得意技は殴打、必殺技も殴打【リメイク前】   作:アッパーカット

29 / 29
お久しぶりです。
『得意技は殴打、必殺技も殴打』について、明日から続きを投稿します。こちらではなく新版の方で連載しますので、付き合っていただける方は作者ページからお気に入り登録いただけると幸いです。

※ここまでの内容で変更部分がかなり多いため、こちらはいったん完結とします。話の大筋は変わっていないため、そのまま続きから読んでいただいてもたぶん大丈夫です。



間話 少女の足取りを追って

 

 

 

(薄暗い酒場。筋骨隆々の男が大量の酒を浴びるように飲んでいる。落ち窪んだ目が辺りを見回し、通りから何か物音がするたびにビクビクとした視線を向ける。声をかけてみると身を翻し、こちらの首筋にナイフを突きつけてきた。素人ではなく、冒険者のようだ。こちらに敵意が無いことを示すと、男はナイフをこちらに向けるのをやめ、警戒した目でこちらを見つめた)

 

「……誰だよてめぇは。この辺りじゃ見かけねえな」

 

(いつでも動き出せるような態勢の男に、エウーリアという少女の足取りを追っていることを説明する。説明が進むにつれて男は警戒を解き、徐々に呆れたような表情になった。だが、その雰囲気が突如として一変する。『悪鬼』という言葉が出た瞬間のことだった)

 

「やめろ! ……やめろって言ってんだろうが! アレの話はやめろ! もう思い出したく無いと何度も何度も……」

 

(ブツブツと聞き取れない言葉の羅列。酒に酔っているだけではなく、何かに怯えた子供のようだ。態度の急変になんらかの精神干渉の魔法を疑い、【浄化】系の魔法で治療を試みたが反応は無し。しかし落ち着きはしたのか、やや態度を落ち着かせた)

 

「今の光は嬢ちゃんか? ……ああ、すまねえな、世話をかけさせて。俺に何かの用だったのか?」

 

(一度したはずの説明を忘れてしまったようだ。再度説明し、エウーリアが“悪鬼”とともに行動しているらしいことを伝えると、男はピクリと腰を浮かせかけたが、今度は最後まで話を聴いてくれた。どうやら“悪鬼”についてなんらかの情報を持っているようなので尋ねると、また怯えたような様子を見せ、周囲をキョロキョロと見渡す。そして図体にそぐわない小さな声で話を始めた)

 

「……魔法の代金がわりだ。俺の知っている“悪鬼”なんざ、ヤツの本性の薄皮一枚向いた程度のもんだろうが、それで良けりゃあ話してやる。……あれは数年前のことだった。……いや、一年前?待て、数ヶ月だったか、それとも数日……ああ待て、もう魔法はいらない」

 

(再び錯乱したのかと考え【浄化】しようとしたが、断られた。話の続きを促すと、火酒を一口含み、飲み干してから話を再開した)

 

「勿体つけようってワケじゃない。ただ、マジでわからねえんだ。忘れられない。ヤツの姿が、今でもまだ、はっきりとこの脳裏に張り付いてやがる」

 

(この男は、“悪鬼”の姿を見たことがあるようだ。ある者は少年と、ある者は魔物と、中には精霊などという大昔のお伽話まで引き合いに出してその正体を説明しようとしていた輩もいた、“悪鬼”。わざと口裏を合わせて違うことを言っているのではないかと疑われるほどだったが、ようやくはっきりとした正体が聞けるかもしれない。続きを促す)

 

「……ああ悪いな嬢ちゃん。“悪鬼”の具体的な外見やらは、“外”からきた人間にゃあ教えらんねえんだ。触らなきゃ害はねぇんだから、あんなものには関わらない方がいいに決まってる。そういう決まりというかなんというか……暗黙の了解みてえなもんでな」

 

(釘を刺してくる男に、口の滑りを良くしてもらうために酒を追加注文する。男は苦笑してその酒を煽ったが、考えを変えるつもりは無いようだった)

 

「これはお前らのためなんだぜ、どちらかと言えば。……例えばの話だけどよ、『禁足域と迷宮が互いに不可侵である理由』とか嬢ちゃんは考えたことあるか?」

 

(知らない。そちらこそ知っているのかと問う)

 

「いや、俺も知らねえ。なんだよ、そんな不満そうな顔をするな。……“悪鬼”ってのはそれと同じ種類のもんだ。触れちゃならないものってのがある。疑問にすら思ってはならない、気にしてもいけない、そういうもんが。……そうだろう?」

 

(誤魔化された気分だ。不承不承ながらも続きを促すと、男は話を再開した)

 

「アレに最初に会った時間は覚えている。闇夜だった。俺たちは、あー……追い剥ぎをしていた。……そんな目で見るんじゃねえよ。俺がどうしてこんな場所に居ると思う? 行き場所が無いからだ。色々と外じゃあやらかしたからな。……ここはそんな奴らの吹き溜まりだ。ボサッとしてりゃあ奪われるんだ、こっちから奪いに行かなけりゃあ損ってもんだろう?」

 

(理解できない価値観だった。続きを促す)

 

「……まあよ、平たく言えばその相手が“悪鬼”だった。石喰蟹の甲羅ってわかるか? ……まあ珍しい魔物だ。そいつの喰った石で、宝石だの金だのと希少価値の高いもんが甲羅に浮かび上がるわけだ。で、まあ倒しやすくて希少価値が高くてといいカモなんだが……ああ、話を戻そう。とにかく俺らは“悪鬼”にソレをよこせと迫ったわけだ。今思えば馬鹿なことをしたもんだ。……それが成功したとはいえな」

 

(成功したのか。聞き返す)

 

「ああ。光り物だったから持って帰って、飽きて捨てようとしてたところだったとか……事情は知らねえが、まあ、そんなところだったんだろうよ。俺たちゃ歓喜したぜ。だってそれで二ヶ月は遊んで暮らせる。で、まあ命知らずにも思ったわけだ。……『コイツが行けるような場所なら、俺らでも行ける筈だ』ってな」

 

(意外と“悪鬼”は、厳つい外見の人間というわけでもないのかもしれない。男が続きを話す)

 

「で、馬鹿をしたわけだ。禁足域の第五階層……ありゃあよ、地獄だぜ。嬢ちゃんも探索者ならっつーかこんな場所に居るなら、魔晶は知ってるだろ? 魔晶ってやつはよ、ある意味魔物にとっちゃ“限界”の証明なワケだ。魔晶のデカさまでしか強くなれねえ。そういう作りになってるんだろうよ。だがな、禁足域の魔物にゃ魔晶は無え。……わかるかこの意味が? この場所の魔物はほっとけばほっとくほど、時間を置くだけで際限なく強くなる。それこそ探索者みてえにな」

 

(……どこまで信用できるのだろうか。魔晶と魔物の関係の話など初耳だ。星神教会での教えにそんな記述は無い。心に留めて置くことにし、続きを促す)

 

「で、だ。あの階層がどれだけ放って置かれているか知ってるか?……少なくとも千年単位だ。わかるか? あそこにはな、千年を生きた魔物たちがわんさかと棲んでるわけだ。この第三階層が人間の住める限界ってのはよ、要するに、魔物が成長しすぎるまでに狩り切る手が回るのがここまでってことだ。……想像したく無いけどよ、例えばあの階層でスタンピードが起こればどうなる? ……断言できる。この迷宮ごと喰われるぜ。絶対に無理だ。もうアレは手をつけらんねえ」

 

(思わず聴き入っていた。が、“悪鬼”から話題が逸れていることを思い出した。慌てて話を軌道修正する)

 

「あ、ああ。そうだった、悪鬼の話だったか。……俺らはあの階層に踏み入った。それが最大の間違いだ。境界から離れてほんのすぐだぜ? 百匹単位の魔物に囲われた。笑えてくるぜ、俺がやっと一匹倒せるかどうかの魔物が数百匹だ。無理だ。無理に決まってんだろ。で、まあ死にかけてたんだが……気づけばアレがいたのさ。あの階層はアレの縄張りだからな……」

 

(何が? 問うと、男はグラスをテーブルに叩きつけて言った)

 

「“悪鬼”だ! ……あ、ああ悪い。……今でも思い出せば寒気がする。アレは遊んでいやがった。アレが進むだけで壊れる。アレが吼えるだけで壊れる。アレは死だ。破壊だ。アレが現れてたったの数十秒だ。それだけで魔物は全部、肉塊になった。……今でも思い出すんだよ、血と肉が詰まった大地を。血で噎せ返る霧を。あの錆びた哄笑を。それでよ、アレの、眼を────」

 

(蒼白になり大粒の汗を流し出す男を【浄化】する。男は息を荒げていたが、なんとか持ち直したようだった。……疑問に思ったことを聞く)

 

「ああ……そうだ。その通りだ。俺は助けられた。あの“悪鬼”にな」

 

(理解できない。ならばなぜ、ここまで悪鬼を恐れるのだろうか)

 

「……言い方が悪かった。アレは俺を助けたんじゃねえ。敵じゃなかったから殺さなかっただけだ。……違いがわからねぇ? ならそれでいい。……まあなんにせよだ、アレを嗅ぎまわるのはもうやめとけ。アレは人じゃねえ。魔物ですらない。……もういいか? あまり話したいことじゃねえんだ」

 

(はっきりとしない話だったが仕方がない。礼を言うと、男は立ち上がる。……と、気づいた。男には片腕が無かった。腕だと思っていたものは義手だ)

 

「ん? ……ああ、コレはさっき話した、第五階層に侵入した時にな。……悪鬼に? 馬鹿言え、違えよ。アレにやられたなら原型は残ってない。魔物にやられた。悪鬼が現れる寸前にな」

 

(だから悪鬼に悪感情を抱いているのだろうか? もっと早く来てくれていれば、と。そう考えていると、男はこちらの内心を見透かしたのか、否定した)

 

「いや、そうじゃない。……むしろ逆だ。俺はこの傷に感謝しているくらいだ。この傷があったおかげで俺はアレに敵と見なされなかった。そう思っている。今でもだ。ああ、間違いなく」

 

(それを聞いて思い出す。『俺たち』……そう、確かこの男は、『俺たち』と言った。この目の前の男以外の第五階層に侵入した者は、悪鬼に助けられたのだろうか。それとも、或いは────。尋ねても男は答えなかった。ただ唇の端を歪めて笑い、そのまま酒場を出て行った。男の表情が何を意味するものかはわからなかった)

 

(酒場の払い全てを押し付けられたのだと気づいたのは、それから数分後だった。とんでもない額をぼったくられた。あの男、次会ったら殺す)

 

 

◇◇◇

 

 

「で、どうだったユフィ? 何か収穫はあったか?」

「無いです。アル中の話を聞いていたらいつの間にか食い逃げされてました」

「……そうか」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。