鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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この時期仕事が忙しくなりすぎてまして、疲れから寝オチの連続(へえ~え)
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
やっと落ち着き始めたので更新の方を頑張って行きます。



19話 邪神教団

 水の中を漂っているような感覚。

 周りは暗闇で包まれて一切の光もない。

 感じるのは恐怖。身も心も、魂までも凍り付くような恐怖が絶え間なく襲ってくる。

 苦しい。辛い。ここにはもう居たくない。

 どこか別の場所に行きたかった。

 

 一筋の糸のようなものが垂れ下がっている。  

 闇から逃れるために懸命に手を伸ばし────

 クレマンティーヌは糸を掴んだ。

 

 クレマンティーヌが目を開けた時、視界に入ってきたのは見知らぬ場所だった。

 薄暗い陰気な部屋。

 蝋燭がぼんやりとした明かりを灯しているだけの静かな空間だった。

 

 

 

 クレマンティーヌを蘇らせたのは秘密結社のズーラーノーンだった。

 盟主及び十二高弟は並みの冒険者では歯が立たないほどの存在である。第五位階魔法が使える者が居ても不思議ではない。

 

 目的は十二高弟の一人だったクレマンティーヌから情報を聞き出すのと、表舞台で周辺諸国最強の戦士と言われるガゼフ・ストロノーフを凌ぐ程であった戦力を惜しまれたからだ。

 その強さも蘇生魔法で弱体化してしまっているが。

 

 蘇生を行った幹部はクレマンティーヌが起きた時には既におらず、自分の使命に向かったようだ。

 代わりにクレマンティーヌの前に居たのは、非常に小さく異様な存在で、腰布だけ身に着けた体は肉も脂肪も無いほど痩せており、さらにしわくちゃな姿はミイラを彷彿とさせる男だった。

 

 歯の抜け落ちた口で声は小さく嗄れているため、聞き取り辛いしゃべり方をするミイラっぽい男から色々と問われる事となった。

 

 だが、蘇ったばかりで記憶が若干曖昧、更に判断能力も低下していて詳しく語ってはいない。

 こういう時に余計な発言をすると後で困ることになりそうだ。

 だから漆黒の全身鎧を身に纏った冒険者に殺されたとしか話さなかった。

 

 ズーラーノーンに義理立てするつもりはない。蘇生させてくれたことに感謝はしているが、そもそも法国がイヤで、どこか適当なところは無いかと思っていただけで、完全な気まぐれで秘密結社に入ったのだ。ここなら気兼ね無く趣味の殺人と拷問が出来ると。 

 自分を殺した本当の姿、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)に似たアンデッドのことは話していない。

 話せばいきなり目の前に現れそうで怖かったのが一番の理由かもしれなかった。

 

 弱体化した肉体を鍛え戻すまで、ミイラっぽい男に勧められ帝都にある下部組織で働くことになった。

 

 邪教集団。

 

 ズーラーノーンが帝国における下部組織として運営するために作り出したものである。邪神という存在は元々、スレイン法国では信仰されている闇の神が他国では信仰されていないという面を利用して作りだしたもので、行っている儀式も適当なものであった。

 

 貴族達の弱みを握るために行わせている生贄の儀式も人間を殺させていただけにしか過ぎない。

 

 信者が求めるもの。 

 

 生まれた瞬間から死に向かって歩を進める。それが生物である以上、避けることのできない宿命である。肉体は衰え、精神も弱くなっていく。しかし、それを受け入れられるかというと、それは別問題だ。

 誰だって何時までも若さを保ち、美味いものを食べ、美麗な異性に囲まれたいものだ。もしこれが一度も経験したことがないのであれば、我慢できたかもしれない。

 しかしこの場にいる者は、そんな欲望を上位貴族として経験してきたからこそ、喪失するのが惜しくなってしまっていた。

 だからこそ魔法に手を出し、薬物に手を出し、そして信仰に身を染めた。

 

 それがこの邪神を信仰する教団の正体である。

 

 しかし適当な儀式で、居もしない邪神に信仰を捧げても願いが叶う訳もない。 

 

 生贄の手はずを整えたり、この邪神殿の管理に当たっていたズーラーノーンの神官が、いつまで経っても望みを叶えられず、次第に信仰心の薄れていく信者をなんとかするため、生贄にそれらしく振舞える高貴な血を求めた。 

 すなわち貴族の血。

 

 帝国上層貴族が幾人も信者として参加しているため、その伝手でとある没落した貴族の情報が入る。

 その貴族に金貸しをしていた男に話を通し、金を渡して娘二人をここに連れて来ていた。

 

 帝都に来てから何度かズーラーノーンの幹部として神官と会い、儀式を見守っていたクレマンティーヌもいい加減この茶番に嫌気がさしていた。

 

 彼女は出来るだけ遠くに行きたかった。帝国というエ・ランテルの近くではなくもっと遠くへと。

 

(こんなところに居て、いつあの化け物が現れるか分からないってのに)

 

 冒険者は国の政には束縛されない。国を跨いでもなんの問題もないのだ。

 なら何故さっさと逃げなかったかといえば、ミイラっぽい男の目があったからだ。

 その男も今は別の用で帝都にいない。

 

(様子見してたけど、これは信用されたと考えるべきか?今日のが終わればしばらくは儀式も無いだろうし)

 

 そこまで考えて行動は早い方が良いと、今夜にでも帝国を去ろうと決意する。

 

 そして、逃亡した先では大人しく過ごそうと。

 もうあんな恐怖は味わいたく無い。

 性格破綻者と言われた殺人狂も、謎のアンデッドから与えられた恐怖、『死』そのものの存在からの絶望はもう二度と思い出したくない。

 平穏に生きていればいつか忘れられるかもしれない。そのためだったら殺人も拷問も我慢するのも厭わない。

 

(変装して冒険者とかもありかなぁ、都市国家連合あたりが良いかも。モンスターを狩るぐらいは良いよね)

 

 一体誰に言い訳しているのか、クレマンティーヌは自分の先行きを考える。

 

 心底どうでもいい催しだが、ズーラーノーンの幹部として最後の仕事をしようと儀式の部屋へと入る。

 

(丁度始まるとこみたい…………相変わらず気持ち悪い連中ねえ)

 

 神官が全裸の信者の前へと歩いて行く。

 そして、祭壇へと近づいた時。

 

 

 黒い影が祭壇の前に飛び降りてきた。

 

 瞬間、クレマンティーヌの目が見開き、ドクンと心臓が飛び出そうなほどの激しい鼓動を鳴らす。 

 

 漆黒の鎧に真紅のマント、人類最強の戦士に真の恐怖を与えた本物の化け物。

 

「いやああああああ!!」

 

 咄嗟に武技を複数発動し、全力で入って来たドアを抜ける。

 

「なんで!?なんでアイツがここに居るのよ!?」

 

 そのまま霊廟の入り口とは別に複数ある、隠し通路を抜けて外に逃げ出そうとする。

 一心不乱に階段を一足飛び駆け上がり、クレマンティーヌや神官、ズーラーノーン所属者のみが知る隠し扉から通路に出る。

 限界を超えて疾走し見えてくる最後の扉。それを開ければ外に逃げられる。

 

「嘘!?なんで開かないの!?」

 

 この扉に鍵は元々ない。力任せで強引に壊そうとしても扉はビクともしなかった。

 

「開いてええええ!!」

 

 扉をドンドンと叩くが、何故か扉はビクともしない。

 クレマンティーヌは、後ろに気配無く立つ人影を涙に溢れた目で見た瞬間。

 

 意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 モモンはエ・ランテルで起きたアンデッド事件の首謀者の一人、クレマンティーヌの姿に一瞬動揺した。

 自分の手で命を絶ち、組合に証拠として渡した。その後、エ・ランテルの遺体安置所から遺体が消えたと報告を受けて行方が知れなかった女が何故か帝都に居たのだ。

 

「ハンゾウ、あの女を無力化してナザリックに送れ。私が戻るまでは眠らせておけ」

 

 他の誰にも聞こえないように指示を出し、了承したハンゾウが不可知化したまま闇に消える。

 

(まずはコイツ等が先だな)

 

 アルシェ達に合図を出し、祭壇の前に飛び降りる。

 突如現れた闖入者に二十人ほどの動揺した者達の視線が一気に集まる。

 何が起こったのか分からず、一言も発しない者達。

 静寂を破ったのは女の悲鳴だった。そのままあっという間に逃げ出す。

 

 ”フォーサイト”ではあの女の相手は厳しいと思っていたが、逃げたのであればハンゾウに任せておけば問題ない。この場に残っているのは強者どころか、碌に戦うことも出来ない連中だけ。

 

 アルシェが皮袋から二人の少女を助け出し、必死に抱きかかえている姿を確認する。

 ヘッケランとイミーナはアルシェを守るように前に立ち、身構えている。

 アルシェが二人の無事を確かめ、涙を流していた。

 

(無事だったようだな、良かった。…………後はコイツ等をどうするか)

 

 

 

 

 

 

 神官の男から何をしようとしていたのか大体の事を脅して聞きだし、全員気絶させ霊廟の外へ出ると、丁度ロバーデイクが帝国騎士数人を連れて来たところだった。

 

「ハア、ハア、急いだつもりでしたがその様子だと無事成功したようですね」   

 

 アルシェとイミーナに抱えられ、静かに寝息を立てている二人の少女を見て「良かった」と脱力する。

 

「────ロバー、いくら呼びかけても二人が起きないの、薬でも飲まされたのかもしれない」

「顔色があまり良くありませんね。分かりました私に任せて下さい」

 

 万が一を考え、ロバーデイクが<病気治癒(キュア・ディジーズ)>と解毒魔法を掛けると二人の顔色が良くなってくる。日焼けと無縁な白い肌に、頬をほのかに赤らめた天使のような姿でコンコンと眠っている。

 

「これで本当に大丈夫そうね」

 

「失礼。事情は彼から聞いていますが、何があったのか詳細を聞かせてもらっても?」

 

 ロバーデイクと共に駆けつけた帝国騎士。長い金色の布とも呼べる豊かな金髪が顔の右半分を覆っている女性が上司なのだろう、代表して前に出る。

 

「はい、ワーカーチーム“フォーサイト”のリーダー、ヘッケラン・ターマイトと言います。俺からお話します」

 

 モモンを気遣ってか、ヘッケランが事の顛末を説明していく。途中、ロバーデイクに補足されながら。

 モモンはアルベドから<伝言>(メッセージ)を受け取り、少し離れたところで魔法を繋ぎ、クレマンティーヌをナザリックで受け取ったと報告を受けていた。

 説明を聞いている金髪の騎士が時折チラチラとモモンに視線を飛ばしているのが気になった。      

  

 

 

 女性騎士の指示で、他の騎士達が霊廟の中へ入っていく。

 

「我々がその邪教集団を捕縛し、取調べを行いますわ。その後、貴方方の泊まっている所に確認のために赴きますわ。時間は遅くなるかもしれませんがよろしいですか?」

 

 帝国騎士にそう言われれば断る訳にはいかない。

 相手が怪しげな宗教団体で生贄まで行うような集団とはいえ、アルシェの両親は確かに金を受け取って二人の娘を差し出したのだ。それを強引に奪還したのは事実、法的手段でこちらが捕らえられる可能性も大いにあった。

 女性騎士の見解ではその心配は杞憂であるようだが。

 

 

 

「お帰りなさいませ」

 

 『歌う林檎亭』へ戻ってきたモモン達を丁寧に出迎える森妖精(エルフ)達。

 

 帝国騎士が後程来る事を考えて、モモンがとった広い部屋に全員で集まっていた。

 

「んん…………ああ!お姉様だあ!」

 

 目を覚ましたクーデリカがアルシェの胸に抱きつく。

 少し遅れて目覚めたウレイリカが「ずる~い」と横から一緒に大好きな姉に甘える。

 

「────無事で良かった、本当に良かった」

 

 涙で頬を濡らしながら両手で双子を抱きしめる。「お姉様、苦しい」と可愛く抗議されてもお構いなく抱きしめ続ける。

 

 ようやく拘束を解いたアルシェが二人に事情を聞くが、知らない人に家から連れ出されてすぐに眠ってしまい、良く覚えていないとのことだった。むしろ覚えていない方が良いだろう。

 

「────皆、不甲斐無い私に手を貸してくれてありがとう。」

「俺達に礼は必要ないぜ、仲間なんだからよ。まあ正直、俺達はなんの役にも立たなかったしな」

「────そんな事はない。一緒に探してくれただけでも嬉しい」

 

 役に立ったとか立たなかったは問題ではない。自分を想って手を貸してくれただけで感謝している。本心からの言葉だった。

 

「────モモンさんには貴重なマジックアイテムまで使ってもらって感謝しかありません。本当にありがとうございました。私に何かお返し出来る事があったらなんでも言って下さい」

「そんなに気にする必要はないさ」

 

 モモンが彼らと知り合うきっかけとなった野良の死の騎士(デス・ナイト)は自分の蒔いた種であった。

 命の危険に晒してしまった罪滅ぼしのつもりで高額の依頼をしてチャラにしたつもりだった。

 誘拐の件では手助けする義理はなかった。

 だが、深く考えるまでもなく、ただ助けたいと思って行動していた。

 補充の目処が立っていない位階の巻物(スクロール)を使ってでも。

 

「お姉様、この人は?」

「お姉様のお友だち?」

 

 クーデリカとウレイリカが天真爛漫な子供特有の有り様で、物怖じせずに全身鎧の人物を見つめる。

 

「この人はモモンさん。私と仲間だけじゃなく、あなた達の命の恩人でもあるのよ」

 

 双子はアルシェに促され、ソファーに座るモモンへ、トテトテと近づき全身を見る。

 

「わあ♪お姉様に読んでもらった絵本のゆうしゃみたい」

「ほんとだあ、かっこいい~」 

「「たすけてくれてありがとうございました」」

 

 可愛らしいお礼を受けたモモンは、屈んで目線を小さな双子に合わせる。

 

「助けたのは私だけじゃないさ、君達のお姉さんとその仲間の協力があったからなんだよ」

 

 ヨシヨシと双子の頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

「────クーデとウレイがごめんなさい」 

  

 アルシェがモモンへと頭を下げる。

 モモンに頭を撫でられるのが余程気に入ったのか、クーデリカとウレイリカがモモンからなかなか離れず、ずっと撫でを要求していた。

 森妖精(エルフ)達が『歌う林檎亭』の店主から用立てした紅茶とお菓子でようやく離れた。

 今はアルシェの両隣でお菓子を頬張っている。

 

 「気にするな」と何度目になるか分からないやり取りを行う。

 

「ところで君達はこれからどうするつもりだ?」

 

 モモンの問いかけは“フォーサイト”全員が考えていたことだった。

 幼い二人の妹を連れて家を出ると決心したアルシェに危険なワーカー仕事をさせる訳にはいかない。

 ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイクの気持ちは同じだった。アルシェも双子を養うためにも危険な仕事をするのは憚られた。

 最初に口を開いたのはヘッケラン。

 

「そうですねえ、今までの貯金もあるしどこか別のところで暮らすのも悪くないと思ってます」  

 

 アルシェの代わりの魔法詠唱者(マジック・キャスター)を探してワーカーを続けるのも気乗りしないと感じているのは他の二人も同じだった。

 

「おや、そこにイミーナを連れていかないんですか?貴方達の関係はとっくにばれていますよ」

「なっ!?」「えっ!?」

 

 クックックッと神官らしからぬ笑いを漏らす。ヘッケランもイミーナも顔を真っ赤にしていた。 

 恥ずかしさを隠すように「じゃあロバーはどうすんだよ?」と問いかける。

 

「私ですか?私は金が十分に貯まったので開拓村などで孤児院でも開こうかと思ってます」

 

 ロバーデイクはワーカー業で稼いだ報酬の一部を孤児院に寄付していたりと、弱き者を助けたいと心から思う根っからの善人。

 孤児院を営むのも以前からの目標であり夢であった。

 

 三人には特にしがらみが無い自由人なためどうとでもなる。実力もあり、ある程度の金もある。

 問題があるのはただ一人。

 

「────私は…………帝国には居られないと思う。もしここに留まっていれば両親がなにかしてくるかもしれない。だからここを出る。幸いモモンさんのおかげでお金はある」

 

 アルシェの両親も邪教集団と関わっていた訳ではなく騙された側。

 皇帝も毒にも薬にもならないと判断された貴族はその位を剥奪されて放置してきたのだ。態々刑を与えたりはしないだろう。

 逆上した両親がアルシェ達になにかしてくるかもしれないという不安の方が大きかった。

 

「お引越しするの?わ~い♪お姉様と一緒~」

「わたしも一緒~。お姉様、お父様とお母様も一緒?」 

 

 お菓子を頬張っていた手を止め、姉の顔を覗き込むように見上げる。

 家の状況を良く理解していない幼い双子の無邪気な瞳に罪悪感が湧いてくるアルシェ。

 

「────お父様もお母様も、もう私と一緒には居られないの…………クーデもウレイも…………それでも私と引越しする?」

 

 もうあの家には居られない。悲しみを湛えた目で双子の瞳を見る。

 

「う~ん?お姉様と一緒がいい♪」

「お姉様、大好き♪」

 

 ヒシッと抱き合う三姉妹の姿があった。

 

 森妖精(エルフ)達はこちらから聞くまでもなく、モモンに付いていく気満々であった。

 

 

 

 

 

 

 船を漕ぎ始めた双子を隣の部屋のベッドに運んだアルシェが戻ってくる。

 “フォーサイト”の今後の話を黙って聞いていたモモンが「君達“フォーサイト”に一つ提案がある」と指を一本を立てる。

 

「私が懇意にしている村がエ・ランテルの北側にある、そこに移住してみないか?名はカルネ村と言って、最近とある事件で村人が減ってしまって移住者を募集中だ。私の名を村長に言えば迎え入れてくれるだろう」

「えっ、でも、いいんですか?」

 

 カルネ村を襲った帝国騎士はスレイン法国の偽装だったというのはエンリに伝え、村人にも知れ渡っている。彼らが帝国の人間でも問題は起こらない。

 

「ただ、その村は少々特殊でしてね、まず…………いや、先入観を与えるのは良くないかもしれないな。君達が直接見て移住するか判断して欲しい。注意点として何を見たとしても敵対行動を取らない事。それだけ守ってくれれば私から言うことはない」

 

 ゴブリンやオーガなどの亜人が村に居たら敵だと思って攻撃しかねない。あの村の現状を見れば人と亜人も共存可能なのが理解出来るはずだ。

 農奴として働いているアンデッドも支配化に置いていれば危険はない。

 それでどうするかは彼らの判断に任せればいい。

 

 トントン、ドアをノックする音が鳴る。

 ヘッケランが対応して部屋に入って来たのは墓地で会った長い金髪の帝国騎士だった。

 

「失礼しますわ」

 

 礼儀正しく一礼する。

 

「墓地では名乗りも挙げず申し訳ありませんでした。私は帝国四騎士の一人、レイナース・ロックブルズですわ」

 

 名乗りを挙げ全員に目を向ける。モモンに対してなにか強い眼差しをしていたような気がしたが、気のせいだろうか。

 

 帝国四騎士の紅一点『重爆』と言えば帝国で知らぬ者はほぼ居ないほどの有名人。

 ロバーデイクが最初に見つけた帝国騎士が彼女だったのはただの偶然であった。

 

「邪教教団を名乗る者達は帝城へ連行しましたわ。身元の調査と尋問はまだ完全には終わっておりませんが、皇帝陛下より貴方方に対して罪には問わないとのことです」

 

 金で売られたアルシェの妹達を取り返したのが誘拐の類と判断されるかもしれないと懸念していたのを知っていたのだろう。こちらの不安要素を最初に解消してくれる。

 “フォーサイト”の四人も安堵していた。

 

「邪教教団の存在は兼ねてより陛下も気にしておられましたが、実態を掴ませず全く調査が進んでいなかったのですわ。それを捕らえていただいた皆様には、陛下より褒章が渡されますわ。明日、モモン様と“フォーサイト”の方は帝城までお越し下さい」

「褒章!?」

「ホントに!?」

 

 国のトップより直々に褒章を与えられるのに喜びと驚きの混じったヘッケランとイミーナ。

 ロバーデイクとアルシェも同じような様子だ。

 

(それって直接皇帝と会わないといけないんじゃないのか、イヤ過ぎる)

 

 モモンは憂鬱な気分になって俯く。

 

(いや、今は冒険者なんだしそこまで畏まらなくてもいいのか。国には縛られないのだし)

 

 この話を無視して帰る訳にもいかず、仕方ないと覚悟を決める。

   

「邪教教団の処理については帝国が行いますので皆様に迷惑をかけるような事はありませんわ。…………簡単にですが、以上が帝国からの報告になりますわ」

「分かりました」

「…………」

 

 話は終わったはずなのに一向に帰る様子を見せないレイナース。

 それどころかモモンの傍まで近づいて来る。

 

「?」

「ここからは私事なのですが、モモン殿にお聞きしたい事があるのですが?」

「ん、なんでしょうか?」

「モモン殿は魔法詠唱者(マジック・キャスター)の方を相方にしており、回復などの手段はアイテムで代用されているとか?他にも様々なマジックアイテムを持っていると聞き及びましたが、それは事実なのですか?」

「まあ、その通りですが」

 

 半分は嘘だ。冒険者として行動している時に回復する必要があった事はない。どんな病も治す薬草を採りに行った時のように手間がかかる時はナザリックから応援を呼んでいた事もある。

 対外的にマジックアイテムで代用していると公言しているに過ぎない。

 

 モモンの返答を受け、表情に真剣さが増す。  

 

「モモン殿は呪いを解くアイテムを持っておられませんか?」

「解呪?何故そんなことを?」

「…………あまり人に見せるのは憚られるのですが…………見せない訳にはいきませんわね」

 

 レイナースが自分の顔の右半分を隠すように垂らしていた髪を少しずらす。

 

「「!」」

「あっ」

 

 声を出したのは“フォーサイト”か森妖精(エルフ)か。

 レイナースが晒した右半分は黄色の膿を分泌する物と化していた。髪で覆い隠すと非常に美しい顔立ちをしているのも相まって醜悪さが余計に際立つ。

 

 モモンはレイナースの了承を得て膿の部分に手を触れ魔法無詠唱化(サイレントマジック)された<鑑定>魔法を掛けてみる。

 

「それが解呪を求める理由ですか。失礼ですが呪いを受けた経緯を聞かせてもらっても?」

「…………はい」

 

 レイナースは過去を語る。 

 元々は貴族令嬢だった。女ながら自ら武器を取り、家の所領に出現するモンスターの掃討に誇りを持っていた。ある時、モンスターから死に際の呪いを受け、自身の顔を醜い物に変貌させられてしまった。

 腕っ節に目を付けた現皇帝に雇用され、その権限で治療法を探してもらってはいるが、成果はなにもない。

 呪いを解くのが自分の悲願。そのためならどんなことでもすると。

 

(死に際の呪いか、だからやたらと強力なんだな。ユグドラシルには無い呪いだしこれはペストーニャでも無理かもしれない)

 

 <鑑定>の結果とレイナースの証言から高位の解呪でも不可能だと推測する。

 そもそもユグドラシルでの呪いとは相手を弱体化させるのが殆どで、彼女のように唯の嫌がらせのような効果を発揮するものは存在しない。

 アバターの見た目が変わっても戦闘に影響しないのであれば意味がない。

 だが、現実世界でこんな呪いを受けてしまったらどうだろうか。

 自分がリアルで顔半分が膿を出すように変容したら、仕事にも行けずずっと家に引きこもっていたかもしれない。当然、収入が無くなり飢え死にするのは目に見えている。会社に行っても忌諱の目に晒され、とても耐えられるとも思えない。

 元が綺麗な女性なら自分が想像する以上だろう。

 

「モモン殿、どうかお願いします」

 

 鬼気迫る。そう言えるほどの悲壮感を漂わせて懇願してくる。左目にはうっすら涙が滲んでいた。

 

「レイナースさん、貴方の呪いは高位の魔法でも解呪は無理でしょう」

「そんな!?」

 

 レイナースが絶望に染まりかける。

 

「話はまだ終わってませんよ。解呪の魔法では不可能であっても方法が無い訳ではありません。貴方がその方法で、目にする全てを口外しないと誓えるのであれば…………」

「誓います!命に代えても」

 

 凄まじい勢いでモモンへと迫るレイナース。

 

 その剣幕に少し身を引かせたモモンが「では準備が必要ですので暫し待っていて下さい」と双子が寝ているのとは別の部屋へと入っていく。

 

 モモンが部屋に入ってからレイナースは期待と不安からソワソワと落ち着き無く待っている。

 森妖精(エルフ)がモモンに仕える者として、主人のお客をもてなすようお茶を全員に用意したりして接待している。

 “フォーサイト”の四人も女性の顔というデリケートな問題から口をつぐんでいた。 

 

 

 

「準備が整いました。こちらへ」

 

 十分ほど経過して、ドアを開けたモモンがレイナースだけを部屋に入れる。

 口外禁止とするあたり、他の者には秘密なのだろう。

 気にはなるが、あの英雄が秘密にしたいと言っているのだ、ならば詮索するのは無礼にあたると“フォーサイト”も森妖精(エルフ)達もただ待つのみだった。

 

 レイナースを部屋に迎え入れたモモンはさっそく始めようとする。

 

「今から貴方にある魔法を掛けます。先の約束は守ってもらえますね?」

「はい、勿論ですわ」

「結構」

 

 モモンが両手に付けている装備が先ほどまでと違う。

 右手は天使の手をイメージしたようななめらかな作りで白銀に輝き、左手には悪魔をイメージしたような棘や鉤爪が生え、固まった溶岩のような亀裂から赤い光が漏れている漆黒の篭手であった。

 

 元貴族令嬢、現帝国四騎士として高価な品を幾つも目にしてきたレイナース。彼女をして魂をも魅了されるような見事なものであり、内包した力は桁が違うと直感してしまうほどだ。

 

 ワールドアイテム、<強欲と無欲>。

 装備者が手に入れるはずの経験値を強欲が吸収・ストックし必要に応じて無欲がストックした経験値を消費して様々なことに使用することが可能になるナザリックの至宝。

 

 <伝言>(メッセージ)でマーレに彼が所持していたコレを持って来てもらったのだ。

 

「では始めよう、解放。超位魔法《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》」

 

 何か、目に見えざる力の波動が駆け抜ける。

 超位魔法《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》は普通の超位魔法のように発動に時間の掛かる物ではないために、課金アイテムを使用する必要はなく、効果はすぐに現れた。

 

 レイナースは何か暖かいものに包まれたような感覚を味わい、髪で隠れた顔に手を当てる。

 

「え!?ほ、本当に」

 

 手にべちゃりとした膿は付いていない、すべすべした肌の感触があった。

 小さな手鏡で確認する。

 恐る恐る隠すための髪をかき上げる。

 

 鏡に写っているのは。 

 

「…………あ、ああ」

 

 

 

 

 

 

 モモンが“フォーサイト”の居る部屋へと戻ってくる。

 

「モモンさん、どうなりましたか?」

「解呪は成功しました。今は、そっとしておきましょう」

 

 解呪出来たであろう彼女に「どうですか?」と訊ねても、鏡を見つめて身を震わせ、声が届いていない様子だった。

 仕方なく彼女を置いて戻ってきたのだ。

 

 モモンが<強欲と無欲>と超位魔法《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》を使ってまで呪いを解いたのは何も彼女を不憫に思っただけではなく、変異した魔法の仕様を確かめる意味もあった。

 

 超位魔法《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》を使用した時に感じた巨大な力の塊。何でも叶えられそうな全能感は<流れ星の指輪/シューティングスター>を使った時と同じ感覚だった。

 消費した経験値も、せいぜい呪いを掛けたモンスター分ぐらいだろう。恐らくは願いの規模により消費される経験値が変わるのだろう。世界を巻き込むような大規模な願いだとどれだけ必要なのか、下手すれば百レベル分を超えて自分が消滅する可能性すらある。

 

(そう考えると怖すぎるな)

 

 その不安をかなりの部分、解消させてくれる<強欲と無欲>の存在は有り難かった。ユグドラシルの頃から溜めていた経験値もまだ十分に残っている。 

  

 

 それほど時間を置かずにレイナースがドアを開けて部屋に入ってくる。

 その目は泣き腫らしたのか赤くなっていた。

 

「先ほどは失礼致しましたわ。あまりの嬉しさに少し呆けてしまいました」

「無事解呪出来たようで良かったです」

「感謝の言葉もありませんわ。…………つきましては」

 

 モモンに向けて片膝を付く。

 その様は自らの主君に対して臣下の礼をとっているようだった。

 

「貴方様を主人(マイマスター)として付き従うことを誓いますわ」

「…………え!?」

 

 

 

 




超位魔法《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》…………魔法詠唱者として95レベルに達しないと習得できない超便利な魔法。
ユグドラシルではどんな願いの選択肢が出るのか気になりますね。私見ですがそれほど有用なのは無かったんじゃないかな。出るとしてもかなりの低確率だと…………クソ運営だしね。
超位魔法はNPCや召喚モンスターには使用出来ず知識として知っている。   
 
レイナースの呪いですが、どこかで「かなり強力な呪い」と書かれていたのを見た覚えがあり、通常の解呪魔法では不可能としました。 


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