ほむらはジリジリと迫る古狩人達の姿を、正面から観察し直した。
特に、それぞれの得物に彼女は注目する。狩装束に関して言えば、三人共ほむらのものとは意匠こそ違えども、機能という面では明らかに同一だからだ。つまり頑丈ではあっても堅固ではなく、防御力よりもむしろ速度を重視した造りになっているということ。身を以て知っているが故に、これらを見る必要性はない。重要なのは、連中の武器なのである。
(……どれも、まだ見たことがない仕掛け武器のようね)
折り畳まれた時のノコギリ槍に似た、しかし刃は鋭く真っ直ぐな湾曲を描く曲刀。
分厚く、みるからに凶悪このうえない、ギザギザの生えた鉄の大鉈。
撃鉄状の機構を有する、作り手の殺意をあらわな大金槌。
既に、それらによって積み上げられた犠牲者達こそ見飽きているが、それらが実際に動く様は全くの未知だ。
時間停止があるが為に、ある程度
(飛び道具は真ん中の散弾銃だけ)
これはほむらにとっては幸いな状況だ。元より、ほむらが得意とするのは中距離から遠距離での戦い。狩人になってからは得物の都合から白兵戦に興じてきたが、新たなる
それが、ほむらの弾き出した算段。
機を見て、盾のうちより新たなる得物を抜き放つ――そのつもりであった。
『You filthy beast!』
真ん中の古狩人が、雄叫びと共に
一個の鉄塊と見えた大鉈に亀裂が走り、一瞬、それが鞭のように撓って伸びたのだ。
ほむらは、そのギミックに見覚えがあった。
少女狩人としての、巴マミの得物。時に鋼の杖に、時には
ただし眼の前の古狩人が手にしているのは、洗練とも様式美とも程遠い、無骨極まる大質量体。
『Diiiiiiiiiiie!』
黒い血しぶきのようなものを撒き散らしながら、古狩人は分厚い鉄塊の鞭を振るった。
ほむらの予想を遥かに凌ぐ間合いのそれが、小さな体へと叩きつけられる寸前に、僅かに右へと後ずさることにより避ける。激しい打撃に石床が砕かれ、散弾銃のように破片が飛び散り、狩装束の硬い表面を霰のように打つ。
すぐさま古狩人は大鞭を振り戻し、第二撃をほむらへと叩き込む構えだ。そうはさせまじと、ほむらは短銃を抜き撃ちにしながら、地面を蹴ってさらに十歩ほど後退する。
ほむらは退きながら納得していた。
伊達に古狩人が三人組んでいるのではない。揃って近接戦闘型と見たのはとんだ早合点だった。
あの真ん中の古狩人が鞭と散弾銃で遠距離中距離の間合いを制す。それと連携して動くのは――。
(きた!)
曲刀の古狩人と、大金槌の古狩人が、同時に駆け出す。
左右からの同時攻撃か、あるいは。
(速度差を生かしての連続攻撃!)
連中が仕掛けてきたのは後者であった。
曲刀狩人の姿がぶれたかと思えば、瞬く間に、いや瞬く以上の速さでほむらへと肉薄している。
咄嗟に盾を構えれば、斬り上げられる一撃がその表面を撫で、鋭い刃が火花を散らせる。
「ッ!?」
強い衝撃に、眼の上にまで火花が咲きそうな勢いであった。
だが血の遺志を力とし、より強くなった今のほむらの膂力ならば、古狩人の一撃すらも何とか受け止めた。
続く左右の連撃も、僅かに腕を動かすことでことごとく防ぎ、逸らす。防ぎ、逸しながら、反撃の機を窺う。
(今!)
ほむらは相手の一撃に合わせて盾を振るい、逆にその体勢を崩さんと試みた。
しかし――逆にほむらの盾のほうが空を切り、勢い余ってたたら踏む。
相手は、例の謎めいた高速移動で素早く退いていたのだ。彼が退くのと入れ替わりに、ほむらへと猛進するもの一人。
『Booooooooom!!!!!!!!!!』
大金槌の古狩人だ。左手の松明は炎の尾を引き、右手の大金槌は火の粉を撒き散らし紅に輝いている。
(撃鉄が!?)
例の、謎めいた撃鉄が起こされている。露わになった炉には真っ赤な火が灯っている。
道中で散々見た、爆発に砕かれた屍の数々――その訳を、ほむらは今知った。
古狩人が跳び、燃える金槌が振りかぶられる。
体勢を崩したほむらには、それを避けるすべはない。がら空きの頭へと目掛け、大金槌は振り下ろされ――そのまま虚空を突き破り、地面にぶつかって、爆発で大穴を穿つ。
「……危なかった」
すり抜けた手応えと、見失った獲物の姿に、周りを見回す古狩人達の姿を柱の陰から見ながら、思わずほむらは呟いていた。ぎりぎり時間停止が間に合ったが、流石に反撃する暇もなかった。流石は古狩人といった所か、血に酔い狂い果てたとしても、狩りの感覚は失ってはいない。流れるような、見事な連携だ。
(あの連携を崩さない限り、勝機はないわね)
だが問題は、最初に狙うべきは三人の内の誰かということだ。
曲刀の古狩人は例の妙な加速があって奇襲は難しい。
爆ぜる金槌の狩人は、その攻撃は恐ろしいが、見る限り戦闘スタイルは直線的で、搦手を得意とするほむらにはむしろ与しやすいと見える。
だとすれば――。
「……」
ほむらは、ノコギリ槍を腰元のベルトに括り付けると、盾のなかへと拳を差し入れ、例のものを掴みだした。
左手で取っ手を握り、右手でハンドルを握りながら、柱の陰から姿をあらわす。
「喰らいなさい」
一斉に赤い視線を向けてくる古狩人たちへと、ほむらは言い放つと同時に、右手でハンドルを廻した。
束ねられた四本の銃身が回転し、矢継ぎ早に銃弾を吐き出していく。
灼ける火線が空気を焦がし、途切れること無く駆け抜ける。
――古狩人デュラが旧市街で用いた設置型機関砲。
助言に従いほむらは、それを弾倉ごと引っ剥がして、盾の中へと入れて持ってきたのである。
ヤーナムで用いられる他のどの銃砲にも出せぬ圧倒的連射力で弾幕を張る。
ほむらから見れば旧式に類する手動回転式機関銃であり、どうしても両手が塞がってしまうのが難点ではあるが、この卓越した火力を思えば、そんな欠点は些事にすぎない。
歴戦の古狩人達ですら、この猛烈なる射撃を前にすれば、物陰に身を隠し、ただ凌ぐしかない。
三人の古狩人は左右へと各々跳んで、柱の陰へと逃れる。右に二人、左に一人と、分断された形だ。
――それこそが、ほむらの狙い。
(かかった!)
目論見通り、一人分断されたのは例の鞭鉈持ちの古狩人だ。
唯一の飛び道具持ちであり、遠距離を攻撃する術を持った相手だ。この男さえ仕留めれば、あとの二人の相手はより容易に進められる筈。
ほむらは即座にガトリング銃を格納すると、古狩人たちが動き出す前に時を止めた。
不動なる世界のなかを駆け抜け、標的の背後に廻ると同時に、右手にノコギリ槍を構えながら、左手で短銃を抜き放つ。引き金を弾くと同時に、再度地を蹴る。銃弾は相手へと命中する直前で、縫い留められたように空中で静止し、先に放たれた銃弾へとほむらの体が追いつく。
そこで、砂時計が元に戻った。
『Gha!?』
動き出した銃弾に不意を撃たれ、古狩人の背中は無防備となる。
そんな背中に、鋭いノコギリ槍の尖端が突き刺さり、そのまま肉を貫き、腹を破って反対側に抜ける。
『Ahaaaaaaaa……――』
ほむらが捻りを加えれば、内臓をノコギリに切り刻まれ、古狩人は覆面の隙間から血反吐を漏らした。
背を蹴り飛ばし、勢いで刃を引き抜けば、断末魔をあげつつ古狩人は青い霞となって消え失せる。
これで一人。残りは二人。
『More blood!』
仲間を斃されたからといって、怯むような連中でもない。
大金槌の狩人は、その肩で撃鉄を起こせば、新たなる火を炉で灯し、即座に攻撃の態勢をとった。
ほむらは慌てることもなく、盾を廻し、時間を停止させる。時空を歪ます魔法が生み出す、無限大の
それらを同時に投げつければ、銃弾同様、標的の間近で動きを止めた。
盾が、逆方向に廻る。静止していた飛来物も、再び動きを取り戻す。
『!?』
それは、幾つもの火炎瓶であった。
大金槌の狩人へと次々と衝突し、割れ、内容物をぶち撒ける。
狩装束は頑丈故に、この程度の衝撃で古狩人の体が傷つく筈もない。
しかし撒き散らされた内容物、可燃性の液体は、燃える炉にまで、松明にまで飛び散ったのだ。
かくして一人の古狩人が、一個の篝火と化す。
絶叫し、もがき苦しみながらも、得物を手放さないのは、流石は古狩人。
しかし狩人同士の動きは素早い、身を焼く炎に気を取られ、動きを止めたのが命取り。
ほむらはよたび時間を止めれば、その間にガトリング銃を取り出す。時間の限界いっぱいまでハンドルを廻し、銃身を回転させ、銃弾を吐き出す。無数の水銀弾が、動きを止めた炎の前で勢揃いする。
砂時計が戻れば、無数の銃弾は一斉に古狩人へと突き刺さった。
狩人同士の戦いでは通常、銃撃は決定打となることは稀だ。しかし同時に数えきれない水銀弾を叩き込まれたとあれば、話は別だった。
ズタズタに引き裂かれながら、古狩人は衝撃に壁へと叩きつけられ、その衝撃にその体は殆ど爆発四散する。
火の粉舞い散る中、ほむらは黒髪の端を指先で跳ね上げる。
残るは、一人。曲刀の古狩人だけだ。その血に赤く染まった瞳を、ほむらの紫の瞳が真っ向見据える。
この奇妙な技を身に着けた古狩人だけは、時間停止を用いても一撃で斃すのは困難であろう。何故なら、この古狩人は時間が再始動した直後に、こちらの一撃を受ける前に見てから避けることが可能なのだから。
(ならば、時間停止中に、回避不能な四方からの攻撃を――)
そこまで考えて、ほむらは考えを改めた。
現状、一度に停止できる時間は魔法少女だった頃よりも短くなっている。
完全包囲攻撃を完成させるには、時間が足りない。ならばどうする?
攻めあぐねるほむらの前で、古狩人は仕掛けを起動して見せた。
折り畳まれていた刃が展開され、巨大な曲刀へと姿を変える。
恐らくはいかなる方向のいかなる間合いからの攻撃にも対応できるよう、自身の間合いを広くしたのだ。やはり血に酔ってはいても、古狩人にはかわりない。
「……」
『……』
真っ向、見つめ合いながら、互いにじりじりと間合いを詰める。
狩人同士らしからぬ、睨み合いであり、静かなる対峙。
そんな奇妙な状況は、唐突に打ち破られる。
古狩人の姿が、ぶれる。
攻撃を予期し、ほむらは盾を構えるが、再び古狩人の姿が見えた時、それは遠のいてた。
古狩人の予期せぬ動きへの疑念は、巨大な何かの飛来と、それが地面に打ち付けられた時の轟音により掻き消された。
破片と共に砂埃が盛大に撒き散らされ、ほむらは思わず目をつむった。
一瞬とは言え塞がれる視界を前に、盾を構えつつ後ずさり、古狩人の奇襲に備えるが、杞憂に終わる。恐らくは、相手もまた同様だったのだろう。晴れた砂埃の向こうで、さらに間合いを開いた姿が見えたのだ。
謎の飛来物は落下の衝撃にさらに跳ね、落ち、跳ねるを繰り返し、廃教会最奥の祭壇に衝突して止まった。
故にその正体が、初めてほむらにも解った。解ったからこそ、むしろ困惑した。
「……車輪?」
そう、車輪だ。
古めかしく、木と鉄でできた、ちょうど昔話の馬車の一部を為すような大車輪だ。
車輪は酷く分厚く、その表面には何故か真ん中を走るように立て一直線の切り込みが刻まれていた。
ちょうど、そこで車輪が二つに分かれでもするかのように。
「たぁぁぁぁぁぁっ!」
『!』
「!?」
車輪が飛んできた方から、雄叫びが聞こえる。
雄叫びといっても、それは若い少女のものであった。
ほむらも、古狩人も声のほうを向けば、異形なる人影が、地面を強く大きく踏み鳴らし、勢いよく駆け寄ってくるのが見えた。
この奇妙なる街、ヤーナムを基準にしてもなお、奇妙と言える姿だった。
顔を包むのは、表面に絡み合う
首元襟元には白いレース。金の刺繍の入った黒革の外套に、血のような赤地の上衣に脚衣。全くもって、この上なく貴族的な、同時にどこか退廃的な装束。両手を包むのは銀の手甲。両手に握られているのは、より奇妙なことにどうも日本刀と見えた。腰元には、その鞘も見える。
相手を斬る前から既に刃に血を滴らせる長刀を、走る怪人は叫びとともに振り下ろす。
狙いは曲刀の古狩人だが、例の奇妙な加速を使いもせず、軽く身をずらすことで一撃を避ける。
怪人は意に介すること無く、刃で地面をたたきながら、その勢いでさらに奥へと駆けた。
向かう先は、祭壇に突き刺さった車輪。そこに備わった取っ手を握り、駆ける力をそのまま込めて、一息に持ち上げ担ぎ上げる。例の日本刀は、左手にだらりとぶら下げられていた。
「――はっ!」
怪人は古狩人のほうを見れば――顔の向きから、ほむらは推測した――仮面の下で鼻で嗤う。
「よく避けたと思うけどさぁ! 次はそうはいかないよ!」
「!?」
顔は見えずとも、その声にほむらは聞き覚えがあった。
彼女にとっては、あまりいい思い出が多いとは言いかねる、その声の主は。
「……美樹さやか」
そう、彼女に他ならない。
不意に呼ばれて、怪人は仮面を声の方に向け、ここで初めてほむらの姿に気づいたのか隠れても解る驚きを体全体に浮かべた。
「転校生じゃんか!? なんでここに!? てか、アンタも狩人ぉっ!?」
それはこちらが聞きたいと、ほむらが思うのと同じ言葉を、仮面の怪人、美樹さやかは言ったのだ。
【Name】美樹さやか
【装備:頭部】カインの兜
【装備:胴体】騎士装束
【装備:腕部】カインの籠手
【装備:脚部】騎士の脚衣
【右手武器1】ローゲリウスの車輪
【右手武器2】なし
【左手武器1】千景
【左手武器2】なし
【所持アイテム】女王の肉片
【カレル文字】穢れ
【秘儀】???
【ソウルジェム発動】???
全狩人の夢、両手で二つの仕掛け武器持ち
ゲームシステム的には無理でも、文章媒体ならば可能なのです