IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N 作:サルミアッキ
惣万「亡国機業はその隙にIS学園に保管してあったIS数機と仮面ライダーの戦闘データを強奪。作戦の終了と共に、マドカは撤退したのだった。だが、フォルテ・サファイアとレイン・ミューゼルとの戦闘でIS学園専用機持ちたちは全て戦闘不能の重傷を負う。今戦闘を行えるのは怪我が軽かった戦兎と、致命傷が完治した一夏とシャルルのみ。さてさて、どうなるIS学園?」
マドカ「それにしても、もう織斑一夏の怪我は治ったのか?昏睡状態の重症レベルの怪我を負わせていたはずだが……」
宇佐美「……その答えはただ一つ」
惣万「うぉい?あ。んんっ…『それ以上言うな!』」
宇佐美「織斑マドカァ!本編を見ろォ!ヴェハハハハ!」
マドカ「……言わんのかい」
ファウストの隠れ家となっている研究施設、その一つにオータムはいた。大きな動きで首の関節を鳴らすと、ダルそうにまとめ上げた資料を投げ渡す。
「……と、まぁ現状の報告は以上だ」
「ご足労どうもありがとう。代わりと言っては何だがオータム、今までの功績を評価し我々ファウストからプレゼントだ」
向かい合って座っていた宇佐美が、足元に置いてあったアタッシュケースを取り出した。彼女の薄気味悪い笑みに、オータムは怪訝そうに眉を顰める。
「……なんだコリャ」
「コアから私お手製の、出来立てホヤホヤ第四世代ISを入れたプランクブレーンキューブだ。三つあるが、どれにする?あぁ心配するな、どれを選んでもお前の身体への
「ふぅん…」
しれっととんでもないことを言っているが、オータムはそれを気にも留めずに、空間投影型ディスプレイに表示されるISのデータを見て吟味する。一通りデータを確認すると、彼女はアタッシュケースの蓋を閉じた。
「…ってオイ、貴様?」
「全部貰っとく。
アタッシュケースを肩に担ぎ、同じ組織の構成員にしれっと毒を吐くオータム。それを聞いて宇佐美はその発言を鼻で笑う。
「……ふん。当然のことを言うな。あんな欠陥素体と比べられても何の意味もない。……——————ついでだ、もう一つ要るか?」
「……お、おう…(なんだコイツ。意外にチョロいな…)」
「フンスそうだろうそうだろう。神の恵みを有難く受け取れ」
「あーへいへい、神ってことにしといてやるよ。で、どうだマドカ。体の調子は」
褒められて案外嬉しかったらしい宇佐美の傍に控えていた少女に、オータムはそう問いかける。
「…お前に言う必要はない」
「ったく、相も変わらず可愛げのねぇ餓鬼だぜ。聞く必要もなかったな。んじゃ、私はnascitaに戻る。じゃーな」
ネビュラスチームガンを横薙ぎに振るい、彼女は黒煙の中に姿を消した。
「ありゃ、オータムは行っちゃったか?せっかく茶菓子作ってきたのに……」
ちょうどその時、研究室のドアが開いた。クッキーを入れた皿とコーヒーポットを持って石動惣万が入ってくる。
「一足遅かったぞ。もうISの受け渡しは完了したが、……一つお前に聞きたい。何故オータムにそこまで肩入れする?」
「ありゃ、そう見えてたか?」
せっせとおやつの準備をしながら、人懐っこい笑みを浮かべてカップを宇佐美に渡す惣万。コーヒーを受け取った宇佐美は香りを一嗅ぎし、静かに冷ましながら一口飲んだ。
「あぁ、中々に気に入っているように見える。それこそ織斑一夏、織斑千冬と同じまであるぞ」
「なぁに、深い意味はねぇよ。ただ同郷のよしみってやつさ。なぁ、ところでさ。そろそろエボルドライバーの修理終わった?」
「……最終調整中だ。そう急かすな」
ナッツ入りのクッキーを齧り、宇佐美はそう返答する。気の無い返事に聞こえたらしい。惣万は唇を尖らせながら、不満げに彼女にジト目を向けた。
「そうかい。なるべく早くしてくれよ~、こっちもこっちで忙しいんでね。おっと、何をしているかは企業秘密ということで」
じゃーな、とばかりに皿を片付け、石動惣万は部屋から出ていった。
「……ゲームメイカー風情が。ゲームマスターの私の許可なく勝手な真似を……。奴の働きに免じ今まで目をつぶってやってきたが、そろそろ灸を据えねば、か……」
近頃の宇佐美は、惣万の自由気ままな独断行動に頭を悩ませ続けていた。ブリッツやシュトルムは石動惣万に対して甘い所があるため全くと言っていいほど頼りにならない。
一体何をしているのやら、聞いたところではぐらかされる。『やむを得ず戦闘を行った』程度ならば別に良い。だが、惣万はファウストの思惑の外側へ目を向けているとしか思えなかった。そして、それがファウストの首魁である自分に何も告げずに行われているということが、宇佐美のプライドに傷をつけていた。
「———それは兎も角。こちらも試運転調整をしなければな」
思考の海に沈んでいく頭をどうにか戻し、余計な雑念を振り払う。気持ちを切り替える為、宇佐美は目の前にあるデバイスに触れた。
赤と金で彩られた、チューンアップされた『エボルドライバー』を。
■■■■
カフェnascitaに買い出しから戻ってきた巻紙礼子が見た光景は、頭が痛くなるものだった。
「……オイ、何してんだ天才バカ」
「あ、
「いや、俺病み上がりなんだけど……」
織斑一夏は上裸になっており、コードの付いた機材を張り付けられている。どうやらバイタルグラフを計測しているようだが、巨大な計測器がカフェの各所に無作為に置かれている。お客が座るスペースも、ましてやキッチンに行くドアまで塞がれており、本日カフェの営業はできなさそうである。
ちらりと横を見れば、織斑千冬が申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「本当に戦兎がすまん……」
「や、別にいいわ……コイツこんなだから、慣れた」
「はーいじゃあ続きね。じゃ一夏、ドラゴンフルボトルをクローズマグマナックルにセットしてみて」
「おう」
大人組が互いの苦労を偲んでいると、空気も読まずに因幡野戦兎は一夏で計測を再開した。
【ボトルバーン!】
「で、俺がわざわざ新造してあげたビルドドライバーにそれをセットする」
「……取られちまったのはわぁるかったって」
一夏が頬を掻きながら格好だけの謝罪を口にする。一瞬巻紙礼子の視線が泳いだが、誰も気には留めなかった。
【クローズマグマ!】
「で、Let’s変身!」
「へいへい、変身」
ビルドドライバーのボルテックレバーを回転させ、来たるべき変化に備える全員。だが、しかし。
「「「……、……」」」
カフェの店内に空っ風が吹いた。
「……あのー。なんも起きねぇけど」
「むぅ~……おっかしいなぁ。ハザードレベルもボトルとデバイスの相性も悪くないはずなのにぃ…なんでだろ。マッキーわかる?」
「いや私に振るなや」
その時だった。ビルドフォンアプリから通知音が鳴る。それは、敵の襲来を知らせる一報だった。
「……!スマッシュの反応?」
■■■■
「これは、一体…!?」
海近くの高架下、いつもは人でにぎわう港の一角。三人が駆けつけた時には既に、大量のスマッシュが暴れまわっていた。
「————よく来たな、待っていたぞ」
戦兎、一夏、千冬の目の前に現れたのは白衣を着たスーツ姿の女性。
「…宇佐美。まさか俺たちを呼び寄せるために、わざと人間をスマッシュにしたのか…!」
その問いかけに、宇佐美は鼻を鳴らしただけだった。
「……何の用だよ、宇佐美?それと……」
一夏がちらりと視線を向けた先。その木陰から小さな人影が現れた。
「マドカ…」
「決着の時だ、織斑一夏…織斑千冬」
彼女の腰には既にスクラッシュドライバーが装着されており、静かに冷たい闘志を燃やしている。
ギラギラした視線を織斑姉弟に向けるマドカの言葉を遮るように、スキップ交じりに宇佐美は正義の味方たちの顔を覗き込んだ。
「さて、君たちに会いに来たのは他でもない。
「!」
「それは、エボルドライバー!?」
彼女はその赤いバックルを片手で投げて弄びながら、狂気を滲ませて言葉を続ける。
「あぁ、エボルトの使用していたもののブラックボックスを完全解析し、グレードアップさせたものだぁ……。フハハハハハァ‼世界を支配する力を再現し、そしてそれを超越する……やはり私の神の才能に、不可能はなぁい‼」
豊かな胸を張ってベルトを太陽に翳す宇佐美。だが、急に冷静になると戦兎に向かって振り返り、感情の籠らない顔で淡々と問いかけた。
「…さて。サンプリングの為にお前たちの持つボトルを渡してもらおう。それは元々エボルトの、……ひいては我々ファウストのものだ」
「…渡すと思うのかよ。これ以上、お前らの好きにはさせない」
「ふ、ヴェハハハハハ!良い覚悟だなぁ。その正義こそ、お前たちの心と自由を奪う…」
カメレオンのようにコロコロと変わる情緒。狂った悪党はその正義を嘲笑う。
「なんだと……?」
「大事なものを守るために戦うお前たちと、自分の信念、願望のために戦う私たち……。ここに決定的な違いがあるとすれば、それは覚悟の差だ。失うものがない私たちに対して、お前たちは多くのものを抱え過ぎている。故に、自分を解放することができない…」
その言葉に戦兎は図星を突かれたかのように狼狽する。
「知ったような口をきくな……!」
「知っているさ。お前たちを育て、『人生』という道を歩ませたのは我々ファウストなのだからなぁ…」
千冬は思わず眉をひそめた。全てはあの男の掌の上だったということに、拒絶を示してしまいたい。だが、自分の感情だけで覆るものではなかった。それでも必死に言葉を絞り出す。
「……ありがとう、と言ってほしいわけか?お前たちは」
「それには及ばないさ。寧ろ、こちらが感謝したいくらいだ。本当に助かっていたよ……。お前たちほど騙しやすい人間はいないとなァ!ハハハハハァ‼」
宇佐美はふらふらとエムの周囲を歩き回り、着ていた白衣を脱ぎ捨てた。背に立っていた戦兎らに向かって見返り、反り返って三人を挑発的な目で舐めるように見つめる狂人。
海が光を反射し、宇佐美の歪んだ顔を照らし出す。狂ったように嗤い、戦兎たちに突き付けた指を己が顔の前で蠢かせる。
マドカの身体が紫の液体に染められる。そしてエボルドライバーから天狗巣状に広がったペインライドビルダーが、宇佐美の周囲に張り巡らされた。
エボルドライバーが問いかける。準備は良いか?
ライドビルダーの破片が弾け飛ぶ。闇の波動が周囲に走り、青と紫の瞳が輝きだす。そこに立っていたのは、紫の鰐と———モノクロの蝙蝠。
正義の味方に迫る二人の
「「ッ、変身!」」
【ラビットタンクスパークリング!イェイ!イェーイ!】
【ドラゴンインクローズチャージ!ブルゥゥアァァァ!】
「……っ、蒸血」
【Cobra…C-Cobra!FIRE!】
戦兎と一夏は仮面ライダーに、一拍措いて千冬はブラッドスタークへと変身すると、群れる怪物たちへと立ち向かっていった。
■■■■
スマッシュたちを撃破し、人間に戻したビルドに新たな仮面ライダー、マッドローグが襲い掛かる。
「ぐ、がっ、はっ…!?」
「この程度か。お前がこの私に勝つことは、今のままでは不可能だ」
トランスチームガンとネビュラスチームガンの二丁拳銃で、ガンカタを巧みに操るマッドローグ。銃身でビルドを強かに殴りつけると、顔がぶつかるほどの距離まで近づき、戦兎の荒んだ心に揺さぶりをかける。
「自我を失うことがそれ程怖いか?だったら残りのボトルを出せ。お前は仮面ライダーに向いていない……。いいや、そもそもお前は『正義のヒーロー』に相応しい人間ではなかったんだよ」
焦燥と重圧に苦しむ今の戦兎にとって、それは酷く効果的な煽り文句だった。
「………当然だよなぁ、悪魔の科学者『篠ノ之束』?」
「ッ!」
【ハザードオン!】
間髪を入れず、戦兎は厄災のトリガーを引いた。
【海賊!電車!スーパーベストマッチ!ガタガタゴットンズッタンズタン!Are you ready?】
「………ビルドアップ!」
【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】
黒煙を巻き散らして青と緑の瞳がマッドローグを睨みつける。だが、狂った悪党はどこ吹く風。寧ろくるくるとその場を回って、大袈裟な身振り手振りで喜びを表現する具合だった。
「やっとその気になったか………。もっとだ!もっとお前の狂気を晒け出せぇ‼」
「うるッせェェェェッッッ‼」
カイゾクハッシャーを構え乱雑に切りかかるビルドだが、マッドローグは最小限の動作で攻撃をいなし、並行してハザードレベルの測定を行いだした。
「ハザードレベル、5.4……5.6‼これがハザードトリガーの力ァ!ヴェハハハハァ‼いいぞ、いいじゃないか‼もっとだ、理性のリミッターを外せェ‼」
「あがぁ!?」
鋭いアッパーカットを放つマッドローグ。その一撃によって、ビルドは暴走一歩手前の状態へ陥った。
「ぐぅっ!?頭が…」
「私の想像を超えてこい‼まだいけるはずだ‼我々が求めているレベルに達してみろ‼さァァァァァッッッ‼」
「ぐッ……!」
【クジラ!ジェット!スーパーベストマッチ!Are you ready?】
「ビルド、アップ!」
【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】
彩度の異なる青いアイレンズが闇の中で光り、ビルドは上空へと飛翔した。
「ほぉ。使い続けることで自我を失うトリガーのリスクを、再度ビルドアップを挟むことで回避するか………だがぁ‼」
マッドローグの手に赤紫のオーラが纏わりつき、ビルドに向かってエネルギー弾として殺到する。音速飛行するクジラジェットハザードはその攻撃を難なく避けるも、周囲のビルは倒壊し、弾け飛んだコンクリートや鉄骨がビルドの行く手を阻んでいた。
「くっ、あっ…!」
「戦えば戦うだけ、引き伸ばした分苦しくなるだけだ」
その言葉の通りだった。戦兎の脳に、今までと比較にならないほどの苦痛が到達する。
「!……、意識、が…ッ」
がくん、と首が垂れ下がり、ビルドは進行方向をマッドローグへ移動させた。
「………」
「フン。暴走か」
【マックスハザードオン!ガタガタゴットンズッタンズタン!Ready go!オーバーフロー!】
【ヤベーイ!】
「………何をしても」
【Bat…!】
「無駄だ」
マッドローグはタイミングを見計らい、スウェーで超音速飛行特攻してきたビルドの肉体を避けた。そして、彼女はトランスチームガンをビルドへと突き付けた。
【スチームブレイク!】
「!」
ロストフルボトルの力とブラックホールエネルギーが充填した弾丸が、ビルドの装甲を穿ち、吹き飛ばす。
ビルを何棟も倒壊させてようやく慣性が収まると、そこには血塗れになった戦兎が蹲っていた。
「ん…?おっとすまない。近頃デスクワークばかりでな、加減を間違えた」
「がっ、は……!ハザー、ド、トリガー…で、も、勝て、ないの、か……⁉」
血を吐きながらもマッドローグの戦闘能力に困惑する戦兎。だが、マッドローグは敗者の言葉に耳も傾けない。地面に散らばった幾つものフルボトルを回収しながら、彼女は戦兎の頭を踏みつけてその場所から背を向けた。
「がッ…!」
「そこで這いつくばって見ているが良い。神の才能が、具現化される様をなぁ…」
「ぅ、…宇佐美ぃぃぃぃぃっ‼」
■■■■
クローズチャージとブラッドスタークは、ローグと一進一退の戦いを繰り広げていた。
「何故俺たちと戦う…!俺たちとお前は、兄妹なのか…?」
「それを知ってどうする。これから死に逝く者にとっては、何の意味もないことだ」
【ビートクローザ…】
「遅い」
「ッ!?」
ゲル状のエフェクトと共に出現したクローズの武器を、スチームブレードでキャッチ前に弾き飛ばすと、返す刀で畳みかけるローグ。
だが、宙を舞うビートクローザーを赤い影が追い縋る。青い斬撃が横一閃に振るわれた。
「……フッ!」
「ッ……織斑、千冬か」
たたらを踏み、クローズチャージから距離をとるローグ。クローズチャージの隣に着地したブラッドスタークは、ビートクローザーを握り、構え直す。
「ちょっ、千冬姉それ俺の…」
「私に取られるお前が悪い」
「取ってから言うなよ…」
使う気満々の千冬スタークに、一夏は『まぁいいや』とばかりに頭を振ると、ツインブレイカーを握りしめた。向かい合うローグはネビュラスチームガンにスチームブレードを合体させ、二人に狙いを定めている。
【ライフルモード!】
「ふん…」
ライフルを銃剣として巧みに操りクローズチャージとブラッドスタークに肉薄するローグ。強固な装甲にダメージを受けることもなく、一方的に激しく攻め立てて来る。
「くっ…!」
「織斑一夏。此処で苦しまずに逝くと良い」
鍔迫り合いをしながら、織斑たちの信念と覚悟がぶつかり合う。ローグの青いアイレンズの中でドス黒い炎が揺らめいた。
「まだ…死ねるか!」
「…何故だ。戦い、傷つき、苦しみ続け、何故そうなっても生きようとする」
クローズチャージの身体に青白いエネルギーが広がり、炎となって立ち上る。
「お帰りって言ってくれる奴が、いるんだよ…!待ってるアイツを、置いては逝けねぇだろ…!」
「……。それがお前の背負うものというやつか。虫唾が走る…」
「一夏に手を出すなエム!貴様の相手は私だ…、ッ!?」
「ヴェハハハハァ‼いいや、ぅ私だァ‼」
ローグに斬りかかろうとしたブラッドスタークに待ったがかかる。黒い影が飛来し、そのままスタークを連れ去った。
「くっ、邪魔をするな宇佐美‼今貴様に構っている暇はない‼」
「私にはあるさぁ‼あの自称天才との戦いはァ、ヒマで仕方なかったからなぁ‼ハハハハハァ!?」
「ッ、戦兎を……貴ぃ様ぁぁぁ‼」
拳を、蹴りを、そして剣戟を繰り広げながらマッドローグは戦乙女の心に牙を突き立てる。じわじわと、心に傷が広がりだす。
「ライダーシステムは使用者のメンタリティによってスペックが変動する…お前は分かっていたはずだ、今の状態では因幡野戦兎は戦うこともままならんとな」
「っ…」
「だがお前は因幡野戦兎のことより、織斑一夏のことを優先した。当然だよなぁ……、お前にとって最も秘したい真実を抱えている男が、奴だからなァ‼」
ゾンビを思わせる不気味な挙動で首を曲げ、ブラッドスタークの顔を覗き込むマッドローグ。紫色をした瞳は酷く無機質で、織斑千冬の心にある恐怖を煽り立てるに至った。
「黙れ……黙れ‼」
「奴が真実を知ったら、どれ程のストレスなのだろうなぁ?もう戦えなくなるかもなぁ?それどころか……『裏返ってしまうかもしれないぞ』?」
それが、彼女の逆鱗に触れた。
「それ以上言ってみろぉッ‼私はお前を殺してやるッッ‼」
「ヴェハハハハ‼良いねえ、血塗れの姿が似合うようになってきたじゃないかァ‼」
世界最強の大ぶりの一撃を煙に巻くと、マッドローグはフルボトルを入れ替える。
【ビートル!ライダーシステム!クリエーション!】
身を翻してブラッドスタークの伸縮ニードル『スティングヴァイパー』のラッシュを躱し、マッドローグはドライバーのハンドルを回転させた。
【Ready go!】
「ヌゥン‼」
黄金の巨大なカブトムシの幻影がマッドローグの腕に纏わりつき、大きく振り抜いた拳が赤黒いエネルギーと共にブラッドスタークの胸へと突き刺さる。
【ビートル!フィニッシュ!Cia~o♪】
ブラッドスタークの強化スーツ内部に高エネルギーが炸裂し、爆発が空気を揺らして轟いた。
「がっ…!」
「ふん。世界最強とやらも、弟を引き合いに出されてしまってはこうも弱いか」
煙と共に変身が解除され、千冬は俯せに倒れ込む。出血は無いにしても、身体への負荷は相当のものであるらしい。苦しみに顔を歪めているのは、肉体の悲鳴が原因か、それとも…———。
「ち、千冬姉!?」
「どこを見ている、織斑一夏」
マッドローグが緩慢な動作で振り返ると、未だにクローズチャージとローグの戦闘は継続していた。
「やれやれ、まだ終わらないのかエム。なら手伝ってやろう」
戦兎から奪ったボトルを変える。エボルドライバーによって新たに能力が創造された。
【ゲーム!ライダーシステム!クリエーション!】
「…何ッ!?貴様…」
ローグが何かに気づき声を上げるも、マッドローグはそれを無視してハンドルを回す。エボルドライバーが光を放ち、彼女を中心として世界がピクセル状のデータに塗り替えられ、ゲームエリアが展開され始めていた。
そして世界は刮目する。宇宙すら支配する神の才能に。
【ゲーム!フィニッシュ!Cia~o♪】
「神の恵みを有難く受け取れ。『コズミッククロニクル』、起動」
天変地異が起こる。昼間だったはずの空は星が輝く闇に覆われ、不気味なほど赤い月が上った。
突如つんざくような音が鳴り響く。仮面ライダーたちが空を見上げれば、美しい箒星が幾筋も赤い尾を引いて地表へと迫っている。
「…———は?」
寸分違わず、クローズチャージ目掛けて隕石が殺到する。
「ヴェハハハハ!ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァッッッ‼」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」」」
ゲームエリア内に降り注ぐ幾千もの星。小さな流星はチクシュルーブクレーターに匹敵する被害を創り出し、周囲を地獄絵図へと変える。
そして、最後に…———赤い月が堕ちて来た。
■■■■
「どうした?お前たちの正義の力はこの程度が?全く成長が遅い。遅すぎる。計画に支し障わりが出るレベルだぞ?」
ベルトから赤と紫のボトルを抜き取り、変身を解除した宇佐美。上機嫌にエボルドライバーを懐へしまうと、織斑一夏と千冬を睥睨する。
ゲームエリアから現実のものに戻った世界に一夏と千冬は倒れ込む。月墜落の衝撃によって、理不尽なほどの暴力にさらされ、今生きていることが幸運だ。だが、今すぐの戦闘は不可能となってしまった。
「…仕方がない。惣万には悪いがこいつらは『廃棄』するとしよう。サブプランはいくらでもある」
「…――――」
その言葉を聞いて、ローグはゆっくりとベルトのレンチを下げた。宇佐美の隣を通り過ぎ、跪いた一夏の前へと歩み寄る。一夏は霞む瞳で紫のライダーを見るしかできない。
「マドカ‼やめろ、やめてくれ‼」
悲痛な叫びをあげる千冬。そんな雑音を気にも留めず、ローグは拳を振り上げる。誰もが一夏が殺される……、———と思っていた。
「「「!?」」」
ローグは破片状のエネルギーが滞留する拳を、振り返った先にいた宇佐美の腹へと叩きつけた。口から血が噴き出し、彼女はゴム鞠のように跳ね飛ばされる。
「がっはァ!?」
壁にめり込み磔にされた宇佐美が重力に従って、地面へ前のめりに崩れ落ちた。血を吐きながらも、その目には爛々とマドカに対する敵意が滲み出ている。
「———くッ、貴様…何をしているか、分かっているのか!?」
「……あぁ、良く分かっているとも」
数百トンの威力を誇るライダーパンチを受けてなお生きているのは、敵ながらあっぱれと思ってしまう一夏たち。足腰に鞭打って何とか体勢を立て直した宇佐美に、ローグはゆっくりと歩みを進めた。
「ッ…‼」
「『織斑』を倒すのは私だ…!そいつらを『モザイカ』にするな。私の大義の障害となるならば、誰であろうと容赦しない…!」
ローグは脚にワニの幻影を纏わせて飛び上がると、一直線に狂人へと突き進む。
「はぁ……ッ‼」
生身の肉体に紫鰐の牙が突き刺さる。ローグは腰を捻ると、その勢いを殺すことなく宇佐美の身体をデスロールで振り回し、吹き飛ばす。
「ぐ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」
倒壊するビルと、罅割れる地面。その災害の中へ宇佐美の肉体は叩きつけられ……———大爆発を引き起こした。
「マドカ…お前……?」
「……」
変身を解除したマドカは、意味ありげに一夏のことを一瞬見ると、気まずそうに所在無く視線を彼方へ逸らした。
「えぇぇぇむぅぅぅぅぅぅぅ…!」
———地の底から響くが如き声が三人の耳に届く。
「……何?どうなってやがる…」
「あれを受けて…まだ……」
「……生きていたのか。呆れた生き汚さだな」
三者三様の声を上げる織斑姉弟たち。マドカのクラックアップフィニッシュで吹き飛ばされたにもかかわらず、宇佐美はゆっくりと起き上がる。彼女は、怒髪天を衝くが如き形相で彼女のことを睨んでいた。
「はぁ、はぁ……くッ……」
「…――――、ぃひ」
が、それも一瞬。震えていた唇が歪み、口角が下品に吊り上がる。
それは、“M”という復讐鬼の希望を掃討する言葉。さっと表情が凍り付いたマドカを見て、狂った悪党はほくそ笑む。
織斑一夏の無知な顔も、宇佐美の嗜虐心を
狡猾な狂人の毒牙が、ボロボロな少年に突き立てられる。彼は、“そんなことなど知りたくないというのに”。
千冬とマドカが駆け出した。だが天災の口を塞ぐには、彼女らの行動は遅すぎた。
残酷な真実が、『織斑』の名を背負った彼らに告げられた――――。
「……ッ」
「――――っっ!」
千冬は歩みを止めてしまっていた。今まで弟に『真実を秘した』という後ろめたさを抱え続け、『自分たちが人間ではない』という異質性を何よりも恐れていた“少女”がそこにいた。
マドカは宇佐美のスーツを引き千切らんばかりに握りしめ、冷たい憎悪を彼女に向ける。だが、宇佐美の狂笑は終わらない。笑い涙を流しながら恍惚の表情を浮かべ続けている。
零れ落ちた言葉に、織斑の名を持つ女たちが振り返る。茫然自失した少年は迷い子のように、助けを求めて目を彷徨わせる。
笑顔を創り、『そんなの嘘だ』と幻の悪夢を振り払おうとする一人の“ばけもの”。だが、本当にそうだッタノカ?嘘ダト否定デキルノカ?
目を伏せる千冬。宇佐美に掴みかかっていたマドカさえ、怒りを抑えて一夏の様子をうかがっている。
一夏の身体に、変化が起こる。目が、赤く光り輝く。そして……――――。
思い出の中で、見てはいけない真実を見た。光と闇が入れ替わる。
彼は絶望に突き落とされる。
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瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
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夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
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