鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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明けましておめでとう御座います。
本年もよろしくお願いします。



21話 真犯人

「…………ん、んん」

 

 クレマンティーヌは眠りから覚める。

 

「はれ?ここは?…………」

 

 未だボンヤリした意識で周りを見渡すと、そこは法国の神殿よりも遥かに豪華で厳かな空間だった。

 

 数百人が入ってもなお余るような広さ。見上げるような高さにある天井。

 天井から吊り下げられた複数の豪華なシャンデリアは煌く宝石で出来ており、七色の幻想的な輝きを放っていた。

 壁にはそれぞれ違った見たことも無い文様を描いた大きな旗が、天井から床まで幾つも垂れ下がっている。

 

 金と銀をふんだんに使った部屋の最奥には十数段の低い階段があり、その頂には巨大な水晶から切り出されたような、背もたれが天を衝くように高い玉座が────

 

「あ…………あ、あ」

 

 玉座にはクレマンティーヌがこの世で最も会いたくないと思っていた。くそったれな兄貴よりも会いたくなかった存在。正真正銘、本物の化け物。

 

 漆黒の鎧を着たモモン(アンデッド)が鎮座していた。

 

 即座に逃げ出したかったが、体が思うように動かない。本能が逃げても無駄だと告げているようだった。

 

「ふむ、もっと取り乱すかと思っていたが、これなら話ぐらいは出来そうだな」

「はい。私の<支配の呪言>も必要ないかと」

 

 見れば玉座より下の階段前に別の男が居た、黒髪をオールバックにしており、南方で使用されていると聞くストライプが入った赤色の「すーつ」を着用し丸い眼鏡をかけている。

 人型をしているが銀のプレートで包んだ尻尾が揺れている。先端に棘が生えていることから人間ではなく、悪魔だというのが分かった。

 

 その悪魔の対の位置に立っている女も瞳は金色で瞳孔は縦に割れ、頭から突き出した山羊のような角、腰から漆黒の天使の翼が生えているから同じく悪魔だろう。

 

(な、なんでこんな化け物が普通に存在してんのよ!?)

 

 一目見ただけで理解した。あの魔法詠唱者(モモン)含め、この悪魔はどちらも自分の手に負える存在ではないのを。

 それこそ漆黒聖典の隊長でも敵わないと感じていた。

 

 あまりにもおかしい。この世には自分の理解を遥かに超えた化け物が闊歩していたのか。

 今まで積み上げてきた全てが音を立てて崩れていく。

 

 全身の震えが止まり、諦めか、悟りを開いたのか、大人しくなったクレマンティーヌに玉座に座るモモン(アンデッド)が声をかける。

 

「確か、名はクレマンティーヌだったな?お前には色々と聞きたいことがある」

「えっ!?」

 

 恐ろしい正体を知っているクレマンティーヌは、思いのほか優しげな声色に戸惑う。

 

 御方からの問いに、即座に応えないのに殺気を放ち始めたアルベドを手で制し、絶対者は続ける。

 

「私に協力するのであれば身の安全は保障しよう。ここナザリックから外に出る許可はやれんが、それも働き次第といったところだな」

 

 エ・ランテルで彼女が起こしたことは彼女自身の死によって清算されたとアインズは思っていた。

 近接戦の重要性を教えてくれたのもあり、もうこの女に対する怒りは無くなっていた。

 

「…………ア…………」

「ん?」

「アンデッドがなんでそんな?」

「ああ、そういうことか」

 

 生者を憎むアンデッドが何故と言いたいのだろう。

 

 クレマンティーヌが恐る恐る窺うように見上げる。

 漆黒の鎧を着たモモンが玉座から立ち上がり、一瞬でその姿が変わる。

 

「えっ!?あれ!?なんで!?」

 

 現れたのは以前に見た骸骨ではなく、この辺りでは珍しい黒髪の青年だった。

 

「詳しく話す気は無いが、あの時のアンデッドも私だ。これが本来の姿と言うわけだ。ここナザリック地下大墳墓の支配者、アインズ・ウール・ゴウンを名乗っている」

「は、はあ」

 

 良く分からず気の抜けた声を出してしまい、女悪魔からの殺気にビクリと反応してしまう。

 

 つまりは邪悪な魔法使いが死んだ後、その死体に負の生命が宿って生まれた死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が、常人を凌ぐほどの英知を蓄え続け、人間に戻る術を得たのだろうか?

 クレマンティーヌは頭の中で探るが今度はあの時のように答え合わせはしてくれないようだった。

 

 だが、クレマンティーヌには化け物級の強さを持つ存在に心当たりが一つだけあった。

 六大神の血を引くとされる先祖返りのアンチクショウ。

 六大神や八欲王の別称とされる。

 

「ま、まさか、ぷれいやー?」

 

 ズシン、と明確に敵意の強まった視線が二人の悪魔から放たれる。

 

「ひっ!」

 

 少し、いやかなり漏らしてしまい、ズリズリと尻餅を突いた状態で後ずさる。無駄と知りつつ逃げ出したくなる圧力から解放してくれたのは、悪魔の主人であった。

 

「アルベド、デミウルゴス、二人共止めよ。…………さて、クレマンティーヌよ。私の質問に答えてくれるかね?」

 

 逆らったところで未来は無い。

 安全を約束すると言ってくれているのを信じて従うしか生きる道はなかった。

 

 

 

 

 

 

「思っていた以上の情報を得られたな」

 

 アインズの呟きに、傍に控えた知恵者二人はクレマンティーヌを捕らえたアインズを「さすがはアインズ様」と絶賛する。態々一人で帝国まで赴いたのはこういう狙いだったのかと。

 

 勿論、当の本人にとってはたまたま会っただけの偶然である。本来の目的も、今後のためと優れた皇帝の手腕で発展中の帝国を見ておきたかっただけだった。

 

 やたらと大人しくなったクレマンティーヌは手荒な手段をとるまでもなく、自らの持つ情報を洗いざらい話してくれた。今は戦闘メイドのソリュシャンとエントマに連れられ第六階層へと向かっている。

 

 元ズーラーノーン十二高弟の一人。元漆黒聖典の第九席次。人類で最強クラスの人間。

 

 残念ながらズーラーノーンの情報はあまり得られなかった。

 盟主と呼ばれる者がトップに君臨し、その下の十二高弟達は基本的に横の繋がりがなく、それぞれが独自に活動しているからだった。

 カジっちゃんなる高弟と共に行動していたのは、法国からの追っ手を撒くためにお互い利用し合っていたからのようだ。

 分かったのは精々盟主がアインズには敵わない(クレマンティーヌ視点で)ぐらいの強さを持っているというのと、クレマンティーヌを倒せる程の強さを持つのが、十二高弟の中に三人居ることぐらいだ。

 

 アインズにとってズーラーノーンはこの際どうでも良い。重要なのは────

 

「シャルティアを洗脳したのはやはり法国だったか」

 

 六百年前、突如現れた六大神が絶滅の危機にあった人類を救い建国されたスレイン法国。

 遺産としてユグドラシルのマジックアイテムが幾つも残っている。その中でも秘宝と呼ばれる『ケイ・セケ・コゥク』。精神支配無効の者にも耐性を突破して精神支配を与える強力な効果を持つアイテム。

 

(間違いなくワールドアイテムだな。確か傾城傾国(けいせいけいこく)って名前だったはずだが、訛って伝わったのか?)

 

 ユグドラシル時代では有用な情報はなかなか流れない。掲示板に乗ったりするのも信憑性のないものばかりで自分達で数多の情報を集めて精査する必要があった。

 ワールドアイテムの情報ともなると更に少なかったが、その中でも傾城傾国は性能と見た目だけだが、数少ない確かな情報があった。

 

 白銀の生地に天に昇る龍が金糸で刺繍されたチャイナ服だったのを思い出し、クレマンティーヌの証言から確信となる。

 

「アインズ様。御命令とあらば、すぐに軍勢を集めスレイン法国へと攻め込む準備を致しますが?」

 

 デミウルゴスが静かな声で問いかける。いつもの落ち着いた佇まいだが、仲間思いなデミウルゴスからは確かな怒りが混じっていた。

 アルベドも同様のようで法国に対して怒りを抱いている。普段はシャルティアと喧嘩ばかりしているが、やはりナザリックの者同士、本当のところでは思い合っているのだろう。

 

「…………お前達の気持ちは良く分かる。だが、今は戦争をしている時ではない。まずは地盤を固めるのが先だ。情報を共有して今まで以上に警戒を強めるだけにしておくべきだろう」

 

 今後の行動を考えれば、今は法国と戦争する時では無いのだ。 

 

 アインズもシャルティアをこの手で殺す羽目になった怒りは消えた訳ではない。その報いは必ず受けさせるつもりだが、幾分怒りが弱まっているのを感じていた。

 

 クレマンティーヌの話では、スレイン法国は人類の守り手として他種族狩りを行っている。そのお陰で周辺の他の人間国家が保たれているのがこの世界での現状だ。

 クレマンティーヌが法国を抜ける前に、トブの大森林辺りで『破滅の竜王』復活の予言があり、ワールドアイテムで洗脳するために漆黒聖典が備えていたらしい。

 その時期のトブの大森林と言えば、おそらくザイトルクワエという魔樹を警戒していたのだろうと予想出来る。

 予言された『破滅の竜王』が自分達ナザリックの事とは考えづらい。時系列的にもずれているし、ナザリックにも竜はいるが、もっと強い者が多数存在する。

 そう考えた場合シャルティアと遭遇したのは偶然の可能性もなくはない。

 己の浅慮な判断が原因で起こったことを、怒りに任せて法国に全てぶつけるのは違う気がしていた。

 

 死の支配者(オーバーロード)であった時は、精神を沈静化されながらも激しい怒りが湧き続けていた。それこそ実行者達を皆殺しにするぐらいの勢いだったのを覚えている。

 だが、現在人間になった状態で当時を思い出しても怒りは感じるが、あの時ほどではない。思わず首を傾げてしまっていた。 

 

(人間になったのが大きな要因なんだろうけど、これは俺にとって良いことなのか?)

  

 尤も、人こそが神に選ばれた民であるという宗教概念を持ち、人以外の他種族は殲滅すべしというあまりにも偏った理念を掲げている以上、ナザリックにとって潜在敵国であるのは間違いがない。

 

 国の歴史や背景、中枢部分もある程度(・・・・)は分かった。

 クレマンティーヌは勉強事を不真面目にしていたらしく、最高機密組織の一員というわりに深い部分は「らしい」と付いている説明が結構あった。

 一定以上の地位からは徐々に給料が減っていく等は思わず「ほぅ」と感心してしまった。リアルの世界ではまずありえないことだ。

 リアルの世界の上層部・富裕層は己の富・権力を更に上げる事しか考えない。でなければ鈴木悟等の貧困層の生まれの者の生活はもう少しマシなモノになっていただろう。  

 

「アルベドとデミウルゴスには皆にこの事実を伝え、早まった行動をしないようフォローを頼みたい。構わないか?」

「はっ!」

「お任せ下さい」

 

 主人に対し礼を取り、退室していく二人。

 それを見届け、玉座に背を預けたアインズは深い息を吐いた。

 

(法国にプレイヤーはもう居ないのだな)

 

 以前からプレイヤーの影を感じていた国。

 六大神の一人、死の神スルシャーナは百年後に現れた八欲王に殺され、他の五人のプレイヤーは既に寿命で死んでいた。

 代わりに六大神の血を引く『神人』と呼ばれる強者が二人ほど居るのが分かった。

  

 同郷とも言えるプレイヤーが居なくて残念なのか。

 ナザリックの敵に成り得るプレイヤーがいなくて安堵したのか。

 アインズは自分でもよく分からなかった。

 

「そういえば帝国に行っている間に幾つか報告書が溜まっていたな」

 

 玉座から立ち上がり自分の部屋、執務室へ向かう。

 

「それが終わったらクレマンティーヌとあの時のリベンジをするのも良いかもな」

 

 剣士としての腕がどれくらい上がったか計るには絶好の相手だ。

 彼女が弱体化した分は装備で補えば良いのだし、ナザリックでなら元の強さを取り戻すのにそう時間は掛からないだろう。

    

 我が家(ナザリック)に帰り、書類仕事がてらメイドが淹れてくれる紅茶を楽しもうと思っていた支配者だが、それはルプスレギナからの報告に遮られてしまう。

 

 

 

 

 

 

 一台の馬車がエ・ランテルからの街道を走っていた。

 馬車の中には女性が一人、白髪の男性老人が一人座っており、御者の男性を含めた三人組みであった。

 

「お嬢、後一時間程で目的地です」

 

 老人が女性に向かって報告する。

 

「ん、了解」

 

 お嬢と呼ばれた女性は顔を動かすことなく答え、馬車から流れる風景を眺める。

 髪はオレンジに近い金色を箒のように括っている。スラリとした肢体をしており、全身にぴったり密着するような服装をしている。

 王国のアダマンタイト級冒険者”蒼の薔薇”を知っている者が見れば彼女が誰なのかすぐに分かるだろう。

 瓜二つな双子だと一般に思われている“青の薔薇”の忍は、服の模様やバンダナなどをティナが赤、ティアが青で色分けしている。しかし、女性の服の模様とバンダナは緑だった。

 

 彼女の名はティラ。

 バハルス帝国北東部や都市国家群を根城にしている暗殺者集団“イジャニーヤ”の現女頭領。

 二百年前に活躍した十三英雄の一人、イジャニーヤと名乗っていた暗殺者が創設。その弟子達が技術を受け継いで今なお暗殺集団を形成している裏側の組織だ。

 

 ティア、ティナとは三つ子で三人で組織を仕切っていた。

 頭が三人もいると指揮系統に支障を来しかねないと、毎年決まった日になんらかの勝負事で頭領という名の長女を決めていた。

 ちなみに最後に行った勝負は“イジャニーヤ”に伝わる『じゃんけん』でティラが勝ち取った。

 ティラとティナが長女の場合「姉さん」と呼ばれるが、ティアが勝ち取ると「お姉様」と呼ばせて少々悦に入ったりするから性質が悪い。 

 

 ある日“蒼の薔薇”のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラの暗殺依頼を受け、ティアとティナが命を狙い襲撃を掛けるが失敗。

 そして、標的からの説得を受け入れ仲間に加わるが、当初は改心からの行動では無く、ラキュースの隙を窺うためのものであったが、その後真の意味で仲間となる。「こういう生活も悪くない」と書かれた手紙を最後に受け取ったのがいつだったか。

 

 『忍』とは本来闇に生きる者。素性を表に出すのは御法度。ティアとティナも本名を晒さずに生きて来たが、冒険者になった事でその名は広く知られる事となった。

 組織を裏切った者は『抜け忍』と呼ばれ、組織から刺客を送られ、常に命を狙われる逃亡生活を余儀なくされるもの────しかし。

 

(二人は元気にしてるかなぁ?)

 

 久しぶりに王国領へ来たことでのん気に二人の妹のことを考えていた。

 

 ティラが二人に刺客などを送ったことは一度も無い。

 それどころか新たな生活を楽しんでいる妹達を祝福していた。

 

 本名は御法度やら、抜け忍には死を、などは“イジャニーヤ”に残っている掟のようなものは確かにある。

 その中の一文

 

「忍とは忍ぶ者…………らしい」

 

 創設者が残した著書にはこのように「らしい」「って言ってた」と散文的に記されており、掟と言われても首を捻らざるを得ない内容だ。

 つまりは掟など形だけのもので、律儀に守る気も、必要もなかったのである。

 一つだけ、ティラには著書の中で共感した忍の在り方が一つだけあった。

 その在り方に絶対必要(・・・・)な存在はまだ見つかっていない。

 

「お嬢、アインズ・ウール・ゴウンとはどれ程の者なのでしょうな?」

「さてね、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の強さを憶測で測るのは難しい。お前も良く知っているだろ?」

 

 白髪の老人の問いかけに外の景色を眺めながら答える。

 彼は“イジャニーヤ”のNo.2の猛者でティラ達三姉妹をずっと支えてきた好々爺だ。御者の男も指折りの実力を持っている。

 

 馬車が向かっているのはエ・ランテルから北方向にあるトブの大森林近くのカルネ村。

 帝国貴族から、謎の魔法詠唱者(マジック・キャスター)アインズ・ウール・ゴウンを調べて欲しいと依頼が来たのが事の発端。

 暗殺者集団に調査だけの依頼とは珍しいことだが、仕事を行う上で強者の情報はとても重要だ。謎の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の情報は“イジャニーヤ”にも既に入っており、依頼が無くてもいずれは調べただろう。調査に掛かる費用は先払いで貰っており、報酬は得られた情報で変動するあまり例のないものとなっている。つまり失敗したとしても逃げればいい、依頼主もその辺りは言及してこなかった。

 

 いきなり目撃情報のあった現地には向かわず、まずは人・物資が集まる主要都市エ・ランテルへ商人を装って入ることに成功。

 だが、エ・ランテルではとある英雄の話題が殆どでアインズ・ウール・ゴウンの情報は碌に得られなかった。

 

 カルネ村はその漆黒の英雄が懇意にしており、『モモンの女』と噂される少女が村長をしている。少女が使役している亜人が村人と共存している、という変わった村のようだ。

 はっきり分かっているのは依頼主から聞かされた内容ぐらい。

 

(法国の特殊部隊を退け、王国戦士長を救った凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)…………ねえ)

 

 未知の強者を調べるのには危険がはらむ。それが魔法詠唱者(マジック・キャスター)ともなれば尚更だ。

 しかし、無理に依頼を敢行する必要はなく、危険と判断すれば即時撤退だと同行する二人には伝えてある。自分を含め、二人も全力で逃げるだけならアダマンタイト級冒険者すらも撒ける能力を持っている。   

 

 

 

 と、思っていた時期が彼女にもありました。

 

「よっと、これで愚かなスパイは全員捕まえたッすね」

 

 やたらと扇情的なメイド服?を来た褐色の肌に三つ編みをした女が、パンパンと、手を叩いて自身に付いた埃を払う。「さて、っと報告、報告っす」と誰かに<伝言>(メッセージ)か何かを送っている。

 

(なぜ偽装がばれた?)

 

 現在、ティラを含めた三人は縄で縛られ地面に転がされていた。

 

 行商人としてカルネ村へは問題無く入れた。

 噂通り亜人と村人が共存しており、使役者の村長も確認出来た。

 

 辺境の村では有り得ないほどの防護壁。

 村の門を守る騎士のように立つゴーレムが二体。

 森精霊(ドライアード)やトレントといった異形種。

 暮らしている家も、木造だがずい分と立派なもの。なんと大浴場まであった。

 

 部下二人が行商人として商品を広げて商いをしている間に村長と世間話をしながら、例の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の情報を聞き出そうとした。

 

 怪しまれないよう話を誘導しようと思っていたが、村長を勤めている少女はこちらが色々策を弄するまでもなく嬉々として魔法詠唱者(マジック・キャスター)のことを語ってくれた。

 

 『村の恩人』、『とても素晴らしい方』、『とても優しい方』、『すごい魔法詠唱者(マジック・キャスター)』等々。こちらが聞いていないことまで出るわ出るわ。

 

 具体的に何位階魔法が使えるのかも聞いたが、少女は魔法に詳しくなかった。それはちらりと見えた(カッパー)のプレートで納得した。

 亜人を使役出来ているのはその魔法詠唱者(マジック・キャスター)の助力あってのものだろうと予測し、人物像に更に探りを入れると、少女は顔を赤くして「私にとっては…………その」としどろもどろになっていた。 

 

 牧歌的な少女の様子を察し、切りの良いところで話を終わらせる。他の村人とも話してみたが、皆魔法詠唱者(マジック・キャスター)に溢れんばかりの感謝を述べていた。

 この村は王国領であるのは間違いないが、誰も自分達が王国民である、という意識を持っていないと感じられた。カルネ村の真の領主はアインズ・ウール・ゴウンだと秘かに主張しているようであった。

 エ・ランテルの英雄に感謝している者も居た。これも重要な情報に成り得る。

 

 終始一部のゴブリンから鋭い視線を向けられていたが、あれは敵意ではなく何か仕出かさないか監視している目だった。行商人の装いはほぼ完璧。誰にも疑われること無く村を去ったのが夕刻前。

 帝国に向けて走る馬車の中で「いけないっすねえ、御方の村を探るなんて」と、いきなり目の前に現れた褐色の女に抵抗する間もなく「砲愛裁亜(ほあたあ)」という掛け声と共に拘束されてしまった。

 

 

 

「ん?何故偽装がばれた?って顔してるッすね。答えは簡単ッす。私が《完全不可視化》してアンタ等の近くに居てずっと観察してた訳ッす。ダメッすよ、誰も居ないと思って馬車ん中で話なんて始めちゃ」

 

(完全不可視化!?)

 

 <不可視化(インヴィジビリティ)>と言う透明化の魔法があるが、第一位階魔法に分類される魔法ぐらいなら察知は可能。完全と付くことからそれよりも上位の魔法なのは明らか。こちらを呆気無く無力化する手腕といい、明らかに格上だと理解する。

 

(逃走は…………不可能。下手に暴れても良い事はない)

 

 報告と言っていたことから、目の前のやたらと人懐っこい笑顔を浮かべる女の上司にでも連絡したのだろう。この状況を打破するにはその上司を相手になんとかするしかない。

 ティラの判断を理解した部下二人も大人しく相手の出方を待つ。

 

 

 

 妹達は今頃どうしてるだろう?

 ティアは女を、ティナはかわいい男の子漁りでもしているのだろうか?

 変態嗜好を持つ二人の姉は────特に特殊な性癖は持っていなかったりする。

 変態妹二人が性的刺激を求めるのとは違うが、ティラにも求めている相手は居る。

 “イジャニーヤ”の創設者が残した「忍びとは…………」にある、自らの全てを捧げて仕える主君足る人物。歴代最高とまで言われる帝国皇帝でも物足りない、圧倒的な傑物をティラは長年求めていた。

 

 大人しく待つこと数分。

 突如、空間に闇が広がる。

 こちらの気が抜けてしまうほど明朗快活だった褐色三つ編みのメイドが、これまでの態度が嘘のように真面目な顔付きで闇に向かって跪く。

 

 闇の中から姿を現したのは黒髪黒目の青年。

 身に纏うローブはありえないほど上位の物。

 ティラがそれよりも目を奪われたのは、その体から溢れ出る存在感だった。

 『死』そのもの、この世の全ての支配者だと感じさせる漆黒のオーラ。 

 背後に漆黒の後光が見えるほどの圧倒的な風格。

 

 ティラは目の前の存在。アインズ・ウール・ゴウンと名乗った男から目が離せなかった。

 

 

    

  

 

 




”イジャニーヤ”の頭領の名は色々考えた結果です。シンボルカラーは黄色も考えたけど、忍者にその色は目立ちすぎるので当然却下。

十三英雄の暗殺者はプレイヤーではなく現地人で独自に業を習得していた。
リーダー 「君はなんか伊賀忍者みたいだな」
暗殺者 「イジャニーヤ?…………良いねその名前」

みたいなやり取りが在ったと想像してます。日本語を正しく認識しにくい現地人。  
その後も伊賀忍者についてリーダーから色々聞いてたんじゃないかな。

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