得意技は殴打、必殺技も殴打【リメイク前】   作:アッパーカット

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8 メイドとは一体

 

 

 

 

 

「おうクロウ。どうだった。下層に行けそうな気配は……誰だその子。あの金髪の嬢ちゃんとは違うよな?」

「ああ親方。この子は……」

 

 クロウはそこで一旦言葉を切り、手を引く少女を見た。

 

「うむ。この子は、水底より湧き上がって来たんだ」

「……空から女の子が落ちてくるなら逆もあるか。そうかそうか」

 

 親方は一瞬だけ考え、クロウの言葉を精査したところでどうせ無意味だとすぐに理解を放棄した。席につくクロウに注文を取る。

 

「で? 何を食う?」

「おれはいい。で、えーと……」

 

 目を向けたクロウに少女は答える。

 

「ミュールリーハ。ミューで大丈夫です」

「そうだったな。ミューは何かを食べるか?」

「いえいえ、私は食事をとらないので」

「そうか」

 

 本人がそう言うからにはそうなのだろう。クロウが場所だけ貸してくれと言うと、親方は呆れながらのしのしと厨房の方へと引っ込む。人心地ついたクロウはぼやっとした眼をミューに向け、聞きたいことがあったことを思い出し、ストレートに口にした。

 

「そういえば、結局ミューはなんなんだ?」

「道中何度か説明したんですが……。私はあれです、一種の半生体半機械です。ロボですロボ。或いはアンドロイド。クロウさんの聞き慣れた言葉で言えば迷宮の遺物の一種、でしょうか?」

 

 ミューは雑多な店内が物珍しいのか、きょろきょろとあたりを見回しながらそう答えた。クロウは頷く。

 

「そうか。遺物か。ということは、ミューは人間じゃないのか」

「厳密に言えばそうですね。生物ではありますけど。……例えば」

 

 ミューは細かな刺繍の施された長手袋を取り、右手をクロウに差し出す。

 改めて見ればそれは華奢な腕だった。細く、小枝のように頼りなく見える。真っ白く、仕事もしたことがなさそうなすべすべとした肌をしていた。

 クロウは差し出されたそれをまじまじと見つめ、握った。

 

「ミューの手は冷たいな」

「低活動状態なので。……とりあえずクロウさん。そのまま握っておいてくださいね?」

「……?」

「えいっ」

「……っ!?」

 

 可愛らしい掛け声とともに、きゅぽん、とそんな歯切れの良い音を立てて、ミューの手首から先が抜けた。クロウは眼を丸くする。

 

「そんな……」

「おわかりいただけましたか? 私の身体は極めて生体的に設計されていながらも同時にロボ的ロマンを追求した……」

「手首を引っこ抜いて血が噴き出なかったのは初めてだ」

「そうでしょうそうでしょう。それこそ私が半生体機であることの証……って怖ぁ!? クロウさん人の手首引っこ抜くのこれが初めてじゃないんですか!?」

 

 慄くミューにクロウはやれやれと肩をすくめた。

 

「ミューは何を言っているんだ。魔獣はともかく人の手首を引っこ抜いたことなんて……」

「あ、これは早とちりを。魔獣。そう、魔獣ですよね。私ったら変な……」

「……なかった、ような……? 気が、する?」

「自信無いのですか!? 実際にそんな経験が有ろうと無かろうと大して気にしていなさそうなその精神性が闇! きょとんとした顔しないでくださいよ余計怖いですから!」

 

 あ、この人ヤバいかもしれない。ミューは今更そんなことを思いながらクロウに説明する。

 

「と、ともかくですね。これで私が人間じゃないことはわかってもらえましたか? ほら、人間の手首は引っこ抜いたら血が出ますから。血が出ない私は人間じゃないです。……いいですか? 理解してますか?」

「うむ。とてもわかりやすい説明だ。ミューは説明が上手だな」

「そ、そうですか」

 

 おかしい。わかりやすい説明と褒められているのに不安感が拭えない。

 ミューはとりあえずクロウから右手を受け取ってゴシカァン! と手首に嵌め直し、クロウに向き直った。感心したように頷いたクロウは、もう一つ質問を重ねた。

 

「ところでミューは、なんであんなところにいたんだ」

「それが一番最初に出てくる質問だと思ったんですが……。……実のところ、私にもよくわからないといいますか」

「?」

「封印されていたということはつまり、危険とみなされていた、ということではありませんか? けれど私は見ての通り、メイドです」

「メイド?」

「はい。あえて明言しますが私ほどにメイドを体現する存在はいないと言っても過言ではありません。……しかしですね、そんなハイパーメイドである私が封印される理由がわからないのですよ。メイドですよメイド。しかも可愛いロボっ娘メイド。全男子の憧れです。そんな私を封印するなんて、いったい誰が何を考えていたんでしょうか」

 

 ねえ? とばかりにミューがクロウに同意を求めてくる。クロウはメイドなるものがそもそも何であるのかよく分からなかったが、とりあえず頷いておいた。

 

「うむ。何者かが何も考えてなかったんだろうな。ミューは憶えてないのか?」

「いえその、最低限の機能維持のための魔力を捻出するためだと思うのですが……プリインストールの機能を除いて私の魔核に刻まれた記録の80%ほどが破損しているようなのですよ。……ぶっちゃけて言いますと、封印前のことがまるで記憶に残っていないといいますか」

「よく分からないが。それは大変じゃないのか」

「大変です。誰とも主従契約が成立していないようですし、このままだと魔力切れを起こしてしまいます。……それでクロウさん。ものは相談なのですが」

「なんだ」

「私のマスターになりませんか?」

「んん?」

 

 疑問符を浮かべるクロウに、ミューは説明する。

 

「クロウさんの干渉で封印が解けたということはおそらく、クロウさんなら私のマスター権限を取得できるということだと思うのですよ。……いえ、正直なところを言えば本当にクロウさんで大丈夫かは若干の不安が出てきましたが、しかし私の魔力残量的にも迷っていられません。契約しましょう」

「おれがその、マスター? になると、お前に何かいいことがあるのか?」

「それはもう。メイドは仕えてなんぼです! 安定した魔力供給に存在意義を満たす麗しき主従関係! 滾ります! ……もちろん、クロウさんにもメリットがありますよ?」

「ほう。たとえば」

「もちろん、この私が四六時中お側に仕えることです。衣食住、全ての面においてマスターを支えることを約束しましょう。健やかなる時も病める時も、おはようからおやすみまで、いやいやお休みの最中もなんならこの世果てるまで一瞬の隙間もなくパーフェクトにお世話いたします」

「……」

 

 クロウは考え込んだ。確か前に、親方から何か似たような存在について話を聞いたことがあるような気がしたのだ。そう、あれは確か……

 

「……すとーかー、か」

「スカート? ……フフフ、なかなか目の付け所がいいではないですかクロウさん。換装機能にすぐさま目をつけるとは。私のメイド服は100を越えるモデルチェンジが可能です。……好きなように着せ替えていただけますし、完全なるあなた色に染まって見せましょう。ほらほらどうですクロウさん。私を着替えさせてみたいとは思いませんかー?」

 

 ミューはそう言って、自分のスカートをチラチラと摘んで見せる。

 ……クロウはまた考え込んだ。親方から、ミューの言うような存在、そしてミューの現在の行動に類似する存在について話を聞いたことがあるような気がする。そう、確か……

 

「……変態」

「ッ! 変体機能ですか……!? ……感服しましたよクロウさん、あなたは私のマスターにふさわしい魂をお持ちのようです。しかしその、残念ながら今の私は変体機能までは備えていないのです。けれどなんらかのオプションパーツがあれば、或いは近いことも可能かと」

 

 クロウは安堵した。変態ではなかったようだ。

 ミューはクロウの手を取り、真摯な表情で言う。

 

「おわかりいただけましたか、クロウさん。この出会いはもはや必然です。……私のマスターになりませんか?」

 

 クロウは五秒くらい悩んで結論を出した。

 

「そうだな……」

 

 

 

 

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