金の振り袖姿である。

 

『ここからは皆でゲームだよ!皆で楽しいデスゲームをしようよ!私はゲームマスターの幻からナビ役を任された、モッピーピポパポ!』

 

 彼女は子供のような身振り手振りで映像の中を跳ねまわる。そして、おぞましい子供の残虐さを滲ませて、こう続けた。

 

『今からここは閉ざされた密室!皆さん方プレイヤーには、仮面ライダーやIS専用機持ち達を倒してもらいます!戦わなかったり、仮面ライダーが人間を救助するのは違反行為!無人機であるISを使って命をゼロにさせていただきまーす、コンティニューはできませーん!』

「…――――は?」

 

 誰かが溢した、たった一言。その一文字が、その場にいる全ての人間の心を表していた。誰もが思った、何を言っているのか分からない、と。

 

「キャァアアアアアアアアアアアア⁉」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 その時、アリーナ内に何機もの無人機が突入して来る。そのどれもが、巨大なライフルや対人ブレードを装備して、人間を殺すのに最も効率が良い姿であった。

 

「…あれ…。趣味悪いどころの話じゃない…っ!」

『そうでしょ、敵キャラとして良いデザインでしょ?それじゃー、ゲームスタート!』

「…おいお前等‼観客避難させろ‼変身‼」

 

 瞬時に一人の男の声が、アリーナに響く。見世物兼秘密裏の巡回で学校内を移動していたシャルルの声だった。

 ドレスを脱ぎ捨て華麗に着地すると、周りの三羽烏たちへ指示を出す。そしてパックゼリーを宙に投げ上げ、スクラッシュドライバーに叩き込んだ。

 

【ロボットイングリス!】

 

 その男臭い激しめな音声と共に、黄金の仮面ライダーが黒いゼリーの羽を広げる。彼は中心に設置されたクロエの隣、ワンマンライブのステージへと王子の様に降り立った。

 

「アタシたちも行くわよ!」

「はいですわ、生徒会長さん!」

「うーむ、戦友(鈴音)がその呼び名だと違和感甚だしいな」

「やっぱりこうなるのね……」

 

 さらに上空から降り立つ幾つもの影。

 彼女ら、専用機持ち達の身体が金属パーツに包まれる様子を見た観客たち。三羽烏、箒の誘導に従って本格的にアリーナ内は避難を始める。

 その様子を見たモッピーピポパポは、面白くないとでも言うように一瞬顔をしかめたが、すぐ笑顔を取り戻すと振り袖の中から何かのデバイスを取り出した。

 

『モパピプペナルティ、退場…。ぽちっとな』

 

 災厄のスイッチに、魔性の指が触れる。

 

「?ペナルティ…、…まさか!」

 

【リセット…!】

 

 

 

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

 閃光が、海上に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五反田蘭……とか言ったな!こっちだ、早く!」

「あ……はい!」

 

 蘭達は周囲を人混みでもみくちゃにされながら、箒と一緒に避難をしていた。だが、丁度その時だった。

 

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

 

 

 黒煙で包まれながら目も眩むような閃光と轟音が轟き、何かに突き出され感覚があった。

 横を見ると先程一緒に話していた虚さん、刀奈さん……。後ろを振り返ってみれば、箒さんが驚きにマヌケな表情になっていた。表情がするりと抜け落ちたみたいだと、時と場所を考えず思ってしまった蘭。

 そしてはたと気が付いた。じゃあ突き出したのは………誰だ?

 

「……?……!」

 

 ……………………振り返って、血の気が引いた。対照的に、目の前には血の赤い色が溢れていた。

 

「お……お兄!?」

 

 自分に何があったか理解していないのか、うわ言の様に呟く弾。彼は咄嗟に妹や初対面の虚達を守る為に彼女らを突き飛ばしたのだった。

 

「ら、蘭……、虚さん達も……大丈夫か……!」

 

 但し、その代償として彼の下半身は爆風で飛んできた巨大な瓦礫に挟まれ、足が複雑に折れ曲がっていたのだが……。

 

「お兄が大丈夫なの!?柄にもないことしてっ!……、ッ本当に馬鹿!馬鹿何してんのよぉ!?」

「うるせぇ……。蘭、お前を……虚さん達をほっとけるかよ」

「弾……さん……!そんな……いやッ……!嫌ぁぁぁ‼」

 

 脂汗を流しながら口を開く弾。所々に破片が突き刺さっているところを見ると決して怪我は軽くない…もしかしたら歩けなくなるかもしれないと言った悪い想像が妹や虚の脳裏をよぎる。

 

「……!」

 

 近寄った箒は、どうすることもできない無力感に苛まれる。ISのライフル攻撃を防護し、IS学園から遠ざけようとしていた専用機持ち達。彼女らも箒と同じだった。

 

(一体どうして私は重大なところでこう(・・)なのだろうか……)

 

 地上の様子を見てみれば、数々の人間が重症を負い、倒れている。血を流している。声が聞こえる。子供の泣き声が。女の人の叫び声が。男の人の呻き声が……。

 

『ゲーム再開っ!戦わないと、こうなっちゃうから気を付けてね!』

「あんのアマ……」

 

 巨大な結晶体モドキのISを一人で食い止め続けているグリス。今すぐ人々を助けに向かいたいが、この状態では目の前の下劣な女とその下僕をどうにかしないと話にならない。だが、その時だった。

 

『うわーゲームヘタクソ?使えない駒は足手まといになるから最初に使い潰すのがこういう系の戦略なのに!』

 

 その女は弾を……いいや、『偽りに満ちた姿勢』を、『空で無価値な現象』を見て嘲笑った。箒が介抱する弾の様子をさらに嘲っていく。

 

『それなのに、スコアよりもプレイングよりも好きなキャラを守るとか(笑)』

 

 味方すら嫌われる災厄な女……その核は『戯れ』。ありとあらゆるものが遊びであり、そしてそれが彼女の奥底にある存在証明。純粋ゆえに不愉快にも程がある生き物だった。

 

「……ッ!お前に……何が分かる……!」

『もぴ?』

 

 だが、彼女は理解していない。そんなヒーローを慕う者がいることを。

 

「お前に……因幡野戦兎さんの、私たちの何が分かる‼」

『何なに篠ノ之箒?分かんないなー!…理解しろとでも?押し付けるな、反吐が出る』

「…ッッッ!」

 

 箒は血を吐くような叫び声をあげる。そして顔を上に向けた彼女は、刀の様な鋭さでスクリーン内の少女の笑みを断ち切った。

 

「そうだ……その通りだ!理解されないことなんて、『この世界』では当たり前の事なんだ……!だから……!」

 

 そんなヒーローは、いつだって彼女の心を照らし、その道を正してくれている。今回だって……。

 

(……戦兎さん……。貴女が私に触れてくれた手は温かかった……。コレを預けてくれた手は柔らかかった……だから………………)

 

 この状況を切り開くための力を用意してくれていた。

 

―諸事情がある君たちに、オレからのプレゼントだ……。まず箒ちゃん。チッピーセンセが主体となってIS学園に掛け合ってくれてね。IS学園に在学する限りは代表候補とかそういう煩わしい束縛は無いよ―

 

 箒の頭の中にあったのは記憶の中の姉とは違う、優しい笑みの先生……今となっては元の姉への怒りの記憶が薄れてきている。

 

―一応自衛用のISなんだけど……誰かを守りたいと思った時、戦いたいと思った時、この子は箒ちゃんの力になってくれるはずだ。だから………………―

 

 だからか……ハッキリと理解している。彼女は誰が言ったところでその姿勢は変わらないのだと、その姿勢に憧れたのだと。

 

「理解も、称賛も私はいらない……ただ、分かってもらえた人の為に……!一夏の、戦兎さんと一緒に……、仲間と一緒に……!」

「箒……さん?なんですのそれは……」

 

 そして、『憧れ』からもらった物を握り締める。

 

「あの小刀……ISの待機状態なの?」

 

 誰が言ったか、それを皮切りとし箒は目を見開いた。そして、手からその小太刀を抜き放つ。

 

「『暁星』……ISとしての姿を見せよ!」

 

 その途端、力強い赤い光が彼女を覆い、露出が無いISスーツの上からラインアイセンサの付いた眼帯型アーマー、四肢と急所を覆う赤と黒のアーマーが出現した。片目を隠していながらも、その勇ましい眼差しは覇気に満ち、その苛烈さは戦国大名の様であった。

 

 

篠ノ之箒……『打鉄・旭ノ型』。いざ参る‼

 

 

 声高らかにその名を謳う。掛け声と共に跳躍すれば、瞬間加速(イグニッション・ブースト)もかくやと言った速度で戦闘を繰り広げていた仲間達の元へと降り立った。

 

『……もうっ、プレイヤーを助けるのは違反行為だよっ♪』

 

 はいどーぞ!とふざけながら、残っている無人機ISに指示を出すモッピーピポパポ。だが、しかし。

 

『……あれ?ちゃんとチームワーク良く戦わないと!仲間大事!ほら!どうして!?』

 

 ゴーレムの一体が篠ノ之箒の『打鉄・旭ノ型』に突進する中、その他の無人機は動きもしない。困惑する顔で機体たちを応援するが、お前の命令は聞きたくないとでも言うかの様にボイコット状態な無人機。

 

「無駄だ。この剣の帯が見えるか?」

『それがなに……?』

 

 剣に飾り付けられた絢爛な帯をスクリーンの向こう側へと見せつける箒。

 

 

「飾りと侮るなかれ。これは『袖帯・錦牡丹』と言うれっきとした武装の一つだ。対峙する機体のISコアに干渉し、一対一の手出し無用の決闘を強制する。そして近接戦闘、肉弾戦以外を許さない……らしいぞ」

 

 

 ここでIS学園専用機持ち達の心は一つになる。

 

((((うわぁ……えげつなっ……))))

 

 ……と。

 

(まぁ、製作者が元アレ(天災)だしな……)

 

 ピシッ、と変な音がスクリーン内からも響いてきた。その言葉に暫くモノクロ状態で固まっていた少女。

 

『…………ふぇっ?ふっ、ふぅっ……!?』

「……何だ。はっきり言え『モッピーピポパポ』とやら。ほら早く」

 

 意地が悪そうに眉と唇の端を歪めた箒。そして、手に持ったブレード『葵改メ』の切っ先を突きつけ、画面内の人物をからかい煽る。

 

『ふざけてるの貴女はぁ‼そんなのアリ!?ズルくない!?モッピーモピプペパニックだよォォォォォォォォォォッッッ!』

 

 半泣きになりながら非難の声を上げる桃髪の少女。盛大なブーメラン(お前が言うな)を自分に命中させたのであった。

 

「こ奴らは余計な手出しもできない………………。然らば」

「「「「「……………………えっ」」」」」

 

 その場にいた専用機持ち達や、超人のシャルルでさえ驚いた。一挙手一投足すら、把握することが(・・・・・・・)できなかった(・・・・・・)

 

 

 

 

 

只、斬捨てるのみ

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

 『葵改メ』を振り下ろし、柄頭の『袖帯・錦牡丹』が美しく靡く。爆炎を背後に、その少女は戦乙女の様に立っていた。新たな一歩を、踏み出したかのように……。

 

「『モッピーピポパポ』、次合ったときは覚えておけ!この学園は……我々が守る!理解し合えた仲間が、貴様らの企みを打ち砕く‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューゥ、どこもかしこも元気ねぇ。私の出番はまだかしら?宇佐美ってばもぅ、焦らしてくれるわね……。ぁあ、たまんないわっ!」

 

 IS学園のはるか上空。裸体に和服のみを着た際どい格好の少女が、赤い粒子をまき散らして空に佇んでいた。水色の髪の奥に光る血の様に赤い目が、充血したかのように脈動している。胸元から扇子を取り出すと、パッと広げて品よく蠱惑的に顔を煽ぐ。そして、遥か下界の様子を伺い続け……。

 

「お、あっちもあっちで面白そうっ。はははぁ……あぁ、早く早く、私を興奮させて欲しいわね……待ちきれないわぁ!あっははははははははは‼」

 

 けたたましい笑い声と共に、彼女の身体から赤い液体が噴き出した。身体が光で包まれ、人からISに近しい形に移行する少女……。他のISに比べて装甲が少ないその姿を、徐々に血の霧が包んでいく。

 

「さて、頑張ってる子たちの……、だ・れ・が・い・い・か・し・ら?う・さ・み・ま・ぼ・ろ・し・ん・さ・ま・の・言・う・と・お・りっ!」

 

 片手に持った赤いランスで成層圏下の学園を差し、子供の様な無邪気さで何かを選ぶ。その言葉が途切れた時、差し持っていた槍は『とある人物』の上で停止した。コレが運命か……なんとも皮肉な結論である。

 

「………決ーまった!」

 

 

 

 

 

 

 

「……、!」

「……織斑先生?」

「……いや、何でもない山田先生。どうにも空から視線を感じてな……」

「?……、いえ。ハイパーセンサーを用いてもそのような存在は観測できませんでした……。専用機持ちの生徒たちを向かわせますか?」

 

 千冬も一瞬そう考えるが、状況をいまいち掴めていないというのにその行動は悪手だと判断する。

 

「……まぁ良い。先に来場者の避難の方を……、!?」

「無人機!それに、あなたは……!」

 

 山田先生が口を噤むと、彼女の視線の先には青紫の煙が充満し、一人の女性と数体の巌の様なISが登場した。

 

「無人機、等と無粋な言葉で言わないでもらいたいな……この第四世代機には『バーサーカーⅤ』と言う名前がある。おっと、無駄なことはやめたまえ。私はパンドラボックスさえ回収できればそれでいい。こんな諍いなどお互いにとっては意味すらないだろう?」

「宇佐美……!」

 

 千冬の親友の姿を模倣している悪人、宇佐美幻。世界最強の覇気をその身に浴びても眉すら顰めない。

 

「ピリピリしないでほしいのだが。あー……織斑何某の事かね?それはお前が心を痛めることではなかろうよ」

 

 そう指をチッチッ、と振る宇佐美。目の前の人物の沸点を容易く超えさせながら話を続ける。

 

「家族を守りたい……。親がいない長女として当然だ。だが、ヤツは裏では数々の悪行を起こした、そして犯罪にも手を染めた……。私は家族などいないが、あんな死人の事を家族だと言うお前たちは尊敬に値するよ。あぁ……本当に、フハッ!心を痛めるべきなのは……さてさて。私か、それとも……」

 

―ズバァンッ‼―

 

 宇佐美はそのまま何かを言おうとしたが、その発言は響き渡った高い金属音によって遮られた。千冬が宇佐美の首をめがけて刀を振るい、それを宇佐美はバーサーカーVを移動させて防いだからだ。世界最強の一撃を食らったバーサーカーVの一体は、一瞬で胴が泣き別れになる……。

 

「今の動き……『縮星』とか言う篠ノ之流の歩術だね。習得には十数年はかかるというデータだったが……流石はブリュンヒルデ、と言っておこうか。私やスタークと互角に戦えるのはお前くらいのものだな」

「……」

 

 千冬は返礼の代わりとして宇佐美の背後に回り袈裟斬りを仕掛けたが、それはトランスチームガンで防がれる。

 

「早いな……流石『織斑』だ。初めて見た時は私も驚かされた……だが、私は『お前たち』の研究は十五年前に終えたんだが。だから興味はない、…………今はまだ、ね」

「研究……、終えた……?」

 

 『そうだ』と言うように頷くと、彼女はゆったりと千冬の周りを歩き始める。

 

「お前たちは水晶の様だな……。『人間』の心を自分自身の中に映し出し、優しく輝きを放っている……」

「ッ……!」

 

 敵であるにもかかわらず、彼女の紡ぐ言葉に耳を傾けてしまう千冬。

 

「しかし、それは所詮、『人間』の心でしかないのだ。真実の中の更なる真実を知った時……お前たちの水晶の輝きが失われ、跡形もなく割れ砕け散るだろうさ……」

「……貴様……!いや、どういう……!?」

 

 その言葉の意味を半分しか理解できなかった千冬。初めて人前で焦った様な顔になる。

 

「(……なぁ、『■■■■』)」

「……?何だその言葉……は、ガッ……?」

 

 『■■■■』、宇佐美によって耳元で囁かれたその言葉。千冬は急激に頭の中がドロドロに溶け出すかのような……そんな恐ろしい錯覚に襲われた。手に持っていた日本刀を取り落とす。

 

「ウッ……、あ、頭が……ァあぁあァアぁッッ!?」

「先生!?織斑先生‼」

 

 誰の声も聞こえない。目の前がモザイクタイルの様にバラバラな色に分解されていく。頭の中がツクリカエラレル様な、ウワガキサレタ何かが沸き上がる気持ち悪さ……。

 

「……成程、この言葉を聞いてもその反応という事は……。記憶に『真実』と『虚偽』が混濁しているな。通りで……、今まで『篠ノ之束(天然の天才)程度』の身体能力しか発揮できないワケだ」

 

 やれやれと言った風に手を広げる宇佐美。そして、ふと足元の日本刀が目に入った。手持ち無沙汰にそれを貰おうと思ったが……。

 

―シャキ……ンッ―

 

 宇佐美の頬に切り傷ができる。

 

「……!日本刀が自動で動く……だと?」

 

 予想外だ、と言う顔で目を若干見開き、宙に浮かび威嚇するように奮える『日本刀』を見つめる宇佐美。その刀はオレンジ色のエネルギーで包まれたまま鞘に収まり、混乱している千冬の手に戻っていく。

 

「……う、ぁあ……。……な、何だったんだ……?」

 

 それを手に持った瞬間、たちどころに頭痛が消えた世界最強の姉。先ほどまでの苦しみの様子は殆どない。

 

「……!面白い、面白いなそれは。因幡野戦兎が創ったのかい?」

「うぐっ……。さ、ぁ……どうだろうな……」

 

 千冬と会話をする宇佐美だが、口を開いた状態から刀の方をずっと凝視し続けていた。それが傍で控えていた真耶には、とても恐ろしく感じてしまう。

 

「とぼけなくてもいいよ。おそらく白式と暮桜のコアのコピーを融合させて『デュアルコア』を創ったのだろう?そんなことができるのは私かあの駄兎くらいのものだ……。その刀の名を聞いておくとしようか」

「……聞いて、どうする。意味が無かろう……」

 

 少しふらつく身体を刀で支え、世界最強と世界最狂は向かい合う。

 

「あるさ。君を倒して、貴重なサンプルとしてラベリングする為に、な……。随分と篠ノ之束の時よりも洗練されたデザインになったものだ……滑稽な虚飾が剝がれたからか?ハッハハハハァ!」

 

 変わらず束を否定する言葉を吐くが、今の千冬は随分と精神が落ち着いていた。不気味なほどに。

 

「……良いだろう、だが」

 

―チャキッ……―

 

「その言葉が、貴様の最後に聞くインフィニット・ストラトスの名だと知れ」

 

 そして、鞘から抜き放たれた刀から、青白い閃光が迸った。

 

 

来い、『打鉄・宵ノ型』

 

 

 光が収まれば、そこには篠ノ之箒が使用している『打鉄・旭ノ型』と同型のISがそびえ立っている。それを操るのは葵改メを片手に持った始まりの女。白い騎士は今、再び青い騎士となって災厄と戦わんと決意した。紺桔梗と黒の身体にオレンジ色のラインが烈火の様に輝いている。

 

「宵ノ型……黄昏……ふむ、ラグナロクか。北欧の英雄の妾(ブリュンヒルデ)の名に似合っているな。ではベルセルク共、殴殺だ」

 

 マスターの声を聴き、雄叫びを上げる三体のISの狂戦士たち。だが、対する彼女は涼しい顔をしている。精悍な凛々しい顔は美丈夫ならぬ美丈婦であろうか、そんな言葉がしっくりくる。

 

「できるものか……、山田君。私が見えなくなるまで走れ。追って来れない位置になっても走り続けろ、分かったな」

「……はい。ご武運を……」

 

 彼女は振り向くこともせずに背後へと声を投げかけた。一瞬の空白の後、パタパタパタと走り去っていく小さな靴の音。そんな小さな物を思いながら、世界最強は眼前の世界最凶へ一言吐き捨てた。

 

「………………一撃だ。それ以外は必要ない」

 

 

 刹那。

 

 

―………………         ………………ッ!!!!―

 

 

「………………何?」

 

 

 ほんの少し、空気が揺れた。ただ、それだけだった。

 

 

「あまりにも、呆気なかったな」

「……ほぉ」

 

 宇佐美が見てみれば、次々に眼前の第四世代機が切断面から身体をずりおろし、崩壊したISの身体が金属音を簡素な廊下に響かせていた。その様子を見て、彼女は驚くでもなく喜びに目を輝かせている。

 

「音より早く剣を振るうか。正しく達人技だ。目覚めつつあるな……」

 

 木偶の棒の様に破壊されてしまった第四世代無人機『バーサーカーV』達。それらは決して弱いわけでは無い。むしろ、突出した代表候補生達でなければ対処は不可能なほどの能力を備えていた。

 その能力とは装甲にシールド・エネルギーを循環させ、金属の硬度を400%上昇させる展開装甲。理論上ではダイヤモンドを上回る防御を持っていた……はずである。

 

「達人、か……別に極めたつもりは無いのだが。ただ、弟を守るだけの力が必要だっただけの事」

 

 だが、世界最強の戦乙女には通用しない。瞳に獰猛な光を灯した織斑千冬は、その瞳を狂気の科学者に突き刺さすが如く睨みつける。

 

「これは……お前に奴らの助けに向かわれると少々厄介だね。私はなるべく少ないリスクで事を運びたい」

 

 だが、マッドサイエンティストは般若面鬼女の視線もどこ吹く風になんのその。その機体のスペックを身を以て感服した彼女は、何回か手を鳴らした後目を細め……そして喜色満面となる。

 

「では……一番手間の罹らない方法で捩じ伏せるとしようか」

「……!」

 

 織斑千冬は見たこともない光景に驚く。突然、宇佐美幻の背後にのみ、七つの光輪が浮かび上がったのだから。そして、プライドの高い彼女の口から……ISを好んでいない彼女の口からその言葉が紡がれた。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、発動」

「何……?」

 

 

 

 

【יהוה(YHWH)】(神は言われた。)若しくは(「光あれ。」)【Τετραγράμματον(Logos)】(こうして、光があった)

 

 

 

「………………!?」

 

 宇佐美の口から、同時に複数の単語が漏れ出る。その瞬間、世界が変質(・・)した。

 

 

「篠ノ之束が憧れし小さな箱庭(宇宙)よ、そして世界最強よ!刮目するが良い。コレが神の才能だ…!」

「なん……、だと…!?」

 

 

 

 二人は地球を遥か下方に眺める、月面(・・)へと移動していた。




戦兎製IS学園所属機は図鑑に記載しております。

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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