ゾロの幼馴染ちゃんが頭突きで階段を叩き割るお話

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シモツキ村の大天使

「やーっ」

 

 竹刀を振り下ろすと、そのまま緑の芝生に突き刺さる。

 心地良い打撃音が鳴り響き、続いてカエルが潰れたような声がする。ぶるぶると体を震わせながら、頭に芝生を生やした少年は地面に倒れた。

 

「勝者くいな! 二刀流のゾロの敗け」

 

 また勝ってしまった。

 やはり私は天才すぎるのかもしれない。この芝生頭のゾロは道場で一番強い。大人も入れて一番だ。

 そんなゾロに私は全戦全勝である。数えている訳では無いが、モブ男くんが言うには遂に二〇〇〇勝を記録してしまったらしい。

 

「くそォ! また敗けた!!」

 

 ゾロは地団駄を踏んで悔しがっている。

 ふむ……ここは一つお姉さんである私がフォローをしてあげよう。正直どうでもいいが、門下生である以上は、パパの弟子の一人という事になる。

 私は満面の笑みを浮かべて近づくと、ゾロの肩を優しく叩いた。振り返る仏頂面の少年に、私は柔らかい声音で淡々と事実を教えてあげるのだ。

 

「どんまい。ゾロが弱いんじゃない。私が強すぎるだけよ」

「くそォ! こんな奴に!!」

 

 ゾロは顔を真っ赤にして、竹刀を地面に投げ捨てた。

 この子は素直に悔しがってくれるから面白い。ただキッチンの油汚れ並みにしつこい所がある。きっとまたもう一勝負と言い出すだろう。

 

「おい、くいな! もう一回だ! もう一回勝負しろっ!!」

 

 やっぱり。

 

「えー……まだやるつもりなの? 無理だよ、無理。せめてもう少し強くなってから来なさい」

 

 そう言って私は竹刀を片付ける。

 

「待てッ! くいな! 逃げるのかッ!?」

「剣士たるもの引き際を弁えているものだよ、ロロノアくん。しかし……場合によっては、考えてあげても良い」

「て、てめエ……!」

 

 私が意味ありげな視線を送ると、ゾロはふるふると震えだした。

 相変わらず震えるのが大好きな奴だ。さらに言えば常に怒鳴ってるし、簡単にブチ切れる。エネルギーを無駄に消費する事にかけて、ゾロの右に出る者はいないだろう。

 

「分かった! おれに勝ったらみたらし団子を奢ってやる!!」

「よしよし、何串?」

「な、何串!? 一串に決まってんだろ!」

「あー……お腹が痛くなってきた。これでは刀をふるうことはできないなあ」

「このクソ女……!」

 

 普段なら一串で妥協するのだが、残念ながら今までとは事情が違うのだ。

 現在私は任されていた道場の掃除を男子に押し付けていた事がパパにバレてしまって、地獄のお説教を受けた上で一週間おやつ抜きにされてしまっている。

 圧倒的に糖分が足りない。五大栄養素の筆頭であらせられる糖分様が不足している状態では、まともに剣を振るう事が出来ないのは必定。つまりこれは正当な要求なのである。

 

「分かった……! 勝ったらみたらし団子二串だ!」

「えー……一串増えただけじゃん、しょぼ……。だから剣の腕もみみっちいんだよ」

「ンだと! てめエ!!」

 

 まあ、ゾロのお財布事情も分かっている。

 子供にとってはみたらし団子は一串でも安くはない。シモツキ村の天使と名高いくいなちゃんは、慈愛の心で吝嗇家であるゾロを許してあげる事にするのだった。

 

「まあ、良いわ。特別に許してあげる」

「……ぶった斬ってやる」

 

 ゾロから凄まじい闘気を感じる。

 私がスペシャルチョコレートサンデーを前にした時の状態によく似ている。つまりかなり本気だと言う事だ。

 とりあえず片付けた竹刀を取りに戻らなくてはならない。私がくるりと反転して背を向けると、何故かゾロに呼び止められた。

 

「待て!」

「何……? 竹刀を取りに戻るだけよ。逃げたりしないわ」

「違う! くいな、真剣で勝負だ!!」

「……はあ?」

 

 真剣?

 正直面倒だと思う。だが、面白い提案だとも思った。

 天才剣士のくいなちゃんは試合ではゾロに圧勝しているが、全てにおいて勝っているという訳では無い。

 唯一にして絶対に敵わない点もある。それは筋力だ。

 女である以上は、男よりも筋力がどうしても劣る。それは仕方がない事である。生まれを嘆いても時間の無駄なので、それ以外の長所で勝負するべきと割り切っている。

 

 ただ真剣は重い。

 木刀の約三倍は重くて大体一五○○グラム前後だ。棒状の先端を握るので負荷はさらに大きくなる上に、振り回せば遠心力も追加される。つまり真剣を使いこなすには、かなりの筋力が必要という事だ。

 

 当然だが武器が重ければ重い程、筋力のある方が有利になる。

 仮に蝶と馬が同じ速さで移動出来たとしても、同じ一キログラムの重りをつければ結果は明らかだ。馬には一キログラムの重りなど大した意味をなさないが、蝶はその場から移動する事すら出来なくなってしまうだろう。

 つまり真剣とは筋力のある男が有利な勝負なのである。

 

「まあ、良いけど……。真剣だろうが結果は変わらないからね。ご馳走になりまーす」

「うるせえ! やってみなくちゃ分かんねエだろうが!」

 

 とは言えゾロが有利かと聞かれれば微妙な所だ。

 彼は二刀流なのでいくら私以上の筋力があっても負担はそれ以上に増える。さらに刀の差もある。ゾロは道場に置いてある真剣を借りているが、私はパパから貰った名刀――和道一文字を使う。

 良い刀は空気の斬れる感触からして違うので、寸止め試合でも試合の勝敗に直結してくる。まあ、そこら辺はゾロも分かっているだろう。

 ゾロが真剣勝負を望むのは優位性を考えてでは無く、なるべく実戦に近い試合形式で戦いたいという意気込みからの筈だ。

 

「――ってどこ行くんだよ! くいな!」

「いや、勝負はもうちょっと暗くなってからね。大丈夫だと思うけど、パパにばれると怖いし……」

「あんな奴が怖いのかよ!」

「怖い。あ、そだ。先にみたらし団子貰ってもいい?」

「駄目に決まってんだろ! 馬鹿にしてんのかッ!!」

「どうせ私が勝つのに……」

「ふざけやがって……!」

 

 ゾロの凄まじい歯ぎしりの音を聞きながら私は道場を後にした。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「おせえぞ! くいな!」

 

 私が近所の子供好きお婆ちゃんからお菓子を強請るツアーから戻ると、ゾロが訓練場の前で待ち構えていた。正確にはちらちらと街の方を気にしながら素振りをしていた。

 

「ふむ……出迎え、ご苦労」

「何様だ! てめエは!」

「まあまあ、落ち着きたまへ。あ、一文字ちゃん取って来るから待っててちょーだい」

 

 私が家に向かって駆け出すと、背後から怒鳴り声が聞こえた。

 構っても時間の無駄なので、ゾロは無視してちゃっちゃと和道一文字を探す。幸い今日は満月だ。家の中も月明りに照らされていたので、すぐに私の部屋まで辿り着いた。

 

 和道一文字を手に取って再び外に出る。

 するとゾロが静かになっていた。満月を背にして二刀を構えている。なんとなく絵になってるような雰囲気なのがムカついた。なので歌う。

 

「み~たらしだんごを~、ゴ~チになります~~~♪」

「調子乗ってんじゃねエぞ!」

 

 よしよし、ゾロはこうじゃないとな。

 私は安堵の息を吐き出すと、和道一文字を鞘から抜き放つ。刀身は月光を反射して、白銀に煌めいた。有象無象とは違う名刀の輝きがそこにはあった。

 

「行くぞ」

 

 私の準備が出来たと見ると、ゾロが右手の刀を上段に構えながら確認してきた。

 

「来い!」

 

 それに対して私は小さく首肯する。

 中段の構え。弛んだ糸がピンと張られるような感覚が訪れる。

 周囲の景色が広がるが、意識は薄くなっていく。ゾロだけがハッキリと輪郭を保つ世界の中で、心臓の音だけが煩い程に高鳴っていた。

 

 先に動いたのはゾロだった。

 上段から力強い一撃が振り下ろされる。私は腕を折り畳み、刀を水平にして迎え撃つ。

 上空から降ってきた衝撃を受け止めて、体を左にずらし刀を滑らしていく。

 ゾロが身を引いて、刀の射程から逃れた。それで良い。軌道を無理やり変えて、右手の刀に叩きつける。甲高い金属音が鳴った。

 

 ゾロの右手は外側に弾かれた。

 けれど左手の刀が弧を描いて迫っている。左足に力を入れて、右足を下げる。思い切り上空に飛ばすように刀を弾いた。刀はゾロの左手から離れると、円を描きながら空を舞う。その事を意識の端で認識しながら正面に向き直る。

 

 ゾロが強引に右手を戻そうとしているのが分かった。

 けれどもうお終いだ。迎え撃つように上段から刀を叩きつける。右手の刀は地面を滑るように転がる。

 衝撃で体勢を崩したゾロに迫って地面に押し倒す。そして彼の首元を掠めるようにして、和道一文字を地面に突き刺した。

 

「私の……二○○一勝目ね」

 

 大きく息を吐き出して、呼吸を整える。そして私は勝利を告げた。

 

「……ッ」

 

 真下にあるゾロの顔が敗北を自覚して悔し気な表情に変わる。

 ゾロは顔面をくしゃくしゃに歪めると、右手で上部分を覆った。今見えているのは、悔し気に噛みしめている歯だけだ。

 

「畜生ォ……!」

 

 泣き声だった。

 普段泣かないゾロが泣いている。

 その事に驚いた。今まで積もり積もったものが溢れたのか。それとも真剣での勝負に、それほどの覚悟を賭けていたのか。もしくは今は門下生が誰もいなくて、二人きりだから油断したのだろうか。

 

 もしかしたら夜だからかもしれない。

 今は夜中とも言える時間帯だ。多少泣いても分かりはしない。その考えがゾロの弱音を引き出してしまったとは考えられないだろうか。

 実際には暗さに目が慣れているし、満月なので割と良く見えているのだが。

 

「くやしい……!」

 

 私がゾロの心境を勝手に推測していると、ゾロが再び震え声で喋り出す。

 これは年長として慰めなければいけない場面なのだろうか? 正直ゾロが泣きだすなんて想像していなかったので、何と声を掛けたらいいのか分からない。

 私は考えた。考えに考えに考え抜いて――そしてためらいがちに口を開いた。

 

「ゾロ」

「……なんだよ、くいな」

 

 ゾロは右手の隙間から私を一瞥する。

 私はゾロの元に近寄ると視線を合わせるようにしゃがみ込む。そして両掌を上にしてゾロに向かって差し出しながら告げた。

 

「はやくみたらし団子ぷりーず」

「…………鬼か。てめエは」

 

 鬼では無い。シモツキ村の大天使くいなちゃんである。

 

 

 

 

 その後、深夜では当然お店がやってないのでみたらし団子は翌日という話になった。

 その事に不満があったし、少しばかりゾロの事も気になっていたので寝不足だ。そのせいで欠伸をしながら階段を降りていると、足を踏み外して思い切り転倒してしまった。

 

 大きな瘤が出来た上に、階段の一部が破損した。

 恐るべき私の石頭である。しかしこれは間違いなくパパが、お怒りになる案件だ。私は諸悪の根源であるゾロを呪いながら、必死で言い訳を考えるのであった。

 




■くいなちゃん

作者によってチート魔改造されそうになったが、結局中途半端な改造に終わった不憫な子。
ゾロの甘味嫌いという設定のおかげで、甘味好きという念願の女の子属性を手に入れる。お気楽かつ適当な性格のせいで、女である事は気にしてない。
世界一の大剣豪になってもいいかなーと思ってる。


■ロロノア・ゾロ

くいなちゃんが死なないので二刀流のままの不憫な子。
親友がうじうじしてないので約束をする事もない。おかげで麦わら海賊団にあるまじきパッとしない過去を持つキャラクターに。
くいなちゃんの件が無いので、女性だからという理由で手心を加えたりはあんまりしない。むしろ心のどこかで女はヤベー奴だと思ってる。


■コウシロウ

くいなちゃんのパパという物凄く不憫な人。
階段を壊したくらいで怒ったりはしない。どちらかと言えばくいなちゃんの身を心配するパパの鏡。けど言い訳作りの為にくいなちゃんが奔走して二次災害が引き起こされるので結局は説教する事になる。

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