得意技は殴打、必殺技も殴打【リメイク前】   作:アッパーカット

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18 最強の魔物育成計画

 

 

 

 

 

「……♪」

「あ、クーだ」

「!」

 

 クロウは洞窟を出て五分ほどの場所で、きらきらひらひらした小さな生き物を夢中になって追いかける少女を見つけた。

 

 メイド服で白銀色の髪をした少女……クーはクロウの声が聞こえると、ちょうちょを追いかけるのをやめて、ぱたぱたとこちらへ寄ってくる。ちょうちょは追跡者から逃れたことに安堵し、ひらひらと逃げていった。

 

「逃していいのか?」

 

 クロウがそう尋ねると、ミューはこくりと頷く。それを見てクロウも頷いた。

 

「まあ、あれは食べてもおいしくないしな」

「……」

 

 クーはじとっとした目でクロウを見た。

 ……どうやら言うべき言葉が違ったらしい。クロウは最近、極稀にそのへんのことを理解できるようになってきていた。

 

 それはそれとして、クーは疑問符を浮かべてクロウを見上げる。クロウがいつものように荷物を持ってくるのではなく、手ぶらでいるのが不思議なのだろう。

 

「ああ、今日は狩りには出ない。クーも休みだな」

「……?」

「そうだな、暇だ。おれも何をしていいのかよくわからない」

「!」

「そうか。付き合ってくれるか」

 

 もはやクロウが一方的に好き勝手喋っているようにしか見えないのだが、実際、これでコミュニケーションが成立しているのである。

 クロウは大まかな経緯を話し、クーに聞いてみる。

 

「なあ。クーは何かしたいことがあるか?」

「……」

 

 クーはすぐには答えなかった。無表情のままクロウを見上げ、数十秒してからクロウへと目で語った。

 

「……動く? いや、でも、狩りには行かないぞ。おれは働かないと決心しているんだ」

「……! ……!」

「……?」

 

 珍しく、クーの言わんとすることがあまりよくわからない。クロウが首を傾げて聞き返すと、クーはその華奢な腕を突き出す動作をする。

 

「……もしかして、修行か?」

 

 クーはこくこくと頷いた。どうやら正解らしかった。

 他にやりたいことも思い当たらなかったクロウはその提案に賛成し、しかしなぜクーがそんなことを言い出すのかよくわからず、聞いてみる。

 

「クーは強くなりたかったのか」

「……!」

「ミューを守りたいのか。そうか、えらいなクーは」

 

 クーの無表情らしからぬやる気の見える佇まいにクロウも感化され、クーに施す修行内容を考える。

 ……だが、ここに問題があった。結局のところ修行なんてものは、自分に経験のあることしか思い浮かぶはずもないわけであって。

 

「……岩を殴ったあと魔獣を殺して、あと岩を砕いて魔獣を殴って、それと岩を壊したあと魔獣と戦って……あ、それと岩を殴ろう」

「……!?」

 

 無意識にクロウの口からこぼれた修行内容にクーは戦慄した。

 ……それで出来上がるのはただの殺戮マシーンだよ! と、クーが喋ることができれば、恐らくそんなツッコミをしていたに違いない。

 が、悲しいことにクーにはそんな技能は無い。気がついたら殺戮マシーンに育て上げられてしまっていたなんて悲劇を防ぐため、クーは考え込んでいる殺戮マシーン(ごしゅじんさま)の服の裾を必死で引っ張った。

 

「……ん? なんだクー。今な、クーの修行方法を考えていたところなんだ。とりあえずそうだな、岩を殴ろう。そしたら多分、強くなれるぞ」

 

 ドヤ顔のクロウに強い否定の意思を込めた瞳でふるふると首を振る。クーは魔物だが、弱い魔物なのだ。変身能力が武器なだけの、基本的に一発屋なのだ。クーの求める修行とはそういう物理的すぎるものではなく、もっとこう、なんか……!

 その思いが通じたのだろうか、クロウは気まずげに目を逸らして言った。

 

「……おれはこれ以外、知らないんだ」

「……」

 

 その言葉にクーも、う、と心が詰まる。

 ……そうだ。なんだかんだ言って、クロウはクーのことを考えて修行のメニューを考えてくれたのだ。いかにそれがどうかしてるとしか思えない内容だったとしてもだ。

 だったら、それを無下にするのはどうなのだろうか。クーはクロウの好意を、真っ向から否定したくはなかった。

 クーは決意を固め、クロウの眼を見る。

 

「……? なんだ、クー」

「……!」

「……や、やるのか? 岩を殴るのか?」

 

 こくりと頷く。

 底辺に近いとはいえ、魔物である。決心してやってやれないということはないはずだ。

 否……むしろこの修行をやり通し、最強の力を身につけてみせる!

 

 強い決意がクーの中で燃え盛っていた。見たところどうしようもなく無表情だったが、しかしその想いの熱量は確かだった。

 

「……修行は厳しいぞ」

 

 たぶん雰囲気に流されているのだろう、そんなことを言ってざっと踵を返し歩き出すクロウの後を、クーもまたとてとてと追う。

 その小さな胸に最強への野望を抱いて、クーは今、歩き出したのだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 クーが岩壁に向かってパンチを繰り出そうとする様を、クロウがじっと観察する。

 拳を引く。そして突き出す。そのたったの二動作から成り立つ動きは、雑魚とはいえ魔物であるクーの手にかかれば恐ろしい勢いを生み出す。

 繰り出された拳は的確に岩肌を捉え、恐ろしい勢いで衝突し、そして──

 ──ぷに、と音を立てた。拳が。

 

「……」

「……」

 

 無表情のクロウと無表情のクーが同時に顔を見合わせた。そして同時に頷き、肩をすくめ、ふーやれやれとばかりにため息をつく。そしてクロウが言った。

 

「うむ。クーには無理だな」

 

 クーもこくりと頷いた。

 熱血とか根性とか、そんな魔物にあるまじき決意的なものに浮かされそうになっていたこともあったかもしれない。けれどそれは所詮過去の話、過ぎ去ったいつかの記憶でしかなく、簡単に言うならばクーのテンションはもう下がっていた。

 

「……普通に触るときは大丈夫なのになぁ」

 

 クロウがクーの手を取り、ふにふにとつつく。その感触は確かに肉があり、骨があるように思えた。

 しかしいざその拳を岩に叩きつけるとなると、どうやらクーの腕は一時的にその構造が解除されて、人間の身体を模しただけの何か柔らかい別物に変わってしまうようなのだ。

 もともと変形することが特徴の魔物であるが故に、もはやそれはクーの意思ではなく、本能に根ざしたもののようだった。

 

 クロウはミミックソードのことを思い出す。あれは確か、一応は剣として使えるくらいには硬いのだ。つまり、硬いままでいることも無理ではない。

 

 ……クーの深層心理に、ものを殴る時には拳を硬くするようにと、本能よりも根深い暗示的なものを与えれば良いのだろうか……?

 

 クロウはそんなようなことを思い浮かびかけて、放棄した。流石にクーを相手に、野良ミミックを相手にするような非道なことはできなかった。

 

「……というかクー、お前はどうやって獲物を倒すんだ」

「……」

 

 よく考えなくてもクーの攻撃性能はゼロである。殴るとぷにっと音がするだけの拳で、一体どうやって敵を倒すというのか。

 

 クーは無言で腕を大きく広げ、背伸をするような動作をした。客観的に見てそれはどう考えても深呼吸のそれであり、常人には計り知れない魔物の叡智を感じさせる仕草だったが、クロウはその動きからクーの言わんとすることを看破した。

 

「そうか。クーは相手にまとわりつくんだったな」

 

 クーは頷く。

 その様子を見てクロウは思い出した。最初に宝箱を開けた時、クーはスライムのようにクロウに覆いかぶさって捕まえ、窒息させようとしてきたのだった。

 ……まあ、それが運の尽きというか縁の始まりで、クーは今、こうしてここにいるわけだったが。

 

「だがなクー、おれは上手にぐわーってなるやり方なんか知らないぞ」

「……」

 

 クーは微妙な視線でクロウを見る。

 ……いやまあ。クーとしても、別にそれを教えて欲しいと思っていたわけではないのだ。流石のクロウもぐわーっとなることは無理に違いない。

 

 だが、ある意味ではクロウの言うことも、方向性としては間違っていない。

 クーの求めていた修行というのは要するに、単純な戦闘能力というよりも、自分の特殊能力を伸ばすという方向性の修行だったのだから。

 

 クーは珍しくも思い悩んでいる様子のクロウの背中を、ちょいちょいとつついた。

 

 

 

 

 

 

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