正義執行   作:ラキア

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後日談 一撃聖王

 JS事件から四年が経過したミッドチルダの治安は比較的には良くなったといえた。その理由は四年前の災害によって犯罪者が一斉に暴動を起こしたこともあり、膿が一斉に始末できたようなものだったからだ。そしてそれから二年が経って冥府の炎王イクスの事件が起きたりしたが、これは元六課所属であるスバル・ナカジマによって難なく解決したりもしたが、それはまた別の話。

 

 しかし、良くなったといえど、それはまだまだ表面上の問題。裏では絶えぬ悪事が起こっているのもまた事実なのだ。おまけに別世界では新たに人ならざる化け物が出現したりして、これらの対応に現在八神はやて率いるヴォルケンリッターの部隊が対応にあたっている。

 そしてまた別の世界では犯罪組織による凶悪事件が発生したりしてフェイトやティアナが対応にあたり、スバルはエリオ、キャロと共に災害地区で救助活動したりしている。

 かつての六課のメンバーはそれぞれの仕事にあたり、現在も忙しい毎日をおくっている。それに比べたらミッドチルダは治安もしっかりしているだろうが、影で小さな悪事が起こっているのも事実だ。

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの外れにある場所に、廃棄された街が存在する。そこは主に影に潜む犯罪者が根城にしている場所であり、治安活動しようにもキリがないのが現状だ。その為、一度大きな制圧作戦を行う計画が立てられている。

 

 そんなある日の深夜。その廃墟に一人の影があった。その影は廃墟の真ん中に佇んでおり、周りには粗暴の悪い見た目の人間が囲っている。だがその周囲に臆しない中心の人物は、静かに息を吐いた。

 長い緑髪、ツインテールに髪を結い、白い戦闘装束を身に纏い、さらには特徴的な仮面を被り、目を完全に隠していた。が、その体格とボディラインは惜しげなく女性だと識別出来る。そんな女性に、周りの男は下卑た笑みを浮かばせるものも当然のようにいた。だが、相手の強さを感じれる者にとっては、この女性が只者ではないことは肌で分かる事だろう。故に賢い類の連中は逃げる算段を思考していた。

 だがそれを待たずして、女性が口を開く。

 

「───世界に害を生む者達に告げます。今から貴方たちをこの拳を以って制圧させていただきます」

 

 その一言を言って、女性は動いた。その動きは周囲の者達の時を完全に置き去りにして、逃げようと動いていた者が一瞬で吹き飛ぶ。ついで周りに居た男数人に対し、回し蹴りを放って周囲を蹴散らした。驚く暇も無いその動きに、男達は混乱することしか頭を動かせない。だが銃のデバイスを構えていた男は何とか思考を維持し、冷静に女性に向かって照準を合わせる。幸い男は影から見えない位置に身を隠している。そして女性の背後を取っていた。距離からいっても気付かれている事はないだろう。そう信じて必死に心を落ち着かせ、静かに呼吸を整える。手の震えを押さえ、完全なるタイミングで女性に向かって魔力弾を放った。

 男の予想通りに、女性は気付いていない。弾を撃ったタイミングでも避ける気配はない。プロテクションを展開しようとも、この弾は男の切り札であり、馬鹿魔力で作ったプロテクションでない限りは貫通性能を持つ。故に仕留めたと思った。

 

 だが、その一瞬の期待は砕かれる。

 

「───無駄です」

 

 女性は弾が当たる直前に腕を動かし、その弾を素手で制止したのだ。周囲の者達も驚愕する。意味が分からないとその場にいた全員が思っただろう。

 

「これはお返し致します……───旋衝破ッ!!」

 

 言うと、女性は銃弾にさらに己の魔力を重ねて数倍にも弾を大きくし、それを狙撃手へと投げる。およそ人が肩で投げたとは思えない速さで弾は放たれ、男は完全に沈黙することとなった。

 もはやここにいる者たちではとても太刀打ち出来ない。一方的に蹂躙されることしか出来なかった。一斉に襲い掛かろうとも、一瞬の動きでそれぞれの急所に的確に拳を打ち込まれ、そして背後から襲いかかろうとする者がいても一瞬の動きで逆に背後を取られるという余裕の身体捌き。そして殆どの連中が制圧された時に、一人の男が車へと乗り込み、その場から逃げ出した。その場にいた男を気絶させ、胸倉を掴んでいた手を離して地面に落としてから、女性は地面を蹴る。

 

 正面へ蹴る。そうする事で凄まじい加速を生み出して車を追跡した。バックミラーで確認した男はまるで幽霊でも見たかのような恐怖で染まった表情をさせてひたすらアクセルを踏む。だが加速しても全然離れていく気がしない。廃墟からだいぶ離れ、そして山道を降りていく。あと少し走らせれば街がある。そこまで逃げれば男も逃げられる可能性があった。

 バックミラーを確認する。後ろには先ほどの女性が居ない。流石に山道の悪路で追いつけなかったのかと少しだけ安心し、ホッと息を吐いた時だった。

 

 ドン、とルーフから音がした。

 

 その恐怖で、男は悲鳴を上げた。

 

 車の上に、女性が着地したからだ。

 

 音がした次の瞬間にはルーフが女性の拳によって突き破られ、運転する男を視認する。

 

「───逃しません」

 

 一言言って、女性は男の意識を奪った。運転手を失った車はそのままコントロールを失って車線がずれていく。男を車外に出してから、女性はその場から跳躍し、地面に着地する。車はカーブにある岩壁に突っ込んで、そのまま爆散した。

 

 

 

 

 

 

「───という感じで、普段から影に潜む悪を拳で制圧したりしていたんですが……」

 

「うん。一般人がやる事じゃないですよねそれ? 下手するとアインハルトさんが管理局の面倒になると思うし、それは今後しない方向でお願いします」

 

「しかし、ヴィヴィオ先生……」

 

「……あの、それと先生って言われるのはちょっと……アインハルトさんの方が年上ですし……」

 

「では師匠」

 

「師匠はやめて下さい!」

 

 緑髪の少女───アインハルトの話を聞いていたヴィヴィオは、その危険すぎる行動の話を聞いて頭を悩ませていた。

 

 何故、こんな事をしているかと言うと、それは先日の話となる。アインハルトは普段、覇王の拳の強さを証明する目的もあって、街に潜む悪事をその拳で制圧していたのだ。しかしある日、その光景を夜のランニングをしていたヴィヴィオに見つかったのが切っ掛けで知り合い、さらにヴィヴィオが巻き添えになりそうな所でヴィヴィオが母親譲りのワンパンで男を仕留めた事によって、アインハルトとこういう関係になった。

 

 ヴィヴィオは改めてアインハルトから話を聞こうと、現在自室に招いて話を聞いていたが、アインハルトは先ほどの話のように危険なことをしている事が分かった。

 いや、アインハルト程の実力者からしてみれば危険ではないのかもしれないが、どちらかと言うと世間的に問題があるのだ。そう言うのは管理局の仕事である。一般人が制圧しても、管理局側からしてみればアインハルトの行動も十分に問題なのだ。実際後から知った話では一連の騒ぎは結構問題になっている事をギンガから伝えられる事になる。

 

 ヴィヴィオはコホンと咳払いした後、口を開いて、

 

「力を証明したいって、そんな面倒な事しなくてもいいんじゃないですか? ミッドには格闘競技とかありますから、それで結果を出せば……」

 

「たしかにヴィヴィオ先生の言う事も分かります。ですが、私は覇王として、影で横行する悪事を放っておけないという気持ちがあるのです」

 

 それを聞いて、ヴィヴィオは「ああ」と声を出して納得してしまった。そういえばスバルもJS事件の際にそういった理由でなのはママと戦ったと聞いたことがあった。もしかしたらそれが覇王の記憶が強かったのが理由なのかもしれないとヴィヴィオは思った。

 

 しかしこのまま続けさせる訳にもいかない。ヴィヴィオはどうするかと思考を巡らして、試しに一つの方法を口に出してみる。それは冗談のようなものであり、大した期待はしていなかったが。

 

「ではアインハルトさん。もし、そういった事をやめてくれれば、正式に私の弟子として認めましょう」

 

「やめます!!」

 

 即答だった。

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼間。丁度学校が休みだった事もあり、正午前の時間でも構わずアインハルトと行動出来る。場所はひらけた荒野だ。辺りは岩肌の地面が露になっており、周りには岩の山が並んでいるのが見て分かる。

 だがこれらは全て現実の光景ではない。魔法の技術を使った仮想ステージだ。以前六課で使われていた訓練施設の進化版であり、この空間ではいくら物を壊しても支障は全く無い。世の中も便利に進化したなと思う。

 

 現在、ヴィヴィオとアインハルトは互いに向かい合っている状態だ。その姿はどちらも本来の子供の姿では無く。魔法によって大人の姿へと変身し、それぞれバリアジャケットと戦闘衣服を身に纏っている。

 

「今日は無理な頼みを聞いてくれてありがとうございます」

 

「いえ、まあ弟子にするって約束しちゃいましたから。それに礼は私ではなく、ノーヴェに言って下さい」

 

 言うと、アインハルトは横に向き、そこに出現している立体モニターに向かって頭を下げた。そこには現実世界でこちらの様子を見ているノーヴェの姿がある。

 

「突然の無理を聞いて下さり、ありがとうございます。ノーヴェさん」

 

『いやいいって別に。これくらい大した事ねーよ』

 

 ノーヴェは笑みを浮かべつつ手を振る。ノーヴェは現在ミッドチルダで他の姉妹達と共にナカジマ家で生活しており、今はヴィヴィオやその友達であるリオやコロナのトレーニングの先生役をしている。ヴィヴィオに関してはノーヴェ以上に強いのだが、ヴィヴィオ自身は格闘技術の基礎を学びたいという事でノーヴェに教わっている。故に今日のような無理な頼みも聞いてくれたという訳だ。

 

 さて、とノーヴェが口を開き、

 

『じゃあ、そろそろ始めるか。カウント始めるぞー?』

 

「お願いします」

 

 ノーヴェの言葉を合図にモニターの画面が切り替わる。その表示には10と数字が表示され、それが秒と共に減っていく。アインハルトがヴィヴィオに向き直り、ヴィヴィオもそれにあわせて口を開く。

 

「ええっと、手合わせといってもガチじゃなくてもいいんですよね?」

 

「私はそのつもりです。ヴィヴィオ先生の本気を引き出せるように、ぶつかっていきます」

 

 カウントが3に切り替わる。

 

「では───お願いします」

 

 カウントが0になった。

 

 次の瞬間には、距離を殺してヴィヴィオに肉薄するアインハルトの姿があった。凄まじい勢いの加速と共に、蹴りを繰り出す。だがそれをヴィヴィオは上体を下げる事によって回避した。だがアインハルトはその蹴った反動を利用し、もう片方の足をそのまま空中で切り替えつつ踵落としを繰り出す。

 その衝撃で岩の地面は砕け、地面を伝って巨大な罅割れとなった。しかしそこには既にヴィヴィオの姿は無い。アインハルトの足が当たる前に上に飛んで回避したからだ。

 砂埃が舞い、上から見下ろすヴィヴィオはアインハルトの姿が見えなくなる。だが次の瞬間には翠の魔力光が煙の中から輝く。

 

「───覇王……空破断ッ!!」

 

 掌打と共に強烈な衝撃波を飛ばしてヴィヴィオへと迫る。その威力は並の人間であれば塵と化す一撃だろう。衝撃波はそのまま一直線へと貫通し、背後にある岩山に命中すると巨大な爆発となった。寸前で回避したヴィヴィオは地面へと着地し、その様子を見て感心の一声を漏らした。

 その余裕な振る舞いから、アインハルトは自身へと責め立てる。

 

「(……これでは駄目だ。この程度の速さではヴィヴィオ先生に追いつけない……ッ!)」

 

 思考し、アインハルトは自身の魔力を高めて、それを身体に纏わせるように展開する。魔力光が全身に溢れ、ヴィヴィオはその様子を目線で確認する。

 

 次の瞬間にはアインハルトの姿は消えていた。音を置き去りにして、光だけが先に行動する。その動きは先ほどのヴィヴィオを線上に捉え、真っ直ぐ突っ込む。常人では何をされているのかも理解出来ないだろう。アインハルトはその一瞬だけで無数の拳をヴィヴィオへと浴びせているのだ。勢いと共にそのまま圧し切り、岩山へと衝突する。

 

 しかし、アインハルトはそこで気付いた。

 

 ヴィヴィオの姿がそこには無い。

 

「(……いない!? 最初から残像を相手に!?)」

 

 直ぐ様振り返り、辺りを確認する。広大なステージであるが故に、視覚だけでは人一人を探すのには骨がいるだろう。だがアインハルトの身体能力は常軌を逸している。視覚のみでヴィヴィオの姿を捉えることが出来た。ヴィヴィオは衝撃を置き去りにするような速さで地面をかけているが、アインハルトであれば追いつく事は可能だ。直ぐ様跳躍し、ヴィヴィオの向かう先へと先回りし、その正面へと着地する。

 

 同時に、拳を構えていた。

 

「───覇王……断空拳ッ!!」

 

 足から練った力を拳の直打又は撃ち下ろしとして叩きつけて攻撃をする技であり、アインハルトが最も得意として最も威力のある技だ。正しく必殺技と呼べるその技の威力であれば、対象を塵とも残さず消滅させてしまうだろう。

 

「(───完全に捉えた! これでヴィヴィオ先生も少しは本気に……!)」

 

 アインハルトも手ごたえを感じたのだろう。思考でそのように考えるが、それは一瞬にして途切れる。

 

 背後へと気配を感じた。振り向くことも出来ぬまま、気配のみを感知する。

 

 それは彼女ですら畏怖するような感覚。間違いなく死を感じる気配。

 

 ヴィヴィオはアインハルトの背に向かって拳を繰り出していた。アインハルトが振り返る頃には拳は回避不可能であり、その額へと拳が当たる。

 

 

 

 ───寸前に、ヴィヴィオは拳を制止した。

 

 

 

 何秒か送れて衝撃の轟音が鳴響く。一瞬の空白で、アインハルトは目を丸くすることしか出来なかった。ヴィヴィオは呆気になっているアインハルトと目を合わせて、笑みを浮かべる。

 

「お腹が空きました。丁度お昼ですし、ご飯にしましょう。アインハルトさん!」

 

「……は……い。行きましょう」

 

【挿絵表示】

 

 今の一撃で手合わせは終了である。当たればアインハルトの敗北は確定していただろう。だからこそ終了に関してアインハルトが思うことは特に不満は無かった。

 ヴィヴィオは立体モニターを出現させてノーヴェと連絡を取る。その様子を未だに呆然としながら見て、アインハルトは自分の背後を見た。

 

「(───強くなる為には、どんな事をする覚悟はある。……でも、私がヴィヴィオ先生の強さに近づけるイメージが全く沸かない……)」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 視界に映るのは、先ほどのヴィヴィオが放った拳の衝撃で、無数の岩山が消滅した光景だった。

 

 

 

 振り返り、ヴィヴィオの方へと向く。ヴィヴィオはどうかしましたと首を傾げた為、何も無いと伝える。

 

「(……次元が違う。そう思えてくる。でも……それでも私は)」

 

 ヴィヴィオはモニターから離れ、アインハルトの方へ向いた。

 

「アインハルトさん! 今、ママから連絡があって、ご飯用意してくれているそうです! 一緒にどうですか?」

 

「はい。お邪魔でなければ喜んで」

 

 

 

 ───ヴィヴィオ先生について行き、少しでも近付けるように自分を鍛えよう。

 

 

 

 後日談───END




 どうもラキアです。
 今回は読み切りという形で後日談を書きました。VIVIDの様子を少しだけ描写し、アインハルトはこれからもヴィヴィオに付いていく事でしょう。
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