IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N 作:サルミアッキ
セシリア「英国貴族として社交ダンスは必修項目でしてよ。それ以外にも旅先のお祭りで踊ることもありましたわ」
シャルル「俺もお袋から社交ダンスみっちり仕込まれたな。あと独学でオタ芸」
鈴「前者と後者の格差が酷いわよねアンタ…アタシのはダンスと言うよりは演武かしら」
箒「私は神楽舞だな、夏祭りに戦兎さんが踊ったやつだ」
簪「…私も日本舞踊習ってた…」
一夏「皆スゲーな、俺学校の創作ダンスくらいしか踊ってねーよ。しかも振り付け考えたの弾の奴だし」
鈴「だったらここで適当に踊ってみなさいよ。適当な小道具なら貸してあげるから」
一夏「マジかよ!?えーっとじゃあ、このステッキで……」
クロエ「一夏が踊ってる間、七十四話をお楽しみください、それではどうぞ」
「『赤騎士事件』ですが…――――。どうやら調査は難航しているようです」
「だろうな。恐らくは惣万に近しいものの仕業だろう。現行テクノロジーを使う人類種に頼ったところで、我らが望む回答は返ってこないのは見えている」
ここはファウストの本拠地。技術開発部門の二人が、量子コンピュータの前でキーボードをタイプしながら会話をしている。
現在調査中であるという内容を長々と引き延ばして書かれた各国の書類を放り捨てると、宇佐美は3Dプリンターで形成中の赤いスチームガンを取り出した。
「さて、こちらも用意をしておくか…」
「…――――それは?」
尋ねるシュトルムに、自慢げに銃を見せびらかす宇佐美。彼女は今にも頬擦りしそうな距離で銃を眺め、愛着を持ってその外装を指でなぞる。
「惣万の新型スチームガンさ。『あのドライバー』があるため変身機能はオミットするが、それを補って余りある破壊兵器だ。その力は従来の五十倍以上。人間なら使用時の負荷に耐え切れずに死亡するが…彼ならば問題無い」
「…――――」
「それに、新たな機能も追加している。嗚呼、神の才能がまた一つこの世に具現化される…このクリエイティブな時間は非常に良い気分だなァ、ヴェハハハハハァッッ!……――――あぁ、恐らくお前の妹も使っても平気だろうが……どうする?」
「結構です」
「だろうな、妹思いなことだ」
その答えを予測していたのだろう。宇佐美はやれやれと首を振ると、再びプリンター内部へ戻し、量子形成を開始させる。未知の物質が材料となり、じわじわと新たなパーツを形成していく。
「さて。ブラッド・ストラトスの調整はどうなっている?」
「不特定要素が多いことは確かですが、バックドアのシステムは構築できました。この“孔”は自己進化の過程で消滅してしまうでしょう。例のボトルを作るのは今の内です。ただし、これでボトルを作ってもBSの人格が無事であるという保証はありませんが」
「『惣万』や『忍』のプランが前倒しになった影響だな…、まぁ構わん。万が一の場合は新たにBSを造れば済むことだ」
「そうですね。技術を応用した量産化の目途は立っていますし」
ISコアを造り出せるファウストの麒麟児らにかかれば、計画の急激な変更も想定の範囲内であるらしい。明日の天気を話すかのように、オーバーテクノロジーの塊を廃棄するか否かのことにさえ頓着していない様子だった。
「では、『ロストボトルを凌駕する神の力』を……我らの手で創り出すとしようか!」
「計画は、フェーズ2へ移行します…」
シュトルムが手にしていた計画書。そこには極秘という判と共に、『ストラトスボトル』という謎の単語が躍っていた……。
「うぇー…この瓦礫どうなってんのよ、有り得ない溶け方してるんだけど…」
「…一夏が変身したスマッシュみたいなヤツ、分析したら反物質作ったりとか対消滅を簡単に引き起こせるとかするみたい…」
「それは、相当ですわね…」
「ところで嫁はどこへ行ったのだ…?」
「別エリアでの作業らしいぞ。…――――あんなことがあって一夏は大丈夫だろうか…」
所変わってIS学園の崩壊した校舎跡地。一年専用機持ち達は、被害甚大な校舎の片付けをISによって行っている。
「…」
「教官?如何しました?」
「ッ、ラウラか…。すまない、少し考え事をな。よし、作業が終わったら地下施設へ来い。以上だ…」
「はっ…(ん?教官が…ラウラと名前読み……――――?)」
もはやIS学園が休校するのは時間の問題だろう。教室棟と特別棟が一夏の変身した怪人態によって、木っ端微塵に消滅してしまったのだ。そんな廃墟と化した人工島の、辛うじて残っていた地下施設にて、仮面ライダーゆかりの面々が集合した。
学園と繋がり深いIS委員会から、パンドラボックスやそのデータを安全な場所に移動させるよう指示があったのである。だが、戦兎はソレに対して一抹の疑いを抱いていた。
「戦兎……それは、一夏の体内から出てきたドライバーだな」
「うん、そーだよ……」
千冬が尋ねるのも馬耳東風。廃墟の中で作業を進める戦兎。持てる技術の粋を集めて、赤と金のビルドドライバーの解析を進めている。
「IS委員会から未知の物質の研究は各国研究機関と合同で行われると通達されたはずだが…戦兎、なぜお前が持ってる?」
「馬鹿言わないでよチッピーセンセ。分かってんでしょ?どう考えたってファウストの罠じゃん、それ」
赤と青のオッドアイがジロリと動く。戦兎はスタークの言葉を思い出していた。ファウストは世界を支配するという言葉。それが偽りでないのなら、当然今の世界で力を持つ組織にも人員を潜伏させているだろう。
そして見計らったようなタイミングでこの指令。疑いを向けるには十分だった。
「だが…」
「研究機関にはオレが創り出したダミーを与えておくよ。この世に存在しない物質で造れば、まだ何とか誤魔化せるだろ?」
戦兎の手の中には、すでに作ってあったダミーの赤いドライバー。数日の急ごしらえとは言え、一夏の体内から出てきたドライバーを6割方解析し、それと同様のシステムを組み込んでいるところを見ると、彼女の技術力の高さが伺い知れるというもの。
「……」
「……――――ところでさ、チッピーセンセ。
一瞬で千冬の表情に暗雲が立ち込めた。だが、何処か重荷を下ろせるのを哀しく喜ぶ、そんな顔でもあった。
「プロジェクト・ビルドの開発セクションのデータの中に、『プロジェクト・モザイカ』ってヤツがあったんだけど」
瓦礫の隙間から差し込む光が織斑千冬の頬を濡らす。顔を持ち上げた彼女が涙を流すかのように、細々と通り抜ける薄明り。
周囲の温度が急に下がったかのように、妙に居心地が悪くなる各国代表候補生。パンドラの箱を開けてしまうような、嫌な気配が漂い出している。
「……――――そうか、気付いたのか」
「ねぇ……コレ、ここで言って良い話?」
なんなら場所替えるよ、とでも言いたげに戦兎は外へと視線を動かす。
「……――――構わん。一夏はまだ知らんが……いずれ知るべきこと、なのかもしれない。此処にいる連中にも、多かれ少なかれ関わってくることだ…特に、箒やラウラには」
どこか、声が震えている。気丈に振舞ってきた彼女らの先生が、これ程弱さを見せるのは初めてのことだった。
「えぇと、……――――千冬さん?」
「私、ですか?教官…」
「もう、嘘はつきたくない。……いいや、違うか。嘘をつき続けることが、苦しくなってきたのだろうな」
小さく、覇気のない張りのない声。思いのほか精神が参っているのだろう。自虐するような笑い声が上がる。
「ほらな、私は世界最強など到底無理な、弱い存在だよ」
「……じゃあ、言うよ?」
意図を酌んだ戦兎は、哀し気にその真実を口にした。
「……――――一夏、あの子人間じゃないって」
衝撃の事実が、彼女らの耳に届く。
「……――――え?」
「ちょ、どういうことよ!?」
狼狽具合が激しいイギリスと中国の代表候補生。
いいや、初めから違和感があったのだろう。彼女らは聡い娘たちだった。一夏がどこか、普通の人間ではないと心のどこかで思っていながらも、友達として接してきた。
それ故、そんなことはないと振り切るように、先を促し一夏を人間として扱える訳を探す。だが、戦兎の告げる真実は無情だった。
「『プロジェクト・ビルド』で行われていたのはドライバー開発やスマッシュ実験だけじゃない。パンドラボックスから得られるデータを基に、宇宙空間における活動を補佐する技術が目立っている。というか、葛城忍の論文データを見たらIS並みか、それ以上だね。これを基にした技術の兵器転用も示唆されていた」
つらつらと、あまりに無感情に告げられるプロジェクト・ビルドの細かな内容。怒りを抑えているからだろうか、戦兎は徐々に早口になっていく。科学の負の側面のみを抽出したかのような、そんな概要が見苦しくてたまらないとでも言うかのように。
「そしてもう一つ、技術者の人員が一番割かれていたのが……――――『遺伝子改造研究』」
現代の七つの大罪とも言えるソレ。『環境汚染』、『極貧な苦難』、『過剰な贅沢』、『薬物乱用』、『人権侵害』、『人体実験』も含まれる、人が自らを貶める自滅要素が一つ。
「∑プラン『プロジェクト・モザイカ』、Γプラン『プロジェクト・ウルティマ』、Vプラン『プロジェクト・クオークス』、Kプラン『プロジェクト・ミュータミット』、Dプラン『プロジェクト・ネクロオーバー』、……――――こんなにある」
瓦礫の中、廃墟の奥で、ぽつりぽつりと語られる悪魔の研究。
「特に問題なのはプラン∑とΓだよ…いや、どれもこれもこの世界の倫理法無視してる外道供の仕業なんだけどさ。これらのデータはドイツに流れて……そしてファウストのナンバーチルドレンやクロエ、ラウラちゃんの元になった」
「……」
ラウラは思わず苦い顔をする。シャルルとの出会いによって出生に思うところはなくなっているが、やはり面と向かって真実を直視するのは違うようだった。
「…ちょっとまって、この流れって、もしかして…」
「……簪ちゃん。多分察した通りだよ」
戦兎が千冬に目配せをする。
「プラン∑、プロジェクト・モザイカ。……――――別名、『織斑計画』」
その虫の知らせは確証に、その一縷の望みは絶望に。あらゆるものが黒く斑に染まっていく。
「おり…むら、って…!?」
「……――――この計画の目的は、特殊な遺伝子を持つウィルスサイズの細胞『モザイカ細胞』を用いて、『究極生命体』を創り出すことにある」
生徒たちの驚愕をよそに、戦兎は続ける。今優先するべきは、真実を彼女らに伝えること。閉ざされた瞼を開くこと。涙を流そうと、その目を閉じることはもう許されない。これから戦いの一途を辿るこの世界で、最早逃れる道はない…。
「ここで言う究極生命体とは何か……――――宇宙空間でも通常の生命活動を行え、あらゆる惑星環境にて生存できる、文字通り地球外生命になれるかどうかだ」
その絶望からは、誰も逃れならない。
「試験体シングルナンバー時点でも、内包する遺伝子情報は最低で人間の数億から数兆倍。理論上じゃ宇宙のあらゆる生命の特性を再現できる上、生命体の枠組みを越えた運動能力、細胞の一片からでも再生できる超回復力、受けた損傷を元にして以後は自身を害する力に完全耐性を得る自己学習能力、ブラックホール内部でも問題無く活動できる超越した生命力が見受けられる。映像データもしっかり残ってたよ」
誰もが悪い冗談だと言いたかった。しかし、それを打ち砕く証拠がその存在を裏付け、正当化していく。
「普通そんな存在を創り出すことは不可能だ……――――普通だったらな」
織斑千冬と因幡野戦兎。彼女らが冗談で言っているはずがなかった。誰よりも嘘だと言いたい人間たちが、歯を食いしばって耐えている。
「このプロジェクト・モザイカ、その主任研究員は『織斑四季』。恐らく遺伝子研究分野では、オレや篠ノ之束を簡単に超えている。まさに『大天災』と言って良い…」
「彼女は私たち織斑の母親だ。ある意味で、だが」
そこで千冬は、もう後戻りはしないと意を決して、言った。
「……――――。はっきり言おう。このプロジェクト・モザイカ、最終トライアルである∑-1000Wこそが……――――私だ」
閉じていた瞼を啓く。織斑千冬の目から、一滴の雫が墜ちる。飾り気のない白い頬に流れる血涙。絶望の線が彼女の強張った頬に描かれた。
「ま、待って下さい教官!因幡野教諭の言う特徴など、当てはまっておりません!お怪我をなさった時、それほど早く傷が修復されていたとは…」
「その通り。私は他の最終トライアルと違い、どうやら失敗作のようだからな。だから力が人並みなのだろう」
「人、並み…?」
「…そうだね。映像データから算出するに、チッピーセンセの力は別個体最終トライアルの0.2%ってところかな…」
「……噓でしょ」
この世界は、完璧や完全を容易く破壊する理不尽に満ちていた。天災すら凌駕する人の業。何も創り出せず、何も生み出せない無が、世界の全てを呑み込み始めていく。
「生み出された際の記憶はない。ただ断片的に思い出せるのは、『織斑四季』という女が私を創造したこと、『∑-01S』である一夏が生み出されるところ…――――それだけだった。ふと気づくと、研究施設から赤子だった一夏を抱えて逃げていた」
俯いた彼女は何かを求めるように、血涙を拭った手を彷徨わせる。郷愁も温もりも、愛さえも無かった彼女が、ただ今まで歩んでこれたのは、『人になりたい』と思えばこそ。
「……――――お前たちに頼みがある」
彼女は、年が一回り近く離れた子供たちの目の前で跪く。
「え……――――」
「!?」
「ちょ、ちょっちょちょっと!千冬さん!?」
「教官、お顔を上げてください!」
「…先生…」
彼女は鉄骨だらけのコンクリートの床に這いつくばるように、赦しを乞うように、力無く首を垂れる。
何もできない彼女が唯一できることこそ“願うこと”。それはこの十年で痛感した、己が無力さ。世界最強と称された力も、戦い以外では何も意味を成さないと知っているが故。
「この通りだ、頼む…私はなんと謗りを受けても構わない。『ばけもの』と呼ばれようが受け入れる。当然だ、私は何度も人に嘘を吐き続けてきた。この世界最強という肩書も、本当は持っていてはならない偽りのものだ。この世に生まれてきたことが、お前達人間の命に対する大いなる冒涜で、罪だった……」
身を削るが如き痛みが彼女の口から搾り出される。
「だが一夏は違う!あいつは何も知らないんだ、あいつは…ただ“普通の人間”として今までの日々を生きてきたんだよ…!何時か知る真実だとしても、今の一夏に嘘はないんだ!責任は全て私にある…一夏を責めないでくれ…!」
哀しい嘘を吐き続けたのも、全て……――――一夏の為だった。許されない存在だとしても、それでも『生きたい』と思うのは間違いではないと、生きることで証明したかった。
「身勝手な願いだと分かっている…!迷惑千万でしかないことも…!それでも、私ができるのはこれしかない……それでも私はお前たちに縋るしかないんだ…一夏と一緒にいてくれたお前たちにしか…!」
罪とは、罰で贖わなければならない。
「……苦しかったんですね」
「……――――」
その苦しみを分かち合うことはできない。
「辛かったんですね」
その辛酸を推し量ることはできない。
「…箒」
だが、それでも……――――。
「一夏を、一夏が生きる明日を…愛と平和でいっぱいにしたかったんですね」
見れば、皆が泣いている。他の誰でもない彼女のために。足搔いた先の報われない生と、辿り着けない命へ、誰もが憐憫を以て傍に寄り添う。
「……――――何も、できなかった。何も始められなかった…、私は…無力だ…」
「そんなことありません。千冬さんはあの頃から頑張っていらっしゃったじゃないですか。ずっと、ずっと…。『人間』、誰しも何かを残すことができるはずです」
彼女は顔を上げざるを得ない。相応しくないと思えるその言葉に、どんな顔をすればいいのか分からない。
「にん、げん…?だが、それは…」
それは、母から産まれ落ちた者だけが言える言葉。少なくとも、千冬はずっとそう思って燻っていた。
「何を…、迷っておられるのですか!」
「……――――ラウラ?」
鋭い声が響いた。涙ながらも純粋で、暖かな怒鳴り声。それは、彼女に力を教わった少女。強さを教わろうとしなかった戦士。だが、それでも、変わることができた一人の『人間』。
「……――――教官、私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』です」
「……――――ぁ、あぁ。それは知っているが…」
「教官は、自分を何者だと思っておられますか?」
彼女は首元の白いドッグタグを握りしめ、迷える恩師へ教わった恩を返そうとする。かつて、自分ができなかったように。そして、かつての自分が変われたように。
「……――――、ッ私は、…私は…」
「教官は、教官です。『織斑千冬』というただ一人の、私の恩師です。貴方という存在は、この世でただ一人しかおりません。それ以外の何者でもないのです!」
自分があの日、黄金の太陽に救われたように。止まない雨は無い。黒い、雨の中でもきっと、素晴らしい青空が向こうにあると教わった。吸い込まれてしまうような、そんな爛漫な眼差しで恩師を見つめる。そこには確かに二人の『人間』が見つめ合っていた。
「ラウラ…」
驚いたような、踏ん切りがついたような、そんな曖昧な感情の狭間に揺らぐ千冬。だが、どこか…――――決意を固めたような火が瞳に宿る。
対してラウラは真剣な面立ちを崩さなかった。と、いうよりむしろ、眉が窄まりしかめっ面にもなっていく。終いには眦に涙が浮き上がり、顔も真っ青になって行った。一体どうしたことだろうか。
「………――――以上、上官に対しあるまじき発言をしてしまい、申し訳ございませんでした!これより厳罰を受ける所存であります!」
「…ぇ…――――ぷふっ、な、何ですのそれ…!」
「…シリアスムード…ぶち壊し…」
「あんたさ、ほんっとそんなところ…、よくやるわよ、もう…」
その通り、“よくやった”のだろう。本当に小さな、それでも力を持った少女は成し得た。彼女にしか成し遂げられないことを。ずっと昔から凍土に沈められた戦乙女の心の一部を、氷解させるに至ったのだから。この場にいる彼女こそが、それを言う権利と資格を持っていた。
「そう、だな……――――だが、もう少し時間をくれないか?少し、ほんの少し、疲れてしまったんだ」
瓦礫に倒れ込むように座ると、首元にきつく締められたネクタイをゆっくり緩めた。彼女は痞えていたものが取れたように、喉からゆっくりと息を吐く。
「…頑張り過ぎなんですよ、多分。今度、ゆっくり休みましょう?……――――そうだ、惣万さんのお店で一夏の誕生日パーティーなんてどうでしょう」
「あ、箒良いわねー」
「教官…大丈夫ですか?」
千冬と近しい者達は、彼女が見せた疲労の色と狼狽を放っておけなかった。彼女の苦労を偲び、お疲れ様という思いを込めて傍に佇む三人の少女たち。彼女らに、千冬を拒絶する理由なぞあるはずがなかった。
だが、その一方で…――――。
「…ねぇ、戦兎さん…、一夏はどうするの…?」
「……――――。一夏も『モザイカ細胞』の集合体、それも別のナニカが混じっている。極秘ファイルにもあんな現象の記載はなかった。完全なブラックボックスなんだよね……」
「…今は無理なのは分かる。でも、じゃあいつ真実を伝えるの…?先延ばしにしても…良いことないよ…?」
「その通りです。取り返しのつかない事態になってしまっては…」
「それは分かってるんだけどね…。チッピーセンセは意外に弟のことが地雷原っぽいし、一夏は一夏でストレスか何かで白い怪人態が活性化するみたいなんだよ…。どう転ぶか分からないものをつついて最悪の事態になったりでもしたら…」
「…そんな」
「まぁ、手さぐりにでも解決策を探ってみる」
「ままならないものですね…」
セシリアと簪が、罪過を償おうとしてもできなかった可哀想な大人を見て、ぽつりとつぶやく。どうしてこの世界は、これ程寂しく苦難に満ちているのだろうか…そんなことまで思ってしまう。
所在なさげに視線を彷徨わせる簪。ふと、戦兎が弄っているコンピュータの内容が目に入った。
「……あ、これ、モザイカ細胞のデータ…?」
「うん。でも普通、こんな遺伝子を作ることは地球上の生命体を参考にしただけではできない。何か基になったサンプルが存在するはずなんだよな。それこそ、……――――『宇宙人』とか」
『正解だ、ご褒美に遊んでやるよ』
「!」
団欒としていた空間に、一筋の血が流れる。それは世界が流す犠牲という名の悲しみ。
「ブラッドスタークッ!」
『流石は元天災。それだけのデータで真実に辿り着くか。だが、まだまだだな。真実の奥の更なる真実ってヤツには程遠い。宇宙はお前ら程度では計り知れない神秘で満ちているというのに……』
「……やっぱりプロジェクト・ビルド系列の技術って、宇宙由来の力だったわけね」
皮肉気な無駄口を叩きながら、ビルドドライバーを腰に巻く戦兎。
『もうちょっとヒントをくれてやる。織斑一夏から出てきたドライバー、あれをよく調べてみろ』
「……、へぇ。Thank youとか言っておいた方が良い?」
『礼には及ばない。お前達とじゃれ合うのは俺にとって大きな意味がある』
「あっそう、…――――ふざけんなよ。この世界はお前の遊び場なんかじゃない」
【オクトパス!ライト!ベストマッチ!Are you ready?】
『いいや、遊びさ。全てがくだらないお遊戯でしかない。さぁ…もう少しだけゲームを続けよう』
「黙れ、変身!」
【稲妻テクニシャン!オクトパスライト!イェーイ!】
『さぁて、人殺しのトラウマからは抜け出せたか、てぇぇんさい?』
「…もう、誰も殺さない…!皆に、友達に、仲間に誓ったんだ…!」
『はっははははッ!篠ノ之束が仲間を尊ぶとは…、笑えるなぁ?』
黒いスモークの中で殴り合う二人。電気と吸引力を司るバトルスーツの攻撃が、スタークの装甲にダメージを与えていく。だが、スタークもそれを予知していたかのように手の甲やニーパッドで捌ききる。一進一退の攻防だった。
おまけに、スタークは周囲に毒の気体を散布しながらの戦闘。長期戦闘になってしまえば、生徒たちにも害が及ぶことは明白だった。
ならば、とばかりに戦兎はその姿を変える。周囲にトリコロールの泡がはじけ飛び、その場にライダークレストを模したファクトリーが形成された。
「ビルドアップ!」
『ほぉ?ならこっちか』
【シュワッと始める!ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!】
【ライフルモード…!】
目まぐるしく展開される二人の戦士の戦い。それにIS学園の生徒たちは手出しができない。瓦礫だらけの狭い空間でISを展開しては、寧ろ邪魔になってしまう。今できるのは、戦兎の勝利を信じて待つことだけだった。
ビルドは四コマ忍法刀を、スタークはトランスチームライフルを用いて切り結ぶ。篠ノ之束としての技量と身体能力を以ってしても、ブラッドスタークの戦闘能力はそれ以上。全く勝ち筋が見えてこないなど、底知れないにもほどがあった。
戦兎はマスクの下で苦虫を嚙み潰したような表情を作ると、で四コマ忍法刀のトリガーを二回引く。それと同様に、スタークもバルブを捻り上げた。
「ハァ!」
『フフハハ!』
【火遁の術!火炎斬り!】
【アイススチーム…!】
激突する熱波と寒波。そして、そのエネルギーは相殺される。
ハザードレベルが上昇している戦兎の攻撃は相当だった。急激な温度変化によってIS学園に爆風が発生する程の力を、スタークは手を叩いて称賛する。
『ハハハハハ!なかなかやるな。ハザードレベル4.9か。だが、その程度の炎は俺の力の前に凍え、停止する――――!』
「っ、なろッ!」
凍える刃を振りかぶるスタークは、その斬撃を四方八方へと飛翔させた。ビルドは、どこにも逃げ場がない。
【隠れ身の術!ドロン!】
【エレキスチーム…!】
周囲が煙に包まれた瞬間、閃光が周囲を駆け巡る。蛇のようにのたくるそれは、消えようとしていたビルドの身体を蝕み、スパークを起こす。
「あばばばばっ⁉」
『どこに逃げようと無駄だ…俺には全てが見えている。お前は俺から逃げられない』
「コレもか…なら!」
【ホークガトリンガー!】【カイゾクハッシャー!】
【デビルスチーム…!】【Cobra…!】
「これで…!」
『無駄だ』
【フルバレット!】【海賊電車!】
【Steam Shot!Cobra…!】
橙と浅葱の波状攻撃が、暗雲に輝く死兆星の邪撃を迎え撃つ。しかし、その力を掻き消したは良いが、濛々と広がる黒煙の中より現れ出でたコブラ『ゼノベイドスネーカー』に追撃をされてしまう。
「ぐっ…、やっぱり攻撃が…読まれている…!」
『何をしても無駄だ。お前の攻撃パターンは全て分析済みだ。銀の福音の時のことを忘れた訳じゃないだろう?』
「……、忘れてないさ。でも、お前の言葉には一つ間違いがある」
『何…?』
「攻撃パターン全てを分析した?それはどうかな…?」
だが、それでも戦兎は不敵に笑う。ベルトにセットしていたラビットタンクスパークリングを取り外すと、最後に残していた秘蔵のフルボトルを素早く振り、ベルトのホルダーにセットした。
【サンタクロース!】
『…、サンタクロース?』
高らかに季節外れのジングルが鳴る。
【ケーキ!ベストマッチ!Are you ready?】
「ビルドアップ」
ボトルの成分がライドビルダーの中を駆け巡る。そして形成される紅白の装甲。二つの冬を象徴するパーツが重なり合い、祝福の装いと相成った。
【聖なる使者!メリークリスマス!イェーイ!】
サンタの帽子とショートケーキを模した複眼が輝く。讃美歌『アヴェ・マリア』が周囲に流れ、半径20mには季節外れの粉雪が舞う。正しくクリスマスを象徴した姿であった。
『おいおい…時期考えろ、いつ出してんだよ!』
「今がいつかなんて関係ないやい!」
『なめんな…、ッどぁっつ!』
パンチを繰り出したスタークの方がダメージを負う。まさか、と思い周囲を分析するブラッドスターク。驚いたことに、高性能オーブンであるデコチェストアーマーから発せられる赤外線が、周囲に分子運動加熱空間を生み出していた。
『電子レンジかよ…』
「まだまだ行くよー!」
サイレントナイトシューズによる消音と気配遮断によって、ビルドはスタークを翻弄していく。ふざけた見た目と周囲の環境と様々な要因が重なって、存外苦戦を強いられているスターク。
『ぬっ、くぅ……!』
「攻撃が、効いている…?」
「あんなふざけた見た目なのに…」
IS学園生徒は驚いていいやら呆れるやら。一番リアクションに困る戦いになってしまっている。
『ふふ、やるねぇ……なら、コレはどうだ?』
胸部にあるスチームジェネレーターが駆動し、スタークの身体能力を向上させた。彼は滑るように駆け出すと、そのままスライディングで縦横無尽に地面を這い擦り回る。ブレイクダンスのウィンドミルの如く、脚を回転させて用いることでビルドの動きを刈り取ろうとした。
(何……――――?今の動き、どこかで……)
ふと、千冬の脳裏に過去の出来事がよぎった。その挙動に、近しい人間の面影を見る。まさか、と思う。だって、それは…――――■■■■。
「甘い!ショートケーキよりも!It's a piece of cake!」
スタークの攻撃をひらりと躱すビルドは、ボルテックレバーを凄まじいスピードで回転させた。
【Ready go!】
聖夜のベルは、高らかにフィナーレを迎える。ギフトチェストアーマーから飛び出した幾つものプレゼントボックス。それのうち一つは、100mはあろうかという巨大な立方体。太陽を遮り、勢いよくIS学園跡地へと落下する。
「え、ちょ…待て待て待て待ちなさいよ!アタシたちいるんだけど⁉」
「あいたぁ!ちょ…何かわたくしたちの方にもプレゼントが⁉」
「…え、うそ、この重さと言い、形状と言い、もしかして欲しかったDVDセット…?」
「これは、まさか嫁の抱き枕か⁉」
「お前たちは何を暢気に!」
IS学園生徒がいつも通りだったのは以下略。
「はぁぁぁぁ!」
『ぐぅ、ぬぅぅぅ…!』
スタークに激突するビッグなプレゼント。何とか腕の力でそれを押さえつけ、拮抗するも…――――プレゼントの内部から、嫌な瘴気が溢れ出る。
そこから現れたのは死神や悪魔、燃え滾る石炭やマグマだった。それらがブラッドスタークへと殺到する。悪い子はいないかとでも言うかのような、ブラックサンタの一撃か、はたまた…――――彼が欲しているのものがその中にこそあるのだろうか。
『ぉ、おいおいおいおい…マジ?』
「え、何それ、こわ…。まぁ良いや。Present for you!」
『ぐぉおッ‼』
死神の鎌が、悪魔の業火が、マグマのドラゴンが殺到する。スタークを断罪せんと鎌首を擡げ破壊の限りを尽くし、彼を遥か上空へと放り投げ去った。
黒サンタたちの一団が消えると同時、その場へ轟音と共に落下し瓦礫を巻き上げるブラッドスターク。しかし、どう見ても敗北だというのに、その声は喜色に満ちていた。
『まさか、奥の手を隠していたとはね…だが、これでボトルは全て浄化できた。目的は、達成だ……』
「目的…?」
『また会ったら教えてやる。それじゃあ今日はここまでだ…Ciao』
スタークはセントラルスタークから白煙を噴き出すと、またしてもその場から撤退を選択したのだった。後には、壊れた瓦礫と土煙……――――それと大量のプレゼントが残されていた。
簪とラウラは思った通り、各々が欲していたものを手に入れられてご機嫌顔。因みに箒には新品の料理道具一式、セシリアには新しい下着、千冬さんにはストレスに効くメンタルセラピーの本が贈られていた。早速千冬は弟に隠し事をしてしまったらどうすればいいかのページを読みこんでいる。なお、豊乳セット一式だったらしい鈴は顔にでかい血管の筋を浮かび上がらせていた。
「…あいつ、どうしてボトルが全部浄化できたなんて言ってたんだ?そんなこと、クロエくらいしか分からないはずなのに…【♩♪♬♫♩♪♬♫】ん?…――――電話だ。もすもすひねもすのったりのたり?」
ビルドフォンを取り出しアプリを開く戦兎。どうにも気の抜けた挨拶だが、電話の内容は、それも吹っ飛ぶ一報だった。
『もしもし、因幡野戦兎さん、ですか?布仏本音の姉で布仏虚、と申します…――――』
「あ、これはこれはどうも。記憶の方は大丈夫?」
『それ、なんですが…――――スタークの正体を、思い出しました』
「…――――ぇ?」
知りたくない真実が、彼女を襲う。
一夏「……っと、こんな感じか?前に映画で見たミュージカルを真似してみたんだが」
鈴「えーっと…なんというかね……」
シャルル「なんか三匹のお供が欲しくなるな」
簪「一夏、クリスマスプレゼントには詩集をあげる」
一夏「おいやめろ簪無!なんかそれ渡されると戦闘中に朗読しなきゃいけねー気がしてくるから!」
惣万「んじゃ続きまして、戦兎と俺とあと千冬で…」
戦兎「かくし芸大会じゃーい!」
千冬「いや、何故私まで…」
みちーなるものにー、のみーこーまれるときー
一夏「おいおいおい」
シャルル「シュール過ぎる…」
簪「…一夏、やっぱ詩集じゃなくてこっち…?」【暴れろ…。3属性の力を持つ者よ…!】
一夏「あぁ、『これで自由だ』…じゃねーよ!お前らの方がフリーダムだよ!」
鈴音「剣が泣いている…」
一夏「鈴違うからね!漢字違うからね!」
無花果様、あらすじ紹介のアイデアありがとうございました!
今後の進め方の優先事項
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瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
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夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
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ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
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全部