現在私たちは先へ進んだ星矢と紫龍を追って巨蟹宮へ向かっている。
アイオロスに瞬と氷河を任せてきたが……巨蟹宮に向かう途中で氷河の小宇宙が遠く離れた天秤宮にて現れ、そして消えたことで「もしやここでアナザーディメンションで飛ばされたか……?」と思い至る。まあサガがちょっかいかけてくる限り飛ばされるまでは予想していたが、問題はその後だ。氷河の小宇宙と同時に天秤宮に感じたのは本来
アイオロスがその場面でどう対処したかなど双児宮での様子も気になるが、ここまで来て引き返すわけにもいかんしな……。引き返した後巨蟹宮に戻ったらデスマスクがすでに死んでいた、ではかなわん。あんな奴でも一応黄金聖闘士なのだし、気は進まんが助けてやらねば。気は進まんが。
……私がリュサンドロスからリューゼとなり、修行のすえ白銀聖闘士としての地位を取り戻した後のことだ。デスマスクと任務で組んでからというもの、どういうわけか奴の任務のたびに私はサガにデスマスクの補佐として向かわされた。
デスマスクめ、わざとなのか原作を思えばいつものことなのか、任務のたびに周囲の被害をものともせず力を振るうのだ。そしてその被害の拡大を防ぐために私があくせく動き回っているのを見て指をさして笑う。……いちいち突っかかっていく私は、今思えはああいった気質の男にとっていい玩具だったのだろうよ。腹立たしい。
私としては力を取り戻すための良い訓練にもなったはなったが、それとこれとは別だ。私がリュサンドロスだった頃にもその
「あの、どうかなさいましたか?」
私が過去のデスマスクとのやり取りを思い出し眉間に皺を寄せていると、沙織ちゃんが気遣うように声をかけてきてくれた。おっと、いかんな……こんな私情で気を遣わせるなど。さっきも声をかけていただいたが、そんなに顔に出ているのか私は。
「いえ、この後の宮を思うと
「ああ」
私がごまかすようにもう一つ考えていたことを告げると、納得したようにオルフェが頷いた。そうか……彼も教皇の間に呼ばれることがあったから、巨蟹宮を通過したことがあったな。そうなればあの内装も知っているか。いや、あれは内装と言ってよいのか。
これから向かう巨蟹宮なのだが、その宮内はデスマスクが殺した者たちの成仏しきれない魂が
リュサンドロス時に何回か目にしたが、踏む感触が気持ち悪いのかあの場所を通る際は黄金ですら真顔による華麗なステップで顔達を避けるほどだ。シャカ殿に限っては気にせず踏んで歩いていたがな。そして彼が踏んだ顔は強制成仏させられていた。流石である。
まあ私が知る元の話と多少違いがあるとすれば、あそこにへばりついている顔のほとんどが敵や悪人のものであるという事だ。私が頑張って一般人が巻き込まれぬよう尽力したからな!
だがデスマスクが一般の人間、しかも子供までも巻き添えに攻撃を繰り出そうとした事実に変わりはない。フン、このあと聖衣に見放されてせいぜい反省するがいいわあの男め。
とにかく、年頃の少女に見せたくない光景であることは確かだ。
しかしそれを思って「目を瞑っていた方がいいのでは」と沙織ちゃんに提案したが、毅然とした表情で「視察も兼ねて全ての宮を把握しておきたいのです。わたしはどんな事実からも目を背けません」と言われてしまったので仕方がなくそのまま進むことを決めた。
そして巨蟹宮へ足を踏み入れた時の沙織ちゃんの反応だが……。
「
「あら、ごめんなさい」
宮内の魂を強制成仏させるつもりだったのか沙織ちゃんの小宇宙が一気に膨れ上がって焦った。ほら、宮内で「な、なんだこの強大な小宇宙は!」「これは、沙織さんの小宇宙!?」「沙織お嬢さんの身になにか……!? くっ、急ぐ必要がありそうだな。星矢、ここは俺に任せて先へ行け!」とか聞こえるでしょう! 幸い小宇宙が大きすぎて、こんな近くで発生したとは思っていないようなのが幸いだ。危うく尾行がバレるところだったぞ……。
なんとか落ち着いたのか、深呼吸をした沙織ちゃんが改めて宮の内部を見回し真剣そのものな声色で言う。
「これは、リフォームが必要なようですね……!」
「え、ええ。それについては同意見です……」
……十二宮の一件が片付いたら、シャカ殿あたりの最初の仕事が巨蟹宮のリフォーム作業(霊の浄化)になるかもしれんな……。デスマスクが自分でやればいいのだが。
とりあえずそれはひとまず置いておいて、どうやら先ほどのセリフを聞くにここで紫龍がデスマスクを引き受け星矢は先に進むらしいな。一瞬どうしたものかと考えていると、肩を叩かれた。オルフェである。
「星矢は僕が引き受けよう」
「いいのか?」
「ああ。アイオロス殿とのやり取りを見ていた限り、君は
「……すまない」
「どうということはない。事情は聞かないが、迷っている間に星矢も行ってしまうしな」
そう言って気負いなく笑い自分の役目として星矢を追う事を引き受けてくれたオルフェは、竪琴を華麗に奏でる。
…………うむ。星矢を追いかけるためにデスマスクと紫龍の前を通り抜けねばならないからな……。一度デストリップセレナーデで彼らの意識を奪う必要があるのは分かる。分かるが、一触即発のところを即気絶させられいびきをかくデスマスクと紫龍の間を悠々と抜けていくオルフェの姿がシュールだ。
しかもお前、さりげなくデスマスクの頭を蹴っていったな? オルフェが黄金をもしのぐ可能性のある伝説の聖闘士と呼ばれるようになった要因の一つに、このデスマスクを……オルフェと恋人のユリティースを馬鹿にしたデスマスクを完封してみせたというものがあるのだが、まだ根に持っていたのか。愛するものを貶された怒りは理解できるが、う~む。…………とりあえず、オルフェは怒らせないようにしておこう。
いやそれにしても、初手を許せばオルフェの奴、最強なのではないか? そして便利だ。心底味方に引き込めてよかったと、つくづく思い知らされる。
ともあれ、オルフェが去った後に目を覚ましたデスマスクと紫龍の戦いである。デスマスクが「一瞬忌々しい琴が聞こえた気が……いや気のせいか」などと言っていたのでひやっとしたが、私が寝転がっていた二人をもとの戦闘体勢に戻していたこともあって気づかれなかったようだ。……ちなみに今日二回目の作業のため、手慣れたものである。
そして二人の戦いであるが、私としてはあとあとデスマスクのやつを辱めてやろうと聖衣に見放される瞬間を写真に撮ろうと思っていたのだが……。戦いは予想外にも、この巨蟹宮でなく積尸気でのものとなった。
蟹星座の散開星団プレセべは中国では"積尸気"と呼ばれ、それは死体から立ち上る鬼火の
更には積尸気に存在する
紫龍はまず一度、その技を受けた。だが沙織ちゃんが「今度こそ、ここはわたしに任せてください!」と胸を張って言うなり紫龍の魂に語り掛けてその魂を体に引き戻す。……どうやらここにきて、女神としての覚醒が更に進んでいるようだな。いともたやすく魂への干渉をやってのけてしまった。
その後紫龍に警戒したデスマスクは、二度目の積尸気冥界波で紫龍を積尸気に送った後自らそこへ赴いて止めを刺すことに決めたようだ。ちなみにデスマスクの方は自在に現世と積尸気を行き来できるため、紫龍のように魂だけでなく生身での積尸気入りである。
こうなってしまうと私も魂で追うしかなくなるためカメラなど持参できようもない。……いや、やりようによっては生身でも行けなくはないが、何度か積尸気に落とされた経験を顧みれば逆に魂だけの方が動きやすいのだ。嫌な経験が活きるな。
「
「ではわたしも……」
「いえ、ここでお待ちください。ただでさえお一人にするのは不本意だというのに、魂が抜けた状態で残すのは流石に不安です。出来るだけ早く戻りますが、何かあればすぐお逃げください」
「……わかりました。ですが、積尸気まではわたしが送りましょう」
「! それは、助かります」
彼女の申し出はありがたく受けることにする。紫龍の体と魂を繋ぐ小宇宙を追えば自力でなんとか行けるだろうが、神である
そして沙織ちゃんの小宇宙に送り届けてもらい積尸気に辿りついたわけだが、ちょうどデスマスクが紫龍を黄泉平坂まで引きずっている場面だった。どうやら紫龍は現実世界で受けた肉体的なダメージと、冥界波による気力の消耗で思うように体を動かせないようだな。私もその後を気づかれぬようついてゆく。
そしていよいよ黄泉平坂に落とされそうになった場面で、デスマスクの動きを阻害するかのように強力な思念が入り込んできた。
(これは、五老峰の……!)
思念は老師が赤子の時に山で拾って育てたという、紫龍の幼馴染である少女が紫龍の無事を祈るもの。強い祈りがこの黄泉平坂まで届き、紫龍を守護しているのだ!
だがその奇跡も鍛え上げられた黄金の前では無意味。逆にその思念をたどり、デスマスクの攻撃的小宇宙が少女を襲う。思わずそれを邪魔しそうになるが、そんな私を新たに飛び込んできた思念が止めた。
『こちらは大丈夫じゃ! ワシがいる! デスマスクにはあとでたっぷり灸を据えてやるゆえ、おぬしは奴を死なせぬため尽力しろ!』
『! わかりました!』
老師だ。……当然か。可愛い孫のような少女を老師がみすみす死なせるような真似はすまい。
それより問題は、龍の逆鱗を踏んだデスマスクだ。……春麗が死んだと思い込んだ紫龍の小宇宙が、その怒りによって一気に燃え上がる。そこからは形勢逆転、紫龍が押し始めた。
しかしその猛攻もデスマスクが纏う黄金の鎧によって防がれる。やはり硬いな、黄金聖衣は。記憶のせいでよく破壊されるイメージがあるが、普通はそう簡単に破壊されるような代物ではない。
「この蟹座の聖衣を纏っている限り、お前が何千何万発の拳を繰り出そうと俺に止めを刺すことは不可能なのだ!」
そんな事を意気揚々と言って紫龍をふっとばすデスマスクだが……お前それ、聖衣が無ければ負けていたと自ら認めたようなものだぞ。
しかし実際鎧の防御は高い壁だ。紫龍は黄泉平坂に追い詰められ、危うく落ちそうになる。すでに私がそばに控えているためもし落ちそうになっても完全に落ちる前なら念力で引き上げてやれるが、なかなか肝が冷えるな……。
デスマスクの宮に
「な……な、なにぃ!? うぎゃあああ、馬鹿なぁ! 黄金聖衣のフットが自然に外れるとはー!?」
黄金聖衣に見放されるのは、「行き過ぎだからちょっと頭冷やせ」っていう冷静な聖衣の判断なのではなかろうか。
紫龍を穴に落とそうと踏んでいたデスマスクの足のパーツがはずれ、紫龍の手刀によって骨折し後ろに転げるデスマスク。次いで腕、全身と聖衣のパーツがデスマスクの体からはじけ飛ぶ。
「うびゃあ!?」
(くっ! これを写真に収めておきたかった……!)
聖衣が脱げ、半裸になるデスマスク。なかなか間抜けな姿であるだけに、カメラを持ってこられなかったのが悔やまれる。
にしても、あいつ聖衣の下の上半身は裸なのか……。着心地悪くないか?
「終わりだな、デスマスク! おそらくこれは聖衣の意志……。お前の悪の心に、聖衣がお前を黄金聖闘士だと認めなくなったのだ! 聖衣がない今、お前は丸裸同然!」
うむ……実際下履き以外裸だしな……。
「こ、こんなことが! ば、馬鹿な……!」
「オレはお前を許すわけにはいかない! この場で倒す! ……しかしいくら悪とはいえ、そんな無防備な相手に手を下すなどこの紫龍の誇りが許さない!」
そう言って、紫龍も聖衣を脱いだ。……以前も銀河戦争で見たには見たが、こいつも上半身裸か……。最近の若者の流行りだろうか。
ともあれ、これで勝負は純粋な小宇宙での戦いとなる。だがデスマスクよ、「自分に勝てる唯一のチャンスを無にした」とは言うが現状小宇宙の高まりで勝っているのは紫龍だぞ?
そして案の定というか、小宇宙を一時的にでも黄金以上に高めて見せた紫龍の廬山昇龍覇が決まりデスマスクの体は宙に舞った。誰がどう見ても、紫龍の完全勝利である。
(よし! よくやった! それでこそシュラの未来の弟子だ!!)
私は思わずガッツポーズを決めるが、デスマスクに死なれては困るので完全に穴に落ちていく前に念力でそれを止めると紫龍に見えないように穴の側面にデスマスクをへばりつけた。「へばぅっ!?」という声がした気がしたが、気にしてなどいられない。命が助かっただけましだと考え、せいぜいお前の宮の
とはいえ、多少慣れてるとはいえここでは私も制限をうける。まして魂のみという、むき出しの状態ではな。
……下手をしたら私まで穴に引きずられる。早く戻らねば。
私は紫龍の魂が体に戻ったことを確認した後、すぐに穴からデスマスクを引っ張り上げた。
「ぐ……く……!? き、貴様は……リュ」
「話は戻ってからだ」
もう敬語で取り繕う必要も無かろうと、ぞんざいに答えてからデスマスクを連れて
そこで戻ってから最初にデスマスクを襲ったのは、神の小宇宙を纏った沙織ちゃんの平手だった。
「あじゃぱァーッ!?」
「!?」
あまりにも突然すぎて私までも言葉を失っていると、沙織ちゃんがにっこりと笑いかけてくる。しかし次いでデスマスクに向けた瞳に宿る色は厳しい。……紫龍はもう先に進んだようだが、この音を聞きつけて戻ってきてはくれるなよ。
「今の戦い、全て見ていました。……デスマスクよ。あなたは力こそ正義であると信じ、教皇を悪と知りながらも彼についたのでしたね? ですが無力な相手や健気に祈りを捧げる少女にまで力を振るうのが正義であるというならば、わたしはそれを見過ごせません」
デスマスクについては、聖域に来る前に紫龍から多少話を聞いていたのだろう。老師を襲撃した際、奴が何か言っていたらしいからな。私は察してはいたものの、奴の口から直接教皇が悪と知りながらも従っていると聞いたことはない。
それにしても……。
「ですが言葉でいくら言おうとあなたのような方は納得しないでしょう。ならばこのわたし、
「女神よ。雄々しいのは結構なことですが……デスマスクは今の一撃で気絶しております」
「え? ……………………え?」
いや、そんなキョトンとされても。
「このままだと死んでしまうので、回復処理を施しても……?」
「え、ええ……。お願いします……。でも、今ので? 紫龍の一撃は、本当に強力なものだったのですね……」
感心したように頷く沙織ちゃんだったが、それは半分正解で半分不正解だ。
紫龍渾身の廬山昇龍覇で瀕死のところを、さらに神の小宇宙によって吹き飛ばされたデスマスク。沙織ちゃんとしてはまだ自分の小宇宙の覚醒具合を自覚していないのだろうが……。神の平手はさぞ痛かったことだろう。
私は体をぴくぴく痙攣させているデスマスクに、なんとも言えない気持ちで回復を施すのだった。
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一方、瞬と氷河を見守るために双児宮に残ったアイオロスだったが……。
「貴様は……!? 馬鹿な、お前は、死んだはず……!」
(……う~む……しまった……。氷河を異次元から十二宮に戻してやるまでは良かったんだが……)
何故か教皇の間で、偽教皇サガと対峙していた。
最初に書いたあとがきはアナザーディメンションされました