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朝、茹だるような暑さで目が覚める。1階から妹の沙耶が俺を呼ぶ声がする。その声でようやっと動く気になりノロノロとベッドから降りる。
隣の部屋でバタバタと慌ただしい姉の優子の音がする。大方寝坊して遅刻寸前なのだろう。新社会人になっても自堕落そのものな性格は治らないらしい。
「お兄ちゃん!早くして!」
と沙耶が叫ぶ。いつもと同じ朝の光景。
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「お兄ちゃん遅い!」
最早朝の挨拶と化した俺への罵倒。中学生特有のツンツンなど、今年大学生となった俺にはそれすら可愛いと思える。
「なにニヤニヤしてんのよ気持ち悪い。さっさとご飯食べちゃって」
ブツブツ文句は言いながらも家族5人の分の朝食を毎日作ってくれる。まったくよく出来た妹だ。
俺に続き姉さんも降りてくる。
「あ!お姉ちゃん、おはよ♪」
だいぶ年の離れた姉さんと沙耶の関係は最早母娘のようだ。
仕事の忙しい両親に変わっていつも面倒を見てくれた姉さんには沙耶もデレデレだ。
「おはよーぅ」
「お姉ちゃんおはよっ!朝ご飯準備出来てるから食べちゃってね?はいコーヒー、砂糖とミルクたっぷりだよね?」
甲斐甲斐しく姉さんの世話をしている。当然のように俺には何もしてくれないのでぼんやりとトーストにバターを塗りたくってかぶりつく。
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「じゃあ、行ってきまーす!」
「いっへひまーふ」
元気よく飛び出していく沙耶とパンを咥えながらモゴモゴと出ていく姉さん。姉さんは毎日沙耶を車で送ってやってる。
「いってらっしゃーい」
のんびりコーヒーを啜りながら二人を見送る。中高生より長い夏休みに多少驚きつつ、今日はバイトもないから一日中自宅警備職に勤しむかと思い部屋に引きこもろうとした時。滅多に鳴らない携帯電話から着信音が響いた。
携帯を見るとそこに表示されているのは中学時代からの友人、航也だった。なんだか嫌な予感がするなと思いながらも着信に応じる。
「はい、もしもし」
「おはよー、暇?」
「久々にあって第一声がそれか?暇だけどさ」
「良かったー!今から遊ばないか?今日暇でさー」
大学生にもなって当日に遊びのお誘いとは……まぁこいつとはいつもそういう付き合いだったからなぁ。
「ああ、いいぜ」
「おっしゃ!じゃあ北口駅のロータリーで待ち合わせな!」
「はいよー」
そう言って携帯を切る。よっこらと声を出しながら立ち上がり、出かけるために服を着替え、髪を整えて準備をする。
バイクの鍵をとって扉を開ける。直後、航也の誘いに乗ったことを後悔する。予想をはるかに超える熱気が俺の包み込む。大きすぎて衝撃となって襲う蝉の合唱。痛いとまで思う太陽。
「あっつ……」
思わず声に出る程に暑かった。まぁ、久しぶりの友達の誘いを断るわけにはいかない。
ヘルメットを被ると更に熱気が増したような気がした。
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駅前に着きバイクを止めると、もう航也は着いていた。
がっしりとした体と真っ赤に染めている髪。俺の記憶と何も変わらない姿がそこにはあった。
「よっ、久しぶり」
「ああ、いきなり俺に電話するってどんしたんだよ?」
「友達にドタキャンされた」
「俺は2番手かよ(笑)」
たわいのない話をしながら電車に乗る。
近くの大きな駅に向かいながら最近あったことを話し合う。大学ではどのサークルに入ったのか、新しい友達が出来たとか、何気ない話でも話す相手が航也だから面白い。
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駅につき、電車を降りると再び熱気の洗礼。二人揃ってうっとなり、とりあえずどこかで涼むことにした。
とりあえず目に付いた喫茶店に入り、そこそこな値段のコーヒーを頼む。
「で、どこに行く予定なんだ?」
「いやー、決めてなくて」
「バカ。まぁ航也らしいや。ゲーセンでいいだろ?」
「オッケー。それで」
大きい駅には必然的に大きいゲーセンもある。
高校の時に二人が初めてはいったゲーセン。多少の入れ替わりがあるも、目玉の関西最大の8代ある某有名格闘ゲームの期待が売りのゲーセンだ。まぁそれには目もくれずに二人揃って音ゲーコーナーに向かう。
「よし!これやろうぜ!」
航也が指さしたのはこのゲームが稼働した時からやってる乾燥機とあだ名の着いた音ゲーだった。
「おう」
そう言いながら硬貨投入口に二人共100円を入れる。
クレジットを投入した事を示す音が響きゲームスタートの音楽が鳴り響く。
1クレジット4曲プレイ出来、いつも俺が1.3曲目を、航也が2.4曲目を選択する。対戦モードとなっているが、俺も航也もお互いに競ってはいるが、勝ろうとは思っていない。純粋に二人でゲーム出来る喜びに浸りながらゲームを楽しんでいる。
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その後も俺達は様々なゲームをやり続け気がつけば夕方になっていた。
「ふぅ……飯どうする?」
と航也が聞いてくる。いつもはこの時間まで遊び倒し俺から飯の誘いをするから、逆の立場になるのは少しむず痒い。だけど今日は沙耶が早めに帰ってきて料理を作る日のはず。帰ってきて料理を食べてやらないと向こう三日は口を聞いてくれないだろう。
「悪い。今日は飯家で食うよ」
「妹ちゃんか?」
流石に長い付き合いなだけあって察してくれる。
「ああ、悪いね」
「いいよ。今度は飯くいに行こうな」
「ああ」
そう言って俺達はバイクに跨り別々の方向に飛ばす。
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「ただいまー」
「お兄ちゃん遅い!もうご飯できるよ!」
おかえりと意訳出来る沙耶の叫び声が迎えてくれる。
「あら、おかえり。早かったのね」
姉さんも帰ってきてたのか。俺だけいなかったら沙耶は三日と言わず1週間は口を聞いてくれなかっただろう。
「沙耶が飯作る日だから」
「あんたも大概シスコンねー。その愛をお姉ちゃんには向けてくれないの?」
「黙れ年増」
といつものやり取りをしながら部屋にカバンを置いて洗面台で手を洗う。
今日のメニューはご飯に味噌汁。肉入り野菜炒めにキムチと言う組み合わせだ。うむ、我が妹ながら素晴らしい。
「美味そうだな」
「そうでしょ?お味噌汁とかすっごい苦労したのよ!」
褒められて素直を喜ぶあたりはまだ幼い可愛さが残る。
仕事で遅い両親の分は置いておいて3人でワイワイと話しながら食事をする。今日はなんの勉強をした。上司のハゲがうるさい。久しぶりに航也と会ってゲーセンに行った。
三人がほぼ同時に食事も終わり、食後のお茶をしながらお喋りを続行する。
「航也君ねーあの子カッコイイんだし、沙耶の彼氏にしたら?」
「それは良い。そうしたらあいつに俺の事を「お兄様」って呼ばせてやる」
「もう/////二人とも!」
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夜も更け、沙耶も眠りにつき俺も自室に引き上げる。姉さんは帰ってきた父さんと晩酌を楽しんでいる。
「ふう……」
ベッドに倒れ込むと疲れからかため息が出る。
いつもと変わらない沙耶の叱責と、姉さんとの無駄話。久々にあったにも関わらずまるで昨日別れた友のように接することが出来る航也。仕事であんまり会えないが俺含め家族の事を思ってくれる両親。
欠けることの無い完全な家族。
未来永劫続く蜃気楼のような美しさ。