2084年。

『魔族』という新人類が現れた世界。

人間としてはややまっとうな生き方をしていない男、永井光弘。

自分が男であることを主張する顔の約半分が人外の、性別と年。もとの名前の最初の一文字しかわからない少女。

これはそんな二人のなんて事のない小話である。

この作品はリハビリ作品です。
少々各文に雑さが見え隠れしてしまっていますがどうか寛容な心で見逃してください。



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リハビリ作品だからと作者の趣味をてんこ盛りにした結果がこれです。




人外少女は笑う

「なぁーなぁーリモコン取ってくれよー」

 

 居間から聞こえた間抜けな声に、少々三白眼気味の目を少しだけ男はゆがませた。

 慣れない手つきでトマトをスライスしていた手を緩めて、自分のそこそこ広いリビングへと視線を飛ばしゆらゆらと揺れる小さな頭をとらえる。

 

 その頭の持ち主は、男が返事をしないとわかると頭を今までよりも大きく揺らしながら鈴のようなきれいな声でもう一度声を荒げた。

 

 男としてもこれ以上うるさくなってしまうのは本意ではない。

 ダイニングの机に置いてあった(ダイニングとリビングにテレビが二つあるため、たまに間違えて持って行ってしまう)リモコンをおとなしく少女のもとにもっていく。

 

「ほらよ。お求めのことだぜ」

 

「わははー流石―」

 

「もうすぐ飯できるからこっち来いよ」

 

「うーっす」

 

 きゃいきゃい、とうれしそうな声でしゃべる少女を見て、改めて少女の異様さに目を引かれる。

 

 まず頭の片方側に本来存在しないはずの赤黒い角が大きく天を突いている。

 右目は白目と黒目が反転しているし、その顔の右側は頬骨のあたりまで皮膚ではなくおおよそ人間ではない形にまで盛り上がった骨が皮膚に守られることなく露出している。

 

 そしてそんな異形な見た目に負けることのない毒花のようなかわいらしさを持ち合わせる整った容姿。前髪をきれいに切りそろえた肩口までの黒髪は着ている烏羽のような和服や未成熟な見た目も相まってまるで日本人形のようだ。

 

 ……まあ、日本人形や大和なでしこはこいつのように気崩して肩口や太ももを露出したりしないのだろうが。

 

 笑い話にもならないようなことを考えてしまった。と、男はフン、と大きく鼻を鳴らした。

 人外の少女に飯ができることを言ってしまったのだからさっさと用意をせねばまたうるさく騒いでしまう。

 

 うるさいのは嫌いだ。なによりも読書をしながら日向でまどろむような生活が一番好きだ。そんな男がなぜこんな騒がしい少女を引き取るようになったのか。

 

 それは彼の仕事と、少女の生い立ち。あとはこの世界に存在する奇病が原因なのである。

 

 

      ●

 

 2084年。急速に発達した人類を戒めるようにその病気は発現した。

 急速に細胞を進化させ、人間を全く別の生き物へと変えてしまうその奇病は人々の間では小難しい学名よりも『異形化』という通称で認識された。

 

 患者にとって幸運であったのはその後の姿が人型から大きく乖離はしなかったことであろう。

 尻尾が生える。体の構成物が変わる。なんてことはあっても肉塊になった人間はいないし、人から犬、鳥になった人間もいなければ、腕が数十本も生えた人間もいない。六本や八本になった人はいるが。

 

 要は早い話が新人類の登場なのである。

 数十年前にはやったSF映画のような話に人類は恐れ、対策し、そして持ち前の対応力で人間は新人類たち『魔族』といい付き合いをしていくことになったのだ。

 

 なにせ彼らはほとんどが見目麗しい。

 これがファンタジーなオークみたいなやつらではこうもすんなりといかなかっただろう。

 

 そして三白眼の男。永井光弘という男もまた魔物たちと『いい付き合い』をするものたちだった。

 永井が所属する会社。早い話がマフィアや暴力団に近いそれなのだが。その会社は奇病にかかってしまった、法律が保証しないような魔族。つまりは身寄りのない魔族を色街に売ったり、労働用として会社に人員派遣と称して売り払ったりしているのだ。

 

 といっても。それはかなり物騒な言い方だ。と永井は考える。

 

 身寄りのない者たちに行き場を提供するうちの会社はまだ友情なほうだと。まあそりゃあ色街に入ったやつは入ったやつで苦労するだろうし、新たな環境に慣れないやつだっているとは思うが、そんなの魔族ではない人間ですらそうなのだから仕方がない、と。

 

 事実、永井たちの会社は政府などから黙認されているし、永井は色街などにいる自分が送った魔族の様子を見たりしている。まあ後者に関しては遊んでいるだけといえなくもない。

 

 さて、ことは永井が社内でのし上がり、社長の片腕になろうかという時期だった。

 

 下の連中が質の悪い、魔族を取り扱う業者から女を一人回収したといってきたのは。

 

 無論。そんなことはこの世界ではありふれたことだから当初は大した気にもしていなかったのだが、少女がその会社の人間のほとんどを喰ってしまったのだと尋問したやつから聞いたのだから話は別だ。

 

 一番丈夫なAランクの労働用魔族の拘束すら引きちぎる少女をだれが扱いきれるだろうか。そんなものは商品になりはしないし、捨てるわけにもいかない。

 

 そんな不良在庫を引き入れてしまったバカな部下の責任はその上司である俺にそのまま帰ってくる。なにせ大事な時期だったのだ。

 泣いて謝る部下たちに少しだけ金を握らせて、俺は少女を閉じ込めている部屋の中に入ったのだ。

 なにせ殺しても逆に殺されそうな餓鬼だ。男一世一代の大勝負だったのだ、と男は当時のことをそう語るかもしれない。

 

 結果から言えばその勝負には勝った。むしろ大勝した。やっかいな魔族を単身で対応したという評価のおかげで社長の右腕に正式に昇格することができたのだから。

 誤算は、というと少女が俺の家に泊まり込みで住むということになったのと、少女がもともとは21歳の男らしいという点だ。後者に関しては情報がちぐはぐだが、そんな魔族を武器用な永井という人物がかわいがることができるはずもなく、彼は距離を取り、魔族は距離を詰めようとしてくるという異様な関係が出来上がってしまったのだった。

 

 

 

      ●

「女のにおいがする」

 

 食後のお茶を飲みながらのことだった。

 お前絶対に男ではないだろうと思わずうなりたくなるほどの過剰なスキンシップのもとに体を男にすり続けていた少女(小さいくせに実り始めた果実が柔らかい)がぽつりとそう漏らしたのだ。

 

 普通であればヤンデレ、または浮気を疑う嫁のようなセリフなのだが、明らかに彼女はその行為自体に嫉妬していた。

 ようは女を抱くということについてだ。

 

「ずるいずるい。あーちゃんもそういうことしたい!」

 

 ボッ、ボッ、と青白い炎を右目から漏らしながら両腕を上げながら抗議する少女。

 あーちゃん、というのは少女の仮の名前だ。なにせ自分の年、性別。名前の最初の一文字しかわからない。だからとりあえず『アー』という愛称になったのだ。

 

「お前、そういうところは男なのな」

 

 言動や動作はどうしようもなく少女なのに、感性は立派に男らしいアーにおもわずため息をつく。

 そういったちぐはぐさが妙な不気味さを放つことに本人は気づいているのだろうか。

 

「ねえねえどんなエロいとこ?教えてぇ!連れてってぇ!」

 

「お前自分の体が女なの忘れてない?俺が行くようなとこにいけると思ってるの?」

 

「女の子がはいれるような場所もあるってあーちゃん聞いたもんね!年は21歳だし入れる入れる!」

 

「……………」

 

「でも俺がよくいくのって魔族専門だったりするんだが」

 

「そういうフェチィのが好きなんだよね。あーちゃんそういうのに深い理解があるから軽蔑はしないよ?俺も人間は実は性の対象外!」

 

「えぇ…………何それは?」

 

俺の場合はフェチじゃなく実益も兼ねたものだったりするから、同居人の思ってもみなかったカミングアウトに思わずずるり、と体が椅子からずりおりそうになってしまった。

 

「いや、別に連れて行くのは全然いいんだが。俺のよくいく日はお前の仕事の日だし………    …」

 

「休む!」

 

「休むな。紹介した俺の立場を考えてくれ。…………しゃあないお前の休みの日に合わせるか」

 

「やーん。さすが光弘。かっこいい!鼻をつまんでだったらキスしてあげちゃう!」

 

「そんなロマンのかけらもないキスなんかこっちが願い下げだわ!…………ったく」

 

 禁煙用の飴を口に含んで、アーを見るとくるりくるりと喜びの舞を踊っていた。

右目から漏れ出る炎も平時の青から赤に変わっているところを見ると平時よりもご機嫌らしい。

男はアーのしつこい質問を無視しつつ、スケジュールの書いている手帳を開いた。

 

 

 

 

      ●

「すごいここが色街!なんかこっちまでえっちくなりそう」

 

「なるのか?」

 

「ならない!」

 

「ならないのかよ」

 

「獣になるかも!」

 

「もっと酷かった⁉」

 

 テンションが留まるところを知らないという感じで。というよりも暴走する一歩手前のアーを無理やり目的の場所まで連れて行く。

 

 あちこちに目を奪われていたアーは目的地の娼館までくるとその大きな目を丸くした。

 

「すごーい。お城みたい」

 

「まあそれを模してるからな」

 

「まさか光弘ってお金持ちなの⁉」

 

「いや、お前を家にしょい込んだ時に気付いてほしかったな俺は」

 

 うきうきして外の看板にあるオプションメニューを見ながら首をひねるアー。

 さて、じゃあ自分も、と娼婦の一覧に目を通す。

 

「おい、アー。お前は最初なんだからお任せにしたほうがいいと思うぞ」

 

「え?なんで?」

 

「こういうのは最初は自分で選ぶときは店のやつに決めてもらったほうがいいだろ」

 

「だまされたりしない?」

 

「俺が常連の店だぞ?そんな真似はしないさ」

 

「んー…………よし信じる!」

 

 にらめっこは終えて、娼館の中に興味が移ったらしいアーをほおっておき、俺は俺で娼婦を選ぶことにする。しかし、アーのことがやはり気になる。すんなりといくだろうか……。

 

 

      ●

 

「ふぅ…………」

 

 なかなか満足のいく娼婦だった。

 ところで。行為中は忘れることに努めてたおかげでアーのことは忘れていたわけだが。あいつは上手くしけ込めただろうか。

 

「あ。永井さんじゃないですか」

 

「うん?おお千鶴じゃないか」

 

 向こうからやってきたのはキツネのしっぽと耳を持った、なかなかにいいものを持った女だった。

 こいつも俺たちの会社が色街にあっせんした女というやつだ。

 そういえばアーと同じくこいつも男から女に変化したやつなんだったか。もとは確か身寄りのないホストだったな。

 やはりアーのような記憶も失ってるやつがおかしいのだとこいつを見ると改めて思う。

 

「久しぶり…………って、そいつはどうしたんだ」

 

 思わず二度見してしまったのは千鶴の上で白くなってしまっているアーだった。

 

「うん…………。なんか顔なじみとはHできなかったみたい。私はお仕事だからいいんだけどさ」

 

「あーちゃんの下半身は思ったよりも獣じゃなかったみたい。うさぎさんにはなれなかったー…………」

 

「らしいよ」

 

「そ、そうか…………というか顔なじみ?お前ら知り合いだったのか」

 

「うんうん。そうなの。アルラウネのリンちゃんもいれた三人でよく飲みに行ったりするからねー」

 

「ちーちゃんは結構なざる。のんでものんでも酔わないのである。まるまる」

 

 なるほど。以外にアーもアーでちゃんとネットワークを構築しているらしい。

 

「どうする?私とは別の人と遊んでみる?事情は話したし、今なら別の人とできると思うけど」

 

「今日はあーちゃんいいかなぁって思うのである。いろいろ疲れたのだよ」

 

「だって、はい」

 

 そういうと千鶴は永井にアーを優しく抱えさせた。

 

「なんだかいろいろ疲れてるみたいだからちゃんと連れ帰ってくださいね?じゃああーちゃんまた飲もうー!」

 

「ちーちゃん。今日は6時間働いてるのに元気ですごい」

 

「獣系の魔族は性欲強いらしいからな」

 

「なるほど納得。とりあえず一回させられたのも納得」

 

「ヤられたの?」

 

「黙秘黙秘。…………でも楽しかったから良しとする。また気が向いたときに連れてきてほしいなって」

 

「はいはい」

 

 少し元気のないアーを歩かせる。

 

こいつがいい女になるまでにはまだまだかかりそうだなと思いつつ、車までの短い道だけ手をつないでやる永井だった。

 




もともと時代背景は現代ものの予定でしたが、いろいろ考えているうちに法改正云々の話に気が付いたので遠く未来のお話になりました。

男。『永井光弘』
実はなんてことのない主人公の親友の設定のはずでした。
しかし、それだけではパンチがやや足りないというか主人公の引き立て役でしかないということで、やや物騒な設定に。
本編では具体的な年は描写していませんが、大体30手前を予想していただければ幸いです。

人外TS少女『アー』
ちょこちょこ筆者のフェチズムが込められた子。
最初の設定は記憶もちゃんと持った、男の家に転がり込んだ大学生だったりしました。それがいつのまにかこんな闇の深い設定に…………。
ほんとうはこの子の視点で送るつもりだったのですが、語り部にするのならば永井のほうが適任だと思いそっちに変更。この子はかわいい担当へと変更になりました。
実はほかの『魔族』とは違い人間に対して情も何もない(永井だけは別)という裏設定があります。作中でもそのことをにおわせる発言をさせていたりしてましたよね。

 では、短編にしては少し短めの、いわゆる小話。楽しんでいただけたら幸いです。

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