お父さんになったら部屋にサーヴァントが来るようになったんだが   作:きりがる

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11 『私のことは親しみを込めてナビさんと呼んでください』

 エロゲ主人公にでもいそうなイケメンに飯を貰い、のそりのそりとゆっくりした動きで匙を動かしてお粥を食べる。暖かなお粥を飲み込めば、胃が暖かくなったかのような感覚に、ホッとするかのよう。作るのが簡単そうに見えて難しいお粥でもあのイケメンの手にかかれば何段階も進化してお届けできるということだろうか。こんな美味いの初めて食べた。

 

 薬味を入れて味を変えながら食べれば様々なバリエーションを感じれることもあって、匙は止まらない。

 

 そんな病人、又は老人のように食べている俺の前にはあの最強と言われた、

 

「なにか言いましたか?」

 

 …とてもかわいいマスターちゃんとキリエライトが座って二人でオムライスを食べている。話がしたいと言われたが、別に俺達の間に話すこともなければ、疲れ切っている俺に話すことなどなにもない。

 

 まさか、ジャックお父さん事件のことや部屋にサーヴァントが来ることがバレたわけでもないだろうし……バレれば速攻でコンタクトを取りに来たはずである。

 

「それで、話というのはなんでしょうか……」

 

「あー…お話ですね、えっと…別に話すことはなかったり…」

 

「なら何故?」

 

「いや、マシュがいたし……マシュはなんかある?」

 

「そうですね…では、フォウさんがなぜあそこまで懐いていたのかお聞きしてもよろしいですか?」

 

「あれは俺のモフテクが凄まじかったからなので…」

 

「モフテク…ですか」

 

 キリエライトがそうつぶやきながら俺の手をじっと見つめているが、なんなのだろうか、撫でてほしいの? セクハラで訴えられそうだからやらないぞ。

 

 というか、マスターちゃんの後ろにいる緑色を基調とした美少女が扇子で口元を隠しながら凄い見てくるのだが、あれはなんなのだろうか…めちゃくちゃ怖いんですが。向こうも俺が見ていると気づいたのか、扇子を横にずらし、口パクで何かを伝えてくる。なになに…

 

 

 

 ま す た ぁ に ち か づ く な

 

 

 も や し ま す よ

 

 

 

 速攻で目を逸らした。おい、マスターちゃんの背後にトンデモナイヤンデレセコム少女がいるんだが! あれ下手したら俺焼き殺されちまうぞ!

 

「なんかここ、暑いねー」

 

 後ろに答えがある。体や口からチロチロと炎が蛇のように漏れ出ているのだが、暑さは熱さの間違いだろう。

 話すことがないと言いながら俺に話しかけてくるマスターちゃんに相槌や受け答えしているのだが、後ろの目が爬虫類のヤンデレ少女が怖くて何言っていいのかわからんし、何言っているのかもわからない状態である。疲れているのに更に疲れているっていう…。

 

 キリエライトは慣れているのだろうか。疲れ切っている俺の横でマスターちゃんと普通にお話している。なんならキリエライトのときだけ何も反応せずに俺に殺気を放ち続けている。

 

『殺気を検知。マスターに対する敵対行動とみなします。対象を敵対する者と登録。害獣の排除を開始します。迎撃プログラム―――1582万6666個のスキルにより殲滅―――承認。スタート………マスターに仇なす害獣、魂ごと消え去りなさい』

 

 あ、ちょ、まっ……アッ!(セーフ)

 

 うちのセコムもとんでもない事しようとしているので宥めるのに内心は大忙しだった。それにしても迎撃プログラムが多いのだが、俺の知らないところでスキルが量産されているのだろうか…なんなの?俺のセコムって安心院さんなの?ナビは実は西尾維新作品からやってきたの? 承認ってどこに申請したんですか。

 

 そろそろ俺の飯が終わりそうであり、いつの間にか俺の周り……否、マスターちゃんの周りにはヤンデレ少女以外の他のサーヴァントが集まっているようで、騒がしいことこの上ない。何人かは俺に話しかけてこようとしていたが、げっそりとした顔に話しかけるなオーラでなんとかなってしまった。いや、これは俺だけではなくて今回の仕事に関わったスタッフ全員に言えるだろう。

 

 さっさと帰って寝て、ゲームしよう。

 そう決めて立ち上がり、空になった食器の乗った黒塗りの盆を持とうとしたところで、横から俺の手よりも小さな女性の手が伸びて盆を持った。なんぞや。

 

 手の持ち主を見るために顔を上げてみれば、輝くような金髪を持った美女が優しく微笑んでいた。まさしく、聖女…あぁ…ついにお迎えが……。

 

『ふー…落ち着きました。彼女の名はジャンヌ・ダルク。彼女は正真正銘、聖女です』

 

 ガチの聖女だった。

 

「とてもお疲れのようですので、私が代わりに持っていきましょう」

 

 これは聖女ですわ。

 

 疲れている他人を見て代わりに自分がやってやろうと思って行動できる人が、現代では一体何人いるだろうか。そんなもの二次元だけだろう。つまり、ここは二次元になるということでは……。

 

 しかし、流石にそれは悪いので、遠慮しようという日本人らしさが出て来て……あ、俺、日本人じゃねえわ。

 

「……いえ、流石にそれは申し訳ないので、自分で持っていきます」

 

「そんな、別に遠慮なさらなくてもいいんですよ? 今回の修理だって、貴方方は不眠不休で私達はすることがないから休みだったんです。せめて、できることでお助けしたいんです」

 

「ダイジョブダイジョブ…帰ってゲーム三昧突入するくらいには元気ダカラ……」

 

「それでは、持っていきますねー」

 

「やだ、強引なところがイケメン…!」

 

 とんでもない美女が聖女でイケメンだった件。アリガトゴザイマス…と片言でお礼を言いながら、揺れる長い三つ編みを見送る。

 

 ジャンヌ・ダルクか…そういえば、彼女は聖女としては確かに有名だが、他にも有名な理由があったな。

 看護といえばナイチンゲールだが、リハビリテーションといえば、そう、ジャンヌ・ダルクだったりする。リハビリテーションは「全人間的復権」であり、リ:再び、ハビリテーション:適したもの/ふさわしいものにする、からくる。魔女から再び人間らしく、聖女らしく……回復したと。

 

 ジャンヌ・ダルクの死後、裁判によりローマ教皇がジャンヌ・ダルクを無罪と判決を下し、そこからリハビリテーションという言葉が初めて使われたらしい。

 こうして認められたことからジャンヌ・ダルクの権利の回復、名誉の回復…つまり、リハビリテーションの語源はジャンヌ・ダルクと強い関係があると言ってもいいのだ。

 

 確かね。そうだった気がするんだよね。うろ覚えだよね。何年も前の記憶だからね、仕方ないね。

 

 聖女以外にもこうやって有名要素があるのだから凄いものである。それがたとえ死後だったとしてもだ。偉人は死後に認められること多くない?

 

 それよりも持っていってくれるのであればそれはそれで有り難いので、俺は御暇することにした。ふらりと自室に向けて歩みを進めれば、やがて食堂の喧騒も薄れていき、一人靴で床を鳴らす音だけが響く。

 

 そういえば食堂にはジャックが居なかったが、俺の部屋にでもいるのだろうか。我が娘の行動範囲は大体、食堂かお母さんのところか俺の部屋でゲームであり、割合的には俺の部屋が一番多いのだ。

 

 先程のマスターちゃんとの邂逅では俺のことをジャックのお父さんだと微塵も思っていないような感じではあった。ジャックのお父さん事件も思えばそこそこ前の話だし、そろそろ収まって調べるやつも居なくなってきたのだろう。数多といるサーヴァントでジャックだけをずっと行動を把握し続けるのも無理に近い。

 

 まあ、バレなければバレないで俺には有り難いし…

 

「あっ! おとうさん、おかえり! お疲れさまー」

 

「ただいま、ジャック。ほんと、疲れたぜ…」

 

 こうしてジャックの可愛らしい笑顔を独り占めできるし、癒やされることができるのでこのままでいい。

 

 部屋についた俺が扉を開ければ、俺に気づいたジャックが直ぐ様顔をこちらに向けて、確りと一時停止したあとにコントローラーを放り投げて駆けつけてくる。俺が疲れているというのを知っているのでいつものように飛びついてくるのではなく、近くまで駆け寄ってきてからそっと抱きついてきた。

 

 きゅっと力を込めて俺の腰に抱きつき、ふにゃりと緩めた表情で見上げてくる。これだけで本当に疲れが吹き飛ぶかのような気分だった。

 柔らかで温かい体に俺も抱きしめ返しながら部屋の中に入る。

 

「ジャック、俺は3日も風呂入ってないから臭いぞ」

 

「んーん、おとうさんの匂いがする…わたしたちはこの匂いは大好きだから、全然臭くないよ!」

 

 グリグリと額を俺の胸に擦り付け、小さな鼻でくんくんと匂いを嗅いでいるが、そうは言っても俺が自分の匂いを臭いと思っているから嫌なのだ。それに汚い。

 

「ほら、離れなさい。臭くなくても汚いから。シャワー浴びてくる」

 

「じゃあわたしたちも一緒に入る!」

 

「例え娘でも疲れ切った俺の理性では耐えられないので駄目です」

 

「えー」

 

「えーじゃないの。ほら、ゲームの続きでもしてな」

 

「はーい」

 

 ジャックが駄目ソファに身を沈めるのを背後に着替えの服を持ってシャワールームへ。中の鏡を見てみれば、心なしか銀髪がくすんで見えるような見えないような…。まさか、年…?

 

『ご安心ください。色に変わりはありません』

 

 一安心である。この歳で老けたとか言われたらショックで髪を切るところであった。

 男のシャワーなんて誰得であるので15分程度でささっと終わらせて、髪を拭きながら部屋に戻れば、そこにはジャックだけでなく沖田もいつの間にかベッドに座って俺の漫画を読んでいた。

 

 このシャワーの間にこいつもやってきたのだろう。食堂で目はあったし、俺のことを見ていたので来てもおかしくはないと思っていたが本当に来るとは…いつものことである。

 

「あ、おかえりなさい、アルンさん。食堂で見てましたよー。凄いお疲れのようで」

 

「ああ、疲れた。眠い」

 

 ボスンと沖田の横のスペースに座る。このまま倒れ込んで寝てしまいたい欲求があるが、濡れた髪のままでは風邪を引くかもしれないし、ベッドが濡れるし、寝癖になるしでいいことはない。しかし、眠い、眠いのだ。この眠気が何事にも勝る状況でやらなければいけないと思っていてもできるやつはいるのだろうか。俺には無理だ。

 

 寝るしかねえんだよなぁ。

 

 諦めて後ろに倒れ込もうと、力を抜いて背を後ろに倒そうとしたのだが、

 

「おっと。寝るにはまだ早いですよっと」

 

 沖田に片腕で抱きとめられ、寝れなかった。なに。お前は俺に寝るなといいたいのか。

 

「このおにちく……」

 

「鬼畜じゃないです沖田ですー。それより髪を乾かしてから寝てください。髪が痛みますよ」

 

「濡れるからとかじゃねえのか……いいよもう、傷んでも気にしないし。男だし」

 

「駄目です! 風邪引くじゃないですか!」

 

「だがな、腕一本動かせないんだ……誠に残念ながら、今回はここまでとさせていただき…」

 

「断念しないでください。動かしたくないだけの間違いでしょうに。よーし、わかりました、私が乾かしてあげましょう! ドライヤー持ってくるので寝ないで座っててくださいね」

 

 諦めるという選択肢は? 

 シャワールームに置いてあるドライヤーを取りに沖田が小走りでベッドから離れていき、直ぐに出てきてコンセントにさしたかと思うとベッドに飛び乗って俺の後ろに回り込む。ぎしりと軋むベッドに体が軽く揺れた。

 

 ドライヤーの駆動音に温風。髪を通る櫛は俺のものではないので沖田自身が持っていたものだろう。

 それにしても、ドライヤーなんて電化製品がない時代の人間がこうも当たり前のように使いこなしているのだから、なんとも不思議なものだ。聖杯が知識を与えているらしいが、その学習機能は凄い。ポケモンにも仲間に経験値を分け与えるのではなく、こうやって一気に学習させれば楽なのに…。俺、全体的に育てるの苦手なのだ。一体二体を最強に育て上げ、相性なんて関係なく勝ち進むタイプ。一体だけでチャンピオンになるなんてザラである。あとは秘伝要員。

 

「むむむ…これで何も手入れとかしてないんですもんね…羨ましいくらいにサラサラ…」

 

「面倒いし、切りたいんだけどな。そういう沖田こそ、お前でも髪とか気を使うのか?」

 

「失敬な、これでも立派に女の子してますからね。髪の手入れだって気にしますよ」

 

「ああ、やっぱり? まあ、見ればわかるさ。こんなにも綺麗なんだ、俺と比べるまでもないだろう」

 

 未だに俺の髪を乾かしている沖田に向くように首を少しばかり後ろに傾け、膝立ちの沖田を少しばかり見上げるようにしながら左手を彼女の髪に差し込むように伸ばす。サラリとした髪質に指は引っかかることもなく、抵抗なく髪が指の間を流れていく。

 

 たったこれだけなのにドライヤーから出てくる温風に乗って沖田の香りが流れてきた。コンディショナーなのか沖田自身なのかわからないが、男には縁のない香りだろう。

 

 唐突に髪を触られたのに驚いたのか、暫し呆然としたと思ったら顔を赤くして左手で俺の顔を前に向かせてきた。駆動音の中に小さく「あ、ありがとうございます…」と声が聞こえてくる。同時にジャックの操っていた兵士が死んだ。

 

「あーあ、やっちゃった……」

 

 ジャックが小さく呟き、再び挑戦。そこは手榴弾ブッパでゴリ押し戦法やで。

 

 こののんびりした雰囲気に空間…疲労が蓄積された俺には眠気を助長させるかのようであり、それに加え、沖田の優しく触ってくる感触に本当に眠くなってくる。キューティクル探偵の言ってたことは本当だったんだ…頭触られると眠くなるのね…。

 




 少し前に友人とカラオケに行って二人で歌いながらガチャってた。何度10連しても星4キャラすら出ない。
 カーマ狙って死にまくり、春うららの連続。ああ、春だからか………。
 頭が春どころか冬で草すら生えていない荒野のようになりそうだった。

 また10連。

「おいおい、勘弁してくれ…また、うららったぞ」

「また? あ、俺もうららった」

 既に二人の間では爆死のことを「うららった」と言うほどであった。
 ならば、10連が無理なら単発の連続でどうだ。

 出ない。それもそうだ。なにせ課金せずに貯めていた石で行っているのだから。限界がある。
 しかし、それでも10連×10回の合計100連はした。無課金たる脆弱な兵では駄目だというのか。カーマとパールヴァティーどころか星4キャラすら出ないではないか。
 とはいえ、よくあることだ。あぁ、神よ。我を見捨て給うたのか。

 石は既に尽きかけ、残り7個。

 まだ、終わっていない。

 撃鉄と言う名の指を起こし、引き金というボタンをタップする。

 うららった。

 泣いても笑ってもこれで最後である。さあ、行こう。まだ見ぬ勝利の果てを撃ち抜くのだと。そう言って、終わりを始めた。

 線は三本。サーヴァントだ。しかし、金色にすらなっていない。やはり、駄目か……。

 だが、諦めかけたその時ッ!!

 バチバチと鳴り響き、金に染まっていく眼の前の最後の希望ッ。やはり、私はまだ終わってはいなかったのだッ!

 今はもう、激しい喜び(星5)はいらない。そのかわり深い絶望(二枚目等)はいらない。持っていない可愛いキャラよ、来い。それだけだった。

 二人して食い入るように見つめる。もう、うららることはない。
 カラン…グラスの中の氷が鳴り、ストローが円を描く。

 来た……これは……!!

「……ジャックが……ジャックが出たぞーーッ!!!」

 神はまだ、私のことを見捨てていなかったのだ!!
 ついに、私が書いている作品のメインとも言えるジャックが、娘が出たのだ! 持っていなかった私は大興奮してしまった。これは流石に仕方ないと言えるだろう。うららってばかりであったのに、最後の最後で来てくれたのだから。

 なぜ、今ここで?と思わないでもなかったが、それは直ぐに頭の中から消え去った。
 石は使い果たした。残り、1個。カーマは出なかったが、私はやり遂げたのだ。呼符二枚で少し前の紫式部二枚抜きよりも嬉しかった。

 ああ、ついにお迎えすることが出来たのか。ふっ……こんなにも嬉しいのに、心はまるで波一つ無く満月を浮かべる水平線のように穏やかだった。

 これで今夜も…くつろいで熟睡できるな。
 
 まさにそんな気分の一夜であった。

 

 ようこそ、ジャック。

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