得意技は殴打、必殺技も殴打【リメイク前】   作:アッパーカット

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13 無駄に洗練された無駄の無い無駄な斬撃

 

 

 

 

 

「朝ですよークロウさん。朝ごはんもできてますから起きちゃってください」

 

 ゆっくりと瞼を開けると、ふかふかとした寝床には洞窟の入り口から鮮やかすぎない朝陽が差し込んでいる。耳をくすぐる柔らかい声は、クロウの枕元すぐそばから聞こえた。

 

「……」

 

 寝ぼけ眼のまま体を起こすと、ミューは手に持った冷たい水で濡らした布を差し出し、クロウが顔を拭っている間にいかなる手際かクロウの服装を整える。

 目覚め始めた空腹に訴える匂いにふらふらと起き上がり食卓へと向かうクロウの椅子を用意し、座ったクロウに甲斐甲斐しく給仕する。

 

「朝は一日の活力ですからねー、しっかり食べてください。あっ、そのスープどうですか? 珍しい薬草を見つけたので乾燥させて持ち込んでおいたのですよ」

「……うまい」

 

 夢見心地のまま言うクロウだったが、実際美味かった。鼻に抜けて来る、どこか異邦を感じさせる香りがミューの言う薬草の香りなのだろう。

 堅パンもスープに浸して食べると、ガシガシとした食感が和らぎつつも噛みごたえを残し、妙に美味く感じる。

 

「ふふふ、寝ぼけているクロウさんは素直で可愛らしくて怠け者で本当に私好みのマスターですねぇ。日中はなかなかお世話させてくれませんし。……お茶はいかがですか?」

「……のむ」

 

 すっかり好物になったお茶をゆっくりと飲み干し、ようやくクロウははっきりと目を覚ました。二、三度頭を振るってミューを見る。

 

「……おはよう」

「はい、おはようございますクロウさん。いい朝ですね」

「ところでここ、こんなんだったか?」

 

 クロウは昨日から拠点にしている洞窟をぐるりと見渡す。

 この洞窟にたどり着いた昨日のうちにミューが収納魔法で取り出した敷物やらテーブルやら並べていたのは記憶にあるのだが……今では壁には細々とした小物がかかり、天井にはいつの間にやら小さなランプが取り付けられ、全体的に雰囲気が明るくなっていた。

 少なくとも既に、今までクロウが寝床にしていた掘っ建て小屋よりも居心地がよく、生活感があることは確実だった。

 

「夜の間にちょこちょこと手を加えていたのですよ。いい生活はいい住居から。私がメイドになるからには、クロウさんには快適に過ごしていただかなければ。それがクロウさんの義務と心がけてください」

「よくわからないが、ここは過ごしやすくていいと思うぞ」

 

 別にクロウにしても不満があるわけではない。ゴキゴキと首を回して、ミューに聞く。

 

「ミュー、今日は何をしようか」

「そうですねえ……」

 

 ミューは少し首を傾げてから言う。

 

「私としてはまず生活環境を整える方向性でいいと思うのですが。割と立地の良い場所に拠点を置けたとは思いますが、それでもやはりもともと人の暮らしていた場所ではありませんし。上階層へと急ぎすぎる意味も無いですから」

「なるほど。そうだな」

「なのでクロウさんには、この周辺の魔物の掃討をお願いしてもいいですか? そのうち火に慣れれば、魔物が近寄って来ないとも限りませんし。……というか火を噴く魔物とか普通にいますので、放置しておけば逆に寄って来るかもしれません」

「わかった」

 

 クロウは頷いた。確かにミューの言う通り、この場所に腰を据えるならば、先に厄介ごとを片付けておくのも重要だ。

 クロウにしても寝泊まりまでを魔獣の出没するような場所で行っていたわけではないので、魔物に夜襲されても上手く対応できる自信はないのだ。

 

 クロウは洞窟から出て、この周囲に何があったかを思い返す。

 周辺には基本的には荒野が広がっているが、すぐ近くには森が展開しているし、河も流れている。自分たちに都合のいい環境というのは大体の場合、魔物にも都合のいい環境であり、少し離れれば魔獣がわんさかと湧いてくるに違いなかった。

 

 とりあえず肩慣らしに森にでも突っ込もうかと決め、クロウはミューに声をかけた。

 

「じゃあ行ってくる」

「あ、待ってくださいクロウさん」

 

 と、そのまま歩き出そうとしたクロウをミューが呼び止めた。

 クロウに駆け寄って、何もない空中から小さな籠と布が巻かれた長い棒状のものを引き摺り出し、渡す。

 

「どうぞ、これ」

「……おお」

 

 ……クロウはこの、収納魔法という魔法には未だに慣れることができない。

 カバンのようなものから物体を取り出しすならまだしも、ミューは今のように何もない空中からとか、地面からとか、自分の影の中からとか、存在しない胸の谷間からとか、明らかにありえない場所から物体を取り出すので、感覚的にモヤっとするのだ。

 クロウのそんな思いを裏腹に、ミューは取り出したものをクロウに押し付ける。クロウはそれらを受け取って、ミューに聞いた。

 

「これをどうするんだ?」

「籠には魔石を入れてきてください。ここの魔獣は見棄てられた領域の魔獣とは違って、魔石を持ちますから。……私の事情となって申し訳ないですけど、私はクロウさんとは仮契約なので魔力が基本的に外部補給になるのです。水の浄化用とか、いくつか魔石で動く遺物も持ってきていますし、魔石はあればあるほど助かります。……あ、それと籠にお弁当が入っているので、小腹が空いたときにでも」

 

 その言葉にクロウは、そういえばミューが昨日クロウが吹き飛ばした魔物に駆け寄り、魔物の体のどこかに付いている魔石を採っていたことを思い出した。

 

「わかった。魔石だな。あのきらきらしたやつ」

「そうです。よろしくお願いしますね? で、こちらは……」

 

 ミューが残ったもう一つの包みの布をめくると、金属の光沢が陽の光を反射する。

 

「剣です。お肉になりそうな魔獣がいたら、できればこっちで倒してください」

「なんでだ?」

「自給自足になりますから魔獣も食用にしようと思うのですが、クロウさんが殴り倒した魔獣はほとんど爆散して原型が残らないので、ちょっと。……剣ならまだ、なんとかなりませんか?」

「ふむ。でもおれは、剣なんて使ったこともないぞ」

「この機会に試しに使ってみてはどうですか? 武器なんて使えないより使えた方がいいに決まっているのですし、これから慣れていく方向性で」

 

 その言葉にクロウは少しだけ迷って、剣を腰に帯びてみる。

 

「よっ、大剣豪! できるマスターですねこれは!」

 

 剣を引き抜いて構えてみる。

 

「惚れてしまいそうです! 私の魔核もきゅんきゅんしてますよー!」

 

 ……。

 クロウは頷いた。

 

「そうだな。言われてみればまさにおれは剣を振るうために生まれてきたような気がする」

「さすがはクロウさんです。では、私は美味しいご飯を作って待ってますので」

 

 その言葉にやる気を出したクロウは籠を背負い剣を腰に帯びて、颯爽と勇んで洞窟の外に足を踏み出した。

 そして十数分後。戻ってきた。

 

「あれ、クロウさん。どうしました? この辺りには魔獣がいなかったとか?」

「いや、そうじゃなくてな」

 

 ミューが細々とした雑用の手を止めて不思議そうに尋ねると、クロウは気まずげに目を逸らす。そして、そっと背後から剣……だったものを取り出した。

 

「すまん、壊れた」

「早っ!?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 クロウは森の中の適当な空き地にぽつんと生えた木の前に立ち、剣を抜いた。

 

「おれはとりあえず、こうして構えてみたんだ」

「わぁ。……私はあまり剣術とかわかりませんけど、堂に入った構えですね」

 

 ミューは正直にそう褒める。実際、ミューが収納魔法で新たに一本取り出した剣を構えるクロウは、始めて剣を握ったようには見えない。ある種の合理とでも言うべきか、機能美を感じさせる立ち姿だった。

 これまで拳だけで生き抜いてきたとはいえ、それが剣に全く応用できないというわけでもないのだろう。クロウはしっかりと重心を捉えた姿勢で剣を構え、その姿勢だけをみれば立派な剣豪だった。

 

「で、こうだ」

 

 瞬間、クロウは足を踏み込み、目の前の木の幹に向かって腕を振り下ろし、斬りつける。それだけでドパン、と破裂音のような音が鳴る。

 猛烈な踏み込みで土が抉れ、躍動する肉体の纏う気迫は、どこか異様なまでの力を感じさせた。

 

 ──そして振り下ろされたクロウの手には、ひしゃげた鉄クズが握られていた。

 美しい構えから一瞬で鉄クズを生産するその手腕は、さながらスクラップマシーンである。

 

「なんで!? どうしてそうなるのですか!?」

「なぜか壊れるんだ。不思議だ」

 

 クロウは剣だったものを手に握りしげしげと眺めながら、首を捻る。ミューは引き攣り笑いを浮かべながら、クロウの斬りかかった木を見る。

 

 全くの無傷だった。

 

「……あのクロウさん、これ」

「この木はすごいな。斬ったつもりだったのにまるで手応えがなかった」

「……当たるとかそれ以前に、剣そのものの強度がクロウさんの力に耐えられずに自壊しているということですか。安物とはいえ、鉄製なのですが……」

 

 ミューはそういえば、と思い返す。

 クロウの寝床にはツルハシやら、魔石掘りとして普通は持っているはずのものが全く見当たらなかった。それはきっと、使えば振るうだけで壊れてしまうからなのだろう。

 

「……しかし困りましたね。手加減とかはできないのですか?」

 

 剣は何本か持ってきていたが、補給のできない現状、そうやすやすとスクラップにされてもたまらない。聞くと、クロウは首を振る。

 

「おれは全力で殴ることしか知らないからなぁ。拳でも手加減なんてできないのに、剣だとたぶんなおさら無理だと思うぞ」

「まあ、これに関しては私が無理なことを言っていますね……」

 

 戦いにおけるクロウの拳は常に一撃必殺である。それを欠点とは言えないが、しかし今回のようにちょくちょくと困ることが出てくるのも確かだ。

 そもそも魔獣を殴る力を手加減できないからこそ剣を試させてみたのに、今度は剣を振るう力を手加減させるなど土台無理な話だろう。

 

 ミューはため息をついて言う。

 

「剣はひとまず封印しましょうか。残りの本数にもそんなにストックはないですし、木刀を作って練習をしてまで手間をかけるのも的外れですし。クロウさんは出来るだけ力をセーブしながら魔獣を殴る方針で……」

「剣の残りの本数が足りなくて困っているのか?」

「へ? そうですけど……」

 

 ミューの返答に、クロウは頷く。

 

「わかった。じゃあ、その辺で手に入れてくる」

「そ、その辺? ああ、鉄鉱石を採取してくるとかそういう……もしかしてクロウさん、鍛治ができるのですか!?」

 

 ミューが色めき立つ。クロウに鍛治仕事ができるのだとすれば、それは嬉しい誤算だった。どの程度の腕前であれ、持っていて困る技能ではない。

 未来に希望を感じて表情を明るくするミューに、クロウは首を傾げた。

 

「何を言っているんだ、ミューは」

「へ?」

「おれに鍛治なんて無理に決まっているだろう。……まあ、実はおれも手に職をつけようとしたことがある。だが、見落としていた誤算があってな……」

「なんです?」

「見棄てられた領域に、まともな腕を持つ鍛治師なんて一人もいなかったんだ」

「まあ、まともな腕を持っていればわざわざあの環境に身を置こうとしないというのはよくわかりますけれど。……しかし、ではどうやって剣を手に入れるのですか? この階層には……少なくともこの周辺には、当然ですがお店なんてありませんよ?」

 

 疑問符に溢れたミューの言葉に、クロウはやれやれと肩を竦めた。

 

「エウーリアもそうだったが、ミューも世間知らずだな」

「は、はあ……」

「おれは鍛治はできないし、この階層には店もない。なら、あと一つの方法があるだろう」

 

 クロウは森の奥を指差した。そして平坦な口調で言った。

 

「その辺に生えているのを、引っこ抜いてくるんだ」

 

 

 

 

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