鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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前回短かったので早めの投稿。


13話 とあるナザリックの日常

 アインズはナザリック地下大墳墓の通路を歩いていた。

 その後ろにはセバスが付き従っている。

 二人が目指しているのは同じ九階層にある『スパリゾートナザリック』。男女合わせて九種十七浴槽を持つ場所だ。

 

 ナザリックには幾多もの湯浴みできる場所があるが、その中でも最大の浴槽が目的地だ。

 一人で入るのは味気ないと思ったアインズは男性守護者に回覧板を廻し出欠をとった。

 内容は男性守護者各位とあり、日ごろの働きに対する労いと賛辞が書いてあり。一言で要約すれば「一緒に風呂でも行って疲れを取らないか」という誘いだ。

 最初にデミウルゴスに渡したため、彼が全員の仕事の内容を把握し、調整したらしく欠席者はゼロ。

 参加者はアインズ、セバス、デミウルゴス、コキュートス、マーレの五人。

 セバスは執務を行っていた時、ちょうど傍に控えていたから一緒に向かっていた。

 ちなみに内緒という訳ではないが女性守護者には伝えていない。

 埃一つない綺麗に掃除されている通路を静かな足取りで歩き、セバスがアインズに話しかける。

 

「アインズ様。ツアレの件なのですが……寛大な処置、誠にありがとう御座います。ツアレもアインズ様にとても感謝しておりました」

 

 改めて言うという事はツアレを助けた件ではなく、ツアレの妹のニニャと合わせた件だろう。

 

「気にするな。ツアレは慣れない環境で良く働いているのを知っているからな。その褒美のようなものだ」

 

 アインズの本心はそれだけではなく、彼ら『漆黒の剣』を気に入っていたのもあった。

 さらに彼らが強くなり活躍すれば、それを助けたモモンの名声を確固としたものになるだろうという狙いもあった。────まあそれはナザリックの皆への方便みたいなものだが。

 

 そんなことを考えつつ目的地に到着したアインズは、想像もしていなかった人物を目にして驚く。

 

「アインズ様♡」

 

 喜色満面な声を上げたアルベドだ。その後ろにシャルティアとアウラの姿もあった。

 デミウルゴスとマーレの姿は見えない。脱衣所で待っているのだろうか。

 

「お、お前達。どうしてここに?」

「え? 三人で休日を過ごしてまして。皆でお風呂に入ろうと思って来ただけなんですが……アインズ様もですか?」 

「あ、うん。……その通りだアルベド、奇遇だな」

「ほんと、奇遇ですね。……宜しければ私もアインズ様とご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」

 

 すすっと、百レベル戦士職に相応しい動きで近寄ると、アインズの胸元に指を伸ばし、文字を描きだす。

 アルベドの頬は赤く、瞳は濡れている。香り立つ芳香が漂ってくる。ベッドで嗅いだことのある気がする、そんな香気だ。

 

「宜しくないな。……女性同士で入りに来たのだろう?私も今日は男性守護者達と入るのだからな」

「あ~ん。いけずなお方」

 

 クネクネと身体を身悶えさせるアルベド。

 シャルティアを抑えようとしてバタバタと暴れているアウラに顔を向ける。

 

「アウラ、お前を二人の監視員に任命する。変な事をしないように見張ってくれ」

「畏まりました」

 

 アウラの瞳に激しい炎が吹き上がった。燃えるような熱波にアルベドとシャルティアは動揺している。

(ここに来るまでになにかあったのか?……それにしても……一緒に風呂か)

 

 一度身体を重ねた関係と言えど、女性と風呂とは鈴木悟にとって少々ハードルが高い。

 親友の娘のような存在であるのもあり、いまだこの世界の立ち位置すらはっきりしない現状では彼女達の想いに応えるのは────複雑すぎた。

 

「お待たせしました」

 

 脱衣所の前でワチャワチャしているとデミウルゴスが現れた。マーレとコキュートスも一緒だ。

 

「待ってなどいないさ、私も丁度来たところだ。女性組もゆっくり浸かるといい。では行こうか」

 

 姦しい三人を置いてさっさと風呂に向かう男組。

 

 アインズを先頭に中に入る。

 

「先ずは体を洗わないとな」

 

 いきなり湯船に入るのはマナー違反だ。

 全員洗い場で横に並んで洗い始める。並びは右からセバス、アインズ、マーレ、デミウルゴス、コキュートスだ。

 

 三吉君はいない、人骨の体を持つアインズが何とか自分の体をキレイに洗うためタオル、ブラッシング、洗濯機などの試行錯誤の末に、スライムに体を這いずり回らせる方法を採用した蒼玉の粘体(サファイア・スライム)の三助なのだが、彼は今一般メイドの手伝いで掃除が主な仕事だ。

 カルネ村に配置するのもアリかも知れないとアインズは考えていた。

 

 左腕を洗っていたアインズにマーレが声をかける。

 

「あ、あのアインズ様。お背中を流させてもらって、よ、宜しいですか?」

「ん?……そうだな、そういうのも良いかもな。では頼んだぞ、マーレ」

「は、はい!」

 

 体つきも子供らしくプニプニしているマーレに背中を洗ってもらうのは、正に子と親のやり取りのようだと感じる。

 マーレに背中を向けるとセバスの姿が見えたアインズは一つ閃いた。

 

「そうだ。皆私と同じように体を右に向けろ」

 

 全員が主人の命に疑問を持たず右を向く。

 

「そうしたら自分の前にある相手の背中を洗うのだ。端にいるセバスはじっとしていろ。しばらくしたら逆向きになり同じことを何度か繰り返す」

「なんと!?至高の御方に洗って頂けるなど、執事にあるまじきこと。されどこれは……」

「ア、アインズ様のお背中って広いんですね」

「ふぁ!?ちょ、ちょっとコキュートス!貴方のタオル少し凍ってますよ」

「オットスマン、デミウルゴス。私ハドウモ熱イ湯ハ苦手デナ」

 

 何度か繰り返し皆で洗い合う姿は家族か、中の良い友人同士のような光景であった。

 コキュートスの背中を洗ったデミウルゴスがマーレを洗い、冷気を帯びたタオルに「うひぁ」と叫ぶマーレの姿があったりしていた。

 

 五人で湯船に浸かって満喫していると、女湯の方が騒がしくなり「腐れゴーレムクラフターがぁ」などの声が聞こえてくる。

 

「やれやれ、風呂ぐらいゆっくり入りたいものだな」

 

 アインズの呟きに四人がしみじみと頷く。

 

 その後ナザリック一の問題児が製作したゴーレムは撤去された。

 

 

 

***

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層 『BARナザリック』。

 

 デミウルゴスがコキュートスを連れて来て、静かに酒を飲んでいた。

 

「ココハ初メテ来タガ静カデ良イ場所ダナ、感謝スル、デミウルゴス」

「なぁに気にすることはないさ、友と酒を飲むのも悪くないと思っただけさ」

 

 ナザリックに休暇制度が取り入れられてから、デミウルゴスはたまにここを訪れていた。今回は休暇の過ごし方が分からないと言うコキュートスを誘ってみたのだ。

 

「ピッキー。随分嬉しそうだが、何かあったのかい?」

 

 ナザリック地下大墳墓で働く二人の料理人のうちの一人、ドリンク担当の茸生物(マイコニド)である。普段は食堂で仕事をしているが、曜日と時間によっては九階層にあるバーのマスターとして腕をふるっている副料理長。

 見た目があるキノコに似てることから、あだ名は「ピッキー」。

 キノコであるために表情を読み取る事が難しいが、顔を歪めたりして感情表現をすることが出来る。

 デミウルゴスから見れば明らかに上機嫌だというのが分かった。

 

「おや、顔に出ていましたか?ナザリックに所属する者が喜びを感じる事と言えばあの方に係わる事しかないでしょう」

 

 あの方というのがアインズを指していると言うのは当然デミウルゴスとコキュートスにも分かる。

 

「私は嬉しいのですよ。ようやく私の作るドリンクをアインズ様に口にしていただけたことが。料理長もあまりの嬉しさから涙を流していました。この前も御一人で色々飲んでいかれましたよ。」

 

 仲間想いのデミウルゴスもコキュートスも御方のために働ける喜びは痛いほど分かる。

 この地に転移してからの二人の料理人を思うと思わず貰い泣きしそうになっていた。

 

「これをどうぞ。十種類のリキュールを使ったカクテル「ナザリック」です。まだ未完成ですがアインズ様も大変喜んでおられました」

 

 二人の前に十色十層のカクテルが置かれる。

 

「ナザリックニ」

「アインズ様に」 

 

 チン、とグラスを合わせ飲んでいく、確かに美味いがナザリックの名を冠するにはまだまだだと二人は思う。副料理長もそれは自覚しており、日々研究していた。

 

「トコロデデミウルゴス、私ガ管理シテイル蜥蜴人(リザードマン)ノ地ノ事ナンダガ、相談ガアル」

「いいとも、何があったんだい?」

 

 コキュートスはこれまで幾度となくデミウルゴスに相談していた。

 武人として創られたコキュートスには統治に関しての知識が無く、非常に戸惑っていた。

 だが、友の助言を貰い、生簀の拡大やインフラ整備などを行い学び、徐々に統治者としても成長していた。

 

「アノ地ノ広場に奉ッタアインズ様の像ヲドウスレバ良イト思ウ?」

「……ふむ、像か……」

 

 それは蜥蜴人(リザードマン)の地に作ったアインズの像。

 問題はその像の姿がアンデッドの姿である事だった。

 今のアインズは人間となりアンデッドに戻ることはないであろう。

 では壊せば良いかと言えばそれは違う、たとえ過去の姿と言えどそれもアインズであることに違いは無い。

 しかし今と違う姿の像をそのままにしておくのもどうかとも思う。

 

「……難しい問題だが、そのままで良いと私は思うよ」

「ム、ソレハ何故ダ?」

「これからアインズ様はこの世界に打って出る、そうなれば数々の偉業を成されるだろう、その時は今の御姿で威光を示されることになる。アンデッドであったアインズ様を奉る地があっても良いんじゃないかい。トブの大森林はほぼこちらが支配しているし、部外者は入ってこないだろう」

「……確カニソノ通リダナ。今ノ御姿ノ像モ作ラセテオコウ」

「それが良いと思うよ」

 

 二人の会話を、グラスを拭きながら静かにしている副料理長。

 彼は話題を提供することもあるが、客同士が話しているときは邪魔をしたりはしない。

 

 二人の会話はスパリゾートの話になっていく。

 

「アノ時ノ皆デ洗イ合ウトイウノハ素晴ラシカッタ、全体ノ信頼ガ高マルノヲ感ジタ」

「ええ全く。アインズ様が行うことはどれも素晴らしいの一言ですね」

 

 あれのお陰で守護者同士の信頼が上がったのを実感していた。デミウルゴスはなぜか嫌いだったセバスとも仲良くなれた気がしていた。

 

「ダガアルベドノアインズ様ヘノ接ッシ方ハ問題アルノデハナイダロウカ」

「それを言うならシャルティアもですよ。まぁ以前ほど暴走してはいないようですから問題ないでしょう」

「デミウルゴス。何ヲ考エテイル?」

 

 友の雰囲気が変わったのを見逃さなかったコキュートス。

 

「君が危惧するような事は考えていませんよ。二人のどちらかが后になろうと応援してますしね。……しかし、君は知っていましたか?ある人間がアインズ様の寵愛を受けたのを」

 

 表情は読みにくいが驚愕した様子から知らなかったのだと理解する。

 

「そういう事実がある以上、アインズ様の好みは人間かも知れません。勿論アルベドやシャルティアにも十分目があると思っていますが、それを決めるのは御方ですし誰も反対意見など言わないでしょう。……しかし、同時に私はこうも思ったのです。この地に生きる全ての者がアインズ様の血を受け継いだらどんなに素晴らしいか、とね」

「オオ!」

 

 デミウルゴスはそんな未来を想い、ニヤリと嗤う。

 コキュートスは沢山の至高の御子に「爺」と呼ばれる姿を想像し完全にトリップしていた。

 

 キュッキュッとグラスを拭く茸生物(マイコニド)も物思いにふけっていた。

 

 

 

***

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層 

 

 温度・湿度ともに過ごしやすい空気で、緑の香りと酸素濃度を濃く感じる場所。ナザリック最大の敷地面積を誇り、大半を鬱蒼と茂る木々が支配している樹海ともいうべき場所。

 空はあるが上空200メートル地点に不可視の壁があり、それ以上先にいけないようになっている。時間と共に太陽が上り昼夜すらある。

 侵入者を迎撃する闘技場や蠱毒の大穴、歪みの木々、塩の樹林、木々にのまれた村跡、底なし沼地帯、そして移住者の為に造られた村などが存在する。

 ナザリック外から移住してきた者たちが住む集落以下の村。畑や果樹園があり、トレント達のために時々マーレが魔法で雨を降らせたり大地の栄養素回復を行っている。

 その村にある一つのコテージにアダマンタイト級冒険者に匹敵すると言われていた六人が住んでいた。

 

「……はあぁぁぁ、今日も疲れた~」

 

 『千殺』マルムヴィストが六人掛けのテーブルに突っ伏しながら脱力する。

 

「はいはい。あんまり愚痴って守護者の方に聞かれても知らないわよ」

  

 ソファーに座るエドストレームのツッコミにビクッと体を震わせたマルムヴィストが慌てて姿勢を正す。

 

「い、いやだなぁ、これは愚痴じゃないですよ。ただ疲れたな~って御方の為に働ける喜びのアレを言っただけですよエドさん」

 

 何故敬語なのか、アレって何だよと言ったツッコミなど態々しない。

 六人ともナザリックに、至高の御方に逆らう気などとうに無くし忠誠を誓っているのだから。

 

 コキュートスに強者としての誇りと心を折られた後、軽い(ナザリック基準)拷問を受け忠誠を誓い、それぞれ自分の長所を伸ばすための訓練を行っていた。

 相手は同じ村に住む蜥蜴人(リザードマン)だったり、魔獣、死の騎士(デス・ナイト)などのアンデッドと色々だ。

 

「発言には気を付けろよ。お前の所為でとばっちりを受けたくはないからな」

 

 背筋が凍り付きそうな或いは墓穴から話しかけられたような、虚ろな響きの暗い声で話しかけてきたのは『不死王』デイバーノックだ。────いや、もうその二つ名は返上している。

 二つ名を聞いた守護者の方々、コキュートス、アウラ、マーレの御三方に「その名を名乗って良いのは御方だけ」と特にボコられていたのだ。

 マルムヴィストはあの時、アンデッドの流すはずの無い涙を見た気がした。

 

「つうかお前は良いよなアンデッドで、恐怖や痛みは無縁だろ。俺なんか教育を受けてる時チビりそうになっちまったよ」

「……いやしっかり漏らしてたろうが。……勘違いしているようだが俺も恐怖も痛みも味わったのだぞ、どうやったのかは分からんがここの方々はそれほど尋常じゃないということだ」

 

「チュウウウ」

「んごおおお」

 

 与えられたコテージに備えられている果実水を兜も脱がずストローで飲むペシュリアン。こいつは普段からあまり口を開かない。

 強さを貪欲に求めるあまり誰よりも激しい訓練を続け、コテージに入るなり隅で爆睡しているゼロ。

 サキュロントは自分の部屋で休んでいる。六腕でも最弱の男は「修練が必要」とゼロと同じぐらいの苛烈な特訓を受けていた。

 

「俺も果実水貰おうかな、エドもいるか?」

「ええ、頂くわ」

 

 マジックアイテムでいつでも冷えている極上の果実水をエドストレームに渡し自身も一気に飲み干す。デイバーノックは飲食が出来ないから最初から気にかけない。

 

「……エドは良いよな。お前の特技、アインズ様に特に気にかけて貰えてよ」

「そうね。私も意外だったわ」

 

 アインズは魔法を使わずに<舞踏(ダンス)>の魔法付与が施されている六本の三日月刀(シミター)を自在に操る技に興味を持ち、<黒曜石の剣(オブシダント・ソード)>を使った模擬戦をしたことがあった。

 <黒曜石の剣(オブシダント・ソード)>は空中に黒く輝く剣を浮かべ、それ自体が意思を持ったように自動で敵を攻撃する魔法。二重化、三重化することで剣の本数を増やすことも出来る。

 強度の問題で、エドストレームの三日月刀(シミター)を強化して、剣のみの空中円舞が行われたのだ。

 

 その後、「空間認識能力」が異常なまでに秀でている事と「右手と左手が各々全く違う作業をする能力」も非常に優れているという、タレントとは違う生来の二つの能力(脳力)を持っているから可能なのだと知ったアインズが、自分の戦闘手段に取り入れられないと理解しガッカリしていた。

 それでも非常に希少な能力なため更なる能力強化を命じられていた。

 

「まぁ、従順にしていれば殺されるどころかこうしてやたらと美味い食事と飲み物もあるし、外には出られないけど休憩や休暇も貰えるんだからな。成果を示せたら褒美もあるらしいぜ。……俺は何を希望しようかな、一人ぐらいあの美しいメイドを貰えないかなぁ」

「……止めておけ、間違いなく殺されるぞ。……違うな、殺されるのはマシな方だろう。他の連中のような拷問を受けるかもな。それより俺のようにマジックアイテムか魔法の知識を望む方が無難だろう。……ああ、早く噂に聞く大図書館に入る許可が欲しいものだ」

 

 デイバーノックは自然発生した死者の大魔法使いであり知性を持つ。生者を憎む一般的なアンデッドとは違い憎しみを抑え生者と関わってきた。

 自身の目的である、より多くの魔法の修得のために、出会ったゼロから「自分の下で力を振るう代わりに、魔法技術を教授してくれる人物の紹介及び適度な報酬の支払いをする」事を承諾し、六腕となった経緯がある。

 

 こうしてちょっとした軽口をたたけるのも、六腕がこの世界では強者の部類であり、どれぐらい強くなれるのかの実験のために強くなろうとする意思が残るよう、かなり加減された教育を受けたゆえに他ならない。

 

 強くなる事に貪欲なゼロと、魔法に貪欲なデイバーノックにとって、このナザリックはある意味理想郷とも言える。

 他の四人もそれぞれ目的があったりしたが、ここを離れようとは思わない。

 恐ろしい場所であるのは間違いないのだが素直に従っていれば案外悪くないのだ。

 ナザリックの存在を知った以上ここを離れて過ごし、また目を付けられたら────発狂するどころでは済まない。

 

 八本指の幹部達は、早々に忠誠を誓ったヒルマ以外、聞くだけで鳥肌が立ち、殺してもらった方が何倍もマシに思える無残な仕打ちを受けていた。あの晩、六腕が揃う屋敷に集まっていた八本指と関係を持っていた貴族の次男、三男坊達も一緒に攫われここではないどこかへと連れ去られたらしい。自分で言うのもなんだが、あの腐った連中も碌な目にあっていないだろう。

 

 その点、ヒルマは自分の館に家督を次ぐ前の貴族を呼んでコネクション作りに励んだり、異常事態でも冷静な状況判断力を損なわないなど、かなりしたたかで、常識よりも自分の予感を大切にしており、それを頼りに人生を歩んできた高級娼婦から八本指の長の一人まで成り上がったほどの女だ。

 そのお陰で軽い拷問とナザリックと至高の御方の偉大さの教育を受けるだけで済んでいる。

 尤も、その機転の良さを俺達や他の者に誇ったりはしていない。先日会った時は少し痩せていた、それぐらいの恐怖は味わったのだろう。

 

「私はもっと女を磨いてアインズ様に気に入られるようにしようかしら」

「……う~ん。お前が魅力的な女だってのは俺も思うけど……無理じゃね?アインズ様の傍に居る女性陣を考えたら。しかも全員アインズ様の寵愛を望んでる感じだぞ」

 

 マルムヴィストの言い分も当然エドストレームは分かっている。

 しかしエドストレームの見立てではナザリックに「踊り子」はいないと見ている。

 だから目を楽しませる「踊り子」として至高の御方の傍に居られないだろうかと考えていた。

 気に入られた代償に、ナザリックの女性陣からの殺意の視線に耐えられるか不安だが、あの方に口利きしてもらえば大丈夫だろう。なにせ『至高の御方』なのだから。

 

 ずっとチュウチュウいっていたペシュリアンが口を開く。

 

「……ナザリックは神の居城。……そしてここを統べるアインズ様は神をも超える至高の御方。……俺はそう聞いたな」

「あ、私も聞いた。色んな神をブチ殺してきた方々がここを創ったって。それをまとめてたのがアインズ様だって」

「……改めて聞いてもとんでもねえとこだな」

 

 そんな存在に目を付けられ、王国で好き勝手に生きて来た自分達の命があるのについ感謝してしまう。

 四人が顔を見合わせ同じ考えをしていたのを理解し、ついつい笑ってしまう。

 

「……そろそろ寝ましょうか。明日の訓練もあるし。ゼロは……運ぶの重たいしほっときましょう」

「可哀想なこと言うなよ。デイバー、風邪ひかないように毛布ぐらい掛けてやってくれ」

「やれやれ」

 

 こうして元犯罪組織の腕自慢達の日々はしばらく続いていく。 

 

 

  

  

  

 

 




風呂会は「うる○やつら」のひとコマからの思いつき。



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