鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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10話 ゲヘナを終えて 

 ナザリック地下大墳墓 第十階層『玉座の間』

 

 アインズは王都の宿でしばらく転げまわり、枕に顔を埋めて叫んだりし、ようやく落ち着きを取り戻した。そろそろ時間だ、とパンドラに身代わりをして貰いナザリックへと帰還した。

 

 玉座の間には既に、第四、第八を除く階層守護者に、セバス、ナーベラルを除くプレアデスに、主だった僕が玉座に座る至高の主の前に跪いていた。

 

「皆良く集まってくれた、面を上げよ」

 

 アインズの言葉に全員が一糸乱れぬ動きで顔を上げる。────そんな中、一人の悪魔だけが未だに額を地に付けている。

 

 至高の御方の言葉に従わない様に、周りから殺気にも似た視線が走る。────と言うより、アインズが玉座の間に戻る前からも、殺気程ではないが敵意にも似た視線をこの悪魔は一身に受けていた。

 だが、その悪魔はそれも当然なのだと、甘んじて冷たい視線を受け止めていた。

 

 その悪魔は強欲の魔将(イビルロード・グリード)

 

 叱責しようとしたアルベドをアインズが軽く手を振り静止し、再度の命令でようやく強欲の魔将(イビルロード・グリード)の頭を上げさせる。

 そして、彼をこのままの状態で置いておくのを不憫に思い。

 

強欲の魔将(イビルロード・グリード)よ、報告の前にお前の働きに報いようと思う。何か望みの褒美はあるか?」

 

「!?……そ、そんな、褒美など。……命令とはいえ至高の御方の玉体を傷つけた我が身。……いかような罰をも……」

 

 これである。アインズが予想していた通りの返答が返ってくる。

 ナザリックの僕達は、至高の存在に尽くすのを至上の喜びとしている。意識改革を進めてはいるが、僕によっては時間が掛かるだろう。────その対策も考えてある。

 

「お前の働きには非常に満足している。他の者には出来ない事をやったのだからな。望む物がないと言うならこれを褒美としよう。お前に丁度良いだろう」

 

 アイテムボックスから大鎌を取り出す。

 <死神の鎌>。ユグドラシル時代に、オーバーロードのモモンガに良く似合うと、ギルメンから貰ったアイテムだ(装備は出来なかったが)。副次効果に即死が内包されており、強欲の魔将(イビルロード・グリード)の持つ大鎌と使い分ける事が出来る。

 

「受け取ってくれるな」

 

「おお!……かような物を。感謝致しますアインズ様」

 

 アインズの、「受け取るしか選択肢はないぞ!」、という言外に告げる言葉と雰囲気に従い、アインズからメイドが受け取り強欲の魔将(イビルロード・グリード)へ恩賞が渡される。

 強欲の魔将(イビルロード・グリード)の、いつまでも満たされない欲の塊のように赤く光る瞳が、初めて満たされたように淡く揺らめく。

 至高の御方が使っていたアイテムを授かったことにより、周りからの冷たい視線は嫉妬を多分に含んだ羨望の眼差しに変わっていた。 

 

 アインズがこのように大勢の前で行ったのには勿論理由がある。

 会社の表彰式のように皆の前で功を労うことで、全員の士気を高めるのだ。

 皆も事情は理解はしているだろうが、強欲の魔将(イビルロード・グリード)の役目を思えば周りから冷遇されかねないため、イの一番に褒章を渡すことにした。

 他の者の褒章は後程行う予定だ。

 

「ではデミウルゴス。報告を」

 

 進行役のアルベドが促す。

 

「はっ。まず八本指はこちらが掌握することが出来ました。これにより現地通貨や物資等、八本指が蓄えていた全てが手に入りました。これは王国の国家予算を大きく超えるかと。幹部連中には教育(・・)を施し、ナザリックに絶対の忠誠を誓わせる予定です。六腕については、現地では強力な戦力ということで、教育とは別に鍛錬も行っていきます。これにはコキュートス主導で蜥蜴人(リザードマン)と協力して当たります。王国が受けた被害ですが、一部の家屋の崩壊や負傷者などはありましたが、死亡者は……ゼロです」

 

 デミウルゴスの報告にアインズは安堵の息を秘かに零す。犯罪者などはともかく、一般人に危害を加えるのは鈴木悟として許容出来なかった。────デミウルゴスの報告は続く。

 

「王国側の見解ですが。今回の事件は一部の八本指が起こした騒動と結論付けたようです。ドッペルゲンガーの自演、兵士への成りすましによる偽情報により行方不明者は数千人から一万と判断したようです。また、王国を救った冒険者モモンの名声が高まり、知らぬ者が居ないほどになるでしょう。魔法詠唱者としてのアインズ様の援助も、国王に伝わり、カルネ村に続き更に恩を売る事が出来ました」

 

「素晴らしい!良くやってくれたデミウルゴス」

「ははっ!ありがとう御座います。主の望みに応える事こそ我が望み」

 

 アインズは正直無茶振りしてしまったと思っていたが、デミウルゴスは完全に応えてくれた。

 ならば、と褒美を渡す段階になる。

 やはり予想通り素直に受け取ってくれないデミウルゴス。

 というよりナザリックの僕の殆どがそうなのだ。

 だからデミウルゴスにはウルベルトさんから貰ったマジックアイテムを褒美とした。

 相手が喜びそうな物が分かる場合はこうして物でどうかと提案する事にした。

 

 今回の褒美は、計画に加わった者全員に渡す予定だ。その中で特に良い働きをしたとアインズが判断した者にはアインズが直接褒美を渡そうと考えていた。例えば眷属を使って情報収集に努めた恐怖公は、上司に当たるシャルティアから。直属の上司がいない場合は作戦主導のデミウルゴスか、守護者統括のアルベドからというように。

 アインズが直接褒美を渡す事にしたのはデミウルゴス、セバス、プレアデスの六人、強欲の魔将(イビルロード・グリード)の計九人だ。アルベドとシャルティアは補佐的な役割をしていたのと、また暴走しないか不安だったため保留にした。────正直スマン。

 

 セバスはツアレの服や日用品などを求めてきた。セバスらしいなとつい頬が緩んでしまう。

 

 プレアデスは何をあげたら喜ぶか分からない、なにより今は思いつかない────ということで後程改めて聞く事となった。 

 

 

 

 日が昇り始める前に、ナザリックから再び王都の宿へ戻りモモンに扮したパンドラと入れ替わる。

 その際に潜伏中の僕が拾ったとヘルムの破片が渡されたので、<修復(リペア)>を使い、露になった部分を補修する。

 <修復(リペア)>は壊れた物の応急処置をする魔法で、耐久限界が若干下がるために頻繁に使うことは出来ないが、今は傷だらけの鎧もとりあえず良しとする。

 朝一にモモンの部屋にレエブン候の遣いが来る。

 王都へと送ってくれた魔法詠唱者。レエブン候が手配してくれた者達がエ・ランテルまで帰りも送ってくれる事になっているが、昼頃になるとのこと。事件の後始末と魔力の回復が理由なようだ。

 依頼報酬も受け取り、忙しいのか早々に使者は部屋を出て行った。

 

 

 一階の酒場兼食堂にナーベと降りると、『蒼の薔薇』が出迎えてくれた。

 

「あ、……おはよう御座います。モ、モモンさん、ナーベさん」

「よう。おはようさん」 

「やっ」

「おっほ」

「モモン様!おはよう御座います。ナーベもおはよう」

 

 五人が一斉に朝の挨拶をしてくる。

 

「……皆さんおはよう御座います。昨夜はゆっくり休めましたか?」

「おはよう」

 

 ナーベもちゃんと挨拶を交わす。モモンは昨夜の事を思い出してしまいラキュースの顔をまともに見ることが出来なかった、ラキュースも心なし顔が赤くなっている。

 

 朝からテンションの高いイビルアイに薦められるまま彼女の隣の椅子に腰掛ける。反対側にナーベが座る。

 

 『蒼の薔薇』はこれから王国上層部等に、悪魔騒動の顛末を報告する事になっているらしく、今日にもエ・ランテルに帰るモモンの見送りには間に合わせると息巻いている。────主にラキュースとイビルアイが。

 

「モモン様は空いた時間をどう過ごすのですか?」

「……そうですね。……少し王都を見て周り、短い時間でも復興を手伝おうかと考えています」

 

 死傷者はいなかったが、家を失うなどの被害を受けた人達もいる。国から保障してもらえるらしいが、ナザリックの行いで出た被害をしっかりと目に焼き付けるために。────例えそれが自己満足だとしても。

 

 しばらく談笑する。

 

「では、私達はそろそろ王城へ向かいます。ラナーにもちゃんと報告しないといけないし。……いつかまたお会いしましょうモモンさん」   

「じゃね」

「美女との別れは辛い。……またね。ナーベさん」

「それじゃあな、お二人さん。……ほれ、イビルアイ。いつまで旦那に引っ付いてんだよ。さっさと行くぞ」

「あああああ!……放せガガーラン。もう少しモモン様と」

 

 猫のように首の裏を掴まれ持ち上げられ暴れるイビルアイにラキュースが口を尖らせながらぼやく。

 

「全く……貴方は転移魔法でいつでも会いに行けるじゃない。……私だって……ブツブツ」

 

 最後の方は誰の耳にも入っていない。リーダーとして自らの果たすべき役目を全うしようとするが不満そうなラキュースがそこにいた。

 

 

 『蒼の薔薇』を見送った後、ナーベを連れて倒壊した家屋の片付けを手伝っていく。

 モモンの怪力と、<飛行(フライ)>を使って手伝うナーベの姿に、街の民衆は感謝を述べた。

 それを申し訳なく思いつつも手を振って声援に応えていく。

 

 

 そろそろ時間が差し迫り集合場所へと向かう途中。

 裏路地から走って来た小さな男の子がモモンにぶつかり尻餅をつく。それはみすぼらしい襤褸の服を着ている浮浪者だった。

 モモンは手を差し伸べ────

 

 

 

***

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国、王都。その最も奥に位置し、外周千四百メートル、二十もの円筒形の巨大な塔が防衛網を形成し、城壁によって広大な土地を囲んでいるロ・レンテ城。

 その中にあるヴァランシア宮殿。大きく分けて三つの建物の内の最も大きい王族の住居として使われる宮殿の中の一つの部屋。

 豪華ではあるが、派手ではない────そんな部屋の、窓の近くに置かれたテーブルの席に座っている金髪の二人の淑女。部屋の主ラナーと『蒼の薔薇』のリーダーラキュースである。

 

 ヤルダバオト召喚によって起こった事件の顛末。蒙った被害の報告をするためにラキュースはラナーの部屋に訪れていた。

 ラナーはレエブン候からの情報も合わせて精査し、ラキュースに伝え終わったところであった。

 それはデミウルゴスが情報操作した通りの結論に至った。

 

 いくらラナーがデミウルゴスやアルベドに比肩する頭脳を持っていようと知識に無い存在を看破することは出来なかった。

 戦士長が絶対生きて帰ってこない任務から生還することが出来た、協力者アインズ・ウール・ゴウン。冒険者モモン。クライムに手解きをしてくれたセバス。────そして悪魔ヤルダバオト。

 ここ最近だけでありえないような強者が世に現れている。そこに何か関係性があるのでは?と違和感を覚えるものの、確証までは得られていない。

 

 ラナーが盛大に溜息を吐きたい衝動を抑えて、カップの少し冷めてしまった紅茶を一口含む。

 

「それじゃあ私達は潜伏したと思われる八本指に当たれば良いのね」

 

 王国が捕らえた八本指の構成員は非常に少ない。幹部クラスは当然、組織の概要を知っている者も皆無で、重要な情報は何一つ得られていなかった。

 そのため貴族の介入もなく、捕らえられた犯罪者には処刑が待っている。────ラナーにはどうでも良いことだが。

 

「ええ、お願いねラキュース。でも無理はしないでね」

 

「分かっているわ」

 

 以前よりも覇気があるように見えるラキュースが部屋を後にする。

 

 最初は『蒼の薔薇』五人で来ていたが、彼女達の見解の聞き取りが終わると「今ならモモン様の見送りに間に合うかも」というイビルアイの退場を機に、ラキュースを置いて全員退室して行ったのだ。

 ラキュース以外のメンバーは畏まった場というのは苦手なのだ。

 なお、モモンに会えず盛大に凹んでいるイビルアイの姿が目撃されたのはまた別の御話。

 

 一人になったラナーはハイライトが消えた目で窓から見える町並みを見下ろす。

 視界には映らないが、今も悪魔が残した傷跡を埋めるように復興を行っているだろう。

 元通りになるのにはまだ時間が必要だろう。

 

 アインズ・ウール・ゴウンとモモン。二人共仮面とヘルムで顔を隠している。

 同一人物という可能性も考えたが、戦士と魔法詠唱者を両立するのは不可能。どちらも中途半端にしか成れないとラキュースから聞いているため否定するが、なにかしらの関係性は否定出来ない。

 

 自分自身が自由に外に出られたらどんなに良いか。

 部屋から出られない身で、メイドとのちょっとした話だけで王国貴族の実情等は丸裸に出来るが、二人に関してはいかんせん情報が少なすぎる。

 特に魔法詠唱者(マジック・キャスター)のアインズ・ウール・ゴウン。

 王国での魔法詠唱者(マジック・キャスター)の地位は低い。貴族達の間では彼ら魔法を扱う者とは、詐欺師か手品師のように扱われているためだ。

 ただ分かるのは、無垢な一般人を優先して助ける行動から善人であること、そしてアダマンタイト級を超える強大な力を有しているぐらいしか断定出来ない。

 

 ラナーはどのような状況にも対応出来るように、様々な推測、仮定を頭の中で行い策を考え、破棄、保留を繰り返していく。

 自身の望みを叶えるために。

 

「……はぁ」

 

 どんなに策を考えても王国の未来は暗い。レエブン候と協力して兄のザナックを王位に就かせるぐらいしか有効な手が打てない現状に深い溜息が零れた。

 

 

 

***

 

 

 

 絢爛豪華という言葉を体現する部屋があった。

 敷き詰められた真紅の絨毯は柔らかく、足首まで埋まりそうな感覚を抱かせる。

 室内に置かれた二人掛けの長椅子には一人の男性がすらりと伸びた長い足を放り出し、深々とかけていた。

 金の髪は星々の輝きを浮かべており、切れ長の濃い紫の瞳はアメジストの如く、目にする者をひきつける。

 だが眉目秀麗な容姿よりも、生まれながらに絶対的上位に立つ者だけが漂わせるオーラは『支配者』、という印象を抱かせる。

 彼はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 齢二十二にしてバハルス帝国現皇帝であり、歴代最高と称される皇帝である。また多くの貴族を粛清したことから『鮮血帝』と近隣諸国に恐れられる人物であった。

 

 室内には秘書官と直立不動の従者たる四人の男の姿もあったがジルクニフは気にした様子もなく、王国の内通者からもたらされた書類を読んでいた。そんな時────

 

 ────ノックもなしにドアが開かれる。

 無礼な態度に従者達は警戒を露にするが、入室者を確認すると元通り警戒の構えを解いた。

 

「厄介ごとですぞ」

 

 入ってきたのは、自らの身長の半分ほどの長さを持つ白髪をたたえた老人だ。まとっている純白のローブや装飾品を見れば誰もが魔法詠唱者だと思うだろう。

 事実この老人こそ、帝国至上最高位の魔法詠唱者、主席宮廷魔術師である大賢者。

 『三重魔法詠唱者(トライアッド)』フールーダ・パラダインである。

 

「どうした?じい」

「調査しましたが、発見は不可能でした」

「つまりどういうことだ?」

「……陛下。魔法もまたこの世界の理。知識を────」

「ああ、分かった。分かった。じいの説教は長い。単刀直入に言ってくれ」

「本当にアインズ・ウール・ゴウンが実在する人物であれば、かなりのマジックアイテムを所有、もしくは己の力で探知を防いだのであれば、私と同等、あるいはそれ以上の魔法の使い手かと」

 

 皇帝と老人を除き、室内に緊張感が生じる。

 

「なるほどな。だから嬉しそうなのか、じい」

「当然です。私と同等、もしくはそれ以上の魔力系魔法詠唱者ならば、ぜひ会って魔術について討論したい御仁ですな」

 

 ジルクニフは知っている。フールーダの夢を。

 フールーダは魔術の深淵を覗きたいのだ。そのために自分の先に立つ者に師事を乞いたいのだ。

 後の者は、誰かが切り開いた道を進めばよい。より効率的で最適なルートを歩むことで無駄なく成長出来る。

 弟子を育成するのも、自分を超える人物が生まれ、引っ張り上げてくれないかと考えているためだ。

 

 ジルクニフは一枚の紙を突きつけた。

 それには王国でガゼフ・ストロノーフが王の前で語った内容が記載されていた。

 

「ふむ……それで陛下、この村には誰かを送ったので?」

「いやまだだ。帝国の者を送れば目立ってしまう」

「私の弟子を……いやこの書簡が事実であれば、友好的な関係を築きたいものですな」

「その通りさ、じい。制御の利く強者なら、帝国に迎え入れたいからな」

 

 さらにもう一枚の紙をフールーダに突きつける。

 

 訝しみながら目を通したフールーダは驚愕に目を見開く。

 

「先に言っておくが、それは先ほど王国に送り込んだ間者から<伝言>(メッセージ)で入ってきた情報を整理したもので信憑性はないぞ」

 

 <伝言>(メッセージ)の魔法はこの世界では信用されていない。

 距離が離れれば離れるほどノイズ混じりで聞き取り辛く。過去に<伝言>(メッセージ)によるたった三つの偽情報のために国が滅んだ経緯があったからだ。

 だが書簡や人などの情報は早馬を使ってもかなり時間が掛かる、そのため緊急の場合などはまず<伝言>(メッセージ)を使い、後にその情報を精査していた。これはなにも帝国に限ったことではない。

 

 渡した紙には、王国で起こった悪魔騒動について大雑把に書かれていた。

 難度200を超える大悪魔。

 八本指が起こした事件。

 悪魔を討伐したアダマンタイト級冒険者。

 

「王国は遠いからな、ノイズ混じりで分かったのはそのぐらいだがとても信じられんな」

 

 フールーダも信じられなかった。十三英雄が討伐して回った魔神でもそんな強さを持つ者は聞いたことが無かった。フールーダが知らないだけで実際は居たのかもしれないが。

 

 場の空気を変えようと最も優秀な秘書官、ロウネ・ヴァミリネンに瞳だけ向ける。

 

「ロウネ。お前はイジャニーヤに依頼出来る伝手があったな」

 

「はい陛下。確かに伝手は御座いますが。……誰か暗殺でもされるのですか?」

 

 イジャニーヤとは帝国を中心に知られる暗殺集団で雇うにはかなりお金がかかる集団だ。ジルクニフが帝国に取り込もうとしていたが接触できず、取り込むのは非常に困難だということがわかった経緯がある。

 

「まさか……暗殺が得意なら隠密にも長けているだろう。そいつ等を使ってこのカルネ村を調べさせようと思ってな」

「なるほど、……確かに帝国所属の者より有用かも知れませんが、情報収集だけの依頼を受けてくれますかね?」

「断られればそれはそれで構わんさ。……ただ我々が動いていることを悟られないよう適当な貴族名義にしておけよ。受けるならば敵対行動は御法度だともな」

「畏まりました。陛下」

 

「さて、アインズ・ウール・ゴウン。一体どんな人物かな」

 

 有能であれば平民からも騎士に取り立てる若き皇帝は、実に楽しそうに笑っていた。

 

 

 

***

 

 

 

「我が眷属に新鮮な肉を与えて貰えて、アインズ様に感謝せねばなりませんな」

 

 ナザリック地下大墳墓第ニ階層にある黒棺(ブラック・カプセル)の領域守護者。名を恐怖公。

 金糸で縁取られた真紅のマントを羽織り、頭に黄金に輝く王冠をのせ、先端部に純白の宝石をはめ込んだ王笏を持った直立する30センチのゴキブリである。

 

 恐怖公の傍で同じ組織の幹部がゴキブリに内部から貪り食われている様を見せ付けられたヒルマはこの世の地獄のような光景にガタガタと全身を震わせていた。

 

「いや、いやあああああ!……お、お願いします!なんでも!……なんでもしますから!」

 

 彼女はまだゴキブリに纏わり付かれてはいない。そんな彼女に貴族然とした声色で言う。

 

「ご安心下さい。死んだりしないようちゃんと治癒魔法を掛けますぞ」

 

 そういう問題ではない。見た目のおぞましさに似合わない声に反発し、狂ったように声を張り上げてヒルマは懇願する。

 

「お願いします!逆らったりしません!ほ、本当になんでも!……どんなことでもしますから!」

 

 ふむ。となにか考えるように手?を顎?にやり考える素振りを見せる。

 

(我輩に与えられた使命はこの者達の心を折ること。眷属達への餌は十分に食べさせられた。アインズ様に絶対の忠誠を誓うなら……)

 

「では貴方に確認させてもらいますぞ……至高の御方であるアインズ様に絶対の忠誠を誓いますか?」

 

 

 

 

 

 

「弱イ。コレデ王国最強ノ武闘集団トハ」

 

 第六階層『円形闘技場(コロッセウム)』。

 コキュートスの前には八本指、警備部門の六腕が全身ズタボロにされて転がっている。

 八本指が掌握している王国の実態や勢力を利用するため、まず心を折る段取りとなった。

 主に恐怖候や特別情報収集官のニューロニストなどのナザリック五大最悪がその役目に就いている。

 その中でコキュートスは六腕を相手にするように、とはデミウルゴスの進言だ。

 この者達のように、自分の強さに絶対の自信を持っている連中には力を見せ付ける方が有効だという。

 自身を一本の剣として振るうのを信条としているコキュートスにとって、主人のために武を振るえるのは喜ばしいことだ。────だが。

 

(モウスデに折レ掛カッテイルナ。コノ程度トハ、コレデハ蜥蜴人(リザードマン)達ノ方ガ気骨ガアル……イヤ)

 

 見れば剥げ頭のモンクの目だけはまだ闘志を失っていない。

 

「オ前達、回復シテヤレ」

 

 治癒要員の僕に命じる。アンデッドもいるため負のエネルギーを扱える僕も当然いる。

 武人として弱い者イジメは趣味ではないが、主を不快にした連中に容赦する者などナザリックには存在しない。

 

(アインズ様モコイツ等ノ技ヲ確認スル為見テオラレル)

 

 主に無様な姿を晒す訳にはいかないと、殺さないよう手加減しながら武器を振るう。

 制限された戦いで己の技量が上がっているのをコキュートスは感じていた。   

 

 

 

 

  

   

 

 

 

 




オバロアニメ三期御疲れ様でした。



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