IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N   作:サルミアッキ

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(ピロロロロロロ…アイガッタビリィー)
宇佐美「織斑一夏ァ!何故君が男であるのにISを動かすことができたのか……。何故両親がいないのか(アロワナノー)、何故子供の頃の記憶を覚えていないのくァ‼」
千冬「ッ、——————それ以上言うなぁ!」
宇佐美「(ワイワイワーイ)その答えはただ一つ……」
マドカ「やめろォォォッ!」
宇佐美「アハァー…♡」
戦兎(現場へ向かって走る)
宇佐美「織斑一夏ァ‼君たち『織斑』が‼人為的に造られた…‼人間ではない『ばけもの』だからだァァァァァァ(ターニッォン)ア゛―ッハハハハハハハハァッ!!!ヴァア゛——ッハハハハハハハハハ!!!(ソウトウエキサーイエキサーイ)ア゛———ッッハハハハハハハハァァァッッッ!!!!」
一夏「俺が……“ばけもの”……?」
ッヘーイ(煽り)



惣万「いやアロワナノーで大体わからねぇIS12巻!あ、そうそう…今回の話ブラックコーヒー用意したほうがいいかもしらん」


第八十二話 『模した罪過』

「————ではまた来る。安静にな。今度は果物でも持ってこよう」

「ん。あと特撮のブルーレイとレコーダーも欲しい…」

「うぅ…嫁に会いたい…」

「はいはい二人とも、自分の好き勝手言わない。ほんとどーもね箒」

「わざわざご足労いただきありがとうございますわ…あ痛たた…」

 

 量産型カイザーシステム『ヘルブロス』、及びIS『ヘルハウンド』によって入院したIS専用機持ちのお見舞いに行った帰り道。箒は肩にクローズドラゴンを侍らせながら、キャップを目深にかぶり街の喧騒の中を歩いている。他の面々と比べ比較的軽傷だったためか、ナノマシン注射を数回しただけで、もう歩けるようになっていた。一夏やシャルルと比べると遅いが、十分に驚異的な回復力である。

 町中の電光掲示板に流れるニュースは、相も変わらず世界各国で起こるISテロの死傷者数が無味乾燥に映し出していた。

 

「…ちっ」

 

 彼女は端正な顔を歪めて、大和撫子に相応しくない舌打ち一つ。それは、実の姉に対する意味のない感情的な反抗だった。因幡野戦兎は敬愛する恩師であることは変わらない、だが未だ————否、むしろ篠ノ之束に対する負の感情は強まっていると思えた。慌ててその思考を断ち切るため頭を振っていると、突然クローズドラゴンが唸り声を上げた。

 

「む?どうしたというのだ…」

 

 青い小龍の視線の先に、空飛ぶ赤い影が見えた。

 

「……あれは、『赤いクローズドラゴン』?」

 

 色のみが異なる外見が同一の機体。それが箒の目の前まで飛来し、何かを指し示すように一声鳴いた。

 

「…ついてこい、ということか?」

 

 人間臭く頭を縦に振ると、赤いクローズドラゴンは飛び去った。一瞬箒は逡巡するも、肩にいた青いクローズドラゴンはふわりと浮く。そして、ぐいぐい彼女の背を押していた。

 

「……。行くか」

 

 健脚がアスファルトの砂利を蹴り上げた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

「これは、どういうことだ…?」

 

 箒は目を疑った。二匹のクローズドラゴンに導かれ駆けていくうちに、どんどん街の様子が様変わりしていった。倒壊しているビル、陥没した道路、そして絶えず聞こえる炸裂音。誰の目から見てもこの場所が危険地帯だということは火を見るよりも明らかだった。

 箒の耳に、呻き声が届いた。

 

「!———ッ戦兎さん!?大丈夫ですか!?」

「ぜんっ…ぜん、大丈夫じゃない……あいつ、宇佐美のヤツ、何かする気だ…」

 

 大怪我をした自分の体より、現在戦闘中の一夏たちを心配する戦兎。彼女に駆け寄ると、箒は服を破いて手際よく折れた腕や足を固定、応急処置を完了させた。

 

「これ、医療用ナノマシンアンプルですっ!何か、って…?」

「分から、ない……。だけど、何か、まずい……。早く一夏たちの、ところに…」

「分かりました!すぐに……」

 

 戦兎に肩を貸した時だった。

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉あ、あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉あああああああああああああ ああ あああああああああああ ああああああああ あああああああああ ああああああ あああああ あああ あ あああ あああ  ああああ あ あああああ あああ ああ ああああああ あ ああ あああ  あああああ あああああ   ああああ ああ  ああ あッッッ ッッッッ ッ ッッ ッ ッッッ ッッ!!!」

 

 

 

「今のは、一夏の声…!?」

 

 予備のナノマシン注射と鎮痛剤のアンプルを戦兎に投与し、彼女に肩を貸して駆けだす箒。顔を歪めながらナノマシンを接種する戦兎と共に、轟音が響いた場所へと走り出す。

 

「…あそこか!」

 

 爆発が収まり、粉塵棚引く場所で…ようやく、その姿が見えた。一夏を取り囲むようにして織斑千冬と織斑マドカ、そして宇佐美幻が立っている。

 しかし、何かがおかしい。誰もが一夏を見て、困惑の表情を浮かべていた。

 

「…――――、ふふは。ハハハハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハハァ‼」

 

 声も姿も同じだというのに、この違和感は以前にも覚えがある。そう、あれは文化祭の時、ブラッド・ストラトスの襲来で一夏のISが反転移行した時のこと……————。

 

「これで俺は完全に自由だ…」

 

 掲げた手に闇が集うと、鋭く伸びた爪が黒く染まりだし、スカルリングが人差し指に嵌った。次々にアクセサリが腕と指に重なっていく。

 

「いち、か……?」

 

 一夏はその姿を変えていく。様々な色が混ざり合い、白い服は赤黒い液体に浸食され穢れていく。その装いは退廃的で反抗的だった。ダメージジーンズに映える赤紫のメンズスカートと、棘の付いた革製のヒールブーツが服の上に生成し直される。

 髪質はウェービーでウェットな黒髪に変化し、暗い金のインナーメッシュが髪から覗く。耳にはチェーンの付いたイヤリングやインダストリアルピアスが鈍く輝く。後頭部でくくった髪には赤と青のメッシュが入っていた。

 

「んん?おぉこれはこれは…、皆様アホ面晒してお揃いで」

 

 大袈裟な身振りで口元を拭い、閉じていた瞼を開くと、そこには妖しく光る赤い瞳があった。戦兎は思わず口を開く。

 

「…——————、“何”だ?お前…」

「何だ、とはご挨拶だな。俺かぁ?俺は、名乗るならそうだな……」

 

 一夏の身体を借りた者はスクラッシュゼリーを抜き取ると、スクラッシュドライバーを放り投げ、顎に手を当ててしばらく言葉を選ぶ。

 

「俺は一夏(コイツ)の中で生まれたもう一人の自分……————」

 

 アシンメトリーな袖に包まれた腕を仰々しく広げると、腰に巻いた布でカーテシーを行う『一夏の身体を乗っ取った者』。ぐにゃりと音が鳴るように口元を歪めると、彼は皮肉交じりにその名を口にした。

 

「『織斑(オリムラ)零夏(レイカ)』だ」

 

 彼は弄んでいたスクラッシュゼリーを握りつぶすと、手に赤紫の炎が迸る。中身が溢れて固まり、彼の掌の上でドロドロに溶けた溶岩のようなフルボトルが出来上がった。

 

「貴様…————」

 

 それの出来に満足そうに笑っていると、今気が付いたとでもいうように顔をマドカと宇佐美へと向ける。

 

「おっと、今回はよそうマドカ。それと宇佐美幻、お前も立ち入り禁止だ。二人まとめてお引き取り願おうか」

「な……」

「ぬぅん?———ぬぉお!?」

 

 零夏が手を二人へと翳すと、『黒とオレンジのブラックホール』が発生し彼女らを一瞬にして引きずり込んだ。

 

「それ、エボルトと同じ力…!?」

「ご明察だよ因幡野戦兎。ま、当然だ。俺たちモザイカはエボルトの遺伝子から創られているからな。あんたもそうだ……織斑千冬。あぁ、あんたはそれを昔から知っていたか」

「……」

 

 驚愕の表情で振り返る箒と戦兎をよそに、不安と焦燥で顔を歪ませる千冬。

 

「マドカは、…一夏はどうなった…」

「あーあー、そんな顔す~んなよ~。命まではとらねぇさ。あいつらは亡国機業の日本支部に送り返してやったし?一夏は、……まぁまだ存在してはいるよ。壊れかけてるけど」

 

 ククク、と喉を鳴らしてひとしきり笑った後、零夏は視線を千冬に向けた。

 

「ところで、オネエサマ。そろそろあんたも思い出したらどうだー?十二歳(・・・)より前の記憶(・・・・・・)、ねぇんだろ?」

「……」

 

 彼女の歪んだ顔がさらに険しく鋭くなる。面白がっているのか、一夏の顔をした何者かは、さらに笑みがこぼれている。

 

「……あっそ。思い出したくねぇってか。まぁ後々に思い出して手遅れにならないようにな。ふふふはは…ぁん?」

 

———ギャオォォンッッ‼

 

「こいつは———?」

 

 激しい竜の叫びが聞こえた。箒の肩に止まっていた青いクローズドラゴンは、不機嫌そうに喉を鳴らす。それは零夏の周囲を旋回し、彼のその手に収まった。

 

「あれは、私をここまで案内してきた…」

「赤い…、クローズドラゴン、だって…?そん、な…バカな、オレ創った覚え、ないぞ…?」

 

————グルルルル…。

 

「ほぉ…お前、『グレートクローズドラゴン』っつーのか」

「————、いや。何故通じてるんだ?」

 

 どういう理屈なのか、その鳴き声から会話が成り立ったらしい。『一夏の身体を乗っ取った者』はにやりと笑うと、自身の胸の中に手を突っ込みずぷりと引き抜く。その手の中には黄金のエボルボトル————『グレートドラゴンエボルボトル』があった。

 

「全く、子煩悩な『オカアサマ』だぜ、なぁ?」

 

 そのエボルボトルをガジェット状態にしたグレートクローズドラゴンに差し込み、ビルドドライバーへと装填した零夏。

 

【覚醒!グレートクローズドラゴン!】

 

「まぁ。準備運動にはちょうどいい…」

 

 ベルトとガジェットから赤紫の電気が走り過剰な負荷が発生するも、零夏は顔色一つ変えていない。彼の前後にハーフボディが、左側にクローズを象徴する追加装甲が形成される。

 

【Are you ready?】

 

「変身」

 

【Wake up CROSS-Z! Get GREAT DRAGON! Yeahhh!】

 

 鋭い閃光が迸る中、彼はエボルと似た配色になったクローズ…『グレートクローズ』へと変身した。

 

「一夏…、まさか、その姿は…っ」

「何惚けてんの、千冬…!箒ちゃん…!ボトル…!」

「あ、ちょっ…」

 

 戦兎はハザードトリガーを付けっぱなしのまま、ドラゴンとロックのフルボトルをドライバーへと装填する。

 

【ドラゴン!ロック!スーパーベストマッチ!】

 

「っぐ、変…身…!」

 

【ブラックハザード!ヤベーイ!】

 

 金属鋳型が戦兎をプレスし、その姿を変えた。漆黒のアーマーに、ドラゴンとロックの複眼が輝く。しかし、体力を極限まで消費した今の戦兎に勝機は無いといっても過言ではなく、ハザードの持続時間も差し迫っている。

 

「はっ、舐められたもんだな。そんな状態で俺の相手が務まると思ってんのか?」

「畜生……、根性論なんて、性に合わない、のに…!」

 

【【ビートクローザー!】】

 

 互いに武器をビルドドライバーから召喚し、一人は軽やかな足取りで———もう一人は折れた腕や足を引きずりながら大きく剣を振りかぶった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

 

「よう、こうして喋るのは文化祭の時以来だな」

 

 真っ暗な風景の中、二人の一夏が水面に立っている。

 

「どうした一夏?自分が人間じゃなかったことがそんなにショックかよ?」

 

 だが、前回と異なるのは……本当の一夏の色彩が薄くなり、以前まで白一色だった贋作の一夏————『零夏』が黒く変色していたことだった。

 

「何、言ってやがる…‼俺は…お、れは…!?」

「お前が何言ってやがる。お前だって心のどこかで気づいてたんだろ?自分は他人と丸きり違うと」

 

 零夏がエキセントリックな動作で体を動かすと、腕や指のアクセサリが騒々しく擦れ、耳障りな音が零れる。

 

「お前は地球外生命体エボルトの遺伝子を組み合わせて創られた人造人間だ。だから、IS白式の修復能力の補助があったとはいえ、体内に埋め込まれていたエボルドライバーの再構築をすることができた…」

「どうしてそんなことを知っている!お前は、なんなんだ‼」

「ハッハハハハァ…忘れたのか一夏?」

 

 赤い目が一夏の心を覗き込む。

 

「俺は『始まりのIS』の分身であり、もう一人のお前だ。お前の『負の感情』とISが持つ『夢を叶える力』を受けて、ただの遺伝子から俺は進化した。お前の、世界を破壊したいという願いによってな」

「俺はそんなこと望んじゃ…‼」

「嘘をつくな。俺の願いはお前の願いだ。お前の願望が、俺を生んだんだよ」

 

 水面が揺れる。水の中から、何かが天を目指して競り上がっていく。

 

「俺の、願望…?」

「そうだ。幾ら戦っても満たされない、世界は滅ぼすためにある。お前もそう思ってるんだろ」

「…っ、ち、違う!」

「違わないさ…。それなのにお前は、織斑千冬だの因幡野戦兎だのに影響され、正義の味方を気取り始めた。そして愛と平和とかいうモンで自分を縛り、どうしようもないとこまで来ちまった。雁字搦めになって何もできないお前に代わって、俺が表に出てやったんだよ」

 

 海面に飛沫が散り、巨大な建造物が聳え立つ。暗い空に向かって手を伸ばすように、世界を支配する神を引きずり降ろすように、絶望の塔が屹立した。

 

「世界なんてどーでもいいだろ。お前、本当はこの世界に…人間どもに興味がないんだろ?だから、『人を本当に愛する』ことがない。

 

 

 

———人間が(・・・)サルに(・・・)発情する(・・・・)ことがない(・・・・・)のと同じだ」

「そんなはずないっ‼俺は、俺…は…!?」

 

 一瞬、脳裏に箒の顔が思い浮かんだ。だが……墨汁が水面に落ちたように、汚れが広がり————その笑顔も見えなくなった。

 

「ハ!姉も姉だが、お前も相当な噓つきだな。お前が篠ノ之箒を思う気持ちも、『もしかしたら植え付けられただけの偽りの感情かもしれない』と、思ったことなかったか?」

 

 眼の焦点が定まらない。冷汗が止まらない。聞きたくもない自分の声が脳内に滲み込んでくる。

 

「お前は人とは別の生き物であるが故、人の好意が———愛が分からない。本当は周りにいる女どもの気持ちが分かってないんだよ。必死に平凡な人間を真似て、模倣しきれなかった違和感を、『バカのフリ(・・・・・)』をしてごまかしていたのがその証拠だ」

 

 嘘だと否定できない虚言が、彼の真実を暴き立てようとしていた。

 

「そんな奴が、『箒だけは特別』だ?それって……おかしいよなぁ?」

 

 ————一瞬、一夏は心臓が止まったように思えた。

 

「お前は、本当は察しているんだよ。守りたいものが、根底から崩れかかっていることを」

 

 絶望の塔の上に、真っ黒に崩壊した星が生まれる。そして、空間が其れに吸い込まれ、崩壊を始める————。

 

「何か違うなら、言い返してみやがれ——————

 

 

 

 

 

 

“ばけもの”」

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

「『ヴァイス・モザイカ』、ですか?」

 

 ファウストが保有するデータベースを閲覧したシュトルムに、惣万はモンド・グロッソ直後の『消された記録』を語っていた。

 

「あぁ、名義上そう名付けられている。奴は数年前に織斑千冬と戦い、IS『暮桜』を機能停止に追い込んだ『ブラッド族の一人』だ」

「ブラッド族の…一人(・・)?まさか…————むぐ」

 

 何かを察したらしいシュトルムだが、お道化者のコブラは『しぃーっ』とジェスチャーし、彼女の唇を指で塞ぐ。整った顔を近づけられ、思わず顔を背けるシュトルム。彼女に構わず惣万は言葉を淡々と続けていく。

 

「とはいっても、この星にいる正真正銘のブラッド族は俺一人。その他の奴らは俺がISを模して製造したブラッド・ストラトスか、人間ベースの混血かだ」

「混血……、なるほど。では『彼女(・・)』が」

 

 その言葉で得心が行ったらしい。シュトルムはひとしきり頷くと、現在開発中のガジェットをちらりと横目で見る。

 

「あぁ……。しかしまさか。俺の遺伝子があんなふうになるとはね。インフィニット・ストラトスの機能か、プロジェクト・モザイカの潜在能力か。……はたまた、俺自身がイリーガルなのか」

 

 ソファに寝転がると、惣万は手慰みにコブラエボルボトルを取り出してキャップを閉めたり開いたり、コブラの顔パーツをカチャカチャ動かしたり。泰然自若とした彼にしては忙しなく、今の一夏の現状を憂いているようだった。

 

「…マスター。よろしければ、私がエボルドライバーの修繕を行いましょうか?」

「いんや。最後に必要なパーツがまだIS学園に眠ってるからな……お前の気持ちだけもらっとくさ。まぁとにかく。今判明しているのは……一夏がヤツをどうするかで、今後の計画が変わってくるってことだけだ」

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 二人の仮面ライダーの戦いは未だ続いていた。しかし、辛うじて戦いの体裁をとっているが、それはひとえにグレートクローズの手加減によるものだった。嬲るように攻められ、防戦一方になっていくビルド。

 

「弱いな。おら、どした。お前、稀代の天災様なんだろ?こんなもんか」

 

 グレートクローズがボルテックレバーをゆっくり回転させると、周囲の重力と空間に変調が起きる。それは、一夏の体内にあるエボルトの遺伝子の活性化を意味していた。

 

【Ready go!】

 

 零夏はビートクローザーを放り投げ、クローズマグマナックルを無造作に構える。そして、————黒とオレンジの残像を残してビルドの懐にもぐりこんだ。

 

「ッ‼」

 

【グレートドラゴニックフィニッシュ!】

 

 ナックル表層に形成されたオレンジのマイクロブラックホールが、ビルドの漆黒のボディに炸裂する。

 

「ぐうぅぁ…ッ‼」

 

 吹き飛ばされたビルドは、スパークを引き起こして変身が解除される。箒と千冬は慌てて駆け寄った。戦兎の衰弱具合を見て、二人は顔を青くする。

 

「戦兎さん‼そんな体で、無茶をして……‼」

「さて、止めだ。————んぁ?」

 

 突然、グレートクローズの足が止まる。彼の身体に縋るように抱き着いた人間がいたからだ。その人物は涙声で乞い願う。

 

「一夏、ごめんな……ごめんなぁ…」

「……———はぁ」

 

 

 

————バチンッ

 

 

 

「…っぁ!」

 

 平手打ちをされた千冬が、グレートクローズの足元に蹲る。剣で切りつけられるよりも、よほど惨めだった。

 

「だぁっっっせー、てか気持ちわりぃんだよ、織斑千冬。お前も一夏がこうなった原因だ」

 

 エボルの特徴を持つクローズが地面に這い蹲った女を足蹴にする。乱れた髪の間から見える赤くなった頬。それに一筋の水滴が流れた。

 

「結局お前は自分も家族も救えず、空回りしてただけだよなぁ。それをいまさら頭だけ下げて、許してくれなんざ都合が良いにも程がある。お前、無敵の『世界最強』様なんだろ?そんな御大層な力で…、なんか守れたっけか?ん?」

「……、ぅ、ぁ」

 

 千冬を揶揄う声に、嫌悪感が混じっていた。拭いきれない憎悪が乗っていた。心の奥底に追いやられた、腐臭のする汚物であるかのように、グレートクローズは吐き捨てる。

 

「何、言ってる…千冬は、寝る間も惜しんで一夏のことを必死で守ってきたんだぞ…!一夏は、そんなこと、思う子じゃない…‼」

「さぁ、どうだろうなぁ?天才とはいえ、人生経験たった一年ぽっちのお前が推し量れるもんかね?」

 

 千冬の頭を踏みつけたまま、グレートクローズは死にかけの戦兎に向かって指を突き付けた。

 

「俺の願いは一夏の願いだ。保身のため弟さえ欺く嘘、姉を演じることで人間であれると信じ込む悲しい性。こんなことを考えてた姉に、こいつはどこかで気づいていたんだよ。そんな女に人生振り回されて、こいつはうんざりしてたんじゃないのか?」

 

 そして一拍措いて、戦兎の隣にいた一夏の恋人にその毒牙を立てる。

 

「———なぁ篠ノ之箒、お前はわかるだろ?どれだけ心を押し殺しても、なまじ才能だけあるバカな姉への嫉妬と憎悪は絶え間なく生まれ続ける」

 

 今度は、戦兎が口を噤む番だった。

 

「……」

「こんな姉いなければ、自分たちは思い悩むことなく自由に人生を送れたはずなのに。こんな姉いなければ、自分たちの思うとおりにこの世界で笑っていられたはずのに。ISなんかを蔓延らせた姉なんか、この世に生まれてこなければよかったのに」

 

 誰もが顔を曇らせる。此処にいる誰もが罪悪感に苛まれる。

 

「ぃ…一夏、本当に…そう思っていたのか……?」

「そうさ。俺こそ織斑一夏の代行者(オルタナティブ)。俺の世界と自由を手に入れる者」

 

 グレートクローズが笑っていた。人の無様を嗤っていた。

 

「一夏がこうなった原因は正体をバラされたからだけじゃない。お前ら自身がやってきた小さな無理解が負担となり、こいつの心のどこかに積み重なっていた。それを糧にして、俺は進化しここにいる。お前らは罪を重ねた自分たちの手で、パンドラの箱を開けちまったんだよ」

 

 一夏の身体を乗っ取った者はエボルトと同じように、小躍りしながらふざけた言動を繰り返す。くつくつと喉元を擦り合わせて、絶えず笑い続けている。

 ……————千冬は耐えられなかった。耐え切れなくなった。

 

「やめて、くれ…、やめてくれ…」

「はぁーっ?よぉく聞こえねぇなぁ、なぁ千冬おねえちゃぁぁぁん?どーして止めてほしいんだ?」

 

 彼女は肩に置かれたグレートクローズの手を払いのける。

 

「やめてくれっ‼一夏に…、一夏に会わせてくれ……。私は……私は、一夏に謝らないと、いけないんだ……」

 

 絶叫と、尻すぼみになっていく言葉。茫然自失した目で、グレートクローズの中の面影を必死になって探す千冬。

 

「はぁーあ……。そんなに会いたけりゃ会わせてやるぜ。感謝しろよ、『千冬姉』?」

 

 そんな彼女に興が冷めたのか、零夏は戯れとばかりに体の主導権を入れ替えた。最後に、皮肉を添えて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一、 夏…?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………——————『一夏』ってなんだよ」

 

 絞り出すような、声だった。

 

「…………………………ぇ?」

「そんなもん、ほんとは意味もないんだろうがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?」

 

 怒りが、疑念が、激情が、マグマとなって迸る。

 

「俺は…、分からなかった…‼自分と他人を比べて、ずっと違和感が付きまとってた…‼それも全部、俺が『人じゃない』からってことなのかよッッッ‼」

 

 理不尽が言葉になって煮え滾る。不条理を無意味に吐き出す口が止まらない。

 

「何で、言ってくれなかったッッ!?俺たちは、一体何のために生まれてきたッッ!?何が“ばけもの”だァ!?俺は、俺は…俺はァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?」

 

 グレートクローズの装甲に罅が入る。割れ目から禍々しい熱と光が漏れ出ていた。

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁ……‼」

 

 ぴしり、ばきり、べきり。亀裂がさらに酷くなる。青い目元から漏れ出た炎は血涙にも見えた。

 

「グルァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ‼アアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ、ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ‼」

 

 

 

 

 太陽が弾けたようだった。

 

 それは、爆弾を落とされた有様に似ていた。大爆発が起き、キノコ雲が立ち昇る。衝撃と熱が窓ガラスを割り、鉄でできた街灯を溶かす。街路樹にもアスファルトにも烈火が燃え広がりだした。

 

 

 

「うぅぁッ!?」

「わぁッ!?」

「(ははは!暴走しやがった‼こうなっちまったら、もう誰にも止められねぇぞぉ?)」

 

 じゃり、じゃりっ…とケイ素の砂を踏みしめ、明々と燃え広がった街の中、怪物が歩を進める。火口から溢れ出たマグマのように体内の成分を垂れ流し、冷えた個所が鈍い鋼色に変化した“ばけもの”の如きクローズが、一歩…また一歩と織斑千冬に向かって歩いていく。

 

「ウゥゥゥゥゥッッ……?グルァアアアアア……」

 

 マグマに溶かされた道に足跡が残る。じゅうじゅうと、沸騰した道が泡を生み弾ける。熱が支配する凄惨たる景色の中で、織斑千冬は立っていた。

 

「良いさ一夏…。お前には、私を恨む理由がある。お前には、私に怒りをぶつける理由がある」

 

 硝子を溶かす灼熱の風が肺を焼いても、クローズの感情に呼応して噴き出る劫火が皮膚を舐めても、織斑千冬は動かない。

 ————傷が瞬時に再生するのをこれほど苦痛に思ったのは、いつ以来だっただろう。

 

「……、私は実験動物として、『科学の玩具』になるために生まれてきた。だけど、一夏…、お前だけにはそんなことをさせたくなくて…、それで———、世界の全てに嘘をついた」

 

 過去の記憶(きず)を自ら封じても、再生する身体から傷がなくなっても、心に残った(きず)が未だに影を落とす。憶えていることがたった少しでも、実験と称されてあらゆる苦痛を与えられてきたことは忘れられなかった。

 

「……偽りだらけの私を信じてくれなんて言わない。こんな自己満足を許してもらえるとも思わない。姉として接してこれなかった馬鹿な女の戯言だ」

 

 ……————誰かから報われたいと思ったことも、願ったことも無かった。例えそれが弟であろうと、何もいらなかった。彼が心穏やかに生きられるならば、嫌われ役であろうと買って出ようと思っていた。

 

「———それでも一夏、私はお前を愛しているよ」

 

 人ならざる力を与えられて、苦しくもあったが、一夏の為にならば、と思うことができた。研究者たちにとっては、力を持った自分たちは替えの利く代替品だったのだろう。だが。

 

「たとえお前に憎まれ続けても、たとえお前に殺されようと、私はお前を愛しているよ」

 

 千冬にとって、一夏はかけがえのないただ一人の同族なのだから。だから…。

 

「私は、ずっとずっとお前を愛しているよ」

 

 初めから、織斑千冬の人生は決まっていた。この命は、この力は、家族のために捧げると————。

 千冬の瞳が、桜色に輝いた。

 

「ウウウウウ、ヴァァァッッ‼ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ‼」

 

 獣の咆哮とマグマが撒き散らされる。荒れ狂う一夏の心を受け入れるため、千冬は抱きしめるため腕を広げ、その身を彼に差し出した。

 だが、その場にいる人間は納得しない。戦兎が怒りの声を上げている。

 

「千冬!やめろ!そんなことで一夏の心が…、お前自身の罪の意識が救えるとでも思ってるのか!?ふッざけんなよ‼お前、オレに死ぬなって言ったくせに‼おい‼おぉいッッ‼」

「一夏、どうか……———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏ぁ!やめてくれ‼」

 

 マグマの怪物となった一夏の胸の中に、ポニーテールの少女が飛び込んだ。

 

「なっ…」

「箒ちゃん!?何を…‼」

 

 肉が焼ける音がする。包帯を巻いている手が露になり、火傷の跡がさらに酷くなる。指先が炭化を始めているにも関わらず、その少女は恋人の心中を思いやり、整った顔を灼熱の胸にうずめていた。

 

「やめろ箒!焼け死ぬぞ!?」

「一夏も苦しかったんだな…。お前の気持ちが伝わってくる…」

 

 射干玉の髪が燃えても、炎が骨身を溶かそうと、箒は一夏を絶対に離さなかった。……————だからなのだろうか。

 懐にあった待機状態のIS(守り刀)が、温かな光を放ち始める。

 

「え…?ISが、共鳴している…?」

「辛いよな……愛を感じられないのは」

 

 光を浴びて、一夏の中に変化が起きた。

 

「ガッ、オ、アァァァ…アギィィィィィィッッッ‼」

 

 苦痛に悶え、箒を突き離そうとする一夏の理性と、暴走し彼女を排除しようとする怪物の本性。そのせめぎ合いを知りながら、箒はさらに強く彼を抱きしめる。

 

「ホ…オ、ギ、ィィィ…!オレハ、オマエ、ヲ……‼ホントウ、ニ…‼タイセツ、ダト…オモッテ…ッッ‼」

「わかる。わかっているよ。心配するな、私はどんなお前でも受け入れる。そんな辛そうな顔をしたお前を、放っておけるわけがないだろう…」

 

 服が燃え、雪のように白い肌も爛れていく。それでも箒は一夏を思い続ける。

 

「私も辛かった。家族と引き離されて、政府から監視されて、日本各地を転々として…、独りぼっちでずっと過ごして、いつまでこんなことが続くんだろうって、寂しくて……」

 

 

 

 ————二人は水面に立っていた。桜の花弁が舞う景色の中で、人間の姿で言葉を交わす。

 

 

 

「学校から帰って、毎日部屋の隅で泣いてた…、皆がいるあの頃に戻りたかった、お父さんとお母さんがいる家に帰って、『お帰り』って言われたかった…!もっともっと愛されていたかった‼」

 

 俯いていた箒が顔を上げて一夏を見る。涙で濡れ表情が崩れていても、それでも笑顔で彼女にとってのヒーローを見る。

 

「でも、一夏がいたから私はここにいる。また会おうって言ってくれたから、希望を捨てずに生きてこれたんだ。たとえ、何気ない一言だったとしても、その言葉で私は救われた…!」

 

 顔を伏せていた一夏を強く掻き抱き体を密着させる。心臓がとくん、とくんと鼓動を刻む。

 

「一夏が私に道を示してくれたんだ。一夏、私のヒーローが、こんな後ろ向きで弱虫な私を救ってくれたんだ…!」

 

 

 

 ……————だから。

 

 

 

「だから今度は私が救う!一夏の生まれがどんなだろうと関係ない‼一夏‼お前に出会えて、私は本当に幸せだった‼」

 

 

 

 

 箒は告白する。

 風立ち桜が散る。青空の下、嘗ての時のように、今度は箒が一夏に救いの手を伸ばす。

 

 

 

 

「こ、レハ…」

 

 光指す風景に、何人もの人影が映っていた。白と桃色の花弁を運ぶ風が涙をぬぐう。

 

「セシリアも、鈴も、シャルルも、ラウラも、簪も…!お前と一緒に過ごして、お前を“ばけもの”だと思ったことは一度もない!たとえ人と違っていても、そんなの関係ない‼私たちはお前のことを否定なんかしない‼」

 

 代表候補生たちが、仲間たちが一夏の背中を押してくれた。

 

「自分を愛せなくても、他人の心が分からなくても、自分を嫌いにならないでくれ!」

 

 だから、一歩、箒の心に踏み込んだ。

 

「おれ、ガ…人間(・・)ジャ、なくテも…イイのカ…?」

そうだ(・・・)!そんな寂しいことを言うな!お前は心がある『(ひと)』だ!私を救ってくれた優しい『(ひと)』なんだ!」

 

 心無い『人間』たちに無視され、『守る』という名目で人として扱われなかった少女が、彼の名を呼ぶ。ずっと心の傍にいてくれた『人』を助けるために、その答えを叫ぶ。

 

 

 

「戻って来い一夏!お前は“ばけもの”なんかじゃない‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉっ!?」

 

 眩い光の中から、グレートクローズが吹き飛ばされる。閃光が収まると、そこには抱き合って互いを守り合う少年少女が立っていた。

 一夏と箒が、視線と言葉を交わす。

 

「……————箒、ありがとな」

「いいんだ。これで、少しばかりは恩返しができただろうか…?」

「違う。感謝するのは俺の方だ。俺はずっと、お前に助けられてばかりだよ……」

 

 一夏は、箒に向かって手をかざす。彼の手の平から煙が噴き出し、マグマで炭化した箒の肌を優しく包み込んだ————。

 

「ぇ、ちょっ!」

「…悪い。俺の力じゃ、スマッシュの時の火傷までは治せないみたいだ」

「……律儀な奴だ」

 

 エボルトと同じ力を使ったことで、箒の白い肌の大半は治癒していた。驚く戦兎を尻目に箒は優しく首を振る。大丈夫だというように、優しく微笑み一夏の背を押した。

 

「それと、千冬姉———ごめん」

 

 頬を掻きながら、彼は自分の姉に向かって頭を下げた。

 

「自分でも気づかないうちに、千冬姉と自分を比べてたみてぇだ…」

「一夏…」

 

 言葉少なに口を開く。だが、姉弟はそれだけでも分かり合えた。

 

「……いいんだ。私こそ、ごめんな…」

「何言ってんだ。俺たちは家族だろ?気ぃ使われて嘘吐かれたのは微妙だったけど……うん、許すさ。だって、俺も千冬姉のこと、愛してるからな」

「…ッ」

 

 千冬の目から、涙が一筋流れた。複雑(ぐちゃぐちゃ)に感情が混じった顔だったが、それでも————『美しい』といえる顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ちっ、バカは立ち直り早いなー…」

 

 その光景に反吐が出たのか。グレートクローズが肩をすくめて、寒い姉弟愛を唾棄していた。白けた気持ちをそのまま張りの無い言葉に乗せてビートクローザーを肩に担いだ。

 

「———そうだな。簡単に許しちまうのは、自分のこと蔑ろにするバカなんだろうな…。実際、具体的な解決策も思い浮かばずに『はいそーですね』で済まそうとしてんだし」

 

 小馬鹿にされ挑発されても、一夏は薄く笑ったままだった。自嘲と、それと安堵が入り混じった表情で上着を脱ぐと、自分に抱き着いたことで服が燃えてしまった箒の肩にかけてやっていた。

 

「けど、ウジウジ頭使って考え続けるくらいなら、俺はそんな馬鹿でいい」

「あっそ…でどうすんだ?」

 

 予想外のことが起きたからか、グレートクローズの口調は冷たい。どう嬲ろうか、舐めまわすように一夏や箒の身体を凝視していた。

 

「お前が今まで変身できていたのは、ネビュラガスに適応できる俺の遺伝子があったからだ。いまそのボトルの力を使っても、せいぜいスマッシュになれるかどうか。そんなお前が、この俺に戦いを挑む?んなの、命知らずの馬鹿のすることだ」

「それでも構わない。今の俺は負ける気がしねぇんだ……いや、違うか」

 

 一夏が箒を見る。箒もまた、一夏を見る。それだけで、二人に言葉はいらなかった。

 

「俺は負けない。負けるわけにはいかない。箒のために、皆のために———絶対に!」

「————なに?」

 

 一夏の目が黄金に輝く。間髪入れずに、箒が戦兎の使っていたドライバーを手渡した。

 

「たとえ人じゃなくても……世界を滅ぼす力を持っていても、俺は“ばけもの”とは違う!俺は、一夏———織斑一夏‼」

 

 一夏の体から噴き出る金色のオーラが、真っ黒だったフルボトルに変化を与える。ボトルのくすんだ黒い表面がはじけ飛び、脈打つように橙色の光が漏れだす。

 

「お前らみたいなヤツらがこの世界を壊すっていうのなら……俺はこの力を、愛と平和のために使う‼」

 

【ボトルバーン!】

 

 生み出した『ドラゴンマグマフルボトル』をクローズマグマナックルへ、決意と共に勢いよく差し込んだ。

 

【クローズマグマ!】

 

 一夏は叩きつけるようにナックルをビルドドライバーへセットし、ボルテックレバーを力強く回転させる。

 

【Are you ready?】

 

 背後に展開された溶鉱炉型の変身装置『マグマライドビルダー』内で、流体装備『ヴァリアブルマグマ』が煮え滾る。そして————。

 

「変身‼」

 

 途端に取鍋が反され、一夏は生身のまま赤々と光る融解金属を頭上から浴びた。大量のヴァリアブルマグマはアスファルトを溶かし周囲にも燃え広がっていく。

 

「ちょ…っ!?戦兎さんこれほんとに大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫…!設計上はなんら、問題ない……ハズ」

「おぉい戦兎ぉ!?」

 

————ギャオォォォォォン‼

 

 突然、箒の肩にいたクローズドラゴンが叫ぶ。一夏が沈んでしまった溶岩に変化が起きていた。

 

「あれは…!?」

 

 マグマの中から竜が首をもたげ上げた。八匹の赤い竜は黙示録を示すように、激しい飛沫を散らしながら、産声を上げる。そして急速に冷却され、黒い石像を思わせる九頭龍となったヴァリアブルマグマを、背後にあったマグマライドビルダーが————粉砕する。

 

【極熱筋肉!クローズマグマ!】

 

 猛光と火炎、そして余剰分の岩石を弾き飛ばし、マグマを思わせるオレンジの仮面ライダーがそこにいた。

 

【アァチャチャチャチャチャチャチャチャチャ…アチャァァァァァ‼】

 

「あれが…」

「っし、クローズマグマ…!」

 

【雪片弐型!】

 

 仮面ライダークローズマグマの手の中に、純白の刀が生み出された。それを構えて、一夏は魂の叫び声をあげる。

 

「力が漲る……魂が燃える!俺のマグマが迸る‼行くぞ…————お前は俺を、止められねぇぇぇッッッ‼」

 




次回、一夏VS†REIKA†

惣万「……後半甘ったるいけど、前半が超苦いからコーヒー要らなかったかも」

零夏の名前はRime casket様から頂きました。どうもありがとうございます!

今後の進め方の優先事項

  • 瞬瞬必生(本編のみを突っ走れ)
  • 夏未完(消え失せた夏休み編の復旧)
  • ちょいちょい見にくい部分を修正と推敲
  • 全部

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